フォト
2020年9月
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30      
無料ブログはココログ

« 上林陽治『非正規公務員の現在 深化する格差』 | トップページ | 『月刊連合』12月号は集団的労使関係特集 »

2015年11月30日 (月)

「「常時雇用」と「無期雇用」の間」@『労基旬報』2015年11月25日号

『労基旬報』2015年11月25日号に寄稿した「「常時雇用」と「無期雇用」の間」です。

 去る9月にようやく成立に至った改正労働者派遣法は、法制定当時から存在したいくつもの矛盾を30年後にやっと解消した改正でした。そのうち最大の矛盾はいうまでもなく、ファイリングや事務用機器操作といった普通のOL業務を「専門26業務」と称して無制限の派遣を認める一方で、現実社会で専門職として通用している多くの業務を専門的ならざる「一般業務」と称して3年の期間制限を掛けるというあからさまな矛盾でした。これに代わって、派遣労働者の雇用契約が無期契約であれば期間無制限、有期契約であれば期間3年という筋の通ったわかりやすい規制が導入されたこと一つとっても、今回の改正がまともな方向への改正であったことが分かります。

 しかしこれに関わって、あまり目立たない改正ですが、法制定以来のもう一つの矛盾も解消されたことは、専門家はともかく一般の人々にはあまり認識されていないようです。それは、一見同じような概念に見える「常時雇用」と「無期雇用」の間に横たわる深い深淵に関わります。

 1985年に制定された特殊日本的労働者派遣法は、許可制の一般労働者派遣事業と届出制の特定労働者派遣事業という規制のダブルスタンダードを導入しました。問題はその定義がダブルスタンダードを正当化するようなものであったかです。法律上の規定は、「その事業の派遣労働者が常時雇用される労働者のみである労働者派遣事業」を特定労働者派遣事業と定義しています。問題はこの「常時雇用」です。法制定時の解説書(髙梨昌編著『詳解労働者派遣法』日本労働協会)によると、「雇用契約の形式の如何を問わず、事実上期間の定めなく雇用されている労働者」のことで、具体的には次の①から③までのいずれかに該当する場合とされています。

①期間の定めなく雇用されている者

②一定の期間(例えば、1か月、6か月等)を定めて雇用されている者であって、その雇用期間が反復更新されて事実上①と同等と認められる者、すなわち、過去1年を超える期間について引き続き雇用されている者又は採用の時から1年を超えて引き続き雇用されると見込まれる者

③日々雇用される者であって、雇用契約が日々更新されて事実上①と同等と認められる者、すなわち、②の場合と同じく、過去1年を超える期間について引き続き雇用されている者又は採用の時から1年を超えて引き続き雇用されると見込まれる者

 一見何の問題もないようですが、よく考えるとこれはとんでもない解釈です。なぜなら、これはあくまでもこれから労働者派遣事業を開始しようとしている段階であって、その段階では既に派遣労働者として就労している人はいないはずだからです。「過去1年」がどうとかこうとかはすべて無意味な言葉であって、結局これから派遣事業をやろうとしている者がこれから有期契約の派遣労働者として雇うことになる人について「採用の時から1年を超えて引き続き雇用されると見込まれる」と勝手に主張すれば、特定派遣に区分され、許可ではなく届出で事業を始められるということになります。そして、見込みはあくまで見込みですから、その有期契約の派遣労働者が何回か反復更新された後、期間が満了したからといって雇止めされたからといって、元に戻って許可を取るべきであったのに無許可で派遣事業を行った違反になるわけではありません。

 これは単なる概念遊戯ではありません。私が何回も引用する伊予銀行・いよぎんスタッフサービス事件では、届出で特定派遣事業を行う派遣会社に有期契約で雇われ、何回も反復更新されたあげくに雇止めされた原告について、「同一労働者の同一事業所への派遣を長期間継続することによって派遣労働者の雇用の安定を図ることは、常用代替防止の観点から同法の予定するところではないといわなければならない」と雇用継続期待を否定したのです。特殊日本的労働者派遣法は、いくらでも雇止めできる有期契約労働者を「常時雇用」と認めて届出で派遣事業がやれる奇怪な仕組みであったと言えます。

 この異様さを是正しようとする最初の試みは、2008年7月の「今後の労働者派遣制度のあり方に関する研究会」報告でした。「常時雇用」の中に有期契約を反復更新している者が含まれていることに疑問を呈し、「常用型派遣については、この「常時雇用される」を「期間の定めのない」ものとして再整理」すべきだと提起したのです。ところがこのまともな提案は、三者構成の労政審の建議では脱落してしまいました。その後、民主党政権下で大幅な規制強化の法案が国会に提出され、2012年に修正成立する過程においても、この異様さを是正しようという動きは見られませんでした。

 ようやく再びこの問題が提起されたのは、2013年8月の新たな「今後の労働者派遣制度のあり方に関する研究会」報告です。ここでは、一般派遣は許可制、特定派遣は届出制という枠組みは維持しながら、「「常時雇用される」を「期間の定めのない」ものと再整理することで、特定労働者派遣事業については、すべての派遣労働者を無期雇用する派遣元に限定することが適当であると考えられる」としたのです。その後労政審の建議では特定派遣と一般派遣の区別自体を撤廃し、すべて許可制に一般化することとされたため、この問題の重要性はやや霞んだ感もありますが、もう一つ常用代替防止規制を再構成し、冒頭に述べたように無期雇用派遣であれば期間無制限とし、有期雇用派遣であれば個人レベル・派遣先レベルで一定の期間制限を掛けることとしたため、規制の強弱を左右する重要要素として「常時雇用」ではなく「無期雇用」が確立したことになります。

 それにしても、ちょっとでも労働法の素養があればそのおかしさが分かるような奇妙な「常時雇用」の解釈を、30年間も維持し続けてきたのはいかなる原因があったのでしょうか。先の髙梨編著には、「この「常時雇用される」の意味は、中高年齢者等の雇用の促進に関する特別措置法第10条第2項及び身体障害者雇用促進法第14条の「常時雇用する」と同義であり・・・」という記述がありました。これらは雇用率制度の規定です。雇用率とは、現に雇用している労働者数に占める障害者の比率を一定割合以上にする義務であって、その観点からすれば、雇用契約が無期か有期かにこだわるよりも、「過去1年を超える期間について引き続き雇用されている者又は採用の時から1年を超えて引き続き雇用されると見込まれる者」を分母分子双方に含めてカウントすることがふさわしいのは理解できます。労働者の権利義務に直接関わらない雇用政策立法の発想を、何の疑問もなく労働者派遣制度に持ち込んだというこの制定時の思考様式にこそ、派遣労働者保護という観点を欠落させた特殊日本的労働者派遣法の出発点の歪みが刻印されていたと言えましょう。

« 上林陽治『非正規公務員の現在 深化する格差』 | トップページ | 『月刊連合』12月号は集団的労使関係特集 »

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

« 上林陽治『非正規公務員の現在 深化する格差』 | トップページ | 『月刊連合』12月号は集団的労使関係特集 »