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2016年6月23日 (木)

「定年後再雇用者の賃金格差と高年齢者雇用継続給付」@『労基旬報』2016年6月25日号

『労基旬報』2016年6月25日号に「定年後再雇用者の賃金格差と高年齢者雇用継続給付」を寄稿しました。

 去る5月13日、東京地裁は、定年後に1年契約の嘱託として再雇用されたトラック運転手の男性3人が定年前と同じ業務なのに定年前より2~3割低い賃金水準となったことについて、労働契約法20条の期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止に該当するとして、定年前の賃金規定を適用して差額分を支払うよう同社に命じたと報じられました。この事件は長澤運輸事件で、現時点ではまだ判例雑誌等に掲載されていませんので、判旨の詳細は不明ですが、高齢者雇用政策において過去数十年にわたって当然と考えられてきたことを逆転させるような含意もあり、その影響する範囲は極めて大きなものがあるように思われます。
 まずもって、現在の高齢者雇用政策の考え方を改めて確認しておきましょう。2012年に高年齢者雇用安定法が改正され、65歳までの継続雇用がほぼ例外なく義務化されています。法律上厳密に言えば、65歳定年、65歳継続雇用、定年制の廃止の三者択一という義務です。問題はこの三択のうち65歳定年と65歳継続雇用は何が違うのか?という点にあります。定年と言おうが、継続雇用と言おうが、65歳まで何らかの形で雇用が維持されることが義務づけられているのですから、違うのはその雇用の中身、つまり定年時にいったんそれまでの高い賃金その他の労働条件を清算して、定年前よりかなり低い賃金その他の労働条件にすることができるところに、65歳定年ではなく65歳継続雇用を選択する意味がある、というのが、恐らく圧倒的に多くの人々の認識ではないかと思われます。
 これを裏付ける制度として高年齢者雇用継続給付があります。これは雇用保険法に基づく労働者への給付ですが、60歳以降の賃金が60歳時点に比べて大きく下がることを前提とした制度設計になっています。これは、65歳までの継続雇用が努力義務とされた1994年改正時に設けられたものです。そのときは25%支給という手厚いものでしたが、その後改正がされ、現在の制度では、60歳時点賃金の61%以下であればその賃金の15%、61%~75%であればその低下率に応じた額となります。重要なのは、60歳定年後に再雇用された労働者の賃金は、この給付の支給対象となるくらい大幅に引き下げられるのが当たり前だ、という認識に立ってこの制度が設けられているということです。少なくとも、それが期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止に該当するなどということは全く想定されていないことだけは明らかでしょう。
 その意味で、今回の判決は単に労働契約法やパート法といった労働条件法政策において重要な意味を持つだけではなく、高齢者雇用政策という労働市場法政策に対する含意も極めて大きなものがあります。上述したように、現時点ではまだ判決文が公開されていませんので、原告側や被告側がどういう主張をしたのかも明らかではありませんし、その中で高齢者雇用政策が取り上げられているのかどうか、また判決がそうした雇用政策上の諸制度についても考慮しているのかいないのかなど、論ずる上で必要な情報はありませんが、少なくとも今後この問題をめぐる議論が労働条件政策と労働市場政策の両方を睨みながら進められなければならないことだけは間違いないと思われます。

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