だからそれを「リストラ」って言うなって・・・
今朝の朝日に、例のローパー社員問題関係の記事が載っていますが、
http://www.asahi.com/articles/DA3S12257814.html(業務命令で職探し「不適切」 厚労省、労働局に初通達へ)
自分の再就職先を探して――。そんな業務命令を会社がするのは「不適切だ」とする初の通達を、厚生労働省が近く全国の労働局に出す。退職勧奨を断っても社内外で転職先を探させて退職を迫る手法は「追い出し部屋」として問題視されたが、国がはっきり不適切と認めることで歯止めがかかりそうだ。・・・
この関係で、先日連合が厚労省に要請した旨公表されています。
http://www.jtuc-rengo.or.jp/news/rengonews/2016/20160314_1457954575.html
連合は、3月11日、厚生労働省に対し、労働移動支援助成金の適正化等に関する要請を行った。
冒頭、安永副事務局長から生田職業安定局長に要請書を手交し、「雇用保険制度の労働移動支援助成金に関して、一部の職業紹介事業者による行き過ぎた営業活動への活用など、不適切な運用事例がある。労働者の生活と雇用の安定を第一目的とする雇用保険制度が、まったく正反対の目的に使われ、不適切な運用を行った送り出し企業や職業紹介事業者に労働移動支援助成金が支給される構造は極めて問題。早急に制度見直しを含めた政府の対応が必要」と要請の趣旨を述べた。
生田職業安定局長からは、「労働移動支援助成金は、あくまでも企業が労働者の人員整理を行わざるを得なくなった場合に、労働者の移動・再就職を支援するための制度で、その趣旨に反する使われ方はまったく不本意」、「さらに労働者本人の意思確認や、職業紹介事業者による営業活動への活用禁止など、さまざまな対策を取らなければならない」、「厚生労働省としてできることは精一杯、取り組んでいきたい」との回答があった。
ここでいわれていることはその通りで、そもそも労働者の責任ではなく会社の都合で人員削減せざるを得ないという言葉の正確な意味での「リストラクチャリング」を出来るだけ苦痛を少なくして実施するための政策手段が、別に人を減らす必要があるからではなくその労働者がローパーだから追い出したいという言葉の正確な意味での個別解雇でありいかなる意味でも「リストラクチャリング」ではない事態に使われてしまっているというところに問題があるわけですから。
ただ、それを前提にした上で、あまりにも多くの日本人が「りすとら」という言葉を本来の意味とは全く逆の意味に使い込んでしまっているという事態が、連合という労働組合のナショナルセンターの要請文書の中にまで影響してしまっているという皮肉が、ここに添付されている連合の要請文書に垣間見えているのもまた事実なのです・・・。
http://www.jtuc-rengo.or.jp/news/rengonews/data/20160311_yousei.pdf
・・・私たち連合は、この間、この労働移動支援助成金に関して、①安易なリストラを助長することになりかねない、・・・・・・・・
いやいやいやいや、安易も何も、それが言葉の正確な意味での「リストラクチャリング」なら、つまり労働者個人の問題ではなく会社の経営上の問題でやらざるを得ない人員削減なら、労使協議をして、助成金も使っていろいろやるしかないわけです。
そうじゃないから問題なんでしょ。ていうか、連合さん自身の言葉遣いまで、かくもねじれきってしまっているという点にこそ、実は最大に問題が孕まれているわけですが。
(参考)
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2016/02/post-748f.html(だから、リストラ(整理解雇)とローパー解雇は違うって何回言ったら・・・)
リストラ、つまり整理解雇というのは、労働者本人の責任ではなく、会社の経営状況に基づく解雇なのであるから、ローパフォーマンス云々という話とは全然別次元の話である、というような、労働法の基本概念が全然通用しないこの日本では。
雇用契約がジョブに基づいている社会では、もちろん当該ジョブができないという理由による個人的解雇もありますが、いかなる意味でもそれは『リストラ』ではありません。
『リストラ』とは、あくまでも労働者個人の能力等とは関わりのない会社側の理由によるものであり、だからこそ、労働者の方もそれを恥ずかしがったりしないし、労働組合も積極的にその再就職のために支援をするわけです。
ところが、雇用契約がジョブではなく会社の社員であるというメンバーシップに基づいている日本では、『リストラ』が労働者に社員である資格がないという宣告になってしまい、それゆえに一番情緒刺激的な言葉になってしまうわけです。
そして、それゆえに、本来会社の都合でやるものであるがゆえに労働者の責任ではないはずの『リストラ』が、ローパフォーマーを追い出すためのものと(労使双方から全く当たり前のように)思い込まれ、それを前提に全てが動いていってしまうという訳の分からない事態が現出し、しかもそれに対して、「社員なのにけしからん!」とか「ローパーだから当然だ!」といった情緒的な反応は山のようにあっても、そもそも『リストラ』とは労働者側の理由によるものではないはずなんだが、という一番基礎の基礎だけは見事にすっぽり抜け落ちた議論だけが空疎に闘わされるという事態が、いつものように繰り返されるわけですね。
この記事で書かれている労働移動支援助成金とは、リストラの欧米的捉え方を前提に、それまでの雇用調整助成金型のひたすら雇用維持だけを目指す政策から、会社側の理由による雇用変動を外部労働市場を通じてうまく処理していこうという、それ自体としては何らおかしくない、ヨーロッパでもごく普通に見られる政策思想で作られたものであるわけですが、肝心の会社側がジョブ型ではなくメンバーシップ型にどっぷり浸かったままで制度を活用しようとすると、まさに会社側の理由ではなく、本人がローパフォーマーだからお前の責任だと言わんばかりの文脈で、使われていってしまうという事態になるということなのでしょう。
それに対して、昔の日本は良かったとばかり言っても仕方がないですし、ある種のえせネオリベ派の如く、ローパー社員を追い出すのが正義だみたいなインチキな議論もきちんと批判しておく必要があるでしょう。・・・
(追記)
ちなみに、労働者を「ちゃんと」守ることにかけては世界一品であるスウェーデンで、言葉の正確な意味での『リストラ』の場合に、労働組合がちゃんと関与して再就職支援をやっており、その際組合が人材サービス企業を選定して、進捗管理までやっていると云う事については、JILPTの西村純さんのこの報告書を読むと良いです。
(追記)
ありすさん曰く
https://twitter.com/alicewonder113/status/709584301017292801
会社の金で職探しできるなんて羨ましいとしか思えないが
いやだから、「職」がなくなってしまったことを前提に、「会社の金で職探しできる」ならそれは大変結構なことであり、まさに制度の本旨。
「職」が無くなっていないのにそこから特定の労働者を追い出そうとするのに使うと、こういうことになる。
・・・
ということがきちんと腑に落ちるように「分かる」ためには、そもそも最初に「職」があり、然る後にそれに就けるために「ヒト」を採用するというジョブ型感覚がなければいけないのですね。
メンバーシップ感覚にどっぷり浸かった人であればあるほど、それが全然分からない。そもそも雇用関係の前提に「職」があると思ってなければ、残るのは「ヒト」それ自体の評価でしかないわけです。
マスコミの報道では表層しか見えませんが、ここに露呈しているのはまさにジョブ型感覚とメンバーシップ型感覚の壮絶なずれそのものなのです。
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会社都合=リストラという用語とは無縁のものだということははっきりしています。なぜそのような言葉の使い方になったのでしょうか。専門家やマスコミにも責任はあると思います。我々労働者も安易に用語を使っているうちに、なんか愛称的に使ってしまっているのかもしれないので、少しハッとしました。
さて、自分の足元を自分が担当業務として切り崩すというのは、企業はどのようにモチベーションを考えているのでしょうか。おそらく、徹底的にモチベーションを下げていって、その人を完全なるローパフォーマーに仕立てるわけですね。そして個別解雇に至る理由として本人にマインドとして合理性を認めさせていくのでしょう。
ここまでくると完全に人権問題で、人道に外れています。
さすがに国も、自分の入る墓穴を掘らせるような行為は黙認できないと言いだしたわけですね。
投稿: endou | 2016年3月15日 (火) 11時13分
AIの予想を上回る進歩とあいまったコンピュータリゼーション社会がミドル層を核として発展してきたとされる今日的なすべての社会慣習をその破壊力ゆえの帰結としてアン・コントロール化となり、これまでの不十分とはいえ人間を中心においた社会の漸進的改良方法論のすべてをテクノロジー上位を基にデザインされる最適化社会に導かれようとしているとすれば、本ブログ上で交換される様々な英知をもあっさりと飲み込むことになるでしょう。いよいよこうした技術を手に入れつつある21世紀をたまたま生きることとなった我々の「所作」が未来の人々の運命をも決定づけかねないと覚悟すべき時と言えるのではないでしょうか?と、たまたま携わる若者たちにはホザいているのですが悩ましい。
投稿: kohchan | 2016年3月15日 (火) 15時33分