宮本太郎・山口二郎編『リアル・デモクラシー』または憂しと見し世ぞ今は恋しき
長らへばまたこのごろやしのばれむ憂しと見し世ぞ今は恋しき
え?いや、一言でいうとそういう本です。
宮本太郎・山口二郎編『リアル・デモクラシー』(岩波書店)をお送りいただきました。ありがとうございます。
http://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/02/1/0255710.html
従来日本で生活保障に一定の役割を果たしてきた利益集団は,グローバル化や小泉構造変革,政権交代を経てどのように変容したのか.日本医師会,建設業協会,農協,連合,NPO団体の戦略転換を分析し,その上で,利益誘導型とは違う形で中間集団を基盤にした,新しい民主主義と生活保障の仕組みを構想する.
目次は次の通りで、第1部でいろんな団体を取り上げ、第2部でやや理論的な分析をしているのですが、
利益政治の転換とリアル・デモクラシー
第1部
日本医師会における政治戦略の変化
政権交代による政策変動と政策コミュニティ―北海道開発政策を事例として
農協の政治運動と政界再編・構造改革・自由化―一九八〇年代以後の農協農政運動団体の活動分析
ソーシャル・ガバナンスと連合労働運動
政治過程の変容とNPOの政策提言活動
第2部
熟議民主主義と集団政治―利益団体・アソシエーション・集合性の構成
「空っぽの乗り物」?―政党組織“開放”の力学
福祉・雇用レジームの転換を妨げる財政の硬直性―再配分の政治の隘路
保守主義レジームの多様性―日独仏福祉国家再編の分岐
影響の体系としての現代民主体制
おわりに
正面からの総論に当たるのは宮本太郎さんの序章ですが(これは部分的に公開されています)、
http://www.iwanami.co.jp/.PDFS/02/1/0255710.pdf
でも、何で今こういう本を出すのかを率直に述べているのは、山口二郎さんの「終わりに」です。
その冒頭に出てくるのが、上の百人一首の歌なんですね。
長らへばまたこのごろやしのばれむ憂しと見し世ぞ今は恋しき
どういうことか?
・・・打破すべき悪しき仕組みや悪者たちを除去した結果、政治は均衡を失い、首相は強権をほしいままにし、人々の生活も不安定になった。そうした変化は、かつて政治過程の重要な登場人物であった組織、団体が弱体化したことに起因している。・・・
いやまさにその「悪者たち」を除去すべしと論陣を張って先頭に立っていたのが山口二郎さんたちであったわけですが、まさにだからこそ「憂しと見し世ぞ今は恋しき」なんですね。
・・・政治改革の中で、自立した個人を単位とする政治参加のモデルと考えられてきた。日本人が、それぞれのしがらみを断ち切って、自分で考え行動するようになれば、自民党による一党支配は崩れるだろうという期待が存在した。集団主義は封建的、あるいは伝統的な保守支配の地盤であり、個人主義が民主主義をもたらすという図式が暗黙のうちに共有されていた。・・・
・・・既存の集団を既得権にしがみつき守旧派と攻撃し、組織されざる大衆に改革をアピールするという手法は、小泉純一郎以来、扇動の能力を持つ政治家に愛用された。これも、政治における個人主義浸透の結果であり、ある意味で90年代以来の民主化の帰結ということもできるだろう。・・・・・・・
そう、だからこそ「憂しと見し世ぞ今は恋しき」なんですね。
ただ、本ブログの読者にとっては、かなりデジャビュの感もあるのではないでしょうか。
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2008/01/post_46a5.html (山口二郎氏の反省)
・・・今頃あんたが後悔しても遅いわ、なんて突っ込みは入れません。この文章自体がまさにそれを懺悔しているわけで、人間というものは、どんなに優秀な人間であっても、時代の知的ファッションに乗ってしまうというポピュリズムから自由ではいられない存在なのですから。
まあ、でも90年代のそういう風潮に乗せられて、いまだに生産の場に根ざした連帯を敵視し、それこそが進歩だと信じ込んで、地獄への道をグッドウィルで敷き詰めようとする人々が絶えないんですからね。
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/02/post-9826.html (山口二郎氏の反省その2 参加や直接政は必ずしも民主主義を増進させないのか!?)
・・・立派な政治学者が今頃になってそんなことを言い出さないでよ!!といいたくなりますね。
実は、山口二郎氏と私は同年齢。同じ年に同じ大学に入り、同じような環境にいたはずですが、私がその時に当時の政治学の先生方から学んだのは、まさに歴史が教える大衆民主主義の恐ろしさであり、マスコミが悪くいう自民党のプロ政治のそれなりの合理性でした。
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はあ~?「いやはや~、お二人のおめでたいこと、ついにここに至りる」。お粗末申し上げました。
挙句に第2部小見出しでの、おそらく再分配を再配分とする誤用?誤植であってと願うばかり。
後付けバイアスてんこ盛りですね。リハビリしましょ、ね。そのための皆保険制度ですから。
有権者もその中にある中間組織と称されるギルド既得組織のこの間の右往左往は
日本人のもつホメオスタット機能が次の高みに転生したことをどうも表題の「リアル」ほど認識されていないようです。
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投稿: kohchan | 2016年2月13日 (土) 07時36分