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2016年3月24日 (木)

「職務給と横断賃率」@『労基旬報』2016年3月25日号

『労基旬報』2016年3月25日号に「職務給と横断賃率」を寄稿しました。

 昨年9月、改正労働者派遣法とともに成立した「労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策の推進に関する法律」(通称「同一労働同一賃金推進法」)は、その基本理念で「労働者が、その雇用形態にかかわらずその従事する職務に応じた待遇を受けることができるようにすること」を唱っています。また今年に入ってから、1月22日の施政方針演説で安倍総理が「同一労働同一賃金の実現に踏み込む考えであります」と述べたのを皮切りに、官邸主導による同一労働同一賃金への政策の動きが目立っています。

 この問題については今までも何回か取り上げてきましたが、主として歴史的経緯に主眼を置き、かつて1950年代から60年代にかけての頃には、経営側と政府が同一労働同一賃金原則に基づく職務給への移行を唱道していたのに対し、労働組合側は極めてリラクタントな姿勢に終始していたと説明してきました。当時労働側の主流であった総評に関する限りはそのことに間違いはないのですが、それだけでは当時のこの問題をめぐる配置状況をやや単純化してしまうことになります。というのは、労働側にも同一労働同一賃金原則を正面から受け止め、日本の属人的な年功賃金制度を西欧型の賃金制度に変えていくことを展望する意見があったからです。

 1960年代末から70年代にかけて経営側が職務給志向を捨て去り、労働に関わる政労使三者がみんな日本型雇用を礼賛するようになってしまった後では、もはや完全に忘れられた歴史ではありますが、半世紀以上後に再び同一労働同一賃金原則が政策のホットトピックになるに至って、その歴史を深い地層の底から掘り返してみることにも、一定の意義があるのではないかと思われます。

 素材として有用なのは、賃金制度改革が熱心に議論されていた1961年に日本労働協会から出版された『労働組合と賃金-その改革の方向』です。ここには、総評調査部の小島健司、全労(後の同盟)書記長の和田春生、新産別調査部長の大谷徹太郎の3氏による基本的考え方の提示と、全造船、電労連、合化労連、全繊同盟、私鉄総連といった各産別の賃金担当者による問題点の提示がされており、現在読み返してみてもきわめて重要な論点が提起されているのです。

 まず総評の小島氏ですが、賃金体系とは資本が労働者を搾取するための手段なのだから、労働組合側が長期的な賃金体系の在り方を提示する必要はなく、大幅賃上げだけを言い続けろという議論を展開しています。これが当時の労働側の主流であったことは間違いありません。しかし、総評傘下の産別も含め他の組織はかなり違う意見を述べています。

 まず全労(=同盟)の和田氏ですが、自ら「年功序列賃金を攻撃して、これを直さなくてはいけない」と言いだした一人だと述べ、そのために有効なのが職務給制度への移行であり、「職務を中心に考えていくという形が、年功序列型の賃金を是正し、同一労働同一賃金へ近づく・・・かなり効果のある方法」だと主張しています。ただし賃金決定機構が企業内に限られている状態では、職務評価が企業別になってしまうという点に懸念も示しています。

 新産別の大谷氏はより理論的で、今こそ賃金制度の近代化のチャンスであると述べ、労使対等の協議交渉によって職務分析、職務評価を行い、それに基づいて職務・職種別賃金を導入すべきだと主張しています。その際、企業別組合にのみ責任を負わせることはできず、全産業別、産業別に一般的な基準が必要になると論じています。欧州型の横断賃率を企業別組合の現実の中でどう実現するかが課題というわけです。

 実は当時、組織としては職務給反対の総評の傘下の労組からも、欧州型横断賃率論を唱える動きがかなりあったのです。たとえば全造船の西方副委員長は、「賃金に取り組む態度としては、同一労働同一賃金を打ち出していかなければならない、これこそ、賃金のあるべき姿である」としつつ、その具体的な姿としては産業別に横断賃金体系を作っていく必要があると述べています。そして、「一人前労働者とその上の中熟練、高度熟練というように三段階に区別し、その中で賃金体系を組み直してい」くことを提起しています。また、合化労連の岡本副委員長も、「年功賃金ではどうにもならなくなった」という認識に立ち、産業別統一闘争の中で同一労働同一賃金を実現していくという方向を主張しています。共通するのは、経営側主導の職務給を企業別に分断されるとして否定し、西欧型横断賃率を対置しようとする姿勢です。もっとも、日経連の議論もまず企業別に職務給化を進め、将来的には業種別全国的に横に揃えていくというものなので、最終的な姿はあまり違わないようにも思えますが、当時はむしろ労働組合の運動論との関係で産業別統一闘争の目標として論じられていたのでしょう。

 一方全労(=同盟)傘下の全繊同盟の井上調査部長は、「現在の属人的な賃金の決め方を廃止していって、同一職種については同一の賃金が支払われるような、いわゆる職種別賃金を確立していく方向が望ましい」と述べつつ、「同一労働同一賃金と、生活を十分に保障する賃金水準の確立が、その前提になければならないから、今の時点ですぐそれができるかどうか」と疑問を呈し、「家族手当のようなものについても、当然国家が社会保障制度の中で措置する」ことを求めています。まさに西欧型福祉国家と一体の仕組みとして提示しているのです。

 この関係で大変興味深いのは、労働研究者の立ち位置と労働組合の組み合わせが、いわゆる左派と右派という軸で見るときれいに逆転していることです。総評主流派は職務給を否定、横断賃率論にも極めて懐疑的で、労働組合は賃金の決め方などという余計なことを考える必要はない、賃金をいかに上げるかだけを考えていればいいんだ、といういささか思考停止的な議論に終始していましたが、その議論と見事に平仄を合わせているのが、賃金の決め方を重要ではないとし、賃金の上がり方に関心を集中すべきだと唱えた小池和男氏の議論です。それに対して、労働界で同一労働同一賃金を首唱していたのは全労(=同盟)などどちらかというと右派に属する組合でしたが、1960年代に労働学界で横断賃率論を積極的に唱えていたのはむしろ左派に属する研究者で、その一人に熊沢誠氏がいます。小池氏と熊沢氏は今日に至るまで労働研究の二大巨峰ですが、その出発点における賃金論のその当時の労働界における配置状況は、いろんな意味で皮肉なものを感じさせます。

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