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成果主義で賃上げの効果が消える!?

JILPTの西村純研究員のディスカッションペーパー「人事・賃金制度の変遷に関する一考察と今後の研究課題」が昨日アップされています。

http://www.jil.go.jp/institute/discussion/2016/16-03.html

http://www.jil.go.jp/institute/discussion/2016/documents/DP16-03.pdf

これの前半では、今までの日本の人事・賃金制度の推移を手際よく整理していて、それほど目新しいところはないのですけど、成果主義のところでは、一般的な概観のあとである企業の事例を詳しく取り上げ、その賃金表を細かく分析する中で、結構衝撃的な事実を明らかにしていきます。

なぜそうなるのかという話はリンク先の詳しい説明を見ていただきたいのですが、成果主義というミクロ賃金制度と、ベースアップというマクロ賃金決定が絡み合うとこういうことになるという話です。

・・・さて、上の例から分かることは、春闘によって妥結した賃金改善によってもたらされた 賃上げは、必ずしも永年的に持ち越されないということである。例えば、同じように賃金 表の書き換えが実施されなかったとしても、年々賃金が積み上がって行く様な昇給表方式 であれば、一度受け取った改善額は同一企業に留まる限り、彼の賃金として生き続ける。 しかし、成果主義下のゾーン別昇給管理の下では、ポリシーラインにおいて一旦リセット される可能性があるわけである。つまり、春闘において賃上げが実施されようとなかろう と、数年後受け取る金額は同じということが十分に起こり得るわけである。この点は、職 能資格制度の下では起こり得なかったことではないだろうか。ヒアリングのインフォーマ ントの言葉を借りると「(改善額によってもたらされた賃上げの・・・筆者)効果がいずれ は消える」わけである。

我々がマクロ賃金決定を語る際の言葉は、ついつい半世紀以上も前からのベースアップという言葉がその意味内容に変わりがないようなつもりで使われてしまいますが、そのミクロ的基礎構造が成果主義というかたちで相当に変形してきている中では、そのベースアップという言葉を同じように使うわけにはもはやだんだん行かなくなりつつあるということのようです。

賃金論におけるミクロとマクロの関係というのも、近年余り関心の対象にはなっていないようですが、このディスカッションペーパーが提起している問題は結構大きなものがあるように思われます。

ちなみに、この西村純さん、もう一方でスウェーデンの労使間系システムを突っ込んで研究しているほとんど日本唯一の研究者で、、とりわけスウェーデンの企業レベルの賃金決定の話はとても面白いのですが、そちらでは日本とある意味似ていて、ブルーカラーにも査定が導入されているのですが、それが労働組合による賃上げのための手段として利用されているというところが、まるで逆向きになっていて、いろんな意味で面白いのです。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2015/06/post-9847.html (『スウェーデンの労使関係―賃金・労働移動のルールを中心に』)

4.ブルーカラーの月例給にも査定が導入されている。査定の運用において、組合はモニタリングに加えて、交渉主体としての機能も維持している。例えば、V社T事業所のメンテナンスワーカーにおいては、組合員の評価点や評価点に応じて決定される昇給額は、各部門毎に作られる組合員の評価グループと部門の上司の間で決定されている。また、昇給額の決定の際には、組合員間の賃金格差の是正も念頭に置きつつ交渉が実施されている。

5.総じてこの査定部分は、組合員にとっては賃上げのための貴重な要素となっている。V社T事業所のプロダクションワーカーにおいては、ほぼ全員が得られる最大限の昇給を受け取っている。A社B事業所の組合代表の言葉を借りれば、こうした査定部分の昇給要素は「賃金を上げるブースター」となっている。

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コメント

なんの因果か恒等式か(笑)、はまちゃん先生に恐れ多くも密通いたしました本のある部分(p63中頃の経営者が発する賃上げへの政府干渉に対するまことに正直な面従腹背心理と賃労働者へのこれまた経営から見ると常識的なおセリフ)を本の著者とは別の研究セクターによって複眼的実証がなされた小生の思惑通りのエントリでございました(笑)。


投稿: kohchan | 2016年4月 2日 (土) 07時30分

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