福井康貴『歴史のなかの大卒労働市場』
福井康貴さんの『歴史のなかの大卒労働市場 就職・採用の経済社会学』(勁草書房)をお送りいただきました。ありがとうございます。
http://www.keisoshobo.co.jp/book/b217707.html
企業と学生の出会いの場面をかたちづくる実践、ルール、規範は、それ自体の歴史をもっている。求人・求職活動とその制約のあり方を、明治期から現代まで定点観測することによって、労働市場の創られ方に迫る。新規大卒労働市場の経済社会学。
福井さんとは、今から6年前に出た岩波書店の『自由への問い 第6巻 労働』でご一緒した仲です。私は「「正社員」体制の制度論」、福井さんは「就職空間の成立」を書きましたが、福井さんの研究はそれを更に深めていき、今回の本に結実したわけですね。
序章 大卒労働市場を解読する
1 構築される大卒労働市場
2 本書の位置づけと方法
3 本書の構成
第1章 他者と教育への信頼とそのゆらぎ
1 シグナルとしての紹介と成績
2 成績と紹介の意味変容
3 変化の背景にあったもの
第2章 儀礼としての人物試験
1 見えないものと見えるもの
2 真/偽の物差しの彼岸
3 見えてきた問題
第3章 見えがくれする学歴
1 戦前期の大学・企業間取引と学歴の見え方
2 展開する制度と学歴の見え方─学校推薦/指定校/自由応募
3 見えがくれする学歴の現在
第4章 タイミングを制約する─就職協定の展開
1 六社協定と新卒一括定期採用
2 就職協定とルール違反
3 ルール違反の規制と追認
4 行為と制度の相互規定,政治的埋め込み
第5章 スクリーニングとしての面接試験
1 誌上面接の定点観測
2 行為を制約するロジックの諸相
3 手続きの適正化と決定の正統化
終章 大卒労働市場の創られかた
1 大卒労働市場の社会性と歴史性
2 個人と仕事の出会い方の現在へ
あとがきで「就職に関する学術書というと、アンケート調査や官庁統計を用いた分析というイメージがあるかも知れない。そうした想定で本書を手に取った方は、明治時代から始めある本書の構成に面食らうに違いない」と書かれていますが、私のように、まずは歴史的パースペクティブで物事をとらえないと居心地が悪くて仕方がないタイプの人間からすると、本書のように明治や戦間期のエピソードがずらずらと連なっていく叙述は、むしろ大変気持ちよく、話がすとんと落ちていく感じです。
現代の問題を論ずる前提として歴史を語ることに対して、「ふーん、それでどうした」と鼻であしらうタイプと、「それそれ、それこそが大事」と思うタイプとでは、なかなか話が通じないのかも知れません。
今日の諸問題との関わりでは、やはり第5章で取り上げられている企業サイドにおける「能力主義管理」の登場と対応する<仕事への自由>の強調が興味深いです。企業側が志望動機として具体的な仕事の表明を求めることと、希望した仕事に就けるわけじゃない事との矛盾を、「主体性」「参画意識」で説明している点ですね。
あと、まことにつまらぬいちゃもん。126ページの日経連の根本会長の言葉の引用の中で、
・・・企業側、大学側ともに協定を蝉脱しているという状況は・・・
いや蝉じゃないんだから「蝉脱」はしないでしょう。「潜脱」ですね。
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