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2016年1月14日 (木)

「ストレスチェックとプライバシー」 @『生産性新聞』1月15日号

『生産性新聞』1月15日号に「ストレスチェックとプライバシー」を寄稿しました。

 去る2015年12月に、2014年改正労働安全衛生法のストレスチェック制度が施行されました。もともと自殺予防対策の一環として、定期健診でメンタルヘルス不調者を把握する方針でしたが、有識者の検討会で労働者のプライバシーへの懸念から消極的な姿勢に転じ、その後公労使の審議会では再びプライバシーに配慮した制度の導入への積極論が主となり、2011年末に法案が国会に提出されました。しかしその後も反対論は消えず、2014年に再提出する際には「ストレスチェック」という表現に変わり、義務づけも緩められて成立に至ったものです。
 制定経緯を反映して、この制度はできるだけ多くの労働者にストレスチェックを受けさせようという意図と、労働者のプライバシーを使用者の悪用から守ろうという意図との間でもみくちゃにされ、実に複雑怪奇なものになっています。事業者はストレスチェックを実施する義務がありますが(50人未満は努力義務)労働者に受検義務はありません。しかし指針では全労働者が受けることが望ましいとされ、事業者は受けていない労働者に受検を勧奨できますが、不利益取扱いはできません。ストレスチェック結果は労働者に知らされ、労働者の同意なく事業者に伝えてはならないのですが、制度の本旨は労働者が事業者に対して医師による面接指導を申し出ることにあります。それにより事業者は医師の意見を聴いて労働時間短縮、作業の転換、就業場所の変更等の措置を講ずることができるからです。
 本来、2005年改正による過重労働に対する面接指導と措置の義務をメンタルヘルスにも広げようというシンプルな改正であったものが、メンタルヘルスがとりわけ機微な個人情報であることからそのプライバシー保護の要請が制度の根幹にまで影響し、使用者側からすると一定のコストをかけてストレスチェックをやらされながら、その結果を知らされない可能性があるといういささか不合理な制度になってしまったわけです。既に、ストレスチェック結果を労働者が事業者に伝えなかった場合、安全配慮義務はどう判断されるのかといった問題が弁護士等から提起されています。
 ここではそれを少し広い観点から考えておきましょう。もともと典型的な労災職業病から始まった安全配慮義務は、次第に脳心疾患による過労死や精神疾患による過労自殺に拡大されてきましたが、それは同時に労働者のプライバシーの領域にも使用者の責任を認める方向への進展であったと言えます。とりわけ精神疾患による過労自殺に対して使用者の安全配慮義務を強調すればするほど、責任を負わなくて済むためには使用者が労働者のメンタルヘルスが悪化しないように注意を怠ってはならないということになります。しかしそれは同時に労働者のプライバシーを始終見張っていろということとも裏表です。自分のプライバシーを使用者に明かすのはいやだが、その結果自分がメンタルヘルス不調で倒れたらおまえの責任だから補償しろというのはいかにもおかしいでしょう。
 ここに現れているのは、労働関係をお互いに配慮し合うべき長期的かつ密接な人間関係と見るのか、それとも労務と報酬の交換という独立した個人間の取引関係と見るのかという哲学的な問題のようです。労働社会が両方の思想に立脚している以上、現実の場面でそれらがぶつかるのは不思議ではありません。

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コメント

脳・心の認定基準においてすら、現場の認定担当者が、循環器系の医師からこんな甘い基準なの?と言われた話はあります。

また性懲りもなくやっちまいます(ごめんなさい)が、だから社会が「差異」を認められる分配制度がいるのです。福祉でだけではなく社会の経済効用の増大に対してもです。
小生の領域である医師の発言も、おそらく極ミクロ専門知識から医療マクロ効用に帰結する職業上言うべき真っ当な発言でもあり、しかし発生問題への帰結には繋げる意志もないものかもしれなければ、ストレスチェックは誤解を恐れずに言えば「医師誘発需要」仮説に相当してしまうのです。これもメンタル問題での社会保障制度の財源認識を如何に置ける人かを選別できる悲しいけどもリアル社会の演習です。

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