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毎日新聞の質問なるほドリでさらりと

本日の毎日新聞の「質問なるほドリ」で、「「金銭補償し解雇」可能に?=回答・東海林智」という記事が載っていますが、

http://mainichi.jp/articles/20160123/ddm/003/070/130000c

そのなかでさらりと、

 Q 解雇については日本の規制は厳しいと聞くけど。

 A 会社の事情による整理解雇には4要件がありますが、一般的なルールは解雇に客観的、合理的理由がなく社会通念(つうねん)上相当と認められない場合、解雇権の乱用で無効になります。ところが、研究者の調査では有給休暇を申請しただけで解雇された例があるなど、実際には規制が守られていないとみられています。こうした労働者をどう救済するかの議論も必要です。(東京社会部)

という記述が。

この「研究者の調査」ってのは、間違いなくこれですね。

http://www.amazon.co.jp/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E9%9B%87%E7%94%A8%E7%B5%82%E4%BA%86%E2%80%95%E5%8A%B4%E5%83%8D%E5%B1%80%E3%81%82%E3%81%A3%E3%81%9B%E3%82%93%E4%BA%8B%E4%BE%8B%E3%81%8B%E3%82%89-JILPT%E7%AC%AC2%E6%9C%9F%E3%83%97%E3%83%AD%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%82%AF%E3%83%88%E7%A0%94%E7%A9%B6%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BA-%E5%8A%B4%E5%83%8D%E6%94%BF%E7%AD%96%E7%A0%94%E7%A9%B6%E7%A0%94%E4%BF%AE%E6%A9%9F%E6%A7%8B/dp/4538500046/ref=cm_rdp_product (濱口桂一郎著『日本の雇用終了』(労働政策研究・研修機構))

112050118

(1) 年次有給休暇、育児休業の取得を理由とする雇用終了

 労働者としての権利行使に係る雇用終了のうち最も典型的なものは、法律で認められた年次有給休暇や育児休業の権利を行使した(あるいはしようとした)ことを理由とする雇用終了であり、6件ある。

・10185(非女)普通解雇(25万円で解決)(不明、不明)

 会社側は「個性が強く、店のスタッフとの関係も不仲で、口論が絶えない」こと、他のパート従業員から「このままではここで働けない、やめる」との話が再燃したため、「店舗の運営を第一と考え」「不協和音を理由に」解雇を通告したと主張。本人側は「私が・・・労働基準監督署に対して申告したこと等を理由に解雇されたと判断」している。

 本人の申立によると、「有休は付与されるはずですけどもと聞いたら、次長がパートには有休はありませんとはっきり言われた」、「時間外労働手当のことを聞いたら言ってる意味が分からないといわれた」、「本部に問い合わせしたところ、雇用契約書および労働契約書は社員にはありますが、パートさんにはありませんといわれた」ため、監督署に相談し、次長が呼び出され、指導してもらった。

 これは、日常の「態度」と「発言」が交錯するケースであるが、むしろ労働法上の権利を主張するような「個性の強さ」が同僚との関係を悪化させる「態度」の悪さとして捉えられ、権利を主張しないことが「職場の和」となるという職場の姿が現れている。

・10220(正男)普通解雇(不参加)(不明、無)

 身内の不幸で有休を申し出たら、店長が「うちには有休はない。今まで使った人もいない。いきなり言われても困る。自分に聞かれても分からない」等と不明瞭な回答をし、そののち有休を取得したが、そののち解雇通告されたもの。

 会社側は「有休の取得と解雇は関係ない」、「労働意欲がなく、何度注意しても改善せず、就業に適さない。他の子に悪影響を及ぼす」のが解雇理由だとしている。なお、「店長は経験が浅く、労働法について詳しく理解していなかったのでこじれた」と説明している。

 会社側不参加のため詳細不明だが、有休と解雇がまったく無関係とも思われず、「有休=労働意欲の欠如」という認識があるようにも見える。

・30017(正女)普通解雇(打切り)(3名、無)

 社長に有休を願い出、了解を取ったにもかかわらず、その初日に「会長が大変怒っておられる。2週間も有休を取るような無責任な人は、うちには要らない」と連絡され、有休後出勤すると、会長から「要らないとは解雇の意味である」と通告。

 会社側は「通常の勤務態度や得意先の態度に当社の信用を失墜させるような行動が多々あり、その都度注意したものの一向に改善が見られないことによるもの」と説明。有休はきっかけで、本質はむしろ本人の勤務態度への認識にあるようで、「我々と社長の仕事上の指示も選り好みでものによると『こんなん私いやや社長やってえなあ』と馴れ馴れしく拒否するようになった」といった態度が許し難かったらしい。

 態度を理由とする解雇が権利行使をきっかけに噴出したケースといえよう。

・30204(非女)普通解雇(12万円で解決)(40名、無)

 会社側によれば、当日の朝「子どもが病気なので休む」と連絡があったが、当日パチンコ店にはいるのを目撃したため、勤務態度不良として解雇したもの。そもそも事前に休暇届を出しておらず、「有休とは認め難い」「単なる欠勤」との認識である。

 本来有休の利用目的は自由であり、パチンコに費やしたからといって不利益取扱いが許されるわけではないが、使用者には時季変更権があり、それが行使不可能な申請には問題がある。実際には、本当に子どもが病気であれば看護休暇の代替として認容するのが普通であろうが、実はパチンコに興じていたことで、「態度」への怒りが噴出したとみられる。

・30264(非女)普通解雇(6万円で解決)(25名、無)

 有休の権利を主張したら、社長から「うちにはない。パートにはない」と30分口論になり、実際に休んだのち、社長の叔父から「これ何や。景気が悪いから有休は出せない」と1時間説教され、さらにそののち有休を取ったら、社長から「今から仕事しなくてもよい」「首ということか?」「そうだ」「有休のことを言ったからか」「違う、休むからだ、困るからだ」とやりとり。会社側は、「零細企業においては、現実には有給休暇なんてないよねという暗黙の了解があって、これまではあまり請求もされなかったのは事実ではあるが、拒否したことはない」と述べている。

 これも権利行使が「態度」の問題となるケースだが、会社側が「零細企業の現実」を率直に語っている点が興味深い。

・30327(非女)雇止め、育児・介護休業等(30万円で解決)(16名、無)

 産休後、育休を取得したいと申し出たが、「パートに育児休業はない」と言われ、均等室に相談した結果、1年間の取得が認められた。ところが契約更新について確認すると、「園児の人数が分からないので更新の約束はできない」といわれた。ところがそののち、園児が予定より増えたためとして、申請人以外の2人については契約の継続を決定、申請人は雇止めとなった。

 保育園側は、「育児休業を取得したことが雇止めの理由ではなく、申請人は他のパートと比較すると、笑顔がない、子どもに心から接することができない等、力量が劣るため」と主張している。

 もし育休取得が雇止めの理由なら不利益取扱いの禁止に該当するが、一応「能力」を主張しており、判定手続ではないので金銭解決となっている。

 以上6件を通観して窺われるのは、「パートには有休はありません」「うちには有休はない」「2週間も有休を取るような無責任な人は、うちには要らない」「うちにはない。パートにはない」「パートに育児休業はない」等々と、労働法上に明記されているはずの労働者の権利が、中小企業の使用者の目には存在しないものと映っているらしいことである。こういった企業においては、使用者側にそもそも基本的な労働法上の権利行使に対する正しい認識が欠乏していることを窺わせる。こういった事態に対しては、一般的な労働法知識の普及啓発活動が必要であることはいうを待たない。

 近年、労働者、とりわけ若い労働者が労働法の知識を十分持たないまま就労し、不当な労働条件をそれと気づくことなく受け入れてしまっているといったことが指摘され、若者を中心とする労働法教育の必要性が唱道されている。例えば、厚生労働省に設置された「今後の労働関係法制度をめぐる教育の在り方に関する研究会」が2009年2月にとりまとめた報告書においても、「あらゆる層の労働者が必要な知識を習得できる機会を設けることこそが、働く上で必要不可欠な要素である」と適切に述べている。

 しかし、それと同時に重要なのは使用者自身に対する適切な労働法教育であり、しかもそれは(「パートには有休はありません」といった誤った思い込みを是正させなければならないという点において)労働者に対する労働法教育よりもさらに困難性がある。これはまた、伝統的な企業の規模別多重構造の下で、大企業では人事労務管理が確立し、正しい労働法の知識が管理者側に共有されているのに対して、中小零細企業になればなるほどそのような体制が乏しいことや、大企業は経営者協会などに参加して人事労務関係の知識を入手する機会が豊富にあるが、中小零細企業になればなるほどそのようなアウトリーチから外れがちであるといったことによっても増幅される傾向にあろう。その意味で、上記事例に垣間見える中小零細企業における労働法認識の欠乏に対しては、何らかの公共政策的な措置を講じていくべき課題として捉えることも必要と思われる。

 その一つの考え方として、こういうあっせん申請という形で労働行政のアンテナにかかってきたことを捉えて、あっせんを実施するかどうかとは別に、使用者に対する正しい知識の啓発の機会とすることも考えられてよいように思われる。もっとも、それは大海の一滴程度の効果に過ぎないという面も否定しがたいが。

 一方で、日本的な職場の意識からすれば、有休を取ってパチンコに興じるといった行動は眉をひそめられるものであることも事実であり、また、正当な権利行使であっても当該労働者の日頃の「態度」が使用者側から低く判断されているような場合には、当該権利行使自体が「態度」の悪さの一徴表として捉えられ、悪い「態度」に対する制裁という使用者側の主観的意識のもとに、当該(それ自体としては正当な)権利行使に対する制裁として雇用終了といった事態が引き起こされる可能性が高いことも、法的な価値判断は別として、事実認識として受け止める必要のあることであると思われる。

 この点については、上記今後の労働関係法制度を巡る教育の在り方に関する研究会」報告書においても、「社会生活のルールおよび基本的生活態度を身につけ、他者との良好な人間関係を構築するための『社会性・コミュニケーション能力』を高めることが、実際の職場における紛争の防止や解決に資する」と述べているところであり、いわば正当な権利行使をミクロな職場において正当なものとして通用させるために一定の「態度」が必要であるという現実の職場の事実についても、価値判断はさまざまであれ、銘記しておく必要があると思われる。

(参考)雇用終了以外の有休取得関連事案

 以上は、雇用終了事案の中の有休・育休取得関連事案であるが、それ以外にも有休・育休取得に関係する事案は結構多い。全事案のうち、有休取得関連事案は28件あり、そのうち雇用終了事案は3件である。なお、育休取得関連事案は2件であり、いずれも雇用終了事案である。

 雇用終了以外の有休取得関連事案の大部分はかなり定型的な紛争であり、いちいち取り上げることはしないが、ここではそのうち典型的な事例を一件紹介しておく。

・30645(非女)その他の労働条件(15万円で解決)(500名、無)

 在職中に何度も請求したが、直属上司から「うちの会社には有給休暇はない」と言われ、取得できないまま、上司から働き方が悪いと言われたので退社した。

 会社側は、アルバイトは休みたい人の希望を入れてシフトを組んでいるので、有休を取得する人も申請する人もいないと主張している。

 だからといって、アルバイトに法律上の有休の権利がなくなるわけではないが、会社側からすればそもそも労働時間について裁量性の高いアルバイトに有休の権利があること自体がおかしいという意識なのであろうか。

 本件は、企業規模が従業員500人規模と、立派な大企業であるが、「うちの会社には有給休暇はない」という管理者の発言は中小企業並みであるという印象である。

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コメント

同一労働(価値)同一賃金だ、ディーセントワークだ、ワークライフバランスだと言葉遊びしても、デフレ下においての利益確保はより人をモノ化してナンボだと言うことですね。市場競争の本能剥き出しは、年初早々のバス事故や廃棄食品の「再流通化」では、知っているにも関わらずか知らんぷりでその低価格に消費者は大喜び・・・労働に関する諸問題も消費需要を主なる解決セクターに捉える方法論は、実体社会での人間の欲望をより底なし沼へと誘うようであります。各産業セクター別でのピアレビューを方法論として考えるのであれば、第三者機関なんてものではなく、「銭」です。セクターごとに問題が起きた保障保険の強制加入(再保険の市場拡大にもなりますしね)により、自らがピアレビューをしなければ「銭を失う恐怖への群集心理」を制度化することです。本気ならば先般の「国民会議」等々委員さんはパート採用ではなく、フルタイムにするでしょ。ここでも雇用に際する問題ってすましてスルーして。なんで時給いくらの人たちが一億総活躍なんて壮大でかつ細部に至る配慮を要する国民一人ひとりにとって命の次に大切な権利問題をフィージビリティーに導けるんでしょうか?どなたか教えてほしいなあ。

投稿: kohchan | 2016年1月23日 (土) 12時57分

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