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2016年6月

2016年6月30日 (木)

『働く女子の運命』が働く女性の心の琴線に触れた?

Img_752f5d874047328e26f434ce08fbda5 働く女性のブログで『働く女子の運命』が評されていますが、どうもその心の琴線に触れるものがあったようです。

まず「退屈日記」というブログの「「女子の生き難さと男子の鈍感さ」について」というエントリですが、

http://blog.goo.ne.jp/pxcre2/e/ecf81be902310e01d5643e8dc30a2255

濱口桂一郎「働く女子の運命」を読む。

どうしようもない日本の男たちの女子に対する差別を法律や歴史から描いた作品。

さまざまな矛盾のあれこれを述べたあと、

これまた繰り返せばそれもすべて「男子の鈍感さ」に端を発するもの。

性別に関係なく「スキル」のある者が「適所」にいればいいだけだというのに。

この「シンプル」が現実にならないもどかしさよ。

「女子力」が問われることはあっても「男子力」は話題にもならない「事実」を思い出したい。

自らの「へタレさ加減」を絶えず問われたらどうなるのだろう。

たいていの男子はきっと泣いて終わるはずなのだけれど。

と、深い嘆息をつくのです。

もう一つの「孤独な女子総合職ブログ」はより壮絶です。その「総合職ってオカマ」というエントリは、

http://zouzouzou138.hatenablog.com/entry/2016/06/26/170438

この前読んだ本 「働く女子の運命」で心に残りすぎた言葉を紹介します。

「私、自分が女だということに気づくのが遅すぎたんですよ」

本当にこれ、これ!!!!!!!!

大学の時は気も酒も強いし男友達も多いし、お金自分でたくさん稼いで1人で生きていくぞ!って思ってたけど

結局わたしも女だったんだ結婚したいし子供欲しいし。男にはなれないしなりたくもないや。

と嘆息をついたあと、さらに壮絶な台詞を紡いでいきます。

総合職ってオカマみたいだなって思う。

仕事では、男と同じように扱うからねって言われて厳しいことを言われたりさせられたりする

でも飲み会とか、仕事を一歩離れると急に女の子扱いされて

お酒つぎにいったり男の人の横に座らせられたり触られたり馴れ馴れしくされたりする

自分が何だかわからなくなる。

でも私だって女なんだから。

生理痛がひどくてまだ動けない。

おそらく彼女らの言葉が胸に突き刺さる思いの人が多いのではないかと思います。

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2016年6月29日 (水)

「長時間労働からの脱却」@損保労連『GENKI』6月号

122_5損保労連『GENKI』6月号に「長時間労働からの脱却」を寄稿しました。

http://www.fniu.or.jp/kikanshi/index.html

政府が「働き方の変革」を声高に掲げるなか、日本全体として、依然抜け出せずにいる「長時間労働」からの脱却に焦点を充てた法制化の論議が活発になってきています。今回は、私たちの働き方そのものに大きな影響が生じ得るこれらの動向について学んでいきましょう。 ・・・

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2016年6月28日 (火)

勤務中の排便の自由

毎日新聞が例の給食センター調理員の排便禁止令が撤回されたと報じていますが、

http://mainichi.jp/articles/20160628/k00/00m/040/142000c (給食センター 勤務中の排便の自由、回復 福井・若狭)

集団食中毒の発生を受けて福井県若狭町が町給食センターの調理員に勤務時間中の排便をマニュアルで禁じた問題で、町は27日までに、排便に関する項目を削除する方針を固めた。・・・

もちろんここは格調高く、憲法が保障する基本的人権としての排便の自由を高らかに歌いあげても良いのですが、ここではもう少し格調低く、労働安全衛生規則のある規定をさりげにお示ししておこうかと。

労働安全衛生規則(昭和四十七年九月三十日労働省令第三十二号)

(食堂及び炊事場)

第六百三十条  事業者は、事業場に附属する食堂又は炊事場については、次に定めるところによらなければならない。

一 食堂と炊事場とは区別して設け、採光及び換気が十分であつて、そうじに便利な構造とすること。

二 食堂の床面積は、食事の際の一人について、一平方メートル以上とすること。

三 食堂には、食卓及び労働者が食事をするためのいすを設けること(いすについては、坐食の場合を除く。)。

四 便所及び廃物だめから適当な距離のある場所に設けること。

五 食器、食品材料等の消毒の設備を設けること。

六 食器、食品材料及び調味料の保存のために適切な設備を設けること。

七 はえその他のこん虫、ねずみ、犬、猫等の害を防ぐための設備を設けること。

八 飲用及び洗浄のために、清浄な水を十分に備えること。

九 炊事場の床は、不浸透性の材料で造り、かつ、洗浄及び排水に便利な構造とすること。

十 汚水及び廃物は、炊事場外において露出しないように処理し、沈でん槽を設けて排出する等有害とならないようにすること。

十一 炊事従業員専用の休憩室及び便所を設けること。

十二 炊事従業員には、炊事に不適当な伝染性の疾病にかかつている者を従事させないこと。

十三 炊事従業員には、炊事専用の清潔な作業衣を使用させること。

十四 炊事場には、炊事従業員以外の者をみだりに出入りさせないこと。

十五 炊事場には、炊事場専用の履物を備え、土足のまま立ち入らせないこと。

念のため言うと、ここで規定されているのは当該事業場で働く労働者のための食堂とそのための炊事場であって、給食センターには適用されるものではありません。ですから給食センターで働く炊事従業員以外の職員と別の専用の便所を作る必要はありませんが、少なくとも炊事従業員が便所に行くことは当然の前提にしているとはいえるでしょうね。

ちなみに、労働安全衛生規則は便所についても事細かに定めています。給食センターにも当然適用されます。

(便所)

第六百二十八条 事業者は、次に定めるところにより便所を設けなければならない。ただし、坑内等特殊な作業場でこれによることができないやむを得ない事由がある場合で、適当な数の便所又は便器を備えたときは、この限りでない。

一 男性用と女性用に区別すること。

二 男性用大便所の便房の数は、同時に就業する男性労働者六十人以内ごとに一個以上とすること。

三 男性用小便所の箇所数は、同時に就業する男性労働者三十人以内ごとに一個以上とすること。

四 女性用便所の便房の数は、同時に就業する女性労働者二十人以内ごとに一個以上とすること。

五 便池は、汚物が土中に浸透しない構造とすること。

六 流出する清浄な水を十分に供給する手洗い設備を設けること。

2 事業者は、前項の便所及び便器を清潔に保ち、汚物を適当に処理しなければならない。

ちなみに、わたくしはこれで初めて「便房」とか「便池」なる言葉が存在することを知りましたぞなもし。

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連合総研『労働者派遣の将来』

Rials連合総研の中村善雄さんからできたばかりの報告書『労働者派遣の将来 ドイツ、フランス、イギリス、日本の国際比較』をいただきました。ありがとうございます。

http://rengo-soken.or.jp/report_db/pub/detail.php?uid=293

http://rengo-soken.or.jp/report_db/file/1467086250_a.pdf

副題にあるように、メインは欧州3カ国の派遣法制です。ドイツは高橋賢司さん、フランスは大山盛義さんと、これは先日の日本労働法学会のミニシンポの面子と同じですね。もう一人イギリスを長谷川聡さんが担当しています。

これらを踏まえて、第三部「わが国における労働者派遣の課題と集団的労使関係に期待される役割」で、集団的労使関係に関わる話が論じられているわけですが、ここの評価は人によってさまざまでしょう。

本報告書の最後の最後の一節で、中村さんはこう書いていますが、なかなかじわりとくるものがあります。

・・・長い間、派遣先は集団的な労使関係の枠組みにおいてその責任を免れることによって、労働者派遣が利用されるという制度が運用され、一方で派遣先での集団的な労使関係の構築は手がつけられてこなかった。雇用関係が異なる派遣労働者の自律への希望を尊重し、派遣労働者の集団的労使関係の形成を応援していくことは、公正な社会を作るための派遣先労働組合ができる大きな貢献である。今後の労働組合の積極的な取り組みに期待したい。

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「年俸制社員」@『PRESIDENT』7月18日号

011622なぜか、『PRESIDENT』7月18日号の「リッチvsビンボー◎そこが分かれ目!まったく新しいお金の貯め方」という特集の片隅にちらりと顔を出しています。

http://www.president.co.jp/pre/new/

「年俸制社員」

 多くの人は年俸制に対して、「ボーナスや各種手当がない」「残業代が出ない」などのイメージを持っているかもしれないが、これらと年俸制は無関係だ。

 年俸制とは賃金の決め方の時間的単位が「年」であるというだけで、法律的にはそれ以上でもそれ以下でもない。賃金を一時間あたりいくらと決めるのが時給制。一日いくらと決めるのが日給制。一カ月なら月給制で、一年なら年俸制というだけだ。

 また、年俸制と成果主義に関連があると思っている人は多いが、法律的にはまったく何の関係もない。年俸制と成果主義がセットになっている場合が多いというだけなのだ。 ・・・・・・・

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2016年6月27日 (月)

マタハラの正味の真水部分

本日、労政審雇用均等分科会に育児・介護休業法その他の関係の省令やら指針やらの案が諮問されましたが、

http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000128636.html

その「事業主が職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針案要綱」というのをみると、本ブログで何回か取り上げてきた、解雇でもなければ不利益取扱いでもない純粋のマタニティ・ハラスメントの正味の真水部分がどういうものであるのかが書かれています。

http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12602000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Roudouseisakutantou/0000128632.pdf

いうまでもなく、1985年の男女雇用機会均等法で妊娠を理由とする解雇は禁止され、2006年の均等法改正で妊娠を理由とする不利益取扱いも禁止されているのですから、それらは今回の改正で初めて規制の対象となったところのマタハラじゃない。

いや、ものごとを知らないマスコミがそれらをマタハラ、マタハラと口々に呼ばわるのは別に構いませんが、一国の法体系の秩序を守る観点からすると、「妊娠したからクビだ!」ってのを、マタハラと言ってはいけない。それでは、個別労働紛争は全て、解雇事案も労働条件の切り下げ事案もことごとくパワハラで済んでしまう。さすがにそれはまずいでせう。

というわけで、この指針案をみていくと、正味のマタハラというのは「制度等の利用への嫌がらせ型」と「状態への嫌がらせ型」があって、その典型例は、「解雇その他不利益な取扱いを示唆」することのようです。なるほど、示唆!確かに示唆は示唆であって、解雇でもなければ不利益取扱いそれ自体でもない。

具体的にはどんなのでしょうね。

「課長、私妊娠したんですけど」

「おやおや、それではキミがいつまでうちの会社にいられるかボクにも分からないねえ」

みたいな会話でしょうか。

これにあわせて、育児休業をとることに対する嫌がらせ(「イクハラ」とでもいいますか)も育児介護休業の指針の改正に入っています。

あとそれから、「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針の一部を改正する告示案要綱(案)」というのをみると、なぜかLGBTの話も出てきます。

http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12602000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Roudouseisakutantou/0000128634.pdf

被害を受けた者の 性的指向または性自認にかかわらず、当該者に対する職場におけるセクシュアルハラスメントも、本指針の対象となることを明記すること。

いや、相手が誰であれセクハラがセクハラであるのは当然だと思いますが。

何でこんなのが入っているのかというとですな、も一つ資料がついていて、

http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12602000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Roudouseisakutantou/0000128635.pdf

ここに、パブコメに対する意見が載ってて、これを見ると、LGBTに対するいじめ・嫌がらせをセクハラに入れろという意見があったようです。

いやさすがにそれは無理でしょ。セクハラはセクシュアルな嫌がらせだからセクハラなんであってね。「このお釜野郎がぁ!」とか「おねえはやだねえ」みたいなのは、LGBTハラスメントではあっても、セクシュアルなハラスメントではない。一国の法体系の秩序を守る観点からすると、それまず名を正さんか。

(追記)

で、なぜか新聞報道にかかるとこれが、

http://mainichi.jp/articles/20160628/k00/00m/040/038000c(厚労省 LGBT差別はセクハラ 指針改正し明記)

厚生労働省は27日、労働政策審議会の分科会を開き、職場での性的少数者(LGBTなど)への差別的な言動がセクハラに当たることを、男女雇用機会均等法に基づく事業主向けの「セクハラ指針」に明記することを決めた。LGBTへの偏見や差別をなくし、働きやすい環境をつくるのが狙い。来年1月に施行する。

という風になっちゃってるんですが、いやどういうやりとりがあったかは分かりませんが、アップされている資料の指針案を見る限り、

被害を受けた者の 性的指向または性自認にかかわらず、当該者に対する職場におけるセクシュアルハラスメントも、本指針の対象となることを明記すること。

というのは、相手がレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー等であっても、セクシュアルな行為をしたり雰囲気を作ったりしたら、セクハラはセクハラだよ、と言っているだけです。例えばこんなのでしょうか。

「なんやお前、女のくせに男みたいなカッコして。男やいうならこうしてもええやろ」

と胸をわしづかみにする

「課長、何をするんですか、セクハラです」

「あほ、セクハラいうのは女にこうするこっちゃ、お前女やないんやろ、心は男ですいうてるやないか、ほんでどこがセクハラやいうねん」

これに対し、その性質がセクシュアルでない差別やハラスメントが突然変異を起こしてセクハラになるなんてことを言っているわけではないように読めます。

こっちは上のマタハラとは逆に、セクハラじゃない正味の真水のLGBT差別部分というのがこの指針の文言上は明確に対象外であるにも関わらず、なぜか新聞記者の脳内ではごっちゃになってしまっているようです。

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性別・年齢等の属性と日本の非典型労働政策@『日本労働研究雑誌』2016年7月号

Jil07『日本労働研究雑誌』2016年7月号に「性別・年齢等の属性と日本の非典型労働政策」を寄稿しました。

「性別・年齢と非典型雇用」という特集の一つです。

http://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2016/07/index.html

性別・年齢等の属性と日本の非典型労働政策 濱口桂一郎(JILPT主席統括研究員)
非典型雇用者の階層構成と社会移動の趨勢 三輪哲(東京大学社会科学研究所准教授)
国際比較でみる日本の非典型雇用─雇用流動化のなかの非柔軟な構造 岩上真珠(聖心女子大学人間関係学科教授)
非正規従業員と組織からの支援認識 蔡芢錫(専修大学経営学部教授)
非正規労働者の多様化と労働組合 禿あや美(跡見学園女子大学マネジメント学部准教授)

私の論文の要約と目次は次の通りです。

 「典型雇用」と「非典型雇用」という雇用形態の軸と、性別・年齢といった労働者の属性に係る軸は本来別物であり、現実にも必ずしも重なっていた/いるわけでもない。たとえば、高度成長期以前に注目された「臨時工」は、「本工」と性別・年齢等の属性が大きく異ならないと考えられ、それゆえに深刻な政策課題とされていた。
 しかしながら、とりわけ高度成長期に確立し、1990年代半ばまで維持されてきた雇用-社会システムにおいては、この両軸がかなりの程度重なると考えられ、それを前提に様々な政策が講じられ/あるいはむしろ講じる必要はないとされた。たとえば、パートタイマーは自らをまず家庭の主婦と位置づけ、その役割の範囲内で家計補助的に就労するという意識が中心であったため、職場の差別が問題視されなくなった。また派遣労働者は結婚退職後のOL、嘱託は定年退職後の高齢者、アルバイトは学業が主の学生とみなされ、こうした社会的属性が労働問題としての意識化を妨げていた。
 1990年代以降、いわゆるフリーターの増大をきっかけとしてこの両軸の関連性は徐々に低下してきているが、なおかつて確立していた雇用-社会システムの影響力は強く、一方の軸に着目した政策を採ろうとする際に、他方の軸から来るイメージがそれを妨げる傾向も見られる。

Ⅰ はじめに
Ⅱ 臨時工
Ⅲ 主婦パート
Ⅳ 派遣労働者と嘱託・契約社員
Ⅴ フリーター
Ⅵ 非正規労働問題の復活

なお、そのほかに今月号で注目しておきたいのは、「論文Today」という紹介の小文ですが、石﨑由希子さんが「クラウドワーク:新たな労働形態─使用者は逃亡中?」を書かれています。

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「集団的労使関係を考える」 @『月刊労委労協』2016年6月号

Roui『月刊労委労協』2016年6月号に「集団的労使関係を考える」 を寄稿しました。

 労働委員会の労働者側委員の連絡協議会の機関誌である『月刊労委労協』から「集団的労使関係」に関する原稿を依頼されることくらい自然なことはない、はずです。
 しかしながら今日、労働問題に関する報道や議論は山のようにありますが、集団的労使関係とは何か?といった大上段に振りかぶった議論というのはほとんど見たことがありません。解雇を始めとする労働契約法制の問題、非正規を中心とする賃金格差の問題、労働時間規制の問題等々、労働問題のあらゆることが論じられている割に、かつてであればその中核にあったであろうはずの集団的労使関係は不思議なくらい姿を見せません。正確に言うと、それらの議論の片隅に、とりわけ議論が行き詰まって突破しがたい様相を呈してきたときに、この問題を解決するために集団的労使関係の仕組みが使えないか、というような形で、いわば困ったときの神頼みのような風情でちらりちらりと顔を出すことはあるのですが、その神様自体を正面から論じてやろうという人はあまりいないようなのです。
 改めて書店で労働関係の本を眺めてみても、労使関係に関する標準的なテキストブックと言えるようなものは見当たりません。もちろん、労働法のテキストにはかなりの分量で集団的労使関係が割かれていますが、それらは法律と判例を並べているだけで、残念ながら今日の労働諸問題を解決する手段としての集団的労使関係システムについて考えようとする際に役に立つようなものではありません。労働経済や労務管理のテキストにも、申し訳程度には労使関係に触れていますが、それ以上突っ込んだ記述はなさそうです。一方図書館に行って労働関係の棚を眺めると、こちらは集団的労使関係に関する本が並んでいます。しかしその大部分は半世紀以上も前の古い本で、どうもそれ以来数十年にわたって日本ではこの分野が流行ってこなかったらしいことが窺えます。
 仕方がありません。ここは一番腹を決めて、半世紀以上昔の本からじっくりとものごとの本筋を考えていくよりほかに道はなさそうです。

1 労使関係の二元性
2 労使関係の近代化論
3 日本型労使関係礼賛の時代
4 団結と参加
5 日本の集団的労使関係システムの性格
6 集団的労使関係システムへの呼び声

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産業医制度の見直し@WEB労政時報

WEB労政時報に「産業医制度の見直し」を寄稿しました。

https://www.rosei.jp/readers-taiken/hr/article.php?entry_no=547

昨年9月から、厚生労働省労働基準局で「産業医制度の在り方に関する検討会」が開かれています。開催要綱には、

平成27 年12 月からストレスチェック制度が新たに導入され、ストレスチェック及び面接指導等に関することが産業医の職務に追加されたことに伴い、産業医が担うべき職務が増大していることに加え、労働安全衛生法が制定された当時と現在では、産業構造や、産業保健における主要な課題が変わっており、産業医に求められる役割が変化してきている。
こうした背景から、労働安全衛生法における産業医の位置づけや役割について、改めて見直す必要性が出てきている。
このため、産業医学の専門家、法律の専門家、産業医、労働衛生の専門家、産業保健に関わる各団体、経営者団体、労働者団体の参画を得て、産業現場のニーズを踏まえつつ、産業医制度の在り方及び具体的な見直しの方針について、必要に応じて法令の改正も念頭に置いた検討を行うこととする。

――と書かれており、法改正も予定しているようです。 ・・・・・

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2016年6月25日 (土)

シュトレーク『時間かせぎの資本主義』

07926_big ユーロ以後のEUの政策について考える上で必読だと思い、前から読まなきゃと思いつつそのままになっていた本ですが、ようやく読みました。

http://www.msz.co.jp/book/detail/07926.html

資本主義は自らの危機を「時間かせぎ」によって先送りしてきた。

70年代、高度成長の終わりとともに、成長を前提とした完全雇用と賃上げは危機を迎えていた。そこで各国はインフレによる時間かせぎ、つまり名目成長が実質成長を肩代わりすることで当面の危機を先送りした。

80年代、新自由主義が本格的に始動する。各国は規制緩和と民営化に乗り出した。国の負担は減り、資本の収益は上がる。双方にとって好都合だった。

だがそれは巨額の債務となって戻ってきた。債務解消のために増税や緊縮を行えば、景気後退につながりかねない。危機はリーマン・ショックでひとつの頂点を迎えた。

いま世界は、銀行危機、国家債務危機、実体経済危機という三重の危機の渦中にある。新たな時間かせぎの鍵を握るのは中央銀行だ。その影響をもっとも蒙ったのがユーロ圏である。ギリシャ危機で表面化したユーロ危機は、各国の格差を危険なまでに際立たせ、政治対立を呼び起こした。EUは、いま最大の危機を迎えている。

資本主義は危機の先送りの過程で、民主主義を解体していった。危機はいつまで先送りできるのか。民主主義が資本主義をコントロールすることは可能か。ヨーロッパとアメリカで大きな反響を呼び起こした、現代資本主義論。

フランクフルト学派の社会学者という観点からの資本主義論としてもとても面白いですけど、私には金融危機とソブリン危機以後のEUのとても権威主義的なまでの市場主義の強制を見事に説明するマクロ的な図式を提示する本として、大変同感するところが多かったです。

細かな一つ一つの記述にも思わずそうだそうだと膝を叩くところがけっこうあります。

たとえば、古典的な租税国家が債務国家に、そして財政再建国家に、という展開において、その「財政再建主義」が国家機能の再建を目指すものでは決してなく、減税と歳出削減のスパイラルをもたらすだけだと喝破しているところとか、

・・・いったん実現した財政黒字は、次なる減税のための理由として使われる可能性がある。その減税は新たな赤字を生み出し、そこからもう一度黒字を取り戻すために、さらなる歳出削減が必要となる。・・・歳出削減と減税のこうした連携プレイから判明することは財政再建国家における財政再建は、財政再建そのもののために行われているのではなく、国家機能の一般的縮小、そして市場への国家投資の削減という上位目的のために実施されているということだ。言い換えれば、それは新自由主義的な脱国家プログラム、民営化プログラムの一部をなしている。・・・こうして財政再建策は自走的なものになっていく。特に市民は、国家に期待できることがどんどん減っていき、そのためにますます多くの財を私的に調達しなければならず、それに応じて税金を払う意思をますます失っていく。こうして国家歳出の低下は国家歳入の減少を招く。その状態でさらに債務国家の借金を減らそうとすれば、なおいっそうの歳出削減が要求される。・・・

あるいは、財政再建主義を批判しているかに見える金融緩和主義者についても、それがそのいうところの「上げ潮」にはならないことを見事に喝破しているところとか、

・・・中央銀行による金融緩和と新自由主義的「柔軟化」を組み合わせるという手法は、現在、ヨーロッパで顕著になっている。しかし、アメリカではこの同じ手法が、何十年にもわたって疑似成長しかもたらさなかった。こうした疑似成長は周期的に襲ってくる危機の中でいずれ破裂せざるを得ない運命にある。仮に百歩譲って何とか新しい成長につなげたとしても、かつてのケインズ主義的な福祉国家で見られたように、潮が満ちることで全ての船が浮き上がるという状態には遠く及ばないだろう。「市場」にせっつかれて・・・再分配政策は自己抹殺を行った。国家は市場の自由と資産、特に国債という資産の保護に自己限定するよう強いられてきた。・・・

しかしやはり、ユーロに対する鋭い批判の言葉の切れ味が絶品です。

・・・今日のユーロ導入は、ある社会を・・・標準経済学の青写真に合わせて市場社会へと改造するための実例と見なすことができる。これは、ポランニーの言葉を借りれば、宗教と化した政治経済学イデオロギーによる「軽率な実験」であり、その社会の構造、組織、伝統の多様性がまったく顧慮されていない。通貨切り下げという手段を各国の経済政策の選択肢から排除しているということは、結果として共通通貨に支配された全ての国に統一的な経済社会モデルを押しつけていることになる。・・・その意味で、通貨切り下げ手段の排除は、19世紀の金本位制と似たところがある。・・・

そこで、シュトレークはこの市場ファナティズムに対する「対抗運動」の必然性を論じます。このあたり、まさにポランニーの応用問題という感じです。

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EUはリベラルかソーシャルか?

今日(もう昨日ですが)はイギリスのEU離脱国民投票で世界中大騒ぎでしたが、EU労働法政策などというタイトルを掲げている本ブログからすると、いろいろと感じるところがありました。

もともとEEC(欧州経済共同体)は名前の通り市場統合を目指すもので、ほとんどソーシャルな面のないリベラルなもの。

かつて労働組合がえらく強かった頃のイギリスは、保守党政権時代に勝手にECに加入したのはおかしいといって、1975年に労働党政権が国民投票をやり、離脱票が少なかったので残った経緯があります。ソーシャルなイギリスがリベラルなECを嫌がってた時代。ちなみに、いまのコービン労働党首はこのときの離脱派。

ところが、サッチャーが政権について、労働組合は徹底的にたたきつぶす、最低賃金から何から労働法護法は廃止する、福祉も住宅も教育も片っ端から叩く。ぼこぼこにぶん殴られた労働組合は泣きながらEUに駆け込んで、助けてくれと言い出す。「社会なんて存在しない」というサッチャーにとって、市場統合以上の余計なことにくちばしを入れたがるソーシャルなEUは邪魔者。いわゆる「ソーシャル・ヨーロッパ」の時代。

その後労働党政権になり、EUのソーシャルな労働法も持ち込まれる。これがイヤだという、反ソーシャル・ヨーロッパのリベラルUKという文脈も、一応細々とあって、日経新聞あたりに載る離脱派のEUの規制がどうのこうのというのはこの話。でもそれはメインじゃない。

むしろ21世紀になってから、EUは再び市場統合を旗印に自由市場主義を各国に強制する傾向が強まる。具体的には下記『社会政策』学会誌に書いた一節を参照のこと。

200901・・・ところが皮肉にも、これがEU全体の緊縮財政志向をもたらし、とりわけ南欧諸国における労働法、労使関係の空洞化をもたらしている。
 危機がもっぱら金融危機であった2009年頃までは、破綻した金融機関の救済や企業や労働者への支援、そして大量に排出された失業者へのセーフティネットなどのために多額の公的支出が行われ、それが加盟各国の財政赤字を拡大させた。ところが、その不況期には当然の財政赤字が、金融バブルの拡大と崩壊に重大な責任があるはずの格付け機関によって、公債の信用度の引下げという形で、あたかも悪いことであるかのように見なされるようになった。
 しかも、ここにヨーロッパ独自の特殊な事情が絡む。いうまでもなく、共通通貨ユーロの導入によって、「安定成長協定」という形で加盟国の財政赤字にたががはめられてしまっていることである。本来景気と反対の方向に動かなければならない財政規模が、景気と同じ方向に動くことによって、経済の回復を阻害する機能を果たしてしまうこのメカニズムは、自由市場経済ではなく協調的市場経済の代表格であるドイツの強い主張で導入され、結果的に市場原理主義の復活を制度面から援護射撃する皮肉な形になってしまっている。そしてドイツ主導で進められた財政規律強化のための財政協定が2013年1月に発効し、各国の財政赤字はGDPの0.5%を超えない旨を各国の憲法等で規定し、これを逸脱した場合には自動修正メカニズムが作動するようにしなければならず、これに従った法制を導入しない国にはGDPの0.1%の制裁金を課するという仕組みが導入された。
 このように事態がドイツ主導で進められる背景には、経済危機に対してドイツ経済が極めて強靱な回復力を示し、ドイツ式のやり方に他の諸国が文句を言いにくいことがある。しかしながら、ドイツの「成功」をもたらしたのは、危機からの脱却のために政労使がその利益を譲り合うコーポラティズムである。労働側は短時間労働スキーム(いわゆる緊急避難型ワークシェアリング)により雇用を維持するとともに、さまざまな既得権を放棄することで、ドイツ経済における労働コストの顕著な低下に貢献した。これにより、他の諸国と対照的に、ドイツの失業率はむしろ低下傾向を示した。
 このドイツ型コーポラティズムの「成果」がEUレベルでは緊縮財政を強要する権威主義的レジームを支え、ドイツにおける協調的市場経済の「成功」が結果的に他国におけるその基盤となるべき雇用と社会的包摂への資源配分を削り取っているというのが、現代ヨーロッパの最大の皮肉である。

 もっとも典型的なギリシャを見よう。債務不履行を回避するための借款と引き替えに強制されたのは、個別解雇や集団解雇の容易化だけでなく、労使関係システムの全面見直しであった。2010年の法律で有利原則を破棄し、下位レベル協約による労働条件引下げを可能にするとともに、賃金増額仲裁裁定の効力を奪い、2011年には従業員の5分の3が「団体」を形成すれば企業協約締結資格を与えることとした。これにはさすがにILOが懸念を表明するに至った。 ・・・

ギリシャのシリザとか、スペインのポデモスとか、南欧諸国の反EU運動は基本的にこれに対する対抗運動。リベラルなEUに対して各国のソーシャルな仕組みを守ろうというリアクション。そして、イギリスの反EUの気持ちの中にも結構これが大きい。イギリスはユーロ圏じゃないので直接関係ないのだが、労働党支持層の中でもEU残留に熱心になれないひとつの背景。

そして、どの国にもあるけれども特にイギリスに強い「ヨーロッパはドーバー海峡の向こう側、俺たちはヨーロッパじゃない」ナショナリズムがこれら錯綜するリベラルとソーシャルのぐちゃぐちゃとない交ぜになったのが今日(昨日)の結果なのでしょう。

(追記)

1024x1024 欧州労連のコメントを紹介しておきます。

https://www.etuc.org/press/brexit-vote-eu-must-take-action-improve-workers-lives

“This is a dark day for Europe, for the UK and for workers. It must be a wake-up call for the EU to offer a better deal for workers.

“There is deep disillusionment across Europe, not only in the UK. Austerity, cuts in public spending, unemployment, the failure of Government’s to meet people’s needs, the failure of the EU to act together are turning people against the EU.  Workers want an EU that takes action to improve their lives.

“The EU needs to act decisively to ensure this is not the start of the break-up of the European Union, and does not damage jobs and workers’ rights. 

“The European Union must start to benefit workers again, to create a fairer and more equal society, to invest in quality jobs, good public services and real opportunities for young people.

“The ETUC stands with the British TUC in saying that British workers should not pay the price for Brexit.

“The ETUC will continue and strengthen its fight for a fairer and more social Europe.”

今日は闇の日だ、欧州にとっても英国にとっても労働者にとっても。これはEUが労働者にもっと良い条件を提示せよという警鐘だ。

イギリスだけじゃなくヨーロッパじゅうに深い幻滅が広がっている。緊縮財政、公共支出の削減、失業、人々の必要に応えられない政府、これら全てがEUへの反発に転化している。労働者はEUが彼らの生活を改善するための行動を起こすことを求めている。

EUはこれが欧州連合の解体の出発点ではなく、雇用や労働者の権利を損なうことのないよう断固として行動する必要がある。

EUは再び労働者の利益のために、より公正で平等な社会を作りだし、質の高い仕事、良い公共サービス、若い者の真の機会に投資すべきだ。

ETUCはイギリスのTUCとともに英国労働者は英国離脱の代償を払うべきではないと主張する。

ETUCはより公正でよりソーシャルなヨーロッパへの闘いを続け強める。

(参考)

ちなみに、頭の中が80年代のサッチャー対ドロール時代のまま化石化してしまった人の「初歩的な事実誤認」の実例:

https://twitter.com/ikedanob/status/746734748702146560

初歩的な事実誤認が多い。そもそもEUが各国に「緊縮財政」を求める権限はない。ましてEUを「新自由主義」などという人はいない。その逆の過剰規制が問題だったのだ。

最近20年間のヨーロッパはまったくわかりません、と正直に言えばいいのに。

(おまけ)

なんだか労務屋さんの感想も、EUの規制がががが・・・・という話に集中してますね。

http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20160627#p1

報道などをみると英国人にとってはこうした規制を強要されることがかなり耐え難いことだったということのようです。・・・

保守党の一部ではそこを強調する議論が多かったのは確かですが、国民の選択の決め手としてはどうでしょうか。基本的には上で書いたように「メインじゃない」と思われます。

今回の結果は上の本文で書いたように、自由な統合市場という面で残留派である保守党の中に(大英帝国の残影を追う)ナショナリズムの側面が強く、他方EU規制を求め守るという面で残留派である労働党の中に(コービン党首を始めとする)そもそも市場主義的なEUへの懐疑派が根強いことなどが、二重三重に絡まり合った結果というべきでしょう。

なんにせよ、これを持ち出して

・・・そこでEU出羽出羽とEUがきわめて素晴らしいように語ることのヤバさというのが今回のbrexitの教訓かなあと、まあそんなことを考えたわけです。

というのは、いささか・・・・・・。

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2016年6月23日 (木)

「定年後再雇用者の賃金格差と高年齢者雇用継続給付」@『労基旬報』2016年6月25日号

『労基旬報』2016年6月25日号に「定年後再雇用者の賃金格差と高年齢者雇用継続給付」を寄稿しました。

 去る5月13日、東京地裁は、定年後に1年契約の嘱託として再雇用されたトラック運転手の男性3人が定年前と同じ業務なのに定年前より2~3割低い賃金水準となったことについて、労働契約法20条の期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止に該当するとして、定年前の賃金規定を適用して差額分を支払うよう同社に命じたと報じられました。この事件は長澤運輸事件で、現時点ではまだ判例雑誌等に掲載されていませんので、判旨の詳細は不明ですが、高齢者雇用政策において過去数十年にわたって当然と考えられてきたことを逆転させるような含意もあり、その影響する範囲は極めて大きなものがあるように思われます。
 まずもって、現在の高齢者雇用政策の考え方を改めて確認しておきましょう。2012年に高年齢者雇用安定法が改正され、65歳までの継続雇用がほぼ例外なく義務化されています。法律上厳密に言えば、65歳定年、65歳継続雇用、定年制の廃止の三者択一という義務です。問題はこの三択のうち65歳定年と65歳継続雇用は何が違うのか?という点にあります。定年と言おうが、継続雇用と言おうが、65歳まで何らかの形で雇用が維持されることが義務づけられているのですから、違うのはその雇用の中身、つまり定年時にいったんそれまでの高い賃金その他の労働条件を清算して、定年前よりかなり低い賃金その他の労働条件にすることができるところに、65歳定年ではなく65歳継続雇用を選択する意味がある、というのが、恐らく圧倒的に多くの人々の認識ではないかと思われます。
 これを裏付ける制度として高年齢者雇用継続給付があります。これは雇用保険法に基づく労働者への給付ですが、60歳以降の賃金が60歳時点に比べて大きく下がることを前提とした制度設計になっています。これは、65歳までの継続雇用が努力義務とされた1994年改正時に設けられたものです。そのときは25%支給という手厚いものでしたが、その後改正がされ、現在の制度では、60歳時点賃金の61%以下であればその賃金の15%、61%~75%であればその低下率に応じた額となります。重要なのは、60歳定年後に再雇用された労働者の賃金は、この給付の支給対象となるくらい大幅に引き下げられるのが当たり前だ、という認識に立ってこの制度が設けられているということです。少なくとも、それが期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止に該当するなどということは全く想定されていないことだけは明らかでしょう。
 その意味で、今回の判決は単に労働契約法やパート法といった労働条件法政策において重要な意味を持つだけではなく、高齢者雇用政策という労働市場法政策に対する含意も極めて大きなものがあります。上述したように、現時点ではまだ判決文が公開されていませんので、原告側や被告側がどういう主張をしたのかも明らかではありませんし、その中で高齢者雇用政策が取り上げられているのかどうか、また判決がそうした雇用政策上の諸制度についても考慮しているのかいないのかなど、論ずる上で必要な情報はありませんが、少なくとも今後この問題をめぐる議論が労働条件政策と労働市場政策の両方を睨みながら進められなければならないことだけは間違いないと思われます。

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2016年6月22日 (水)

『若者と労働』第5刷と短評

Chuko 『若者と労働』の第5刷が送られてきました。2013年の刊行後も、毎年少しずつ読まれ続けていることについて、読者の皆様に心から感謝申し上げます。

読書メーターでも、時々思い出したように短評が載ります。

「dumonde」さんの短評です。

http://bookmeter.com/cmt/57156842

日本の労働市場の歴史を追いながら、その独特な習慣とそれゆえの問題点などが理解できる一冊。日系企業や外資の文化を持った企業のいずれにも所蔵していた身として、どうしても日本の昔ながらの終身雇用や年功序列に反発する気持ちがあるが、それが生まれた背景やそれが機能した時の状況を知るにつれ、現代に至るまでの必要悪的なものであったことが分かったし、現在の労働問題への見方も変わってきた。人事に関わる人には是非読んでほしい良書。

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山本泰三編『認知資本主義』

222112たまたま東大公共政策大学院で講義する前の合間に生協の本屋で見つけた本ですが、山本泰三編『認知資本主義』(ナカニシヤ出版)は割と面白く読めました。

http://www.nakanishiya.co.jp/book/b222112.html

フレキシブル化、金融化、労働として動員される「生」――非物質的なものをめぐる現代のグローバルな趨勢「認知資本主義」を分析

私の関心からすると、編者の山本さんが書かれている第2章「労働のゆくえ」が、非物質的労働という概念をキーに論じていて、考えさせるところが多いのです。ただ何というか、ある種の哲学的、現代思想的な文体が込み入っていて、読むのが難しい面はあるのですが。

第二章 労働のゆくえ(山本泰三)
――非物質的労働の概念をめぐる諸問題 

一 非物質的労働
二 「暗黙の実務」の労働過程
三 スミス的分業と認知的分業
四 賃金労働
五 人的資本
六 むすびにかえて

たとえば、

・・・人的資本として生きる人間は、自己に投資し続けるのであるが、それはすなわち投資される自己でもある。内部に金融的関係をたたみ込んだ主体、賢明な投資家かつ有望な企業家という、二重の自己。金融による投資は、人的資本という概念装置を通じて、個々の人間に作用し、生の潜在的エネルギーを駆り立てる。これは機能しうるのか。・・・

・・・人的資本の枠組みは、雇用関係の個人化を裏打ちする装置である。これは労働の成果を、投資のリターンとリスクという形で個人に帰属させることができるという前提に立っている。たびたび目の当たりにさせられる市場の荒れ模様からすれば、それは実際のところ、機能不全を通じた分割統治のごときものとして理解すべきであるように思われる。・・・

いきなりこれだけ読まされたら、どこのソーカル論文かと言いたくなるようなわけわかめな文章ですが、それを我慢すれば、今日の労働の変容という現象をかなり本質に突っ込んで議論していることは確かなような気がします。

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2016年6月21日 (火)

『バーニー・サンダース自伝』

223380 『バーニー・サンダース自伝』(大月書店)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.otsukishoten.co.jp/book/b223380.html

いちおう、民主党の候補者選でヒラリー・クリントンの勝ちを認めたあとの出版になりましたが、このアメリカ希有の「民主的社会主義者」のマニフェスト本として、読まれる値打ちのある本であることは間違いないと思います。

「革命の準備はいいか?」――庶民や弱者に味方し、大胆な経済政策と政治改革を掲げて全米の若者を夢中にしているサンダース。草の根の民主主義にこだわり、無所属をつらぬいてきた「民主的社会主義者」のユニークな政治家人生を記した自伝。

版元もかなり力が入っていると見えて、ここに無料サンプル版をアップしています。

http://www.otsukishoten.co.jp/files/_sanders_sample.pdf

実を言うと、これは今回の大統領選に向けたマニフェスト本ではなくて、今から20年近く前に出た「Outsider in the House」(下院のはぐれもの)を、タイトルに「White」を付け加えて「Outsider in the White House」(ホワイトハウスのはぐれもの)にして、まえがきと解説を加えて出版したものです。なので、本体部分は20年前の話なのですが、サンダースさんが一貫して変わらないことがよくわかります。

訳者まえがき――バーニー・サンダースとは何者か? 何が彼を押し上げたのか?

謝辞

まえがき(2015年の追記)

序章

1 あなたはどこかで始めるべきだ

2 ひとつの市での社会主義

3 長い行進はすすむ

4 手に入れたいくつかの勝利

5 悪玉を仕立て上げる議会

6 ヴァーモントじゅうを歩きまわって

7 最後のひと押し

8 私たちはここからどこへ行くのか?

あとがき:大統領選挙のはぐれ者(ジョン・ニコルス)

正直言って、社会民主主義勢力が大きなシェアを占めているヨーロッパに比べて、アメリカの政治ってあんまり面白そうでないという感じでちゃんと勉強してこなかったのですが、もう一遍じっくりと時間を取って勉強し直した方が良いかなと思い始めています。

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2016年6月20日 (月)

メンバーシップ型学歴観

中川淳一郎という方が、SEALDSの奥田愛基氏が一橋大学の大学院に入学(入院)したことに激怒している旨ツイートしています。

https://twitter.com/unkotaberuno/status/743462691973402625

さっき常見 @yoheitsunemi と一橋大学の先生と飲んでたけど、SEALDsの奥田愛基が一橋の院に入ったんだって? いやぁ……。すげー不快。

https://twitter.com/unkotaberuno/status/743463569358872576

文系国立大学の大学院さぁ、文科省の方針で院生増やしたいかもしれねぇけど、学歴ロンダリング狙いの連中が殺到するような状況をお前ら良しとしてるの? あぁ、ばかじゃねぇの? 一橋、うんこ食ってろ、てめぇら。バカ大学め、中にいる連中も含めててめぇらうんこ食ってやがれ

まだ続きますが、「一橋の院試がラクに入れるとの印象」とか「奥田氏も別に明学の院に行けばよかったんじゃないですか?」というあたりが、いかにも日本的なメンバーシップ型学歴観がよく現れているな、と感じました。

正直言って、社会的発言をする社会学の大学院生と言えば、最近も炎上を繰り返している某東大の院生タレント氏を見ればわかるように、それで大学の格がどうこうするようなものでもないのではないかと思いますが、そこはやはり、出身大学に対する愛着の度合いがここまで高いのでしょうね。

とはいえ、そもそも教育と雇用を貫く一次元的な「能力」、すなわち組織に入ってから厳しい訓練に耐えて様々な仕事をこなしていけるようになる潜在能力の指標としての大学入学時の高い勉強成績でその人をどう評価するかしないかという次元の話と、その研究内容をどう評価するかはともかく、ある問題意識を持って研究していくことができるタマかどうか、という次元の話とは、そもそもまったく違う話がやや感情レベルでごっちゃになっているのではないかという感が否めません。

研究者の卵がちゃんと立派な研究者に育つか、卵のまま潰れるのか、お笑いタレントの道を歩むのか、そのいずれであれ、当該大学院の指導教授と本人の問題であって、たまたま組織名を同じくする大学に昔入学できるほど賢かった人がいきり立つほどのことでもなかろうと思います。というか、そこで人をいきり立たせてしまうものが、まさにメンバーシップ型学歴観というものなのだろうな、と思うわけです。

(追記)

やや誤解があるようなので念のため。ここでいうメンバーシップ型学歴観とは、あくまでも「組織に入ってから厳しい訓練に耐えて様々な仕事をこなしていけるようになる潜在能力の指標としての大学入学時の高い勉強成績でその人をどう評価するかしないかという次元の話」であって、卑俗な言い方をすれば、「俺は18歳の時、こんなに偏差値が高かったのに、こんな偏差値の低い奴があとから院生として入ってきて○○大生みたいな面するな」という意識であり、だからこそ大学院に研究したくて入ってきた仲間同士のメンバーシップ感覚などとはまったく対極にある「学歴ロンダリング狙いの連中が殺到するような状況」という言葉が出てくるわけでしょう。

この学歴感覚については。もう30年以上昔の本ですが、岩田龍子氏の『学歴主義の発展構造』という本が大変示唆的です。

https://www.amazon.co.jp/%E5%AD%A6%E6%AD%B4%E4%B8%BB%E7%BE%A9%E3%81%AE%E7%99%BA%E5%B1%95%E6%A7%8B%E9%80%A0-1981%E5%B9%B4-%E6%97%A5%E8%A9%95%E9%81%B8%E6%9B%B8-%E5%B2%A9%E7%94%B0-%E7%AB%9C%E5%AD%90/dp/B000J7UPVI?ie=UTF8&*Version*=1&*entries*=0

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2016年6月19日 (日)

拙著評2つ

112483 4月に『若者と労働』を書評していただいたグアルデリコさんの「世の中備忘録」というブログで、今度は『日本の雇用と労働法』を書評いただきました。

http://ameblo.jp/acdcrush/theme-10085976012.html

濱口氏の2冊目の本読了。

実に興味深い。日本の雇用問題の経緯は日露戦争から第一次世界大戦の頃に端を発しているというのも面白かった。

結局メンバーシップ型雇用(=いわゆる日本の正規雇用)からは当分日本の大企業は抜けられないのではと思う。・・・・

Chuko また、fktackさんの「意味をあたえる」というブログでは、『若者と労働』について、「こういうの待ってた」とコメントされています。

濱口桂一郎著「若者と労働(中公新書ラクレ)」を読んで、こういうの待ってた、という気になった。私は長い間組織に入ったらどうしてそこに忠誠を誓わなきゃいけないのか、会社のためにがんばらなきゃいけないのか、本当は社長や上司など見る角度によっては私よりもぜんぜん愚か者なのに、すべてのパラメーターが自分よりも上回っているような態度を取らなければならないのが疑問であったが、ある程度の答えを得ることができた。それまでは無能のふりをする罪の意識を、無気力、やるきゼロの態度でごまかしていたわけだが、著者の主張する世の中が実現するのなら、私はやる気を少しは出せるのかもしれない。・・・・・

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2016年6月18日 (土)

プラットフォーム経済と雇用関係の解体@欧州労研

Theplatformeconomyandthedisruptiono 欧州労研(ETUI)が「プラットフォーム経済と雇用関係の解体」という政策ブリーフパンフを公開しています。

http://www.etui.org/content/download/23770/197926/file/Policy+Brief-EEESPolicy-N%C2%B05-2016-EN-V3.pdf

This policy brief considers the impact of online platforms on labour markets and on the employment relationship in particular. It first discusses the importance of outsourcing platforms, arguing that the ‘collaborative economy’ used by the European Commission (EC) is a misleading concept, as the trend is in fact just an extension of the market mechanism. The second section distinguishes between different types of platforms; it is followed by a discussion of statistical evidence on the use of platforms by workers. The fourth section identifies the different kinds of impact that the platforms have on the labour market and employment relations. The final section considers policies that would address the risks related to platform-mediated work.・・・

この政策ブリーフは、オンラインプラットフォームの労働市場への、とりわけ雇用関係への影響を検討している。まずアウトソーシング・プラットフォームの重要性について論じ、欧州委員会が用いる「協働経済(コラボラティブ・エコノミー)」という概念はミスリーディングであり、この趨勢は実際は市場メカニズムの拡大に過ぎないと主張している。次に様々なタイプのプラットフォームを区別し、続いて労働者によるプラットフォームの利用について統計的な実証を論じ、さらに様々な種類のプラットフォームが労働市場や雇用関係に与える影響を明らかにし、最後にプラットフォーム仲介型の労働に関わるリスクに対処するための政策を検討する。・・・

というわけで、欧州の労働組合はこの問題に積極的な取り組みをしています。

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合同・一般労組全国協議会の「同一価値労働同一賃金論」批判

労働問題を追いかけていますと、ときにびっくりするようなものにぶち当たったりします。

合同・一般労組全国協議会という団体のサイトに、6月8日付でアップされている「「同一価値労働同一賃金論」批判」というかなり長大な論文は、タイトル通り同一価値労働同一賃金論を批判しているんですが、その切りつける刃の相手が何というかあたるをさいわいという感じで、いろんな意味で大変興味深いものがあります。

http://www.godoroso-zenkokukyou.org/grz/?p=4304

冒頭、例の『選択』の怪文書風の記事から始まりますが、議論自体はなんと終戦直後の電産型賃金体系を賞賛するところから始まります。

第1章 電産型賃金体系の歴史的意味

 第1節 賃金とは何か?

 第2節 電産型賃金体系=差別賃金の原型としての批判は正しいのか?

 第3節 電産型賃金体系の革命性

ここで批判されているのは木下武男さん。電産型賃金体系を批判しているがけしからん、これこそ革命的なんだ、と。ここまではまだ理論的批判なんですが、そこからあらぬ方向に・・・

第2章 同一価値労働同一賃金論との対決

 第1節 合同・一般労働組合全国協議会かUAゼンセンかの闘いに突入!

 第2節 『日本の性差別賃金 同一価値労働同一賃金原則の可能性』森ます美著 有斐閣 2005年6月10日初版第1刷)の論理

 第3節 同一価値労働同一賃金原則と欧米のペイ・エクイティ運動

 第4節 UAゼンセンの「賃金論」と非正規雇用に対する論理

 第5節 『前衛』6月号-同一価値労働同一賃金論の推進者=日本共産党

森ますみさんは研究者ですが、UAゼンセンから、日本共産党に至るまで、おそらく一緒にまとめて叩かれるのが一番いやだといいそうなのをひとまとめにして、当たるを幸い、片っ端から叩きまくっております。

最後の台詞はこれです。いやいや何というか・・・。

・・・・しかし電産型賃金体系含め電産の労働運動は戦後革命期の歴史的闘いとして厳然として存在し、今日でもその闘いは生きて継承されている。遠藤公嗣のいうように「過去のものとなった賃金体系」でもないし、電産の闘いは国鉄闘争という形で生きているのだ。戦後革命として果たせなかった電産労働者の闘いを革命の現実性の中で開花させようではないか。

(追記)

ここまで電産型賃金体系を「革命的」と賞賛するのであれば、是非とも、革命精神の始祖として呉海軍工廠の伍堂卓雄海軍大将を礼賛し、併せて戦時体制下の皇国勤労観をこそ革命的勤労観として称揚していただきたいと思うのは私だけでしょうか?

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内容はもっともだが、目新しい理論が無い

Img_752f5d874047328e26f434ce08fbda5 拙著『働く女子の運命』に、ブクログでこういう寸鉄人を刺す寸評が・・・。

http://booklog.jp/users/kazuosogou/archives/1/4166610627

内容はもっともだが、目新しい理論が無い。これでは女性労働者は納得しないだろう。

はい、申し訳ありません・・・・。

って、いやちょっと待てよ、新書って、そもそも「目新しい理論」を提起するためのものですかね。

いやまあ、中にはそういうすごい新書もあります。

また、最近は週刊誌の記事を膨らませたような程度の低い新書も結構あります。

でも、普通は、いや普通ってもはや言えなくなっているかも知れないけれども、本来の新書ってのは、ある分野の基本的なあるいはかなり進んだ知識を、その分野の専門家や関係者にとってはかなりの程度既知ではあっても、その外の人には結構「へえぇ、そうだったんだ」というような知識を、要領よく端的にまとめて、使える知識の束にするような本、だったんじゃないかと思うのですが。

「目新しい理論」はないかもしれませんが、それで「これでは女性労働者は納得しない」と言われましても・・・。

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2016年6月17日 (金)

欧州労連決議「公正なデジタル労働に向けて」

Executive_committee_new_team_13昨日(6月16日)、欧州労連が中央執行委員会で「公正なデジタル労働に向けて」という決議を採択しました。

https://www.etuc.org/documents/etuc-resolution-digitalisation-towards-fair-digital-work

デジタル化によって社会が少数の勝者と多数の敗者に分裂し、富の不平等をもたらさないように、といった一般的なことから始まっていろいろなことが書かれていますが、具体的な提起として注目したいのは、

g)to propose an EU framework on crowdworking to prevent the undermining or circumventing of minimum pay rates, working time regulation, social security, pension schemes, taxation, etc., to ensure that national and European regulations and legislation effectively apply to digital crowdworkers in online environments and to ensure the rights of digital workers in online environments; establishing fair rules, ensuring minimum remunerations are paid, giving access to social security; to protect intellectual property rights;

ト)クラウドワーキングが、最低賃金、労働時間規制、社会保障、年金制度、税制などを掘り崩したり回避するのを防ぎ、各国やEUの規制や法制がオンライン環境のデジタルクラウドワーカーに効果的に適用されることを確保し、オンライン環境のデジタルワーカーの権利を確保するために、公正なルールを確立し、最低報酬が支払われることを確保し、社会保障へのアクセスを与え、知的財産権を保護するためのEUの枠組みを提案すること

という項目です。

日本でも既に結構な数のクラウドワーカーが活動しているはずですが、その全貌はほとんど分からず、その働く権利がどうなっているのかもよくわかっていません。

これも重要です。

l)trade unions to use all representative bodies to shape fair and inclusive digitisation of companies and services and to organise self-employed workers;

ヲ)労働組合が、企業やサービスの公正で包摂的なデジタル化と自営労働者の組織化のために全ての代表機関を活用すること

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『POSSE』31号

27887013_1『POSSE』31号をお送りいただきました。

第一特集は「各政党に問う、同一労働同一賃金」、第二特集は「どうする?求人詐欺」です。

今年のはじめに、安倍晋三首相の施政方針演説のなかで「同一労働同一賃金の実現」が突如として語られ、注目を集めました。
日本社会で同一労働同一賃金を実現することは可能なのでしょうか?また、浮上してきた「同一労働同一賃金」という議論にどう向き合うべきなのでしょうか?
本特集では、各政党にインタビューを敢行し、それぞれが掲げる「同一労働同一賃金」の内容を検証しています。そして、同一労働同一賃金の論点を整理しつつ、日本社会における実現の可能性について論じています。...
ぜひご一読ください!

登場している政党は、自民党が薗浦健太郎氏、公明党が谷合正明氏、民進党が石橋通宏氏、生活の党と山本太郎となかまたちが山本太郎氏、日本共産党が堀内照文氏で、研究者からは木下武男さんが「同一労働同一賃金を実現するジョブ型世界」で、いろんな議論を一刀両断しています。実は一番木下さんの批判の刃が斬り込んでいるのは、民進党の石橋さんの「日本型雇用と同一価値労働同一賃金のいいとこ取りをめざす」という議論なのですね。

第二特集では、結構興味深い面子が顔を並べています。

今月、厚労省が虚偽内容の求人を出した企業を取り締まれるよう規制強化の議論を本格化させるなど、「求人詐欺」は深刻な社会問題になりつつあります。「求人詐欺」を規制していくには、幅広い層を巻き込みながら社会的な対策をしていかなければなりません。本誌では、経営者、教育関係者、法学者など幅広い立場から求人詐欺問題の実態や構造、対策を論じています。...
就活生や新卒の方、就職情報業界に関わる方など、様々な立場の方にご一読いただきたい記事となっております。
ぜひお買い求めください!

そのうち、中小企業家同友会とPOSSEの2×2座談会が興味深いです。また、飯田泰之さんの「求人詐欺で日本経済は損をする」は、いくつか具体的な提言をしていて、議論の土台になりそうです。

一つ目には、公開すべき会社情報の項目のフォーマットを作って、全項目を埋めなければ求人として受け付けないようにする。・・・

二つ目に、高校・大学の新卒者に関しては内々定が出た時点で契約書を交わす、少なくとも契約書の提示をルール化することです。・・・

三つ目の方法は、雇用契約から3か月間は労働者側から「クーリングオフ」ができるような法制度を整えることです。・・・クーリングオフ制度を利用された企業のリストをきちんと作るようにすれば、その人が朝起きられないというような理由で離職したのか、いわゆるブラック企業だったので離職したのかが分かるので、採用企業側の不安を取り除くことにもあります。そのデータをマージする機関を設けて、求人をとる側もその情報をちゃんと仕入れておくのが理想でしょう。ある会社に対し何件クーリングオフが出たかという情報が集積されれば、職探しをする上で非常に重要な情報となるわけです。・・・

ちなみに仁平さんの居酒屋談義は、ニヘイという偽物が仁平さんと訳の分からない会話をした挙げ句に津に連載終了に至ったようです。

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労使関係の二元性

一時、ブラック企業の右代表とまで叩かれたワタミに労働組合ができたと報じられています。

http://www.asahi.com/articles/ASJ6J4WTSJ6JULFA016.html(ワタミに初の労働組合 「ブラック」批判受け)

Proxy_2 居酒屋チェーン大手のワタミで初めて労働組合が結成された。グループの正社員約2千人と、アルバイト約1万5千人の大半が入った。流通、繊維業界の労組を束ねるUAゼンセンが支援し、1月から結成の動きが進んでいた。ワタミによると、1984年の創業以来、企業別労組はなかったという。

5月16日、労組「ワタミメンバーズアライアンス」(組合員数約1万3千人)が結成され、入社すると同労組に加入することになる「ユニオンショップ協定」を労使で結んだ。

やはりUAゼンセンです。UAゼンセンの組織化戦略については、二宮誠さんの本や講演の紹介で本ブログでも何回か取り上げてきましたが、今回のワタミ組織化も、二宮さんの後輩による二宮流なのでしょう。

ワタミ側としては、労組否定の経営家族主義から、普通の労使協調主義へ変わらざるを得なかったということでもあります。

同社の経営陣はこれまで、「社員は家族だ」といった経営理念から労組に否定的だったが、長時間労働などで「ブラック企業」と批判され、業績も悪化。労務管理を見直してきた。

逆に言うと、ブラック企業の矛盾や問題点を糾弾するだけの前衛的運動では、そこで働く労働者をまるごと抱えるだけの受け皿にはなりにくいということでもありましょう。

UAゼンセンの強い産別指導下の企業別労使協調主義というのは、日本の労働運動が抱える危ういバランスを何とかうまくとるための、一つの知恵の姿なのだろうと思われます。つまり、日本の労働者にとっては、一方に経営目標に向けた親和、協力の従業員関係があり、他方に労働条件をめぐって利害対立の労働者対使用者の関係があり、その二つが絡み合って曖昧模糊たる状態で存在している中で、どちらかに傾きすぎると問題が生じてしまうのです。

この問題については、実はもうすぐ出る『月刊労委労協』6月号に寄稿した「集団的労使関係を考える」の中で、1963年に出た藤林敬三氏の『労使関係と労使協議制』(ダイヤモンド社)を引きながらいろいろと考察しているところです。

(追記)

ワタミの組合については、平壌じゃない『労働新聞』6月20日号にかなり詳しい記事が載っています。

初代委員長は亀本伸彦氏で、結成日は今年1月17日、5月16日はUAゼンセンが「躍進大会」と呼ぶ結成大会を横浜で開いた日ということです。

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2016年6月16日 (木)

『非正規労働者の組織化と労働組合機能に関する研究』

MaeuraJILPTの資料シリーズ No.174『非正規労働者の組織化と労働組合機能に関する研究』が公開されました。まとめたのは前浦穂高さんです。

http://www.jil.go.jp/institute/siryo/2016/174.html

非正規労働者を組織化した労働組合が、組織化後に、非正規労働者に対して、どのような取り組みを行うのかを明らかにする。

調べたのは下記8組合ですが、

0174


主な事実発見は以下の通り。

第1に、非正規労働者の雇用の確保である。日本の労働組合は、組合員の雇用の確保を最優先してきた。非正規労働者を組織化すると、その機能が非正規労働者にも発揮される。ある組合は、パートタイマー組合員に対しても、事業所閉鎖の際の手続きを定め、労使で雇用を確保するために取り組むことになっている。ある組合は、会社から事業所閉鎖の提案を受けた際、労使で1,000人を超える組合員の個人面談を行い、出来る限り、組合員の希望に沿う形で雇用を守った。

第2に、処遇改善である。労働組合は、非正規労働者を組織化すると、非正規労働者の処遇改善に取り組む。その内容は、賃金制度の整備、賃上げ、福利厚生の適用等、多岐にわたる。

第3に、組織化活動の波及である。これは、グループ企業の労働組合に見られることであるが、グループ内の組合が非正規労働者の組織化に取り組むと、その経験がグループ内の他の組合に共有され、組織化活動がグループ内に波及していく。

前浦さんの考える政策的インプリケーションは次の通りで、現下の政治状況等を考えるとなかなか時宜に適していると言えましょう。

本稿では、均衡処遇が実現された状態を、「従業員区分間の処遇格差に対して、それぞれの従業員区分の労働者が概ね納得している状態」と考える。この定義に即して考えると、本稿で取り上げた労働組合は、全てではないが、非正規労働者の不満に耳を傾け、処遇改善に取り組む中で、本稿のいう均衡処遇を実現すると考えられる。

本稿のいう均衡処遇を実現するには、非正規労働者が組合運営に関与し、賃金制度を公開すること(組合内で賃金制度に関する情報を共有すること)が必要であり、その結果として、両者の賃金制度が接近していくことで、労働者の納得が得られるものと考えられる。

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「年功賃金制度と非定年延長型継続雇用政策の選択」@『エルダー』2016年6月号

Elder 『エルダー』2016年6月号に「年功賃金制度と非定年延長型継続雇用政策の選択」を寄稿しました。

http://www.jeed.or.jp/elderly/data/elder/book/elder_201606/index.html#page=1

 前回述べたように、内部労働市場型高齢者雇用政策の歴史は、一定程度重なり合いつつ、55歳から60歳への「定年延長」が中心であった時代と、60歳から65歳までの「継続雇用」が中心であった時代からなります。なぜ60歳を超えると定年延長ではなく継続雇用が中心になるのか、その背景にあるのはいうまでもなく日本型雇用システムの中軸の一つである年功賃金制です。「60歳時点の高くなりすぎた賃金水準でそれからさらに5年も雇い続けるのは無理だろう」と関係者が考えているから、いったん雇用関係を終了させ、それまでの労働条件を精算したうえで、労働と報酬のバランスがとれていると思われる水準で再雇用する、というのが通例になっているわけです。

 もっとも、法律上の規定では2000年改正以後は定年引上げ、継続雇用、定年廃止の三択となっているのですが、定年延長を強制せずに継続雇用でも可としているところが重要です。しかし考えてみると、それと同じ論理は55歳から60歳までのところでもありえたはずです。なぜそちらでは同じような選択制にしなかったのでしょうか。なぜ60歳までは定年延長でなければならず、定年後再雇用ではいけなかったのでしょうか。

 いろいろな説明の仕方があると思いますが、一番大きな要因はその時代時代の雇用政策思想ではないかと思われます。実はそもそも、1960年代までの日本政府は「職業能力と職種に基づく近代的労働市場の形成」を目標に掲げ、外部労働市場型の政策を打ち出していました。終身雇用、年功序列といった日本型システムに対してはかなり否定的なスタンスであったのです。それゆえ1960年代の中高年対策は職種別中高年雇用率制度が中心でした。

 1970年代は雇用政策が外部志向から内部志向に大きく転換した時期ですが、その重要な柱の一つが定年延長政策でした。とりわけ1972(昭和47)、1973年にはいくつもの研究会から定年延長を推進すべきという報告書が出され、雇用対策法に定年引上げを目ざすという宣言規定が盛り込まれ、第2次雇用対策基本計画には計画期間中に60歳を目標に定年を延長すると書き込まれました。ただ、定年延長が内部労働市場政策であることは間違いありませんが、その細かな施策を見ていくと、それまでの日本型雇用慣行見直し論が引き続き濃厚に持続しているのです。とりわけ賃金研究会報告は、「高年齢になってまで勤続年数が伸びたことのみを理由として賃金を増加させる必要は疑問」であり、「少なくとも、現在の定年年齢である55歳を過ぎてまで持続する必要はない」と断言していました。つまり、雇用維持型政策に移行しつつも年功賃金見直し政策は堅持されていましたし、第2次雇用対策基本計画でも年功序列型賃金制度等の見直しが掲げられていました。この頃の定年延長指導でも賃金制度の見直しに重点が置かれていました。

 このように年功賃金制に否定的な姿勢を前提とすると、年功賃金制を維持するために必要となる(定年延長ではない)継続雇用に対して顧慮する必然性がそれだけ乏しくなります。実態としても、1973年の雇用管理調査では55歳定年企業が52%と半数を超えるなかでも、再雇用・勤務延長などのある企業が8割を超えており、前回最後に論じたような「希望者全員60歳まで継続雇用せよ、ただし定年は55歳でよい」という奇妙なロジックを持ち出すよりは、賃金制度を改革して60歳定年を目ざすというのが筋だったのでしょう。

 こうして定年延長指導が進められ、1986年法により60歳以上定年が努力義務となり、1994年改正で義務化されると、その後の内部労働市場政策は継続雇用中心となっていきます。もちろんそのかなり以前から、例えば1976年の第3次雇用対策基本計画では、60歳までは定年延長、その先65歳までは再雇用・勤務延長・再就職という割当をしていました。しかしこれは、当面喫緊の課題と、まだまだだいぶ先の課題とで書き分けていると理解すべきでしょう。この時期の発想を単純に延長していけば、やがて60歳定年が完全に普及した暁には、今度は同じように65歳定年が課題に浮上してくることもあり得たはずです。

 しかし、日本の雇用政策の思想的転換は1970年代から1980年代、そして1990年代初頭に向けて、ますます日本型雇用礼賛の色彩を強め、それまで否定的であった年功賃金制に対しても必ずしも否定的ではない姿勢が色濃く出てきます。興味深いのは、65歳までの継続雇用の努力義務を規定した1994年改正と同時に、雇用保険法に高年齢雇用継続給付が設けられ、60歳以降の継続雇用が大幅に賃金ダウンすることを当然の前提として、その相当部分を補填(ほてん)するという政策が採られたことです。もちろん、当時の政策目的は未だ努力義務にすぎない継続雇用の促進にあったわけですが、それが2004年に(労使協定による例外つきで)義務化され、2012年にはほぼ完全に義務化されたにもかかわらず、現在なお存続し、利用され続けています。雇用政策思想の主流は20年前から外部労働市場志向の色彩が強まってきていますが、この分野ではなお年功制を前提とする政策が色濃く残っているのです。

 正確にいえば、過去20年間の高齢者雇用政策は継続雇用と(入口における)年齢差別禁止がらせん状に絡み合いつつ進展してきました。後者については改めて取り上げる予定ですが、時代精神を強く表現する政策であることはたしかです。これに対して、定年・継続雇用は、内部労働市場志向の政策ではありますが、出口における年齢差別禁止ととらえることもできます。むしろ欧米ではそういうとらえ方が一般的です。前回述べたように、定年とは年齢のみを理由とする雇用終了制度なのですから、その規制は年齢差別禁止のはずです。しかし、とりわけ政策の主力が定年延長から非定年延長型継続雇用にシフトして以降は、それは定年という名の非雇用終了年齢における労働条件の精算を認めるという性格が中心となり、その意味では年齢による取扱いの違いを正面から認めるというメッセージを発するものになっているということもできます。皮肉ないい方ですが、年齢差別を推進することで年齢差別をなくそうとする政策です。

 今後、65歳を超える高齢層の雇用問題が課題に上がってくるなかで、改めて年功制を大前提にした継続雇用政策のさらなる延長でよいのか、という論点を避けることはできないでしょう。その際には、半世紀以上前に遡(さかのぼ)って考え方の整理をする必要があることは間違いありません。

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2016年6月15日 (水)

『季刊労働法』2016年夏号

Neobk1964376 『季刊労働法』2016年夏号が届きました。既に目次は本ブログで紹介していますが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2016/06/post-23c8.html (学生の就労をめぐる法的課題@『季刊労働法』夏号)

改めて特集記事をみると、

ブラックバイトはなぜ辞められないのか?―ブラックバイトユニオンの実践を通じた考察 ブラックバイトユニオン共同代表 渡辺寛人

大学生の在学中の就労における法的課題 熊本大学法科大学院教授 紺屋博昭

就職活動段階における労働問題 弁護士 佐々木 亮

労働者に対する労働法教育の限界とそれへの対応―使用者側の視点から 弁護士 和田一郎

学生の就労をめぐる労働行政の役割 ILO駐日代表 田口晶子

『ブラックバイト対処マニュアル』を監修して 早稲田大学教授 石田 眞 早稲田大学教授 竹内 寿

既に今野さんや大内さんの本を読んでいる人にとっては、れっきとした労働法学者がこの問題に正面から取っ組んだ紺屋さんの論文が注目でしょう。

全体としていささかエッセイ風の記述の中で、結構大胆な台詞が次々に繰り出されていきます。心のある方は是非。

ここでは最後から二つ目のパラグラフから・・・

・・・労働法教育に期待がまだあるのなら、大学で新科目「バイト入門法」「バイト実態法」を構想し学生らに提供してみようと思う。階段教室は避け、ラウンドテーブルでの対話式授業がいい。もちろん社会人学生や留学生も交えて。「職場紛争調整法」「契約修復法特論」の科目開講も検討しよう。「二部学生論」のセミナーを大学内外で開くのも面白いだろう。

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2016年6月14日 (火)

柴田悠『子育て支援が日本を救う』

227459 柴田悠さんの『子育て支援が日本を救う』(勁草書房)をお送りいただきました。ありがとうございます。本ブログでも何回か取り上げてきた柴田さんの本格的な著作です。

http://www.keisoshobo.co.jp/book/b227459.html

安倍内閣発足時から『文藝春秋』やNHKスペシャルで「子育て支援こそが最優先」と訴えてきた著者がそのエビデンスの最終版を公開。

いや、安倍内閣発足時どころかもっと以前から論陣を張ってこられています、ただ、派手好きなマスコミに余り注目されてこなかっただけで。

いま日本に一番効く政策は何か。それは保育サービスを中心とした「子育て支援」だ。短期的には労働生産性・経済成長率・出生率を高め、子どもの貧困を減らすことができる。また長期的には、財政的な余裕を増やし、貧困の親子間連鎖を減らし、社会保障の投資効果を高めるのだ。客観的なデータに基づく、統計分析から提言される政策論!

そう、柴田さんは徹底的にデータに基づいて論じます。なので、一言スローガンがお好みのマスコミでは使いにくい面があるのでしょう(それこそ、オビで推薦している古市さんとかが使いやすい)。

でも、ある政策がどういう効果を持ちうるのかを徹底的に客観的なデータで語り通す柴田さんのような論客も必要なはずです。特に今のような、ポピュリズムが猛威をふるう情治社会になればなるだけ。

目次は下にコピペしたとおりですが、素人はこの順番で読まない方が良いよ、と柴田さん自身が「はじめに」で老婆心で忠告しています。

まずは、エッセンスのエッセンスをまとめた「あとがき」から。そしてその直前の第11章「結論」。その上で、第1章「本書の問いと答え」を読んで全体像を把握する。そして第10章で財源確保策を、第9章で政策効果を見て、第3章から第8章までの分野ごとの分析を通読し、最後に第2章で統計分析の方法を確認する、と。

ここでは第11章『結論──子育て支援が日本を救う』で、ちょっと政治的な話に踏み込んでいるかに見える記述をちょっと。下の目次にあるように。ここで「右派(保守)と左派(リベラル)の合意点」というちょっと気になる表現をしています。

これは、子育て支援が右派と左派の両方の合意できる政策だといっているんですが、その分をちょっと引用しておくと、

・・・したがって、これらの改革案は、労働生産性の上昇や経済成長や財政再建を求める「(いわゆる)保守」(右派)にとっても、子供や困窮者の人権保障を求める「(いわゆる)リベラル」(左派)にとっても、望ましい選択肢と言えるのではないだろうか。つまり、「保守」と「リベラル」の合意点として、「保育サービス・児童手当・起業支援・小規模ミックス財源」、あるいは少なくとも「保育サービス・小規模ミックス財源」という選択肢は、今後の日本で中心的な政策になり得ると予想できる。

「保育サービス」という旗の下であれば、保守とリベラルは協調することができる。そうすれば、日本の社会構造(女性の労働力率の低さなど)は根本的にバージョンアップされて、生産性が向上し、日本は救われるのである。つまり、保育サービスを中心とした「子育て支援」こそが、日本を救うのだ。

いやあ、ここは柴田さんの国を思う心がふつふつと伝わってきますが、とはいえ、「保守」も「リベラル」もこの日本ではねじれにねじれていますから、そう問屋がうまく下ろしてくれるかどうかはわかりません。昨今の状況を見ても、日本人の民度の低さは底知れないものがありますからね。

いやまあ、せっかくの柴田さんの本の紹介のエントリでつまらないことをぐたぐた言ってもいけませんね。

なんにせよ、本書に書かれたようなことを読まずしてあれこれ論じる人を見かけたら、そっとバッテンをつけて立ち去るのが吉というものでしょう。

ちなみに、版元のサイトに「あとがき」が公開されています。エッセンスのエッセンスが書かれたこの5ページ足らずの文章をまずはここで読んでください。

http://keisobiblio.com/wp/wp-content/uploads/2016/06/kosodateshien_atogaki.pdf

はじめに

第1章 本書の問いと答え──子育て支援が日本を救う

 1・1 労働生産性を高め財政を健全化させる政策──保育サービス・労働時間短縮・起業支援など

 1・2 自殺を減らす政策──職業訓練・結婚支援・保育サービスなど

 1・3 子どもの貧困を減らす政策──児童手当・保育サービス・ワークシェアリング

 1・4 財源確保の方法──相続税拡大・資産税累進化など

 1・5 日本の「現役世代向け社会保障」が乏しい背景──人口構造・民主主義・宗教

 1・6 「選択」は「歴史」をのりこえる

第2章 使用データと分析方法

 2・1 使用データの概要

 2・2 分析方法──経済成長の研究から学ぶ

 2・3 経済成長とは何か

 2・4 経済成長率の先行研究

 2・5 説明変数と被説明変数

 2・6 最小二乗法推定(OLS推定)

 2・7 パネルデータ分析でのOLS推定──動学的推定と一階階差推定

 2・8 「逆の因果」の除去──操作変数推定

 2・9 すべてを兼ね備えた一階階差GMM推定

 2・10 一階階差GMM推定の手続き

 2・11 実際上の留意点

 2・12 使用データについての留意点

第3章 財政を健全化させる要因──労働生産性の向上

 3・1 背景──財政難という問題

 3・2 仮説

 3・3 データと方法

 3・4 結果

 3・5 結論

第4章 労働生産性を高める政策──女性就労支援・保育サービス・労働時間短縮・起業支援など

 4・1 背景──「労働生産性の向上」は財政健全化をもたらす

 4・2 仮説

 4・3 データと方法

 4・4 結果

 4・5 結論

第5章 女性の労働参加を促す政策──保育サービス・産休育休・公教育

 5・1 背景──「女性の労働参加」は「社会の労働生産性」を高める

 5・2 先行研究で残された課題

 5・3 仮説

 5・4 データと方法

 5・5 結果

 5・6 結論

第6章 出生率を高める政策──保育サービス

 6・1 背景──「出生率の上昇」は財政健全化をもたらす

 6・2 先行研究で残された課題

 6・3 仮説

 6・4 データと方法

 6・5 結果

 6・6 結論

第7章 自殺を減らす政策──職業訓練・結婚支援・女性就労支援・雇用奨励

 7・1 背景─自殺率という問題

 7・2 先行研究で残された課題

 7・3 仮説

 7・4 データと方法

 7・5 結果

 7・6 結論

第8章 子どもの貧困を減らす政策──児童手当・保育サービス・ワークシェアリング

 8・1 背景──子どもの貧困という問題

 8・2 仮説

 8・3 データと方法

 8・4 結果

 8・5 結論

第9章 政策効果の予測値

 9・1 予測値の計算方法

 9・2 OECD平均まで拡充する場合の予算規模と波及効果

 9・3 待機児童解消に必要な予算規模

 9・4 その場合の波及効果

 9・5 他の目標のための予算規模

 9・6 結論─現実的な目標設定と予算規模

第10章 財源はどうするのか──税制のベストミックス

 10・1 行政コストの削減には限界がある

 10・2 財政方式をどうするか

 10・3 個人所得税・社会保険料の累進化

 10・4 年金課税の累進化

 10・5 被扶養配偶者優遇制度の限定

 10・6 消費税の増税

 10・7 資産税の累進化

 10・8 相続税の拡大

 10・9 相続税拡大だけならベルギーの1・2倍

 10・10 小規模ミックス財源

 10・11 最小限の改革──潜在的待機児童80万人の解消

第11章 結論──子育て支援が日本を救う

 11・1 右派(保守)と左派(リベラル)の合意点

 11・2 残された課題

あとがき

参考文献

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人事は日本型雇用を守りたいのか@『Works』No.136

W136_0 リクルートワークス研究所から『Works』No.136 をお送りいただきました。丸ごと同研究所のサイトにアップされています。

http://www.works-i.com/publication/works/backnumber/w_136

前に132号で「シリーズ雇用再興」の第1弾目「日本型雇用によって失われたもの」では、わたくしも登場しておりますが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2015/10/works132-ae94.html (リクルート『Works』132号は日本型雇用特集)

今回は架空の人事リーダーとWorks編集部、有識者の対話で進行するという設定で、「気鋭の労働法学者」として登場するのは大内伸哉さんです。

そのまとめで、編集長の石原直子さんが語っている言葉はなかなか重いものがあります。

本誌132号の「シリーズ雇用再興」第1回から第2回の今号まで8カ月。その間にも日本を代表する大企業による不正やそれに端を発した組織再編のニュースは、続々と流れてきた。そのなかで不正にかかわってしまった人々のことを思う。おそらくほとんどの人は、私利私欲のためではなく「会社を守る」ために動いていたはずだ。だが、「会社」のためにやってきたことは、「社会」からは到底許されないことであったし、結果として会社を傷つけることになった。また、自らも傷つき、大きな代償を支払った人も少なくないだろう。

「企業は社会の公器」と言われるにもかかわらず、「会社を想う」ことと「社会を想う」ことがこんなにも両立しないのはなぜなのか。ここでも、会社と個人をあまりにも分かちがたく結びつけてしまう日本型雇用というシステムのなかで、何かが歪められていると感じずにはいられない。

このシリーズはまだ続けるようで、

・・・シリーズの第3回では、改めて、雇用の安定に代わるライフセキュリティの可能性を、探索する。

だそうです。

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ドーピング規制是正を@UNI

国際的なサービス関係労働組合の連合体であるUNIのアスリート部門が、例のシャラポワ問題に絡んで、ドーピング規制の在り方の見直しを要求しています。

まずは日本の連合通信の短信。

http://www.rengo-news-agency.com/(海外労働短信-ドーピング規制是正を-労働団体uniが提起)

ロシアのプロテニス選手、シャラポワ氏がドーピング違反で2年間の出場停止処分を受けたことについて、労働組合のUNIは「現行システムに問題があり、早急に是正すべきだ」と問題提起している。

UNIは、サービス業や金融、郵便など幅広い産業の労働組合でつくる国際労働団体。その中に「アスリート部門」があり、その代表を務めるブレンダン・シュワブ氏が6月10日にテレビ取材を受けて、思いを語った。

それによると、現行のドーピングルールは、うっかり抵触してしまった選手には重すぎると指摘。どの薬がドーピング対象になったのかを選手に知らせるための包括的な仕組みが欠けているとし、スポーツ界と選手はもっと協力してシステム是正に乗り出すべきだと訴えている。

そのUNIグローバルユニオンのサイトに見に行ってみると、

http://www.uniglobalunion.org/news/sharapova-ban-athletes-are-not-being-properly-warned-when-drugs-become-banned

RtsgoeiIn an interview with Australian broadcaster ABC, Head of UNI World Athletes Brendan Schwab called for a greater focus on the prevention of doping violations, rather than the current emphasis on deterrence and punishment, even at the expense of athletes who are not cheats but inadvertently breach anti-doping regulations.

UNI World Athletes has well known concerns about the ineffectiveness of current anti-doping regulation and its disproportionate treatment of athletes. Schwab has called for the current system, which places an absolute onus on the athlete, to be replaced by one where sports and player associations work in partnership to prevent doping.・・・

とあります。スポーツ選手も労働者の一環として、しっかり守るべき権利は守ろうとする労働組合の考え方が分かります。

ちなみに、このUNIグローバルユニオン、「サービス関係」と言いましたが、このサイトに上がっている業種別部会の広がりはまことに幅広く、日本のUAゼンセンをも遥かに上回る貪欲さです。

Cleaning / Security(清掃・警備)
Commerce(商業)
Finance(金融)
Gaming(ゲーム)
Graphical & Packaging(グラフィック・パッケージ)
Hair & Beauty(理容・美容)
ICTS(情報通信)
Media - Entertainment & Arts(メディア・エンタメ・芸術)
Post & Logistics(郵便・運輸)
Temp & Agency Workers(人材派遣)
Tourism(旅行)
UNI World Athletes(スポーツ)
UNICARE(医療介護)

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2016年6月13日 (月)

「BG]から「OL」へ

Img_752f5d874047328e26f434ce08fbda5「田園都市の風景から」というブログで、拙著『働く女子の運命』が取り上げられているのですが、

http://blog.goo.ne.jp/ken77ako/e/995e3cbf17c28596906709f8db8ebde9(「BG]から「OL」へ・・・記憶の彼方から)

今でこそ男女共同参画社会の実現が目標となり、雇用面でも男女雇用機会均等法が施行されているが、少し前までは女性は労働力の主要な担い手とは考えられていなかった。

明治以降の日本で、長いあいだ女性は短期雇用が当然とされていた。我が国の特徴とされていた終身雇用制度は、家計を支えている男性を前提にしている。女性が社会で働くことは、昔は修養としての意味もあり、結婚すれば退職するのが一般的であった。

「職場の花」や「寿退社」という言葉が普通に用いられていた。この仕組みは我が国の社会構造や家族制度に深く根ざしており、変化してきているとはいっても、いまでも女性が定年まで男性と同様のキャリア形成を図ることは簡単ではない。

本書はこうした観点から女性の労働について考察している。私のようなリタイア組よりも、今働いている人びとに読んでもらいたい本である。

と、ここまでは普通の書評なんですが、このあと若干モードが変わります。

それはそれとして、本書の中で或るエピソードが語られており、遠い記憶の彼方にあった疑問が氷解した。

「遠い記憶の彼方」・・・。実はこのブログ主さん、「団塊の世代として昭和・平成を生きてきました」と自己紹介しておられます。その世代の方の「遠い記憶の彼方」とは?

私がまだ青年期に差し掛かる前の話である。新聞や雑誌等のマスコミでは、女性会社員のことを「BG」と呼んでいた。ビジネスマンに対するビジネスガールである。私は、実社会では洒落た呼び方をするものだと納得していた。

それがある時期から一斉に「BG」という言葉が消え、「OL」という用語が出て来た。最初は意味が分からず、記事の前後関係で「BG」と同じことだと理解した。オフィスレディの略語だと知ったのは、しばらく後になってからである。

当時、私はどうして「BG」が使用されなくなったのか不思議であった。ささやかな私の疑問は時間が経つにつれて風化していき、「OL」という言葉を当然のごとく受け入れていった。

その疑問が本書で解けたのである。

自分で書きながら、こんなトリビア、誰が面白がるかな?といささか不安もあったトピックですが、団塊の世代の読者の方には見事にツボにはまったようです。

ただ、つい書き加えた一言が余計だったようです。

本書を読んで偶然にも答えが見つかり、すっきりとした気持ちになった。しかしこのエピソードには、『よほどの高齢者でなければ今どき「BG」なんて言葉を知っている人はいないでしょう』という文が続いている。

何だか化石になったような気分で面白くない。

配慮が足りずに、まことに申し訳ありません。

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偽装求人への罰則@WEB労政時報

WEB労政時報に「偽装求人への罰則」を寄稿しました。

https://www.rosei.jp/readers-taiken/hr/article.php?entry_no=542

去る6月3日、厚生労働省の「雇用仲介事業等の在り方に関する検討会」が報告書をまとめたと報じられています。この検討会はもともと規制改革会議の求めに応じて、有料職業紹介事業を初めとする人材ビジネスの規制緩和を主たる関心事項として発足したもので、その報告書の大部分は規制緩和に充てられています。これに係る動向については、本連載の第44回「雇用仲介事業の規制改革」(2015年1月13日)に略述しました。

 しかしながら、3日の報告書についての翌4日のマスコミ各紙の記事は、日本経済新聞が「職業紹介3社提携容認」と規制緩和事項を見出しにした以外は、「虚偽求人 罰則強化を検討」(朝日新聞)、「ハローワークにウソの求人情報、企業に罰則へ」(読売新聞)、「ブラック企業 懲役刑も」(産経新聞)、「ハローワークに虚偽求人 罰則を」(毎日新聞)など、いずれも偽装求人への罰則に焦点を当てた見出しとしていました。

 本文6ページになるこの報告書の中で、この問題に言及しているのはわずか3行ほどにすぎません。・・・・・

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日本型雇用と働く女子の運命@『Work&Life世界の労働』2016年第3号

Image1日本ILO協議会の機関誌『Work&Life世界の労働』2016年第3号に「日本型雇用と働く女子の運命」を寄稿しました。

女性の活躍を阻害する要因は何か?
雇用システムの違いがその原因
戦後経営秩序における女子
女房子供を養う賃金
日本型男女平等のねじれ
育休世代のジレンマで悶える職場
マタニティの罠

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2016年6月12日 (日)

《勞動者派遣法》總算成為一部普通法律

昨年11月5日に日本語版が公開され、

http://www.nippon.com/ja/currents/d00203/ (ようやく普通の法律になった労働者派遣法)

すぐに英語版が公開され、

http://www.nippon.com/en/currents/d00203/ (A Welcome Revision of the Worker Dispatch Act)

しばらくして今年2月にフランス語版が公開されたこの記事ですが、

http://www.nippon.com/fr/currents/d00203/ (L’opportunité de la révision de la Loi sur le travail temporaire)

はじめの公開から半年以上経って中国語版が公開されました。繁体字版(台湾、香港その他)と簡体字版(大陸中国)の二つがあります。

http://www.nippon.com/hk/currents/d00203/ (《勞動者派遣法》總算成為一部普通法律)

http://www.nippon.com/cn/currents/d00203/ (《劳动者派遣法》总算成为一部普通法律)

D00203_main 在全球範圍都顯得極其特殊的日本派遣法

在2015年例行國會上,修訂版勞動者派遣法總算獲得了通過,過去顯得極為特殊的日本勞動者派遣法總算成為了和其他已開發國家同類法律相當的一部普通法律。但這一路卻並不平坦。2014年3月向國會提交的法案和同年9月提交的法案都成為了廢棄提案,2015年3月提交的法案也因在野黨的強烈反對而導致審議工作一拖再拖,到了(為保證安全保障法案獲得通過而故意延長到的)9月才總算獲得了通過。可是,在野黨在國會上的主張和人們在大眾傳媒等管道中發表的關於派遣法的論調全都迴避了日本勞動者派遣法的本質問題,始終只是情緒化的論調。

雖然許多勞動法研究者隱約感覺到這一點,卻始終沒有大膽說破,說明迄今為止的日本勞動者派遣法在全球範圍都是極其特殊的一種機制。其他各個已開發國家的派遣法都是旨在保護派遣勞動者的勞動法。或許大家會覺得這是理所當然的事情,但日本的派遣法並非如此。這是一部為了抑制派遣這種本質上並不受歡迎的勞動方式而對勞動者派遣事業加以限制的事業性立法。問題在於派遣這種勞動方式對誰是不受歡迎的呢?・・・・

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公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で労働者派遣をした者は

こんなニュースが流れていますが、

http://www.sankei.com/affairs/news/160612/afr1606120006-n1.html  (大手AVプロ元社長逮捕 労働者派遣法違反容疑 女性「出演強要された」)

経営していた芸能事務所に所属していた女性を、実際の性行為を含むアダルトビデオ(AV)の撮影に派遣したとして、警視庁が11日、労働者派遣法違反容疑で、大手AVプロダクション「マークスジャパン」(東京都渋谷区)の40代の元社長ら同社の男3人を逮捕したことが、捜査関係者への取材で分かった。女性が「AV出演を強いられた」と警視庁に相談して発覚した。

最近話題のAV出演強要問題について、目に余ると考えたか、警察は労働者派遣法を適用するというやり方を取ってきたようです。

AvHaken_2 しかし、労働法学的にはいくつも論点が満載です。

まずもって、AVプロダクションがやっているのは労働者派遣なのか?AVプロダクションに「所属」しているのは、AVプロダクションが当該女優を「雇用」しているということなのか?

そういう判断はあり得ると思われますが、そうすると、今やっている全てのAVプロダクション、にとどまらず、多くの芸能プロダクションは届出もせず許可も受けずに業として労働者派遣をやっているということになりかねませんが、そういうことになるのかどうか?

後述の判決ではこの点は当然の前提として議論になっていません。

もっと重要なのは、この問題について強要の有無ではなく、当該出演内容たる性行為を「公衆道徳上有害な業務」と判断して適用してきたという点です。

労働者派遣法にはこういう条文があります。

第五十八条  公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で労働者派遣をした者は、一年以上十年以下の懲役又は二十万円以上三百万円以下の罰金に処する。

記事はこういう記述があり、

労働者派遣法は実際の行為を含むAVへの出演を「公衆道徳上有害な業務」として規制している。捜査当局が同法を適用して強制捜査に踏み切るのは異例。

実際、確かに、アダルトビデオ派遣事件判決(東京地判平成6年3月7日判例時報1530号144頁)では、こう述べています。

本件における派遣労働者の従事する業務内容についてみると、派遣労働者である女優は、アダルトビデオ映画の出演女優として、あてがわれた男優を相手に、被写体として性交あるいは口淫等の性戯の場面を露骨に演じ、その場面が撮影されるのを業務内容とするものである。右のような業務は、社会共同生活において守られるべき性道徳を著しく害するものというべきであり、ひいては、派遣労働者一般の福祉を害することになるから、右業務が、「公衆道徳上有害な業務」にあたることに疑いの余地はない。そして、労働者派遣法五八条の規定は、前述のように、労働者一般を保護することを目的とするものであるから、右業務に就くことについて個々の派遣労働者の希望ないし承諾があつたとしても、犯罪の成否に何ら影響がないというべきである。

弁護人は、性交ないし性戯自体は人間の根源的な欲求に根ざすものであるから「有害」でないと主張するけれども、性交あるいは口淫等の性戯を、派遣労働者がその業務の内容として、男優相手に被写体として行う場合と、愛し合う者同士が人目のないところで行う場合とを同一に論じることができないことは、明らかであり、この点の弁護人の主張もまた採用することができない。

たしかに「右業務に就くことについて個々の派遣労働者の希望ないし承諾があつたとしても、犯罪の成否に何ら影響がない」と言いきっていますが、ここは議論のあるべきところでしょう。

同判決は後段でさらに「たとえ雇用労働者が進んで希望した場合があつたにせよ、若い女性を有害業務に就かせ、継続的、営業的に不法な利益を稼ぎまくつていたことも窺われ、その犯情は極めて悪質で、厳しく咎められなければならない」とまでいっています。

この判決からすると、今回の警察の動きはそれに沿ったものということになりますが、そもそも出演「強要」を問題にしていた観点からすると、こういう解決の方向が適切であるのか否かも含めて議論のあるべきところでしょう。

(追記)

当該女性がAVプロダクションに雇用された労働者なのか、という点について、上記平成6年3月7日東京地裁判決では、被告側が争っていないので議論になっていないのですが、そこを争った事案はないかと探してみたら、こういうのがありました。平成2年9月27日東京地裁判決です。被告側が雇用関係不存在を主張したのを判決が否定しているところです。

・・・弁護人は、CはAが雇用する労働者ではないし、また、被告人がCをBの指揮命令のもとに同人のためモデルとして稼働させたことはないから、被告人の行為は労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(以下、「労働者派遣法」という)五八条にいう「労働者派遣」に該当しない旨主張する。

そこで検討するのに、前掲関係各証拠によれば、Aは、昭和六三年七月ころから事務所を設置して無許可でいわゆるモデルプロダクション「E」の経営を始め、同年九月ころ、Cに対しモデルになるよう勧誘し、Cはこれに応じたこと、そのころから平成元年一〇月ころまでの間、Aは、Cを本件のBのほか、いわゆるアダルトビデオ制作販売会社、SMクラブ、ストリップ劇場等に派遣したこと、Cに対する報酬は、いずれの場合も派遣先から直接同女には支払われず、A又はAと意思を通じたFから支払われ、その金額はAらが決定していたものであり、本件において、Aは、派遣料として取得した六万円のうち二万円をギャラとしてCに支払ったこと、AはCに対し仕事の連絡のため一日一回必ず電話するよう指示し、同女は右指示に従っていたことが認められ、以上の事実に照らせば、Cは、相当長期間にわたりAの指揮命令のもとにモデルとしての労働に服し、その対価として報酬を得ていたというべきであって、AとCとの間には労働者派遣法二条一号にいう雇用関係を認めることができる。

また、前掲関係各証拠によれば、Bは昭和五九年秋ころから多数のモデルの派遣を受けて、同女らとの性交及び性戯のビデオ撮影を反復継続してきたこと、本件において、Bは、右と同様のビデオ撮影の目的をもって被告人からCの派遣を受けたものである上、当日は、ビデオカメラ、モニターテレビ、照明器具等の備え付けられた判示の「D」(省略)号室内において、約六時間にわたりCとの性交、性戯等の場面をビデオ撮影していること、その間、CはBの指示に従い、同人を相手方とせず単独で被写体となって自慰等種々のわいせつなポーズをとっていたことも認められるから、CがBの指揮命令の下にモデルとして稼働したことは明らかである。

なお、弁護人は、CはBの性交又は性戯の相手方となったに過ぎないから、Cは労働に従事したとは言えない旨主張するが、前記事実関係に照らせば、BによるCのビデオ撮影は、同女がBの性交又は性戯の相手方となったことに付随するものにとどまるとは認められない。

以上のとおり、被告人の本件行為は労働者派遣法五八条にいう「労働者派遣」に該当するものと認められるから、弁護人の右主張は採用できない。

(追記2)

判例を調べていくと、プロダクションが雇用してビデオ製作会社に派遣するという労働者派遣形態としてではなく、プロダクションがビデオ製作会社に紹介して雇用させるという職業紹介形態として、やはり刑罰の対象と認めた事案があります。平成6年7月8日東京地裁判決ですが、

第一 被告人Y1及び同Y2は共謀のうえ、同Y2が、平成五年九月一七日ころ、東京都渋谷区(以下略)先路上において、アダルトビデオ映画の制作等を業とするC株式会社の監督Dに対し、同人らがアダルトビデオ映画を撮影するに際し、出演女優に男優を相手として性交性戯をさせることを知りながら、E’ことE(当時二一歳)をアダルトビデオ映画の女優として紹介して雇用させ

第二 被告人Y1及び同Y3は共謀のうえ、同Y3が、同月二八日ころ、東京都新宿区(以下略)F(省略)号室において、アダルトビデオ映画の制作等を業とする有限会社Gの監督Hに対し、同人らがアダルトビデオ映画を撮影するに際し、出演女優に男優を相手として性交性戯をさせることを知りながら、I’ことI(当時一八歳)をアダルトビデオ映画の女優として紹介して雇用させ

それぞれ、公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で職業紹介をした。

という事実認定のもとに、

一 本件の争点は、本件アダルトビデオ映画に女優として出演する業務が、職業安定法六三条二号にいう「公衆道徳上有害な業務」に該当するか否かである。

二 前掲各証拠によれば、本件アダルトビデオ映画への出演業務は、制作会社の派遣する不特定の男優を相手に性交あるいは口淫、手淫などの性戯を行い、これを撮影させて金銭を得るものであると認められる。ところで、本来、性行為は、その相手の選択も含めて個人の自由意思に基づく愛情の発露としてなされるものである。しかるに、本件のように、女優が不特定の男優と性交渉をし、それを撮影させて報酬を得るということは、女優個人の人格ないし情操に悪影響を与えるとともに、現代社会における一般の倫理観念に抵触し、社会の善良な風俗を害するものであるから、これが職業安定法六三条二号にいう「公衆道徳上有害な業務」に該当することは明らかである。

三 右の点につき、弁護人は、男女の性器を隠すなどの修正を加え、自主的倫理審査委員会の審査を経たうえで市販されるアダルトビデオ映画は、今日の日本社会においては社会的風俗として受容されており、それに出演する業務についても一定の社会的な受容があるから、右業務は右法条にいう「公衆道徳上有害な業務」に該当しない旨主張する。

  しかしながら、右のような修正及び審査を経て市販されるアダルトビデオ映画が社会的風俗として受容されているか否かと、その制作過程の出演業務が公衆道徳上有害であるか否かとは別個の問題であり、たとえ、右のようなアダルトビデオ映画に一定の社会的受容があるとしても、前述した本件のごとき内容のアダルトビデオ映画への出演業務は、「公衆道徳上有害な業務」に該当するというべきである。

  また、弁護人は、右法条は売春またはそれに準ずる程度に著しく社会の道徳に反し、善良な風俗を害する業務に限定して適用すべきであると主張するが、前記のとおり、本件アダルトビデオ映画への出演業務が「公衆道徳上有害な業務」に該当することは明らかであり、弁護人の主張は理由がない。

と判示しています。

ご承知のように、労働者派遣法58条はもともと職業安定法63条2号からきています。

第六十三条    次の各号のいずれかに該当する者は、これを一年以上十年以下の懲役又は二十万円以上三百万円以下の罰金に処する。

一   暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によつて、職業紹介、労働者の募集若しくは労働者の供給を行つた者又はこれらに従事した者

二   公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で、職業紹介、労働者の募集若しくは労働者の供給を行つた者又はこれらに従事した者

こちらは「暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によつて」というのがあるのですが、派遣法にはないのですね。

ただいずれにせよ、プロダクションのアダルトビデオ出演を募集/紹介/供給/派遣する行為は、法的形態がどれであるにせよ、「公衆道徳上有害な業務に就かせる目的」であるというのは、地裁レベルとはいえほぼ確立した判例になっているようです。

(追記3)

ちなみに、上記職業安定法63条2号には「募集」も含まれます。判例には、ビデオ制作メーカーがこの「公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で」「労働者の募集」をしたとして有罪になった事案もあります。東京地判平成8年11月26日(判例タイムズ942号261頁)は、

被告人は、わいせつビデオ映画の制作販売業を営んでいたものであるが、わいせつビデオ映画制作の際に女優として自慰等の性戯をさせる目的で、平成七年一二月二〇日ころ、東京都渋谷区代々木〈番地略〉○○ビル二階の被告人の事務所において、B子(当時一五歳)と面接し、同女に対し、「セックス場面は撮らないで、入浴シーンやオナニーシーンを中心に撮る。」「出演料はいくら欲しいの。」「顔や人物がわかる部分はあまり撮らないし、入浴シーンなどで変な部分が写ったらボカシを入れる。三万円欲しければ三万円なりの内容でいく。五万円欲しければ五万円の内容でいく。親や友達には絶対分からないようにするから安心しなさい。」などと申し向け、自己の制作するわいせつビデオの女優として稼働することを説得勧誘し、もって、公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で労働者を募集した。

という事案について、

被告人は、前示犯罪事実につき、B子と面接した際、同女を全裸にせずに下着を着けさせてビデオを撮影するつもりであったから公衆道徳上有害な業務に就かせる目的はなかったと主張する。右主張は、B子の供述内容に反するばかりでなく、被告人自身がその後に実際にB子を全裸にして撮影していることに照らしても疑わしいところであるが、仮に、当初は被告人が主張するような意図であったとしても、本件のように心身の発達途上にある一五歳の女子中学生が自慰などをし、その場面を撮影させて報酬を得るということは、当該女子の人格や情操に悪影響を与えるとともに、現代社会における善良な風俗を害するものであるから、このような業務が職業安定法六三条二号にいう「公衆道徳上有害な業務」に該当することは明らかである。したがって、いずれにせよ、被告人の主張は理由がない。

と判示しています。もっとも、同判例は、芸能プロダクションから紹介された別の女性については「募集」に当たらないとして無罪としています。

このように、派遣でも紹介でも、さらには直接募集でも「公衆道徳上有害な業務に就かせる目的」であれば刑罰の対象となるのです。

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2016年6月11日 (土)

ユニオンサマーセミナー アメリカ、韓国、日本

ユニオンサマーセミナーというのが8月に2回に分けて開かれます。わたしも2回目の方に出てお話をします。

http://www.seinen-u.org/2016.08.06-20%20union.summer.seminar.pdf

ユニオンサマーセミナー(8月6日・20日開催)

会場:東京都豊島区南大塚2丁目33番10号 東京労働会館 ラパスホール

2016年8月6日(土) 13時~16時

講演:「社会連帯‐アメリカの労働運動・社会運動の挑戦」

講師:労働政策研究・研究機構 主任調査員 山崎 憲氏

アメリカ労働運動が、どのように従来のビジネスユニオニズム(企業内での団体交渉による労働者の処遇改善のみに重きを置く考え方)から転換を図って、企業の外へ足を出し、市民団体等との共闘がどの程度前進が図られたのか、またそこから日本が学ぶべきポイントとは何か(その後特別報告&山崎氏と参加者とのディスカッション)

2016年8月20日(土)13時~16時

講演1「韓国・真の産業別組織への挑戦と非正規労働者の粗視化について」

講師:労働政策研究・研修機構 主任研究員 呉 学殊氏

企業別組合の克服へ果敢に挑戦し、産別協約の実現や非正規職保護関連法など法制度の意義など、韓国労働運動について話をしていただきます。

講演2:「日本型雇用システムの特徴‐働く男子と女子の運命」

講師:労働政策研究・研修機構 統括研究員 濱口 桂一郎氏

最近では「働く女子の運命」(文春新書)などを出され、ご活躍されている濱口氏。縦横無尽に日本型雇用システムの特徴と”これから、特に労働組合に期待する事”を話して貰う予定です。(その後、呉氏、濱口氏&参加者でのディスカッション)

JILPTの山崎憲さんがアメリカ、呉学殊さんが韓国、そして私が日本についてお話しするという企画のようです。

Union

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2016年6月10日 (金)

畠中信夫『労働安全衛生法のはなし〔第3版〕』

Hatakenaka_2 畠中信夫さんの『労働安全衛生法のはなし〔第3版〕』(中央労働災害防止協会)をおおくりいただきました。ありがとうございます。

http://www.jisha.or.jp/order/tosho/index.php?mode=detail&goods_cd=25840

労働安全衛生法立法の実務の中核的役割を果たした著者が、難解といわれる同法を理解しやすいよう、歴史的背景を含め、体系的に、分かりやすく書き下ろした解説書。安全衛生を担当する者が理解しなければならない内容を精選。第3版では、ストレスチェック制度の創設、化学物質のリスクアセスメント制度の充実等、法令改正に対応するとともに内容の充実も図る、全面的な見直しを行った。

この本も改訂のたびにどんどん太っていく本で、ついに400ページを超えてしまいました。

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西谷敏『労働法の基礎構造』

27817752_1西谷敏さんの『労働法の基礎構造』(法律文化社)をいただきました。ありがとうございます。先の日本労働法学会で記念講演をされた西谷さんの到達点を示す大著です。

http://www.hou-bun.com/cgi-bin/search/detail.cgi?c=ISBN978-4-589-03776-3

戦後労働法学の第二世代を理論的に牽引してきた著者の労働法基礎理論の集大成。労働法の形成から現代までを再考し、将来を見透した深い思索の書。労働法理論を再定位しようとする著者渾身のオリジナル・モノグラフィー。

目次は次の通りで、基礎理論中の基礎理論に当たるようなところから、今日的な論点の要になるようなところまで、きっちりと論じていかれる様は壮観です。

  • 第1章 労働法の本質と発展

    • Ⅰ 労働法の成立と本質的性格
    • Ⅱ 労働法展開の政策的要因
    • Ⅲ 労働政策と法
    • Ⅳ 労働法の柔軟化と規制緩和論
    • Ⅴ グローバル化と労働法
  • 第2章 市民法と労働法
    • Ⅰ 市民法と社会法(労働法)の異質性
    • Ⅱ 労働法独自性論への反省と批判
    • Ⅲ 現代市民法論と労働法
  • 第3章 民法と労働法
    • Ⅰ 市民法と民法(典)
    • Ⅱ ドイツに見る民法と労働法
    • Ⅲ フランスにおける民法と労働法
    • Ⅳ 日本における民法と労働法
  • 第4章 労働法の基本理念
    • Ⅰ 法意識と法理念
    • Ⅱ 生存権の理念
    • Ⅲ 人間の尊厳の理念
    • Ⅳ 自由と自己決定
    • Ⅴ 平等と差別禁止
    • Ⅵ 労働権とディーセントワークの理念
  • 第5章 労働法における公法と私法
    • Ⅰ 公法・私法二元論の再検討
    • Ⅱ 労働者・使用者間における基本的人権の効力
    • Ⅲ 労働者保護法の私法的効力
    • Ⅳ 公法的・私法的規定の解釈
  • 第6章 労働契約と労働者意思
    • Ⅰ 戦後労働法学における労働契約
    • Ⅱ 労働契約の意義
    • Ⅲ 強行法規と労働者の意思
    • Ⅳ 集団規範と労働者の意思
    • Ⅴ 「枠」内での個別合意
  • 第7章 「労働者」の統一と分裂
    • Ⅰ 正規・非正規労働と標準的労働関係
    • Ⅱ 正社員の多様化
    • Ⅲ 「労働者」の範囲
  • 第8章 労働組合と法
    • Ⅰ 労働組合の生成
    • Ⅱ 労働組合の特質
    • Ⅲ 労働組合への法の対応
    • Ⅳ 労働組合における個人と集団
  • 第9章 労働法における法律,判例,学説
    • Ⅰ 判例の拘束力
    • Ⅱ 労働法における立法と司法
    • Ⅲ 判例と学説
  • 第10章 労働法の解釈
    • Ⅰ 法解釈論争から利益衡量論へ
    • Ⅱ 利益衡量論と労働法の学説・判例
    • Ⅲ 法解釈方法論から見た労働法の特質
  • 第11章 労働関係の法化と紛争解決
    • Ⅰ 労働契約の性質と労働関係の法化
    • Ⅱ 日本的企業社会と法化
    • Ⅲ 法化の諸形態
    • Ⅳ 労働紛争とその法的解決
  • 第12章 労働法の将来
    • Ⅰ 労働の意義と労働権
    • Ⅱ 雇用の保障と職の保障
    • Ⅲ 法体系における労働法

とても全体を一つのエントリで語れるような本ではありませんので、ここでは基礎理論中の基礎理論であるとともに、西谷理論の生成の歴史に関わる第2章の「市民法と労働法」から第4章の「労働法の基本理念」について若干の感想を。

言うまでもなく戦後日本の労働法学の多数派は、労使の形式的対等性を前提とする市民法の虚偽性を批判し、それに対置して労働者の生存権に基づく労働法を宣揚するところから始まりました。その時代には市民法(ビュルガーリッヒレヒト)ってのはむしろ貶し言葉に近かったんだろうと思います。

そういう生存権万能主義がまさにその主唱者であった沼田稲次郎氏や片岡昇氏らによって反省され始めるのが、1970年前後で、それを受けて1980年代から自己決定権を中心とする労働法理論を構築していくのがこの本の著者である西谷さんになるわけですが、その前に市民法ってそんなに悪くないぞ、と言ってたのが、渡辺洋三氏らの法社会学者であったという話が出てきます。

この法社会学者による労働法学批判は1960年代なんですが、実はこの部分を読みながら、そこに出てこないある人の名前を思い浮かべていました。それは、磯田進という人です。かつて東大の社研で、労働法と法社会学にまたがる学者でしたが、その学風を受け継ぐ人はいなかったようで、今ではほとんど忘れ去られた人になっています。

B_wataiimg379x6001335150466orjzqr68ところが、1950年代に岩波新書から『労働法』という本を出して、これが第3版まででています。岩波新書の「版」は「刷」とは違い、改訂版という意味ですから、当時は結構ロングセラーだったことが分かります。

その磯田労働法の冒頭の第1章はこうです。

第1章 使用者と労働者は対等の人格者である

そして冒頭の台詞は、

労働法について考える場合に、どこから出発するか?・・・

それは、使用者と労働者とは対等の人格者だ、ということである。これが近代労働法の「第一原理」である。ABCのAに当たるところである。ここから出発し、このことを前提として、今日の労働法の全体系が組み立てられている。・・・

ところで、社長は社員の「目上」であるか?こう聞かれれば、あなたはどう答えられるだろうか。「もちろん、目上だよ」と答えられるだろうか。

工場長、支店長、課長は平社員、平工員の「目上」であるか?この問いにも、同様、「むろん、そうさ」と答えられるであろうか

もしそう答えられるとすれば、その答えは、端的に言うと、誤りとされなければならないだろう。・・・

まさに市民法の(当時の多数派の言い方では虚偽意識的な)個人レベルの労使対等を素直に出した議論がされています。こういうのは、戦後労働法の歴史の中ではどういう風に位置づけられているのだろうか、というのが、その当時生まれていなかった私からすると知りたいところでもあります。1970年代以後の、労働法における市民法原理の再生よりも20年も前の頃の話ですが。

磯田氏は、労働契約を身分契約(地位設定契約)ととらえた末弘理論に対し、「身分から契約へ」の上に近代労働法の体系が築き上げられてきたのだと主張し、こう述べます。

・・・労働関係は一つの契約関係にほかならないということは、それ自体は平凡な原理だといえるにせよ、そのことの含蓄は、日本の労働関係の現実との対照においては、なかなかゆたかであるというべきこと、以上に見てきたとおりである。

まさに、「正社員」に対して「契約社員」という言葉を平気で使うほど、自分たちは契約に基づいて働いているんじゃないとみんなが思い込んでいる社会を照射する言葉です。

西谷さんは、本書の第2章の終わり近くでこう語るのですが、

・・・伝統的な労働法学は、労働者を階級として、もしくは企業社会の構成員として把握する傾向が強く、その「市民」としての側面には必ずしも強い関心を向けなかった。それは、戦後初期に広く浸透していた労働者の階級的把握を反映したものであり、さらには、労働者(とその家族)を企業社会の構成員と理解する日本的企業社会の現実を法理論に投影するものでもあった。現代市民法は、こうした見方にも反省を迫る意味を持っている。

終戦直後に磯田進氏が書いた論文の問題意識を引き継ぐ人が、少なくとも労働法学の世界からはある時期までほとんど出てこなかったことの方が、今から考えるとやや不思議な感じもしないではありません。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/05/post-b8cd.html(磯田進「日本の労働関係の特質-法社会学的研究」@『東洋文化』)

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最賃の地域間格差

一昨日、東大公共政策大学院の講義で賃金処遇法政策を取り上げ、最賃と同一労働同一賃金という二つの大きな話をしたわけですがそのうち最賃について、10年前の第一次安倍内閣以来の最賃大幅引き上げ政策で、10年前は東京と沖縄は約100円の差だったのが、今では約200円の差になっているという話をしました。

大幅引上げと言っても、Aクラスではより大幅に、Bクラス、Cクラス、Dクラスとなるにつれて(もちろんかつてに比べればべらぼうに大幅ですが)より小幅になってくるので、結果的に地域最賃の地域間格差が拡大してくるのです。

先日の「ニッポン一億総活躍プラン」で、年3%をメドに全国加重平均1000円を目指すと書かれているので、ではその通り毎年3%ずつ挙げていくと何年にいくらになるのかを、各クラスの代表都県と全国加重平均で素朴な計算をしてみたのが次の表です。

素朴というのは、単純に2015年の数字に1.03を掛けていっただけだからで、数字自体にこだわらずに全体の傾向を見てください。

Saichin

全国平均で1000円を突破するのは2023年で、最低の沖縄が1000円に達するのは2028年です。

その年の東京は1332円で、沖縄の1018円とは300円以上の差がついています。

この数字がどれだけリアルかどうかを考えると、大企業が多くてお金が溢れている東京の方がまだあり得て、地方がこのペースで上がっていくと地場の中小零細企業が耐えられないだろうと考えると、実際にはもっと格差がつく可能性すらあります。

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2016年6月 9日 (木)

増田明利『ホープレス労働』

81lugvncrl 増田明利『ホープレス労働』(労働開発研究会)をお送りいただきました。

http://www.roudou-kk.co.jp/books/book-list/4031/

「中古品」扱いされ、逮捕すれすれの仕事をさせられ、そして、倹約、倹約、また倹約。

これでもまだあなたは

「リーマンショック前に比してもよくなっている」

「雇用情勢は着実に改善が進んでいる」

と信じますか?

統計では見えない雇用の実態を取材し、世に問う!

日本の今、希望のない雇用社会の現実。ホームレス、日雇い労働者などワーキングプアをめぐる問題をえぐる第一人者の最新刊!

ブラック企業、不払い残業、過重労働、パワハラ、追い出し部屋、所得格差、低所得、失業…

他人事ではない実態が、若者、女性、中高年、あらゆる労働者に迫りくる。

危機感を持つすべての人が読むべき一冊。

下にコピペした目次を見ればわかるように、大変幅広くいろんなホープレスな労働の実情をルポしています。

冒頭に出てくるのが、まさに今現在話題の偽装求人の話。

・・・大学4年生の大半を就活に費やし、卒業まで残り1ヶ月というところで内定をもらったのが新興のアパレルメーカー。

「これで卒業=無業者にならずに済んだという安堵があったんですが、とんでもないインチキ会社だったんです」

求人票の募集職種は営業事務等の一般事務職、完全週休二日制、、夏期休暇ありということだったんですが、これはおとり広告みたいなものだった。

「二週間の研修が終わったら販売に行ってくれということにされ、ショッピングモールに出店している店舗に回されたんです。・・・」

・・・

「一番困ったのは売れ残った商品を社員に無理矢理買わせることでした」

デザインもセンスも悪いからだれも買わないようなTシャツやジャケットなどを社員に押し売りするのだから質が悪い。

・・・

年末年度末になると押し売りの金額が大きくなり、手取りの給料の三分の一が不必要な商品の購入に回されていた。

この手のひどい話がこれでもか、これでもかとぎっしり詰め込まれています。

しかし、じつは本書を読んでいって一番びっくりしたのは、最後の金子雅臣さんとの対談で、さらっとこう語っているところです。

・・・私は普段不動産関係の会社で働いているんです。その会社での有休を使って、時々。

え?本業を持っていて、これだけ取材してるんですか?

一章 憂鬱な若者たち

一 早期退職その事情

残り物に福はない

給料は手取り9万円

建築士志望がファミレス店員

死にたくないから辞めました

二 就職先はブラック企業①

ケチの付き始めは不本意就職

残業は月100時間、休みは月3日

魔法の水で何でも治る?

逮捕されるかもという恐怖

三 電池が切れるまで

IT業界、裏の顔

タダ働きと健康被害

いつか使い捨てられるという不安

四 漂流世代の見えない明日

就活は0勝18敗

既卒者は中古品扱い

生涯賃金は正社員の3分の1

五 平成版・あゝ野麦峠

26歳、働きマンの一日

社員は定額使い放題

辞めても誰も困らない仕組み

六 就職先はブラック企業②

これが金貸し稼業です

仏さまは金の成る木

二章 非正規で働くということ、その事情と実情

一 派遣の貧格

涙の給与明細書

入口は内定切り

いざ、派遣社員

いつか派遣を卒業する日

二 男30歳、派遣の肖像

入り口はリーマンショック

派遣の立場、派遣の暮らし

絶えない気苦労

漠然とした不安

三 当節、出稼ぎ事情

大震災で会社消滅

派遣の仕事、派遣の暮らし

漠然とした不安

四 工場非正規の恨み節

現場は非正規で回っている

ボーナスは5000円

それをやったらお終いだけど

五 正社員からの脱落

それでは皆さんサヨウナラ

60社にアプローチするも再就職ならず

失業一年、オヤジフリーターに

六 高齢フリーターの絶望

入り口は「つい、うっかり」

漂流の始まり

俺、ヤバイのかも…。

甘くない現実

七 もしも夫が失業したら

困窮家庭への転落

やっと見つけたパート仕事

倹約、倹約、また倹約

三章 働き盛りの苦悩

一 もしも40代で会社を辞めたら

転職は博打と同じ

正社員復帰への遠い道のり

わたしが会社を辞めたわけ

辞めてはみたものの…。

二 お父さんは眠りたい

ワーキングプアへの転落

のしかかる教育費

ハローワークでこんにちは

三 上司が馬鹿で嫌になる

これが我が社の駄目管理職

課長、仕事してくださいよ!

平社員は辛いよ

そして誰もいなくなる

四 脱サラの結末

元はアパレル会社の営業マン

成功は束の間の夢

廃業、別居、職探し

五 高学歴、低所得者の絶望

最終学歴は大学院卒

ジョブホッパーへの転落

学歴詐称で職探し

六 若手が馬鹿で嫌になる

ゆとり世代がやってきた

おまえは時限爆弾か

そして簡単に辞めていく

七 OLは見た

午後1時のオフィスで

男女平等は絵に描いた餅

それは「辞めろ」ということですか?

八 サラリーマン人類学講座

出世の基準は何ですか?

ゴマすりのすすめ

リストラされるにゃわけがある

九 新人君、いらっしゃい

会社は学校ではないということ

仕事を理解するということ

三年は黙って働け

十 どうするイクメン社員

パタハラは避けたいが

結果的にはキャリアロス

四章 好景気がやって来た?

一 アベノミクスでハッピー! ハッピー?①

高額商品から売れていく

節約疲れでプチ贅沢

ミニバブルが始まった

二 人手がない!①

求人三か月、応募ゼロ

派遣はそんなに悪いことですか?

就職難、それでも本音は大手志望。

三 アベノミクスでハッピー!  ハッピー?②

休日は月二日だけ

ベースアップは10年ぶり

仕事が捌ききれません

四 人手がない②

求むアルバイト

不人気業種は求人氷河期

職人不足は死活問題

五章 唇を噛みしめて、中高年世代の受難

一 リストラ狂騒曲

非情の通告

籍はあるのに席はなし

再就職支援のからくり

クビ切りした会社が求人していた

二 52歳の市場価値

3年目のハローワーク

デパートマン、バブルを語る

今日もリストラ、明日もリストラ

リストラの松竹梅

中高年、再就職の現実

三 嗚呼、中年エレジー

リーマンショックで会社消滅

45歳は高齢者

生活できない賃金

四 再就職支援の甘い罠

就活1年6か月、未だに無職

求人多数、完全サポートのお寒い現実

椅子取りゲームは終わらない

五 ネットカフェ難民の元経営者

1泊1480円、漂う孤独

こうして会社が潰れていった。

転がる石のように

六 副部長、介護退職の危機

葬儀場でのひとコマ

女房が鬼に見えたとき

休職か退職か

七 会社に行きたくないと思ったら

わたしはこれで気分転換しています

所詮わたしはサラリーマン

八 60歳の進路選択

『希望しないで下さい』で再雇用拒否

再雇用。去る人、残る人

60歳、警備員デビュー

対談 労働現場取材と雇用問題の現在

現場取材に深入りした理由

数字や統計で見えないものを伝える

非正規にケアがなさすぎる

若年層のとらえ方

現場から希望を見出せるか

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当たり前のことばかり書いてあるように感じるかもしれないが

41mvhocvl「松宮慎治の憂鬱」というブログで、拙著『日本の雇用と中高年』がさらりと短評されています。

http://shinnji28.hatenablog.com/entry/2016/05/28/050000

本書を執筆しているのは労働政策研究・研修機構の首席統括研究員である。
その意味で,アカデミズムを背景とした新書になってるため,特定の価値観を煽るものではなかった。

読む人によっては,当たり前のことばかり書いてあるように感じるかもしれないが,自明のことを正確な論拠をもって示されている好著である。

はい、仰るとおりです。「当たり前のことばかり書いてあ」ります。「特定の価値観を煽るもの」ではありません。

でもそれを「自明のことを正確な論拠をもって示されている好著」という風に、評していただけることに感謝の言葉もありません。

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2016年6月 7日 (火)

学生の就労をめぐる法的課題@『季刊労働法』夏号

253_hp 『季刊労働法』2016年夏号(253号)の予告が労働開発研究会のサイトに載っています。今回の特集はなんと「学生の就労をめぐる法的問題」。いやいや、ブラックバイト問題やオワハラ問題など、POSSEの皆さんが世間に訴えてきたことがここまできましたね。

http://www.roudou-kk.co.jp/books/quarterly/4128/

●学生ユニオンが相次いで発足し、「ワークルール教育でブラックバイト、ブラック企業を防ぐ」、「保護が必要な層ほど、労働法の知識に欠ける」などといわれています。今号では「学生の就労をめぐる法的課題」という特集を掲載します。「ブラックバイトの実態」、「学生の在学中の就労における法的課題」、「使用者側から見た学生と就労をめぐる問題点」、「採用内定、オワハラの段階における問題点」といった論文を掲載しています。

この特集の目次は次の通りですが、

学生の就労をめぐる法的課題

ブラックバイトはなぜ辞められないのか?―ブラックバイトユニオンの実践を通じた考察 ブラックバイトユニオン共同代表 渡辺寛人

大学生の在学中の就労における法的課題 熊本大学法科大学院教授 紺屋博昭

就職活動段階における労働問題 弁護士 佐々木 亮

労働者に対する労働法教育の限界とそれへの対応―使用者側の視点から 弁護士 和田一郎

学生の就労をめぐる労働行政の役割 ILO駐日代表 田口晶子

『ブラックバイト対処マニュアル』を監修して 早稲田大学教授 石田 眞 早稲田大学教授 竹内 寿

どれも面白そうです。

第2特集は男女均等周りのいくつかの課題をとりあげています。

第2特集 実効性ある均等政策に向けて

改正育児介護休業法の評価と課題 ―介護休業制度を中心に 北海道教育大学教授 菅野淑子

在宅介護の長期化と介護離職~労働時間管理と健康管理の視点から~ 労働政策研究・研修機構主任研究員 池田心豪

マタハラ問題が投げかける本質的問題提起~「ダイバーシティ」のあるべき姿と課題~ 弁護士 圷 由美子

女性活躍推進法の意義および課題 日本女子大学非常勤講師・弁護士 黒岩容子

それ以外の記事は次の通りですが、

■労働法の立法学 第43回■

炭鉱労働の法政策 労働政策研究・研修機構主席統括研究員 濱口桂一郎

■文献研究労働法学 第19回■

中国労働法文献研究 大阪経済法科大学准教授 オランゲレル

■アジアの労働法と労働問題 第25回■

カンボジアの労使関係と労働法の動向 日本ILO協議会企画委員/国際労働財団アドバイザー 熊谷謙一

■論説■

近時の法改正と労働者の個人情報の取扱い ―改正個人情報保護法・マイナンバー法・ストレスチェック制度 立教大学大学院講師 砂押以久子

■研究論文■

会社法429条と取締役の労働法遵守体制構築義務~ A式国語教育研究所代表取締役事件~ 首都大学東京准教授 天野晋介

■判例研究■

有期雇用が反復継続したなかでの更新上限の設定と雇止め シャノアール事件(東京地判平成27年7月31日労判1121号5頁) 静岡大学准教授 本庄淳志

建設労働における下請労働者に対する安全配慮義務 環境施設ほか事件(福岡地判平成26年12月25日労判1111号5頁)を契機として 弁護士 加藤正佳

■キャリア法学への誘い 第5回■

最新の立法から 法政大学名誉教授 諏訪康雄

●重要労働判例解説

大学教員(入試委員長)に対する入試ミスを理由とする懲戒処分の有効性判断 甲学園事件・札幌高判平27・10・2労経速2262号16頁 淑徳大学助教 日野勝吾

育児短時間勤務制度利用者に対する昇給抑制の違法性 社会福祉法人全国重症心身障害児(者)を守る会事件・東京地判平27・10・2判例集未掲載LEX/DB文献番号25541445 武蔵大学非常勤講師 小山敬晴

というわけで、わたくしの労働法の立法学の連載は「炭鉱労働の法政策」です。

その細目次を示しておきますと、

1 囚人労働と納屋制度

2 戦前の炭鉱労働対策

3 労働基準法と鉱山保安法

4 炭鉱労働と労働条件法政策

5 炭鉱労働社会の推移

6 炭鉱労働運動とスト規制法

7 炭鉱国管と生産協議会

8 炭鉱離職者対策

(1) 炭鉱離職者臨時措置法の制定

(2) 雇用奨励金制度

(3) 炭鉱離職者求職手帳制度

(4) 産炭地域開発就労事業

9 炭鉱災害とCO中毒症特別措置法

10 その後の炭鉱離職者対策

(1) 構造不況業種としての石炭鉱業

(2) 炭鉱労働者雇用安定法

(3) 炭鉱労働者雇用安定法の廃止

と、いろんな分野にまたがっています。

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透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会への大竹・鶴提出資料

今朝の日経新聞に、

http://www.nikkei.com/article/DGXLASGC06H0P_W6A600C1PP8000/(不当解雇の金銭解決、10年勤務で月収の8倍 厚労省検討会分析)

という記事が載っていますが、

厚生労働省の有識者検討会は6日、不当解雇の金銭解決の分析結果を公表した。労働審判で企業による解雇が無効と想定される場合、企業が支払った解決金は月収の0.84倍に勤続年数を掛け合わせた金額になっているとした。仮に勤続年数が10年であれば月収の8倍強になる。 

この記事の表現はいささかミスリーディングな感があります。というのは、これは厚生労働省のホームページの該当部分をみれば分かるように、

http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000126428.html

あくまでも「資料No.1-1 金銭解決に関する統計分析(大竹委員・鶴委員御提出資料)」であって、有識者検討会自体の分析結果ではありませんし、有識者会議として「公表」したという性格のものでもないからです。あくまでも、労働経済学者である大竹文雄、鶴光太郎両氏の分析結果という位置づけです。

不当解雇の金銭解決についての具体的な水準や基準など「相場観」ともいえる内容が示されたのは初めて。大阪大学の大竹文雄教授と慶応大学の鶴光太郎教授が労働政策研究・研修機構がまとめた雇用紛争に関するデータを使って分析した。

お二人が分析に使ったデータは、昨年公表されたJILPTのあっせん、労働審判、和解の調査で得られたデータです。しかし、JILPTの研究報告書においては、その最後の考察のところで、

また、各制度間において解決金額に明確な違いがある一方で、各制度内においては、たとえば月収表示の解決金額において性別や雇用形態、勤続年数、賃金月額など一定の傾向が見られる要素もあるが、その中でも幅広い分布が見られ、ある一定の要件を満たす場合にはほぼこの水準で解決するといったような形にはなっていないことが確認された。これは、各当事者が具体的にどのような言動を行い、使用者側、労働者側いずれにより責任があると考えられる事案なのか(いわゆる勝ち筋事案なのか負け筋事案なのか)という、本調査研究においては調査対象となっていない事項が紛争の解決に当たっては考慮されているためではないかと考えられる。このため、これら制度における解決金額の水準が具体的にどのように決定されているかについては、こうした点からのさらなる調査研究が必要となるものと考えられる。

と書いてあるように、解雇有効の可能性が高いとか低いとかというような事案の内容に関わるデータは(少なくとも労働審判と和解については)含まれておらず、それは分からないとしか言いようがないことを明らかにしています。

ですので、記事にでてくる「労働審判で企業による解雇が無効と想定される場合」とか「企業による解雇が有効と想定される場合」というのは、少なくともJILPT調査のデータから得られたものではありません。

日経の記事では

ただ今回分析に使用したデータは解雇が有効か無効かについての詳しい情報がなく、あくまで想定であるため「特に正社員については精度の高い分析にはなっていない」(大竹教授)としている。

とありますが、そもそも「詳しい情報」であれ「詳しくない情報」であれ、解雇が有効か無効かについては、一切いかなる情報もないデータです。JILPTの提供したデータは、全体として金銭解決がどれくらいの水準であり、それが労働者の諸属性とどういう関係にあるかを示すデータではありますが、解雇の有効無効に関してはなんら有意な情報を提供するものではありません。

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2016年6月 6日 (月)

ベーカム論お蔵出し

スイスでベーシックインカム導入が国民投票にかけられ、大差で否決されたというニュースが流れています。

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160606/k10010547381000.html

K10010547381_1606060906_1606060907_スイスで、年金などを廃止する代わりに、収入に関係なくすべての国民に毎月一定額を支給する「ベーシックインカム」と呼ばれる制度の導入の賛否を問う国民投票が行われ、開票の結果、反対が70%を超え否決されました。・・・

日本でも5,6年前くらいに一部で流行したことがありますが、その後はあまり話題になっていませんでしたが、このニュースに接して、改めて以前書いた小論を思い出しました。

9784165030904それは、文藝春秋が毎年出している『日本の論点』という分厚い本の2010年版に寄稿した「ベーシックインカム論の落とし穴」です。

当時話題になっていたブログ記事などが引用されており、いささか時代の流れを感じさせますが、議論の筋自体は今でもほとんど変わっていないと思いますので、参考になればと思い、お蔵出ししておきます。

 マクロ社会政策について大まかな見取り図を描くならば、20世紀末以来のグローバル化と個人化の流れの中で、これまでの社会保障制度が機能不全に陥り、単なる貧困問題から社会的つながりが剥奪される「社会的排除」という問題がクローズアップされてくるともに、これに対する対策として①労働を通じた社会参加によって社会に包摂していく「ワークフェア」戦略と、②万人に一律の給付を与える「ベーシックインカム」(以下「BI」という)戦略が唱えられているという状況であろう。

 筆者に与えられた課題はワークフェアの立場からBI論を批判することであるが、あらかじめある種のBI的政策には反対ではなく、むしろ賛成であることを断っておきたい。それは子どもや老人のように、労働を通じて社会参加することを要求すべきでない人々については、その生活維持を社会成員みんなの連帯によって支えるべきであると考えるからだ。とりわけ子どもについては、親の財力によって教育機会や将来展望に格差が生じることをできるだけ避けるためにも、子ども手当や高校教育費無償化といった政策は望ましいと考える。老人については「アリとキリギリス」論から反発があり得るが、働けない老人に就労を強制するわけにもいかない以上、拠出にかかわらない一律最低保障年金には一定の合理性がある。ここで批判の対象とするBI論は、働く能力が十分ありながらあえて働かない者にも働く者と一律の給付が与えられるべきという考え方に限定される。

 働く能力があり、働く意欲もありながら、働く機会が得られないために働いていない者-失業者-については、その働く意欲を条件として失業給付が与えられる。失業給付制度が不備であるためにそこからこぼれ落ちるものが発生しているという批判は、その制度を改善すべきという議論の根拠にはなり得ても、BI論の論拠にはなり得ない。BI論は職を求めている失業者とあえて働かない非労働力者を無差別に扱う点で、「文句を言わなければ働く場はあるはずだ」と考え、働く意欲がありながら働く機会が得られない非自発的失業の存在を否定し、失業者はすべて自発的に失業しているのだとみなすネオ・リベラリズムと結果的に極めて接近する。

 もっとも、BI論の労働市場認識は一見ネオ・リベラリズムとは対照的である。ヴァン・パリースの『ベーシック・インカムの哲学』は「資産としてのジョブ」という表現をしているが、労働者であること自体が稀少で特権的な地位であり、社会成員の多くははじめからその地位を得られないのだから、あえて働かない非労働力者も働きたい失業者と変わらない、という考え方のようである。社会ははじめから絶対的に椅子の数の少ない椅子取りゲームのようなものなのだから、はじめから椅子に座ろうとしない者も椅子に座ろうとして座れなかった者も同じだという発想であろう。

 景気変動によって一時的にそのような状態になることはありうる。不況期とは椅子の数が絶対的に縮小する時期であり、それゆえ有効求人倍率が0.4に近い現状において失業給付制度を寛大化することによって-言い換えれば働く意欲を条件とするある種の失業者向けBI的性格を持たせることによって-セーフティネットを拡大することには一定の合理性がある。いうまでもなくこれは好況期には引き締められるべきである。

 しかしながら、景況をならして一般的に社会において雇用機会が稀少であるという認識は是認できない。産業構造の変化で製造業の雇用機会が空洞化してきたといわれるが(これ自体議論の余地があるが)、それ以上に対人サービス部門、とりわけ老人介護や子どもの保育サービスの労働需要は拡大してきているのではなかろうか。この部門は慢性的な人手不足であり、その原因が劣悪な賃金・労働条件にあることも指摘されて久しい。いま必要なことは、社会的に有用な活動であるにもかかわらずその報酬が劣悪であるために潜在的な労働需要に労働供給が対応できていない状況を公的な介入によって是正することであると私は考えるが、BI論者はネオリベラリストとともにこれに反対する。高給を得ている者にも、低賃金で働いている者にも、働こうとしない者にも、一律にBIを給付することがその処方箋である。

 ある種のBI論者はエコロジスト的発想から社会の全生産量を減らすべきであり、それゆえ雇用の絶対量は抑制されるべきと考え、それが雇用機会の絶対的稀少性の論拠となっているようである。しかし、これはいかにも顛倒した発想であるし、環境への負荷の少ない生産やサービス活動によって雇用を拡大していくことは十分に可能であるはずである。

 上述でも垣間見えるように、BI論とネオリベラリズムとは極めて親和性が高い。例えば現代日本でBIを唱道する一人に金融専門家の山崎元がいるが、彼はブログで「私がベーシックインカムを支持する大きな理由の一つは、これが『小さな政府』を実現する手段として有効だからだ」、「賃金が安くてもベーシックインカムと合わせると生活が成立するので、安い賃金を受け入れるようになる効果もある」、と述べ、「政府を小さくして、資源配分を私的選択に任せるという意味では、ベーシックインカムはリバタリアンの考え方と相性がいい」と明言している*1。またホリエモンこと堀江貴文はそのブログでよりあからさまに、「働くのが得意ではない人間に働かせるよりは、働くのが好きで新しい発明や事業を考えるのが大好きなワーカホリック人間にどんどん働かせたほうが効率が良い。そいつが納める税収で働かない人間を養えばよい。それがベーシックインカムだ」、「給料払うために社会全体で無駄な仕事を作っているだけなんじゃないか」「ベーシックインカムがあれば、解雇もやりやすいだろう」と述べている*2。なるほど、BIとは働いてもお荷物になるような生産性の低い人間に対する「捨て扶持」である。人を使う立場からは一定の合理性があるように見えるかも知れないが、ここに欠けているのは、働くことが人間の尊厳であり、社会とのつながりであり、認知であり、生活の基礎であるという認識であろう。この考え方からすれば、就労能力の劣る障害者の雇用など愚劣の極みということになるに違いない。

 最後に、BI論が労働中心主義を排除することによって、無意識的に「“血”のナショナリズム」を増幅させる危険性を指摘しておきたい。給付の根拠を働くことや働こうとすることから切り離してしまったとき、残るのは日本人であるという「“血“の論理」しかないのではなかろうか。まさか、全世界のあらゆる人々に対し、日本に来ればいくらでも寛大にBIを給付しようというのではないであろう(そういう主張は論理的にはありうるが、政治的に実現可能性がないので論ずる必要はない)。もちろん、福祉給付はそもそもネーション共同体のメンバーシップを最終的な根拠としている以上、「“血“の論理」を完全に払拭することは不可能だ。しかし、日本人であるがゆえに働く気のない者にもBIを給付する一方で、日本で働いて税金を納めてきたのにBIの給付を、-BI論者の描く未来図においては他の社会保障制度はすべて廃止されているので、唯一の公的給付ということになるが-否定されるのであれば、それはあまりにも人間社会の公正さに反するのではなかろうか。

その後の動向としては、ロボットとか人工知能(AI)の発達で人間のやる仕事が絶対的に縮小し、これからは上で言う「絶対的に椅子の数の少ない椅子取りゲーム」の時代になるんだから、ベーシックインカムが必要だという議論が、ここ数年の流行として広がってきていることが挙げられます。日本でもそういう議論をする人が何人かいますね。

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2016年6月 4日 (土)

日本型雇用システムに踊らされる働く女子の運命@Amazonレビュー

Img_752f5d874047328e26f434ce08fbda5 Amazonレビューにまた『働く女子の運命』の書評がアップされています。評者は「Tsukutahito」さん。

http://www.amazon.co.jp/gp/customer-reviews/R3BUT5KNN3YIIE/ref=cm_cr_arp_d_rvw_ttl?ie=UTF8&ASIN=4166610627

女性の「活用」は叫ばれて久しいのに、日本の女性はなぜ「活躍」できないのか?

この問題に、労働政策研究・研修機構の主席統括研究員であり、日本の雇用問題を扱うプロフェッショナルといえる濱口桂一郎氏が、真正面からの主張を繰り出す。

女性の「活用」は、一般的には男性側の意識の問題が大きいとされる。「一家の大黒柱」や「一家を養う」という考えは依然根強いし、女性は「家庭を守るもの」という考えに支配されている男性は少なくない。また、家事や育児を「女性の仕事」と考えて、非協力的な男性も多い。こうした考えが女性の「活用」の阻害要因になっているという主張であり、それはそれで事実であろう。また女性の側の意識の問題もあるという言説も一般的だ。女性が「責任あるポジションまではつきたくない。私らしく働きたい」と考えるため、「活用」が遅れるというものだ。これも一理ある。しかし、本当に当事者の意識だけの問題で、こうまで進展しないものであろうか。

その根底には、メンバーシップ型といわえる日本型雇用システムがあるというのが、氏の主張である。日本の歴史的な雇用状況の変化を概説し、労働問題を明確にすることで、「意識」の問題だけで、働く女子の活躍を推進することの困難さを明確にしている。

日本特有ともいえるメンバーシップ型の雇用システムを、今後いかに現実に適用していくのか。この方向次第で働く女子の運命も(勿論男性、シニアと置き換えてもいいだろう)また踊らされてしまう。

本書の本筋を的確に浮かび上がらせていただいています。

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2016年6月 3日 (金)

『DIO』6月号に冨山和彦さん登場

Dio 連合総研の『DIO』6月号が届きました。

http://rengo-soken.or.jp/dio/pdf/dio316.pdf

特集は「事業再編に対応する労働法制の整備」で、執筆者3名のうち2人まではまさにこういうところに登場しそうな面子なのですが、

事業再編に対応する労働者保護法制の整備−積み残されている本質的課題 有田謙司……………………4

事業再編(事業譲渡)による労働者の権利侵害の実態と法的課題 徳住堅治 ……………………8

有田さん、徳住さんに続く3人目の方の名前が、おそらく連合総研の機関誌に出てくるとは余り想定されない方でして、

事業再編・再生と労使関係~事業再生を成功に導く経営の課題 冨山和彦 …………………12

そう、あの冨山和彦さんです。

冒頭出てくるエピソードがもうはや心をつかむ勢いで、

 「組合が強かったためにこんな高人件費構造になってしまった」

 「祖業の売却なんて組合が反対するのでまず不可能です」

 「そんな再生計画、絶対に組合がのんでくれません」

 三井鉱山、カネボウ、JAL、ダイエー・・・などなど、多くの企業の再建に関わってきた中で、当時の経営陣から何度も聞かされてきたセリフである。そしてマスコミや経営評論家も、その話を鵜呑みにした報道やコメントを出しがちだ。しかし、実際に私が再建に取り組む中で、そこで真摯に協力してくれたのは「組合」の皆さんであった場合が少なくない。

 このかい離は何か? なぜ起きるのか?私は日本企業の「経営」が抱えている根本病巣、根本課題がそこに横たわっていると考えている。本稿ではその構造と、私なりの解決仮説を提示したい。・・・・

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『「LGBT」差別禁止の法制度って何だろう?』

0841LGBT法連合会『「LGBT」差別禁止の法制度って何だろう?』(かもがわ出版)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.kamogawa.co.jp/kensaku/syoseki/a/0841.html

「私らしく」生きられるように
LGBT当事者の抱える悩みは何か、どういう法制度なら解決できるか。
東京都・多摩市長、世田谷区長、渋谷区長、兵庫県宝塚市長、元岩手県宮古市長などが登場し、開始されている自治体の施策を紹介するとともに、法案への課題を解明する。ほか10自治体の先進的施策を紹介

LGBTとは言うまでもなくレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダ-から1文字ずつ採った略称ですが、はじめの文章によると、むしろ、セクシュアル・オリエンテーションとジェンダー・アイデンティティの略称で「SOGI」と称すべきと言う声も高かったようですが、まだ日本で浸透していないので、正式名称は「性的指向および性自認による困難を抱えている当事者等に関する法整備のための全国連合会」だけれども、略称は「LGBT法連合会」にしたということです。名称一つとってもなかなか難しいんですね。

本書は大きく3部からなり、第1部は「LGBT差別禁止法とは」で、研究者等の報告内容などで、JILPTの内藤忍さんも一文を寄せています。

第2部は「LGBTを生きる」で、当事者たちのいろんな経験が縷々書かれています。

第3部は「自治体から始めよう」で、条例を策定した自治体の首長さんらがいろいろと語っています。日本で初めてパートナーシップ証明書の発行を始めた渋谷区の長谷部健区長が、ゴミ拾いNPOグリーンバードの活動で杉山文野さんとであったのがきっかけだったと語っているなど、興味深い話が載っています。

昨年末の『季刊労働法』冬号が「LGBTと労働法」を特集したり、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2015/12/lgbt-3248.html

今年4月には自民党の特命委員会が基本的考え方を発表したり、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2016/04/post-6f9c.html

このトピックもかなり注目を集めつつあるときだけに、時宜に適した出版と言えましょう。

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『2007年の最低賃金法改正後の労働者の賃金の状況』

TakahashiJILPTの資料シリーズとして、『2007年の最低賃金法改正後の労働者の賃金の状況』がアップされています。担当は個別紛争も担当した高橋陽子研究員です。

厚労省の要請による研究ですが、「賃金構造基本統計調査」の個票を用いた分析により、最低賃金が大幅に引き上げられ出した2007年以後の状況を詳しく分析していて、議論の素材になるはずです。

http://www.jil.go.jp/institute/siryo/2016/177.html

2008年以降の最低賃金の引上げは、一般労働者の賃金には大きな影響を与えていないが、        パートタイム労働者の賃金に影響を与えている。特に、近年の都市部を中心とする大幅な最低賃金の引上げを受けて、目安制度におけるランクがA ランクの都道府県において、パートタイム労働者の賃金分布にスパイクが見られるようになった。

2005年から2014年の賃金センサスの個別データを利用して、2008年以降の最低賃金の上昇が賃金分位の低い労働者の賃金を底上げし、日本全体の賃金格差を縮小する効果を持つことを確認した。

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『現代先進諸国の労働協約システム―まとめと論点』

Kihan JILPTの労働政策研究報告書No.184として、『現代先進諸国の労働協約システム―まとめと論点』がアップされました。

http://www.jil.go.jp/institute/reports/2016/0184.html

今まで分冊で刊行されてきたドイツ、フランス、スウェーデンを横ぐしにさす形で分析した報告書です。

現代先進諸国(ドイツ・フランス・スウェーデン)における労働協約システムの現状と、同システムに基づく規範設定の実態を明らかにするとともに、3カ国での比較検討を行うことで各国間における共通点と相違点を浮かび上がらせる。

184

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2016年6月 2日 (木)

UAゼンセン食品スーパー8社でインターバル規制

労働関係のニュースを伝える連合通信の5月28日号に、「UAゼンセンの食品スーパー 8社が制度導入を約束 勤務間の休息時間保障」という記事が載っています。

それによると、今春闘でUAゼンセン流通部門は一斉に制度の新設や充実を要求し、8社が導入を確約したとのことです。

11時間の制度を導入したのは、フレッセイ労組、アップルランド労組、イズミヤ労組、三越伊勢丹グループ労組松山三越支部、10時間はライフ労組、メガネトップ労組、イオン労組CFSユニオン、9時間がヤマザワ労組とのことです。また、いなげや労組、マルエツ労組などで継続協議中だそうです。

記事は深刻な採用難が背景にあると報じていますが、いずれにしても現場で少しでも多くの企業でインターバル規制を導入していなければ、どんなに口先だけで論じてみてもそもそも法制化の議論の土俵には乗ってこないのですから、こういう着実な取組こそが重要です。

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『労働調査』5月号

Coverpic労働調査協議会の『労働調査』5月号は「アジアにおける最近の労働事情」が特集です。

http://www.rochokyo.gr.jp/html/2016bn.html#5

1.最近の中国における労働事情-「個別的」労使関係から「集団的」労使関係へ-石井知章(明治大学商学部・教授)
2.変化する中国の産業構造と労働市場-深刻化する労働供給制約の克服への課題-厳善平(同志社大学大学院グローバルスタディーズ研究科・教授)
3.韓国の非正規労働者対策と労働運動 呉学殊((独)労働政策研究・研修機構・主任研究員)
4.アセアン経済共同体とベトナムの労働運動 香川孝三(大阪女学院大学・教授)
5.労働力大国インドの行方?改革と現実 木曽順子(フェリス女学院大学国際交流学部・教授)

JILPTの呉学殊さんが韓国の非正規問題など興味深い記事が並んでいますが、ここではやはり石井知章さんの中国論を。なにしろ、「「個別的」労使関係から「集団的」労使関係へ」という大変興味をそそるサブタイトルがついています。

短い文章ですが、とりわけ最後の「おわりに」の次の二つのパラグラフは、中国労働問題の研究者としての石井さんの思いが凝縮されているように感じられます。

・・・たしかに、「労働契約法」の実施が「集団的」労使関係の構築、および規制に関しての前提条件となり、中国において重要な法的・制度的枠組みを築いたのは事実である。現在、ネット上での連帯は、既に「工会」という組織を必要とせずに「集団的」行為を可能ならしめているものの、他方、習近平体制は、「和偕社会」という名目で、労使関係の敵対的性格を隠そうとする傾向を強めている。しかも、さまざまな使用者団体の設立など資本側には「結社の自由」が大幅に認められているものの、他方、労働側には官製工会たる中華全国総工会による独占的な「団結権」のみが許され、それ以外の労働者集団に対する「結社の自由」は認められていない。

だが、ビジネスや産業に関与する「市民的結社」で小さな仕事の経験を積む中で、やがて大きな仕事を共同で遂行する能力を身につけたとき、「市民的結社」は「政治的結社」の活動を容易にする一方、逆に「政治的結社」がこうした「市民的結社」を発展させ、完成させる可能性を持ちうる。その際、最大の鍵は、資本側と労働側とを問わず、「市民的結社」の経験を積んでいき、そのことが政府に承認された結果、自立的な「政治的結社」としての政治性がこの「市民的結社」に付与されるか否かにある。したがって、「外部」からの行政的働きかけが、「上から」の国家権力を媒介としながらも、現行法に基づく「合法的」なものとして、労働者による「政治的結社」を果たしてどこまで正当化できるかが問われている。

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渋谷和宏『働き方は生き方 派遣技術者という選択』

9636昨日、テクノプロの佐藤光也さんから、渋谷和宏『働き方は生き方 派遣技術者という選択』(幻冬舎文庫)をいただきました。

http://www.gentosha.co.jp/book/b9636.html

技術の進歩が加速し、グローバルな競争が激化する中、大企業の正社員でもリスクとは無縁でいられない。どんな働き方をすれば、生き残れるのか? 特定分野のスペシャリストとして高い技術力を持つ「派遣技術者」にそのヒントがあった。危機意識を持ち、複数の分野に精通する彼らは会社や部門の盛衰に左右されない。彼らが示す新しい働き方とは?

NPO法人派遣請負サポートセンターの今年の講演会の1回目には、テクノプロの小山博史人事部長がその波瀾万丈の歴史を語っていたのですが、この本は現在働いている派遣技術者の方々のインタビュー集です。

興味深かったのは、藤本沙耶香さん(仮名)の「派遣技術者の道を選んだから仕事と育児を両立できた」というインタビューで、大学の研究室でポスドクをしているときは上司である教授の無理解で睡眠時間を削らなければならなかったのが派遣技術者になったので研究者として働けているという話です。マタハラだと思ったけれど、この世界で生きていくのだとすると先生とはなかなか波風を立てられないと考えて・・・。まあそれも大学教授によってさまざまだろうとは思いますが、いかにもありそうな話ではありますね。

ただ、小山さんの話に出てきたような波瀾万丈の話はほとんど出てこないので、きれいにまとめられすぎている感はあります。

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『日本の雇用と労働法』第6刷

112483『日本の雇用と労働法』(日経文庫)の第6刷が届きました。

こちらは時論というよりも大学生向けの平易なテキストブックですが、5年足らずの間に6刷目と、やはり着実に読まれ続けているようで、有り難い限りです。

日本型雇用の特徴や、労働法制とその運用の実態、労使関係や非正規労働者の問題など、人事・労務関連を中心に、働くすべての人が知っておきたい知識を解説。過去の経緯、実態、これからの課題をバランスよく説明。

著者は労働法や、人事労務の世界で、実務家・研究者から高い評価を受ける気鋭の論客です。

本書をめぐっては、刊行時に金子良事さんと大変深く突っ込んだやりとりをしたことがありますので、そのときのお互いのエントリをお蔵出ししておきましょう。

http://ryojikaneko.blog78.fc2.com/blog-entry-217.html(『日本の雇用と労働法』に寄せて)

濱口さんの『日本の雇用と労働法』日経文庫を何度かざっと読みながら、何ともいいようのない違和感があったので、改めて『新しい労働社会』岩波新書と『労働法政策』ミネルヴァ書房を比較しつつ、水町先生の『労働法入門』や野川先生の『労働法』などを横目にみながら、改めて日本の雇用と労使関係ということを考えることにしましょう。結局、何が違和感を覚えるかといえば、私は徹頭徹尾チャート式が嫌い、テストもテスト勉強も嫌いということに行きつくことが分かりました。・・・

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/10/post-a44e.html(金子良事さんの拙著評)

・・・どこまでこうした「ねじれ」を腑分けして解説するかというのは難しい問題です。本書では、学部学生用の教科書という性格を私なりに理解して設定したレベルに留めていますが、それが専門家の目から見て違和感を醸し出すものであろうこともまた当然だと考えています。・・・

いずれにしても、学部生向けの本書の書評でありながら、社会政策の専門家でないと何を批判しているのかよく分からないくらい高度な書評をいただいたことに、感謝申し上げたいと思います。

http://ryojikaneko.blog78.fc2.com/blog-entry-218.html(濱口先生への再リプライ)

私の書き方が悪かったのと、少し考えが足りなかったせいで、ちょっとした誤解を与えてしまいました。チャート式が嫌いというのは、それはそうなんですが、別に不要であるという意味ではありません。ただ、今回の社会政策・労働問題チャート式への不満は内容がやや古いということです。逆に言うと、これはこの分野が学問的にほとんど見るべき進展を見せずに、停滞していることを意味しているのでしょう。それならば、むしろ、その責任は濱口さんではなく、教科書を書くと言って書かない某S先生に全部押し付けたいところですが、私も含めて学会員は等しく少なくともその一端を担うべきでしょう。・・・

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/10/post-9e2c.html(金子良事さんの再リプライ)

それはまったくその通りです。大河内一男まではいきませんが、私が学生時代に聴いた社会政策の講義は兵藤釗先生。頭の中の基本枠組みは『日本における労資関係の展開』で、その上に最近の菅山真次さんなどが乗っかってるだけですから。

ただ、それこそ「教科書を書くと言って書かない某S先生」に責任を押しつけるんじゃなく、kousyouさんの「金子さんの労働史を整理した本読んでみたいなぁ」という励ましのお便りに是非応えていただきたいところです。

http://ryojikaneko.blog78.fc2.com/blog-entry-219.html(濱口先生への再々リプライ)

多分、今回もそうですが、別に濱口先生と私の間には、こうやってやり取りする中で、いろんな刺激を受ける方が出てくれば、もうちょっと砕けて言えば「面白いじゃん」と思ってより多くの関心を持ってもらうというのが狙い、というより願いです。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/10/post-d4cc.html(メンバーシップ型労働法規範理論)

・・・このあたり、規範理論としての理念型と、説明理論としての理念型がやや交錯してしまっていますが、それは、わたし自身が必ずしもメンバーシップ型の理念をあるべきものと考えているわけではないという前提で、現実社会を支配している理念の構造を説明しようとする以上、やむを得ない現象ではないかと思いますが、それと第1段階の現実そのものととりわけ第3段階の理念型としての規範理論の影響下で形成されてきた第2段階の判例法理という名の「現実」とが、すべて「現実」としてごっちゃに理解されてしまうことは危険ではないかという金子さんの指摘は、まさにその通りであろうと思います。

まあ、そこを単純化してしまっているところが、「社労士のテキスト」ではないにしても、「チャート式」である所以なのだ、と言ってしまうのは、盗っ人猛々しいと金子さんに批判されるかも知れませんが。

http://ryojikaneko.blog78.fc2.com/blog-entry-220.html(労働法規範理論と社会科学としての法)

濱口さんは今回の本を労働法と労使関係論を繋ぎ合わせる必要があるという問題意識で書かれたわけですが、以上のような前提を踏まえて言えば、それも全部トータルで法学でやってください、と思わなくもない。法社会学をベースにした労働法をしっかり確立させるということでしょう(もちろん、末弘厳太郎以下、これが豊富な研究蓄積を残しているわけですが)。ただ、労働に関する法社会学が独立した成果を持っているかどうかというと、私の知る限りでは少し心許ないという気もするんです。・・・

濱口先生は私のことを社会政策学徒と呼んでくださって、私もそれが気に言っていたので、あえて言いませんでしたが、これまで議論してきたことは社会政策とか労働問題研究の枠組みで考えるよりも、繰り返しになりますが、全部法学内で何とかしてくれ的なことなわけです。産業社会学や労使関係研究から独立した分野として、労働の法社会学を確立させてくれ、ということなのです。そうして、我々隣接分野の人間はそうした分野の成果から痛切に新しい刺激を学びたいのです。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/10/post-bd25.html(そーゆーことは法社会学でやってくれ(意訳)@金子良事)

実をいえば、それができるような状況ではないから、労使関係論や社会政策の蓄積をそのまま流用するような形でしか、この分野が書けないのです。

「心許ない」どころの話ではない。ある意味では驚くべきことですが、日本の法社会学というそれなりに確立した学問分野において、労働の世界はほとんどその対象として取り上げられておらず、事実上欠落してしまっているのです。・・・

その意味で、金子さんの「そーゆーことは法社会学でやってくれ(意訳)」という言葉は、まことに厳しいものであるとともに、この分野の者がこれから何をやらなければならないかを指し示してくれるものでもあります。

他の書評の類はこちらをどうぞ

http://hamachan.on.coocan.jp/nikkeibookreview.html

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サポートセンターの第3回勉強会

昨日、NPO法人人材派遣・請負会社のためのサポートセンター主催の今年第3回目の勉強会が開かれましたが、当日さっそくアドバンスニュースに記事が載ってます。

http://www.advance-news.co.jp/news/2016/06/post-1902.html

N160601_1 シリーズ全体を通したナビゲーターを務める労働政策研究・研修機構の濱口桂一郎主席統括研究員が「企業経営にとっての労働組合」と題して導入プレゼンテーションした後、法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科の藤村博之教授=写真中=が「企業の競争力と労働組合」、連合中央アドバイザー(元UIゼンセン同盟副書記長)の二宮誠氏=写真下=が「労働組合の組織化と労使関係」と題して講演した。

それぞれの講演の中身は以下の通り報じられております。

濱口氏は、組織率が年々下がっている日本の労組事情の中で、非正規労働者を含むUAゼンセンが組合員を増やしている事実に触れ、労組の意義や今後のあり方などについて示唆した。

N160601_2 藤村氏は、多くの労組からヒアリングした経験を踏まえ、従来の労組は(1)労働条件の維持向上、(2)雇用保障、(3)組合員へのサービス提供――の3本柱が主要な役割だったが、これからは(1)コーポレート・ガバナンス(企業統治)の一翼を担う、(2)組合員の能力育成に基づいた攻めの雇用保障、(3)USR(労組の社会的責任)の実践――が新たな3本柱になると解説。また、企業人事の課題についても切り込んだ。

N160601_3 二宮氏は、戦後を中心に労働運動の組織変遷をたどりながら、自身が果たしてきた労組形成の豊富なオルグ活動から、「経営側の理解のもとで生まれた労組は、労使関係で最も重要な“信頼関係”がまずありきで始まる」、「生産性向上について、車の車輪の一方としての役割を果たすことができる」などのポイントを強調した。

派遣・請負事業関係者に対して集団的労使関係の重要性を語るという野心的な今回の試みが、3回目まで大変多くの聴衆を集めるという形でかなりの成功裡に行われたことを、とりあえずはよろこびたいと思います。

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