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2016年3月 1日 (火)

「企業組織再編における労働者保護」@損保労連『GENKI』2月号

120損保労連『GENKI』2月号に「企業組織再編における労働者保護」を寄稿しました。

http://www.fniu.or.jp/kikanshi/

 厚生労働省が一昨年末から開催していた「組織の変動に伴う労働関係に関する研究会」が、昨年11月20日に報告書を取りまとめました。

 会社分割時の労働者保護ルールを定めた労働契約承継法は、それまで営業譲渡というやり方でしか行えなかった事業の移転を「会社分割」というやり方でできるようにした2000年商法改正に伴って作られた法律です。その発想の根源はEUの企業譲渡指令にあります。ヨーロッパでは、労働契約は職務を限定して結ぶのが普通ですから、会社で自分のやっている仕事がほかの会社に行ってしまうのに、自分がそれから切り離されて元の会社に残されてしまう、というのが最大の悲劇です。ですから、労働者の担っていた職務とともに労働者自身も移転させることが労働者保護になる、というわけです。

 ところが、日本では労働契約で職務が限定されていないことが通常であり、主に従事している業務でも、それは会社から命じられたからに過ぎず、人事異動で全然違う部署の仕事に回されることも普通です。そういうメンバーシップ型社会に、ジョブ型社会で発達した労働契約承継のルールを持ち込んだため、労働契約承継法のルールは複雑なものになりました。すなわち分割計画書の記載を基本としつつ、主に従事する職務を優先させる方向への修正を認める仕組みです。就職よりも就社が一般的な日本の雇用慣行を踏まえつつも、労働者からの異議申出権を、「移転される事業に主に従事している労働者(主従事労働者)が移転対象となっていない場合」、または「移転される事業に主に従事していない労働者(非主従事労働者)が移転対象となっている場合」にのみ認めるという形で整理しています。

 もっともEU指令は、事業譲渡の場合でも職務と一緒に労働者も移転するというルールです。しかし日本では、従来から営業譲渡は個別承継だからという理屈で、原則として労働者は移転せず、個別に合意した場合だけ移転する、という扱いです。そのため、日本でもタクシー業界や医療業界のようにジョブ型の世界では、仕事から切り離されるという問題が生じています。営業譲渡については、承継法成立後の20001年から2002年にかけて「企業組織再編に伴う労働関係上の諸問題に関する研究会」で議論されましたが、結局「現時点で立法措置は不要」という結論でした。日本では会社に所属するという意識が強いからという理由も挙げられていますが、それを言うなら会社分割も同様でしょう。

 一方、メンバーシップ型社会にEU型の承継ルールを持ち込んだことによるトラブルとして日本IBM事件(最高裁平22.7.12)があります。日本IBMでハードディスク事業部門に従事していた労働者たちが、同部門が新設分割により設立された会社に承継された事案なので、承継拒否権はありません。問題になったのは、商法改正法附則5条で求められている労働者との個別協議が果たされたかどうかで、本件では「果たされた」と判断されましたが、「5条協議を全く行わなかったような場合には承継の効力に影響がある」と述べられた部分が注目されました。法律家にはそこがポイントでしょうが、EUであれば当たり前の主従事労働者が承継されたことに異議を唱えていることにこそ注目すべきでしょう。

 さて、労働契約承継法制定後の2005年、商法の中から会社関係部分が独立して「会社法」という法律ができるとともに、中身も大きく変わりました。会社分割についても、それまでは分割の対象が有機的一体性のある営業(事業)であったのが、「事業に関して有する権利義務の全部又は一部」となり、またそれまでは債務の履行の見込みがあることが前提だったのが、債務の履行の見込みがなくても分割できるようになりました。いわゆる「泥船分割」です。しかし、そのときには労働契約承継法は改正されず、指針で最小限の対応がされただけでした。今回の研究会の検討は、この会社法による新たな事態に対応すべきかどうかというのが最大の論点です。

 今回の報告書は、まず事業に当たらない権利義務の会社分割の場合について、①従来通り「事業」に主従事かどうかで判断し、事業たり得ない権利義務に従事していても非主従事と整理、②承継される権利義務に主従事か否かで判断、の二つの立場を示し、雇用や職場の確保の観点から①が望ましいとしています。しかしこの場合、どの範囲が「事業」に当たるのかが問題になりますから、その判断基準を明確にすべきだとも述べています。その上で、今までは5条協議の対象は承継される事業に主従事及び従従事の労働者だけでしたが、通知の対象となる不従事労働者についても対象とすることが望ましいとしています。

 次にいわゆる泥船分割の場合について、不採算事業に承継される労働者に何らかの保護が必要かを論じ、債務超過の状況についても、5条協議の対象に含めることや、過半数労働組合等と協議を行う努力義務を定めた7条措置の対象となることを明確に周知することとする一方、不採算事業に承継される主従事労働者や不採算事業に残留する非主従事労働者にも異議申出権を付与すべきではないかという議論に対しては、承継法の趣旨から否定的な考えを示しています。ジョブ型社会であれば、泥船であろうがなかろうが労働契約にその職務が書き込まれているのですから当たり前の理屈です。しかし、日本のようなメンバーシップ型社会では、たまたま会社から人事命令で不採算部門への配置転換を命じられたがためにその部門と運命をともにしなければならない、というのは不平不満の種になりかねません。

 曰く付きの事業譲渡の問題については、「将来の雇用の確保にもつながるような有用な組織再編への影響や全体としての雇用の維持の観点からも慎重な検討を要する」として、「事業譲渡に労働契約の承継ルールを設けることについては、未だ慎重に考えるべき」としています。ここは理屈がもやもやするところですが、おそらく事業譲渡の場合には日本的なメンバーシップ感覚から事業と一緒に労働者も動くということに対する抵抗感が強く、現実に問題が多発しているタクシーや医療などジョブ型の職域はまだまだ少数派であることが最大の原因ではないかと思われます。報告書は、手続面でのルールを整備することは考えられるとし、まずは例えば指針を定めて取り組みを促していくことを提案しています。

 以上のように、報告書は法改正に至るような提案はなく、指針の一部改正を提起しているにとどまりますが、ここで論じられた問題は結構奥が深いものが多く、さらに突っ込んで検討していくことが望まれます。

 

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