矢野眞和『大学の条件』
矢野眞和さんより『大学の条件 大衆化と市場化の経済分析』(東大出版会)をお送りいただきました。ありがとうございます。
http://www.utp.or.jp/bd/978-4-13-051332-6.html
日本の大学には公的資金の投入が少なく,個々の家計に教育費の負担が重くのしかかっている.実証データを経済学的に分析し,大学進学機会の平等化が経済政策としても合理的であること,大学がエリートだけではなく,社会全体を支えるみんなのためにも有益であることを主張する.
学術書ですから『大学の条件』というタイトルになっていますが、一般向けの本だったら、間違いなく『みんなの大学』あるいはむしろ『大学はみんなのもの』というタイトルになっていたでしょう。
この本のエッセンスは、序章「それでも大学はみんなのためにある」という22ページに及ぶやや長い序章にあります。
現状を肯定する保守的世論-利己的家族主義と、機会の不平等を問題にしない世論-国立大学史観に抗して、「それでも大学はみんなのためにある」と一人荒野に呼ばわる預言者の風情です。
序章 それでも大学はみんなのためにある
I なぜ大学に進学しないのか――「家族資本主義」の限界
1章 「後期大衆化」段階の深い溝
2章 大学に進学しない理由(1)――顕在的進学需要の経済分析
3章 大学に進学しない理由(2)――進学と就職のゆらぎ
4章 大学に進学しない理由(3)―――ゆらぐ専門学校の立ち位置
5章 学力があるのに,親が大卒なのに,なぜ進学しないのか――家族資本主義の形成
6章 家族資本主義の帰結――機会不平等の政策的含意
II 雇用効率と学習効率の接続――大学教育の経済効果
7章 大衆化しても上昇する大卒プレミアム――平等化のための効率的公共投資
8章 誰のための大学か――費用負担の経済分析
9章 学習効率から雇用効率への接続――学び習慣仮説の提唱
III ポスト大学改革の課題――経営と政策のシナリオ
10章 日本的家族と日本的雇用の殉教者――幽閉された学生の解放
11章 制度改革から経営革新への転換――大学の使命―冒険・時間・仲間
終章 精神・制度・資源の再構築――みんなのための大学政策
参考文献
あとがき
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コメント
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大学がみんなのためにある時代の進歩の帰結であるならば、ミクロ論議となってしまった先般記事を超える内容のコメントもないでしょう。輩出と受け入れギャップに関わる潜在成長率を上げる生産GDPセクター改造こそそれを享受する分配と支出の3面等価が新しい正常化達成をできるのでしょう。大学の課題は学部レベルよりも大学院増設による「学歴インフレーション=学歴ロンダリング」であります。
投稿: kohchan | 2015年12月19日 (土) 08時13分