ガイ・スタンディング『プレカリアート』
ガイ・スタンディング『プレカリアート 不平等社会が生み出す危険な階級』(法律文化社)を、法律文化社の小西英央さんからいただきました。ありがとうございます。
http://www.hou-bun.com/cgi-bin/search/detail.cgi?c=ISBN978-4-589-03780-0
新自由主義とグローバル化の下で非正規職や失業が増大し、不安定で危うい階級としてプレカリアートが世界中で生み出されている。底辺に追いやられ、行きづらさを抱えている彼/彼女らの実態を考察し、不平等社会の根源的問題を検証する。不安定化する社会の変革方法と将来展望をも提起する。
著者のスタンディング氏はILOに勤務したこともあり、ベーシックインカム地球ネットワーク(BIEN)の創設者の一人でもあるということで、世界のいろんな諸国の動向に目配りをしながら、プレカリアートを生み出した新自由主義-リバタリアン・パターナリズムからの脱出口はベーシックインカムだという最後の結論にもっていくまで、現代世界の実にさまざまな局面を描写していく手際はなかなかすごいものがあります。内容において結構ずっしりと重い本です。
最終結論のベーシックインカムはともかく、その議論の一つ一つが異論反論を呼びそうな結構断言口調で語られていて、そこが気持ちいいという読者もいそうです。
冒頭の「プレカリアートを定義する」というところで、7つの階級からなる階級論を展開していて、これも議論を呼びそうですが、なかなか面白いです。まずトップにいるのは数は少ないが圧倒的に金持ちのグローバル市民の「エリート階級」、パナマ文書に名前が出て来る人々でしょうか。その下に「サラリーマン階級(サラリアート)」、それと並んで「専門技術職階級(プロフィシャン)」。この「プロフィシャン」というのはプロフェッショナルとテクニシャンと組み合わせた言葉だそうです。その下に縮小しつつある「労働者階級」がいますが、既にしなびて縮小し、社会的連帯の感覚を失ってしまったといいます。
これら4つの集団の下に、ますます増大する「プレカリアート」がいて、その両脇には失業者軍団と、社会に順応できず社会のクズのような暮らしを送るやや離れた集団がいる、と。
第6章が「地獄に至る政治」で、第7章が「極楽に至る政治」ですが、スタンディングに言わせると、ワークフェアやコンディショナリティによってむりやり働かせようとするのは「地獄に至る政治」なんですね。この辺、福祉国家の見直しの議論におけるスタンスとして、べーカム派の旗頭であることがよくわかります。そして、その第7章の一番印象的な台詞はこれです。
・・・労働中心主義者の「労働者商品ではない」という宣言とは逆に、労働は完全に商品化されるべきだ。・・・
・・・適切な商品化は進歩的な動きだ。・・・
これらの台詞がどういう文脈で語られているかは、是非本書を読んでみてください。これはかなりに説得的な議論を展開しています。
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