『POSSE』30号は「下流社会」特集
『POSSE』30号をお送りいただきました。特集はは「下流社会の深淵と「政治」/ブラック社労士の蔓延」です。
http://www.npoposse.jp/magazine/no30.html
2015年、「下流老人」が流行語となった。
しかし、「下流化」は高齢者にとどまらず、日本社会全体に及んでいる。
なぜ、ここまで日本社会は崩れてしまったのか。
この状況を打開していくためには何が必要なのか。
本特集では「下流老人」問題を通じて、
日本社会の「下流化」の実態と構造を明らかにしていく。
さらに、「下流老人」の言説としての側面に焦点を当て、
この言説が社会運動においてもつ意義を検証する。
巻頭に今野晴貴さんの「日本の労働市場を攪乱する「求人詐欺」」が載ってますが、これ実は本日同時にお送りいただいた今野さんの『求人詐欺』の最終章なので、そちらで取り上げますね。
第1特集の「下流社会」は、
15分でわかる下流老人 本誌編集部
階層化する日本社会―「下流老人」という言説の戦略的意図 藤田孝典(NPO法人ほっとプラス代表理事)
「下流化」の諸相と社会保障制度のスキマ 後藤道夫(都留文科大学名誉教授)
「一億総貧困化社会」と同一労働同一賃金への道 木下武男(労働社会学者/元昭和女子大学教授)
子どもの貧困を解決しない限り「下流社会」はなくならない 山野良一(名寄市立大学教授)
藤田さんは若者の貧困を取り上げた『貧困世代』を出したばかりですが、ここでは「下流」という表現にリベラルな人から批判がされたことをとっかかりに、そもそも「下流」という表現を嫌がる心性に、日本型雇用を前提として階層から目を背け福祉政治にネガティブな感覚を見いだし、むしろそれを直視させるところから制度保証を求めていくための「言説戦略」として打ち出していることを語っています。
後藤さんのはデータを駆使した論文ですが、ここではその中で、奨学金ローンと過重なアルバイトによる生活破綻と疲弊に対するあるべき姿を論じている部分から、ややもするとある種の人々の議論から抜け落ちがちなところを引用しておきたいと思います。
・・・同時に、学校、職業訓練という領域に即して、どの様な対抗のイメージが必要かということも考える必要があろうと思います。高校への原則全員就学は良いと思いますが、大学も、というのは強い違和感があります。
別に時間と紙幅をとってきちんと議論すべき事ですが、職種別、熟練度別で福祉国家型の労働市場を形成する展望とつなげるかたちで考えるべきだと思っています。ここでは一つだけ、現在の学歴競争や「学校」と「企業内職業訓練」の固定観念を超えるイメージを喚起するために、無償・生活保障付きの「職業訓練型のカレッジ」を、たとえば東京で5000人程度の定員で作るというアイディアはどうだろうか、とだけ発言しておきたいと思います。・・・大学等、専修学校、職業訓練施設の「無償」と生活保障の根拠についても、機会を改めて議論する必要があると思います。・・・
これはとても重要なポイントだと思います。親が日本型雇用の生活給で大学の学費を負担できることを大前提とし、卒業後は日本型雇用のOJTで仕事に必要なことは全部教えてくれることを小前提とし、それゆえに卒業後は役に立たないことを親の潤沢な金を頼りに教えるという時代に確立し膨張したビジネスモデルをそのままにしたまま、その前提が崩れてきたことによる矛盾を何とかしようとしても、「何でそんな卒業したら無駄になることに公金をつぎ込む必要があるんだ」という世間の頑固な声を乗り越えられないでしょう。少なくとも、「無用の用」と嘯いていればどこかから金が振ってくるわけではないのですから。
木下さんは最後の「同一労働同一賃金への道」の節が絶品です。「・・・その時、非正規雇用の待遇改善のために同一労働同一賃金を実現したいとする政治家が現れた。・・・」というセンテンスに続くのはどういう文章でしょうか。
第2特集はブラック社労士。座談会には弁護士の佐々木亮、島崎量両氏とともに、社労士の飯塚盛康氏も出てきます。
あといろいろと面白い記事がありますが、重要だと思ったのは最後に載ってる鈴木由真さんの「ブラックバイト問題とユニオンの発展による労働法教育の新段階」です。ブラック企業を問題としていた頃の労働法教育は、将来就職してからのブラック企業への泣き寝入りしない心構えを教えるものだったのに対して、ブラックバイトが問題化してからは、もっと身近な高校生、大学生が自身当事者である問題を取り上げるようになってきたということです。
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