現物給与と労働基準法
こんな記事が・・・、
http://www.yomiuri.co.jp/economy/20151118-OYT1T50002.html(自社製品購入、社員に「ノルマ」設定…シャープ)
経営再建中のシャープは、全従業員を対象に、自社製品の購入を呼びかけるシャープ製品愛用運動を20日から始める。
取締役や執行役員は20万円、管理職は10万円、一般社員は5万円と役職に応じて目標金額を設定し、売り上げ増を目指す。同様の取り組みは、経営危機に陥った旧三洋電機が2004~05年に実施した例があるぐらいで、異例のことだ。
「特別社員販売セール」として、来年1月29日まで実施する。セール専用のサイトから申し込む仕組みで、社員には購入額の2%分を奨励金として支払う。購入状況を会社側が把握できるため、目標金額は、事実上の「ノルマ」と受け止められている。・・・
労働関係者であれば当然この規定が思い浮かぶはずですが、
「厚生労働省令で定める賃金」というのは預貯金や一定の有価証券なので、こういう現物給与が認められるのは、他に「法令」もないので、労働組合との労働協約による場合のみです。
上の記事ではあくまでも「自社製品の購入を呼びかけ」ているだけで、給与自体は通貨で支払われるので、直接この規定に抵触するわけではありませんが、「事実上ノルマ」ということになると、何とも微妙な感じではありますね。
ここで、労働基準法になぜこういう規定は盛り込まれたかですが、これは約100年前の工場法時代から存在する規定です。つまり、その頃は、賃金を現物で払う使用者が結構いたということですね。
こういう現物給与や、あるいは自社の売店でしか使えないクーポンで賃金を支払うことを、英語でトラックシステムといいます。
残念ながら日本語版はないのですが、ウィキペディア英語版に簡単な解説が載っていますので、参考にして下さい。
https://en.wikipedia.org/wiki/Truck_system
A truck system is an arrangement in which employees are paid in commodities or some currency substitute (such as vouchers or token coins, called in some dialects scrip or chit) rather than with standard currency. This limits employees' ability to choose how to spend their earnings—generally to the benefit of the employer. As an example, company scrip might be usable only for the purchase of goods at a company-owned store, where prices are set artificially high. The practice has been widely criticized as exploitative because there is no competition to lower prices. Legislation to curtail it, part of the larger field of labour law and employment standards, exists in many countries (for example, the British Truck Acts).
トラックシステムとは、従業員が標準通貨ではなく商品又は(バウチャーやトークンコインなど)代替貨幣で支払われる仕組みである。これは従業員の所得をどう使うかの選択能力を制限し、一般的には使用者の利益になる。例えば、会社スクリップは社営売店での商品購入にしか使えず、そこでは商品価格は人為的に高くなっている。この慣行は低価格への競争がないゆえ搾取的だと広く批判された。これを規制する立法は、労働法や雇用基準の広い分野の一部として、多くの国に存在する(例えば、イギリスのトラック法)。
労働法の歴史を勉強すると、そのはじめの方に出てくる懐かしい概念です。
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