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2016年3月14日 (月)

大内伸哉『勤勉は美徳か?』

31iztro9rl__sx303_bo1204203200_大内伸哉さんの新著『勤勉は美徳か?』(光文社新書)をお送りいただきました。ものすごい勢いで次々に本を出される大内さんですが、本書は光文社新書の前著『君の働き方に未来はあるか?』と同様、人生論風のややふんわりした話題と労働法の個別分野の論点をつないだ感じの軟らかな本の作りになっています。

私たちは、人生の時間の多くを仕事にあてている。
ということは、仕事の時間を幸福に過ごすことができなければ、幸福な人生を送ることはできないともいえる。
しかし、厳しいノルマや納期に追われている、意に沿わない会社の方針を押しつけられる、
長時間の非効率な会議が多い、会社から評価されない……といったことに悩んでいる人も多いのではないだろうか。
大きなストレスを抱えている現代日本の労働者が幸福になる道はないのか。
労働法の専門家が、働くことの本質、労働者が不幸となる原因、
人事と評価、ワーク・ライフ・バランス、日本特有の雇用・休暇文化などを見直しながら、
「幸福に働き、幸福に生きる」ためのヒントと具体案を提示する。

ただ、だからなのですが、前著と同様のいささかの不満をももたらす本でもあります。

すごくふんわりとした人生論的な次元の話と、かなり具体的な職場の場面を想定した労働法学者としての労働法の話とが、やや無媒介的にすいっとつながれてしまっていて、そうですね、その間をつなぐはずの社会学的な議論がどこかに消えてしまっている感も否めません。

たとえば、これも前著と同じなのですが、はじめのところで、雇傭契約の源流は奴隷だという話が出てきて、それは確かにその通りです。

ところがその後の章では、日本の正社員を前提にして人事権を論じ、残業や転勤を断れないという話になります。まあそれもその通りです。

でも、そこで大内さんお得意のイタリアが出てきて、イタリアはそうじゃないよ、と。

いや、それも確かにそうなんですが、でもイタリアは奴隷制の本家本元の古代ローマの跡地そのものじゃないですか。

そのイタリアで、正規労働者は日本の正社員みたいな無限定じゃないというのは、古代ローマの奴隷制とどういう関係になるの?というちょっとひねた子どもが思いつくような疑問は、全体のふわっとした話の流れの中ではあんまり相手にして貰えなさそうです。

いや、一般向けの新書本でそんな西洋法制史の小難しい話をしろというのも野暮です。でも、だったら最初のところで古代奴隷制の話を持ちだしていきなり現代につなげるものどうかな、というわけです。

なんだか難癖ばかりつけているように見えるかも知れませんが、でも歴史的経緯をしっかりと踏まえておくというのは、大きなややふわふわ気味の話をそれでもあらぬ方向に飛んでいかないようにそれなりにきちんとやるためには多分重要なことで、大内さん自身はそこの所はちゃんと分かって書いているとしても、読んでいる一般読者の方は脳内で話が飛んでしまっているかも知れません。

はしがき
【第1章】労働者が不幸となる原因を考える ―― 過労・ストレス・疎外
【第2章】公正な評価が、社員を幸せにする ―― 良い会社を選べ
【第3章】生活と人生設計の自由を確保しよう ―― ワーク・ライフ・バランスへの挑戦
【第4章】「どのように」「何をして」働くかを見直そう ―― 職業専念義務から適職請求権まで
【第5章】法律で労働者を幸福にできるか ―― 権利のアイロニー
【第6章】休まない労働者に幸福はない ―― 日本人とバカンス
【第7章】陽気に、自由に、そして幸福に ―― 勤勉は美徳か?
【第8章】幸福は創造にあり
あとがき

仕事の中身をしっかり限定することによって得られる近代西欧の労働運動が目指してきた「自由」と、仕事そのものが与える「自由」の輻輳した関係を、残念ながら大内さんの記述を辿っていくだけで一般読者がきちんと腑分けして頭に入れていけるのか、いささか疑問なしとしないというのが、前著『君の働き方に未来はあるか?』を読んだときと同様に正直な感想でした。

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