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2016年1月

2016年1月30日 (土)

社会保険というのは、払った分は返ってくるのが大原則!!!???

マシナリさんのところのエントリを読んでいたら、信じられないような文章にぶち当たりました。

いや、もちろん、マシナリさんの地の文ではなく、引用ですがね。

http://sonicbrew.blog55.fc2.com/blog-entry-671.html (団塊の世代が好きな「一点突破、全面展開」というやつ)

このエントリもいろいろな論点があって面白いのですが、ここに引用されている「経済を良くするって、どうすれば」というブログの文章を見て目が点になりました。

曰く:

・・・社会保険というのは、払った分は返ってくるのが大原則である。そこが反対給付と無関係に取られる税とは異なる。つまり、この576万円は、請求権という形ではあるが、貯金のようなものだ。

しゃ、社会保険は払った分は帰ってくるのが原則だって?貯金みたいなもんだって?

この人、そもそも保険と貯金の違いがわかっているんだろうか。

言うまでもなく社会保険の原点にして現在でも典型は健康保険ですが、払った保険料の分は返してもらおうとみんな思っててんでにわざと怪我をしたり病気になったりしたらあっという間に破綻します。保険料を払った大部分の人は怪我をしたり病気にならないことを前提にして、不運にして怪我をしたり病気になった人の高い治療費をまかなっているのですから。

社会保険以前に、民間の私保険でも、例えば火災保険でも傷害保険でも、払った分は返してもらおうとみんなやり出したら偉いことになりますよ。

保険は貯金にあらず。

こんなイロハのイがわかってない人が経済を説くのが日本の姿なんでしょうね。

まあ、その理由も明らかで、日本の生命保険が保険と称して貯金みたいな商品を売り続けてきたから、保険とは貯金なりと心得る人が一杯出てきてしまうのでしょう。

話を公的社会保険に戻すと、厚生年金保険も国民年金保険も、法律の名前から明らかなようにれっきとした「保険」であって、貯金じゃありません。老齢による稼得不能や障害による稼得不能を保険事故とする立派な社会保険です。ただ、世の経済学者と称する多くの人々が、法律をよく読まずに勝手に貯金だと思い込んであれこれ勝手な論をこね回すという悪癖がやたらにみられるだけで。

実を言うと、社会保険の中で保険を貯金と心得るモラルハザードが一番問題になってきたのが失業保険、雇用保険です。さすがに払った分を取り戻すためにわざと怪我をしたり病気になる人はあんまりいませんが、失業したと言い出す人は結構いるからです。

失業保険、雇用保険の歴史は、「社会保険というのは、払った分は返ってくるのが大原則」と心得る人々との闘いの歴史でもあったのです。詳しくはこちらを:

http://hamachan.on.coocan.jp/shitsugyohoken.html「失業と生活保障の法政策」

・・・しかしながら、失業保険制度の両性格は必ずしも常に整合的であるとは限りません。特に大きな問題となるのは、その生活保障のためのセーフティネットとしての性格がかえって再就職促進機能を阻害するモラルハザードとして逆機能しているのではないかという点です。これはまず何よりも、失業保険制度における保険事故たる「失業」が有する特殊性から生じます。すなわち「失業」には、労働の意思と能力という主観的要件が含まれ、とりわけ「労働の意思」は外部から客観的に判断することが困難です。これは離職後の失業状態の認定が内心の意思に関わるということだけでなく、離職そのものを任意に創出しうるという面も含みます。このような保険事故の主観性が、他の社会保険制度に比して濫用を容易にしている基本的原因です。つまり、失業保険制度は本質的にモラルハザードの危険性が高く、これを防止するために制度設計上の工夫が必要となってくるのです。

 失業保険制度の歴史は、まさにモラルハザードとの戦いの歴史であったと言っても過言ではありません。以下にそれを見ていきましょう。

2016年1月29日 (金)

本日より『日本の雇用紛争』発売

Koyoufunsou_2先日ご案内した『日本の雇用紛争』が本日より発売されます。

http://www.jil.go.jp/publication/ippan/koyoufunsou.html

上記リンク先より注文できます。

本書の内容を「はじめに」から紹介しておきますと、

 本書は、2015年5月に公表した労働政策研究報告書No.174『労働局あっせん、労働審判及び裁判上の和解における雇用紛争事案の比較分析』をそのまま第2部として収録するとともに、その研究で用いた労働局あっせん事案の内容分析を第3部とし、併せて法政策の推移を第1部として一冊の書物にしたものである。

 第2部の研究は、2014年6月24日に閣議決定された『「日本再興戦略」改訂2014-未来への挑戦-』において「労働紛争解決手段として活用されている「あっせん」「労働審判」「和解」事例の分析・整理については、本年度中に、労働者の雇用上の属性、賃金水準、企業規模などの各要素と解決金額との関係を可能な限り明らかにする」とされたことを受け、労働政策研究・研修機構において厚生労働省及び裁判所の協力を得て実施した調査研究である。その対象は、労働局あっせんについては、2012年度に4労働局で受理した個別労働関係紛争事案853件であり、労働審判については2013年(暦年)に4地方裁判所で調停または審判で終局した労働審判事案452件であり、裁判上の和解については2013年(暦年)に4地方裁判所で和解で終局した労働関係民事訴訟事案193件である。この研究担当者は、本書の著者である濱口桂一郎(主席統括研究員)と高橋陽子(研究員)の二人であった。

 この研究に当たり、労働審判と裁判上の和解については、上記二人の研究員が裁判所内で、労働関係民事訴訟及び労働審判記録を閲覧の上、持参したパソコンに収集すべきデータを入力するという手法で資料収集を行ったため、第2部で用いている数値化されうるデータ以外に質的データは収集されていない。これに対し、労働局あっせんについては、労働局で受理したあっせん事案の記録(「あっせん申請書」、「あっせん処理票」、「事情聴取票(あっせん)」、「あっせん概要記録票」及び添付書類)について、当事者の個人情報を抹消処理した上で、その提供を受けているため、紛争事案の内容を分類分析するために必要な質的データが得られている。そこで、本書第3部において、紛争の類型化に有用な限りで、できるだけ事案の特徴を明らかにするような形で分析を進めていくこととした。

 この部分は、2012年にJILPT第2期プロジェクト研究シリーズNo.4として刊行された『日本の雇用終了-労働局あっせん事例から』の全面改訂版と位置づけられる。ただし前回は、2008年度における4労働局のあっせん事案1,144件のうち、過半数の66.1%を占める雇用終了事案(解雇、雇止め、退職勧奨、自己都合退職など756件)を取り上げ、雇用終了理由類型ごとに詳しくその内容を分析したものであったが、今回は雇用終了事案に限らず、全事案853件を対象として分析を行っている。

 本書が、雇用紛争をめぐる諸課題に関心を寄せる多くの方々によって活用されることを期待する。

目次は以下の通りです。

第1部 雇用紛争の法政策の推移
 
1 労働基準法における紛争解決援助
(1) 労働基準法研究会報告
(2) 1998年労働基準法改正
2 男女雇用機会均等法等における調停
(1) 労働基準法研究会報告から婦人少年問題審議会建議まで
(2) 1985年男女雇用機会均等法における調停委員会
(3) その後の男女雇用機会均等法等における調停
3 個別労働関係紛争解決促進法
(1) 労使関係法研究会中間報告
(2) 労使関係法研究会報告
(3) 労使団体の提言
(4) 全国労働委員会連絡協議会の提言
(5) 個別的労使紛争処理問題検討会議報告
(6) 個別労働関係紛争解決促進法の成立
4 人権擁護法案における調停・仲裁
5 障害者雇用促進法における調停
6 労働審判制度
(1) 司法制度改革審議会
(2) 司法制度改革推進本部労働検討会
(3) 労働審判制度
7 仲裁
 
第2部 労働局あっせん、労働審判及び裁判上の和解における雇用紛争事案の比較分析(労働政策研究報告書No.174)
 
第1章 調査研究の目的・方法と制度の概要
第1節 調査研究の目的と方法
1 調査研究の目的
2 調査研究の方法
3 調査研究対象事案の範囲
第2節 各労働紛争解決システムの概要
1 労働局あっせん
2 労働審判
3 裁判上の和解
第2章 労働局あっせん、労働審判及び裁判上の和解における雇用紛争事案の比較統計分析
1 労働者の属性
(1) 労働者の性別
(2) 労働者の雇用形態
(3) 労働者の勤続年数
(4) 労働者の役職
(5) 労働者の賃金月額
2 企業の属性
(1) 企業規模(従業員数)
(2) 労働組合の有無
3 終了区分
(1) 労働局あっせん
(2) 労働審判
4 時間的コスト
(1) 制度利用に係る期間
(2) 解決に要した期間
5 弁護士又は社会保険労務士の利用
6 事案内容
7 請求金額
(1) 請求実額
(2) 月収表示
8 解決内容
9 解決金額
(1) 解決金額
(2) 性別に見た解決金額
(3) 雇用形態別に見た解決金額
(4) 勤続年数別に見た解決金額
(5) 役職別に見た解決金額
(6) 賃金月額別に見た解決金額
(7) 企業規模別に見た解決金額
(8) 解決期間別に見た解決金額
(9) 労働審判終了区分と解決金額
(10) 弁護士又は社会保険労務士の利用と解決金額
(11) 事案内容別に見た解決金額
10 月収表示の解決金額
(1) 月収表示の解決金額
(2) 性別に見た月収表示の解決金額
(3) 雇用形態別に見た月収表示の解決金額
(4) 勤続年数別に見た月収表示の解決金額
(5) 役職別に見た月収表示の解決金額
(6) 賃金月額別に見た月収表示の解決金額
(7) 企業規模別に見た月収表示の解決金額
(8) 解決期間別に見た月収表示の解決金額
(9) 弁護士又は社会保険労務士の利用と月収表示の解決金額
(10) 事案内容別に見た月収表示の解決金額
第3章 若干の考察
 
第3部 日本の雇用紛争の内容分析(労働局あっせん事案から)
 
はじめに
一 解雇型雇用終了
Ⅰ 労働者の行為
1 労働者の発言への制裁
(1) 年次有給休暇等の取得
(2) その他労働法上の権利行使
(3) 労働法上以外の正当な権利行使
(4) 社会正義の主張
(5) 前勤務社での権利行使
2 労働条件変更拒否
(1) 配置転換・出向拒否
(i) 配置転換(勤務場所)拒否
(a) 配置転換(勤務場所)に係る変更解約告知
(ii) 配置転換(職務)拒否
(a) 配置転換(職務)拒否による解雇等
(b) 配置転換(職務)に係る変更解約告知
(iii) 出向・転籍拒否
(a) 出向・転籍拒否による解雇等
(2) 雇用上の地位変更拒否
(i) 雇用上の地位変更拒否による解雇等
(ii) 雇用上の地位変更拒否に係る変更解約告知
(3) 降格拒否
(i) 降格拒否による解雇等
(4) 労働条件引下げ拒否
(i) 労働条件引下げ拒否による解雇等
(ii) 労働条件引下げに係る変更解約告知
3 労働条件変更の要求
4 労働者の態度
(1) 業務命令拒否
(2) 業務遂行態度不良
(3) 職場のトラブル
(4) 顧客とのトラブル
(5) 欠勤・休み
(6) 遅刻・早退
(7) 不平不満の発言
(8) 相性
5 非行
(1) 不正行為
(i) 情報漏洩
(ii) 顧客奪取
(iii) 不正経理
(iv) その他
(2) 業務上の事故
(3) 職場の窃盗
(4) 職場におけるいじめ・セクハラ
(5) 素行不良
(6) その他
6 私的な事故
7 私生活上の問題
(1) 結婚
(2) 男女関係
8 副業
Ⅱ 労働者の能力・属性
1 労働者の能力
(1) 具体的な職務能力不足
(2) 職業資格
(3) 成果未達成
(4) 仕事上のミス
(5) 一般的能力不足
(6) 不向き
2 労働者の傷病
(1) 労働災害・通勤災害
(2) 私傷病
(3) 慢性疾患
(4) 精神疾患
(5) 体調不良
3 労働者の障害
(1) 身体障害
(2) 知的障害
(3) 精神障害
4 労働者の年齢・定年
5 労働者の性的志向
6 家族の属性
Ⅲ 経営上の理由
1 正社員
2 直用非正規
(1) 期間途中解雇
(2) 雇止め
3 派遣
(1) 期間途中解雇
(2) 雇止め
4 内定取消等
(1) 内定取消
(2) 待機
5 表見的整理解雇
6 コマからの外し
7 仕事の無発注
Ⅴ 理由不明
二 非解雇型雇用終了
Ⅰ 労働条件に起因する非解雇型雇用終了
1 労働条件変更
(1) 配置転換・出向
(i) 配置転換(勤務場所)
(ii) 配置転換(職務)
(2) 雇用上の地位変更
(3) 労働条件引下げ
(i) 賃金引下げ
(ii) 労働時間短縮に伴う賃金引下げ
(iii) 労働時間の延長
(iv) 年休取得拒否
(v) 社宅退去
(vi) 通勤手段変更
(4) 休職・自宅待機等
(i) 休職
(ii) 自宅待機
(iii) 労働者からの内定取消
2 労働条件の水準
(1) 雇用上の地位
(2) 労働時間
(i) 労働時間
(ii) 休日
(iii) 夜勤
(iv) 時間外訓練
(3) その他
(i) 配置転換希望拒否
(ii) 交通事故
(iii) 盗難
Ⅱ 職場環境に起因する非解雇型雇用終了
(1) 直接的な身体的攻撃
(i) 経営者、上司、同僚等
(ii) 顧客等第三者
(2) 物理的脅し
2 精神的な攻撃
(1) 主に業務に関連した発言
(2) 主に業務に関連しない発言
3 人間関係からの切り離し
(1) 能動的な切り離し
(2) 受動的な切り離し
4 過大な要求
(1) 事実上遂行不可能な要求
(2) 心情的に抵抗のある要求・行為
5 過小な要求
(1) 仕事を与えないこと
(2) 程度の低い仕事を命じること
6 個の侵害
(1) 私的なことに関わる不適切な発言
(2) 過剰な管理
7 経済的な攻撃
(1) 経済的不利益を与えること
(2) 労働者の権利を行使させないこと
8 行為不明
Ⅲ 懲戒処分
Ⅳ 傷病・障害等
1 精神疾患
2 精神障害
3 外国人差別
Ⅴ コミュニケーション不全
三 雇用終了以外の事案
Ⅰ 労働条件
1 労働条件変更
(1) 配置転換・出向
(i) 配置転換(勤務場所)
(ii) 配置転換(職務)
(iii) 出向・転籍
(2) 雇用上の地位変更
(3) 降格
(4) 労働条件引下げ
(i) 賃金引下げ
(ii) 労働時間短縮に伴う賃金引下げ
(iii) 賃金の精算
(5) 休職・自宅待機等
2 労働条件の水準
(1) 賃金
(2) 労働時間
(i) 労働時間
(ii) 休憩時間
(iii) 年次有給休暇
(3) 安全衛生
3 その他
(1) 健康診断
(2) 交通費
(3) 転居
(4) 労働者からの借金
(5) 求人の虚偽表示
(6) 紹介予定派遣
(7) 盗難
(8) 教育訓練
(9) 食事代
(10) 交通事故費用
Ⅱ 職場環境
1 身体的攻撃
(1) 直接的な身体的攻撃
(i) 経営者、上司、同僚等
(ii) 顧客等第三者
(2) 物理的脅し
2 精神的な攻撃
(1) 主に業務に関連した発言
(2) 主に業務に関連しない発言
3 人間関係からの切り離し
(1) 能動的な切り離し
4 その他の嫌がらせ
5 行為不明
Ⅲ 懲戒処分
Ⅳ 賠償
四 退職をめぐるトラブル
(1) 使用者側の退職拒否・希望退職拒否
(2) 退職撤回の拒否
(3) 退職時期
(4) 賞与
(5) 退職金等
(6) 退職時の精算
(7) 教育訓練費用
(8) 住宅費
(9) 雇用保険
(10) 社会保険
○ 制度対象外事案
(1) 賃金不払い
(2) 労働時間性

マイナビニュースで日野瑛太郎さんが拙著書評

Img_752f5d874047328e26f434ce08fbda5マイナビニュースで日野瑛太郎さんが拙著『働く女子の運命』を書評されています。

http://news.mynavi.jp/articles/2016/01/29/careerbook/

拙著の内容を丁寧にご紹介いただいた上で、このように締めていただいております。

・・・日本がメンバーシップ型社会であることから生じている問題は、何も女性の社会進出に限った話ではない。たとえば、日本人が働きすぎていてワークライフバランスが改善しないという問題も、結局は「会社と労働者の結びつきが強すぎる」ことに原因がある。

そういう意味では、本書は働く女子に限らず、男子も読む必要があると言えるだろう。本書をもとに「働きづらさ」の正体について考えてみるというのはいかがだろうか。

2016年1月28日 (木)

2つのブログで拙著書評

Img_752f5d874047328e26f434ce08fbd_2昨日、2つのブログで拙著『働く女子の運命』への書評をいただきました。

まず「21世紀のサイノツノブログ」さん。

http://horn-of-rhinoceros.hatenadiary.jp/entry/20160127/1453899600

・・・さて、『働く女子の運命』(文春文庫、濱口桂一郎著)を紹介しよう。 本書は、「女性と労働」という切り口で書かれている。 巻末の経歴を見ると、著者は労働省(当時)出身で、現在も労働研究に携わっておられる方である。いわば労働に関するスペシャリストといえようか。 内容は、決して女性のみの話ではなく、著者の言葉を借りれば「日本型雇用の歴史そのものが女性のありようを物語る」ものである。

次にNaoki SUGIURAさんの「なおきのブログ」。

http://naokis.doorblog.jp/archives/empowering_women_deception.html

私は女性の労働問題に甚だ関心を持っています。その理由は、私が四人の娘の父親であることと無縁ではありません。娘たちが将来社会に出た時、労働環境は一体どうなっているだろうか、ということは、無関心ではいられません。

安倍内閣が女性活用を提唱しています。しかし、女性が男性並みに働きかつ子どもを持つというのは、どこか無理があると、常々考えておりました。なぜそう思うのかよくわからなかったのですが、本書を読んで、見切りました。

はっきりと申します。

いわゆる「女性活用」は眉唾物です。その提唱の先に、女性にとってより好ましい未来はありません。

いろいろな観点から読んでいただけていることに感謝したいと思います。

なお、明朝未明4:20よりNHK「視点・論点」に出演します。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2016/01/post-5eec.html

視点・論点「働く女子はなぜつらい?」

1/29 (金) 4:20 ~ 4:30 (10分)

NHK総合・東京(Ch.1)

【出演】労働政策研究・研修機構主席統括研究員…濱口桂一郎

本庄淳志『労働市場における労働者派遣法の現代的役割』

215929本庄淳志さんより大著『労働市場における労働者派遣法の現代的役割』(弘文堂)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.koubundou.co.jp/book/b215929.html

 急激な少子高齢化を迎えている日本で、将来に向けて労働者派遣制度をどのように再構築するかは、立法政策として待ったなしの最重要課題であり、本法は2015年にも大幅な改正が行われました。
 本書は、日本の現状を法的視点から再整理し、従来の、直接雇用を重視する観点から伝統的に常用代替の防止を中核としていた規制を見直し、個々の派遣労働者の労働条件に応じた規制展開の必要性を説いています。また、外国法(オランダ法・ドイツ法)との比較を通して、本制度の普遍的要素と固有要素を明らかにした上で、今後求められる労働者派遣制度のあり方を提言します。

本庄さんはご存じの通り、オランダ労働法のほとんど唯一といっていい専門家であるとともに、日本の労働者派遣制度について大変エネルギッシュに発言してこられた若き研究者でもあります。

本書は、400ページを超える分量のうち、日本の話とオランダ・ドイツの話がほぼ200ページずつという案配で、日本の派遣法についての「本庄節」もたっぷり味わえるし、オランダ・ドイツの専門的な知識も得られるというお得本です。

第1章 問題状況と検討の視角
 第1節 問題の所在
 第2節 前提的考察
第2章 日本の問題状況
 序 説
 第1節 派遣法制定以前の状況
 第2節 労働者派遣制度の変遷
 第3節 労働者派遣の位置づけ
 第4節 派遣労働者の雇用保障をめぐる問題
 第5節 派遣労働条件の水準等に関する法規制
 第6節 集団的労働法上の問題
 第7節 小括――日本法の特徴
第3章 国際的動向
 第1節 統計資料
 第2節 アメリカ
 第3節 EU諸国
第4章 オランダにおける問題状況
 序 説
 第1節 規制の沿革
 第2節 現行法の規制内容――解雇・有期労働法制等
 第3節 現行法の規制内容――労働者派遣
 第4節 小括――オランダ法の特徴
第5章 ドイツにおける問題状況
 序 説
 第1節 解雇・有期労働法制
 第2節 労働者派遣制度の沿革と特徴
 第3節 現行法の規制内容
 第4節 小括――ドイツ法の特徴
第6章 労働市場における労働者派遣法の現代的役割
 第1節 分析結果
 第2節 日本法への示唆
 おわりに

日本の派遣法に対する考え方については、既にご承知の方も多いように、私の考え方とかなりよく似ています。昨年の派遣法改正について、細かな点についての問題はともかく、大きな方向性としては高く評価している点も共通していると思います。

しかし、ここでは一番最後のところで本庄さんが提示している興味深い構図を紹介しておきましょう。それは、いままでほとんど議論されたことのない、登録型派遣における「登録」のありように着目して、登録型派遣を二つの類型に分けて、異なる規制の下に置くべきではないかという議論です。

一つは真正な登録型(労働力プール型)で、予め労働者を登録という形でプールしておいて、派遣先からの注文に応じて派遣するタイプです。この場合「登録」は、次の派遣先を待っている状態です。

もう一つは派遣先限定の登録型で、登録段階で既に特定の派遣先が予定されており、その終了後は他の派遣先で就労することが予定されていないものです。

この二つの類型で、派遣元、派遣先の責任は異ならせるべきではないかというなかなか興味深い提起です。

是非、多くの研究者の間で取り上げられていくことが望まれます。

2016年1月27日 (水)

『日本の雇用紛争』1月29日発行予定

Koyoufunsou今週末の1月29日(金)に、『日本の雇用紛争』(労働政策研究・研修機構)を発行します。

http://www.jil.go.jp/publication/ippan/koyoufunsou.html

『日本の雇用終了─労働局あっせん事例から』の全面改訂版!

2012年刊行の『日本の雇用終了─労働局あっせん事例から』を全面改訂。労働局あっせんに加え、労働審判及び裁判上の和解事案も統計分析し労働紛争の実態を示す。さらに労働局あっせんは雇用終了事案に限らず、すべての事案を詳細に内容分析。

ということで、上のリンク先より注文できます(金曜日から)。

第1部は雇用紛争の法政策の推移、第2部は昨年報告書として取りまとめた労働局あっせん、労働審判及び裁判上の和解における雇用紛争事案の比較分析、そして第3部が本邦初公開の日本の雇用紛争の内容分析(労働局あっせん事案から)です。

細目次は以下の通りです。

第1部 雇用紛争の法政策の推移
 
1 労働基準法における紛争解決援助
(1) 労働基準法研究会報告
(2) 1998年労働基準法改正
2 男女雇用機会均等法等における調停
(1) 労働基準法研究会報告から婦人少年問題審議会建議まで
(2) 1985年男女雇用機会均等法における調停委員会
(3) その後の男女雇用機会均等法等における調停
3 個別労働関係紛争解決促進法
(1) 労使関係法研究会中間報告
(2) 労使関係法研究会報告
(3) 労使団体の提言
(4) 全国労働委員会連絡協議会の提言
(5) 個別的労使紛争処理問題検討会議報告
(6) 個別労働関係紛争解決促進法の成立
4 人権擁護法案における調停・仲裁
5 障害者雇用促進法における調停
6 労働審判制度
(1) 司法制度改革審議会
(2) 司法制度改革推進本部労働検討会
(3) 労働審判制度
7 仲裁
 
第2部 労働局あっせん、労働審判及び裁判上の和解における雇用紛争事案の比較分析(労働政策研究報告書No.174)
 
第1章 調査研究の目的・方法と制度の概要
第1節 調査研究の目的と方法
1 調査研究の目的
2 調査研究の方法
3 調査研究対象事案の範囲
第2節 各労働紛争解決システムの概要
1 労働局あっせん
2 労働審判
3 裁判上の和解
第2章 労働局あっせん、労働審判及び裁判上の和解における雇用紛争事案の比較統計分析
1 労働者の属性
(1) 労働者の性別
(2) 労働者の雇用形態
(3) 労働者の勤続年数
(4) 労働者の役職
(5) 労働者の賃金月額
2 企業の属性
(1) 企業規模(従業員数)
(2) 労働組合の有無
3 終了区分
(1) 労働局あっせん
(2) 労働審判
4 時間的コスト
(1) 制度利用に係る期間
(2) 解決に要した期間
5 弁護士又は社会保険労務士の利用
6 事案内容
7 請求金額
(1) 請求実額
(2) 月収表示
8 解決内容
9 解決金額
(1) 解決金額
(2) 性別に見た解決金額
(3) 雇用形態別に見た解決金額
(4) 勤続年数別に見た解決金額
(5) 役職別に見た解決金額
(6) 賃金月額別に見た解決金額
(7) 企業規模別に見た解決金額
(8) 解決期間別に見た解決金額
(9) 労働審判終了区分と解決金額
(10) 弁護士又は社会保険労務士の利用と解決金額
(11) 事案内容別に見た解決金額
10 月収表示の解決金額
(1) 月収表示の解決金額
(2) 性別に見た月収表示の解決金額
(3) 雇用形態別に見た月収表示の解決金額
(4) 勤続年数別に見た月収表示の解決金額
(5) 役職別に見た月収表示の解決金額
(6) 賃金月額別に見た月収表示の解決金額
(7) 企業規模別に見た月収表示の解決金額
(8) 解決期間別に見た月収表示の解決金額
(9) 弁護士又は社会保険労務士の利用と月収表示の解決金額
(10) 事案内容別に見た月収表示の解決金額
第3章 若干の考察
 
第3部 日本の雇用紛争の内容分析(労働局あっせん事案から)
 
はじめに
一 解雇型雇用終了
Ⅰ 労働者の行為
1 労働者の発言への制裁
(1) 年次有給休暇等の取得
(2) その他労働法上の権利行使
(3) 労働法上以外の正当な権利行使
(4) 社会正義の主張
(5) 前勤務社での権利行使
2 労働条件変更拒否
(1) 配置転換・出向拒否
(i) 配置転換(勤務場所)拒否
(a) 配置転換(勤務場所)に係る変更解約告知
(ii) 配置転換(職務)拒否
(a) 配置転換(職務)拒否による解雇等
(b) 配置転換(職務)に係る変更解約告知
(iii) 出向・転籍拒否
(a) 出向・転籍拒否による解雇等
(2) 雇用上の地位変更拒否
(i) 雇用上の地位変更拒否による解雇等
(ii) 雇用上の地位変更拒否に係る変更解約告知
(3) 降格拒否
(i) 降格拒否による解雇等
(4) 労働条件引下げ拒否
(i) 労働条件引下げ拒否による解雇等
(ii) 労働条件引下げに係る変更解約告知
3 労働条件変更の要求
4 労働者の態度
(1) 業務命令拒否
(2) 業務遂行態度不良
(3) 職場のトラブル
(4) 顧客とのトラブル
(5) 欠勤・休み
(6) 遅刻・早退
(7) 不平不満の発言
(8) 相性
5 非行
(1) 不正行為
(i) 情報漏洩
(ii) 顧客奪取
(iii) 不正経理
(iv) その他
(2) 業務上の事故
(3) 職場の窃盗
(4) 職場におけるいじめ・セクハラ
(5) 素行不良
(6) その他
6 私的な事故
7 私生活上の問題
(1) 結婚
(2) 男女関係
8 副業
Ⅱ 労働者の能力・属性
1 労働者の能力
(1) 具体的な職務能力不足
(2) 職業資格
(3) 成果未達成
(4) 仕事上のミス
(5) 一般的能力不足
(6) 不向き
2 労働者の傷病
(1) 労働災害・通勤災害
(2) 私傷病
(3) 慢性疾患
(4) 精神疾患
(5) 体調不良
3 労働者の障害
(1) 身体障害
(2) 知的障害
(3) 精神障害
4 労働者の年齢・定年
5 労働者の性的志向
6 家族の属性
Ⅲ 経営上の理由
1 正社員
2 直用非正規
(1) 期間途中解雇
(2) 雇止め
3 派遣
(1) 期間途中解雇
(2) 雇止め
4 内定取消等
(1) 内定取消
(2) 待機
5 表見的整理解雇
6 コマからの外し
7 仕事の無発注
Ⅴ 理由不明
二 非解雇型雇用終了
Ⅰ 労働条件に起因する非解雇型雇用終了
1 労働条件変更
(1) 配置転換・出向
(i) 配置転換(勤務場所)
(ii) 配置転換(職務)
(2) 雇用上の地位変更
(3) 労働条件引下げ
(i) 賃金引下げ
(ii) 労働時間短縮に伴う賃金引下げ
(iii) 労働時間の延長
(iv) 年休取得拒否
(v) 社宅退去
(vi) 通勤手段変更
(4) 休職・自宅待機等
(i) 休職
(ii) 自宅待機
(iii) 労働者からの内定取消
2 労働条件の水準
(1) 雇用上の地位
(2) 労働時間
(i) 労働時間
(ii) 休日
(iii) 夜勤
(iv) 時間外訓練
(3) その他
(i) 配置転換希望拒否
(ii) 交通事故
(iii) 盗難
Ⅱ 職場環境に起因する非解雇型雇用終了
(1) 直接的な身体的攻撃
(i) 経営者、上司、同僚等
(ii) 顧客等第三者
(2) 物理的脅し
2 精神的な攻撃
(1) 主に業務に関連した発言
(2) 主に業務に関連しない発言
3 人間関係からの切り離し
(1) 能動的な切り離し
(2) 受動的な切り離し
4 過大な要求
(1) 事実上遂行不可能な要求
(2) 心情的に抵抗のある要求・行為
5 過小な要求
(1) 仕事を与えないこと
(2) 程度の低い仕事を命じること
6 個の侵害
(1) 私的なことに関わる不適切な発言
(2) 過剰な管理
7 経済的な攻撃
(1) 経済的不利益を与えること
(2) 労働者の権利を行使させないこと
8 行為不明
Ⅲ 懲戒処分
Ⅳ 傷病・障害等
1 精神疾患
2 精神障害
3 外国人差別
Ⅴ コミュニケーション不全
三 雇用終了以外の事案
Ⅰ 労働条件
1 労働条件変更
(1) 配置転換・出向
(i) 配置転換(勤務場所)
(ii) 配置転換(職務)
(iii) 出向・転籍
(2) 雇用上の地位変更
(3) 降格
(4) 労働条件引下げ
(i) 賃金引下げ
(ii) 労働時間短縮に伴う賃金引下げ
(iii) 賃金の精算
(5) 休職・自宅待機等
2 労働条件の水準
(1) 賃金
(2) 労働時間
(i) 労働時間
(ii) 休憩時間
(iii) 年次有給休暇
(3) 安全衛生
3 その他
(1) 健康診断
(2) 交通費
(3) 転居
(4) 労働者からの借金
(5) 求人の虚偽表示
(6) 紹介予定派遣
(7) 盗難
(8) 教育訓練
(9) 食事代
(10) 交通事故費用
Ⅱ 職場環境
1 身体的攻撃
(1) 直接的な身体的攻撃
(i) 経営者、上司、同僚等
(ii) 顧客等第三者
(2) 物理的脅し
2 精神的な攻撃
(1) 主に業務に関連した発言
(2) 主に業務に関連しない発言
3 人間関係からの切り離し
(1) 能動的な切り離し
4 その他の嫌がらせ
5 行為不明
Ⅲ 懲戒処分
Ⅳ 賠償
四 退職をめぐるトラブル
(1) 使用者側の退職拒否・希望退職拒否
(2) 退職撤回の拒否
(3) 退職時期
(4) 賞与
(5) 退職金等
(6) 退職時の精算
(7) 教育訓練費用
(8) 住宅費
(9) 雇用保険
(10) 社会保険
○ 制度対象外事案
(1) 賃金不払い
(2) 労働時間性

視点・論点「働く女子はなぜつらい?」

1月29日(金)の早朝(というより未明、夜明け前ですな)、NHKの視点・論点という番組に出ます。

http://tv.so-net.ne.jp/schedule/101024201601290420.action

視点・論点「働く女子はなぜつらい?」

1/29 (金) 4:20 ~ 4:30 (10分)

NHK総合・東京(Ch.1)

【出演】労働政策研究・研修機構主席統括研究員…濱口桂一郎

2016年1月26日 (火)

タレントと文化人

ねずみ王様のつぶやきに触発されて、

https://twitter.com/yeuxqui/status/691807551160242176

なぜ「識者」のコメントを取る必要があるのかという大本のところが忘れ去られた結果であろう。というか関西のテレビ番組では、「識者」がプロダクション所属なのだろう、大変なことになっている。

裁判例から一例:

http://homepage3.nifty.com/hamachan/yoshimoto.html (中央労働基準監督署長(Y興業)事件(東京地判平成25年8月29日)(労働経済判例速報2190号3頁))

Ⅰ 事実

1 当事者

X(原告):Y興業の従業員(文化人D(勝谷誠彦)担当のマネージャー)、女性

被告:国

Y:興業会社(吉本興業)

E:Y専属タレント(島田紳助)

・・・・・・・・

Ⅲ 評釈 1に疑問あり。2,3は賛成。

1 本件事件(Eによる暴行)による災害の業務起因性

 本判決は、Xの遂行すべき業務範囲が「文化人D担当のマネージャー」であることから、その範囲外である専属タレントEへの話しかけを私的行為と判断している。しかし、被告主張にもあるように、「XがY興業所属の社員(マネージャー)であり、EがY興業の専属タレントであることから、このような両者の会話については業務性が肯定されるという見解もあり得る」のであり、もう少し細かな考察が必要である。

 事実認定において、判決はX側の「Xが業務遂行場所における業務遂行途上において、Y興業専属の大物タレントが一人で放置されていたことから声かけするのは職場における社員として常識的な行動である」との主張に対し、「本件事件当時、Eが特に担当マネージャー以外のY興業の社員からの声かけを必要とするような状況にあったことはうかがわれない」とか「XがEに話しかけた動機としては、職務上の立場とは無関係に、個人的な懐かしさの感情から話しかけたとみるのが相当である」と退けている。しかし、この論点の立て方では、Xがたまたまその時点で担当していたDのマネージャー業務以外は、Yの業務であっても特段の理由がない限り私的行為となってしまい、現実の日本における仕事のあり方とやや齟齬があるように思われる。X側が以下の論点をまったく提起していないので、いささか仮想的な議論になるが、本来はこういう議論があるべきではないか。

 判決文には示されていないが、XはDのマネージャー業務に限定してY興業に採用されたわけではないように思われる。本件事件当時Dのマネージャーを担当していたとしても、今後他の様々なタレントを担当する可能性はあったであろうし、その時のために、担当ではない時期から他のタレントに挨拶し、いわゆる顔つなぎをしておくことは、職業人生全体の観点からすれば将来の業務の円滑な遂行のための予備的行為としての側面があり、まったく個人的な行為とみることはかえって不自然ではなかろうか。現実の社会では、業務の輪郭はより不分明であって、Eに挨拶すること自体を厳密にXの業務範囲外と断定することには違和感がある。ちなみに、判決文ではEは「大物タレント」、Dは「文化人」と書かれており、それぞれのマネージャー業務は一見異なる種類の業務のように見えるが、実は両者ともY興業に属してテレビのバラエティ番組で半ば政治評論的、半ば芸能人的なコメントを行うタレントであって、一般社会的にはほとんど同種の業務と見なしうるように思われる。

 そしてこれを前提とすれば、将来担当する可能性を否定できないEが、過去幾多もの暴力事件を起こし、社内やテレビ局内でも暴力事件を起こしていたことから、本件事件による災害がEを専属タレントとして抱えて業務を遂行する過程に内在化されたリスクとのX側の主張も、「相当でない」と安易に退けることは疑問がある。

 もちろんこれに対しては、その時点での担当業務ではないにもかかわらず、将来担当したり関わったりする可能性のあるタレントと顔つなぎをしておきたいという意図で声かけをすることには、業務性は認められず、業務に関連した私的行為に過ぎないという反論もあり得る。ただ少なくとも、この論点を欠いたままの「個人的な懐かしさの感情」との判断には、いささか短絡的との感を免れない。

関西のテレビ番組では、タレントと文化人というのは同一のカテゴリーに属するようです。

もしかしたら東京も似たようなものかも知れませんが。

労働者の受動喫煙、お客様の受動喫煙

毎日新聞の記事ですが、

http://mainichi.jp/sportsspecial/articles/20160126/ddm/001/010/155000c(新法で罰則 未対策の施設・店 東京五輪に向け政府検討)

政府は25日、他人のたばこの煙を吸わされる受動喫煙の防止に向け、全面禁煙など具体的な対策を取らない国内の公共施設や飲食店に罰金などの罰則を科すよう定める新法の検討を始めた。2020年の東京五輪・パラリンピックに向けた受動喫煙対策強化の一環。内閣官房や財務省、厚生労働省などによる検討チームは25日、初会合を開催した。今後、全面禁煙や分煙など施設ごとの対策の在り方などを協議する。

いやまあ、結構なんですが、これはお客様の受動喫煙は罰金を科してでも禁止すべき悪だということなんですね。

そういえば、もう皆様お忘れかも知れませんが、その昔(といっても2011年)に政府が労働安全衛生法の改正案として、職場の受動喫煙防止のため、全面禁煙または空間分煙を義務としつつも、お客様の来る飲食店・ホテル等では当分の間可能な限り受動喫煙の機会を低減させることを求めるという内容の法案を提出したことがあります。

残念ながら国会議員の皆様からかなりの批判を浴び、衆議院解散で廃案後再度提出された法案は義務づけを全面的に努力義務にするというものになり、それが2014年に成立して、現在は努力義務と云う事になっております。まあ、煙草を吸いたいお客様が第一だから、労働者の受動喫煙なんかは二の次、とまではいわないまでも、それに近い感覚なのかな、と。

ところが今度は、他の客のたばこの煙を吸わされるお客様の受動喫煙ということになると、罰則でもって禁止すると。

労働者の受動喫煙と、お客様の受動喫煙とでは、法的価値にだいぶ格差があるようです。

AV違約金訴訟は社会保障法判例だったんだ

旬報社の『賃金と社会保障』1月合併号の案内がアップされているのですが、取り上げられている判例が例のAV違約金訴訟でした。

http://www.junposha.com/catalog/product_info.php/products_id/1057?osCsid=uv5j985269515ddt49tjk01ld4

Tinsha164950 特集◎AVポルノ被害
*まだ可視化されていないアダルトビデオ産業の性暴力被害と若者の貧困
  ―アダルトビデオの出演拒否した女性への2460万円の損害賠償請求棄却[宮本節子]
・本件の事実経過(弁護団) 
・被害者の手記
◇社会保障・社会福祉判例◇
AV違約金訴訟・東京地方裁判所判決(平成27年×月×日)/アダルトビデオへの出演を拒否した女性に対し芸能プロダクションが債務不履行にあたるとして行った損害賠償請求が棄却された事案。

理屈としては民法だけど、労働法からのアプローチもあるべしとつらつら思っていたところでしたが、社会保障法というのはやや意外でした。どちらかというと『旬報』マターかなと思っていたので。

なんにせよ、早速判決文が載ってるようなので、興味のある方は是非。

ちなみに、『労働法律旬報』の方は、特集は「戦争法制と労働者」ですが、さりげなく、大変興味深い資料が載っています。

http://www.junposha.com/catalog/product_info.php/products_id/1056

[解説]ドイツにおける派遣労働者に対する労働協約上の規範設定=西村 純+山本陽大・・・55
資料/派遣労働に関する労働協約=訳 西村 純+山本陽大・・・57

『週刊ダイヤモンド』1月23日号で紹介されていました

Img_e6894e6931f8d4c988c08620c8a9ad9表紙の特集が「使える!数学」なもので、うかつにも気がつかなかったのですが、『週刊ダイヤモンド』1月23日号の「目利きのお気に入り」という本の紹介コーナーで、拙著『働く女子の運命』が紹介されていました。

筆者は三省堂書店神保町本店係長の岡崎史子さん。

曰く:

「女性の力の活用」と声高に言われますが現実の動きは遅々として進まないように見えます。『働く女子の運命』は、労働政策の研究家が、女性の働きを阻んでいる日本型雇用システムを分析します。・・・

と、内容を紹介した後、

・・・解決策を示しているわけではありませんが、女性雇用の課題の根源構造がすっきりと理解できます。

と、評価されています。

2016年1月25日 (月)

「分断された職場」@『労基旬報』2016年1月25日号

『労基旬報』2016年1月25日号に「分断された職場」を寄稿しました。

http://www.jade.dti.ne.jp/~roki/

 最近世界の労働法や労使関係をめぐる問題の中で最もホットに論議されているのは、2014年にデイビッド・ウェイル氏が刊行した『分断された職場』(The FissuedWorkplace)でしょう。ボストン大学経営管理大学院教授であったウェイル氏は、本書刊行後オバマ政権の労働省賃金時間部長に就任し、最低賃金や時間外割増に関する政策の責任者となっています。最先端の労働問題研究者が同時に労働政策の責任者として実務に当たるという、日本では(マクロ経済政策では見られるが、少なくとも労働政策では)見られない立場にあるウェイル氏であるだけに、その議論をフォローすることは今後のアメリカの労働政策の行方を予想する上で不可欠であるだけでなく、日本のこれからの労働政策を考える上でも多くの示唆を与えてくれます。
 同書については既に、仲琦氏(『日本労働研究雑誌』2015年8月号)、中窪裕也氏(『季刊労働法』2015年秋号)によりやや詳しい紹介がされており、それらと重なるところが多いのですが、まずはその論ずるところを追いかけておきましょう。分断される前の職場は伝統的な大企業の世界でした。当時は、さまざまな機能を内部に抱える方が、外部から調達するよりも取引費用が低く、競争力が高かったのです。ところが1980年代以降、流れは逆転し、業務を外部企業に委託し、職場を分断させる動きが強まってきました。その要因としてウェイルは資本市場からの要求と情報通信等新技術の発展の二つを挙げます。
 まず資本市場の要求です。労働者の年金が確定給付型から確定拠出型に移行するとともに、拠出された掛金の運用が専門的な投資機関に委ねられ、膨大な資金を株式で運用する専門的な投資機関が、経営者の行動に重大な影響力を発揮するようになりました。すなわち、これら投資機関は短期的な利回りを求めることから、企業はその資源を自社が優位性を持つ「中核的競争力(コア・コンピテンシー)」に集中することを求められるようになったのです。中核的競争力と関連しない全ての業務は、より低いコストで提供できる外部企業にアウトソースできるかどうか査定されなければなりません。こうして、典型的には本部の人事部門、経理部門、IT部門、現場の清掃要員、保安要員などがアウトソースの対象としてリストアップされることになります。もう一つは情報通信技術の発達による取引費用の大幅な低減です。トラック輸送や小売業において、リアルタイムの運行状況、販売状況を把握管理できるようになったことは、分断化した組織形態の下でのコスト削減に大いに寄与しました。
 こうした職場の分断化が賃金決定にどういう影響を与えたのかについて、ウェイル氏は労働組合による組織化の防止、医療保険等付加給付の削減、労災、差別、ハラスメント等による使用者責任の回避といったことによる労働コストの引下げに加えて、次のようなより深層的な回路を指摘します。すなわち、年功的な賃金制度をもつ日本だけでなく、アメリカにおいても大企業で働く労働者、とりわけ単純労働者の賃金は、外部労働市場に晒されている同種労働者の賃金よりも高い傾向があります。これは、労働者の社交性によるもので、他の使用者の下で働く者よりも、同じ職場で働く者と比較した賃金水準が満足度を決定するため、大企業の賃金制度の最末端にある労働者は往々にして外部労働市場よりも高い賃金が支払われるというのです。これが、雇用関係を競争の激しい外部市場の中小企業に移すことによって、同じ屋根の下で働く労働者との比較を防ぐことができるようになります。職場を分断することによって、公平性の問題は顕在化されることなく、単純労働者には外部市場の低い賃金で済ませることができるようになるのです。
 こうした職場の分断のやり方として、ウェイル氏は下請、フランチャイズ、サプライ・チェーンの3つの類型を挙げます。これらは法的には重なり合う部分が多いのですが、経済・社会学的な分析の切り口として有益です。下請については、発注者から請け負った元請業者が更に多くの業者に下請させるという重層下請現象が拡大しています。フランチャイズにおいては、ブランドのイメージに関わる全般的なコントロールを行うフランチャイザーを中心に、フランチャイジーという独立した事業体が具体的な業務を行います。サプライ・チェーンにおいては、複数企業が共同して商品やサービスを提供しますが、そのブランド所有者はコーディネーターとしての機能を果たします。
 これらいずれの形式においても、伝統的に使用者と位置づけられてきた発注者は直接労務従事者への指揮監督を行わないので使用者責任を負わないで済みます。使用者責任を負うのは個々の下請企業です。ここでウェイルの指摘するパラドックスは痛烈なものです。下請企業がそれなりの資力を持ち、労災や差別等のトラブルに対して対応できる能力があるのであれば、そうした事態に対応するコストを請負料金の中に含ませて、結果的に発注大企業に転嫁させることができるでしょう。それに対して、下請企業が資力のない中小零細企業であればあるほど、裁判を通じて賠償させようにもそれに充てる資産がないため、判決を得ても紙切れ同前になってしまいます。つまり、使用者責任を追及されてもそのコストを払う必要が事実上ないために、他の下請企業よりも低い価格で業務を受注することができるのです。発注企業としては、なまじ使用者責任を果たせるために請負料金が高くなる企業よりも、使用者責任を果たす気がないために格安で請け負ってくれる中小零細の下請企業の方を選ぶインセンティブが働くということになります。
 こうした現状に対してウェイル氏はさまざまな対応の方策を検討していますが、正直言っていずれも決め手に欠ける印象を与えます。それはもちろん、現在アメリカ社会が抱える問題なのであり、労働省賃金時間部長となったウェイル氏にとってもなかなか困難な課題でしょう。
 国際的な労働法学者の集まりである労働法リサーチネットワークは2015年6月、アムステルダム大学で大会を開き、本書をテーマに各国からの参加者がそれぞれの国における職場の分断状況と法的対応について報告しました。日本からは上記書評を書いた仲琦氏が出席しています。これらは『比較労働法政策ジャーナル』(Comparative Labor Law & Policy Journal)2015年秋号に掲載されています。
 一方、欧州の労働法学者で構成される欧州労働法ネットワークは2014年11月、「新たな就業形態とEU法」というテーマで年次セミナーを開いています。この「新たな就業形態」というのは、ウェイル氏の指摘する職場の分断化だけでなく、従業員シェアリング、カジュアル労働、バウチャーベース労働、クラウド労働など、情報通信技術を利用した新たな働き方なども含めたもので、そのもとになった研究成果は、EUの外郭団体である欧州生活労働条件改善財団から『新たな就業形態』(New forms of employment)として2015年3月に刊行されています。その内容については本紙の昨年4月25日号で簡単に紹介しました。
 さらに、欧州労連のシンクタンクである欧州労研(ETUC)も今年7月に『アウトソーシングの課題』(The outsourcing challenge)と題する大部の報告書を刊行しています。これはよりウェイル氏の問題意識と近く、欧州各国で進展しているアウトソーシングにより生産ネットワークが分断され、賃金引下げによる労働コストの削減、労働密度の昂進、フレクシビリティのコストの労働者への押しつけが図られているだけではなく、従業員代表制や団体交渉制度が迂回されてしまっている現状を明らかにしています。集団的労使関係がなお労働市場において重要な枠割りを果たしている欧州諸国であるからこそ、それが空洞化していく原因としての職場の分断化現象への関心もそれに惹き付けられることになるのでしょう。
 同報告書は、各国におけるアウトソーシングの実態を概観した上で、その労働条件への影響を分野ごとに見ていき、そしてとりわけ分断された生産ネットワークにおける労働組合組織化の問題、言い換えれば周辺的な労働者の発言メカニズムをどう確立するかという問題に取り組んでいます。取り上げられているのは電気通信産業、荷物配送業、建設業、金属産業の派遣労働者、多国籍企業等ですが、いずれも日本に対しても極めて大きなインプリケーションを有する興味深い事例ばかりです。

2016年1月24日 (日)

本日の日経新聞読書面で

Img_752f5d874047328e26f434ce08fbda5 本日の日経新聞読書面で、拙著『働く女子の運命』が書評されています。

http://www.nikkei.com/article/DGKKZO96472390T20C16A1MY7000/

・・・なぜこんなにも女性が働きにくいのか。根本の部分から解き明かそうという意欲的な一冊だ。

と、本書の狙いを示し、

・・・様々な資料をひもときながら、働く女性と日本型雇用の歴史を丁寧に解説しており、説得力がある。

と評していただいています。

また、

・・・難しくなりがちなテーマだが、文章は読みやすい。

という評価は嬉しい限りです。

ゆるふわ?ガチ硬派?

Img_752f5d874047328e26f434ce08fbd_2 「きんぴら」さんが拙著『働く女子の運命』について、こうつぶやいています。

https://twitter.com/kinpira/status/690709034698039296

文春新書「働く女子の運命」めちゃくちゃ面白かった。タイトルがもしかしたらゆるふわに聞こえるかもだけど、色んな資料に当たっててガチ硬派な内容だった。法律だけ見たら女性の社会進出が進んでる国とも全然遜色ないのに、日本型雇用がアカンからうまくいかんのやってスッキリするね!

いや、あのタイトルは文春編集者によるものですけど、「ゆるふわ」に聞こえましたか。

もちろん中身は「ガチ硬派」です。

2016年1月23日 (土)

毎日新聞の質問なるほドリでさらりと

本日の毎日新聞の「質問なるほドリ」で、「「金銭補償し解雇」可能に?=回答・東海林智」という記事が載っていますが、

http://mainichi.jp/articles/20160123/ddm/003/070/130000c

そのなかでさらりと、

 Q 解雇については日本の規制は厳しいと聞くけど。

 A 会社の事情による整理解雇には4要件がありますが、一般的なルールは解雇に客観的、合理的理由がなく社会通念(つうねん)上相当と認められない場合、解雇権の乱用で無効になります。ところが、研究者の調査では有給休暇を申請しただけで解雇された例があるなど、実際には規制が守られていないとみられています。こうした労働者をどう救済するかの議論も必要です。(東京社会部)

という記述が。

この「研究者の調査」ってのは、間違いなくこれですね。

http://www.amazon.co.jp/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E9%9B%87%E7%94%A8%E7%B5%82%E4%BA%86%E2%80%95%E5%8A%B4%E5%83%8D%E5%B1%80%E3%81%82%E3%81%A3%E3%81%9B%E3%82%93%E4%BA%8B%E4%BE%8B%E3%81%8B%E3%82%89-JILPT%E7%AC%AC2%E6%9C%9F%E3%83%97%E3%83%AD%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%82%AF%E3%83%88%E7%A0%94%E7%A9%B6%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BA-%E5%8A%B4%E5%83%8D%E6%94%BF%E7%AD%96%E7%A0%94%E7%A9%B6%E7%A0%94%E4%BF%AE%E6%A9%9F%E6%A7%8B/dp/4538500046/ref=cm_rdp_product (濱口桂一郎著『日本の雇用終了』(労働政策研究・研修機構))

112050118

(1) 年次有給休暇、育児休業の取得を理由とする雇用終了

 労働者としての権利行使に係る雇用終了のうち最も典型的なものは、法律で認められた年次有給休暇や育児休業の権利を行使した(あるいはしようとした)ことを理由とする雇用終了であり、6件ある。

・10185(非女)普通解雇(25万円で解決)(不明、不明)

 会社側は「個性が強く、店のスタッフとの関係も不仲で、口論が絶えない」こと、他のパート従業員から「このままではここで働けない、やめる」との話が再燃したため、「店舗の運営を第一と考え」「不協和音を理由に」解雇を通告したと主張。本人側は「私が・・・労働基準監督署に対して申告したこと等を理由に解雇されたと判断」している。

 本人の申立によると、「有休は付与されるはずですけどもと聞いたら、次長がパートには有休はありませんとはっきり言われた」、「時間外労働手当のことを聞いたら言ってる意味が分からないといわれた」、「本部に問い合わせしたところ、雇用契約書および労働契約書は社員にはありますが、パートさんにはありませんといわれた」ため、監督署に相談し、次長が呼び出され、指導してもらった。

 これは、日常の「態度」と「発言」が交錯するケースであるが、むしろ労働法上の権利を主張するような「個性の強さ」が同僚との関係を悪化させる「態度」の悪さとして捉えられ、権利を主張しないことが「職場の和」となるという職場の姿が現れている。

・10220(正男)普通解雇(不参加)(不明、無)

 身内の不幸で有休を申し出たら、店長が「うちには有休はない。今まで使った人もいない。いきなり言われても困る。自分に聞かれても分からない」等と不明瞭な回答をし、そののち有休を取得したが、そののち解雇通告されたもの。

 会社側は「有休の取得と解雇は関係ない」、「労働意欲がなく、何度注意しても改善せず、就業に適さない。他の子に悪影響を及ぼす」のが解雇理由だとしている。なお、「店長は経験が浅く、労働法について詳しく理解していなかったのでこじれた」と説明している。

 会社側不参加のため詳細不明だが、有休と解雇がまったく無関係とも思われず、「有休=労働意欲の欠如」という認識があるようにも見える。

・30017(正女)普通解雇(打切り)(3名、無)

 社長に有休を願い出、了解を取ったにもかかわらず、その初日に「会長が大変怒っておられる。2週間も有休を取るような無責任な人は、うちには要らない」と連絡され、有休後出勤すると、会長から「要らないとは解雇の意味である」と通告。

 会社側は「通常の勤務態度や得意先の態度に当社の信用を失墜させるような行動が多々あり、その都度注意したものの一向に改善が見られないことによるもの」と説明。有休はきっかけで、本質はむしろ本人の勤務態度への認識にあるようで、「我々と社長の仕事上の指示も選り好みでものによると『こんなん私いやや社長やってえなあ』と馴れ馴れしく拒否するようになった」といった態度が許し難かったらしい。

 態度を理由とする解雇が権利行使をきっかけに噴出したケースといえよう。

・30204(非女)普通解雇(12万円で解決)(40名、無)

 会社側によれば、当日の朝「子どもが病気なので休む」と連絡があったが、当日パチンコ店にはいるのを目撃したため、勤務態度不良として解雇したもの。そもそも事前に休暇届を出しておらず、「有休とは認め難い」「単なる欠勤」との認識である。

 本来有休の利用目的は自由であり、パチンコに費やしたからといって不利益取扱いが許されるわけではないが、使用者には時季変更権があり、それが行使不可能な申請には問題がある。実際には、本当に子どもが病気であれば看護休暇の代替として認容するのが普通であろうが、実はパチンコに興じていたことで、「態度」への怒りが噴出したとみられる。

・30264(非女)普通解雇(6万円で解決)(25名、無)

 有休の権利を主張したら、社長から「うちにはない。パートにはない」と30分口論になり、実際に休んだのち、社長の叔父から「これ何や。景気が悪いから有休は出せない」と1時間説教され、さらにそののち有休を取ったら、社長から「今から仕事しなくてもよい」「首ということか?」「そうだ」「有休のことを言ったからか」「違う、休むからだ、困るからだ」とやりとり。会社側は、「零細企業においては、現実には有給休暇なんてないよねという暗黙の了解があって、これまではあまり請求もされなかったのは事実ではあるが、拒否したことはない」と述べている。

 これも権利行使が「態度」の問題となるケースだが、会社側が「零細企業の現実」を率直に語っている点が興味深い。

・30327(非女)雇止め、育児・介護休業等(30万円で解決)(16名、無)

 産休後、育休を取得したいと申し出たが、「パートに育児休業はない」と言われ、均等室に相談した結果、1年間の取得が認められた。ところが契約更新について確認すると、「園児の人数が分からないので更新の約束はできない」といわれた。ところがそののち、園児が予定より増えたためとして、申請人以外の2人については契約の継続を決定、申請人は雇止めとなった。

 保育園側は、「育児休業を取得したことが雇止めの理由ではなく、申請人は他のパートと比較すると、笑顔がない、子どもに心から接することができない等、力量が劣るため」と主張している。

 もし育休取得が雇止めの理由なら不利益取扱いの禁止に該当するが、一応「能力」を主張しており、判定手続ではないので金銭解決となっている。

 以上6件を通観して窺われるのは、「パートには有休はありません」「うちには有休はない」「2週間も有休を取るような無責任な人は、うちには要らない」「うちにはない。パートにはない」「パートに育児休業はない」等々と、労働法上に明記されているはずの労働者の権利が、中小企業の使用者の目には存在しないものと映っているらしいことである。こういった企業においては、使用者側にそもそも基本的な労働法上の権利行使に対する正しい認識が欠乏していることを窺わせる。こういった事態に対しては、一般的な労働法知識の普及啓発活動が必要であることはいうを待たない。

 近年、労働者、とりわけ若い労働者が労働法の知識を十分持たないまま就労し、不当な労働条件をそれと気づくことなく受け入れてしまっているといったことが指摘され、若者を中心とする労働法教育の必要性が唱道されている。例えば、厚生労働省に設置された「今後の労働関係法制度をめぐる教育の在り方に関する研究会」が2009年2月にとりまとめた報告書においても、「あらゆる層の労働者が必要な知識を習得できる機会を設けることこそが、働く上で必要不可欠な要素である」と適切に述べている。

 しかし、それと同時に重要なのは使用者自身に対する適切な労働法教育であり、しかもそれは(「パートには有休はありません」といった誤った思い込みを是正させなければならないという点において)労働者に対する労働法教育よりもさらに困難性がある。これはまた、伝統的な企業の規模別多重構造の下で、大企業では人事労務管理が確立し、正しい労働法の知識が管理者側に共有されているのに対して、中小零細企業になればなるほどそのような体制が乏しいことや、大企業は経営者協会などに参加して人事労務関係の知識を入手する機会が豊富にあるが、中小零細企業になればなるほどそのようなアウトリーチから外れがちであるといったことによっても増幅される傾向にあろう。その意味で、上記事例に垣間見える中小零細企業における労働法認識の欠乏に対しては、何らかの公共政策的な措置を講じていくべき課題として捉えることも必要と思われる。

 その一つの考え方として、こういうあっせん申請という形で労働行政のアンテナにかかってきたことを捉えて、あっせんを実施するかどうかとは別に、使用者に対する正しい知識の啓発の機会とすることも考えられてよいように思われる。もっとも、それは大海の一滴程度の効果に過ぎないという面も否定しがたいが。

 一方で、日本的な職場の意識からすれば、有休を取ってパチンコに興じるといった行動は眉をひそめられるものであることも事実であり、また、正当な権利行使であっても当該労働者の日頃の「態度」が使用者側から低く判断されているような場合には、当該権利行使自体が「態度」の悪さの一徴表として捉えられ、悪い「態度」に対する制裁という使用者側の主観的意識のもとに、当該(それ自体としては正当な)権利行使に対する制裁として雇用終了といった事態が引き起こされる可能性が高いことも、法的な価値判断は別として、事実認識として受け止める必要のあることであると思われる。

 この点については、上記今後の労働関係法制度を巡る教育の在り方に関する研究会」報告書においても、「社会生活のルールおよび基本的生活態度を身につけ、他者との良好な人間関係を構築するための『社会性・コミュニケーション能力』を高めることが、実際の職場における紛争の防止や解決に資する」と述べているところであり、いわば正当な権利行使をミクロな職場において正当なものとして通用させるために一定の「態度」が必要であるという現実の職場の事実についても、価値判断はさまざまであれ、銘記しておく必要があると思われる。

(参考)雇用終了以外の有休取得関連事案

 以上は、雇用終了事案の中の有休・育休取得関連事案であるが、それ以外にも有休・育休取得に関係する事案は結構多い。全事案のうち、有休取得関連事案は28件あり、そのうち雇用終了事案は3件である。なお、育休取得関連事案は2件であり、いずれも雇用終了事案である。

 雇用終了以外の有休取得関連事案の大部分はかなり定型的な紛争であり、いちいち取り上げることはしないが、ここではそのうち典型的な事例を一件紹介しておく。

・30645(非女)その他の労働条件(15万円で解決)(500名、無)

 在職中に何度も請求したが、直属上司から「うちの会社には有給休暇はない」と言われ、取得できないまま、上司から働き方が悪いと言われたので退社した。

 会社側は、アルバイトは休みたい人の希望を入れてシフトを組んでいるので、有休を取得する人も申請する人もいないと主張している。

 だからといって、アルバイトに法律上の有休の権利がなくなるわけではないが、会社側からすればそもそも労働時間について裁量性の高いアルバイトに有休の権利があること自体がおかしいという意識なのであろうか。

 本件は、企業規模が従業員500人規模と、立派な大企業であるが、「うちの会社には有給休暇はない」という管理者の発言は中小企業並みであるという印象である。

2016年1月22日 (金)

ジンジュールBOOK REVIEWで拙著評

Img_752f5d874047328e26f434ce08fbda5労政時報の人事ポータルジンジュールの「BOOK REVIEW―人事パーソンへオススメの新刊」に、拙著『働く女子の運命』の短評が載っています。

http://www.rosei.jp/jinjour/article.php?entry_no=67483

拙著の内容を簡単に紹介していただいた後で、

・・・こうした構造はどのように定着してきたのか。本書は豊富な資料を基に、当事者の言葉・記録を紹介しつつ、富岡製糸場の昔から戦中・戦後の職場で働く女子が置かれた立場、同一労働同一賃金をめぐる議論の曲折、均等法誕生から今日のワーク・ライフ・バランス議論に至る経緯をたどり、雇用システムの問題点を浮き彫りにしている。女性の活躍支援を目前の課題に捉えている企業担当者にとって、雇用社会の在り方までは手に負えないものの、自社にとって何が足かせなのかはここから見えてくるかもしれない。

と評されています。


個別労働紛争事案の一例

112050118_2ふと思い出しただけで他意は全くありませんが、そういえばこういう個別労働紛争事案もあったなあ、と。

・20214(正女)普通解雇(取下げ)(17名、無)
 アルバイトとして入社し、そののちフルタイム勤務。マネージャーの降格人事に対して嘆願書を出したことを違反として解雇通告を受けた。解雇通知には「マネージャーの降格人事命令に対し、嘆願書をもって抗議行動をした違反」「本抗議行動に伴い他者の業務を妨害、職場の秩序を乱したこと」と書かれている。
 本人取下げのため、社内の人間関係など背景事情は詳細不明だが、マネージャーの降格人事に抗議したことが解雇の理由であるとすると、労働者としての権利行使でも社会正義でもないが、まさに言葉の正確な意味における組織内部の「発言」に対する制裁といえる。


2016年1月21日 (木)

下野淳子『メンタル・タフネス』

Bk00000396 下野淳子『メンタル・タフネス』(経団連出版)を、讃井暢子さんよりお送りいただきました。

https://www.keidanren-jigyoservice.or.jp/public/book/index.php?mode=show&seq=396&fl=1

 どの職場にも、「あの人はタフだ」といわれる人物がいます。「初めての環境でも希望や目標を見出すことができる」「目標に向かって仲間を探しネットワークを築いている」「失敗してもあきらめない」「どんなことも、何とかなると楽観的にとらえている」などの共通項があるようです。

 企業において高い成果を発揮できるのは、「希望」「自己効力感(自分に対する信頼感)」「レジリエンス(再起する力)」「楽観性」がまんべんなく高い人であることが、これまでの研究から明らかになっています。これら4つの要素は本来、だれにでも備わっているものであり、心の力(メンタル・タフネス)を形づくるといわれています。

 そこで本書では、「希望をつくり出し」「自分に対する信頼を高め」「逆境からしなやかに立ち直り」「楽観性を育む」ことにより、心の力(メンタル・タフネス)を強くしなやかにする方法をわかりやすく紹介します。あわせて各要素のアセスメント(自己診断)を収録しました。

ここでいう「メンタル・タフネス」とは、「はじめに」にも書いてあるように、いかなる意味でも「頑張れば認められる」とか「結果よりプロセスだ」とか「長時間働くことは良いことだ」といったある種の体育会的精神論的ガンバリズムとはまったく対極にあるものなんですが、日本の文脈ではそれこそ、「もっともっと、タフに頑張れ!」というガンバリズムの旗印にされてしまいかねない危惧もありますね。

そのつど「対抗軸」を探し求めるのか?

日曜日のエントリ「労働組合は成長を拒否できるのか?」に、連合総研で『DIO』の編集に当たられたhayachanこと早川行雄さん自らコメントをされ、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2016/01/post-1e75.html

さらに、金子良事さんもブログでこの議論を取り上げ、一定の整理をされています。そしてそこにも早川さんがコメントをされています。

http://ryojikaneko.blog78.fc2.com/blog-entry-416.html (対抗軸よりも主軸の振り返りが先ではないか?)

元エントリではどちらかというと、成長という言葉をめぐるややすれ違い気味の対立構図に焦点を当てましたが、金子さんの示された「対抗軸よりも主軸」というのがある意味でわたくしの感じた違和感をよく物語っているようにも感じられました。

そもそも、労働組合という社会的存在は、それ自体が自らの「軸」を持っているはずではないのか?その、しっかりと存在している「軸」から、あれやこれやの政党の掲げる、あるいはその時その時の思いつきで繰り出すさまざまな「軸」に対して、これは「是」、これは「非」と、しっかり言うべき立場のではないか、というのがわたくしの基本的な認識なのです。

労働組合は政党ではありません。政党ならば、野党であるから与党の「軸」に対して反対しなければならない、「対抗軸」とやらを打ち出さなければならないということもあるのかも知れません。いや、本当は政党であってもそんなのはおかしいのであって、本来ちゃんとした「軸」があって、そこから是非の判断が出てくるべきと思うのですが、全く逆向きの考え方の政治家たちがただ一つ政権交代という「軸」だけで寄り集まったような政党であれば、そんなことを言っても仕方がないのかも知れません。

でも、繰り返しますが、労働組合はそうではありません。たまたま与党が賃金抑制を言っていればそれに反対する、与党が賃金引き上げをいえばそれに反対する、というような訳のわからない存在ではないはずです。何が何でも「対抗軸」をでっち上げなければならないと思うから、話がおかしな方に向いていくのではないか。与党が何を言おうがぶれない「軸」があるはず。

要するに、労働組合は与党の言うことにいちいち対応してその都度一生懸命に「対抗軸」とやらを考えなければならない義理など、誰に対してもないはずなのです。なぜなら、労働組合の「軸」は移ろうゆくその都度の政府与党の政策に対してその都度移ろいゆく「対抗軸」などではなく、誰を相手にしても変わらない自分たちの「軸」であるはずだから。

もし、その労働組合本来の「軸」がいささか不明瞭になってきたために、野党まがいの「対抗軸」探しに向かいだしているとしたら、実はその方が遥かに問題だと思いますよ。

2016年1月20日 (水)

ご要望の向きもあるようですが

一部にご要望の向きもあるようですが、労働問題として取り上げるつもりは特にありませんのであしからずご了承ください。

2016年1月18日 (月)

松尾匡『この経済政策が民主主義を救う』

214189_2 松尾匡さんの新著『この経済政策が民主主義を救う』(大月書店)をお送りいただきました。いつもいつもありがとうございます。

http://www.otsukishoten.co.jp/book/b214189.html

改憲に突き進む安倍政権。

これから景気はどうなるのか。

左派・リベラル派はどうすればいいか。

自由を守る最後のチャンス、あきらめるのはまだ早い!

中身は、目新しいことは何一つ書かれていません。松尾匡さんが繰り返し繰り返し倦むことなく説き続けていることを、改めてこれ以上ないくらいわかりやすく書き下ろした本です。

では何がこの本の特色なのか?「むすびにかえて」に曰く、

この本は大月書店から出てこそ意味があったと思います。

そう、マルクス・エンゲルス全集を出した日本の代表的な左翼系出版社である大月書店から、(いんちきな「りふれは」ではない)まっとうなリフレ派経済学の(言葉のもっとも正当な意味における政治的パンフレットとしての)政策提言が出されたことに意味があるのでしょう。

第1章 安倍政権の景気作戦――官邸の思惑は当たるか?

第2章 人々が政治に求めていること

第3章 どんな経済政策を掲げるべきか

第4章 躍進する欧米左翼の経済政策

第5章 復活ケインズ理論と新しい古典派との闘い

第6章 今の景気政策はどこで行きづまるか

が、EUの労働社会政策をフォローしてきたわたくしからすると、改めて正面から「躍進する欧米左翼の経済政策」をきちんとまとめていただいたところに、本書のひとつの意義があるといいたいところです。

ちょうど、連合総研の『DIO』の紹介で引用したばかりで、妙な符合ですが、欧州左派の経済政策は、確かにアベノミクスと共通性が高いのです。

おかしな対立軸を立てようとすればするほど、世界標準の左派から乖離していくことになるという皮肉を指摘する役割を、いつまでも松尾さんばかりに押しつけていて良いのですか?

リベサヨとりべさよ

左翼に二種あり。

https://twitter.com/onshanow/status/688401117579988993

何となく私の中で左翼(サヨクでなく)って二種類に分かれてて、一つはリベラルとか平和とかそういう感じの一般的な左翼で、もう一つが「ゆるふわロハス」的な生活をやたら押してくるタイプの左翼で、私は後者が死ぬほど嫌いでさっきまでのツイートで批判した左翼はこれに当たります。

嘆息・・・・・。リベサヨとりべさよ。

いやだから、それはどっちも左翼じゃなかったんだが・・・・・。

(参考)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2006/11/post_a90b.html(リベじゃないサヨクの戦後思想観)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2006/12/post_5af3.html(リベラルサヨクは福祉国家がお嫌い)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2007/04/post_28cd.html(ネオリベの日経、リベサヨの毎日)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2007/05/post_3f06.html(フリーターが丸山真男をひっぱたきたいのは合理的である)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2007/10/post_c3f3.html(赤木智弘氏の新著)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2007/10/post_2af2.html(赤木智弘氏の新著その2~リベサヨからソーシャルへ)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2009/09/post-b950.html(だから、それをリベサヨと呼んでるわけで)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2007/12/post_2040.html(松尾匡さんの「市民派リベラルのどこが越えられるべきか 」)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/07/post-6cd5.html(日本のリベサヨな発想)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/05/post-a130.html(特殊日本的リベサヨの系譜)

2015年派遣法改正で残された課題――日雇派遣の矛盾

WEB労政時報に「2015年派遣法改正で残された課題――日雇派遣の矛盾」を寄稿しました。

https://www.rosei.jp/readers-taiken/hr/article.php?entry_no=486

昨年9月にようやく労働者派遣法改正案が成立し、日本の派遣労働法制は新たな段階に足を踏み出しました。それを一言でいえば、「派遣労働者の保護」という労働法であるなら当然第一に考えるべき理念を欠いたまま、もっぱら派遣先の正社員の保護のみを考える「常用代替防止」という理念に基づき、常用代替しないような業務だけをポジティブリストで認める――という世界のどの国でもとられていない特異な理念に基づいて30年前に作られた特殊日本的派遣法の終わりであり、とりわけ現実との乖離(かいり)が甚だしかった業務区分が法規制の上でなくなったことは、日本の派遣法がようやく世界標準に到達したことの徴表とも言えます。

ところが、にもかかわらず昨年9月30日から施行されている派遣法の中には、依然として過去の矛盾を引きずっている規定があります。それは、2012年改正で盛り込まれた「日雇派遣の原則禁止規定」です。そこには、過去の派遣法が産み出してきたさまざまな矛盾がことごとく絡み合い、到底まともな法制度とは言いがたいような奇怪な姿を呈しているのです。・・・・

2016年1月17日 (日)

労働組合は成長を拒否できるのか?

Dio 連合総研の機関誌『DIO』311号をお送りいただきました。

http://rengo-soken.or.jp/dio/pdf/dio311.pdf

特集は「希望としての定常型社会〜成長戦略への対抗軸を求めて〜」で、次のような論考が並んでいるのですが、

希望としての定常型社会 広井良典……………………6

金利と利潤のない経済の構想 水野和夫 …………………10

救済から必要へ−寛容な社会と格差是正 井手英策 …………………14

社会的分断を超えて 筒井淳也 …………………18

正直言って、労働者の労働者としての利益を追い求めるために存在するはずの労働組合のシンクタンクが、こういう(あえてきつい言い方をしますが)腹ふくれ満ち足りたブルジョワの息子の手すさびみたいな議論をもてあそんでいて良いのでしょうか、という根本的な疑問が湧いてくるのを禁じ得ません。特に最初の二つ。

心のビッグバンだの、精神革命だの、いやそういう議論がそれなりの場でなされるのは大いに結構だし、そういうのが大好きな人々がいることもわかる。でもね、それって、日本の労働組合のナショナルセンターのシンクタンクの機関誌でやるべき事なんだろうか。

本当に今の日本の労働者、とりわけ労働組合に組織されることもなく使用者の私的権力にさらされて、低い労働条件を何とかしたいと思っている労働者に呼びかける言葉が、「希望としての定常型社会」なんですか。

そして、見果てぬ夢を夢見る夢想家ではない現場で何とか生きていこうとしている労働者たちに送る処方箋が「金利と利潤のない経済の構想」なんですか。

壮大な議論は私も嫌いじゃないし、リアルな議論とつなげる道もないわけじゃないと思う。でもね、これじゃ接ぎ穂がなさすぎる。

何というか、そのあまりの落差に言葉を一瞬失う感が半端ないのですが。

(棚卸し)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/01/post-5bad.html (「成長」は左派のスローガンなんだが・・・)

いうまでもなく、ヨーロッパでは、これが左派の代表的な発想なのであって、それがねじれている日本は、さて誰に責任があるのでしょうかね。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/01/post-211d.html (「成長」は労組のスローガンなんだし)

いや、あまりにも当たり前のことではあるのですが、極東に来ると、「成長」論者というのは「質の高い仕事、社会正義、そして不平等との戦い」を敵視する人々であるという社会認識(というか、自己認識)がけっこう広まっているので、頭を抱えたくなるわけです。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/12/post-a0c8.html (左翼が「成長」なんて主張したことはない だって!?)

確かに、まっとうなリフレ派じゃない「りふれは」の手合いの言う「成長」は、社会全体のブラック企業化を狙っているとしか思えないようなニュアンスがぷんぷん漂ったりしてますからね。

でも、そういう「りふれは」風インチキ「成長」が嫌だからといって、反成長論になだれ込んでみたって、いいことは一つもないわけです。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2013/02/post-8159.html (何で日本の左派なひとは「成長」が嫌いか)

ジョブ型社会では、経済成長すると、「ジョブ」が増える。「ジョブ」が増えると、その「ジョブ」につける人が増える。失業者は減る。一方で、景気がいいからといって、「ジョブ」の中身は変わらない。残業や休日出勤じゃなく、どんどん人を増やして対応するんだから、働く側にとってはいいことだけで、悪いことじゃない。

だから、本ブログでも百万回繰り返してきたように、欧米では成長は左派、社民派、労働運動の側の旗印。

メンバーシップ型社会では、景気が良くなっても「作業」は増えるけれど、「ジョブ」は増えるとは限らない。とりわけ非正規は増やすけれど、正社員は増やすよりも残業で対応する傾向が強いので、働く側にとってはいいこととばかりは限らない。

とりわけ雇用さえあればどんなに劣悪でもいいという人じゃなく、労働条件に関心を持つ人であればあるほど、成長に飛びつかなくなる。

も一つ、エコノミック系の頭の人は「成長」といえば経済成長以外の概念は頭の中に全くないけれど、日本の職場の現実では、「成長」って言葉は、「もっと成長するために仕事を頑張るんだ!!!」というハードワーク推奨の文脈で使われることが圧倒的に多い。それが特に昨今はブラックな職場でやりがい搾取するために使われる。そういう社会学的現実が見えない経済学教科書頭で「成長」を振り回すと、そいつはブラック企業の回し者に見えるんだろうね。

まあ、要すれば文脈と意味内容のずれによるものではあるんだが、とりわけ経済学頭の人にそのずれを認識する回路がないのが一番痛いのかもしれない。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/04/post-b066.html (決まってるじゃないか。自分の成長のためだよ!)

「1日の平均勤務時間は16時間くらいでしたね。サービス残業はあたりまえで、泊まりもありました。みんなけっこう自分から長時間労働をしているので、おかしいなと思い、『どうしてこんなに働くんですか』って聞いたことがあるんです。そうしたら『決まってるじゃないか。自分の成長のためだよ!』と……。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2014/08/post-5698.html (「成長」をハードワークの同義語として擁護/反発する人々)

本ブログでも何回も指摘しているのですが、なまじまじめに経済学を勉強してしまったありすさんは、世間一般で、とりわけブラックな職場で人をハードワークに追い込むマジックワードとして用いられる「成長」という言葉が、厳密に経済学的な意味における「成長」とは全然違うことにいらだっているわけです。

でもね、その「成長」への反発は、そういう「成長」を振りかざす人々がいるからその自然な反作用として生じているのである以上、お前の用語法は経済学における正しい「成長」概念と違う、といってみても、なかなか通じきれないわけです。

政治的関心は「意識高い系」?

いつもはあんまり見ないのですが、たまたま今朝はNHKの日曜討論を眺めていたら、出演してた若い人が、正確ではありませんが

政治的関心が高いなんていうと、意識高い系とか思われちゃう・・・

と喋っているのが耳に入りました。

そうか、政治に関心を持つのは、「意識高い系」なんだな、と改めて感じたところです。

いや、もちろん、ある種の政治的関心の高い人たちを除き、俗世間で政治に関心を持っている人々の大部分は、そういう「意識高い系」であるどころか、資源の権威的配分という近代政治学の定義に忠実に、それでどれだけ損するか得するかという関心で接しているわけですが、そういうメカニズムから隔離されているとりわけ若者たちにとっては、政治的関心とはそういう損得勘定なんてものとは対極にある、まさに「意識高い」(と揶揄される)ような代物なんでしょうね。

そういう、政治というものを「意識高い系」と見なすような認識枠組みをそのままにして、幾ら若者の政治的関心を高めようとか一生懸命がんばったところで、所詮、なにやらかっこつけて偉そうなことを口走るあんまりおつきあいしたくない連中という感覚を強化するだけに終わりそうな気がします。

これって、本ブログで何回か取り上げてきた例の「自分の人権、他人の人権」という話と密接に繋がっているような。

自分の損得勘定をほったらかして、どこか遠くの可哀想な人々のためになにやら偉そうなご託を並べる鼻持ちならないのが「人権」って奴だというひっくり返った発想が一般化したことが、最近某紙に載った「人権の匂い」とかいう表現の根っこにある感覚なのでしょう。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/09/post-baa7.html (りべさよ人権論の根っこ)

ユニオンぼちぼち リバティ分会(大阪人権博物館学芸課・教育普及課分会)のブログに、興味深い記述がありました。

http://unionbotiboti.blog26.fc2.com/blog-entry-308.html権利と聞いて何をイメージしますか?

・・・次に、今まで受けてきた人権教育、人権啓発の内容について質問します。

 被差別部落、在日コリアン、アイヌ民族、障害者、パワーハラスメント・セクシュアルハラスメント、ジェンダー、人種差別など、その特徴は個別の差別問題があげられることです。

権利に対して抱いているイメージが抽象的か具体的かについては、そのおよそ7割が抽象的だったと答えてくれます。身近かどうかについても、6~7割程度が「身近ではない」に手を挙げます。

 受けてきた人権教育・人権啓発を数多く書いてくれる人も中にはいるのですが、「働く権利」と書く人はほとんどいません。子どもでは皆無です。

この質問を考えたときに想像していた通りの結果にはなっているのですが、これが現状です。日本社会で権利がどのように受けとめられているかがよく分かりますし、状況はかなり深刻ではないかと感じています。

 人権のイメージが抽象的で自分に身近なものとは感じていないのですから、これではなかなか自分が人権をもっていると実感することはできません。まさに人権は、特別な場で特別な時間に学ぶものになってしまっています。

 最後に、「人権は誰のものですか?」と聞くと、多くの人は「全ての人のもの」と答えます。なのに、人権について繰り返し聞いたこれらの質問を考えるとき、自分に関わる質問だと感じながら考える人は多くないようです。「みんなのもの」なのに、そこに自分はいないのでしょうか。

まさにここに、世界でごく普通に認識されている人権とはかなり異なる日本における「人権」のありようが透けて見えます。

なぜこのような現状になっているのか。その問題を考えるとき、従来おこなわれてきた人権教育や啓発の問題を考えざるを得ません。

 質問に対する答えにも書いたように、人権教育や啓発でおこなわれている大半は、個別の差別問題に対する学習になっています。リバティに来館する団体が学芸員の解説で希望するテーマも、やはり多くは部落問題や在日コリアン、障害者の問題などになっています。

 もちろんこれらの問題も、被差別者の立場以外の人にこそ、自分自身が問われている問題だと考えて欲しいと思っています。しかし、リバティに来る子どもたちを見ていると、人権学習は固くて、重くて、面白くない、自分とは関係ないものだと感じていることがよく分かります。

 人権のイメージを聞かれて、「差別」と書くのも、人権学習は差別を受けて困っている人の話だと思っていることが影響しているのかもしれません。

 このような意識を変えていくためにこそ、労働に関する問題と働く権利の話を伝えていくことが必要だと思っています。

この異常に偏った「人権」認識が、例えば赤木智弘氏の「左派」認識と表裏一体であることはいうまでもありませんし、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2007/10/post_2af2.html(赤木智弘氏の新著その2~リベサヨからソーシャルへ)

男性と女性が平等になり、海外での活動を自己責任と揶揄されることもなくなり、世界も平和で、戦争の心配が全くなくなる。

で、その時に、自分はどうなるのか?

これまで通りに何も変わらぬ儘、フリーターとして親元で暮らしながら、惨めに死ぬしかないのか?

をいをい、「労働者の立場を尊重する」ってのは、どこか遠くの「労働者」さんという人のことで、自分のことじゃなかったのかよ、低賃金で過酷な労働条件の中で不安定な雇傭を強いられている自分のことじゃなかったのかよ、とんでもないリベサヨの坊ちゃんだね、と、ゴリゴリ左翼の人は言うでしょう。

ニュースなどから「他人」を記述した記事ばかりを読みあさり、そこに左派的な言論をくっつけて満足する。生活に余裕のある人なら、これでもいいでしょう。しかし、私自身が「お金」の必要を身に沁みて判っていながら、自分自身にお金を回すような言論になっていない。自分の言論によって自分が幸せにならない。このことは、私が私自身の抱える問題から、ずーっと目を逸らしてきたことに等しい。

よくぞ気がついたな、若いの。生粋のプロレタリアがプチブルの真似事をしたってしょうがねえんだよ、俺たち貧乏人にカネをよこせ、まともな仕事をよこせ、と、あんたは言うべきだったんだ、と、オールド左翼オヤジは言うでしょう。

そして、人権擁護法案に対するこういう反応の背後にあるのも、やはり同じ歪んだ人権認識であるように思われます、

http://homepage3.nifty.com/hamachan/hirotakaken.html(ミニ・シンポジウム「教育制度・教育政策をめぐって(2)――教育と雇用・福祉」 )

数年前に、若者関係の議論がはやった頃に結構売れたのが、フリーターの赤木智弘さんが書いた本です。その中で、彼は「今まで私は左翼だったけど、左翼なんかもう嫌だ」と言っています。彼がいうには、「世界平和とか、男女平等とか、オウムの人たちの人権を守れとか、地球の向こう側の世界にはこんなにかわいそうな人たちがいるから、それをどうにかするとか、そんなことばかり言っていて、自分は左翼が大事だと思ったから一生懸命そういうことをやっていたけど、自分の生活は全然よくならない。こんなのは嫌だ。だからもう左翼は捨てて戦争を望むのだ」というわけで、気持ちはよくわかります。

 この文章が最初に載ったのは、もうなくなった朝日新聞の雑誌(『論座』)です。その次の号で、赤木さんにたいして、いわゆる進歩的と言われる知識人たちが軒並み反論をしました。それは「だから左翼は嫌いだ」と言っている話をそのまま裏書きするようなことばかりで、こういう反論では赤木さんは絶対に納得しないでしょう。

 ところが、非常に不思議なのは、彼の左翼の概念の中に、自分の権利のために戦うという概念がかけらもないことです。そういうのは左翼ではないようなのです

 もう一つ、私はオムニバス講義のある回の講師として、某女子大に話をしに行ったことがあります。日本やヨーロッパの労働問題などいろいろなことを話しましたが、その中で人権擁護法案についても触れ、「こういう中身だけど、いろいろと反対運動があって、いまだに成立していない」という話を、全体の中のごく一部でしました。

 その講義のあとに、学生たちは、感想を書いた小さな紙を講師に提出するのですが、それを見ていたら、「人権擁護法案をほめるとはけしからん」という、ほかのことは全然聞いていなかったのかという感じのものが結構きました。

 要するに、人権を擁護しようなどとはけしからんことだと思っているわけです。赤木さんと同じで、人権擁護法とか人権運動とか言っているときの人権は、自分とは関係ない、どこかよその、しかも大体において邪悪な人たちの人権だと思いこんでいる。そういう邪悪な人間を、たたき潰すべき者を守ろうというのが人権擁護法案なので、そんなものはけしからんと思い込んで書いてきているのです。

 私は、正直言って、なるほどと思いました。オムニバス講義なので、その後その学生に問い返すことはできませんでしたが、もし問い返すことができたら、「あなた自身がひどい目に遭ったときに、人権を武器に自分の身を守ることがあり得るとは思いませんか」と聞いてみたかったです。彼女らの頭の中には、たぶん、そういうことは考えたこともなかったのだと思います。

 何が言いたいかというと、人権が大事だとか憲法を守れとか、戦後の進歩的な人たちが営々と築き上げてきた政治教育の一つの帰結がそこにあるのではないかということです。あえて毒のある言葉で申し上げますが。

 少なくとも終戦直後には、自分たちの権利を守ることが人権の出発点だったはずです。ところが、気が付けば、人権は、自分の人権ではなく他人の人権、しかも、多くの場合は敵の人権を意味するようになっていた。その中で自分の権利をどう守るか、守るために何を武器として使うかという話は、すっぽりと抜け落ちてしまっているのではないでしょうか

 

2016年1月16日 (土)

安定の知識社会学的なおしごと

Img_752f5d874047328e26f434ce08fbda5 「コパさんアートブック」さんが、ツイートで拙著『働く女子の運命』に端的な短評をされています。

https://twitter.com/co8_/status/688015490934042625

濱口桂一郎「働く女子の運命」同じように男尊女卑であった欧米と比べてもひどいありさまの日本の職場のジェンダーギャップ。法規だけなら劣らないほど整備されたのに実情変わらぬそのわけを、あまりに特殊な雇用の歴史をもって照らし出す、安定の知識社会学的なおしごと。よいです。

https://twitter.com/co8_/status/688017808895152129

年功序列、生活給、終身雇用、男女雇用機会均等法など、雇用慣行が生み出されていく道中はまるでまっすぐではなく、経団連や労組の利害と、意図せぬ結果と、理論の曲解がうずまいている。そうした渦中にキラリと光る言質を議事録などから細かく集めていく能力が高いひと。

そう、この本は、全体のストーリー、筋道自体はそれほど独自性があるわけではないのですが、その素材として拾い集めてきた一つ一つはいささかトリビア的なエピソードの集積は、一冊にまとめると結構の迫力なんじゃないかと、個人的には思っています。

2016年1月15日 (金)

「これからの労働法政策」@『労基旬報』1月15日号

『労基旬報』1月15日号の新春企画として、「これからの労働法政策」を寄稿しました。

 編集部から依頼されたのは「今年の展望」ですが、今年に限らずこれからの数年ないし十数年にわたって日本の労働法政策が取り組んでいくべき課題について考えてみたいと思います。

 もう8年も前になりますが、連合総研が水町勇一郎氏を座長に「イニシアチブ2008-新しい労働ルールの策定に向けて」研究委員会を発足させ、私も委員の一人として参加したことがあります。この研究会の検討結果は2010年に『労働法改革』(日本経済新聞出版社)から刊行され、かなりの話題を呼びました。・・・・・・

「解雇の金銭解決へ本格的検討の始動とその背景」@『人事労務実務のQ&A』2月号

Jrjqa201602『人事労務実務のQ&A』2月号に「解雇の金銭解決へ本格的検討の始動とその背景」を寄稿しました。副題は「すでに多くの事案が金銭解決されていることを前提に紛争解決システムの構築へ冷静な議論を」です。

http://www.nichiroken.or.jp/publication/jrjqa-store.html

1 解雇は現在でも多くが金銭解決されている
 
 まず、編集部の依頼に基づいてつけられた本稿のタイトルそれ自体に関する誤解を解いておく必要があります。確かに世間では、今回の検討会にせよかつての審議会や研究会等での議論にせよ、「解雇の金銭解決」 というラベルを貼って議論をする傾向にあります。しかしこの言い方は、あたかも現在の日本で解雇は金銭解決されていないかのごとき誤った印象を与えかねない言葉です。後述JILPT報告書に明らかなように、現実には圧倒的に多くのケースにおいて、解雇は金銭解決されています。ところがごく最近に至るまで、そのことがあまり明確に意識されないまま、「解雇の金銭解決を認めるべきか否か」という問題の立て方で議論する傾向が、とりわけ経済学者や経済評論家の議論においては顕著でした。「日本では、いったん人を雇ったらよほどのことがなければ解雇ができない」等という現実離れした認識をもとに議論を展開する評論家が横行していたのです。 ・・・

2 2003年労基法改正時の検討

3 2007年労契法制定時の検討

4 議論の再燃


女性の働きにくさの真因を説明

Img_752f5d874047328e26f434ce08fbda5コメントでkohchanさんが教えてくれているとおり、昨日の日本経済新聞夕刊の「目利きが選ぶ3冊」で、中沢孝夫さんが拙著『働く女子の運命』を取り上げています。曰く:

日本的雇用慣行が形成された歴史経過を丹念に実証しながら、女性の働きにくさの真因を説明。それは男性の問題でもある。メンバーシップ型社会日本の実像を活写。

2016年1月14日 (木)

都道府県労働局に雇用環境・均等部(室)

昨日の労政審雇用均等分科会に法案要綱が出されていて、雇用保険法から高齢法から均等法から育児介護休業法から全部まとめて一本というアメ横の叩き売り状態ですが、それはさておき、もう一つこういう資料が出ていました。

http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12602000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Roudouseisakutantou/0000109183.pdf(都道府県労働局の組織を見直し、『雇用環境・均等部(室)【仮称】』を設置)

労働局では以下の取組を進めるため、平成28年4月に組織の見直しを行い、新たに「雇用環境・均等部(室)【仮称】」を設置します。
男女ともに働きやすい雇用環境を実現するため、「女性の活躍推進」や「働き方改革」等の施策をワンパッケージで効果的に推進します。
労働相談の利便性をアップするため、パワハラや解雇等に関する相談窓口とマタハラやセクハラ等に関する相談窓口を一つにします。また、個別の労働紛争を未然に防止する取組(企業指導等)と、解決への取組(調停・あっせん等)を、同一の組織で一体的に進めます。

ほほう、私が今まで結構関わってきた労働局あっせん事案を担当している総務部企画室と、均等法や育介法を担当している均等室を一緒にするということですね。

実際、前者で取り扱うパワハラの中にも、結構セクハラ、マタハラっぽいのがありますし、逆に後者に来ているものもパワハラ的なものが結構あるはずで、そもそもそんなにきれいに分けられるものでもないという気がします。

もちろん、法律上は前者はあっせんであり、後者は調停であり、前者はいやといったら終わりで後者は一応出ないといけないという違いはありますが、中身は大きく重なっていますね。

「ストレスチェックとプライバシー」 @『生産性新聞』1月15日号

『生産性新聞』1月15日号に「ストレスチェックとプライバシー」を寄稿しました。

 去る2015年12月に、2014年改正労働安全衛生法のストレスチェック制度が施行されました。もともと自殺予防対策の一環として、定期健診でメンタルヘルス不調者を把握する方針でしたが、有識者の検討会で労働者のプライバシーへの懸念から消極的な姿勢に転じ、その後公労使の審議会では再びプライバシーに配慮した制度の導入への積極論が主となり、2011年末に法案が国会に提出されました。しかしその後も反対論は消えず、2014年に再提出する際には「ストレスチェック」という表現に変わり、義務づけも緩められて成立に至ったものです。
 制定経緯を反映して、この制度はできるだけ多くの労働者にストレスチェックを受けさせようという意図と、労働者のプライバシーを使用者の悪用から守ろうという意図との間でもみくちゃにされ、実に複雑怪奇なものになっています。事業者はストレスチェックを実施する義務がありますが(50人未満は努力義務)労働者に受検義務はありません。しかし指針では全労働者が受けることが望ましいとされ、事業者は受けていない労働者に受検を勧奨できますが、不利益取扱いはできません。ストレスチェック結果は労働者に知らされ、労働者の同意なく事業者に伝えてはならないのですが、制度の本旨は労働者が事業者に対して医師による面接指導を申し出ることにあります。それにより事業者は医師の意見を聴いて労働時間短縮、作業の転換、就業場所の変更等の措置を講ずることができるからです。
 本来、2005年改正による過重労働に対する面接指導と措置の義務をメンタルヘルスにも広げようというシンプルな改正であったものが、メンタルヘルスがとりわけ機微な個人情報であることからそのプライバシー保護の要請が制度の根幹にまで影響し、使用者側からすると一定のコストをかけてストレスチェックをやらされながら、その結果を知らされない可能性があるといういささか不合理な制度になってしまったわけです。既に、ストレスチェック結果を労働者が事業者に伝えなかった場合、安全配慮義務はどう判断されるのかといった問題が弁護士等から提起されています。
 ここではそれを少し広い観点から考えておきましょう。もともと典型的な労災職業病から始まった安全配慮義務は、次第に脳心疾患による過労死や精神疾患による過労自殺に拡大されてきましたが、それは同時に労働者のプライバシーの領域にも使用者の責任を認める方向への進展であったと言えます。とりわけ精神疾患による過労自殺に対して使用者の安全配慮義務を強調すればするほど、責任を負わなくて済むためには使用者が労働者のメンタルヘルスが悪化しないように注意を怠ってはならないということになります。しかしそれは同時に労働者のプライバシーを始終見張っていろということとも裏表です。自分のプライバシーを使用者に明かすのはいやだが、その結果自分がメンタルヘルス不調で倒れたらおまえの責任だから補償しろというのはいかにもおかしいでしょう。
 ここに現れているのは、労働関係をお互いに配慮し合うべき長期的かつ密接な人間関係と見るのか、それとも労務と報酬の交換という独立した個人間の取引関係と見るのかという哲学的な問題のようです。労働社会が両方の思想に立脚している以上、現実の場面でそれらがぶつかるのは不思議ではありません。

2016年1月13日 (水)

なんて事態になっとったのね

https://twitter.com/rom_emon/status/686933957561028608

Img_752f5d874047328e26f434ce08fbda5hamachan先生が本書いて帯で「上野千鶴子氏絶賛!」なんて事態になっとったのね。

はい、なっとんたんですよ。

もうすぐ対談もアップされますからお楽しみに。

日経新聞は1年遅れの旧聞紙か?

今朝の日経新聞の1面トップはなんと「外国人待遇不当なら企業処分 技能実習、受け入れ届け出制に 」です。

http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS08H5G_S6A110C1MM8000/?dg=1

厚生労働省と法務省は外国人が働きながら学ぶ技能実習制度を見直す。2016年内にも監督組織を設け、受け入れ企業には届け出を義務付ける。賃金水準など日本人と同等以上の待遇を求め、違反すれば罰金や行政処分の対象とする。技能実習生として働く外国人は約16万人にのぼるが、海外からは不当労働や人権侵害の温床になっているとの批判も受けているのに対応する。

新設する監督組織は「外国人技能実習機構」。・・・

まさかとは思いましたが、最後まで読んでも、昨年の通常国会に提出された法案の内容を一歩も出る記事ではありませんでした。

もちろん、前通常国会で一度も審議されずに今国会で成立を目指している法案ですから、ここでも一度紙面で取り上げて議論のネタにするというのは大いに結構です。

でもね、フィナンシャル・タイムズを買収しようという天下の日経新聞(なんでしょ)が、昨年の経緯を全然知らん風情で、いかにも日経新聞の記事によくあるていの「○○省は・・・見直す」なんていうテンプレで今ごろ記事にするのは恥ずかしいという感覚を持ってもらわなきゃ。

中身の解説はもう昨年3月に、たとえばここで私もやっているわけですから、

http://homepage3.nifty.com/hamachan/rouhoren1503.html(「技能実習制度 ようやくまともな法制化」 『全国労保連』2015年3月号)

去る3月6日に「出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案」と「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律案」が国会に提出されました。後者は法務省と厚生労働省の共同提出となっています。意外に思われるかも知れませんが、外国人労働者に関する立法が労働行政の(共管とはいえ)管轄となるのはこれが初めてなのです。この制度の経緯と今回の内容を簡単に見ておきましょう。 ・・・

今現在記事にするなら、どういうスタンスで取り上げるかという哲学がなきゃ。これではホントに情けないよ。

2016年1月12日 (火)

「非正規労働と集団的労使関係法制」@『労働法令通信』1月8/18日号

001@『労働法令通信』1月8/18日号(左の画像は最新号ではありません)に、新春特集として「非正規労働と集団的労使関係法制」を寄稿しました。

https://www.rodohorei.co.jp/c/act/Detail.do?id=001

1 非正規労働者の処遇問題

 ここ数年来、非正規労働者の処遇問題は労働法政策の中心的課題となっている。既に2007年改正パート法において、正社員型パートタイマーについては差別禁止、それ以外については均衡処遇の努力義務という形で定式化されたが、2012年の改正労働契約法では有期労働者に対する不合理な労働条件が禁止され、2014年改正パート法にも持ち込まれた。昨年9月に成立した改正労働者派遣法はそれまでの均衡を考慮した待遇確保の配慮義務を維持したが、同時に成立したいわゆる同一労働同一賃金法が3年以内の見直しを義務づけている。このように、関心は専ら均等・均衡処遇への法規制の在り方に集約されてきているが、本稿ではやや違った観点から非正規労働問題を考えてみたい。それは、ややもすれば忘れられがちな視点であるが、集団的労使関係法制の枠組みの中で非正規労働者を正面から論じてみる必要はないのか、という問題意識である。

2 働かない集団的労使関係法

3 非正規労働者の組織化こそ問題解決への正道

4 集団的労使関係法制の見直しに向けて

内容はここ数年間あちこちで述べてきていることですが、改めて読んでいただければ・・・。

2016年1月11日 (月)

2種類の「社会主義市場経済」

時事通信で、

http://www.jiji.com/jc/zc?k=201601/2016010900171&g(労働NGO4人を逮捕=出稼ぎ者支援で存在感-中国広東省)

【北京時事】中国で工場の多い南部・広東省で出稼ぎ労働者らのための支援活動を展開するNGO関係者が相次ぎ拘束された事件で、幹部ら4人が正式に逮捕された。中国人権問題を扱うサイト「維権網」が9日までに伝えた。

広東省では経済減速の影響で工場の閉鎖が相次ぎ、給与不払いなどに不満を持つ労働者による抗議活動が多発している。NGOは労働者、工場経営側、政府の3者を仲介。労働者への法律相談をはじめとする援助を通じて解決を目指し、存在感を高めており、当局側は警戒を強めていたとみられる。・・・

公安当局は昨年12月3日から、広東省の六つの労働NGOの幹部や関係者を一斉に連行。国営新華社通信は同月22日、7人を拘束したと伝え、NGOについて「労働者と中国政府の矛盾・衝突を歪曲(わいきょく)し、国家イメージに泥を塗り、社会制度を攻撃している」と批判する報道を展開した。

22659_2という記事を見て、つい先日読んだばかりのこの本を思い出しました。
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2016/01/post-8769.html (『中国リベラリズムの政治空間』)

石井知章さんよりその編著になる『中国リベラリズムの政治空間』(勉誠出版)をお送りいただきました。ありがとうございます。先日の『現代中国のリベラリズム思潮』(藤原書店)と同様、日本と中国の知識人による真摯な現代中国批判が展開されています。

 

上記エントリでは、李偉東さんの発言が印象深かったのでそれしか紹介しませんでしたが、お送りいただいた石井さんの書かれている「習近平時代の労使関係―「体制内」労働組合と「体制外」労働NGOとの間」という論文が、まさに上の時事の記事に関わる問題を論じているのです。

ご存じのように、「労働組合」と和訳されている「工会」とは、共産党の支配下で企業経営者も入った官製従業員組織ですが、そういう「工会」とは別に、実際に労働者とりわけ権利の乏しい農民工の権利擁護のために活動しているのが労働NGOです。ところが、習近平体制下でこの労働NGOに対する弾圧が強まってきている、というのが石井さんの論文です。

・・・現在、若年層における横の連帯は、既に「工会」という組織を必要とせずに「集団的」行為を可能ならしめているものの、他方、とりわけ習近平体制の成立後、党=国家側は「和偕社会」という名目で、労使関係の敵対的性格を隠そうとする傾向を強めている。しかも、様々な使用者団体の設立など、資本側には「結社の自由」が大幅に認められつつあるものの、他方、労働側には官製工会たる中華全国総工会による独占的な「団結権」のみが許され、それ以外の労働者集団に対する「結社の自由」は未だにまったく認められていない。・・・

資本側には結社の自由があるのに、労働側には事実上結社の自由がないという、某経済評論家が涙を流して喜びそうな、まことに資本にとってのパラダイスが、共産党という名の政権下で実現しているというのが最大の皮肉なのでしょう。

このアイロニーを、ピケティの『21世紀の資本』に対する批評というややひねったかたちで論じているのが、秦暉さんの「二十一世紀におけるグローバル化のジレンマ:原因と活路―『21世紀の資本』の書評を兼ねて」という論文です。

秦暉さんいわく、世界には二種類の「社会主義市場経済」があるんだと。

Aタイプの社会主義市場経済というのは、西側福祉国家の体制で、「社会主義」というのは政府による福祉と保障、つまり福祉国家を意味する。言い換えれば英府の責任がますます大きくなることを意味する。「市場経済」というのは契約や行動の自由を意味する。言い換えれば政府の権力が弱くなることを意味する。ピケティは、それを当然の前提に考えて論じている。

しかし世界にはもう一つの、Bタイプの社会主義市場経済がある。中国の体制だ。そこでは、「社会主義」というのは政府が無制限の権力を持つことを意味し、「市場経済」とは政府が責任から逃れることができることを意味する、と。

この、見事に対照的な二つの「社会主義市場経済」が組み合わさるとどうなるか。秦暉さんいわく、

・・・Aモデルの国家の資本が大量にB種類の国家へ流入し-これらの国家は専制的体制で生産要素のコストを低下させ、投資を募るための「低人権優勢」(人権が保障されないことが逆に対外的に有利になること)を備えている。Aモデルの国家の資本は、これらの国家に流入し、搾取工場を経営し、そこで生産された廉価な商品が逆にA種類の国家の市場を占領している。・・・

秦暉さんは、ピケティを批判して、r>gという法則じゃなく、このメカニズムがAモデルでもBモデルでも格差を拡大させているのだ、と主張するわけです。

残念ながら、日本の右派を批判するために中国の体制を批判したくないししようとしない日本の左派にはあまり受けそうもない議論ですが。

あと、中国の体制派(新左派)の議論をもてはやす日本の左派、とりわけ柄谷公人らに対する石井さんの筆誅の勢いは依然として強烈ですね。

マシナリさんの『働く女子の運命』評

Img_752f5d874047328e26f434ce08fbda5 マシナリさんがブログで、拙著『働く女子の運命』に対する丁寧な書評を、しかも2連発でされています。

http://sonicbrew.blog55.fc2.com/blog-entry-669.html (「基幹的業務と補助的業務」という区分)

http://sonicbrew.blog55.fc2.com/blog-entry-670.html (日本的な「統計的差別」)

それぞれのエントリにタイトルがついていますが、それがその一部を示すだけで、いずれもかなり広いトピックを扱っています。

たとえば第1のエントリは最初に、金子さんと私のやりとりを踏まえて、

学術的な面でど素人の私が傍から拝見した限りでは、『働く女子の運命』というタイトルがややミスリードだったのではないかという感想でした。というのも、hamachan先生のこれまでの著書のタイトルには「労働」とか「雇用」という文言が必ず入っていたので、明示的に労働問題とか雇用関係とか人事労務管理とか労使関係とかいうくくりで読み進めることができたと思うのですが、「働く女子」というタイトルではちょっと焦点がぼやけてしまったように思います。

と指摘されています。このエントリで私に疑問を提起されているのは、

男女の人事労務管理上のすみ分けとして用いられる「基幹的業務と補助的業務」という区分が、正当化されるべきかそうでないかが今ひとつ飲み込めないのです。

という点です。

マシナリさんの自問自答は、

基幹的業務と補助的業務は「処理の困難度の高低」によって区分されるので、処理の困難な業務を遂行できる「能力」をもつ労働者がそれぞれその業務を分担するというのは、それなりに筋が通っています。となると、その「能力」をどのように判定するかが問題になるわけでして、これに対して日本の労使がひねり出した解決策が、経験年数を「能力による資格」として明確化した職能資格制度だったともいえるでしょう。

というところから、

しかし、その理論的根拠となった小池先生の知的熟練論の綻びとともに、職能資格制度の弊害として正規・非正規の二極化や女性の社会進出の低調さが認識されている現状では、回りまわって結局、「職掌別」の人事労務管理は社会制度として持続的ではないといわざるを得ません。まあもちろんジレンマはここにあるわけでして、日本型雇用慣行の中核としてこれからも堅持されるであろう職能資格制度が、社会全体の制度としてみれば持続可能ではないわけですから、あちらを立てればこちらが立たなくなります。

と進んでいきます。

次のエントリも、いろんなことを取り上げて論じていただいていますが、実は統計的差別の問題を正面から取り上げていただいた書評は初めてのような気がします。口頭ベースではあそこの意義を評価していただいている方もいますが。

・・・hamachan先生によると、ここで日本独特の現象が起きます。欧米では人種などの外見的属性で雇用の可否や処遇を決定していまう「統計的差別」が、日本では「将来的な雇用可能性」で雇用の可否や処遇を決定していまう「統計的差別」に換骨奪胎されたとのこと。

つまり、人種差別による「統計的差別」はけしからんが、男女の勤続年数が見分けにくいことに基づく日本的な意味での「統計的差別」は当然のものであって、それから外れるような女性の扱いこそが厄介だという上記ブログの感覚は、まさに日本的なメンバーシップ型労働社会を前提としたものになります。

このエントリで引用されている「Think outside the box」というブログの立ち位置の何とも言えないねじれ現象も興味深いものがありますが、引用の引用になってねじれが加重するので、是非上のリンク先及びそのまたリンク先を読まれてそれぞれに考えていただけるといいと思います。

2016年1月10日 (日)

本当に身も蓋もないくらいに

Img_752f5d874047328e26f434ce08fbda5 「笑うかどには福きたる」というブログで、拙著『働く女子の運命』に過分なお褒めをいただいています。

http://blog.goo.ne.jp/roommate/e/d1ccc9e03e6531691bf116c0a8508484

「働く女子はこれからどうなるのか、それが知りたい!」と期待しても、この本は「良い意味で」その期待には全く応えてくれません。

むしろ、働く女子として「立ち向かわなければならない相手」の姿を教えてくれる本であると、私は思いました。

オトコ社会である日本の企業で、女性が(高低に関わらず)ポジションを得て仕事を続けていくのは難しい、ということは一度でも会社勤めをしたことのある女性であればうっすらなりとも感じます。

この本は、その理由が「あの上司」とか「あの会社」というそんな瑣末な問題なんかではなく、ほとんど「大河ドラマ級」の歴史に裏付けられたことなんですよ、ということを「これでもかぁぁ!」というくらい過去の資料から教えてくれます。本当に身も蓋もないくらいに。

「大河ドラマ級」かどうかはともかくとして、確かに本書は、あまり知られていないようなトリビア的エピソードも含め、今日に至る女子労働の歴史を、、これでもか、これでもかというくらいの史実を繰り出して見せつけてやろうという意図があったことは事実です。

・・・でもね、私この本に感謝したいと思うんですよ。

だって、こんなにも「女性の働きにくさの根拠」を歴史的事実で積み上げ、政治経済的背景でまとめてくれた本は今までなかったから。あ~、そうなのか、そうだったのか、と。

働く女子の皆さん、敵の正体はこれでわかりましたね。

後は、私たち一人ひとりが、この現実を踏まえて、どのように考え行動するかにかかっているだけなんです。

最後のところは、正直言って、著者の私も意図していなかったような読み方をしていただいております。

濱口さんは、その最後に、

「この多重に錯綜する日本型雇用の縮小と濃縮と変形のはざまで振り回される現代女子の運命は、なお濃い霧の中にあるようです」

と結んでいますが、この本を読んだ女子の中にはきっとその深い霧の中にも、自分なりの光を見つけた人はいるはずです。

そういう「覚醒した女子(?)」が、ひとりでもふたりでも、世の中でより良く仕事を続けられるのであれば、この本はそれなりに「働く女子のバイブル」になるような気もします。

誉め過ぎでしょうか?(^_^;)

はい、褒めすぎだと思います。だって、私には「働く女子のバイブル」にするようなつもりは全くなかったのですから。

でも、そういう風に読んでいただける女性がいたということは、著者として思いがけぬ勇気をいただいた思いもあります。

2016年1月 9日 (土)

未だにこんな議論がまかり通っているのか・・・

例の愛知県のブラック社労士については、既に山のように論評されているので特にコメントすることもないのですが、それにこと寄せてインチキな議論を展開する手合いが依然として後を絶たないようなので、やはり一言なかるべしということで。

https://news.careerconnection.jp/?p=19774 (ブラック社労士の出現は「正社員解雇の厳しさ」が原因か? 再発防止は「金銭解雇の法制化」との意見も)

一連の騒動に対してネットでは、あらためて「これは酷い」と批判が出ているが、このような社労士が現れる背景には「正社員の解雇の厳しさ」があるという指摘する声もあがっている。

「経営者が本当に必要と考える場合であっても、安心して解雇ができないから、逆に半ばいじめのような退職勧奨になってしまいがちということである」

現実社会で生きている人なら誰でも知っているとおり、日本の労働社会における解雇のしやすさ、しにくさは、名の通った大企業と中小零細企業とでは雲泥の違いがあります。

後者における解雇の実情については、わたくしの労働局あっせん事案の研究によって、アカデミズムの人々にも最近はよく知られるようになってきましたが、未だに判例雑誌に載るような事案だけで日本の現実社会の解雇をすべて語って疑わない理論偏重な人々が、とりわけ理論経済学方面には結構いるようです。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2013/03/post-12a7.html (中小企業ではスパスパ解雇してますよ)

112050118 少なくとも、私が日本の労働局のあっせん事案を調べた限りでは、こういうのが日本の解雇の現実の姿ですけど。

・10185(非女):有休や時間外手当がないので監督署に申告して普通解雇(25 万円で解決)

・10220(正男):有休を申し出たら「うちには有休はない」その後普通解雇(不参加)

・20017(正男):残業代の支払いを求めたらパワハラ・いじめを受け、退職勧奨(取下げ)

・20095(派男):配置転換の撤回を求めてあっせん申請したら雇止め(不参加)

・20159(派男):有休拒否に対し労働局が口頭助言した直後に普通解雇(不参加)

・20177(派女):出産直前に虚偽の説明で退職届にサインさせた(不参加)

・20199(派女):妊娠を理由に普通解雇(不開始)

・30017(正女):有休申請で普通解雇(使は通常の業務態度を主張)(打ち切り)

・30204(非女):有休をとったとして普通解雇(12 万円で解決)

・30264(非女):有休を請求して普通解雇(6 万円で解決)

・30327(非女):育児休暇を取得したら雇止め(30 万円で解決)

・30514(非男):労基署に未払い賃金を申告したら雇止め(不参加)

・30611(正男):指示に従わず減給、これをあっせん申請して懲戒解雇(打ち切り)

・30634(正男):労働条件の明示を求めたら内定を取り消し(15 万円で解決)

・10011(非女):個人情報(家族の国籍)を他の従業員に漏らしたことに抗議すると普通解雇(7万円で解決)

・10057(正男):会社から監視カメラで監視され、抗議すると普通解雇(15 万円で解決)

・20088(派女):いじめの現状を公にしたら派遣解除で雇止め(20 万円で解決)

・30015(派男):応募した業務と違う営業に回され、申し入れたら雇止め(不参加)

・30037(試女):無給研修に疑問を呈し、正式採用拒否(不参加)

・30048(正男)・30049(非女):配転で交通費を請求したが拒否され、退職勧奨(不参加)

・30077(正男):賃金が求人票と異なり、問うと退社を促された(10 万円で解決)

・30563(非男):偽造契約書に承諾させようとし、意見を言うと退職を勧める(不参加)

・10029(非女):賞味期限や注文数のごまかしを指摘したら普通解雇(不参加)

・10210(正女):データ改ざんを拒否して普通解雇(30 万円で解決)

・30036(正男):ハローワーク紹介で内定した会社が他社に労働者を供給する会社であることに疑義を呈したところ内定取消(不参加)

・20070(正男):常務に「勝手にやらんで欲しい」と言って懲戒解雇(打ち切り)

・20214(正女):マネージャーの降格人事に嘆願書をもって抗議したことで普通解雇(取下げ)

・30131(正男):客先で荷下ろし順に意見をしたら出入り禁止となり、さらに普通解雇(不参加)

・30243(正女):運営に意見が食い違っただけで普通解雇(打ち切り)

・30594(非男):副社長と営業方針、やり方が合わないとして雇止め(打ち切り)

・10032(正男):勝手に日曜出勤したので出勤停止、処分撤回を要求して懲戒解雇(取下げ)

・10056(正女):会社・社長の批判、社長の机を開けて社員の履歴書を見たので普通解雇(25万円で解決)

・10075(正男):会議中の発言や営業員との口論を理由に普通解雇(不参加)

・10097(派男):会社を信用できないと発言したことを理由に普通解雇(16.5 万円で解決)

・20052(正男):言い争いで出勤停止、不服申立に対し自主退職したものと見なす(30 万円で解決)

・20086(非男):社長、専務、同僚への暴言で普通解雇(不参加)

もし、解雇しにくいからいじめをする、という命題が正しいのであれば、これだけ解雇がやりたい放題な中小零細企業が圧倒的な労働局あっせん事案では、それを回避するためのめんどくさいいじめ事案なんかあんまり出てこないはずですね。

ところがどっこい、労働局あっせん事案は解雇も山のようにありますが、最近はそれ以上にいじめ嫌がらせによる自己都合退職事案がごまんとあります。もちろん、解雇もいくらでもやれそうな中小零細企業です。

・10001(派男):派遣先上司から時間外に個室で業務指導(説教)で退職(3万円で解決)

・10027(正女):同僚から言葉の暴力やセクハラまがいをされ退職(10万円で解決)

・10084(非男):同僚からのいじめについて異動させるとの約束を守られず退職(22.5万円で解決)

・10157(正女):上司から仕事ミスを厳しく叱責され、モニターで監視され退職(打切り)

・10215(正女):事務に向かないと異動を強要、心療内科に通い、退職(45万円で解決)

・10218(正女):「あなたの席はそこではない」等と言われ、退職(不参加)

・20090(非女):同僚3人からいじめを受け、上司も対応せず、退職(打切り)

・20118(正男):勝手に作業手順を変え問題を起こしたため掃除を命じられ退職(取下げ)

・20121(正女):先輩店員にいじめられ、店長に相談しても対応せず退職(25万円で解決)

・20124(正男):上司からパワハラを受け、心身にストレスがたまり退職(打切り)

・20158(正男):素手で便器掃除やゴミ片付けをさせられ、ボケ、バカと言われた(打切り)

・20212(非女):店長から「年取って邪魔なのでハローワークで仕事を探すように」と言われ退職(不参加)

・30034(派女):いじめから生ずる心身ストレスで勤務できなくなった(打切り)

・30035(派女):派遣先のいじめで他の職場に変えてもらえずうつ病で働けなくなった(打切り)

・30094(非女):公休日を無断欠勤扱いされ、中傷メモを貼られ、追い込まれ退職(打切り)

・30098(正男):不眠症から復職しようとしたら社長から暴言、うつ病で退職(18万円で解決)

・30166(非女):管理人夫妻から「自分でシフトを決めるな」と言われ、退職(9万円で解決)

・30176(正男):長時間の拘束と度を超した罵詈雑言で退職(不参加)

・30205(非女):社長から名指しで過大な暴言を受け退職(15万円で解決)

・30236(正男):皆の前でミスを公表し「欠陥社員」と言われ、うつ病で休職、退職(100万円で解決)

・30263(派男):ハラスメントで退職せざるを得なくなった(打切り)

・30287(非女):店長の暴言、出勤日数を減らされる等の嫌がらせで退職(9.4万円で解決)

・30313(正男):営業所長から「暗いオーラが出てる」「君はバカ」「親は育てるのに失敗した」等と言われ、退職(40万円で解決)

・30496(非男):代表者の息子から暴力を受け、恐怖心から退職(打切り)

・30561(非女):チーフの暴力的な言動で心療内科に通院、仕事ができない状態に(打切り)

・30582(非男):新店長から毎日シフトを減らすと言われ退職(打切り)

・10010(非男):店長からいじめを受けうつ病になり退職(30万円で解決)

・10059(非女):毎日暴言、罵声を浴びせられ、こなせない量の仕事で退職(10万円で解決)

・10072(派男):派遣先正社員より中傷され就業不能に(30万円で解決)

・10085(正女):上司より暴言を吐かれ、評価を貶めるメールを送信され退職(打切り)

・10127(正男):工場長のパワハラの恐怖心で体調悪化し、通院中退職(不参加)

・10167(正男):同僚から嫌がらせを受け、フォークリフトを当てられ退職(44万円で解決)

・10190(正男):パワハラでうつ病に罹患、入院後復職を拒否され退職(80万円で解決)

・10195(正女):社長からいじめ、自宅付近の駐車場で待ち伏せされ「生活できないようにしてやる」と言われ、退職(不参加)

・10196(正女):社長からいじめ、過重労働で体調崩し、退職(不参加)

・10197(正男):社長から心ない言動で退職(20万円で解決)

・20008(正女):嫌がらせで退職せざるを得なくなった(取下げ)

・20097(非女):准看護師にいじめられ、退職(打切り)

・30026(正男):支店長の激しい叱責でフラッシュバックを起こし、退職(不参加)

・30105(非女):足の捻挫をきっかけに店長から嫌がらせを受け、退職(打切り)

・30142(派男):派遣先でパワハラを受け退職(不参加)

・30150(非男):酒を飲んだ上司から「クビにする」と言われ、退職(10万円で解決)

・30160(非女):いじめがまかり通り精神的に限界で退職(不参加)

・30305(非女):業務妨害に等しい嫌がらせを受け、退職(不参加)

・30354(正女):ことごとに社長からいじめを受け、退職を余儀なくされた(不参加)

・30417(派女):派遣先の言動で精神的苦痛を受け、退職(3万円で解決)

・30511(非女):主任の言葉の暴力、いじめに耐えきれず退職(打切り)

・30529(派女):派遣先女性社員から八つ当たりされ、侮辱、嫌みを言われ退職(不参加)

何のことはない。解雇がしにくいから仕方なくいじめするしかないんだ、という一見もっともらしそうに見える議論は、現にスパスパ解雇やり放題の中小零細企業こそが、いじめ嫌がらせがてんこ盛りであることによって、見事に反証されてしまっています。

しかし、話はここで終わりません。

例の愛知の悪徳社労士は、どういう企業に対して、あの陋劣な手口を売り込もうとしていたのでしょうか?

愛知を代表する天下のトヨタ自動車・・・ではもちろんありませんね。

そういう、インチキ社労士を頼る必要のない大企業が、どちらかと言えば解雇がやりにくい立場にあり、労働法もよくわからずにそういうブラック社労士を頼ってくるのは、労働局あっせん事案に出てくるような中小零細企業ということになるでしょう。

あれ?そういう企業はそもそも結構スパスパ解雇していて、わざわざ悪徳社労士のアドバイスで持って回った手口でいじめ自殺に追い込むような必要性はないんじゃないの?

まさにその通り。そこにこそ、このインチキ社労士事件の最大の悪辣さがあるのです。

実のところ、あの社労士の口車に乗って、それなりに高い金を払って必要性のないいじめ自殺プロジェクトをやらされる中小企業こそ、いい面の皮と言えましょう。

そして、現実社会の実情を知らず(あるいは知っていても知らないふりをして)日本社会はすべて解雇ができないくらい厳しい規制があるなどと嘘八百をわめき立てて、こういう悪徳社労士の商売の宣伝を勤める一部のエコノミストや評論家諸氏の責任は重いものがあるといわなければなりますまい。

2016年1月 8日 (金)

日本の雇用制度のてへぺろな感じがよくわかった

Img_752f5d874047328e26f434ce08fbda5 「つぶあん&マーガリン」さんのブログで、拙著『働く女子の運命』が短評されています。曰く:「日本の雇用制度のてへぺろな感じがよくわかった」

http://sodom.blog.jp/archives/2899967.html

日本の雇用制度のてへぺろな感じがよくわかった。出来の悪いプログラミングコードという感じである。

赤松さんのペンネームが青杉なのがなんかおもしろかった。アメリカの公民権法のくだりもおもしろかった。マル経のところもおもしろかった。

富岡製糸場のとこの話はなんか切ない。羨ましい。働くことに誇りをもてるような世界観があったのがいいなぁと感じる。からの極悪ブラック企業化も切ない。

そう、富岡製糸場からほんの十数年であの『職工事情』のブラックな世界に移り変わっていくということがよくわからない人が、この本の37ページあたりでからかわれているような言動をしてしまうわけです。

最後に

『働いてない男子の運命』という本は出ないのかな。

と言われていますが、いや出ません。

2016年1月 7日 (木)

『中国リベラリズムの政治空間』

22659_2石井知章さんよりその編著になる『中国リベラリズムの政治空間』(勉誠出版)をお送りいただきました。ありがとうございます。先日の『現代中国のリベラリズム思潮』(藤原書店)と同様、日本と中国の知識人による真摯な現代中国批判が展開されています。

http://bensei.jp/index.php?main_page=product_book_info&cPath=1&products_id=100548

社会主義中国で、いったいなぜリベラリズムなのか。一党独裁による言論統制下で、リベラリズムについて語る余地が、その政治空間のどこにあるのか

現執行政権に対して根源的(ラディカル)に「批判的」であるというだけの理由で、多くのリベラル派知識人たちが、党=国家側の一方的評価である「反体制派」として一括して分類されてきた。こうした没理性的分類法は、権力側の意思によって恣意的にフレームアップされたものであり、唯一の政治的価値を絶対化し、それ以外を排除しようとする意思を反映したものである。
いかにして自由や民主主義といった社会的規範性のともなう「普遍的価値」を創造し、それを中国独自の個別具体的な土壌に根付かせることができるのか。社会に自由と権利が十分に保障され、憲政民主が実行可能となり、各市民が平等に尊重されつつ、公平な分配を獲得できる制度のもとで、自由で平等な市民のための政治共同体を築けるかどうかが問われている。

目次は下の通りですが、冒頭の座談会でかつて中央政治局常務委員の王岐山ひきいる国家体制改革委員会の元メンバーで国務院発行の雑誌『中国改革』社長を長く務めたという李偉東さんがこう語っているのには思わず息を呑みました。

・・・1989年の天安門事件以降、リベラル派知識人の多くは、思想と感情、さらには理論面でも、徐々に「革命」に近づいています。彼らはリベラル派の「右派」で、近年増加しています。彼らは、1989年以降の中国では「改革」は既に死んでしまった、80年代のような改革は、中国ではもはやあり得ないと考えています。天安門事件から26年が過ぎ、政治改革は大きく後退してしまいました。

「改革は既に死んだ、近づいているのは革命だ」というのが彼らのスローガンです。

さらに、こうも語っています。

・・・今年の旧正月、私は北京に帰省してさまざまな分野の知識人と交流しました。そして、現状は「毛沢東式の新たな全体主義」だという分析が、ほぼ共通認識になっていると実感しました。著名な法律家と話した時も、習近平は「プチ毛沢東」だという結論でした。これも、リベラル派知識人たちの間では、ほぼ共通認識になっています。ただ、分かってはいるけれども、書くことはできず、書いても発表することはできません。

うわぁ、なんだかアンシャンレジーム末期という感じですね。

【座談会】
中国のリベラリズムから中国政治を展望する 李偉東・石井知章・緒形康・鈴木賢・及川淳子

【総論】
中国政治における支配の正当性をめぐって 緒形康

【第1部 現代中国の政治状況】
二十一世紀におけるグローバル化のジレンマ:原因と活路―『21世紀の資本』の書評を兼ねて 秦暉(翻訳:劉春暉)

社会の転換と政治文化 徐友漁(翻訳:及川淳子)

「民意」のゆくえと政府のアカウンタビリティ―東アジアの現状より 梶谷懐

中国の労働NGOの開発―選択的な体制内化 王侃(翻訳:大内洸太)

【第2部 現代中国の言説空間】
雑誌『炎黄春秋』に見る言論空間の政治力学 及川淳子

環境NGOと中国社会―行動する「非政府系」知識人の系譜 吉岡桂子

日中関係三論―東京大学での講演 栄剣(翻訳:古畑康雄)

艾未未2015―体制は醜悪に模倣する 牧陽一

【第3部 法治と人権を巡る闘い】
中国司法改革の困難と解決策 賀衛方(翻訳:本田親史)

中国における「法治」―葛藤する人権派弁護士と市民社会の行方 阿古智子

ウイグル人の反中レジスタンス勢力とトルコ、シリア、アフガニスタン 水谷尚子

習近平時代の労使関係―「体制内」労働組合と「体制外」労働NGOとの間 石井知章

【第4部 中国リベラリズムの未来】
中国の憲政民主への道―中央集権から連邦主義へ 王建勛(翻訳:緒形康)

中国新権威主義批判 張博樹(翻訳:中村達雄)

【あとがきに代えて】
現代中国社会とリベラリズムのゆくえ 石井知章

2016年のキーワード「同一労働同一賃金」  

Hyousi12『先見労務管理』1月10日号に「2016年のキーワード「同一労働同一賃金」」を寄稿しました(左の表紙は前号)。

キーワードは全部で5つで、それぞれの執筆者と並べると、なかなか・・・面白いものがありますね。

キーワード1 介護離職 佐藤博樹

キーワード2 同一労働同一賃金 濱口桂一郎

キーワード3 解雇の金銭解決 城繁幸

キーワード4 パートの正社員化 平田未緒

キーワード5 ブラックバイト 今野晴貴

拙論文の最後の一節を紹介しておきましょう。

・・・ 率直に言えば、現状は、①自分たちの年功賃金制をその根底で生み出し支えている定期昇給制を止める気はさらさらないくせに、実は他人事である非正規労働問題に真剣に取り組んでいるふりをするために同一労働同一賃金原則を掲げて要求する労働側と、②中高年の高賃金に対しては年功制を批判して成果主義で叩くくせに、非正規労働に関する限り断固として同一労働同一賃金を拒否する経営側と、③労使は本音ではやりたくないものはやれるはずない・・・と内心思いながら、政治主導で降りてくる政策には逆らえないと諦めている行政側の三者が奇妙に絡み合っているところであろう。

あえて今後の動向を予測すると、中長期的には同一労働同一賃金原則に基づいた職務給型の賃金制度への移行を展望しつつも、当面の対策としては現在の賃金制度をある程度前提とした「均等待遇」を進めていくことにならざるを得ないであろう。その際、正社員と非正規労働者に共通に勤続期間に比例した取扱いをするとともに、正社員と非正規労働者の働き方や義務の違いを具体的に明示し、それに対応した格差という形で合理的な理由を認めていくことが、一つの方向性として浮かび上がってくるように思われる。

ちなみに、城繁幸氏はこの期に及んで未だに、

現在の日本の正規雇用に対する解雇規制は先進国中最も厳しいレベルで・・・・

などと、どこの国の話かと思うような文章で書き始めておりますな。せっかくの重要なテーマを、初めの1,2行を見ただけで読むのをやめてしまう人が出ないことを、編集部のためにも期待したいところです。

なにしろ、厚労省の検討会で解雇金銭解決の急先鋒となっている八代尚宏氏自らが、その著書で

・・・日本の解雇規制の真の問題点は、それが厳しすぎることではなく、紛争解決のルールが不明確なことである。・・・

と明確に述べるに至っているのに、そういうまっとうなネオリベラル経済学者の意見すらも顧みず、ほとんど誰にも共有されない独自の見解を吐ける神経は、もし学問的誠実さのかけらでもあるのであれば、なかなか理解しがたいところではありますね。

サービス経済化の労働法的含意

サービス経済化とは、労働の商品化のさらに進んだ形態。産業化段階では商品化の矛盾は企業の経営者とその労働者との間で先鋭的に現れ、紛争という形をとりえ、それゆえにその範囲で対処されうる。ところが、労働力の利用者がサービス消費者全体に拡散してしまうと、サービス提供者を乱用せずに適切に利用すべき責務も拡散、希薄化してしまう。労働法とは、労働力の消費者は神様であってはならないという規範だが、サービスの消費者に神様であってはならないという者はいない。むしろ、みんな神様になってしまう。

女性労働を補助線にして日本型雇用を論じた本

Img_752f5d874047328e26f434ce08fbda5ブクログに、「井上」さんの拙著評が載っていますが、本書の本性(?)を見事に言い当てています。

http://booklog.jp/users/shtr1006/archives/1/4166610627

①女性の労働史・日本型雇用の生成史という歴史的記述、②日本型雇用がいかに女性の活躍を難しくしているかという現状の分析、の両点につき興味深い分析がなされている本だと思います。

 ①まず、第一点について。日本のメンバーシップ型の雇用が、戦時中の皇国勤労観を基礎として、戦後の労働運動の成果として受け継がれたという記述など、さまざまな面白い歴史的記述がなされていました。

 ②第二点について。日本のメンバーシップ型雇用は、銃後の女性によって支えられた男性をモデルに組み立てられたものであるがゆえに、男女平等も、女性がそうした男性のように働くことができる平等とされており、育児や家事などの負担を負う女性の活躍を難しくしていることが指摘されています。

 育介法での労働時間規制(17・18条)への言及などを通して、無限定な労働義務を課す日本型メンバーシップ雇用の異常性が炙り出されていく過程が非常に面白い記述となっていました。あとがきで「本書の特徴」として、女性労働を「徹頭徹尾日本型雇用という補助線を引いて、そこから論じたところにある」としていますが(250頁)、むしろ、女性労働を補助線にして日本型雇用を論じた本といった印象があります。

 本書で指摘されているとおり、ジョブ型雇用にはスキルのない若者の雇用問題もあるので、問題は簡単ではないと思います。

確かにあとがきでは、日本型雇用を補助線にして女性労働を論じた本だと述べましたが、そしてそれは販売政策的には全く正しいのですが、書いた私の本音としてはむしろ、井上さんの指摘されるとおり、「女性労働を補助線にして日本型雇用を論じた本」になっていたのも確かです。

まあ、だからこそ、あらかじめ予防線を張っておいても、あれもない、これも欠けていると言われることになるわけですが・・・。

2016年1月 6日 (水)

連合新年交歓会で黒田日銀総裁

本日(というか既に昨日ですが)連合の新年交歓会(いわゆる『旗開き』)がありましたが、昨年と違ってマスコミの注目を集めたのはやはり、黒田日銀総裁の壇上挨拶でしょう。

http://www.nikkei.com/article/DGXLASGC05H0N_V00C16A1EE8000/

Kuroda 日銀の黒田東彦総裁は5日、連合(神津里季生会長)の新年交歓会であいさつし「賃金の上昇は日本経済の持続的な成長のために不可欠」と語った。20年ぶり低水準の失業率や、過去最高水準の企業収益などの例を挙げて「労働者側に強い追い風が吹いている」として、今後本格化する春季労使交渉で賃上げが実現することに期待感を示した。

黒田総裁が連合の新年交歓会に出席するのは2015年に続いて2回目。昨年は黒田総裁は壇上であいさつすることがなく、初めての交歓会への出席が様々な臆測を生んだ。このため「今年は疑問符が付かない形で(賃上げへの思いを)認めていただけるよう、分かりやすく伝えたい」と話す場面もあった。

日銀が進める異次元金融緩和に関しては「必要と判断すれば、さらに思い切った対応をする用意がある」と述べた。日銀は目標として掲げる2%の物価上昇を達成するためには、賃金の上昇が不可欠とみている。

というわけで、そのあと壇上に登った経団連の工藤副会長は「四面楚歌」とか言っていたような・・・。

2016年1月 5日 (火)

『POSSE』29号から

Hyoshi29昨日届いた『POSSE』29号、特集の自衛隊関係の記事以外にも興味深いのがいくつかあります。

POSSE本来の土俵のブラック企業/ブラックバイトとの闘いでも、しゃぶしゃぶ温野菜、アリさんマークの引越社、個別指導塾などが並んでいますが、少し毛色が変わっているのが「高校教員とユニオンの連携が解決したブラックバイト」という記事です。

定時制高校に通う外国籍のAさんの賃金未払いの事案ですが、会社が倒産して、時間が経っているため立替払い制度も使えないというケースで、担任の先生が相談した同僚の県教組の先生が、ブラックバイトユニオンと連携して、実質的な親会社と交渉し、未払い総額の6-7割を払わせるに至ったというなかなかの成功事例です。

ほっとくと紙の上の水練になりがちな労働法教育の、まさに実地教習というべきでしょうか。いや、もちろん先生の側にとっても。


スマイル0円の陰惨な非経済的帰結

http://www.asahi.com/articles/ASJ144ST6J14TLTB00L.html(「笑顔ない」とコンビニ店員に重傷負わせた疑い 男逮捕)

 鹿児島県枕崎市内のコンビニで男性店員に「笑顔がない」などと言って蹴り、重傷を負わせ、土下座を強いたとして、鹿児島県警は4日、同市折口町、生花店経営牟田吉行容疑者(56)を傷害と強要の疑いで逮捕し、発表した。容疑を認めているという。

 枕崎署によると、牟田容疑者は3日未明、枕崎市内のコンビニ前の路上で、男性アルバイト店員(44)の腹部を蹴り、土下座を強いた疑いがある。男性店員は腎臓を損傷し、約1カ月の重傷。

ちなみに、経済的帰結についてはこちらを参照。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/12/post-107c.html(スマイル0円が諸悪の根源)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/11/post-24ed.html(スマイル0円が「ホスピタリティの生産性」?)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2015/05/post-cdcb.html(スマイルは0円か@日経)

雇用保険法の見直し――65歳以上も適用へ@WEB労政時報

WEB労政時報に「雇用保険法の見直し――65歳以上も適用へ」を寄稿しました。

https://www.rosei.jp/readers-taiken/hr/article.php?entry_no=480

労働政策審議会の雇用保険部会は、2015年8月からいくつもの論点について審議を重ねてきましたが、昨年末の12月25日に報告を取りまとめました。その論点は多岐にわたっていますが、ここでは労働市場政策の観点からかなり重要な意味を持つ65歳以上の者への適用拡大を中心に取り上げたいと思います。

 もともと、雇用保険の前身の失業保険が1947年にできた時には、年齢制限などは存在しませんでした。日雇労働者を除けば全ての労働者について一律に、6カ月の被保険者期間があれば180日分の給付が支給されるという簡素な仕組みだったのです。その後、累次の改正が重ねられていき、支給の局面において年齢という要件が重要なものとなったのは1974年の雇用保険法への改正時でした。この時、支給日数は再就職の困難度に応じて決めるべきという考え方に基づいて、30歳未満は90日、30~45歳未満は180日、45~55歳未満は240日、55歳以上は300日とされたのです。最後の枡目(ますめ)は「55歳以上」で、上限はありませんでした。65歳であろうが70歳であろうが、就職はますます困難なのだから300日という、それはそれなりに筋の通った制度であったわけです。・・・・

 

「トーコ」さんの拙著評

Img_752f5d874047328e26f434ce08fbd_2 「トーコの日々の葛藤」というブログで、拙著『働く女子の運命』に過分なお褒めをいただいています。

http://ameblo.jp/lucacori/entry-12113614276.html

年末に買った本「働く女子の運命」が超面白い。

上野千鶴子さんも絶賛の本。

まだ途中までだけど、要旨はなぜ日本企業が女性を使えないかということを歴史を紐解いて教えてくれてます。

JILPTの研究員が書いてて、中身のわりには表現の仕方も軽妙でわかりやすいです。

という調子で説明していくうちに、突然

それもこれも、やはりチ○コがあるからですね?

という過激なお言葉が・・・・。

まあ、一応締めは

私はふざけてますが、とーっても読みやすく面白いのでオススメです。

大事に読んでるー。

と収めていますが・・・。

2016年1月 4日 (月)

『POSSE』29号

Hyoshi29『POSSE』29号をお送りいただきました。今号の特集は左の表紙にあるように「自衛隊とブラック企業」です。

http://www.npoposse.jp/magazine/no29.html

2015年、ついに「安保法制」が成立した。
この法制の成立過程や内容の賛否については、本誌では 深入りしない。
だが「軍隊」が存在する以上、労働や貧困の問題は不可避 的に存在する。海外派遣が進めば、その問題はさらに剥き出しになるだろう。
反戦運動に参加する人たちにとっても、自衛隊の活動を 推進する人たちにとっても、 足元にあるこのテーマは、見 落とされがちだったのではないだろうか。
そこで本特集では、あくまで労働・貧困問題という視点 に限定しつつ、 「ポスト安保法制の労働」に多角的なアプ ローチを試みた。
安保法制や自衛隊の海外派遣を議論する前提として、 それらに反対の人にも賛成の人にも、ぜひ読んでほしい。

特集の目次はこの通りですが、

◆特集 「自衛隊とブラック企業 ポスト安保法制の労働」

008  15分でわかる安保と労働
   本誌編集部

013  自衛隊は安保法制に耐えられない
   ―海外派遣で深刻化する労働問題

   布施祐仁(ジャーナリスト)×今野晴貴(NPO法人POSSE代表)

026  自衛隊のセクハラ・パワハラ訴訟から問う軍隊の「民主的統制」の可能性
   佐藤博文(弁護士)

041  元自衛官に聞く自衛隊のブラックな労働環境
   ―いじめ、暴力、うつ病の蔓延と隠蔽の構造

   木下武男(元昭和女子大学教授)×
   郡司榮晟(元自衛官)×清水敦司(元自衛官)

056  安保法制は基地労働をどう変えるか
   ―米軍戦略に左右される基地労働と労働組合の取組み

   紺谷智弘(全駐留軍労働組合中央本部書記長)

067  企業・行政における自衛隊研修の実態
   本誌編集部

076  学校への軍事的侵略
   ―下級予備役将校訓練課程(JROTC)の役割について

   シルビア・マクガーリー(米オレゴン州立レイノルズ高校社会科教員)

084  『アメリカン・スナイパー』と『キャプテン・アメリカ』が描く帰還兵のPTSD問題
   錦織史朗(大学院生)

このうち、上記特集の趣旨を一番明確に述べているのは、佐藤弁護士のインタビュー記事でしょう。そのうち「軍隊に対する民主的統制」というところで、インタビュアの問いに答えて、

-これまで自衛隊におけるセクハラ・パラハラの実態や生活問題について伺ってきました。こうした組織内の問題に対して、外国の軍隊では歯止めをかける仕組みはあるのでしょうか。

・・・ドイツやスウェーデンでは古くから軍隊にオンブズマン制度があるということです。他の国でもオンブズマン制度だけでなく、労働組合や、兵士や家族の協会といった利益擁護団体があります。しかし、日本の場合には全くそれらがないわけです。

日本はなぜそうなったかというと、憲法9条があるために、検察予備隊がGHQの指令により国会で議論せずに作られたことに始まっています。警察予備隊は後に自衛隊になるわけですが、憲法9条に反するため政府はその実態を明らかにせず、軍隊ではないと説明し続けてきました。他方で平和護憲運動の側には自衛隊に対する拒絶感があり、自衛官たちの置かれている立場や状況を考えるという発想が欠けていました。さらに労働組合の人達も兵士の労働条件という観点を持ち合わせていなかったのが実情です。

・・・それからドイツでは、約25万人の兵士を組織する協会も結成され、労働組合のように処遇の改善のために活動しています。

-労使関係がきちんとあって、実質的な団体交渉ができるわけですね。

ストライキはできないけれども、制服を着てデモはできます。・・・ドイツではストライキはだめでも自らの殊遇の改善を求めて、制服を着てデモに参加することまでは、政治的行為ではなくて組合として認められる経済的領域の範囲の行動とされています。・・・

そしてとりわけ次の「日本の護憲運動が等閑視してきた自衛官の労働問題」というところでは、こうズバリと言っています。

・・・自衛隊がここまで膨らんでしまっている一方で、護憲運動の人達は、絶対的非暴力主義の発想が強いですし、「自衛隊は憲法違反」というところで議論が止まりがちです。このことは、日本社会全体にとっても兵士にとっても非常に不幸なことではないでしょうか。安保法制ができてしまった今、私はこの問題に、自衛隊員や家族の労働問題の視点から取り組んでいくことが重要だと思っています。

・・・今まであまりにも日本社会は自衛隊員のことを知らなさすぎました・政府は政府で、憲法の下での鬼子だからなるべく実態を見せないように、ずっと誤魔化してきました。同じ人間として、また労働者として自衛隊で働いている生身の人間がいて、われわれ主権者の代わりに彼らが戦場に行って、殺されるかも知れない。われわれは同じ働く者としてその状況に対してどう責任を持つのかと問いかけていくことが重要だと考えています。


でもこの本は外れかなぁ

131039145988913400963久しぶりに、7年前の拙著『新しい労働社会』への評が「rollikgvice's blog」というブログに。

http://rollikgvice.hatenablog.com/entry/2016/01/04/004821

でもこの本は外れかなぁ。

やっぱり労働法の流れをいつも掴ませてはもらっているんだけど、何かいつも、丁寧に法の流れは終えるけど、それ以上の濱口らしい思考はあんまり感じていないんだよ。そしたらこの本も同じだった。

副題にある「雇用システムの再構築」っていってもそんなに大げさなことは書いていなかったしなぁ。

いやまあ、「そんなに大げさなこと」をごまんと書けば、ある種の読者の方々にはほくほく売れる本ができあがるとは思いますけどね。

ただ、それでは肝心の、労働社会の今後の筋道を「現実的に」「リアルに」考えるってところがすぽっと抜けてしまいますからね。

まあ、それでいいのだ、本なんて読んでる最中気持ちがよければいいのだ、という考え方もあるとは思いますが、それはあえて「外れ」されてもらっています。少なくとも私にとっての「濱口らしい思考」ってのはそこにあるので。

調子に乗って現実にやれもしないようなことは書かない。

認識論はラディカルに、実践論はリアルに。

先日の上野千鶴子さんとの対談で、認識はほとんど一致しているのに云々、というのも同じ話でしょう。ちなみにこの対談はそのうち文春のサイトに出る予定です。

そのギャップを埋めるために本書を読ませておく・・・

Img_752f5d874047328e26f434ce08fbda5 読書メーターに、「kkb」さんによる拙著書評が。

http://bookmeter.com/cmt/53051041

普段学生たちに話を聞くと,これまで男女の差別を感じたことがないという意見が多い.しかし企業社会に入るとそうではないわけで,そのギャップを埋めるために本書を読ませておくのは良いかもしれない.会社員一人ひとりが差別意識を持っているわけではないが,日本企業の中で組織化された差別がなぜ存在するのかがわかる.

本書の特に前半でこれでもかこれでもかと引用している、かつての日本企業のかなり露骨な女性差別的な言説の数々は、今日の若い女性たちにとってはほとんど生で触れたことのないものでしょうが、とはいえその基盤となる雇用システムの基本骨格はしっかりと今日まで流れ込んでいることも間違いないので、それをストレートに表出したらどんな言い方になるのかをしっかりと認識しておくことはそれなりに必要だろうと思います。

2016年1月 3日 (日)

『學士會会報』916号

Top_newbook 『學士會会報』916号が届きました。

http://www.gakushikai.or.jp/magazine/bulletin/index.html

日本経済再生の処方箋 (七月午餐会講演)冨山 和彦 (株式会社経営共創基盤代表取締役CEO・東大・法・昭60)

冨山さんの講演録は、G型経済圏、L型経済圏から始まって、おなじみの話をコンパクトにまとめています。L型大学のやや奇妙なイメージを貶すだけの視野狭窄で対抗できるようなものではありません。

この号で一番面白かったのは、御厨貴さんの講演録です。

政界人物評論・今昔物語(七月夕食会講演)御厨 貴(放送大学教授・東京大学名誉教授・東大・法・昭50)

とりわけのこの一連の話。

・・・戦後日本の政権の中で経済政策を最優先したのは、安倍政権以外では「所得倍増」を旗印に高度成長を実現した池田政権だけです。・・・

安倍政権が逆転の発想をした理由は、「本当に自分のしたい政策を前面に掲げて戦うのは危ない」と思ったからです。・・・

安倍氏がカムバックした後、長期政権化した理由は、安倍政権に参加する政治家が究極的には「アベノポリティクス」に異論を唱えないからです。・・・するとハト派を含めた多くの政治家が、「集団的自衛権は容認するが、歴史認識や靖国参拝は決して認められない」と応えました。

そう答えた中には先ほどのシニアブロックの人もいたので、そこを問うと、「自民党内の争いで下野するのは絶対に避けたい。だから、これくらいの意見の相違には目をつむる」というのです。・・・

これはむしろ褒め言葉としていいますが、御厨さんはこの公園でも出てくる戦前の馬場恒吾、戦後の細川隆元といった一流の政治評論家の伝統を受けついだ感じですね。

2016年1月 2日 (土)

読書メーターで「りょう」さんの書評

Img_752f5d874047328e26f434ce08fbd_3 読書メーターに、「りょう」さんの拙著『働く女子の運命』への書評がアップされています。

http://bookmeter.com/cmt/53006901

欧米社会は仕事に対して賃金を支払うジョブ型社会であるのに対し、日本社会では具体的なアウトプット(仕事)に対してではなく、不明瞭な職務遂行能力なるものに対して賃金を払うメンバーシップ型社会であると著者。無限回の転勤と長時間労働を厭わない、いわゆる総合職社員を前提として作られたメンバーシップ型社会で、”女性の活躍”などといっても、システムが変わらない以上、うまくいくとは到底思えない。著者の提案するジョブ型正社員(いわゆる一般職)の働き方を男女関係なくできるようになることが、一つの解ではないかと思う。

ちなみに、ツイッター上では、

https://twitter.com/ryo46023/status/682895422306697216

本のタイトルは昨今話題の"女性の活躍"に絡めてのことなのだろうけれど、内容としては日本型雇用システム史なので、4月から総合職として働く学生の方々なんかは、古きよき日本企業の考え方がわかって面白いかもよ。 >『働く女子の運命』

と、わたくしのひそかな狙いをズバリと書かれてしまっています。

2016年1月 1日 (金)

「教員給与の学習ノート」の拙著評

Img_752f5d874047328e26f434ce08fbda5 速水卓さんの「教員給与の学習ノート」が、拙著『働く女子の運命』を取りあげて頂いています。

http://hayamitaku.blog.so-net.ne.jp/2016-01-01

日本型雇用システムから女性労働の現状を説明する著者の主張は、これらの新書を読んできた者にはなじみ深く、その意味ではびっくりすることはない。しかし、「どうして女性の働き方はこうなってしまうのか」とボヤッとでも考えてきた者にとっては、改めて、現状理解の肝を示してくれている。

と、嬉しい評価を頂いています。

その後、終章を丸ごと引用して下さっています。

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