稲葉振一郎『不平等との闘い』
稲葉振一郎さんから近著『不平等との闘い ルソーからピケティまで』(文春新書)をおおくりいただきました。ありがとうございます。
http://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784166610785
担当編集者曰く:
資本主義と経済格差の問題は、切っても切り離せない関係にあるようです。不平等は端からいかんという考え方もあれば、不平等だからこそ人間はがむしゃらに頑張るのでは? という問いも考えられます。
この難問に挑んだ経済学の歩みを、『経済学という教養』などの著書で知られる稲葉振一郎さんがまとめ上げました。経済学の流れも、不平等の歴史も分かる、濃密な一冊です。
この担当編集者というのが、あとがきによると、最初は鳥嶋七実さんで、彼女が文芸部に移ったあとは高木知未さんに引き継いだとのこと。しかも話がきたのが昨年2015年1月だったそうで、そうするとほぼわたくしの『働く女子の運命』と同時期に、同じ編集者の手で進められていたということになりますね。
さて、このタイトルでこの著者名だと、哲学的、思想史的な内容を予測したくなりますが、そして冒頭の数章はルソーだのマルクスだのが出てきて、そんな雰囲気も漂わせますが、途中からはむしろ経済学部の真面目な教授の推薦する副読本という風情を濃厚に漂わせるようになります。
いやもちろん、ピケティブームの「出し遅れの便乗本」ということであれば、(内容的に「便乗」すらしていないあれこれの只乗り本とは違って)まことにまっとうな便乗本ということになるのでしょうが、明治学院大学社会学部社会学科で社会倫理学を教えているはずの先生の書かれた本としては、あまりにもまっとうな経済学の主流派の議論の淡々とした解説が続いていて、本屋でタイトルと著者名だけみて手に取った人は、いささかあれ?と感じるかも知れません。「不平等との闘い」というタイトルで、副題に「ルソー」まで出していて、ロールズもノージックも全然出てこない。まあ、経済学部の先生だったときに出した本がほとんど哲学まみれだったのと好対照というべきなのかもしれませんが。
そのなかで、やや異色の章が第5章の「人的資本と労働市場の階層構造」で、稲葉さんはこれが「不平等ルネサンス」への転換点になっているというのですが、さあそれはどうでしょうか。この章については、いろいろと疑問もありますが、おそらくかつて労働問題を研究していた頃の(東大学派の)匂いがそこはかとなく漂っている感じもします。
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