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« 人事は日本型雇用を守りたいのか@『Works』No.136 | トップページ | 『季刊労働法』2016年夏号 »

2016年6月14日 (火)

柴田悠『子育て支援が日本を救う』

227459 柴田悠さんの『子育て支援が日本を救う』(勁草書房)をお送りいただきました。ありがとうございます。本ブログでも何回か取り上げてきた柴田さんの本格的な著作です。

http://www.keisoshobo.co.jp/book/b227459.html

安倍内閣発足時から『文藝春秋』やNHKスペシャルで「子育て支援こそが最優先」と訴えてきた著者がそのエビデンスの最終版を公開。

いや、安倍内閣発足時どころかもっと以前から論陣を張ってこられています、ただ、派手好きなマスコミに余り注目されてこなかっただけで。

いま日本に一番効く政策は何か。それは保育サービスを中心とした「子育て支援」だ。短期的には労働生産性・経済成長率・出生率を高め、子どもの貧困を減らすことができる。また長期的には、財政的な余裕を増やし、貧困の親子間連鎖を減らし、社会保障の投資効果を高めるのだ。客観的なデータに基づく、統計分析から提言される政策論!

そう、柴田さんは徹底的にデータに基づいて論じます。なので、一言スローガンがお好みのマスコミでは使いにくい面があるのでしょう(それこそ、オビで推薦している古市さんとかが使いやすい)。

でも、ある政策がどういう効果を持ちうるのかを徹底的に客観的なデータで語り通す柴田さんのような論客も必要なはずです。特に今のような、ポピュリズムが猛威をふるう情治社会になればなるだけ。

目次は下にコピペしたとおりですが、素人はこの順番で読まない方が良いよ、と柴田さん自身が「はじめに」で老婆心で忠告しています。

まずは、エッセンスのエッセンスをまとめた「あとがき」から。そしてその直前の第11章「結論」。その上で、第1章「本書の問いと答え」を読んで全体像を把握する。そして第10章で財源確保策を、第9章で政策効果を見て、第3章から第8章までの分野ごとの分析を通読し、最後に第2章で統計分析の方法を確認する、と。

ここでは第11章『結論──子育て支援が日本を救う』で、ちょっと政治的な話に踏み込んでいるかに見える記述をちょっと。下の目次にあるように。ここで「右派(保守)と左派(リベラル)の合意点」というちょっと気になる表現をしています。

これは、子育て支援が右派と左派の両方の合意できる政策だといっているんですが、その分をちょっと引用しておくと、

・・・したがって、これらの改革案は、労働生産性の上昇や経済成長や財政再建を求める「(いわゆる)保守」(右派)にとっても、子供や困窮者の人権保障を求める「(いわゆる)リベラル」(左派)にとっても、望ましい選択肢と言えるのではないだろうか。つまり、「保守」と「リベラル」の合意点として、「保育サービス・児童手当・起業支援・小規模ミックス財源」、あるいは少なくとも「保育サービス・小規模ミックス財源」という選択肢は、今後の日本で中心的な政策になり得ると予想できる。

「保育サービス」という旗の下であれば、保守とリベラルは協調することができる。そうすれば、日本の社会構造(女性の労働力率の低さなど)は根本的にバージョンアップされて、生産性が向上し、日本は救われるのである。つまり、保育サービスを中心とした「子育て支援」こそが、日本を救うのだ。

いやあ、ここは柴田さんの国を思う心がふつふつと伝わってきますが、とはいえ、「保守」も「リベラル」もこの日本ではねじれにねじれていますから、そう問屋がうまく下ろしてくれるかどうかはわかりません。昨今の状況を見ても、日本人の民度の低さは底知れないものがありますからね。

いやまあ、せっかくの柴田さんの本の紹介のエントリでつまらないことをぐたぐた言ってもいけませんね。

なんにせよ、本書に書かれたようなことを読まずしてあれこれ論じる人を見かけたら、そっとバッテンをつけて立ち去るのが吉というものでしょう。

ちなみに、版元のサイトに「あとがき」が公開されています。エッセンスのエッセンスが書かれたこの5ページ足らずの文章をまずはここで読んでください。

http://keisobiblio.com/wp/wp-content/uploads/2016/06/kosodateshien_atogaki.pdf

はじめに

第1章 本書の問いと答え──子育て支援が日本を救う

 1・1 労働生産性を高め財政を健全化させる政策──保育サービス・労働時間短縮・起業支援など

 1・2 自殺を減らす政策──職業訓練・結婚支援・保育サービスなど

 1・3 子どもの貧困を減らす政策──児童手当・保育サービス・ワークシェアリング

 1・4 財源確保の方法──相続税拡大・資産税累進化など

 1・5 日本の「現役世代向け社会保障」が乏しい背景──人口構造・民主主義・宗教

 1・6 「選択」は「歴史」をのりこえる

第2章 使用データと分析方法

 2・1 使用データの概要

 2・2 分析方法──経済成長の研究から学ぶ

 2・3 経済成長とは何か

 2・4 経済成長率の先行研究

 2・5 説明変数と被説明変数

 2・6 最小二乗法推定(OLS推定)

 2・7 パネルデータ分析でのOLS推定──動学的推定と一階階差推定

 2・8 「逆の因果」の除去──操作変数推定

 2・9 すべてを兼ね備えた一階階差GMM推定

 2・10 一階階差GMM推定の手続き

 2・11 実際上の留意点

 2・12 使用データについての留意点

第3章 財政を健全化させる要因──労働生産性の向上

 3・1 背景──財政難という問題

 3・2 仮説

 3・3 データと方法

 3・4 結果

 3・5 結論

第4章 労働生産性を高める政策──女性就労支援・保育サービス・労働時間短縮・起業支援など

 4・1 背景──「労働生産性の向上」は財政健全化をもたらす

 4・2 仮説

 4・3 データと方法

 4・4 結果

 4・5 結論

第5章 女性の労働参加を促す政策──保育サービス・産休育休・公教育

 5・1 背景──「女性の労働参加」は「社会の労働生産性」を高める

 5・2 先行研究で残された課題

 5・3 仮説

 5・4 データと方法

 5・5 結果

 5・6 結論

第6章 出生率を高める政策──保育サービス

 6・1 背景──「出生率の上昇」は財政健全化をもたらす

 6・2 先行研究で残された課題

 6・3 仮説

 6・4 データと方法

 6・5 結果

 6・6 結論

第7章 自殺を減らす政策──職業訓練・結婚支援・女性就労支援・雇用奨励

 7・1 背景─自殺率という問題

 7・2 先行研究で残された課題

 7・3 仮説

 7・4 データと方法

 7・5 結果

 7・6 結論

第8章 子どもの貧困を減らす政策──児童手当・保育サービス・ワークシェアリング

 8・1 背景──子どもの貧困という問題

 8・2 仮説

 8・3 データと方法

 8・4 結果

 8・5 結論

第9章 政策効果の予測値

 9・1 予測値の計算方法

 9・2 OECD平均まで拡充する場合の予算規模と波及効果

 9・3 待機児童解消に必要な予算規模

 9・4 その場合の波及効果

 9・5 他の目標のための予算規模

 9・6 結論─現実的な目標設定と予算規模

第10章 財源はどうするのか──税制のベストミックス

 10・1 行政コストの削減には限界がある

 10・2 財政方式をどうするか

 10・3 個人所得税・社会保険料の累進化

 10・4 年金課税の累進化

 10・5 被扶養配偶者優遇制度の限定

 10・6 消費税の増税

 10・7 資産税の累進化

 10・8 相続税の拡大

 10・9 相続税拡大だけならベルギーの1・2倍

 10・10 小規模ミックス財源

 10・11 最小限の改革──潜在的待機児童80万人の解消

第11章 結論──子育て支援が日本を救う

 11・1 右派(保守)と左派(リベラル)の合意点

 11・2 残された課題

あとがき

参考文献

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コメント

出版社のパブリシティは理解できますが、下段の第11章とは著作からの引用とおもわれますが、いわゆる保守=右派、いわゆるリベラル=左派の定義が全く分かりません。というかパブリシティは時間軸できちんと著作の意図とその可能性を説明されているのですが、これ(下段の引用部分)を読む限りご本家の著者は定義の誤りをされておられるように思われ、なんだかなあ?と。
パブリシティが正しいかといえばそうではなく、サミュエルソンの新古典総合よろしく「接ぎ木」のつじつまは合いますということで、著者ははまちゃん先生曰わくの「国を思う心がふつふつと」の熱き思いが水と油を協調させてしまうフレーズになってしまわれたのでしょうか?とはいってもImportものを独自にガラパゴス解釈の右派左派ですから、熱き思いで時間軸を乗り越えることはできますでしょ。「入り」の掛率と「出」の配分偏重か分配偏重かだけが日本では異なるだけですから、目次を拝見した限り文化論ではないことは確かで興味はふつふつと湧いてきますね。でも統計学を理解してない方々には、前述の著者の引用部分を拝読する限りにおいて不安も伴いました。でも読んでみたいですね。

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