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2016年4月

性的指向・性自認の多様なあり方を受容する社会を目指すためのわが党の基本的な考え方@自由民主党

自由民主党政務調査会性的指向・性自認に関する特命委員会が一昨日公表した「性的指向・性自認の多様なあり方を受容する社会を目指すためのわが党の基本的な考え方」が話題になっているようですが、このLGBTの問題は最近労働法の世界でも結構話題になってきており、この「考え方」の中でもかなりの分量をとって雇用・労働環境の項目についても記述がなされておりますので、見ておきましょう。

http://jimin.ncss.nifty.com/pdf/news/policy/132172_1.pdf

<雇用・労働環境>

9. 従業員の多様な性的指向および性自認を積極的に受容する取り組みを行っている企業等が存在することを踏まえ、そうした事例を収集し広く情報提供を行うことにより、当事者が就職の際参照できるようにするとともに、他事業者の取り組み検討の参考に供し、後押しをすること。また職場における自主的な取り組みを促すため、ガイドラインの策定等の施策の検討を積極的に進めること。

10. 公正な採用選考についての事業主に対する啓発・指導において、性的指向や性自認に関する内容も含めることにより、当事者が不当な取り扱いを受けることを防止すること。

11. 解雇や退職強要に関し、労働契約法第 16 条において「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と規定されていることを踏まえ、単に性的指向や性自認のみを理由とする解雇、あるいは服装等を理由とする解雇が同規定に該当し得ることに留意し、事業主に対する必要な啓発・指導を徹底すること。

12. 職場における性的指向や性自認に関するいじめ・嫌がらせ等に関し、男女雇用機会均等法第 11条及び同条に基づく「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」おいて、性的指向・性自認に関するいじめ・嫌がらせ等であっても同条および同指針におけるセクシュアルハラスメントに該当するという解釈をすみやかに通達等の手段により明確化にすること。同指針については、必要な手続きを経た上で、遅滞なく上記趣旨が明示的に記載されるよう改正を行うこと。

13. 性的指向・性的自認に関する事柄を背景としたパワーハラスメントを防止するため、「パワーハラスメント対策導入マニュアル」等に関連する記述を追加すること。

14. 都道府県労働局における総合労働相談コーナーや個別労働紛争解決制度において、性的指向や性自認に関する相談・紛争への対応も行っていることについて、一層の周知を図ること。

15. 上記 9.~14.の各点に関し、パンフレットや Web サイト等を活用して総合的に周知に努めること。また労働基準監督署、都道府県労働局、ハローワーク等の職員や相談員について、性的指向・性自認に関する研修を充実させ、事業主や労働者に対する相談や指導が適切に行われる体制を整えること。

16. 国家公務員および地方公務員においても、国家公務員法第 27 条や地方公務員法第 13 条の趣旨を踏まえ、職員の任用等において性的指向や性自認に関する不当な差別なく適切に行われるよう、必要に応じて措置を講ずること。また男女雇用機会均等法第11条や人事院規則10-10第4条に基づき、性的指向や性自認に関するセクシュアルハラスメントの防止に関する措置を講じること。各府省の人事担当者向けの勉強会の開催や、内閣人事局が実施する研修等において性的指向・性自認に関する内容を追加すること等により、各府省職員の理解の促進を図ること。自治体においても同様の取り組みを促すこと。

これを読んでいって、一点「あれ?」と感じたところがあります。

「性的指向・性自認に関するいじめ・嫌がらせ等であっても同条および同指針におけるセクシュアルハラスメントに該当する」というところです。

ハラスメントにもいろいろありますが、セクハラことセクシュアルハラスメントというのは、セックス(性別、ジェンダー)に関わりのあるハラスメントという意味ではなく、セクシュアルな(性的な)行為や環境を強制するようなハラスメントという意味で、普通の日本語で言えば、「えっちな」とか「すけべな」とか「いやらしい」とか、まあそういうたぐいの系列のハラスメントを指す言葉だったはずだと思うのですが、そうだとすると、この認識はどうなんだろうかと思われるわけです。

「性的指向・性自認に関するいじめ・嫌がらせ等」ってのは、つまり「この変態オカマ野郎」みたいな罵倒でしょうが、これって、あえていえば「女のくせに偉そうな口きくんじゃねえ」みたいな性別に関わるハラスメント(ジェンダーハラスメントということもある)に近いたぐいのものであって、その相手に対する性的な行為や環境を含意しているわけではないので、セクハラの一種だというのは大変違和感があります。

それとも世の中ではそれが違和感なく通用しているんでしょうか。

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1975年は労働法政策の転換点

金子良事さんが、

http://ryojikaneko.blog78.fc2.com/blog-entry-426.html (1975年の転換点)

1975年、カテゴリ労働史で転換点と書いたら、みなさんは何を想像されるでしょうか。日本型所得政策でしょうか。それとも、スト権ストでしょうか。私はこの年に形成された学者が中心になって形成された労働問題研究会をここであげたいと思います。とはいっても、仮説なので、みなさん、いろいろ突っ込んでください。

いや、1975年は、まさにわたくしの労働法政策の観点からしても戦後史の大きな転換点です。でも、金子さんが挙げているどれも、それと直接関係ありません。

いやむしろ、そのあとで金子さんが語っている

この政策研究の流れが翌年の政策推進労組会議を生み、あるいは蓼科(電機)・山岸(電通)の労働社会問題研究センターにつながって、最後は連合までいきます。

という流れとは密接に繋がっている面があるのですが。

問題の焦点は、ここでいう「政策」とは何かということです。

それまで対立していた総評と同盟が、少なくともその民間組合が「政策」を軸に統一に向かっていくその「政策」とは何だったか。

それこそが、この1975年に施行された雇用保険法に基づく雇用調整給付金(後の雇用調整助成金)であり、この助成金に象徴される雇用維持型の雇用政策を労使が支える労働法政策体系が構築されていったのがまさにこの時代であったのです。

これはちょうど今週東大公共政策大学院の労働法政策の授業で話したばかりのところですが、

(参考)

4623040720  日本の失業対策でない雇用政策は、発足後10年足らずで大きく方向転換した。一言でいえば積極的労働力政策から雇用安定政策への転換であるが、これを法制上に跡づけるのは意外に難しい。なぜなら、基本法であるはずの雇用対策法上にその転換が示されることなく、1976年6月閣議決定の第3次雇用対策基本計画で示された形になっているからである。しかしながら、実はそれに先だって、1974年12月に成立した雇用保険法がこの方向転換を明確に示していたのである。雇用保険法はいうまでもなく失業保険法を全面改正して雇用政策手段としての雇用保険三事業を創設したものであるが、この雇用保険三事業、なかんずく雇用調整給付金(後の雇用調整助成金)制度が、それ自体は手段でありながら、実質的に雇用安定政策への舵を大きく切ることになったからである。

 もっとも、雇用保険法自体はそのような趣旨で立案されたものではなかった。・・・・

 雇用保険法案は翌1974年1月に国会に提出されたが、社会党、共産党、公明党は反対し、参議院で審議未了廃案となった。総評が給付の切り下げであるとして強く反対していたことが反映している。ところが、ここに石油危機の影響で雇用失業状勢が厳しさを増し、一時休業や一部には大量解雇まで現れるようになって、雇用調整に対する助成措置に対する早期実施の声が高まってきた。同盟はもとから雇用保険法案に賛成であったが、中立労連が賛成に回り、総評加盟の民間労組からも積極的態度を示すものが続出した。こうして、雇用保険法案は、いわば雇用安定のための助成措置を規定する法案としての期待を背負って再度国会に提出され、1974年12月に成立にいたった。

 もっとも、条文の上では、これは雇用改善事業の中の一項目として「事業主に対して、景気の変動、国際経済事情の急激な変化その他の経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた場合における失業を予防するために必要な助成及び援助を行うこと」(第62条第1項第4号)を掲げたに過ぎない。膨大な雇用保険法の中では埋もれてしまいそうな小さな条文に過ぎないが、上に見たような制定経緯から、労働法政策の上では、雇用政策の方向を大きく変えた巨大な条項となった。

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本日は国際労働者祈念日

本日、4月28日は国際労働者祈念日(International Workers’ Memorial Day)でした。ご存じでしたか?

https://www.etuc.org/press/28-april-%E2%80%93-international-workers-memorial-day-new-health-and-safety-laws-now#.VyIgOjCLTDc

昨年も本ブログに書きましたが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2015/04/post-ba94.html

その時と同様、連合は関心がなさそうです。明日は5月じゃないけどメーデーですし。

ってこれも昨年のエントリと同じテンプレですが。

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鈴木安名・増田陳彦『この一冊でストレスチェックの基本と応用が分かる』

51tmav21s4l__sx340_bo1204203200_労働開発研究会より、産業医の鈴木安名さんと弁護士の増田陳彦さんの『この一冊でストレスチェックの基本と応用が分かる』をお送りいただきました。ありがとうございます。

https://www.roudou-kk.co.jp/books/book-list/4005/

専属産業医がいない事業場でストレスチェック制度をどのように運用すべきか。
制度の概要から実務の視点までこの一冊ですべてが分かる。
実務担当者はもちろん、産業医、保健師、看護師にもオススメ。

「わが社では無理なのか…」というご担当者必読!専属産業医がいない事業場でストレスチェック制度をいかに運用すべきか。企業の法的義務など担当者必須の知識から、制度立ち上げの手順や方法など制度の実践と応用まで具体的に解説。制度導入後に困らないためのポイントも満載。産業医や保健師、看護師にも満足いただける内容。

両氏の執筆する第1部基本編、第2部応用編の後にある「鈴木増田対談」というのが面白いです。

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経団連出版から2冊の本

例によって讃井さんより、経団連出版の本を2冊お送りいただきました。いつもありがとうございます。

Bk00000421一つ目は平居暉士さんの『企業経営を学ぶ-組織運営の王道と新たな価値の創造』。

https://www.keidanren-jigyoservice.or.jp/public/book/index.php?mode=show&seq=421&fl=1

 企業が抱える経営上の課題や業績不振の真因が、経営者の知識不足や営実践力の弱さにある例が少なくありません。企業経営には高度な専門性、プロフェッショナルとしてのスキルが求められるにもかかわらず、経営者に経営スキルが十分に備わっていないのです。
 本書は経営者がなすべき「経営戦略、事業戦略、事業計画の策定、業計画の実践」を実際の手順に沿って説明するとともに、組織と人の活用、コーポレートガバナンスやリスクマネジメントの推進、新たな価値の創造のためのマーケティングやイノベーションなど、経営力を高める具体的な方法を詳述しました。現在、経営に携わっている方だけでなく、これから経営にたずさわる方や経営を学んでいる方などにもおすすめいたします。

高度めいた経営学ではなく、基本を噛んで含めるように書かれた本ですね。

Bk00000422もう一冊は、これは旧経団連系なんだと思いますが、21世紀政策研究所/経団連経済基盤本部編著『 BEPS Q&A-新しい国際課税の潮流と企業に求められる対応 』です。

https://www.keidanren-jigyoservice.or.jp/public/book/index.php?mode=show&seq=422&fl=1

 2015年10月にOECDでBEPS最終報告書が公表されました。日本企業にとっては、どこかBEPSを巡る問題は対岸の火事との認識が当初ありました。しかし、BEPS最終報告書の内容は、国際課税の分野で史上初めてといっても過言ではないほどの広範な制度変更を伴うものであり、一部の多国籍企業のみならず、日本企業の経営にも重大な影響を及ぼします。すでに平成28年度税制改正により、今後、企業は課税当局に新たに各国ごとの財務状況や従業員数などを記載した文書を提出しなければならなくなります。
 本書は、OECDにおける実際の制度設計に影響を与えてきた日本経済界からの視点で、BEPSをめぐる問題を分かりやすく解説しています。また、BEPS最終報告書の影響を大きく受けることになる、グローバルに活動する企業の税務担当者の座談会を掲載しました。新しい国際課税の潮流「BEPS対策」の理解を深め、経営戦略の立案にあたり最適の書です。

ちょうど例のパナマ文書とかで、租税回避問題が話題になっているときだけに、時宜に適した本なのでしょう。

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『若者と労働』への短評

Chuko 読書メーターで今月、『若者と労働』への短評が2つアップされています。

まず「ジャック」さん。

http://bookmeter.com/cmt/55505454

日本と欧米を比較しながら若者の労働について語りかける。日本の新卒至上主義のもたらした弊害、まっさらな経歴ほど評価されるという見方は非常に興味深い。逆に欧米はスキルを求められ、何もできない新卒程職に困る。なるほど。欧米の働き方が注目されているけど欧米は良くも悪くも能力主義だから若者にとってはすごく生きにくいんじゃないかな。欧米のやり方を手放しで褒めるんじゃなく、長所も短所もしっかりと見極めて上手に取り入れていきたいね

次に「kouki_0524」さん。

http://bookmeter.com/cmt/55834124

自分も含めて、学校を卒業しただけでなんの技能も持たない人間がなぜ企業にどんどん採用されていくのか?あたり前なんだけれど素朴な疑問でもあるこの現象を、欧米との比較も交えながら丁寧に解説してくれる。 ハードな仕事を課されても、家族手当や年功賃金で報いのあった以前と比べて、現在はそうではない。自分というものをしっかりと持たなければ、疲弊するだけ。そのことがよく理解できる一冊。

興味深いことに、ほとんど同じポイントに着目されていますね。

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川崎二郎/穴見陽一『政治主導で挑む労働の構造改革』

514bxo5cf7l_sx350_bo1204203200_ たまたま書店で見かけて買ったのですが、これは想像以上に高水準の本でした。

http://ec.nikkeibp.co.jp/item/books/252000.html

著者の二人は自由民主党の国会議員です。ですが、本書の内容は、労働問題の専門家が読んでも参ったというくらいの高い水準になっています。

長時間労働の規制、同一労働同一賃金、待機児童など、働き方に関わる諸問題が相次いで議論されている。これらの背景には、少子高齢化に伴う労働力の減少、サービス産業の時代における日本型雇用の制度疲労、という大きな問題が横たわる。本書の狙いは、そうした労働問題の全体構造を示し、体系立てて対策案を提示することである。長年の雇用慣行や諸制度が絡み合う構造を把握しないまま各論ごとに対策を講じても、ある対策が別の問題を引き起こすといったことになりがちだった。

 そこで著者は「働く人を増やす」(女性や高齢者の活躍)、「働く場を整える」(地方や中小企業の活性化)、「働き方を変える」(日本型雇用の改革)という、三つの柱についてそれぞれ、現状および課題を整理し、制度設計や政策などの対策を提示している。

 長年の雇用慣行を見直し、既存の制度を変えるには、問題の全体構造を踏まえつつ、一つひとつ周りから突き崩していくことになる。こうした構造改革は政治主導でないと進められない。こう考えた二人の著者は、自由民主党の中で労働問題に関心を持つ有志を集め、「多様な働き方を支援する勉強会」を開催、2年間をかけて労働問題について勉強と議論を続けてきた。その成果をまとめたものが本書である。

本書にコラムを寄稿しているのが、清家篤、小室淑恵、海老原嗣生の3人という人選を見ても、よくわかっているという感じがします。

更に第4章では、メンバーシップ型雇用のデメリットとメリットを論じていて、わかっている感がいや増します。

第1章 問題の全体構造をとらえ、手を打つ—人材・産業・雇用の一体改革(変えるべきシステムを把握する 労働力の減少と長時間労働、厳しい現状を再確認 ほか)

第2章 働く人を増やす—全員参加型社会の展望(女性の活躍の推進 高齢者の活躍の促進 ほか)

第3章 働く場を整える—地方産業と中小企業が改革の担い手(地方産業のあり方を考える 地方産業の生産性向上 ほか)

第4章 働き方を変える—日本型雇用慣行がもたらす諸問題を解く(日本型雇用慣行の改革の必要性 メンバーシップ型雇用のデメリット ほか)

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新屋敷恵美子『労働契約成立の法構造』

221947 新屋敷恵美子さんより大著『労働契約成立の法構造─契約の成立場面における合意と法の接合』(信山社)をお送りいただきました。ありがとうございます。名実ともに、すごい大著です。

http://www.shinzansha.co.jp/book/b221947.html

500ページを超える大著です。

大部分は新屋敷さん専門の「イギリスにおける労務提供契約成立の法構造」という第1部で、その前の序章が日本を例にしながら問題意識を次第に盛り上げていく部分、最後の第2部が「日本における労働契約成立の法構造」で、イギリスの法理論を指針としつつ日本のいくつもの論点に切り込んでいく部分です。

ちなみに、信山社のホームページに載っている本書の紹介ですが、新屋敷さんの肩書きが「山口大学敬愛学部准教授」になってますけど、いや敬愛するのはいいですけどちょっと違うような。

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自民特命委「単純労働者」の受け入れ容認へ@産経

今のところ、産経だけが報じているようですが、外国人労働政策の大きな転換になるかも知れません。

http://www.sankei.com/politics/news/160426/plt1604260005-n1.html

自民党の労働力確保に関する特命委員会(委員長・木村義雄参院議員)が外国人労働者の受け入れ拡大に向け、政府に示す提言案の概要が25日、分かった。政府がこれまで原則として認めていない建設作業員などの「単純労働者」の受け入れを「必要に応じて認めるべきだ」として容認し、外国人労働者政策の抜本的な転換を求める。

正確に言うと、単純労働者という概念自体をなくすべきだと主張しているようです。

特命委の提言では、単純労働者について「その概念自体をなくす」とし、「移民」以外の外国人の受け入れを基本的に認めるよう求める。

この定義の点は実は私はまったく同感で、昔から、ある種の建設労働者のようなそれなりの技能を要するいわゆる「技能労働者」を「単純労働者」と呼ぶのはいかがなものかと思っていました。単純労働者というのは、運搬清掃のような、ほんとに技能を要しないものに限るべきだと思います。

ただまあ、そういう技能労働者を外国人でまかなうのがいいかどうかは、これはこれで議論すべき事でしょうけど。

この「移民以外」というのが今度はよくわからなくて、

特命委は、政府内で統一的な定義のない「移民」についても「入国時に在留期間の制限がない者」との独自の定義を近く示し、国民に抵抗感の強い「移民政策」には踏み込まない考えを明らかにする方針だ。

と、これはちょっとなかなか通用しなさそうな独自の定義になってますね。

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拙著評いくつか

Img_752f5d874047328e26f434ce08fbda5 その間にも、ネット上には拙著『働く女子の運命』への短評がいくつか上がっておりました。

まず、「ふとっちょパパの気ままな日記」というブログ。

http://blog.goo.ne.jp/ftopapa2/e/86ac0c7c965795fc2d35b2d9d578d422

濱口桂一郎さんは、同年代。

日本の労働問題の特殊性を理解しないと、女性労働問題は理解できない。

<欧米型がジョブ、仕事に対して賃金を支払うのに対して、日本では組織のメンバーである事に対して支払う。>という指摘が、発端である。

落ち着いた筆致で、問題の解決を迫ってくる。

ただ、女性の置かれている立場も会社によって随分と違うだろうし、一筋縄ではいかないな。

同年代ですか。まあ、女性の置かれた立場は昔はどこも似たようなものだったのでしょうが、今は様々でしょう。

読書メーターには、「イグアナの会 事務局長」さんが鋭い書評を。

http://bookmeter.com/cmt/55807849

私も、管理職比率を○○パーセントにするというような、結果数字だけを目指す施策には違和感がある。男性主導の会社よりも、男女その他の様々な意見価値観が反映される会社の方が、結果を出すのは間違いない。日本社会は同調圧力がものすごく強い社会だから、同調圧力を弱める方向に施策を打つべき。長時間労働したい者はする、早く帰りたい者は帰る。短時間でも貢献した者は評価する、貢献評価は結果数字だけでなく存在や関係性構築やアイデアも入れるなど、超多面評価と多様性を認め自ら主張できる社会の仕組み作りが必要なんじゃね。

ブクログレビューでは、「かえるのこ」さんのレビューが。

http://booklog.jp/users/uniyamada/archives/1/4166610627

雇用均等法以降の就業者には見知らぬ世界ばかりで、社会法やったはずなのになあ、とびっくり。大層緻密に世相と立法の展開を教えてもらえた。世の中こんなに仕事できる人でないといけないのかな。

そう、今はもう余り記憶されていない、というか忘れたふりをしている人の多い均等法以前の日本の職場の常識だった世界を、これでもかこれでもかと見せつけるのも本書のひとつの目的でした。

Chuko_2 なおこの他にも久しぶりに『若者と労働』の書評も見つけました。

http://ameblo.jp/acdcrush/entry-12153668410.html

日本のメンバーシップ型の雇用問題と欧米やアジアなど、世界的には一般的なジョブ型の雇用の詳細やメリットデメリット、そして日本の今後の方向性等が詳細に書いてあって、実に説得性の高い著書で、興味深く一気に読んでしまった。

そして、昨日の感想と同じく、大企業の大半の大卒社員は、相変わらず今後もメンバーシップが中心だろうが、第3の道としてのジョブ型無期雇用社員の拡大も今後の方向性として大いに活用できる雇用形態ではないかと思った。

112483_2 更に、『日本の雇用と労働法』にも一言短評が。

http://bookmeter.com/cmt/55809502

日本国で労働せんとする者の基礎教養。

これはあまりにもありがたい言葉です。

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猫の夜間労働、人の夜間労働

As20160424002130_comm いや、もちろんネタですよ、ネタですけど、これはやはり一言いわなくちゃいけないじゃありませんか。

http://www.asahi.com/articles/ASJ4M5WC9J4MUTFL00M.html (猫の労働、夜は何時までOK? 猫カフェ規制で議論)

猫とふれあいながら飲食できる猫カフェの営業時間を巡り論争が起きている。動物愛護法に基づく規則では、犬や猫を店などに展示できるのは夜は午後8時までだが、猫カフェに限り、今年5月末までの経過措置で午後10時まで認めていた。ここに来て環境省は6月以降も認める方針を示したが、「猫も夜遅くまで働くとストレスがかかる」という懸念は消えない。

いやそりゃ、猫も夜遅くまで働くとストレスがかかるでしょうけど、人だって夜遅くまで働くとやっぱりストレスがかかるんですよ。

いやそんな話じゃない、って事は重々承知。

でもね、猫カフェには動物愛護法に基づいて営業時間規制があっても、人間が働いている店には営業時間規制がないんですよね。戦前の日本には商店法があったけど戦後はなくなり、下のエントリで書いたように50-60年代ごろには行政指導で一斉閉店制なんてこともやっていたけど、今やかけらも残っていないし。

そろそろ人間愛護法が必要かも知れないね。人間のご主人様の猫が人間を可哀想に思って適用してくださるっての。そういえば、星新一のショートショートにそんなネタがあったような。

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第2回派遣・請負問題勉強会は「企業経営における労使関係を考える」

NPO法人人材派遣・請負会社のためのサポートセンターが開催する「派遣・請負問題勉強会」、今年は4回シリーズで労使関係をとりあげていきますが、来月5月10日の第2回目は「企業経営における労使関係を考える」がテーマです。

http://www.npo-jhk-support119.org/page2.html

今年の「派遣・請負問題勉強会」では、昨年9月に派遣労働者の保護を前面に立てた派遣法の抜本改正を受け、人材サービス企業とそこで雇用され働く派遣労働者との「労使関係」に焦点をあて、毎回3名の講師によるセミナー形式で、4月から10月にかけ開催します。

その第2回目を、労働政策研究・研修機構の濱口桂一郎主席統括研究員並びに呉学殊主任研究員のお2人と、無印良品を展開する㈱良品計画の企業再建を果たした松井忠三元良品計画代表取締役会長の合計3名に方々を講師としてお招きし、5月10日(火)に開催いたします。人材サービス企業は自ら雇用した労働者にどう向き合っていくべきか共に考える機会にしていければと思います。是非ご参加いただきますようご案内申し上げます。

1. 導入プレゼンテーション「企業経営にとっての労使関係」 労働政策研究・研修機構主席統括研究員 濱口桂一郎  

2. 講演1「経営資源としての労使関係」  労働政策研究・研修機構主任研究員 呉学殊  

3. 講演2「無印良品の人の育て方」  株式会社良品計画元代表取締役会長 松井忠三

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一斉閉店制

引き続き、「こたつ@人柱」さんのつぶやきに反応しておきます。

https://twitter.com/Ningensanka21/status/723700462575218688

前に読んだ『労働基準法が世に出るまで』で、筆者がどこかの地方局のお偉いさんの時に、深夜・長時間労働抑制のために、その地域全体の店舗に最終営業時間を「指導」して回ったというエピソードが描かれていた(あまり定着しなかったようだけど)

これはおそらく、50~60年代初め頃の時短指導のエピソードだと思われます。

4623040720 拙著『労働法政策』から関係部分を引用しておきます。

 労働時間法制の規制緩和をめぐる攻防が終わった地点から、今度は労働時間短縮に向けた行政指導の時代が始まる。まずは、中小企業を労働基準法の求める水準まで持っていくための行政指導が行われた段階である。

 そのきっかけになったのは、1955年春、大阪市内で起こった休日もなく働かされることを恨んだ店員による店主殺害事件であった。これを契機に、翌1956年5月から、大阪労働基準局の指導のもとに、大阪松屋町地区商店街が毎日曜日一斉休日に踏み切った。続いて1957年9月から東京労働基準局の指導のもと、東京日本橋横山町問屋街が毎日曜日一斉休日を実施し、以後全国に広がり、1958年9月末までに2000以上の団体で実施されるに至った。同業者が軒を並べ互いに競争関係にある中小商業サービス業においては、自分の店だけ休むと他の店に客を取られるということから、一斉休業方式が有効な手段であり、労働省は同年10月「週休制の推進及びこれに伴う余暇の善用について」(基発第663号)を発出して、全産業に週休制を普及することとした。

 また、戦前は商店法で規制されていたが戦後規制のなくなった閉店時刻についても、1960年10月から千葉労働基準局の勧奨により全県下一斉に閉店時刻を午後9時とする一斉閉店制を実施し、ついで労働省も同年12月「商店街等一斉閉店制普及推進要領」(基発第1007号)を発出して、その普及を図った。

このころはこういう、開店日や開店時間そのものを労働行政が指導するということが行われていたんですね。

その後はこういうのは絶えてみられませんが。

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ブラックバイトが問いかけるもの

昨日いただいた今野晴貴『ブラックバイト』(岩波新書)に絡んで、「こたつ@人柱」さんがこんなつぶやきをされていますが、

https://twitter.com/Ningensanka21/status/723114677257949185

非正規雇用問題では「労働者」としての地位を獲得する方向性なのに対して、ブラックバイト問題は「学生」としての地位を獲得する方向性なので、低賃金や雇い止めなど従来の非正規問題とは同一視できない難しさがある。極端な話、そもそも「労働問題」なのか?という問も成り立つと思う。

いや、それももちろん「労働問題」ですが、ベクトルの向きが違うのも確かで、すごく重要なポイントに触れていると思います。で、実はそれが主婦パートの問題とも微妙に絡む。

実は昨年8月、『労基旬報』に「ブラックバイトが問いかけるもの」というのを寄稿しているので、ご参考までに。

 2012年に今野晴貴『ブラック企業』(文春新書)が刊行されて以来、労働論壇の注目トピックはブラック企業問題でしたが、最近そこにブラックバイトという言葉が付け加わったようです。今年4月に刊行された大内裕和・今野晴貴『ブラックバイト』(堀之内出版)も話題を呼び、厚生労働省も今年3月には「アルバイトの労働条件を確かめよう!」キャンペーンを実施し、6月には 「アルバイトの労働条件」について労働基準局長と大学生の座談会が開催されるなど、政策課題としても注目されつつあります。
 ブラックバイトとは、「学生であることを尊重しないアルバイト」と定義されます。具体的には、学生に対して拘束力が強まり、試験前や試験期間にテスト勉強ができないとか、講義やゼミをアルバイトのために欠席してしまい、単位を落としてしまうといった事態が頻発しているというのです。
 この問題を特集している『POSSE』27号によると、ブラックバイトとは(a)職場への過剰な組み込み、(b)最大限安く働かせる、(c)「職場の論理」に従属させる人格的支配からなるということですが、これは今までの日本型雇用システムにおける正社員に適用されるロジックと非正規労働者に適用されるロジックの奇妙な組合せになっていることがわかります。
 しかし、筆者も含めた上の世代には、こうした最近のアルバイト事情はなかなか伝わりにくいようです。なぜブラックバイト問題が上の世代に伝わりにくいかというと、上の世代にとってはブラックではない学生バイトが当たり前だったからです。かつては、学生の都合に合わせてシフトを調整するという企業が当たり前であったのです。ところが、それが大きく変わってしまいました。
 実は、これはアルバイトと並ぶ伝統的非正規労働形態であるパートタイマーにおいて先行して起こった非正規労働の基幹化という事態の、文脈を異にした再現という面もあるのではないかと思われます。
 ただし、パートの場合は、主婦が片手間にパートをしている→パートの仕事が基幹化して肝心の主婦業がおろそかになっている、ケシカラン・・・という主婦モデルからの批判が主流化する方向には行かず、パートといえどもれっきとした労働者だ→パートの仕事が基幹化してきたのなら、それに応じた処遇にしろ・・・という労働者モデルからの批判が主流化する方向に行きました。そして、家事育児といったそれまで主婦の「本業」と考えられていたことどもについては、(もちろん社会意識は必ずしもそうなっていませんが)労働者みんなにとってもその間のバランスを取られるべき問題であるというWLBモデルが主流化していきます。
 また、いわゆるフリーターの場合は、主婦や学生といった社会学的「本業」がないだけに、より直裁に、かつての臨時工をめぐる議論に近い形で、労働者モデルからの批判がされました。
 これに対して、ここに来て改めて学生という社会学的「本業」とのコンフリクトが前面に出てくる形で非正規労働者の基幹化がクローズアップされてきたわけです。
 とすると、目の前の様々な問題を一旦括弧に入れて、マクロ的にものごとの推移を考えれば、
・学生が片手間にバイトをしている→バイトの仕事が基幹化して肝心の学生業がおろそかになっている、ケシカラン・・・という学生モデルからの批判
・バイトといえどもれっきとした労働者だ→バイトの仕事が基幹化してきたのなら、それに応じた処遇にしろ・・・という労働者モデルからの批判
という二つの方向性があることがわかります。現時点では、この両方の流れが入り交じっています。
 主婦モデルが(意識は別として)政策レベルでは過去のものになりつつあるのに対し、学生モデルは現在でもなおかなりの正統性を持っています。だからこそ「学生であることを尊重しないアルバイト」という単純明快な定義がされるわけです。「主婦であることを尊重しないパート」がブラックパートだなんて言ったら、アナクロニズム扱いされるのとは違います。
 しかし、私はむしろそこにブラックバイト現象を根っこのところで生み出している問題点があるように思います。それは、そんなに大事な大学の授業って、ほんとにそんなに大事なの?という肝心要のところで、実は必ずしもそうだと思われていない、とりわけ人文社会系の学部ではそういう傾向が強いという、みんなうすうすわかっている問題です。その背景にはもちろん、中身は空白の石版でも、働く意欲だけは満々であることが求められる「就活」があるわけです。そこまで踏み込まないでこの問題を議論しても、表層的な議論にとどまっている感をぬぐえないところがあります。
 やや先走って言うと、学生が大学で受ける授業とコンフリクトのない正しい就労形態というのを追求していくと、それこそドイツのデュアルシステムとか、アメリカのインターンシップモデルのような産学連携型の学習と労働の組み合わせという方向にならざるを得ないのではないでしょうか。しかし、それこそ人文社会系の大学の先生方から口を揃えて非難囂々の政策なのです。

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渋谷龍一『女性活躍「不可能」社会ニッポン』

Show_image 旬報社の古賀さんより、渋谷龍一『女性活躍「不可能」社会ニッポン 原点は「丸子警報器主婦パート事件」にあった!』をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.junposha.com/catalog/product_info.php/products_id/1081?osCsid=s1oclllptqghk7mre7qn502ji0

「あなたはそんなに安い賃金がいやならなぜ辞めなかったんですか。」

世間知らずな弁護士の言葉に冷静さを失いそうになった……

だが気を取り直して、私はなぜ辞めなかったのだろうか、と自問した。正直に思うままの回答は、傍聴している臨時社員たちが自然にうなずく全員の気持ちだった。

「一緒に苦楽を共にして働く素晴らしい仲間がいるからです。」

弁護士は二の句が継げず黙ってしまった……(本文より)

日本社会における不合理な非正規問題に挑んだ女性たちの壮絶なたたかいの記録。

というのが、私の目から見ても本書の面白いところです。

労働法をかじった人なら誰でも知ってる丸子警報器事件ですが、非正規労働者の処遇問題のリーディングケースで、せめて8割というモノサシを示した裁判例、というラベルだけではわからない、実に波瀾万丈の労使紛争の物語がその背景にあったというのは、労働法研究者にとって必読のストーリーと言えるかも知れません。

この会社、もともとは青年団長出身の委員長率いる正社員組合との対立が前史としてあったんですね。その中で社長側はやたらに管理職を増やしていき、管理職と臨時社員をあわせて過半数に届く頃合いを見て、正社員以外だけで「協友会」というのを作らせて、労組を潰そうと企んでたんですね。

ところが、臨時社員を集めた食事会で、社長が「何か不満はありませんか」と聞いたところ、「よくやっているというなら、どうしてこんなに正社員と待遇が違うんですか」といわれ、社長は激怒して出て行ってしまった、とか。

そこで正社員労組は臨時社員たちをオルグしていき、臨時社員加入を会社側に通告。役員曰く「委員長よ、臨時社員は組合には入れないんだよ、知らないのか」。その役員が六法全社を抱えているのを見て噴き出す。「やっぱりこんな会社なんだ、労組がもっと良い会社にしてやる」・・・。

という、なんだか冗談みたいな話も交えて波瀾万丈の労使紛争が行き着くところまで行き着いたのがあの有名な裁判だったというわけです。

ただ、実はこれは第5章。それ以外は、第4章も愛知県の戦うパート女性のストーリーですが、その前はやや肩に力が入りすぎた「論」をぶちすぎている感があります。

いやいっていることは私ももっともだと思います。主婦パートは主婦だというだけでどうでも良いことのように扱われているのはけしからん、と。

08720528 これは、前に本ブログで取り上げた本田一成さんの『主婦パート 最大の非正規雇用』で主張されているのとほぼ同じです。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/01/post-7a89.html

この本のメッセージは題名その通りです。最近、非正規労働問題というと派遣労働者が中心で、フリーターなど若者問題ばかりが取り上げられますが、主婦パートという最大勢力を忘れるなよ、そこに最大の問題点が潜んでいるんだよ、というメッセージでしょう

でも、だからといって、上級者とか何とかという言い方はどうかな、という気はしました。

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今野晴貴『ブラックバイト』または究極の悪いとこどり

S1602今野晴貴さんから力作『ブラックバイト 学生が危ない』(岩波新書)をお送りいただきました。まさに時宜に適した一冊です。

http://www.iwanami.co.jp/hensyu/sin/sin_kkn/kkn1604/sin_k885.html

学生のアルバイトにもかかわらず、過重な責任を負わされる。そんな「ブラックバイト」と呼ばれる労働が、広がっている。休みなしの10日連続勤務、休日出勤や他県への出張命令……。授業に出ることができない、テストを受けることができない、果ては留年・退学にいたるケースもある。親からの相談も絶えない。

 「子どもが家に帰ってこない、学校にも行っていないようだ」
             「アルバイト先に出勤を命じられて、大学を退学してしまった」
             「高校生の子どもがアルバイト先でうな重を10個も買わされて帰ってきた」

 本書では、筆者の労働相談経験を元に、ブラックバイトがなぜ今、これだけの猛威を振るっているのかについて、学生を雇用する(1)「企業の側の事情」と、(2)「若者の意識」を分析し、解決策を模索する。

           また、本書ではブラックバイトの見分け方や対処法も詳しく指南した。特に、高校生・大学生の子を持つ親や学校の教職員にはぜひ実態を知ってほしい。

例によって、今野さんらPOSSEスタッフが蓄積した様々なブラックバイトの事例をこれでもかと叩きつける前半部と、それをよりマクロ的な視座から分析し、対策を論じていく後半部とがうまく組み合わされた本になっています。

私の問題関心からはやはり、いわゆるブラック企業問題とともに、いやむしろそれ以上に、やや伝統的な正規雇用-非正規雇用の二項対立図式の「常識」を逆手にとって究極の「悪いとこどり」を実現してしまったという点が注目されるべきでしょう。

ブラック企業やブラックバイト以前の「格差問題」は、優遇される正社員はそれなりのきつい義務を負っているから、待遇の低い非正規は自由で責任も軽いから、というそれなりの納得のあるバランスの上に成り立っており、水町勇一郎さんのいう「同一義務同一賃金」の考え方で、ある程度までは説明できるものであったといえます。

しかし今野さんが摘出するブラック企業やブラックバイトは、その常識をあっさりとひっくり返してしまいます。

とりわけ本書が追求するブラックバイトでは、もともと学生の小遣い稼ぎであることを前提に、正社員のそれとはかけ離れた軽い責任しか負わないはずであった学生アルバイトに対して、その待遇は全くそのままに、下手な正社員よりもはるかに重い責任をずっしりと載せていき、あまつさえそれを学生たちの「責任感」、「想像の職場共同体」意識、「達成感」、「経営との一体感」、「疑似経営者目線」などでぐるぐる巻きに縛り上げ、授業も受けられない、テストも受けられない、果ては就職活動もできない、というとんでもない状況を、決して特殊例でもない普通のことのようにしてしまっているわけです。

改めて、一昔前までの正規-非正規パラダイムを頭の中心に置いたままでうかつに非正規問題を論じると、かえっておかしな方向に導かれてしまうかも知れないという警告の書ということもできるでしょう。

究極のジョブ型労働であったはずの、それゆえにメンバーシップ型正社員と比較しての低賃金不安定雇用が正当化されていたはずの学生アルバイトが、気がついたら昔の正社員よりもさらに重苦しい奇妙にメンバーシップ型の、しかしそれを担保するものは何一つないという奇怪な状況に追い込まれてしまっているという姿は、もっと多くの人々によって論じられる必要があることは間違いありません。

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『働く女子の運命』と『女なのでしょうがない』

Img_752f5d874047328e26f434ce08fbda5「エイゾクの読書録」というブログで、拙著『働く女子の運命』が取り上げられているのですが

http://chukadondaisuki.cocolog-nifty.com/eizoku/2016/04/post-9e72.html

そこで、私も知らないあるコミックが「併せて読むと良い」と推奨されていました。

ここで思ったことは、
他人から自分のことを決め付けられることが、差別を受けたということだし、
他人をそういう人だと思い込むこと(疑いの無いこと)が、差別をすることの本質だということです。
この辺は
女なのでしょうがない(講談社コミックス), 近 由子
が具体的ですね。
あわせて読むと良いです。

9784063954715_lどんなコミックなんだろうと思って検索してみると、

http://kc.kodansha.co.jp/product?isbn=9784063954715

貯金額を心の支えに生きる31歳独身・青木美希。彼女の周りにいるのは「だから女は嫌なんだ」と切り捨てる上司(うるせえ)。「結婚は? 子供は?」とプレッシャーをかける母親(黙ってて)。上っ面の付き合いしかない後輩(とりあえず仕事して)。「女」という重圧に縛られ、傷だらけで生きる“彼女達”。全てがどうにもならん! 彼女達の生き様を描きながら贈る、辛辣で優しい、全女性への応援歌!

試し読みもできるようになっていて、結構面白いです。

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ハワード・ベッカー『アート・ワールド』

23240訳者の後藤将之さんより、ハワード・ベッカー『アート・ワールド』(慶應義塾大学出版会)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.keio-up.co.jp/np/isbn/9784766423242/

アートはいつ、どのように、誰によって「アート」になるのか? 
▼誰もがアーティストになりうる時代の「創造のプロセス」を鮮やかに解明し、全包括的な「アート・ワールド」の理論を提示する、アメリカを代表する社会学者ベッカーの傑作。
▼アート作品は、才能あるアーティストだけではなく、アーティストや作品を取り巻く人々で成り立つ「アート・ワールド」によってうみだされる。本書では、この「アート・ワールド」の仕組みをあきらかにすることで、「何がアートを成立させるのか」「何がアートとクラフトを区別するのか」「アート・ワールドでの自分の役割はどんな意味を持つのか」「なぜ自分の作品は望ましい評価を得ていないのか」「どうすれば自分の作品をふさわしい受け手に見てもらえるのか」など、あらゆるアートやクラフト関係者が抱くであろう基本的な疑問に、民主主義的な回答を与えている。
▼アマチュア作品やマイナー作品をも包摂しうる、アート・ワールドの理論を示した快著。

という本で、正直言うと、長年にわたって労働などという泥臭い世界にどっぷり浸かってきた身からすると、アートの社会学といわれてもなかなか気持ちがついていかないところがあるんですが、それでも特に第9章の「アートとクラフト」における職人(クラフトマン)とアーティストの複雑な関係などは興味深いものがありました。

1 アート・ワールドと集合的行為
2 規 則
3 資源を動員する
4 アート作品を分配する
5 美学、美学者および批評家
6 アートと国家
7 編集する
8 統合された職業人、一匹狼、フォーク・アーティスト、そしてナイーブ・アーティスト
9 アートとクラフト
10 アート・ワールドの変化
11 評 判
12 25周年記念版へのエピローグ

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セリグ・パールマン著『労働運動の理論』@『HRmics』24号

1海老原さんのニッチモで出している『HRmics』24号は、「気がつけば、異国からの人たち」と題して、技能実習生、留学生、外国人新卒採用といったトピックを大きく扱っています。

http://www.nitchmo.biz/hrmics_24/_SWF_Window.html

1章 少子高齢化時代の社会的シフト

§1.最後の1ピースとしての少数外国人労働者
§2.外国人労働力管理システムとしての技能実習生制度

2章 人材枯渇で技能実習生対応も新ステージに

§1. 「安い」から、「手間をかけてでも」に
§2.この制度の発展のカギが何か

3章 なぜ、留学生は日本を選び、日本で働いてくれるのか

§1.留学生獲得競争、勝利の法則
§2.日本の大学を選び、日本で就職する理由
§3.流通・サービス業が留学生の十八番になる理由

419rpd1k8dl__sx335_bo1204203200_私の連載「原典回帰」は、セリグ・パールマン著『労働運動の理論』です。

といっても、恐らく100人中100人までが誰それ?何それ?という状態でしょう。

 前回に引き続き、アメリカの古典です。ただし、前回がサミュエル・ゴンパースという労働運動リーダーの自伝であったのに対し、今回はアメリカ労働運動の内在的ロジックを見事に摘出した学者の本です。ゴンパースに体現されるビジネス・ユニオニズムの根底にあるものを「仕事意識」(ジョブ・コンシャスネス)として取り出し、一貫した体系として理論付けたのがパールマンなのです。 ・・・

上のリンク先で読めますので、一体そいつは何者なのか確認してみてください。こういう領域が、今の日本人の知識からはすっぽりと抜け落ちているのです。

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「Full-time Life」ブログの拙著評

Img_752f5d874047328e26f434ce08fbda5 「Full-time Life」というブログで、拙著『働く女子の運命』を評していただいています。

http://fulltimelife.net/?p=9119

「女性/総合職」の問題にまでおよぶ女性の働き方についての歴史的な変遷も含めた論考となっています。文集新書ってあんまり読まないんですが、これはいい本でした。結局題名にもある通りこれまで──というのは、戦前まで遡る「これまで」ということになるのですが、働く「女性」とは「女子」であり、夫があり子供がある「女性」が働くことについてはむしろ問題にすらされてこなかった歴史的背景には、まず知識として知っておくべきものが多くありました。・・・

というところから、あるべき理想像の実現の難しさを語っていきます。最後には、

・・・・ぼくもこのブログでは何度か書いているかもしれませんが、とにかく総合職が胸を張って定時に帰宅できる会社・社会。これをいかに実現するかなんですよね。なかなか解がなくて難しいのですが、引き続き考えていきたい課題です。

と、述べています。

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タイトルで損してる本?

Img_752f5d874047328e26f434ce08fbda5 現在一歳児育児中の女性労働弁護士の「りっぴぃ」さんが、拙著についてこういうコメントをされているんですが・・・・。

https://twitter.com/rippy08/status/720463636616056832

「働く女子の運命」もパラパラ読み進めていますが、これ、「女性労働史」ですよね……タイトルで損してる本だと思いますー^^;

主として大企業が、正社員女子労働者をどう扱ってきて、その結果どんなことが起きてきたか、みたいな。

「タイトルで損してる本」という評をいただきました。

いや、それはどういう立場から見るかによると思うんですが、確かに女性労働問題を真面目に検討しようという観点で本を探している人の目からすると、「なんや、この薄っぺらそうな、安易なタイトルは・・・、中身も多分薄っぺらでろくでもないものに違いない」という風に思われてしまうリスクというのはあるのかも知れません。

でもですね、世の圧倒的に多くの方々は必ずしもそういう目でもって本を眺めているわけじゃなくて、ちょっと面白そうな気を惹かれる本を探しているんだと思うんですね。

そういう人に手にとっていただいて、「なんやこれ、思ったより真面目にきちんと歴史をたどり、女性労働者の今までの姿を描き出しているじゃないの」と思っていただけるならば、之こそ書いた人間の本望というものであって、その意味では、この文春編集者のつけていただいたタイトルは、結構「タイトルで得してる本」なんじゃないかと思っているんですよ。

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『二宮誠オーラル・ヒストリー第二巻』

『二宮誠オーラル・ヒストリー第二巻』をお送りいただきました。

二宮誠さんと言えば、本ブログでもオーラルヒストリーを始めとして何回も取り上げてきた方です。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/11/post-e847.html(『二宮誠オーラルヒストリー』)

二宮誠さんといえば、知る人ぞ知るゼンセンの伝説的なオルガナイザーであり、日本三大オルグの一人と唱われた方ですが、その二宮さんが満を持して(?)オルグの秘策をぶちまけています。これは本当に必読。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/11/h-7bb6.html(組と組合はどう違う?)

こういうのを見ると、「組と組合はどう違う?アイがないのが組、アイがあるのが組合」という戯れ言がなるほどという気になります。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2013/12/post-5f85.html(誰か『組合オルグ一代』を映画かドラマにしませんか?)

これはほんとに、映画かドラマ化したら結構受けそうな気が。

ダンダリンが評判とってる時期だけに、組合オルグの一代記ってのもいいんじゃないか、と心ある映画人かテレビ人はいないものでしょうか。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2014/12/post-71e8.html(二宮誠『労働組合のレシピ』)

その二宮誠さんのオーラルヒストリーの第二部ということで、前回聞き逃した事項を中心にいろいろと語っています。

中心はゼンセン名物の統一闘争です。統一闘争とは、ほかの企業別組合の賃金闘争とは違って、ゼンセン本部が中央集権的な権力をちゃんと維持しており、ゼンセン会長(中央闘争委員長)の許可がなければ加盟単組は妥結が許されないという仕組みです。

許さないというのは、破ったら除名ということで、実際かつてカネボウ労組が本部の許可なく勝手に会社と妥結したとして除名され、その後謝って戻ってきたという出来事もありました。

今回の第二部は、そもそも終戦直後、総同盟を再建した松岡駒吉はちゃんとした産別組合を作りたかったのに、GHQの命令で仕方なく企業別組合にせざるを得なかった云々という歴史的経緯から説き起こし、今やゼンセンくらいしか堅持していない統一闘争の神髄を語っています。

あと、前のオーラルはUIゼンセン時代でしたが、その後サービス流通連合と合併してUAゼンセンになっており、その合併のいきさつ等についても語っています。

最後の最後のところで、意外な秘話が披露されていますが、これって、労働界最強のオルグを経営側が取り込んでしまおうという凄い陰謀だったのでしょうか。

・・・これもオフレコですが、いよいよ退任というときに何人かの経営者から声がかかって、事務所を出さないかと。そこに弁護士を一人配置する。社会保険労務士を配備する。事務所の運営は任せるから、という話があって。そのときに、もしこれに乗ったら最大の裏切り者だなと(笑)。今まで四十何年、人生を賭けてやってきて、全て金のためにパーになると。それはいくら何でもできないなと思いましたね。

しかし、抜群に良い目の付け所であったことは間違いないと思います。

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小林美希『夫に死んでほしい妻たち』

17981小林美希さんの新著『夫に死んでほしい妻たち』(朝日新書)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=17981

家事や育児において、妻の「してほしい」と夫の「しているつもり」の差は、想像よりもはるかに大きい。のみ込んだ怒りが頂点に達した妻の抱く最後の希望は「夫に死んでほしい」……。世の男性たちを戦慄させる、衝撃のルポルタージュ!

とはいえ、なんともあざとい、というか書店で見かけたら思わず手に取らせてしまう凄いタイトルですね。

冒頭から「死ね!!」が炸裂します。日本死ね、じゃなく、

「お前、何やってんの!? ふざけんな、死ね!!」

午前7時半、都内のマンションでは、まるで戦場と化したリビングルームで妻から夫への怒号が飛んでいた。・・・

・・・そのとき、夫は台所に逃げ隠れている。この大変な状況を横目にして、お皿を洗って自分のコーヒーを入れ始めているではないか。

それに気付いた瞬間、美由紀さんの心にはっきりした殺意が芽生えた。

-はあ!?何で今、皿を洗ってんだよ、てめー、。近くにいてわかんねーの?大変なのっ。しかも、コーヒー入れてんじゃねーよ?もー!早く手伝えよっ!!

という具合で、「子どもを保育園に送るだけでイクメンを気取るな!」「妊娠中に何度も飲み会に行きやがって!」「夫が介護になったら、との届かないところに水を置いてやる」!といった妻の夫への呪詛がこれでもかこれでもかと連ねられています。

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派遣・請負業界の労使関係を考える サポートセンターの第1回勉強会

今日開かれた勉強会が、早速アドバンスニュースで報じられていますね。

http://www.advance-news.co.jp/news/2016/04/post-1860.html

N160414_2 ・・・濱口氏=写真右=は昨年9月に施行された改正労働者派遣法の成立過程を踏まえ、派遣業界が政治やマスメディアなどの偏見を容易に払しょくできない原因の一つに「味方になる労組がほとんどいない」点を挙げた。それを踏まえて「日本の労使関係の現状と課題」と題して講演した。

 濱口氏は欧米や日本の近代労働関係史を概観したうえで、先進諸国では「仲良くケンカする」労使関係が一般化しているものの、日本では非正規労働者についてはそれがあてはまらず、労組が前面に立つ集団的労働争議の激減と労働者個人が訴える個別労働紛争の激増が顕著になっている点を指摘。

 中でも、派遣・請負業界は就労形態から、個別紛争の「火薬庫」となっており、紛争を円滑に解決する集団的労使関係の新たな枠組みを設定する必要がある、と強調した。・・・

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文春新書amazon4位

Img_752f5d874047328e26f434ce08fbda5 本日、都内某所で、ウェッブ夫妻だの、マルクスだの、ゴンパーズだのという名前が出てくる、思いっきり労使関係論の基本を語るという講演をしましたが、聞きに来られていた中に文春新書編集部の高木知未さんがおられて、ちょっと言葉を交わした中で、拙著『働く女子の運命』がamazonで文春新書4位になっているといわれたので確認してみると、確かにそうなってますね。

http://www.amazon.co.jp/gp/bestsellers/books/2220224051/ref=pd_zg_hrsr_b_1_3_last

これより上にあるのは、ルトワックの『中国4.0』の紙版とkindle版、内田樹の『寝そべり・・・』ということなので、まあ結構売れてるんですね。

高木さんによると、大学の書店からの引き合いがすごく多いということで、おそらく大学の先生方が参考書として推薦しておられるのでしょうか。ありがたいことです。

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児美川孝一郎『夢があふれる社会に希望はあるか』

9784584125021 児美川孝一郎さんから新著『夢があふれる社会に希望はあるか』(ベスト新書)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.kk-bestsellers.com/cgi-bin/detail.cgi?isbn=978-4-584-12502-1

なかなか皮肉の効いたタイトルですが、

夢を持つことは、いつもそれだけで良いこととして語られる。

夢を持って努力する人は素晴らしいと賞賛されるし、夢を実現させた人が「あきらめなければ夢はかなう」と言うと、なんだかそんな気がしてくる。

そういう意味で、この社会には「夢をあおる」風潮がある。

しかし、夢を持つことはそんなに素晴らしいことなのか?

「努力すれば夢はかなう」というのはある種の迷信だと、みんなどこかで気づいているはずなのに、夢がかなえられなかったときにどうすべきかについて、誰も言及しようとしない。

こんな無責任な社会の中で、周囲の理想論に惑わされずに人生設計をする方法とは?

キャリア教育の専門家である著者が提言する。

そもそも「就社」社会の日本で、ジョブの夢を追わせるということだけでもかなりインチキなんですが、「就職」社会の欧米ではそんな夢を追わせないということを考えると、むしろ、それだからこそ空疎な夢を追わせるしかない、という姿が浮かび上がってきます。

もちろん、児美川さん、夢をたたきつぶしてことたれり、というわけではありません。

エピローグに出てくる、

「等身大の、ありのままの自分が認められ、でも、少し背伸びすることを求め、励ます社会」

というのがいいですね。「少し背伸び」ってあたりが。

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片山悠樹『「ものづくり」と職業教育』

Voc 岩波書店の山本賢さんより、その編集された片山悠樹著『「ものづくり」と職業教育―― 工業高校と仕事のつながり方 ――』をお送りいただきました。

http://www.iwanami.co.jp/cgi-bin/isearch?head=y&isbn=ISBN4-00-025322

若者の職業移行が困難ななか,社会的関心が高い「職業教育」.本書はその可能性と限界を,工業高校の「ものづくり」教育を手がかりに考える.どのような知識や技能について,その有用性や価値を,誰が,何を基準に,どのように承認し,それはどう活かされているのか.――職業教育論争に一石を投じる貴重な実証研究.

オビに「本田由紀氏推薦」とあるとおり、職業教育のレリバンスの諸相を特定の工業高校に密着してその微妙な姿を浮かび上がらせています。

面白いのは、現在の工業高校では「ものづくり」という言葉が大変はやり言葉になっているのですが、かつては必ずしもそうではなかった、いやむしろ、日教組の教研集会の記録などから浮かび上がってくるのは、「単なるものづくりになるような体験的学習」に批判的な教師たちの姿だったりするのです。

転機は1999年にゼンキン連合(現在のJAM)が中心になってできたものづくり基盤技術振興法だったそうで、意外なかたちでつながっているのですね。

片山さんは教育社会学の方ですが、こういう問題を取り上げることから労働経済学で議論される技能や熟練についても突っ込んだ議論を試みられています。このあたりは、もう少し踏み込んで論じてみたいところではありますね。

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OECDが日本に勧告

20160411sgbrochure_home例によって、OECDが日本に勧告しています。

http://www.oecd.org/regional/japan-will-need-reforms-to-ease-economic-blow-of-a-shrinking-workforce.htm(Japan will need reforms to ease economic blow of a shrinking workforce)

総花的な記述なので、それぞれに自分に都合の良いところばかりを引用しがちなわけですが、労働関係でいえば、やはりこの一節かと。

The Better Policies Series Report also calls for policies that make it easier for both men and women to combine work and family life, in part by changing Japan’s culture of long working hours. Moreover, Japan needs to expand affordable access to quality early childhood education and care. This can help increase the employment rate of women, which currently is 18 percentage points below that of men. In addition, the employment opportunities for older people need to be improved, notably by enhancing their ICT skills and fostering lifelong learning. Such measures will not only boost growth but also contribute to a more inclusive society.

http://www.oecd.org/tokyo/newsroom/japan-will-need-reforms-to-ease-economic-blow-of-a-shrinking-workforce-says-oecd-japanese-version.htm

Better Policies Seriesはさらに、例えば日本の労働文化である長時間労働を改めることなどによって、男性も女性も仕事と家庭生活を両立しやすくする政策の導入を呼びかけています。また、質の高い幼児教育と保育を手ごろな価格で利用できるよう拡大する必要があります。それによって、現在は男性よりも18ポイント低い女性の雇用率を高めることができます。それに加えて、高齢者の雇用の機会も、高齢者のICT技能を高め生涯学習を奨励することで増やす必要があります。このような方策は成長を促進するだけでなく、より包摂的な社会の構築にも貢献します。

うーーむ、長時間労働は日本の文化ですか。

ガキがうるさいといって保育所を潰したがるのもスバラ式日本文化じゃないでしょうね。

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久島豊樹さんの拙著評

Img_752f5d874047328e26f434ce08fbda5 「HRM Magazine」における久島豊樹さんの「HR Books」の書評で、拙著『働く女子の運命』が取り上げられています。

http://hrm-magazine.busi-pub.com/books1604.html

法的に「男女平等」を実現していながら女性活躍推進が進まない我が国には,条文に現れない阻害要因があるのではないかと著者は疑う。「ジョブ型」(欧米型)の雇用関係の場合は“その仕事ができるか”を基準に女性の職域が拡大され男女平等に行き着いたが,「メンバーシップ型」(日本型)のもとでは,忠誠心やら家族を養う給料やら様々な事情が絡み合って問題が複雑だと読み解いている。その過程では歴史に分け入り,女工から職業婦人,女子挺身隊,BG,OLに至るまで,時代ごとに象徴されるトピックを取り上げている点が面白い。例えば,1930年代にはすでに男女賃金格差是正の声は挙がっていたというが,一方で,婚期を逸することがないよう「女子事務職28歳定年」の制度化が肯定される時代だったと振り返る。また,戦時中の女子労働力の活用は婦人団体の側が積極的で,軍部は家族制度の崩壊を懸念し消極的だったという話も興味深い。中長期の変遷で見れば,女性総合職の活用は1990年代半ば以降であり,今はまだ変化の途上という認識が腑に落ちる。

いやもちろん、話の本筋も大事なんですが、本書を書きながら実は密かに楽しんでいたのは、そういうややトリビアめいたあれこれの歴史秘話だったんですね。

例の日本女子大を出た谷野せつが日本初の女性監督官になったなんて話も、朝ドラの関係で少しは受けるかな、とか思ってたんですが・・・。

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新ジョブ・カード制度@WEB労政時報

WEB労政時報のHRwatcherに「新ジョブ・カード制度」を寄稿しました。

https://www.rosei.jp/readers-taiken/hr/article.php?entry_no=521

昨年9月に成立した青少年雇用促進法は、実は勤労青少年福祉法と職業能力開発促進法の二つの法律の改正法でした。このうち前者については事実上全面改正で、本連載でも何回か取り上げてきたところです(「若者雇用法」作成中〔2014年12月26日〕、労働法教育の努力義務〔2015年3月27日〕、青少年雇用促進法の指針〔2015年10月9日〕)。内容的にも、情報提供義務、求人不受理、労働法教育など話題になるようなトピックが多く、注目を集めています。これに対し、もう一つの改正された法である職業能力開発促進法については、いささか地味なためか、あまり議論の対象になっていないようです。しかし、内容的にはいくつか注目すべき点もあり、少し前の経緯からまとめておきたいと思います。・・・>

と、今回の法改正の内容、新ジョブ・カード制度推進基本計画などについて説明しております。

なんですが、最後のところで、思わずこういう感想を述べております、

・・・こうした政策はもう10年以上にわたって進められてきているわけですが、その割りに日本の労働市場は一向にジョブ型に向かって進化しているようにも見えません。雇用システムと労働市場の在り方は複雑に絡み合い、ジョブ・カード制度一つで企業の人事労務管理制度が変わるようなものではないというのが現実なのでしょう。企業の中枢は依然としてメンバーシップ型の感覚を濃厚に維持したままで、ジョブ型を前提にした公的制度ばかりを手厚く完備してみても、それは労働市場の周辺でしか機能しないという状態が依然として続くのでしょうか。

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石田眞・竹内寿 監修『ブラックバイト対処マニュアル』

Syoei朝日や日経が記事にしていますが、早稲田大学が『ブラックバイト対処マニュアル』を新入生全員に配ったそうです。

http://www.asahi.com/articles/ASJ306VT3J30ULZU008.html(「ブラックバイト対処マニュアル」早大、新1年生に配布)

http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG09H0O_Z00C16A4000000/(ブラックバイトに気をつけて! 早大、新入生にマニュアル )

そのマニュアルがこれ。

http://www.waseda-up.co.jp/newpub/post-710.html

早稲田大学学生部学生生活課 協力 石田眞・竹内寿 監修

ちなみに発行者は「島田陽一」と、労働法の先生が並んでいますな。

学生のみなさんへ
ブラックバイト・チェックシート

1 賃金トラブル:賃金が求人票や契約と異なる
2 賃金トラブル:賃金が最低賃金よりも安い
3 賃金トラブル:賃金が仕事に見合わない
 【コラム】主体性と善意につけこまれ…
4 賃金トラブル:賃金が支払われない
5 賃金トラブル:残業代が支払われない
6 労働時間トラブル:シフトが強要される
 【コラム】これぞブラック!
7 労働時間トラブル:定時になっても上がれない
8 休憩・休暇トラブル:休憩が取れない
 【コラム】コンビニバイトの落とし穴
9 休憩・休暇トラブル:有給休暇が取れない
10 弁償・罰金トラブル:ノルマが強要される
11 弁償・罰金トラブル:弁償や罰金が強要される
12 弁償・罰金トラブル:制服、道具等の購入が強要される
 【コラム】なぜ辞められないのだろう
13 仕事内容トラブル:重い責任を背負わされる
14 仕事内容トラブル:研修体制が不十分である
15 いじめ・嫌がらせトラブル:パワハラされる
 【コラム】教え子のために辞められない現実
16 労災トラブル:仕事中のケガを労災と認めてくれない
17 辞職トラブル:辞めさせてもらえない
 【コラム】アルバイト先と交渉の末、有給休暇を取得

知っておきたいワークルール
労働条件通知書(学生アルバイト用)
困ったときの相談窓口

この『コラム』は全て早稲田の学生が経験した実例が生々しく描かれていて、なかなかです。

本書は早稲田本なので、最後の「困ったときの相談窓口」が早稲田大学の機関になっていますが、これを他大学用にカスタマイズした版も作成してくれるということなので、「早稲田の奴なんか使えるか!うちで一から作るんじゃ!」という大学は別として、検討してみてはいかがでしょうか。

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松尾匡・橋本貴彦『これからのマルクス経済学入門』

Bk_koremaru 松尾さんのサイトで紹介されていたので購入。松尾匡・橋本貴彦『これからのマルクス経済学入門』(筑摩書房)は、昔の『近代の復権』のリニューアル版という感じもありますが、細かいところも結構興味深い論点があって、一気に読みました。

http://matsuo-tadasu.ptu.jp/essay__160314.html

なにしろ、

搾取と貧困が深刻化する今、「階級」「疎外」「労働価値説」「唯物史観」といった、マルクス経済学の基礎概念を再検討し、現代的な意義を明らかにする、画期的な書!

ですからね。

一見とてつもなく時代遅れでアウトオブデートな議論に見えて、実は世に横行する諸々の議論よりもずっとアクチュアルな概念であることを見事に論証していく手際がかっこいい。

そしてそれが実は、例えば松尾流疎外論が、昨今どこかで話題になっている「意識高い系」に対する根底的な批判になっていたりするわけです。

・・・昔の政治家は、保守系なら地元の青年団から、革新系なら労組の書記から叩き上げて、地元民の世話を何くれとなく焼き、常に有権者の姿を思い浮かべながら、その暮らしに奉仕するために仕事をしていたものですが、今や与野党ともに、そうしたこととは縁がないのを良いことだと勘違いした政治家に占拠されてしまいました。そして、一人一人の生身の有権者の利害から遊離したところで、「安保」だの「財政再建」だのと、宙に浮いた天下国家論を振り回す、悪しき作法がまかり通るようになったのです。

いいですか、若者が身近な生活にかまけていることを見下しながら、「若者はもっと政治に関心を持て」と言うから、それを真に受けて政治に関心を持った若者がネトウヨになるのです。・・・

そういう地に足の付いていない空中浮遊している「意識高い系」の観念論を批判するのがまさに松尾流疎外論なんですね。

ネトウヨの反対側に同じように意識高い系のリベサヨがいるわけですが、そちらに対しても辛辣に、こう語ります。

・・・それゆえ、「憲法の理念」は大事なことですが、それを掲げるばかりでは、私たちに勝ち目はないのです。「憲法の理念」を唱道したいのならば、そっちの方がもっと人々の暮らしを楽に豊かにできることが、カラの胃袋や筋肉痛といった身体のレベルで納得できるような、そんな政治路線を打ち出す必要があるのです。

そして最後に曰く、

結局、この間の体制批判的な思想や運動は、かつてのソ連共産党による正統的な解釈の捨てるべきところを維持し、捨てるべきでないところを捨ててきたように思います。今こそ、疎外論と唯物史観の見方が復活されるべき時でしょう。

しかしおそらく、松尾さんがこの言葉を届けたいと心から願っている人々の心に届かないのでしょうね。

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「ぶろこん」さんの拙著書評

Img_752f5d874047328e26f434ce08fbda5 「ぶろこん」さんの「No-TiTLe BLoG」で、拙著『働く女子の運命』への書評が書かれていました。

http://blog.livedoor.jp/brochothrix3121/archives/4954290.html

待機児童問題から話を始めて、

・・・素人目に考えて、この問題はもっと構造的な問題であるような感じがします。すなわち、日本の雇用システムにおける女性労働者の位置づけという問題です。

と、拙著の紹介に移り、

・・・その仕組みに関しても、この本ではていねいに説明されており、とても勉強になります。

と評価していただいた上で、しかし総括的にはこういう位置づけになっています。

・・・ただ、そうした現状を踏まえて、今後どのような処方箋を出すべきかという点について、この本ははっきりとした提案を示していません。いや、欧米諸国を基準とすれば、職務が限定的で配置転換もほとんどない一般職のモデルが本来、労働者の一般的な姿なのだから、日本の雇用システムもまた、その方向に移行させていくべきだという見解を著者は持っているのですが、それがなかなか進まないことに歯痒さを覚えると同時に、どこかしらあきらめに近い心境になっているようにも感じられます。

ここからうかがえるのは、要するに処方箋はあるけれども、薬を飲んでくれない日本の雇用システム、もっといえば、そこに根付く文化こそが大きな壁になっているということです。その壁を破るためには、男性労働者の意識変革が求められることになりますが、その変革がもたらされる日はいつになるでしょうか。著者が最後に、「日本型雇用の縮小と濃縮と変形のはざまで振り回される現代の女子の運命は、なお濃い霧の中にあるようです」と書いているのは示唆的といえます。

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『労働組合法立法史料研究Ⅲ』

渡辺章先生をはじめとする労働法研究者による労働組合法立法史料研究の第3冊目が刊行されました。例によってJILPTの国内労働情報という位置づけです。現時点ではまだホームページにアップされていませんが、興味深い資料が掲載されています。

メインは、1945年労働組合法制定に向けた労務法制審議委員会の議事録です。抄録は『資料労働運動史 昭和20-21年』に載っているのですが、原典は結構なボリュームで、「そうだったのか!」的なやりとりも結構あります。

末尾に、東大社研所蔵の松岡文書から想定問答集が収録されていて、これ も結構面白い。

最近注目の労組法上の使用者性に関しては、70年前の時点でこう言ってます。

「使用者」とは概ね雇傭主と申して差支ないのでありますが、現實の勞働関係は、明確に雇傭契約と言ふ法律形態に依らず、或ひは請負契約、第三者の供給契約、組合契約、従業命令等に基く場合があり、要するに現實に使用、従屬の関係があれば、之を勞働関係として取扱ふの要がある爲、かやうな言葉を使用して居る次第であります。・・・

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『働く女子の運命』にブログコメント3つ

Img_752f5d874047328e26f434ce08fbda5 なぜか本日、3つのブログで拙著『働く女子の運命』に対するコメントが連続的に書かれました。

http://workingwoman.hamazo.tv/e6742524.htmlワーキングウーマンプロジェクト

「働く女子の運命」には、

今の日本企業が、男性優位の社会が、

死に体に、なるべくしてなっている理由の

全てが書かれていた。

うなずき過ぎて、

頭がもげるかと思ったくらい。

http://d.hatena.ne.jp/hahnela03/20160407/1460022523hahnela03の日記

今回の「働く女子の運命」は文体がとても読みやすく、優しい印象を受けました。編集者のお力なのか、hamachan先生が意図して抑制しているのか、双方の努力が受け取れます。はじめにで、日本が男尊女卑社会では少なくともなかったから始まるのは、日本型雇用が保守的な土壌からではない。というある種のリベラルな方達には受け付けにくいところから始まるのはなかなかできる事ではありません。・・・

NHK朝ドラが、戦時フェミニズムを含めたイデオロギーに寄り添う形で構成されているのは、なかなか興味深いところです。前回の「朝が来た」によって設立された「日本女子大学」が、日本初の女性監督官第一号を産み出す母体であることも含め、hamachan先生に指摘は考えさせられるものがあります。・・・

http://simplog.jp/pub/25383637/91Simplog

最近、文春新書のわりと新刊「働く女子の運命」という本を読んだので(顛末が書かれているのかと思いきや、富岡製糸場からの女性労動史みたいな内容で、タイトルに見合わなかった)、その昔腰掛けで働いていた時代の仕事ってこういう感じだったのか〜と、身を持って体験してる感じです。・・・

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大内伸哉『最新重要判例200[労働法]<第4版>』

221974大内伸哉さんからこれもまた恒例の『最新重要判例200[労働法]<第4版>』(弘文堂)をおおくりいただきました。

http://www.koubundou.co.jp/book/b221974.html

大内さん一人で全部やる個人単独判例集です。第3版から2年足らずではや第4版です。

第3版からかなり判例数が減らされ、201件となっています。ただ、今回削除された判決には、結構重要なのが多く、タイトルに忠実にするのはいいのですがややもったいない感もあります。

新規採用判例はだいたいこれが来るだろうな、と思ってたようなのが入っていて、解説も常識的です。

ところで、全然関係ありませんが、この大内判例集の初犯とほぼ同じ頃に出たジュリスト増刊の『労働判例百選 第8版』は、まだ第9版がでないのでしょうか。

それとも、著作権の関係で判例百選の改訂は難しくなってしまった、とか?

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ジョブ型社会の「訓練」、メンバーシップ型社会の「研修」

なにやら世間で「研修」をめぐって話題になっているようですが、特定企業の問題はともかく、「研修」というそれ自体世界共通であるはずの概念が、なぜ日本ではかくも極めて特異な形態を取るのかという観点から物事を見るくらいの余裕はあっても良いのではないかと思われます。

「研修」を和英辞典で引くと「training」とあり、これをもう一度英和辞典にかけると「訓練」になります。

ふむ、「研修」とは「訓練」であったか。

ところが、なぜかこの極東の一島国では、「訓練」にはアカデミックな「教育」様よりも格下の職業技能に関わる代物というイメージが付着している一方で、英訳すれば同じになるはずの「研修」には、人格を陶冶し、一騎当千の強者にして見せます、みたいな格上のイメージが付着しているんですな。

ジョブのスキルがないから就職できない若者を「訓練」して使い物になるようにしてやるという欧米の発想からすると、スキルなどという枝葉末節なんかではなく、人格の根源を叩き潰して蘇らせる新興宗教まがいの「研修」はほとんど想像の外でしょうが、それこそ社会の基本ルールがジョブではなくメンバーシップである社会であればこそ、そこで評価されるのもスキルなどという下賤な代物ではなく全身全霊を挙げて会社に尽くすロイヤルティなのであってみれば、そこに全精力を傾注して若者を「使い物になる」ようにしてやろうというのは、少なくとも社会的文法(ソシオグラマー)には忠実に沿ったものと言ってあげてもいいのかも知れません。

そして、いうまでもなくそういう社会的文法を見事に下支えしているのが、大学で教えているのは「無用の用」なんだから、会社に入ってから徹底的に鍛えてやってくださいといって送り出している「文科系」の諸先生方なんですが。

まあ、そういう社会学的考察は、しなくても別にいいんですけどね。

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『日経ビジネス』4月4日号で拙著書評

Latest_nb『日経ビジネス』4月4日号で、かつて『日経WOMAN』編集長だった野村浩子さんが、拙著『働く女子の運命』を含めた3冊の本を書評されています。

拙著の内容を紹介された後、

・・・では、どうすればいいのか。一つの解として、男女ともに時間・勤務地に制約を設ける一般職的働き方を広げることを筆者は提案する。メンバーシップ型をどこまで残すか、切り崩せるか。こうした問い直しが、女性ひいては男性の働きづらさを変えていくのだ。

とまとめていただいています。

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マタニティハラスメントとは?@『生産性新聞』4月5日号

『生産性新聞』4月5日号に「マタニティハラスメントとは?」を寄稿しました。

結構多くの人が勘違いをしている点について、さりげに指摘しています。

 今年1月に育児介護休業法等とともに男女雇用機会均等法についても改正する法案が国会に提出されました。これは、本来育児介護休業法の改正を審議していた労政審雇用均等分科会で途中から追加された論点であり、いわゆるマタニティハラスメントに対する措置義務を規定するものです。

 実は、マタニティに関わる規定は既に累次の改正でかなり整備されてきています。1985年の努力義務法においても既に、妊娠又は出産を退職事由としたりこれらを理由として解雇することは禁止されていましたし、2006年法では広くマタニティに関わる不利益取扱いについても禁止の対象となりました。現在既に省令で、妊娠、出産、妊産婦の就業制限による不就業、産前産後休業、妊産婦の時間外・休日・深夜業免除、育児時間の請求・取得、さらには妊娠・出産に起因する症状による不就労や労働能率低下までが「解雇その他不利益取扱い」禁止の対象となっています。さらに指針によれば、この「不利益取扱い」には解雇、雇止め、雇用形態変更、降格、減給、不利益な評価、不利益な配置変更などと並んで、「就業環境を害すること」まで含まれています。ということは、法令上はマタニティに基づくハラスメントの一部も既に禁止の対象ということです。

 一方で、2000年代末頃からマスコミ等でマタニティハラスメントという言葉がよく用いられるようになり、2014年には新語・流行語大賞にも選出されました。ただしその内容は、妊娠・出産を理由とした解雇や不利益取扱いが多く、セクシュアルハラスメントやパワーハラスメントなど、ハラスメント独自の規定がなければそもそも規制の対象とならないものとの区別が必ずしもついていない面も見受けられます。たとえば2015年9月、厚生労働省は初めて妊娠を理由とする解雇事案を悪質として公表しましたが、主要マスコミはほとんど「マタハラ」と報じていました。解雇してもハラスメントで済むのなら、こんな楽なことはありません。

 こういう妙な用語法に影響を受けたのか、2015年8月の今後の仕事と家庭の両立支援に関する研究会報告書には全く影を現していなかったのに、同年12月の労政審建議ではマタハラに対する措置義務が盛り込まれました。もっとも、厚労省サイドは世間で言うマタハラの大部分が既に禁止の対象であることは重々承知なので、書き方はいささか込み入っています。すなわち、「事業主による・・・不利益取扱いのみならず、上司・同僚からの行為を防止することが求められる」と述べ、そのための措置はセクシュアルハラスメント規定にならって、事業主に雇用管理上必要な措置を義務づけることが適当としています。こういう書き方であれば、確かに既存規定と重ならない正味の新規規制部分ということになります。

 今年1月に国会に提出された法案では、妊娠・出産に関わる事由に関する言動によって女性労働者の就業環境が害されることのないよう、事業主に「当該女性労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」と、一見とても緩やかな規定になっています。これを見て、厚労省はマタハラ対策に消極的なのではないか、などと勘ぐってはいけません。法律で禁止できるものは既に全部禁止しているのですから。

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『일본유학시험(EJU) 기출문제집 2015년 제1회 실시』

X9791185979083 韓国の韓日協会から、『일본유학시험(EJU) 기출문제집 2015년 제1회 실시』をお送りいただきました。これは日本留学試験の問題集で、その中に拙著『新しい労働社会』の一節を使った問題が含まれているということで、わざわざお送りいただいたということのようです。

기출문제집판매

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책소개

- 독자대상 : 일본유학시험(EJU) 준비생

- 구성 : 기출문제

- 특징 : ① 시험문제(출제언어 일본어/영어)   /   ② 해답용지(실전연습용 해답용지)

            ③ 참고자료(일본유학시험 실시요강)  /   ④ 정답표, 출제범위 등 수록

<2015년 제1회(6월) 실시 EJU 기출문제집>

2016년 3월1일 발간!!

현재 국내 주요 서점(인터넷서점 포함)에서 판매

예스이십사 바로가기  교보문고 바로가기

※ 그 외 인터넷서점에서도 판매하고 있습니다.

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『労働判例』4月1日号

Rodohanrei20160401『労働判例』4月1日号は、例の類設計室(取締役塾職員・残業代)事件が載っているというので話題になりましたが、実は巻頭に

協議会報告

 東京地裁労働部と東京三弁護士会の協議会〈第13回〉
 ~労働審判の運営等を中心として~

というのが載っています。東京地裁労働部の裁判官たちと、東京の三弁護士会に属する有名な経営法曹、労働弁護士の皆様が一堂に会して、とりわけ今回は解雇の金銭解決を中心議題にして様々に論じておられます。

これはその水準も凄いですが、あの人もこの人もほとんどみんな、JILPTの調査研究『労働局あっせん、労働審判及び裁判上の和解における雇用紛争事案の比較分析』をもとに論じておられるのが壮観です。

Assenこの報告書は、ここで全文読めます。

http://www.jil.go.jp/institute/reports/2015/0174.html

Koyoufunsouまた、これに加えて労働局あっせん事案の内容分析も付け加えた市販の単行書はこちらです。

http://www.amazon.co.jp/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E9%9B%87%E7%94%A8%E7%B4%9B%E4%BA%89-%E6%BF%B1%E5%8F%A3-%E6%A1%82%E4%B8%80%E9%83%8E/dp/4538411582/ref=sr_1_1?s=books&ie=UTF8&qid=1455344861&sr=1-1&keywords=%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E9%9B%87%E7%94%A8%E7%B4%9B%E4%BA%89

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有斐閣ストゥディア『労働法 第2版』

L15033小畑史子,緒方桂子,竹内(奥野)寿著『有斐閣ストゥディア 労働法 第2版』(有斐閣)をお送りいただきました。

http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641150331

日常生活との関わりを意識して読み進められるよう,事例を活用しつつ労働法の基本的な考え方を丁寧に解説。就職後に役立つ知識等のコラムを盛り込むことで,労働法を学ぶ意義や楽しさも実感できる,初学者に最適の1冊。初版刊行後の法改正に対応した第2版。

著者は、若手から中堅になりつつある活躍中の研究者です。テキストとしては初等クラスですが、コラムの「もう一歩先へ」「知って得する」などは、結構話題のトピックを取り上げています。

ところで、緒方桂子さん、広島大学から南山大学に移られたんですね。

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使えないくせに偉そうでムダに高給貰ってるジジイども死ね!

Img_752f5d874047328e26f434ce08fbda5 「死ね」が政策を動かす時代ですが、そこまでの話ではないにしても、拙著を読んで「死ね」という感想を書かれる方もおられます。

http://bookmeter.com/cmt/55363712

読書メーターで「ちょっと小粋な餃子レストラン」さんが、拙著『働く女子の運命』をネタに、こう叫んでおられます。

私が「ワーキングウーマンプロジェクト」を始めようと決意した、最後のきっかけ。前の会社の保守的な社風につくづく嫌気が指したから。辞める理由の建前は「家業を継ぐため」本音は「使えないくせに偉そうでムダに高給貰ってるジジイども死ね!」この本には、今の日本企業が、死に体になるべくしてなっている理由が全て書かれていた。今からでも遅くない、前の会社の奴らにこの本を送ってやろう。きっと、他人事だって笑い飛ばすだろけど。改めて言う!「使えないくせに偉そうでムダに高給貰ってるジジイども死ね!」

何となく、そう言いたくなる会社の空気が想像されるところです。

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トランプ現象の労働政治学的説明

201604cover『月刊連合』4月号が届きました。

http://www.jtuc-rengo.or.jp/shuppan/teiki/gekkanrengo/backnumber/new.html

特集は「年金積立金は誰のもの?」ですが、ここでは篠田徹さんの連載「労働文化耕論」から。

曰く「なぜ、米国白人労働者はトランプ氏を支持するのか」。

わりとポピュラーな分析だと思いますが、民主党も共和党も労働者の味方ではなくなってしまった、というあたりが、いろいろと思うものがあります。

・・・彼らの多くは、かつては男性稼ぎ手家庭の柱として製造業で働き、子息を大学までやることができた。アメリカでいう中産階級だった。ところが経済のグローバル化で、彼らの仕事の多くが工場とともに海外に行き、職も人も失った彼らのコミュニティはさびれてしまった。

彼らに対してインテリたちは、経済のグローバル化は時代の流れで、それに対応する学歴とスキルがなければ、生き残りは難しいというかも知れない、けれども、白人労働者階級は自分たちの苦境を自然現象のようには思っていないだろう。・・・

実は彼らは、自分たちが政治から見捨てられたと思っている。見捨てたのは、彼らがかつて支持していた民主党だけではない。経済のグローバル化に棹さす共和党のエスタブリッシュメントも同じだ。彼らは自分たちを助けるどころか、どんどん窮地に追いやっている、と。・・・・

・・・・・そんな彼らにとって、あなた方の社会保障は守る、貿易交渉ではアジアに負けない、中国や日本から仕事を奪い返す、あのかつての偉大な(白人労働者が中産階級であった頃の)米国を取り戻す、というトランプ氏のメッセージは、やはり耳に入りやすい。なぜなら他の誰もそんなことは言ってくれないのだから。

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チクチクいじり倒す語り口も楽しい (笑)

Img_752f5d874047328e26f434ce08fbda5 「Takuma SHIRAISHI」さんがツイートで、拙著『働く女子の運命』について、まずはすなおに、続いていささか皮肉交じりに、こう評されています。

https://twitter.com/ts7i/status/716437622353080320

『働く女子の運命』 読了。 生活給思想による差別正当化、均等法によるジョブなきコースの平等、90 年代後半以降の一般職の非正規労働者への置き換え、…とメンバーシップ型社会と男女雇用平等のミスマッチの歩みが整理されていてわかりやすい。

https://twitter.com/ts7i/status/716437797867905024

現時点から見ればかなりアクロバティックな過去の不平等正当化言説をチクチクいじり倒す語り口も楽しい (笑)。

いやいや、別に「チクチクいじり倒」しているつもりはなかったんですが、そう見えちゃいましたか・・・。

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成果主義で賃上げの効果が消える!?

JILPTの西村純研究員のディスカッションペーパー「人事・賃金制度の変遷に関する一考察と今後の研究課題」が昨日アップされています。

http://www.jil.go.jp/institute/discussion/2016/16-03.html

http://www.jil.go.jp/institute/discussion/2016/documents/DP16-03.pdf

これの前半では、今までの日本の人事・賃金制度の推移を手際よく整理していて、それほど目新しいところはないのですけど、成果主義のところでは、一般的な概観のあとである企業の事例を詳しく取り上げ、その賃金表を細かく分析する中で、結構衝撃的な事実を明らかにしていきます。

なぜそうなるのかという話はリンク先の詳しい説明を見ていただきたいのですが、成果主義というミクロ賃金制度と、ベースアップというマクロ賃金決定が絡み合うとこういうことになるという話です。

・・・さて、上の例から分かることは、春闘によって妥結した賃金改善によってもたらされた 賃上げは、必ずしも永年的に持ち越されないということである。例えば、同じように賃金 表の書き換えが実施されなかったとしても、年々賃金が積み上がって行く様な昇給表方式 であれば、一度受け取った改善額は同一企業に留まる限り、彼の賃金として生き続ける。 しかし、成果主義下のゾーン別昇給管理の下では、ポリシーラインにおいて一旦リセット される可能性があるわけである。つまり、春闘において賃上げが実施されようとなかろう と、数年後受け取る金額は同じということが十分に起こり得るわけである。この点は、職 能資格制度の下では起こり得なかったことではないだろうか。ヒアリングのインフォーマ ントの言葉を借りると「(改善額によってもたらされた賃上げの・・・筆者)効果がいずれ は消える」わけである。

我々がマクロ賃金決定を語る際の言葉は、ついつい半世紀以上も前からのベースアップという言葉がその意味内容に変わりがないようなつもりで使われてしまいますが、そのミクロ的基礎構造が成果主義というかたちで相当に変形してきている中では、そのベースアップという言葉を同じように使うわけにはもはやだんだん行かなくなりつつあるということのようです。

賃金論におけるミクロとマクロの関係というのも、近年余り関心の対象にはなっていないようですが、このディスカッションペーパーが提起している問題は結構大きなものがあるように思われます。

ちなみに、この西村純さん、もう一方でスウェーデンの労使間系システムを突っ込んで研究しているほとんど日本唯一の研究者で、、とりわけスウェーデンの企業レベルの賃金決定の話はとても面白いのですが、そちらでは日本とある意味似ていて、ブルーカラーにも査定が導入されているのですが、それが労働組合による賃上げのための手段として利用されているというところが、まるで逆向きになっていて、いろんな意味で面白いのです。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2015/06/post-9847.html (『スウェーデンの労使関係―賃金・労働移動のルールを中心に』)

4.ブルーカラーの月例給にも査定が導入されている。査定の運用において、組合はモニタリングに加えて、交渉主体としての機能も維持している。例えば、V社T事業所のメンテナンスワーカーにおいては、組合員の評価点や評価点に応じて決定される昇給額は、各部門毎に作られる組合員の評価グループと部門の上司の間で決定されている。また、昇給額の決定の際には、組合員間の賃金格差の是正も念頭に置きつつ交渉が実施されている。

5.総じてこの査定部分は、組合員にとっては賃上げのための貴重な要素となっている。V社T事業所のプロダクションワーカーにおいては、ほぼ全員が得られる最大限の昇給を受け取っている。A社B事業所の組合代表の言葉を借りれば、こうした査定部分の昇給要素は「賃金を上げるブースター」となっている。

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『労働調査』3月号は「特集 同一労働同一賃金の実現に向けて」

Coverpic 『労働調査』3月号は「同一労働同一賃金の実現に向けて」を特集しています。

http://www.rochokyo.gr.jp/html/2016bn.html#3

人事管理から「同一価値労働同一賃金」について考える 今野 浩一郎(学習院大学経済学部・教授)

公平・公正な賃金の国際基準は「同一価値労働同一賃金」 森 ます美(昭和女子大学人間社会学部・教授)

同一労働同一賃金と集団的労使関係システム 濱口 桂一郎(独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT) 主席統括研究員(兼労使関係部門統括研究員))

「同一労働同一賃金」に関する連合の取り組みと今後の課題 村上  陽子(日本労働組合総連合会(連合)・総合労働局長)

同一価値労働同一賃金とワークライフバランス 松井 健(UAゼンセン・政策・労働条件局・常任中央執行委員)

さらにくわえて、もう5年も前にとりまとめられたJILPTの「雇用形態による均等処遇についての研究会報告書」まで一緒に載っています。

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uncorrelatedさんの拙著書評

Img_752f5d874047328e26f434ce08fbda5 uncorrelatedさんの「ニュースの社会科学的な裏側」ブログで、拙著『働く女子の運命』を書評していただきました。

http://www.anlyznews.com/2016/03/blog-post_31.html

目を惹く秀逸なタイトルで気になっていた、濱口桂一郎氏の「働く女子の運命」を拝読した。ネット界隈の社会学者などが女性の就業や育児出産などの問題を取り上げる事は多いのだが、歴史的経緯を説明してくれないと言うか考慮していない事が多く、門外漢には彼らの問題意識の妥当性が分からない事が多い。本書は、濱口氏の過去の著作と同様に、戦前からの労働政策をまとめており手軽に経緯を追えると言う意味で、経済学などの抽象化された分野をバックグラウンドに持つ人々には重宝する一冊だと思う。現在の政策的課題も第4章で説明されており、それに対する回答も提案されている。メンバーシップ型とジョブ型の雇用形態の違いで整理されている所は、いつもの通りである。さて、つらつらと感想を書いてみたい。・・・

いやその、「目を惹く秀逸なタイトル」は文春の優秀な女性編集者の産物ですから。

歴史的経緯を丁寧に説明しつつ、現代の政策課題を浮き彫りにするというのが、いままでの本と共通の私のやりかたですので、まさにそのとおりなんですが、

実はこの書評、私がひそかに期待しながら、今まで誰もそこに踏み込んできていただけなかった領域をメイントピックとして取り上げています。それは、統計的差別の話です。

・・・ところで、「とても日本的な統計的差別」(P.169--171)の節に幾つか気になるところがあった。まず、アローとフェルプスは男女の勤続年数の違いを議論していないと言うのは確かではあるが、それは問題なのであろうか。ジョブ遂行能力であろうが、勤続年数の違いであろうが、産休・育休だろうが、企業収益に影響を与える理由が何かあれば、数理的には同様の議論になる。その理由が日本独特のOJTであっても良いはずだ*4。次に、『いうまでもなくこれは社会全体としては非効率な意思決定』と言うところが気になった。統計的差別では少数に不釣合な仕事を割り当ててしまう損失が生じるが、統計的差別無しではもっと多くに不釣合な仕事を割り当ててしまう、もしくは採用候補を全て精査する費用が膨大である状況で使われており、単純な想定では社会全体としては(補償原理的に)改善になる。「非効率な意思決定」としているのは、差別される人々が人的資本の形成を怠ったりする事象などを強調した上での議論では無いであろうか*5。濱口氏が参照している遠藤公嗣氏のエッセイで、なぜ市場の失敗と言えるのかまで説明していなかった為だと思うが*6。

正直言って、労働法と労使関係がメインフィールドの私が、日本の労働経済学者の統計的差別の議論に異議を唱えるというのも結構心臓ではありますが、せっかく「これを読むと、アメリカ由来の理論のはずなのに企業内の長期のOJTとか日本独特の条件が入っているのはおかしいと感じませんか。前章で見たように、小池理論では宇野派マルクス経済学に基づいて、独占資本主義段階の欧米はだんだん日本化してくるという想定なので、矛盾は生じないのでしょうが、そう考えない人々まで矛盾を感じなかったのは不思議です。実は、アメリカで統計的差別理論を作りだしたケネス・アローやエドマンド・フェルプス(いずれもノーベル経済学賞受賞者)のもとの論文を見ても、こんなことは書いてないのです。」とまで書いたのに、あんまり反応がなくて少々残念だったのですが、ようやくアンコレさんが反応してくれました。

それも最後のところで、

・・・こんな事を思いながら拝読したのだが、昔の状況を知る事によって、遅々とした進みでも世相は変わって来ているのを感じる一冊であった。なお、個人的には統計的差別について著名論文の主張を確認したりしたので読むのが大変だったが、普通はさらさらと読める文章だと思う。

とあるように、わざわざこの書評を書くために、アローやフェルプスの昔の論文を確認までしていただいたようで、ほとんど中身を読まずに書評なるものを書き散らすどこかの誰やらさんとは真逆の真摯な姿勢に感銘を受けたところです。

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