岩出誠『労働法実務大系』
岩出誠さんの『労働法実務大系』(民事法研究会)をお送りいただきました。ありがとうございます。
http://www.loi.gr.jp/book/post-103.html
平成27年改正派遣法までの法令と2000件を超える判例等を織り込んだ最新の体系書を、当事務所の代表パートナー弁護士岩出誠が執筆。
本書は、激しく変貌を遂げつつある現代労働法について、最新法令・裁判例・労働委員会命令や通達等の様々な動向を踏まえつつ、判例・通説を基本として、企業の人事・労務・法務担当者、労働組合関係者、法曹や、社会保険労務士など業務で労働法に携わる実務家向けの実務的かつ理論的な労働法の体系書を目指している。
この目標は、実務と理論の架橋を目指して学ぶ法科大学院生や、労働法に関心ある学生や様々な方のニーズ(needs)にも応えるものであると信じている(実際にも、法科大学院生向けだったはずの本書の元となった岩出誠著「実務労働法講義」が初版から第3版に至るまでそのような成果を示していた)。
岩出さんのテキストブックといえば、『実務労働法講義』(上・下巻)が大変使いやすくて重宝している方が多いのではないかと思います。本書はその全面改訂版ですが、一気に一冊に縮約されています。
5年前に『実務労働法講義』第3版をお送りいただいたとき、
この本も、改訂の度にどんどん分厚くなる本の典型ですが、上下併せて1600頁を超えるというのは、そろそろ限界に達しつつあるような気がします。この先どうなるんでしょうか。
と書いたのですが、予想を裏切って一冊930ページになりました。でも、その分、なんというか、1ページの字の分量がやや増えた感じがありますし、文章も微妙に短縮話法になっている感が。
それにしても、学者の書いたテキストブックとはかなり違う実務感覚は健在です。これも5年前のエントリですが、
労働法の実務講義というと、大内伸哉先生の『労働法実務講義』も有名ですが、両方使ってみると、やはり大内先生は学者だな、岩出先生は弁護士だな、という匂いがただよってくるんですね。
その匂いはあらゆるところに漂っていますが、例えばみなし労働時間制の節でいえば、事業場外とか裁量労働制とかを論ずるその前に、まずは「法定外みなし制」から論じ始めるのですね。これはいわゆる固定残業手当のことですが、企業の現場の感覚からすれば、まずは、
みなし労働時間制とは、従業員の労働時間について、厳密に実労働を算定することなく、実際の実労働時間にかかわらず、所定ないし一定の労働時間勤務したものと見なして低額の賃金を支払う制度を言う。
という総括的な認識から、企業が実際の必要から活用している(法定外の)みなし手当制度を論じ、それが適法となる要件を細かく論じた上で、法定のさまざまな制度の説明に入っていくというのは、極めて素直な感覚と言えるのでしょう。でも、学者のテキストではまず考えられません。
一方、出向を労働者供給だと解する厚生労働省理論に対して、おそらく萬井隆令さんとともに数少ない原理的な異論を唱えている方である点は、岩出さんの理論家としての誇りの高さが感じられて、とても好感を感じるところです。
(追記)
ついでに、わたくしもに関係あることについてもちゃんと目配りされています。
最後の第17章「労働関係紛争の解決システム」の冒頭のパラグラフの注釈に、
※ なお、労働紛争解決手段である「あっせん」「労働審判」「和解」の事例の分析・整理については、JILPTが平成27年6月15日公表の労働政策研究報告書No.174『労働局あっせん、労働審判及び裁判上の和解における雇用紛争事案の比較分析』(以下、「JIL分析」という)参照。
と入っています。
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