くみかおるさんから「さあ濱口先生はりきってどーぞ!」といわれてしまったので、全然張り切ってもいませんが、クラブのママの労働者性に関する裁判例をいくつか紹介しましょう。
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2015/11/post-9ea3.html#comment-112141739
銀座ママは労働者か? 判決は | 2015年11月22日(日) - Yahoo!ニュース http://news.yahoo.co.jp/pickup/6181698 #Yahooニュース
さあ濱口先生はりきってどーぞ!
http://news.yahoo.co.jp/pickup/6181698 (銀座のホステスは労働者じゃない? 東京地裁判決が「プロ契約」と判断したワケ)
労働者として勤務していた東京・銀座のクラブから不当に解雇されたとして、ママとして働いていた女性(45)がクラブ側に損害賠償などを求めた訴訟の判決で、東京地裁(鷹野旭裁判官)は「労働契約ではなく、業務委託契約だった」とし、女性は労働者ではなかったとの判断を示した。「クラブで働く女性は労働者ではないのか?」-。インターネット上ではこの判断に疑問の声も上がった。この女性が労働者に当たらないとされた理由とは…
この記事の最後の方にこう書かれているので、
女性側の代理人を務める弁護士は「過去、この女性と同じ契約形態でクラブママとして働いていた女性が、労働者として認められた判例がある。今回の判決は不当だ。高裁の判断を仰ぎたい」と話し、控訴する意向を示している。
この判例というのは、おそらくこれだろうと思われます。
損害賠償請求控訴事件 名古屋高等裁判所平成20年10月23日判決(判例時報2036号33頁)
二 被控訴人の法的地位(争点(1)について)
(1) 前記一認定の事実に基づき検討するに、被控訴人は、控訴人の唯一の代表取締役に選任された旨の登記がなされており、また前記一(3)認定のとおり、平成一七年一月一日付で、本件グループの副代表として、業務委託を受ける旨の委任契約書が作成されている事実が認められる。
(2) しかしながら、控訴人と被控訴人間の契約関係がどのようなものであるかは、契約の形式によって定められるのではなく、当該契約の実態によって判定されるべき問題である。
ア これを本件についてみるに、前記一の事実、特に(2)(4)認定の控訴人及びそれ以前における被控訴人の稼働状況によれば、被控訴人は、もっぱら、丁原と丙川によって指定されるクラブやラウンジ、バーにおいて、自らあるいは他のホステスに指示して、客を接客することを主な仕事としていたと認められるのであって、就業場所や就業時間が拘束され、仕事の諾否の自由はなかったというべきであるから、その稼働の実態は、いわゆる水商売の雇われママであるホステスに当たると認めるのが相当である。
イ そして、前記一(5)認定の給与支払の方法や丙山秋子の給与支払明細書に記載された丁原の書込みの内容、同(7)認定のメールの内容等によれば、控訴人を含む本件グループでは、被控訴人や丙山秋子などホステスをしていた取締役や代表取締役を、独立した各会社の役員等としてではなく、直接丁原や丙川の下にいる単なるホステスとして扱っており、被控訴人と乙山との一件も、いわゆる売れっ子ホステスの駆け落ち騒ぎと同様に捉えて、脅迫的なメール等によって結婚を止めさせようとしているという実態を窺うことができる。
ウ これに対し、被控訴人には、前記一(5)認定の金員が支給され、車両貸与等の便益が与えられているが、被控訴人に支給される月額七二万五〇〇〇円という金額は、前記一(4)のとおり、被控訴人の切り盛りにより控訴人が年間一億円以上の売上を計上し、本件グループでも高い成績を上げていた点や、被控訴人が本件グループの他の店舗でもかけ持ちのホステスをしていた点を考慮すれば、売れっ子ホステスに対する給与としては、けっして高額なものということはできない。また、実際には前記一(4)認定のとおり、被控訴人は、ノルマ達成のため事実上チケットの購入を強制され、サラ金その他の借入によって売上の不足を補填させられていたのであるから、被控訴人の実質収入は、上記金額より相当低額だったと考えることができる。更に、タクシーチケットの支給等の付随的な便益の提供も、通常ホステスに対してなされる給付の範囲内にあると認めるのが相当である。
エ したがって、以上の事情を考慮すれば、被控訴人は、直接、丙川や丁原の指揮命令に基づき、従属的な使用関係の下で就労していた従業員にすぎず、また被控訴人と控訴人との契約関係は、実質的に雇用契約に基づくものだったと認めるのが相当であって、その反面、上記法律関係が委任契約に基礎を置いていたもの(控訴人主張)と認めることはできないし、被控訴人が控訴人とのいわば内部関係においては、委任契約が適用されるべき「代表取締役」であったと認定することはできない。現に、控訴人において、被控訴人を代表取締役として取締役会が開催されたこともない。
(3) 上記を別の角度からみるに、本件グループの場合、被控訴人のように客から人気のあるホステスである女性従業員について、退職されると売上に大きな影響があることから、その稼働の実態が雇用契約に基づくものにすぎないにもかかわらず、丙川や丁原らは、当該従業員と委任契約を締結してこの者に取締役ないし代表取締役との外観を付与し、会社経営に責任を有するとの法形式を利用することにより、労働基準法等の労働保護法規を潜脱することとしていた。更に、前記一(3)第四、五段で存在を認定した各種連帯保証契約や違約罰の定めによって、経済的に退職を阻止し、事実上就労を強制していた。被控訴人の場合、控訴人の代表取締役の肩書を付与されたとの認識はあったが、本件グループの副代表、控訴人のための個人としての連帯保証等は、契約書を無断で作成されていたため、その有無、内容等を正確に認識する機会もなかった。
したがって、控訴人と被控訴人とは委任関係にないにとどまらず、雇用関係にあるものの、法を遵守した雇用関係ではなく、労基法一六条ないし公序良俗に違反するような関係にあったというのが相当である。
この事件では、契約形式ではなく実態で判断するという原則に基づいて、業務委託契約ではなく雇用契約(いわゆる「雇われママ」)であると判断しているわけです。
ただ、上の記事の事件は、判決文自体は見られないので正確なところはわからないのですが、記事から判断する限り、
争点(1)について、東京地裁は、他のホステスは日給制で労働時間も決められていたが、この女性は出勤するかしないかや何時に出退勤するかが自由とされ、他のホステスとは待遇が違った▽女性の報酬額は、約150人の自分の顧客の支払額に対する歩合で決まっていたことから、女性の報酬は接客の対価ではなく、顧客を店に呼んでクラブに利益をもたらすことへの対価だった-などの理由で、「女性は、労働に対する対価をもらう存在としての労働者には該当しなかった」と認定、「女性は労働者ではない以上、未払い賃金は存在しない」とした。
と、他のホステスとは違って雇われではなく経営者的立場であったと認定しているようで、だとするとこれは事実認定の問題なので、理屈の上では先の裁判例と矛盾するわけではないとも言えます。
その他、クラブのママではなくクラブのホステスの労働者性については、
クラブ「イシカワ」(入店契約)事件 大阪地方裁判所平成17年8月26日判決(労働判例903号83頁)
以上によると,本件入店契約は,原告が本件クラブにおいてホステスとして接客サービスという労務を提供し,被告が原告に対し賃金を支払うという雇用契約であり,同契約には,労働基準法の適用があるというべきである。
この事件では、下記のように労働者性を肯定する要素がたくさん認定されています。
ア 諾否の自由
前記1(4),(6)によると,原告は,本件入店契約1の下では平日の毎日,本件入店契約2の下では1週間のうち3日間(月・水・金。後に4日間),本件クラブに出ることが義務づけられており,欠勤や遅刻に対してはペナルティが課せられていたことが認められる。
被告は,口座客を持つホステスは,自己の口座客に対して,遊興飲食サービスあるいは接客サービスを提供するか否かについて,諾否の自由を有していたと述べる。しかし,上述したように,本件クラブに出ることが義務づけられ,また,前述したように(前記1(2)キ)同伴義務が課せられているにもかかわらず,接客サービスを提供しない自由があるとは考えにくく,原告には,仕事依頼の諾否の自由はなかったと認めるのが相当である。・・・
こちらもクラブのホステスの労働者性を認めています。
東京簡易裁判所平成20年7月8日判決(裁判所ウェブサイト)
証拠(証人A、原告本人)によれば、被告店舗は従業員・ホステスが20名余り在籍する銀座のクラブであり、原告の勤務時間は午後8時から12時までと定められ、指名客以外の客への接客担当ホステスは、店のママであるAら店側の指示により決められ、原告には選択の余地がなかったことが認められる。このような原告の稼働実態に照らすと、原告には、請負人として被告から委託された接客業務を提供するというような独立の立場は認められず、被告ないしその意を受けた管理者からの指示に従って労務を提供する労働者であるとみるのが相当である。したがって、本件の契約を請負類似の契約であるとする被告の主張は採用できない。
以上の諸裁判例からすると、ママではないホステスはほぼ労働者性が認められるのに対し、ママの場合には、実質的にホステスと変わらない雇われママであるか、そうでないかによって判断が分かれうるということになりそうです。
ただ、先に述べたように、この記事の事件の判決文はまだ読めませんので、その判断が正しいと言えるかどうかは、現段階では何とも言えません。いずれにしても、記事のタイトルの「銀座のホステスは労働者じゃない?」というのは、いささかミスリーディングであるように思われます。
<
最近のコメント