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今野晴貴『ブラックバイト』または究極の悪いとこどり

S1602今野晴貴さんから力作『ブラックバイト 学生が危ない』(岩波新書)をお送りいただきました。まさに時宜に適した一冊です。

http://www.iwanami.co.jp/hensyu/sin/sin_kkn/kkn1604/sin_k885.html

学生のアルバイトにもかかわらず、過重な責任を負わされる。そんな「ブラックバイト」と呼ばれる労働が、広がっている。休みなしの10日連続勤務、休日出勤や他県への出張命令……。授業に出ることができない、テストを受けることができない、果ては留年・退学にいたるケースもある。親からの相談も絶えない。

 「子どもが家に帰ってこない、学校にも行っていないようだ」
             「アルバイト先に出勤を命じられて、大学を退学してしまった」
             「高校生の子どもがアルバイト先でうな重を10個も買わされて帰ってきた」

 本書では、筆者の労働相談経験を元に、ブラックバイトがなぜ今、これだけの猛威を振るっているのかについて、学生を雇用する(1)「企業の側の事情」と、(2)「若者の意識」を分析し、解決策を模索する。

           また、本書ではブラックバイトの見分け方や対処法も詳しく指南した。特に、高校生・大学生の子を持つ親や学校の教職員にはぜひ実態を知ってほしい。

例によって、今野さんらPOSSEスタッフが蓄積した様々なブラックバイトの事例をこれでもかと叩きつける前半部と、それをよりマクロ的な視座から分析し、対策を論じていく後半部とがうまく組み合わされた本になっています。

私の問題関心からはやはり、いわゆるブラック企業問題とともに、いやむしろそれ以上に、やや伝統的な正規雇用-非正規雇用の二項対立図式の「常識」を逆手にとって究極の「悪いとこどり」を実現してしまったという点が注目されるべきでしょう。

ブラック企業やブラックバイト以前の「格差問題」は、優遇される正社員はそれなりのきつい義務を負っているから、待遇の低い非正規は自由で責任も軽いから、というそれなりの納得のあるバランスの上に成り立っており、水町勇一郎さんのいう「同一義務同一賃金」の考え方で、ある程度までは説明できるものであったといえます。

しかし今野さんが摘出するブラック企業やブラックバイトは、その常識をあっさりとひっくり返してしまいます。

とりわけ本書が追求するブラックバイトでは、もともと学生の小遣い稼ぎであることを前提に、正社員のそれとはかけ離れた軽い責任しか負わないはずであった学生アルバイトに対して、その待遇は全くそのままに、下手な正社員よりもはるかに重い責任をずっしりと載せていき、あまつさえそれを学生たちの「責任感」、「想像の職場共同体」意識、「達成感」、「経営との一体感」、「疑似経営者目線」などでぐるぐる巻きに縛り上げ、授業も受けられない、テストも受けられない、果ては就職活動もできない、というとんでもない状況を、決して特殊例でもない普通のことのようにしてしまっているわけです。

改めて、一昔前までの正規-非正規パラダイムを頭の中心に置いたままでうかつに非正規問題を論じると、かえっておかしな方向に導かれてしまうかも知れないという警告の書ということもできるでしょう。

究極のジョブ型労働であったはずの、それゆえにメンバーシップ型正社員と比較しての低賃金不安定雇用が正当化されていたはずの学生アルバイトが、気がついたら昔の正社員よりもさらに重苦しい奇妙にメンバーシップ型の、しかしそれを担保するものは何一つないという奇怪な状況に追い込まれてしまっているという姿は、もっと多くの人々によって論じられる必要があることは間違いありません。

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コメント

雇用問題が実体経済の現場ではすでに正規、非正規でグズグズしている間に学生アルバイトもそうした世情に無惨にも絡み合わされ、完備契約から不完備契約へとイノベーションしているのですねえ。勉強できない(しない)
、居眠りする(完全うつ伏せ)するはずです。もーれつに事前課題を与え、講義もインタラクティブでやれば、ある学生曰く「いつも寝ている私が先生の時は目をぱちくりと開けております」だそうですが、辛いだろうなあ。

投稿: kohchan | 2016年4月21日 (木) 15時49分

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