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「有期契約労働者の育児休業問題」 @損保労連『GENKI』12月号

119損保労連『GENKI』12月号に「有期契約労働者の育児休業問題」を寄稿しました。

 前回(10月号)で取り上げた仕事と家庭の両立支援に係る育児・介護休業法の改正事項のうち、概観しただけではわかりにくいのが、有期契約労働者に係る育児休業の取得要件の見直し問題です。今回は、この問題の経緯を育児休業法の制定時に遡って詳しく見ていき、「この問題をどう考えたらいいのか」という物事の筋道を解説していきたいと思います。

 育児休業法が1991年5月に成立した時、育児休業を取得することのできる労働者から「日々雇用される者及び期間を定めて雇用される者」は除かれていました(旧第2条)。その理由を当時の解説書(高橋柵太郎『詳説育児休業等に関する法律』)は、「最大限子が一歳に達するまでの一年にわたる長期的な休業という育児休業の性質になじまない雇用形態の労働者であることによる」と説明しています。当時は労働基準法上の契約期間の上限は1年であったため、「1年以下の短い期間を定める雇用契約の下であっても、労働者の自由な選択によって育児休業の申出が行われ、本来の契約期間の一部の労務の提供義務をなくしてしまうというのは、労働基準法の下でも残されていた契約の自由を奪うことになる」し、「逆に育児休業の申出ができなくとも労働者の側には、使用者との合意で育児に専念したいと思う期間を除外して雇用契約を結ぶことができる」からというのです。

 「それでは、有期契約を反復更新して長期間就労している場合はどうなのか?」と多くの人が疑問に思うでしょう。国会審議で、当時の社会党の糸久八重子議員の質問に対して、高橋局長は「実態に応じて個別に判断すべきものではございますが、一般的に、反復継続したことだけで直ちに期間の定めのない労働契約と同様に取り扱うべきことにはならない」と答弁しています。このように、この頃から問題は孕まれていたのですが、法律を変えるには、労働基準法の契約上限規制の緩和が必要でした。

 2003年労働基準法改正により、契約期間の上限が一般3年、専門職5年となり、3年の間に1年間休業しても雇用継続が可能になったことから、2004年の育児・介護休業法改正で一定の有期労働者にも育児休業請求権が認められるようになりました。しかしその仕組み(現行)は大変複雑です。「申出時点で同一事業主に引き続き雇用された期間が1年以上で、子が1歳に達する日を超えて雇用が継続することが見込まれる者のうち、子が1歳に達する日から1年経過後までに雇用関係が終了することが申出時点で明らかである者を除く」というのです(現第5条)。このうち事前の1年勤続要件は、諸外国の育児休業法制でも同様の規定が多く見られます。問題は将来の休業後1年勤続「見込み」「明らか」要件です。そんな先のことを「見込む」のは誰でしょうか。使用者側が「雇止めするから見込まれない」といえば、「見込み」はないことになってしまいます。諸外国の育児休業法制に、そんな使用者の主観次第で労働者の権利が左右されるような要件を持ち込んだ例は見当たりません。

 今回の育児・介護休業法の改正の議論では、この問題が正面から提起されました。「今後の仕事と家庭の両立支援に関する研究会」の議事録を見ると、神吉知郁子立教大学准教授が、「制度設計として、この要件の充足というのが、結局、使用者側に委ねられているということが問題なのではないか」と、また両角道代慶應義塾大学教授は「雇用の継続を育休の唯一の目的のように考えること自体がおかしい」「本当に見込みは分からないし、明らかに終わる人を排除するというのはまだ分かるのですが、そういう『相当、見込まれる人』みたいなというのは、それ自体が分からない人を対象にしている要件ですし、かつ、諸外国でこれが全然要件になっていないということを考えると、これは育休の本質的な要件ではないのではないか」と論じています。最終的な報告書では、前回紹介したように、「こういう意見もあれば、そういう意見もある」と、やや並列的な記述に落ち着いていますが、少なくとも「雇用の継続を前提とした上で、紛争防止等の観点から、適用範囲が明確となるよう取得要件の見直しを検討すべき」とは明言しています。

 今年8月から始まった労働政策審議会雇用均等分科会では、労働側委員がこの問題を積極的に論じています。「10年経ってもトラブルが絶えず、パンフレットなどで周知を行っていても問題が収まらないのは要件に問題があるから」「連合の調査によれば、有期契約労働者の取得要件を緩和すべきという声は7割を占めている」「有期契約労働者に対する取得要件は、労働契約法第20条に抵触するのではないか」「有期契約労働者は更新されるか不安を抱える中で、雇用主に見込みがないと言われてしまえば争うことはできない」等の意見に対し、使用者側は「現在の要件を満たしているのに、育休を取得できないのであれば、企業側の対応も含めて指導が必要。要件がわかりにくいということならわかりやすくするべきである。一方、労働契約法で5年を超えれば有期契約労働者は無期転換となるので、その中での要件の議論となる」と抗弁しています。

 使用者側の本音を推測すれば、育児・介護休業法制の中で有期契約労働者の権利を認めすぎると、それが育児・介護休業の世界を超えて有期契約労働者の権利自体の増大につながりかねないことを危惧しているのではないかと思われます。つまり、労働契約法で「5年反復更新で無期転換が可能」となりましたが、逆に言えば5年に達するまでは雇止めの権利は維持しているということです。使用者側が雇止めの権利を手にしている状態では、育児休業後1年勤続の「見込み」はあるともないとも言うのは自由です。ところが、その「見込み」の有無にかかわらず、「過去勤続要件さえ充たせば育児休業を取得できる」ということになると、もちろん法的にはそれは何ら雇止めの権利を左右するわけではありませんが、今までの経緯からすると、「休業できるのだから勤続の『見込み』があるのだろうと判断されてしまい、だとすると『見込み』があったのに雇止めをするのは無効だ」と判断される可能性が高まってしまうのではないか、と心配しているのではないか、ということが推察されます。

12月7日現在では、現行要件のうち1歳以降雇用見込み要件は削除しつつ、「明らか」要件については「子が1歳6か月に達するまでの間に労働契約期間が満了し、かつ、労働契約の更新がないことが明らかであるものを除く」とした建議案が提起されています。

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