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「障害者差別と日本型雇用」@『生産性新聞』2月25日号

『生産性新聞』2月25日号に「障害者差別と日本型雇用」を寄稿しました。

 2013年6月に改正された障害者雇用促進法のうち、差別禁止にかかる部分の施行は2016年4月と目前に迫ってきました。既に障害者差別禁止指針、合理的配慮指針、施行通達、Q&Aなども公表され、準備に遺漏はなさそうに見えます。しかし、欧米ジョブ型社会を前提として発達してきた差別禁止と合理的配慮という発想を日本のメンバーシップ型雇用の世界に導入したことによる落差は、必ずしも明確に意識されていないようにも見えます。

 実は同じ落差は男女差別についてもあったのです。昨年末出版した『働く女子の運命』で述べたように、「ジョブの平等」に立脚する欧米型男女平等を、雇用契約でジョブが定まっていない日本では「コースの平等」に読み替えて何とかこなしてきました。今回も基本枠組みは男女均等法のそれに倣っています。しかし、特定のジョブとの関係で初めて職業能力の低下や欠如が問題となり得る障害者において、ジョブ抜きの差別禁止やとりわけ合理的配慮というのは、かなり無理があると言わざるを得ません。その結果、指針の文言のある部分はいかにもジョブ型を前提にしたものとなっています。

 例えば募集採用について障害者を排除してはいけないけれども、業務遂行上特に必要な能力を条件とすることは差別ではないとか、障害者が支障となっている事情とその改善のために希望する措置を申し出たら、事業主は障害者と話し合って過重な負担にならない範囲で合理的配慮措置を確定せよとか、具体的にどういう業務を想定しているのかが明確でなければ議論のしようがありません。障害とはまさにある特定の職業能力の低下ないし欠如であり、しかしそこをうまく埋めれば業務が遂行できることが障害者雇用の存立基盤なのですから。ある業務のための合理的配慮があれば問題なく働ける障害者も、他の業務に配置転換されてしまえば働けなくなってしまうこともあり得ます。職務無限定の男性正社員と同じコースに女性正社員も「総合職」として乗せればよかった男女均等法とは事情が違うのです。

 その意味で障害者雇用は原則としてジョブ型にならざるを得ません。実はこれまでも、障害者雇用率制度とさまざまな助成制度の下で、特定業務にはめ込む、場合によっては特定業務を作り出すという形で、メンバーシップ型の健常者正社員とは違う雇用区分で障害者を活用してきたのではないでしょうか。そこを無理に「差別禁止」して無限定正社員にせよと言ってしまうと、かえって障害者が働けなくなってしまいます。ジョブ型正社員とは障害者が働くための合理的配慮とも言えるのです。

 ただ一方、そもそも採用がジョブ型ではない日本では、とりわけ新卒障害者の採用の場合、雇用率達成度合を考慮しつつ、一定数の障害者をまとめて採用という形をとることが多く、その場合はむしろ採用後しばらくは職務無限定でいろいろと試してみて、最少の合理的配慮で最大の能力発揮ができるような業務にうまくはまっていく、というパターンが少なくないのではないかとも思われます。

 いずれにしても、通達に書かれている差別事例には、「労働能力等に基づくことなく、単に障害者だからという理由で、障害者だけを総合職から一般職に変更させること」といった男女差別からそのままコピーしたようなものもありますが、障害者差別問題はもう少し深い検討が必要なのではないでしょうか。

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