『POSSE』29号
『POSSE』29号をお送りいただきました。今号の特集は左の表紙にあるように「自衛隊とブラック企業」です。
http://www.npoposse.jp/magazine/no29.html
2015年、ついに「安保法制」が成立した。
この法制の成立過程や内容の賛否については、本誌では 深入りしない。
だが「軍隊」が存在する以上、労働や貧困の問題は不可避 的に存在する。海外派遣が進めば、その問題はさらに剥き出しになるだろう。
反戦運動に参加する人たちにとっても、自衛隊の活動を 推進する人たちにとっても、 足元にあるこのテーマは、見 落とされがちだったのではないだろうか。
そこで本特集では、あくまで労働・貧困問題という視点 に限定しつつ、 「ポスト安保法制の労働」に多角的なアプ ローチを試みた。
安保法制や自衛隊の海外派遣を議論する前提として、 それらに反対の人にも賛成の人にも、ぜひ読んでほしい。
特集の目次はこの通りですが、
◆特集 「自衛隊とブラック企業 ポスト安保法制の労働」
008 15分でわかる安保と労働
本誌編集部
013 自衛隊は安保法制に耐えられない
―海外派遣で深刻化する労働問題
布施祐仁(ジャーナリスト)×今野晴貴(NPO法人POSSE代表)
026 自衛隊のセクハラ・パワハラ訴訟から問う軍隊の「民主的統制」の可能性
佐藤博文(弁護士)
041 元自衛官に聞く自衛隊のブラックな労働環境
―いじめ、暴力、うつ病の蔓延と隠蔽の構造
木下武男(元昭和女子大学教授)×
郡司榮晟(元自衛官)×清水敦司(元自衛官)
056 安保法制は基地労働をどう変えるか
―米軍戦略に左右される基地労働と労働組合の取組み
紺谷智弘(全駐留軍労働組合中央本部書記長)
067 企業・行政における自衛隊研修の実態
本誌編集部
076 学校への軍事的侵略
―下級予備役将校訓練課程(JROTC)の役割について
シルビア・マクガーリー(米オレゴン州立レイノルズ高校社会科教員)
084 『アメリカン・スナイパー』と『キャプテン・アメリカ』が描く帰還兵のPTSD問題
錦織史朗(大学院生)
このうち、上記特集の趣旨を一番明確に述べているのは、佐藤弁護士のインタビュー記事でしょう。そのうち「軍隊に対する民主的統制」というところで、インタビュアの問いに答えて、
-これまで自衛隊におけるセクハラ・パラハラの実態や生活問題について伺ってきました。こうした組織内の問題に対して、外国の軍隊では歯止めをかける仕組みはあるのでしょうか。
・・・ドイツやスウェーデンでは古くから軍隊にオンブズマン制度があるということです。他の国でもオンブズマン制度だけでなく、労働組合や、兵士や家族の協会といった利益擁護団体があります。しかし、日本の場合には全くそれらがないわけです。
日本はなぜそうなったかというと、憲法9条があるために、検察予備隊がGHQの指令により国会で議論せずに作られたことに始まっています。警察予備隊は後に自衛隊になるわけですが、憲法9条に反するため政府はその実態を明らかにせず、軍隊ではないと説明し続けてきました。他方で平和護憲運動の側には自衛隊に対する拒絶感があり、自衛官たちの置かれている立場や状況を考えるという発想が欠けていました。さらに労働組合の人達も兵士の労働条件という観点を持ち合わせていなかったのが実情です。
・・・それからドイツでは、約25万人の兵士を組織する協会も結成され、労働組合のように処遇の改善のために活動しています。
-労使関係がきちんとあって、実質的な団体交渉ができるわけですね。
ストライキはできないけれども、制服を着てデモはできます。・・・ドイツではストライキはだめでも自らの殊遇の改善を求めて、制服を着てデモに参加することまでは、政治的行為ではなくて組合として認められる経済的領域の範囲の行動とされています。・・・
そしてとりわけ次の「日本の護憲運動が等閑視してきた自衛官の労働問題」というところでは、こうズバリと言っています。
・・・自衛隊がここまで膨らんでしまっている一方で、護憲運動の人達は、絶対的非暴力主義の発想が強いですし、「自衛隊は憲法違反」というところで議論が止まりがちです。このことは、日本社会全体にとっても兵士にとっても非常に不幸なことではないでしょうか。安保法制ができてしまった今、私はこの問題に、自衛隊員や家族の労働問題の視点から取り組んでいくことが重要だと思っています。
・・・今まであまりにも日本社会は自衛隊員のことを知らなさすぎました・政府は政府で、憲法の下での鬼子だからなるべく実態を見せないように、ずっと誤魔化してきました。同じ人間として、また労働者として自衛隊で働いている生身の人間がいて、われわれ主権者の代わりに彼らが戦場に行って、殺されるかも知れない。われわれは同じ働く者としてその状況に対してどう責任を持つのかと問いかけていくことが重要だと考えています。
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