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2015年10月

石井知章編『現代中国のリベラリズム思潮』

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石井知章さんからその編著になる『現代中国のリベラリズム思潮』(藤原書店)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.fujiwara-shoten.co.jp/shop/index.php?main_page=product_info&products_id=1471

中国よ、どこへ行く? 「これはまさしく『自由』のための連帯の著作である」(子安宣邦)

日本では一部しか紹介されてこなかった現代中国のリベラリズムの多面的な全体像を、第一線で活躍する日中の気鋭の研究者15人により初めて捉えた画期的な論集!

これは名実ともに大著です。かつ、なによりも現代中国政府に対する、そして中国政府に寄り添うようなタイプの言説に対する果敢な挑戦の書でもあります。

石井さんの「はしがき」に曰く

本書は、中国国内外で活躍している主な現代中国のリベラリストを対象として、その主要な論文を紹介し、かつ日本国内の現代中国社会・思想研究者による関連テーマについての論考を交えつつ、中国における現代思想としてのリベラリズムの全体像を描くことを主な目的とする。なぜなら、ここで扱われている現代中国リベラリズムをめぐる言説空間が、中国国内ではほぼ完全に一元化された独裁的権力のコントロール下にあることはいうまでもないにせよ、これまで中国のそれとの相似形にあったリベラル・デモクラシーの日本ですら、既述のようなリベラリスト群像の多面性はまったくといっていいほど紹介されてこなかったからである。それゆえに、われわれはこのことを、同じような言説空間を共有している日中間の共同作業として行いたい。そして、この知的作業が、ますます混迷を深めつつある日中の言説空間での相互のねじれ現象を、少しでも緩和、是正する方向に働くことを願わずにはいられない。

第1部は徐友漁さんのインタビューと論文からなりますが、

第Ⅰ部 中国におけるポスト文革時代のリベラリズム

 〈インタビュー〉文革から天安門事件の時代を生きて  徐友漁

 九〇年代の社会思潮  徐友漁

その徐友漁さんら5人は、昨年5月、天安門事件を振り返る内輪の会に参加した後、騒動惹起などの容疑で当局に拘束され、このうち人権派弁護士の浦志強さんは今年5月起訴されるに至っています。そういう弾圧の中で、普遍的近代の立場に立つリベラル派の発言がこれだけまとまったかたちで紹介されるのは、大変有意義なことなのでしょう。

藤原書店社長によるインタビューの末尾で、徐さんがこう語っているのは、現在の中国の状況をよく物語っているように思われます。

・・・ただ、中国の特殊な事情ということでぜひご理解いただきたいのですが、例えば翻訳を発表する、雑誌に載せる、本を編集するという具体的なことは、通常であればメールや電話で連絡を取ったり、会って話したりという密な交流によって進められるものです。ただ、Eメールというのは、「透明の状態」と中国ではよく言いますけれども、当局に見られますので、この件で直接ご連絡をいただくのは、ご厚意でというのは大変ありがたく思いますし、そこに他意は全くないですけれども、結果的にはある意味、中国では犠牲を払うことになってしまうということもご理解いただきたいと思います。

実際、石井さんのあとがきによると、徐さんは拘束後数ヶ月語に釈放されたものの、2015年9月現在、未だに事実上の自宅軟禁状態におかれ、出国が禁じられているだけでなく、外部との連絡や電話、メールなどもすべて当局に監視されており、この本の出版に際しても、本人とは一切コンタクトをとれなかったそうです。

そういう立場におかれた人々とは対照的に、中国政府を理屈を駆使して弁明するようなタイプの議論(汪暉氏など)やそれを日本から応援するような議論(柄谷行人など)ばかりがこの日本ではびこることに対する憤懣が、本書の基調をなす通調低音と言えましょう。

第2部は徐氏以外の中国リベラル派の言説、第3部はそれに呼応する日本人研究者の論説です。

第Ⅱ部 現代中国におけるリベラリズムの言説空間

 中国リベラリズムの「第三の波」  栄 剣(本田親史訳)

 中国新左派批判――汪暉を例にして  張博樹(中村達雄訳)

 中国的文脈におけるリベラリズム――潜在力と苦境  劉 擎(李妍淑訳)

 最近十年間の中国における歴史主義的思潮  許紀霖(藤井嘉章・王前監訳)

 「前近代」についての研究の現代的意味  秦 暉(劉春暉訳)

 中国における憲政への経路とその限界  張千帆(徐行訳)

 リベラル左派の理念  周保松(本田親史・中村達雄・石井知章訳)

第Ⅲ部 現代日本における中国リベラリズムの言説空間

 劉暁波と中国のリベラリズム  及川淳子

 「帝国論」の系譜と中国の台頭――「旧帝国」と「国民帝国」のあいだ  梶谷 懐

 西洋思想と現代中国のリベラリズム――過酷な時代を生きた思想家顧準を中心に  王 前

 一九三〇~四〇年代中国のリベラリズム――愛国と民主のはざまで  水羽信男

 「秘教的な儒教」への道――現代中国における儒教言説の展開  緒形 康

 現代中国における封建論とアジア的生産様式  福本勝清

 K・A・ウィットフォーゲルと近代――「封建的」なものと「アジア的」なものとの間  石井知章

 〈跋〉「公的自由」と人間的幸福――『現代中国のリベラリズム思潮』に寄せて  子安宣邦

言うまでもなきことながら、中国の文脈においては、共産党政権を擁護する新左派 対 共産党政権に批判的なリベラル派 というのが基本的対立図式なので、日本のネット感覚で「リベサヨ」とかいうとわけわかめですので、そこだけはよろしくね。

なお、石井さんと徐さんに関わる本を本ブログで紹介するのは、実は二度目です、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2013/04/post-e435.html (『文化大革命の遺制と闘う』)

Isbn9784784513444 徐さんは高校生時代に文革を経験し、長く中国社会科学院で研究してきた方ですが、ノーベル平和賞の劉暁波氏の08憲章に署名し、その後警察から相当に嫌がらせを受けてきたということです。

例の重慶の事件を文革の再来と見る立場から、現代中国における前近代「遺制」を厳しく批判するその論調は、まことに説得力があります。

本書をお送り頂いた石井知章さんは、ご承知の通り現代中国の労働組合(工会)の研究者ですが、そこからそもそも中国社会の東洋的専制主義の根深さに研究を深めていき、最近はウィットフォーゲルの紹介をされていますね。

その石井さんの単著も紹介していました。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/11/post-71c7.html (石井知章『中国革命論のパラダイム転換』)

Isbn9784784518142 ウィットフォーゲルの未公開原稿に基づいて国民党の視点から中国革命を読み解いていく第1部が本書の中核で、実際中国共産党公認の国定教科書的歴史像をひっくり返していく叙述はとても面白いのですが、外野席の野次馬的には、近頃中国共産党の御用文化人として日本でも評判の高い汪暉氏の議論を徹底的に叩いている第5章が面白かったです。

も一つ、終章の最後のところで、マルクスのアジア社会論を隠蔽することで成り立ってきたソ連や現代中国の東洋的専制主義を批判する視座として市民社会論というのが出てきて、「アジア的なるもの」をめぐって植村邦彦氏とのやりとりが紹介されているあたりが、これは立ち読みでもいいですから是非ご一読ありたいところです。

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仕事と家庭の両立支援@『損保労連GENKI』10月号

118『損保労連GENKI』10月号に「仕事と家庭の両立支援」を寄稿しました。

http://www.fniu.or.jp/kikanshi/genki2016.html

 去る9月末、安倍首相は、アベノミクスの第2ステージとして、「強い経済」「子育て支援」「社会保障」を「新三本の矢」として位置づけました。「1億総活躍社会」を掲げ、①GDP600兆円を達成する、②希望出生率1.8を実現する、③介護離職者をゼロにする、というのがその柱ですが、3つのうち2つまでが厚生労働省マターであり、しかも「仕事と家庭の両立」という現下喫緊の課題そのものとなっています。10月の内閣改造では1億総活躍担当大臣が置かれました。

 官邸が力を入れるこのテーマについて、厚生労働省においても去る8月に「今後の仕事と家庭の両立支援に関する研究会」(座長:佐藤博樹)の報告がまとめられ、公労使三者構成の労政審において審議が開始されたところです。今後、働く男女、とりわけ育児や介護といった家庭責任を抱えながら働く男女にとって極めて重要な制度設計の詳細にわたる議論が労使の間で展開されていくことになりますが、今回は、その出発点として、研究会報告書の概要を紹介していきたいと思います。

 まず、「仕事と介護の両立」についてです。介護休業等の利用率が低く、年休などを使いながら対応していること、育児と異なり介護期間は予測できず、個々の事情差が大きいため労働者も企業も対応が難しいこと、認知症の割合が増加するなど要介護に至る原因が変化し、家族の対応も変化していることなど、家族を介護する労働者の現状に対応できていない実態が指摘されており、今後は、多様な介護の状況に対応しつつ継続就業できる制度の実現が必要であるとの考え方が示されています。

 では、具体的な各論に入っていきましょう。まず、介護休業とは介護の体制を構築するために一定期間休業する場合に対応する制度であり、介護休暇や介護のための柔軟な働き方(介護時間や介護時間帯の調整等)は介護の体制を構築した後の期間に定期的、スポット的に対応する制度であると整理されています。これらは介護休業制度が設けられた1995年頃は明確ではなく、2004年改正以降にようやく打ち出されてきた考え方です。

 前者の介護休業については、同一の要介護状態でも介護休業の分割取得を認めること、分割回数は介護の始期、終期、その間の時期にそれぞれ1回程度とすること、その場合でも通算介護休業期間は現行通り93日とすることが、見直しの方向性として提示されています。

 次に、後者の介護休暇については、現行の要介護者一人につき年5日、二人以上なら年10日という要件について、日数の延長や、時間単位・半日単位といった取得単位の見直しが提示されています。確かにケアマネージャーとの打合せなど、丸一日休暇を取る必要のない場面もあるでしょう。

 さらに、現在、選択的措置義務(事業主が選択するのであって、労働者に選択権はない)とされている短時間勤務等について、認知症の場合は介護体制を構築した後も対応が必要となるのではないかという指摘もあり、現行の介護休業と通算して93日という期間から切り出すことが提示されています。

 また、現行法において育児と介護とで扱いが異なっている所定外労働の免除(育児の場合は2009年改正で事業主の義務となっていますが、介護ではそうなっていない)について、育児と同様に義務化する案や、選択的措置義務に追加する案などが提示されています。

 次に「仕事と育児の両立」についてです。現状として、家族形態・就業形態など女性労働者の多様な状況に必ずしも対応できていないこと、男性の育児休業取得が依然進んでいないことが指摘されており、今後は、「多様な家族・雇用形態に対応した育児期の柔軟な働き方の実現」「男性の子育てへの関わりを可能とする働き方の促進」が必要であるとの考え方が示されています。

 そのうえで、具体的な各論としてまず、育児休業の対象となる親子関係として、特別養子縁組の監護期間と養子縁組里親を法律上の親子関係に準じる関係として含めることが提示されています。

 労働法の他分野へのインパクトという意味でもっとも重要なのは、有期契約労働者に係る育児休業の取得要件の見直しです。現行の「子が1歳以降の雇用継続見込み」要件について、特に1年未満の契約を繰り返し更新している場合など、申出時点で将来の雇用継続の見込みがあるかどうかを有期契約労働者自身が判断することは困難であり、労働者側と事業主側とで判断が分かれて紛争の原因になりかねないといった問題が指摘され、明らかに雇用契約が更新されない者であっても、少なくとも育児休業の申出時点から当該雇用契約の終了までの期間については育児休業の取得を可能とすべきとの意見や、子が1歳に達する日までの間に労働契約期間が満了し、かつ、労働契約の更新がないことが明らかである者のみ育児休業が取得できないこととすべきといった意見が例示されています。意見の例示にとどまったのは研究会報告として余りに踏み込むことを避けたためでしょうが、少なくとも「雇用の継続を前提としたうえで、紛争防止等の観点から、適用範囲が明確となるよう取得要件の見直しを検討すべき」とされています。これに対して、有期契約の派遣労働者については、育児休業取得後の派遣労働者の継続就業機会の確保の努力を派遣元が行うことを、何らかの形で促進することを検討する必要性が示されるにとどまっています。

 その他、育児関係では、子の看護休暇制度について、健康診断や予防接種など丸一日は要しない場合などにも柔軟に対応できるよう、時間単位や半日単位での取得を検討することが適当との考えが示されています。一方、現行で子が3歳まで義務づけられている所定労働時間の短縮措置等については、単純に対象年齢を引き上げた場合にはその利用が引き続き女性に偏り、キャリア形成上重要な時期に育児の負担が女性に集中し、結果的に女性の活躍を阻害する可能性があるとして、慎重に検討すべきとの消極的な記述にとどまっています。

 最後に男性の子育て参加については、各種制度の周知の必要性などが挙げられているものの、なかなか決め手がないというのが実情でしょう。法律上の権利は十分あるわけですから、現場の問題という側面が大きく、とりわけ現場の労働組合が果たすべき責任は大きいと言えるでしょう。

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あまりにもアカデミックすぎた菊池桃子さん

Lif1510290029p1マスコミは、内田樹氏みたいな学生を呪うしかできないようなのを偉い「学者」扱いする一方で、菊池桃子さんみたいな雇用問題に見識を持つ人はいつまで経っても「タレント」扱いしたがるという抜きがたい偏見がありますね。

確かに出発点は「パンツの穴」だったかも知れないけれど、戸板女子短大客員教授でキャリア権推進ネットワーク理事の彼女をタレント枠に入れるのは、内田樹氏を学者枠に入れるのと同じくらい違和感があります。

まあ、それはともかく、産経新聞にこんな記事が:

http://www.sankei.com/life/news/151029/lif1510290029-n1.html(菊池桃子氏が名前に「ダメ出し」 1億総活躍国民会議初会合 「ソーシャル・インクルージョンと言い換えては?」 記者団とのやり取り詳報)

「はい。1億総活躍のその定義につきましては、ちょっとなかなかご理解いただいていない部分があると思いますので、私の方からは、1つの見方として、言い方として『ソーシャル・インクルージョン』という言葉を使うのはどうでしょうかと申し上げました。ご存じのとおり、ソーシャル・インクルージョンというのは、社会の中から排除する者をつくらない、全ての人々に活躍の機会があるという言葉でございまして、反対の言葉は、対義語は「ソーシャル・エクスクルージョン」になります」

「今、排除されているであろうと思われる方々を全て見渡して救っていくことを、あらゆる視点から、今日各大臣がご参加いただきましたので、考えていただきたいと、そのように申し上げました」

彼女の過ちは、マスコミや政治家のレベルを高く見積もりすぎているという点であって、おそらくこの「ダメだし」記事を書いた記者も含めて、ソーシャル・インクルージョンといってもあまり理解していないようです。もちろん、社会政策学会とかそういう所に行けば、当たり前に通用しますが、どこでも通用するわけではない。

あまりにもアカデミックすぎる言葉遣いをすると、それについて行けない人々にちゃんと理解されないというリスクを負います。皮肉なことですが。

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森岡孝二『雇用身分社会』

S1568森岡孝二さんより『雇用身分社会』(岩波新書)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.iwanami.co.jp/hensyu/sin/sin_kkn/kkn1510/sin_k853.html

労働条件の底が抜けて雇用身分社会が出現した。
 その実態を概観し、まともな雇用を再建する道筋を探る。

実は、このタイトル、そして特に「第1章 戦前の雇用身分制」というのをみて、来年早々刊行予定の拙著とかぶったかな?と一瞬思いましたが、そして、この第1章で『職工事情』からかなり引用されているのは確かにかぶっているのですが、全体としては、働く女子の視点から描いている拙著とは、かなり棲み分けはできているようで安心しました。

さて、本書の構成は

序 章 気がつけば日本は雇用身分社会   
  派遣は社員食堂を利用できない?/パートでも過労とストレスが広がる/使い潰されるブラック企業の若者たち/現代日本を雇用身分社会から観察する/全体の構成と各章の概要
   
  第1章 戦前の雇用身分制   
  遠い昔のことではない/『職工事情』に見る明治中ごろの雇用関係/『女工哀史』に描かれた大正末期の雇用身分制/戦前の日本資本主義と長時間労働/暗黒工場の労働者虐使事件/戦前の工場における過労死・過労自殺
   
  第2章 派遣で戦前の働き方が復活   
  戦前の女工と今日の派遣労働者/派遣労働の多くは単純業務/1980年代半ば以降の雇用の規制緩和と派遣労働/財界の雇用戦略―『新時代の「日本的経営」』/リーマンショック下の派遣切り/雇用関係から見た派遣という働き方/中高年派遣の実態と派遣法「改正」法案
   
  第3章 パートは差別された雇用の代名詞   
  パートタイム労働者の思いを聞く/パートはどのように増えてきたか/日本のパートと世界のパート/日本的性別分業とM字型雇用カーブ/パートはハッピーな働き方か/シングルマザーの貧困/重なり合う性別格差と雇用形態別格差
   
  第4章 正社員の誕生と消滅   
  正社員という雇用身分の成立/「男は残業・女はパート」/絞り込まれて追い出される/過労とストレスが強まって/拡大する「限定正社員」/時間の鎖に縛られて/正社員の消滅が語られる時代に
   
  第5章 雇用身分社会と格差・貧困   
  雇用形態が雇用身分になった/戦後の低所得階層/非正規労働者比率の上昇と低所得階層の増加/現代日本のワーキングプア/潤う大企業と株主・役員/労働所得の低下に関するいくつかの資料
   
  第6章 政府は貧困の改善を怠った   
  政府は雇用の身分化を進めた/雇用が身分化して所得分布が階層化/男性の雇用身分別所得格差と結婚/高い貧困率は政府の責任/公務員の定員削減と給与削減/官製ワーキングプア/生活保護基準の切り下げ
   
  終 章 まともな働き方の実現に向けて   
  急がれる最低賃金の大幅引き上げ/雇用身分社会から抜け出す鍵/ディーセントワーク

   
   あとがき

となっていますが、読んでいて気になったのは、第1章と第2章のつなぎのところです。

第1章は戦前の『職工事情』や『女工哀史』に見られる原生的労働関係の凄惨な姿を描き、それの連続的な延長線上に第2章の派遣労働を描き出そうとしているのですが、それはいささか違うような。

第2章の冒頭近くにこういう記述がありますが、

・・・当時の女工たちの多くは、募集人によって農村から集められ、工場に送り込まれた。この場合、雇用関係は、工場主と女工との契約関係である前に、工場主と募集人の契約関係であった。

雇用関係が間接的である点で、かつての女工たちに最も近い存在は今日の派遣労働者であろう。・・・

明治期の日本の労働社会が雇用と請負が入り交じり、間接雇用とも間接管理とも言われるような状況であったのは事実ですが、それは主として成人男子の働く機械工場や炭鉱などであって、女工の多い繊維工業は、例外的に直接管理が徹底していた世界です。

そもそも募集人はあくまで募集人であって、労務請負人ではありません。どちらにも悪辣な連中はいっぱいいましたが、悪辣の種類が違います。

甘い言葉でだまくらかして工場に連れてきて、後は知らん顔でいなくなってしまうのが募集人であって、だからこそ、『職工事情』にも、

・・・各地方の紹介人は職工となるべき相当の婦女につき勧誘をなすなり。この勧誘をなすについて職工生活の快楽をのみ説明し、毫もその疾苦の状に及ばざるを常とす。・・・地方細民の婦女はこれがために心を動かされ、この勧誘に応じ試みに入場することとなる。
 この募集法によって傭い入れたる工女が工場に入って工場生活をなすや、各種の事情は全く予期する処の如くならず、その疾苦堪ゆべからざるものあるに及んで、始めて紹介人の欺瞞を覚り、これを以て工場主に訴うるもこれを顧みず、紹介人に迫らんとするも、彼ら已に郷里に帰れり。・・・ここにおいてか意志の弱き者は涙を呑んで契約期間は工場に止まることとなり、やや強硬なる者は逃亡を企つるに至るなり。・・・

という記述があるわけです。

甘い言葉で騙して(漱石の『坑夫』のように)連れてくる世界と、親方の請負の世界がともに存在する炭坑みたいな世界もありましたが、女工の世界はそうではありません。

戦前の日本が(繊維工業の女工は大きな例外として)労務請負的な世界が広がっており、それが戦後いったん禁止された後、再び社外工の世界が広がっていくのは確かですが、それと女工とはつながらないのです。

ここは、労働法制史の立場からは大変違和感がありました。

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「雇用の入口」に関する問題意識

先週、本ブログで報じたように、規制改革会議で「雇用の入口」について検討を始めているようですが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2015/10/post-cc12.html(雇用の入口の条件明示・情報開示)

昨日の雇用ワーキンググループで、議論がされたようです。

http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/wg4/koyo/151028/agenda.html

そこに出された佐々木座長代理・大崎委員提出資料が、その問題意識を述べており、興味深い所があります。

http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/wg4/koyo/151028/item2.pdf

「雇用の入口」に関する問題意識について

【労働条件明示】
○ 働き手が自分の役割や処遇を十分に理解した上で、力を発揮し、組織に貢献できる環境を作るという観点からは、雇用契約を結ぶ際に、しっかりとした労働条件明示が行われることが重要。

○ 具体的には、労働条件明示を形式的なものとして終わらせるのではなく、雇用契約を結ぶための事前の判断材料として、実質的に意味のあるものとする視点が重要。

○ このような観点から、労働条件明示の在り方について議論を進めてはどうか。

【情報開示】
○ 働き手が今まで以上に安心して、納得のできる就職や転職を行うことができるようにするという観点からは、必要な情報がきちんと働き手に届くことが重要。

○ 例えば、働き手が必要とする情報は、従業員の平均総労働時間や女性管理職の登用率などの統計的な情報に限られるわけではないとも考えられる。

○ このような観点から、情報開示の在り方について議論を進めてはどうか。

【採用】
○ 「多様な働き方」を実現する上で、現在の画一的な採用活動は理想的なマッチング機会となっていないのではないかとの観点から検討を行うのはどうか。

【今後の進め方】
○ 日本における「雇用の入口」の在り方を議論するに当たっては、ヒアリングなどを通じて、海外における「雇用の入口」を参考にしてはどうか。

先週述べたように、規制強化の方向でいろいろと考えているようです。

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島村暁代『高齢期の所得保障』

9784130361477_2島村暁代さんから『高齢期の所得保障 ブラジル・チリの法制度と日本』(東京大学出版会)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.utp.or.jp/bd/978-4-13-036147-7.html

少子高齢社会が加速するなか,高齢者の経済的な生活基盤の確保が大きな社会問題となりつつある.日本の現状を分かりやすく解説するとともに,独自の年金制度を運用するブラジルとチリの詳細な検討を通じ,公的年金のみならず企業年金や生活保護,就労による収入など,所得保障の法制度を包括的に分析する.平成26年度沖永賞(労働問題リサーチセンター主宰)受賞論文を待望の書籍化.

「高齢期の所得保障」というのは大変ポピュラーなテーマですが、それをブラジルとチリという南米2か国との比較で論じようというのは、他に類例を見ない研究です。だいたい労働社会政策の比較研究というと、いわゆる欧米、つまりヨーロッパ各国と北米であって、近年は違う観点からアジア諸国の研究も増えてきましたが、南米というのは本当に例がないと思います。

それをあえてやったのは、ブラジルの公的年金の中心が年齢を要件としない制度であり、チリのそれが徹底した積み立て方式で、ある意味で制度の極北を指し示しているからで、だからこそ混迷している日本の公的年金制度の議論に思いがけない方向からの切り口を提供してくれるわけです。

序 高齢期の所得保障はどうあるべきか

第1編 日本
第1章 公的年金制度
 第1節 公的年金制度の沿革
 第2節 現行の公的年金制度
 第3節 社会保障・税の一体改革の概要
第2章 その他の所得保障制度
 第1節 企業年金
 第2節 就労による収入
 第3節 公的扶助
 第4節 小括
第3章 日本の法制度のまとめと外国法考察の課題

第2編 ブラジル
第1章 狭義の社会保障制度
 第1節 会社単位の年金制度:CAPs
 第2節 産業単位の年金制度:IAPs
 第3節 混迷の時代と社会保障資金の他目的流用
 第4節 LOPS法の制定とその後の改正
 第5節 現行憲法の制定と法律の再整備
 第6節 憲法の修正とその後の動向
 第7節 現行制度
 第8節 狭義の社会保障のまとめ
第2章 その他の所得保障
 第1節 補足的保障制度
 第2節 社会扶助制度
第3章 ブラジルの法制度のまとめ

第3編 チリ
第1章 1980年:第1次年金改革
 第1節 背景
 第2節 新制度の概要
 第3節 小括
第2章 第2次年金改革までの制度改正の諸相
 第1節 年金基金の運用に関する変更
 第2節 年金給付に関する変遷
 第3節 補足的保障制度の発展
 第4節 小括
第3章 2008年:第2次年金改革
 第1節 背景
 第2節 概要
 第3節 小括
第4章 現行制度
 第1節 強制加入の拠出制の年金制度
 第2節 補足的保障制度
 第3節 連帯制度
 第4節 小括
第5章 チリの法制度のまとめ

第4編 総括
第1章 ブラジルとチリの法制度の比較
 第1節 公的年金制度
 第2節 高齢期の所得保障制度
第2章 日本の法制度に関する検討
 第1節 公的年金制度
 第2節 高齢期の所得保障制度



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川端望さんの最賃1000円論

10月3日付けのエントリ「冨山和彦氏の最賃革命論」に、東北大学の川端望さんがコメントをつけられ、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2015/10/post-200e.html#comment-111975904

そこからリンクされた川端さんの論考が大変興味深いです。

https://plus.google.com/111914211653276243730/posts/WgCqr72hmfP#111914211653276243730/posts/WgCqr72hmfP

最低賃金を1000円に上げるのが経済成長にプラスとなる。私は,この点は冨山和彦さんの言う通りだと思います。・・・

そのメリットは、

・・・同じ賃上げでも,安倍政権が進めている,企業への要請による賃上げ策より健全で,格差是正に役立ちます。政権が企業に賃上げを要請するのは,意思決定への介入の根拠があやふやだし,何より大企業の正社員中心の賃上げにしかなりません。最賃の引き上げは低所得層の底上げになります。
 低所得層の場合,限界消費性向が高いと予想できますので,増えた所得は消費に回り,有効需要にストレートに結びつきます。・・・

さらに、いわゆるリフレよりも望ましい理由として、

第一に,通貨膨張によるインフレ誘導は,企業がカネを借りない限り無効です。・・・

第二に,通貨膨張によるインフレは,「みんな,手持ち現金が目減りするくらいならいますぐに支出しようと思うだろうなあ」という想定に依存しています。しかし,経済理論的に必ずそうなるという根拠などありません。・・・

と説明されます。

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シルバー人材センターの将来像

『労基旬報』2015年10月25日号に、「シルバー人材センターの将来像」を寄稿しました。

 労働政策審議会の雇用対策基本問題部会で、シルバー人材センターなど高齢者の雇用就業対策について議論が始まるようです。継続雇用制度や年齢差別禁止などのように労使間で利害が対立するホットな話題ではありませんが、労働政策の最周縁に位置するこの政策について、今までの経緯と将来への課題について簡単にまとめておきましょう。

 その出発点は東京都の高齢者事業団運動にあります。一般の労働市場における雇用には適さず、かつ望まないが、さればといって単なる社会参加、健康の保持等のための仕事を求めるというだけではない高齢者の就労ニードに対応する高齢者の自主的な組織として、1975年2月、第1号のモデル地区事業団として江戸川区高齢者事業団が設立され、その後東京都を超えて全国に波及していき、1980年には100団体を突破していきました。なお、この運動の象徴的リーダーとして大河内一男がいたことは、この事業に国が関与し、法制化されていく上で重要な役割を果たしたと思われます。

 労働省は当初従来の失業対策事業の弊害を憂慮し、高齢者事業団の事業には関与しない方針でしたが、1979年に至って政策を転換し、1980年度から国の予算措置としてシルバー人材センター事業が開始されました。これでさらに全国的に設立気運が高まり、1985年には260団体を超え、全国主要都市のほとんどに設立され、会員数も12万人を超えました。

 この中で、東京都高齢者事業団時代からの課題であるシルバー人材センターの法制化が、繰り返し要望され、決議されています。労働省でも1983年から具体的な検討を開始し、1986年高齢法の一環として実現することになります。これによりシルバー人材センターは法律上に位置づけられましたが、この運動の思想的側面を考えれば、どちらかといえば周辺的な業務によって法律上に位置づけられた感があります。すなわち、自立自助、協働共助というスローガンを掲げ、労働政策と福祉政策を架橋するこの運動を、高年齢者雇用安定法上は高年齢者の労働力需給調整機能の一端を担うものとして位置づけたのです。しかしながら、運動の趣旨に合致するような法制化をしようとすれば、既存の雇用関係を前提とする労働法体系とは別個の法体系を確立しなければならず、当時の状況下ではきわめて困難だったでしょう。

 なお2000年改正では、それまでの「臨時的かつ短期的」な就業に加え、「その他の軽易な業務に係る」就業が業務に含まれました。これは、教室や家庭における教授、家庭生活支援、自動車運転などについて、日数の制限をなくす代わりに就業時間を短くするもので、おおむね週20時間以内とされています。

 2004年改正では、シルバー人材センターが届出により構成員のみを対象に登録型労働者派遣事業を行うことができる旨の規定が設けられました。もともと、シルバー人材センターは雇用ではない形態での就業を前提とするものでしたが、高齢法において無料職業紹介事業を届け出て行うことができることとされていました。その意味では非雇用と雇用の双方にまたがる就業をカバーする形にはなっていました。しかしながら、実際には就業先の指揮命令を受ける就業形態であるにもかかわらず職業紹介の形態によらず請負の形態をとることが多く、これが労働災害の関係で問題を生ずることもありました。派遣事業への進出は、さまざまな就業形態による高齢者の就業機会の確保の一環として位置づけられていますが、雇用と非雇用の境界領域の作業を実施しているシルバー人材センターに対し、とりうる契約形式の選択肢を増やすという意味があります。

 さて、シルバー人材センターができたときには、日本の法人制度は営利法人と公益法人に分けられ、営利でも公益でもない中間法人は特別法がなければ設立できませんでしたが、2006年に公益法人制度改革が行われ、それまでの公益法人は原則一般社団法人か一般財団法人となり、特に公益が認められるものだけが公益社団法人や公益財団法人となることとされました。もともとシルバー人材センターは、公益というよりも会員の共益を図るものであり、公益法人との位置づけにやや無理があったとも言えます。この改革に伴う改正で、シルバー人材センターは一般社団法人または一般財団法人から指定することと規定されました。

 おそらくこれによって、「公益性」という縛りがなくなったことが背景にあるのでしょう。2008年11月に提出された労働者派遣法改正案において、シルバー人材センターが厚生労働大臣に届け出て、有料職業紹介事業を行うことができることとされました。この改正案は廃案となりましたが、2010年4月に民主党政権下で提出された同法改正案においても同じ規定が設けられており、その形で2012年3月に成立しました。規定ぶりは、シルバー人材センターによる「届出」を「許可」と見なして有料職業紹介事業に係る法令を適用することとされています。無料職業紹介事業については、職業安定法上原則許可制とはいえ、学校等、各種協同組合、地方公共団体など届出制の団体も多いですが、有料職業紹介事業について届出制としている例は他になく、規制の均衡という点でいささか問題を孕んでいます。

 ちなみに、先日成立した2015年改正労働者派遣法は、特定派遣事業の届出制をなくし、すべて許可制とするものですが、シルバー人材センターは引き続き唯一の届出制派遣事業として残されています。

 なお、2012年に健康保険法上の被扶養者であるシルバー人材センター会員の就業中の負傷が健康保険法の給付を受けられないことが社会問題となり、厚生労働省は急遽健康保険と労災保険の適用関係の整理プロジェクトチームを設置して検討を行いました。同年10月のとりまとめにおいて、健康保険における業務上外の区分を廃止し、シルバー会員やインターンシップ等の請負でも労災保険の対象とならない場合は健康保険の対象とするとしつつ、特にシルバー人材センターについて「一般企業や公共機関から受注している作業を中心に、可能なものは全て、労災保険が適用される「職業紹介事業」や「労働者派遣事業」による就業への転換を進めていくよう指導する」とされています。こちらの観点からも、シルバー人材センターの活動は転換を迫られています。

 冒頭に述べた労政審の議論の前提となるのは、2015年6月の「生涯現役社会の実現に向けた雇用・就業環境の整備に関する検討会」報告です。ここでは、シルバー人材センターの機能強化策として、介護・保育支援等の福祉サービス分野への職域拡大や、臨時・短期・軽易という3要件を緩和することなどを提起しています。このうち「軽易」要件については、2015年7月に成立した改正国家戦略特区法によって、特区内では登録型派遣事業についてのみ「軽易な業務又はその能力を活用して行う業務」として、週40時間まで可能とする改正が既に行われています。今後労政審で議論されるのはこれの一般化であり、争点となるのは民業圧迫との関係でしょう。もはや公益法人ではないシルバー人材センターについて「民業圧迫」というのも変な話ですが、人件費が安い高齢者を使った商売と見なされる恐れはあり得ます。

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『この一冊でわかる!2015年改正派遣法解説』経団連出版

Bk00000394讃井暢子さんより、経団連事務局編/中山慈夫監修『この一冊でわかる!2015年改正派遣法解説』経団連出版をお送りいただきました。いつもありがとうございます。

https://www.keidanren-jigyoservice.or.jp/public/book/index.php?mode=show&seq=394&fl=1

さてこの本、まことに実務的な本です。徹頭徹尾実務的で、どこかに経営側の色の付いた見解めいたのはないかと探しましたが、見つけられませんでした。まあ、それくらい、現場の役に立つための本に徹しているということでしょう。

改正労働者派遣法が2015年9月30日に施行されました。今回の改正は、期間制限の在り方を従来の「業務単位」から「人単位」へと抜本的に変更したほか、特定労働者派遣制度の廃止、派遣労働者の雇用安定、派遣労働者の処遇改善・キャリアアップの強化などを柱としており、1999年改正以来の大改正となりました。
 労働者派遣法は大変複雑であると言われています。今回の改正によって簡素化された部分もある一方で、規制強化によってさらに複雑化した面も多くあります。企業としては、法令順守のため、改正内容の正しい理解に基づく適切な対応が求められます。
 そこで、労働者派遣法に精通されておられる経営法曹会議所属の中山慈夫弁護士の監修のもと、様々な観点から改正法のポイントと、求められる労務管理上の留意点などを取りまとめるとともに、関連する法令等も掲載した解説書を作成しました。是非この一冊をお手元に置き、改正労働者派遣法の理解と対応にご活用ください。


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『日本の雇用終了』につぶやきいくつか

112050118 『日本の雇用終了』につぶやきがいくつかされていました。

まずは。「真面目(ちょい良)」と「はやっと」さんのやりとりで、合いの手的に。

https://twitter.com/al_hayat/status/655752284471586816

みんな小さな正義が巨悪を倒す話好きだよね。下町ロケットがそんな話かは知らんけど。小さい会社の方がよっぽど労基なりコンプライアンスなり悪そうなんだけど。

同感です。『日本の雇用終了』という本にはその辺の事例が細かく記述されてます

オススメ?

専門家以外が読んでもとくに参考になることはないかと。。理不尽な解雇事例に気持ちが暗くなります

というわけで、「気持ちが暗くな」るので、お薦めはされません。

次には、「新宿一般労働組合」さん。

https://twitter.com/ShinjukuUnion/status/658885004496277504

とんでもないです!労使自治への不当な介入となりかねないと懸念します。さらに働く皆さんにとってもプラスにはならないことは明確。労働紛争、解決金に基準 水準上げへ厚労省導入検討  :日本経済新聞

10月25日日経報道では、解決金の水準は15,6万円(中央値)として引き上げを目指すとなっているが、一ヶ月分の賃金にも満たない。解雇された人々は、“金”でなく、理由の不当性に納得しないから立ち上がるのだ。立ち上がる人々は普段から勇ましいという人々ではなく、“フツウに働く人”

だちだ。ブラック企業の無法な振る舞いに涙を流しながら、ぼろぼろになりながらも闘う姿は、人間としての尊厳をかけた闘いだ。それが労使の現場であり、国家が基準を定めるべきとは思わない。さらに労働局の斡旋は解決水準が低い。濱口桂一郎氏らによる『日本の雇用終了』に詳しく述べられている。

経済科学の総合雑誌の『経済科学通信』(2015.9№138)に、濱口氏の発言が記載されている。「労働局のあっせん事案・・・・解決しているのは3割ほど・・・解決金の中央値は約17万円と極めて低い。労働審判は約100万円であり、裁判上の和解は約300万円である。」さらに

「中小零細企業・・・、あるいは非正規になればなるほど裁判はできない。」とも指摘。だれも解雇なんてされたくない。解雇は社会通念上合理的な理由がなければできないことは法律で明記されている。厚労省は解雇規制がきちんと機能するよう、労働法を“生きる法”にするにはどうしたらいいか考えるべき

この問題を論じる人は最低限中小零細企業でどんなことが行われているかを『日本の雇用終了』で知った上でいろいろと発言して欲しいと思います。その上での結論がいかにあれ。

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韓国が感情労働規制に着手

Yahooニュースに転載されたハンギョレ新聞の記事ですが、「韓国政府、劣悪な「感情労働」に対処する法規制に着手」と、興味深い内容です。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20151026-00022319-hankyoreh-kr

最近デパートの顧客が売場の社員に土下座させた動画が公開され、非難の世論が起きるなど、“感情労働者”の劣悪な処遇を巡る論議が絶えない中、韓国政府がこれらの労働者を保護するための法改正作業に踏み出した。

顧客が店員に土下座させる・・・こういうことにかけては、この極東両国はよく似てますからね。

雇用労働部コ・ドンウ産業保健課長は25日、ハンギョレとの電話インタビューで「国会で審議中の産業安全保健法改正案に、感情労働者を保護するための事業主の包括的義務を規定した条項が盛り込まれている。 政府は法改正に備えて事業主の具体的な義務事項を施行令と行政規則に入れるための委託研究を進めている」と話した。 国会環境労働委員会には新政治民主連合のハン・ミョンスク議員らが発議した産業安全保健法改正案が発議されており、法案審査小委員会での議論を経た状態だ。

国会で審議中・・・というのと、法改正作業に踏み出した・・・というのがどういう関係なのかよくわからないところもありますが、野党提出の法案に政府が積極的になったということなのでしょうか。

政府は昨年国会で議論された感情労働者の処遇改善問題にこれまで消極的だったが、最近になって顧客の“横暴”さが度を越しているという判断の下に法改正などに積極的な立場に変わった。

政府は「感情労働」という用語自体は施行令等に入れない代わり、「顧客応対業務に主に従事する勤労者」に対する保護規定を用意し、実質的に保護を強化する方針だ。 政府は特に感情労働が多い販売・サービス業種に対して行政指導条項を設け、法改正案の実効性も高める方針だ。 政府は韓国国内の感情労働者が560~740万人に達すると推算している。これは賃金勤労者全体の30%を超える数値だ。

この記事だけからはよくわかりませんが、安全衛生法改正案ではおそらく包括的ないじめ防止規定だけで、施行令以下で顧客対応業務に関する規定が出てくるということのようでもあります。

まあ、問題状況としてはよく似ていることは確かです。

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就業規則を守れない社員は解雇するだけ@三法則氏

三法則氏が、例によって意気高らかに

https://twitter.com/ikedanob/status/658260823240871936

憲法がどうとか言っているが、「表現の自由」の意味も知らないんだな。憲法21条は公権力を拘束する規定で、ジュンク堂には関係ない。就業規則を守れない社員は解雇するだけ。

こういう台詞を吐いたその口で、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2009/05/post-d479.html(世にもおもろい小倉・池田バトル)

世にもおもろい見ものは、黙って楽しんでおけばいいというのが大人の態度なのでしょうが、それにしても、

>彼が「また解雇されたときには」と書いているのは、私が「一度は解雇された」ことを前提にしているが、私は一度も解雇されたことはない。以前の記事にも書いたように、国際大学グローコムの公文俊平が私を含む3人に対して「雇用契約が存在しない」という荒唐無稽な通告(国際大学の文書ではなく公文の私的な手紙)をしてきたことはあるが、それは裁判所における和解で無効とされ、国際大学は通告が存在しないことを確認した。

正当な理由があろうがなかろうが、およそ解雇は自由でなければならないと主張しているはずの人間が、自分のボスによる解雇通告に逆らうなどという言語道断な振る舞いに出たことを、平然と公言しているというのは、これを天下の奇観と言わずして何と申しましょう、というところです。

しかも、絶対的解雇自由を主張するということは、解雇されたあるいは解雇通告を受けたということがいかなる意味でもスティグマではあり得ないということのはずなんですが、

>小倉弁護士はこれまでにもたびたび私に対して虚偽による中傷を繰り返しているが、私が大学を解雇された「問題人物」であるかのようにほのめかすのは、通常の言論活動を逸脱して私の名誉を毀損する行為である。このブログ記事を撤回して、謝罪するよう求める。撤回も謝罪も行なわれない場合には、法的措置をとることも検討する。

なんと、正当な理由があろうがなかろうがことごとく認められるはずの解雇をされたと言われることが、名誉毀損に当たる、というすさまじくも終身雇用にどっぷり浸った発想をそのまま披瀝しているんですな。

池田氏の理論によれば、解雇されたということは、自分のボスが有している完全に恣意的な解雇権を素直に行使したというだけなのですから、どうしてそれが名誉毀損になるのか、池田氏の忠実な信徒であればあるほど、理解困難になるところでしょう(論理的に頭を使う能力があればの話ですが)

ま、こないだのOECDの労働組合諮問委員会の発言をOECD自体の見解と取り違えたように、小倉弁護士にはいささか「事実をきっちり確認する」という点において脇の甘い点が見受けられるので、そこのところはもう少し注意深くされた方がよろしいのかな、という感もありますが、絶対的解雇自由論に立つか立たないかという論理の筋からすれば、「解雇された」も「解雇通告を受けた」も、本質的には変わりのない話ではありますね。

http://benli.cocolog-nifty.com/la_causette/2009/05/post-d9ae.html(ラーメンといえば)

http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/a3c59384b92590116334d0b5a294fb87小倉秀夫弁護士による名誉毀損について

(念のため)

上記事実関係については、池田氏の一方的陳述に過ぎず、当時GLOCOMにいた会津泉氏が、「事実無根で悪意に満ちた誹謗と中傷ばかり」と、切り込み隊長氏のブログで発言していることを付記しておきます。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2009/01/post-ba7f.html(労働者を気分次第で簡単に解雇するような経営者はいる)

このリンク先エントリでは、事実関係が明らかではないことから、「なお、この小倉弁護士のエントリのリンク先には、真偽不明の「俺は不当解雇されかけた!」という誰ぞやのエントリがありますが」という表現をしております。

こういう騒ぎを起こしているのですから、なんともはやですが。

ちなみに、労働法的には、就業規則は「当該規則条項が合理的なものである限り」拘束するので、ツイッタでつぶやいたくらいで解雇したりしたらまあアウトでしょう。

もっとも、「就業規則を守れない社員は解雇するだけ」と断言しているようなお方を、その言葉に忠実に従って解雇した場合には、禁反言の原則に従って、その解雇は例外的に有効にしても良いのではないかと愚考致しますが。

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田中建一・加藤千恵子編著『大人の発達障害と就労支援・雇用の実務』

2472434001_2特定社労士の田中建一さんより、その編著になる田中建一・加藤千恵子編著『大人の発達障害と就労支援・雇用の実務』(日本法令)をおおくりいただきました。ありがとうございます。

http://www.horei.co.jp/item/cgi-bin/itemDetail.cgi?itemcd=2472434

「大人の発達障害」の医学・心理学・法学知見を1冊にまとめた類をみない1冊!

障害者雇用促進法改正や障害者への就労支援の取り組みの強化により、精神障害者雇用に関する問題が注目されつつあるが、大人になってから発達障害と診断される「大人の発達障害」と呼ばれる社員についての対応や相談が増えているという。
本書は企業の人事担当者や事業主や社労士に向けて、「大人発達障害」とは何か、医学や臨床心理の分野から発達障害者に対する具体的な企業対応等について解説。また、発達障害者をめぐる法的支援や制度、助成金についても解説し、その積極的活用により発達障害者の雇用を促進させる。

主として、「臨床心理士、芸術療法士、産業カウンセラー、専門社会調査士、ヨーガ療法士産業カウンセリング、アートセラピー、心理統計を専門分野と」する加藤さんが前半の医学・心理学的な部分を担当し、特定社労士の田中さんが後半の雇用実務や法制度の説明をしています。

われわれ労働関係者にとっては、とりわけ前半部はあまりきちんと勉強できていない、何となく気分で分かったつもりになっているところだと思うので、こうやってまとめていただくとなかなか役に立ちます。

最後には研究者の佐々木達也さんによる判例紹介もあります。

1 アイフル(旧ライフ)事件  232

2 小西縫製工業事件  234

3 日本航空株主代表訴訟  235

4 独立行政法人N事件  236

5 藍澤證券事件  238

6 東芝(うつ病・解雇)事件  240

7 オリエンタルモーター事件  243

8 阪神バス(勤務配慮・本訴)事件  245


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岩出誠『労働法実務大系』

Book94岩出誠さんの『労働法実務大系』(民事法研究会)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.loi.gr.jp/book/post-103.html

 平成27年改正派遣法までの法令と2000件を超える判例等を織り込んだ最新の体系書を、当事務所の代表パートナー弁護士岩出誠が執筆。

 本書は、激しく変貌を遂げつつある現代労働法について、最新法令・裁判例・労働委員会命令や通達等の様々な動向を踏まえつつ、判例・通説を基本として、企業の人事・労務・法務担当者、労働組合関係者、法曹や、社会保険労務士など業務で労働法に携わる実務家向けの実務的かつ理論的な労働法の体系書を目指している。

 この目標は、実務と理論の架橋を目指して学ぶ法科大学院生や、労働法に関心ある学生や様々な方のニーズ(needs)にも応えるものであると信じている(実際にも、法科大学院生向けだったはずの本書の元となった岩出誠著「実務労働法講義」が初版から第3版に至るまでそのような成果を示していた)。

岩出さんのテキストブックといえば、『実務労働法講義』(上・下巻)が大変使いやすくて重宝している方が多いのではないかと思います。本書はその全面改訂版ですが、一気に一冊に縮約されています。

5年前に『実務労働法講義』第3版をお送りいただいたとき、

この本も、改訂の度にどんどん分厚くなる本の典型ですが、上下併せて1600頁を超えるというのは、そろそろ限界に達しつつあるような気がします。この先どうなるんでしょうか。

と書いたのですが、予想を裏切って一冊930ページになりました。でも、その分、なんというか、1ページの字の分量がやや増えた感じがありますし、文章も微妙に短縮話法になっている感が。

それにしても、学者の書いたテキストブックとはかなり違う実務感覚は健在です。これも5年前のエントリですが、

労働法の実務講義というと、大内伸哉先生の『労働法実務講義』も有名ですが、両方使ってみると、やはり大内先生は学者だな、岩出先生は弁護士だな、という匂いがただよってくるんですね。

その匂いはあらゆるところに漂っていますが、例えばみなし労働時間制の節でいえば、事業場外とか裁量労働制とかを論ずるその前に、まずは「法定外みなし制」から論じ始めるのですね。これはいわゆる固定残業手当のことですが、企業の現場の感覚からすれば、まずは、

みなし労働時間制とは、従業員の労働時間について、厳密に実労働を算定することなく、実際の実労働時間にかかわらず、所定ないし一定の労働時間勤務したものと見なして低額の賃金を支払う制度を言う。

という総括的な認識から、企業が実際の必要から活用している(法定外の)みなし手当制度を論じ、それが適法となる要件を細かく論じた上で、法定のさまざまな制度の説明に入っていくというのは、極めて素直な感覚と言えるのでしょう。でも、学者のテキストではまず考えられません。

一方、出向を労働者供給だと解する厚生労働省理論に対して、おそらく萬井隆令さんとともに数少ない原理的な異論を唱えている方である点は、岩出さんの理論家としての誇りの高さが感じられて、とても好感を感じるところです。

(追記)

ついでに、わたくしもに関係あることについてもちゃんと目配りされています。

最後の第17章「労働関係紛争の解決システム」の冒頭のパラグラフの注釈に、

※ なお、労働紛争解決手段である「あっせん」「労働審判」「和解」の事例の分析・整理については、JILPTが平成27年6月15日公表の労働政策研究報告書No.174『労働局あっせん、労働審判及び裁判上の和解における雇用紛争事案の比較分析』(以下、「JIL分析」という)参照。

と入っています。

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図書館員もジョブ型を目指すか?

日本図書館協会の『図書館雑誌』10月号の巻頭コラム「窓」に、「「ジョブ型」?「メンバーシップ型」?」という文章が載っています。書かれているのは、早稲田大学図書館の荘司雅之さんという方です。

冒頭、「北米の大学で過ごされた先生から、「アメリカのように大学図書館員は教員に準じた地位を持つべきだ」と仰っていただくことがある」という枕から始まり、

拙著『新しい労働社会』『若者と労働』をひいてジョブ型、メンバーシップ型について解説したあと、

・・・日本でも、医療関係職や法律家などの専門家はジョブ型に近い。では、図書館員もジョブ型を目指すか。

と問いかけつつ、ジョブ型にするとどうなるかをいくつか例示して、

・・・どうやらすぐにジョブ型に移行することは難しそうだ。

と言いつつ、最後には、

・・・短期間で異動する「メンバー」だけではなく「ジョブ型・無期雇用」の仕組みも大学図書館には必要ではないだろうか。

と論じています。

Normaldcim00121 多分、これは、昨年11月の全国図書館大会に呼ばれてわたくしが喋ったことがこういう影響を与えているのでしょうか。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/100toshokan.html

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透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会

厚生労働省のHPに、「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」の予告が載っています。1回目は10月29日に開くようです。既に、日本再興戦略や規制改革実施計画で言われていることですが。

http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000102073.html

検討事項は次の2つです。

http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11201000-Roudoukijunkyoku-Soumuka/0000102263.pdf

・ 既に制度化されている雇用終了をめぐる紛争等の多様な個別労働紛争の解決手段がより有効に活用されるための方策

・ 解雇無効時における金銭救済制度の在り方(雇用終了の原因、補償金の性質・水準等)とその必要性

興味深いのは参集者名簿です。全部で22人にもなります。

http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11201000-Roudoukijunkyoku-Soumuka/0000102231.pdf

その内訳なんですが、通常の公労使という三分法では曰く言いがたい感じでして、有識者枠がさらに労側、使側、純公益の3つに分かれるという感じです。

まず、労働組合枠は4人

高村豊 日本労働組合総連合会東京都連合会アドバイザー

斗内利夫 全国繊維化学食品流通サービス一般労働組合同盟政策・労働条件局長

長谷川裕子 日本労働組合総連合会参与

村上陽子 日本労働組合総連合会総合労働局長

次に経営団体枠も4人

岡野貞彦 経済同友会常務理事

小林信 全国中小企業団体中央会労働・人材政策本部長

小林治彦 日本商工会議所産業政策第二部長

輪島忍 日本経済団体連合会労働法制本部長

残りの14人はいわゆる有識者ですが、その中でも弁護士の方々には色分けが明確にありまして、労働側弁護士が

徳住堅治 弁護士(旬報法律事務所)

水口洋介 弁護士(東京法律事務所)

経営側弁護士は

石井妙子 弁護士(太田・石井法律事務所)

中山慈夫 弁護士(中山・男澤法律事務所)

ここまでが明確な労使各側ということになります。残りは10人。学者です。

学者ですから純中立枠ということになるわけですが、専門分野別に見ると、やはり労働法学が一番多く、4人います。

荒木尚志 東京大学大学院法学政治学研究科教授

土田道夫 同志社大学大学院法学研究科教授

水島郁子 大阪大学大学院高等司法研究科教授

山川隆一 東京大学大学院法学政治学研究科教授

法学系ではあと民法と民事訴訟法から一人ずつ

鹿野菜穂子 慶應義塾大学大学院法務研究科教授

垣内秀介 東京大学大学院法学政治学研究科教授

次に多いのは労働経済学で3人です。

大竹文雄 大阪大学社会経済研究所教授

鶴光太郎 慶應義塾大学大学院商学研究科教授

八代尚宏 昭和女子大学グローバルビジネス学部特命教授

最後に、労使関係論から1人。

中村圭介 法政大学大学院連帯社会インスティテュート教授

これでしめて22人というわけです。

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「就活に喝」呪いの内田樹への冷静な評論@池内恵

内田樹氏については、5年前のこれで話は尽きているのですが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/04/post-b43f.html(「就活に喝」という内田樹に喝)

神戸女学院大学文学部総合文化学科教授の内田樹氏が、就活で自分のゼミに出てこない学生に呪いをかけているようですな。・・・

・・・内田氏のゼミの学生と企業の担当者が、内田氏の教えている学問の内容が卒業後の職業人生にとってレリバンスが高く、それを欠席するなどというもったいないことをしてはいけないと思うようなものであれば、別に内田氏が呪いをかけなくてもこういう問題は起きないでしょう、というのがまず初めにくるべき筋論であって、それでも分からないような愚かな学生には淡々と単位を与えなければそれで良いというのが次にくるべき筋論。

もちろん、そういう筋論で説明できるような大学と職業との接続状態になっていないから、こういう呪い騒ぎが起きるわけですが、そうであるからこそ、問題は表層ではなく根本に立ち返って議論されるべきでありましょう。

哲学者というのは、かくも表層でのみ社会問題を論ずる人々であったのか、というのが、この呪い騒ぎで得られた唯一の知見であるのかも知れません。

昨日、アラブ研究の池内恵氏が内田樹氏を手厳しく批判していて、いくつかデジャビュを感じるところがありました。

https://www.facebook.com/satoshi.ikeuchi/posts/10203927148938140

・・・女子は女子大や教員養成系の大学・学部に行って文学を専攻することが(花嫁修業の都合や、男女雇用機会均等法以前に女子に可能だった数少ない職業選択という意味で)望ましい、と社会的に要請されたこともあった。それらの学部は仏・独語の先生をかき集めないと認可されない。そのため、文学部を出れば、意味不明の論文を1本書いたか書かないかで、大学講師そして自動昇進で教授になれた。早ければ25歳ぐらいで教養課程や女子大の助教授になって、その後は終身雇用・年功玉突き昇進だったので、それ以上勉強せず、新聞・雑誌などに「大学教授」の肩書で見当違いな説教を書き散らしているというスタイルの生き方が可能だった。・・・

このカッコの中のことについては、こちらも参照。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2006/04/post_722a.html(なおも職業レリバンス)

・・・歴史的にいえば、かつて女子の大学進学率が急激に上昇したときに、その進学先は文学部系に集中したわけですが、おそらくその背景にあったのは、法学部だの経済学部だのといったぎすぎすしたとこにいって妙に勉強でもされたら縁談に差し支えるから、おしとやかに文学でも勉強しとけという意識だったと思われます。就職においてつぶしがきかない学部を選択することが、ずっと仕事をするつもりなんてないというシグナルとなり、そのことが(当時の意識を前提とすると)縁談においてプラスの効果を有すると考えられていたのでしょう。

一定の社会状況の中では、職業レリバンスの欠如それ自体が(永久就職への)職業レリバンスになるという皮肉ですが、それをもう一度裏返せば、あえて法学部や経済学部を選んだ女子学生には、職業人生において有用な(はずの)勉強をすることで、そのような思考を持った人間であることを示すというシグナリング効果があったはずだと思います。で、そういう立場からすると、「なによ、自分で文学部なんかいっといて、いまさら間接差別だなんて馬鹿じゃないの」といいたくもなる。それが、学部なんて関係ない、官能で決めるんだなんていわれた日には・・・。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2015/08/post-32e9.html(女子教育と職業レリバンス)

・・・女性差別的な教育談義を批判するのに、職業教育批判を持ち出すような方がいるとすれば、それこそ「人文」系の知識人といわれる方々の社会認識の偏りを示しているのでしょう。

むしろ、職業レリバンスの乏しい教育を娘に受けさせることが、花嫁レリバンスの高さに繋がっていたことが、「人文」系大学教員の雇用機会の拡大の大きな理由であったわけですけど。

上記「「就活に喝」という内田樹に喝」の追記から、

えらそうなのはどっちだろうか。自分は大学教授として安定した地位を楽しみつつ、就職できなかったら生活に困るかもしれない学生の身の上に思いをはせることもない方じゃないの?

会社と教授の板挟みで悩む自分のゼミ生をぎりぎりいじめ抜くのがそんなに楽しいのだろうか。

それなら初めから「就職希望の人はお断り」というべき。

・・・・・でも、考えてみると、神戸女学院文学部というのは、もともと就職なんていう下賤な進路じゃなく、花嫁修業としてお茶、お花と同列でお文学をやるお嬢様御用達のところだったのかも知れない。たしかに「合理性だけ追い求めてこのざまなんでしょ」って云いそう。

そういうお嬢様じゃない就職希望の女性がなまじ入ってしまったのが間違いだった、というのがオチ?まあ、いまどきそういうオチはないでしょうけど。

(追記)

ちなみに、池内氏の文章には、さりげなく

・・・はい、私のお小遣いはそこから出ていました。

という台詞(父親はドイツ文学者の池内紀氏)が挟み込まれていて、一瞬ニヤリとさせるわけですが。

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常見陽平『エヴァンゲリオン化する社会』

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常見陽平『エヴァンゲリオン化する社会』(日経プレミアシリーズ)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.nikkeibook.com/book_detail/26292/

エヴァは2015年の労働環境を予見していた―若年層に人気を誇るコラムニストが、超人気アニメを題材に書く、リスク社会のキャリア論。

常見さんといえば、『僕たちはガンダムのジムである』で、拙著『若者と労働』でも使わせてもらいましたが、あれ?前門のガンダムを後門のエヴァに乗り換えたのかな?という感じですが、世代的にほとんど中身を知らない私にも大変面白く読めるアニメ労働評論になっています。

ちょうど20年前の日経連の『新時代の日本的経営』の3つの雇用形態が、エヴァンゲリオンに出てくる登場人物に象徴されているというのが軸で、碇シンジとか綾波レイとか言われてもイメージが浮かばない私には正直判断は難しいのですが、熱中した世代の方々には様々な感想があるのではないかと思います。

オビにでかでかと出ている「逃げちゃ駄目だ」で軋む職場、ってのは、ブラック企業からも「逃げちゃ駄目だ」と自分で自分を縛ってしまう有り様を示しており、なるほど、と言うところです。

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まなびやマニーさんの拙著評

41mvhocvlまなびやマニーさんのブログで、拙著『日本の雇用と中高年』(ちくま新書)が取り上げられています。

http://manniee.blog.fc2.com/blog-entry-63.html

日本の終身雇用制と海外のジョブ型雇用との違いの説明などによって日本の企業が若者よりも中高年をリストラの対象とする理由をわかりやすく説明しています。中高年の雇用について理解を深めたい方にお勧めします。

なお、同エントリでは私のことを、

著者:厚生労働省在職時に政党や学識者が進めてきた労働政策に直接かかわったこともある行政側の知識人。

と紹介されていますが、いや確かに在職中はまさに行政官として政策作りにかかわりましたが、現在はあくまでも一研究者なのであって、別段「行政側」でも「経営側」でも「労働側」でもないつもりです。どこに呼ばれても行ってお話しすることは同じですし。


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加大『労使関係』誌が最賃特集

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2015/10/post-413b.html(経済ジャーナリスト、経済評論家、経済学者・・・)

の追記。

Coverたまたまカリフォルニア大学労働雇用研究所の雑誌『労使関係』(Industrial Relations: A Journal of Economy and Society)の2015年10月号が、最低賃金を特集していて、

http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/irel.2015.54.issue-4/issuetoc

そのクリューガーさんも「最低賃金に関する経済的思考の歴史」という文章を寄せていたりしてました。

The History of Economic Thought on the Minimum Wage Alan B. Krueger

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「団体」であることへの理屈を超えた敵意

なんだか・・・

https://mobile.twitter.com/yeuxqui/status/655987578236108800?p=p

組合への反感というのも典型的にそうだが、「団体」であることへの理屈を超えた敵意というものが、おそらくは80年代以降の日本のマスコミ的「民意」というものを形成してきた。そこはまあつねづねあまりにもルソー的と揶揄することろ。もちろんその敵意というのは当然ながら「都市」にも向かう。

200年遅れのル・シャプリエ法?

131039145988913400963つか、まさにそこが『新しい労働社会』第4章のテーマでもあったわけですが。

・・・・このように見てくると、規制改革会議の意見書に典型的な利害関係者の関与を排除する考え方と三者構成原則の対立の背後には、民主主義をどのように捉えるかという政治哲学上の対立が潜んでいることが浮かび上がってきます。
 前者において無意識のうちに前提されているのは純粋な代表民主制原理、すなわち国民の代表たる議員は社会の中の特定の利害の代表者であってはならず、その一般利益のみを代表する者でなければならないという考え方でしょう。それをもっとも純粋に表現したものがフランス革命時に制定された1791年のル・シャプリエ法です。同法はあらゆる職業における同業組合の結成を刑罰をもって禁止しました。団結の禁止とは、個人たる市民が国家を形成し、その間にいかなる中間集団をも認めないという思想です。
 それに対してEC条約やEU諸国のさまざまな制度には、社会の中に特定の利害関係が存在することを前提に、その利害調整を通じて政治的意思決定を行うべきという思考法が明確に示されています。歴史社会学的には、これは中世に由来するコーポラティズムの伝統を受け継ぐものです。この考え方が、中世的なギルドや身分制議会の伝統が革命によって断ち切られることなく段階的に現代的な利益組織に移行してきた神聖ローマ帝国系の諸国に強く見られるのは不思議ではありません。コリン・クラウチはその著書の中で、中世の伝統と社会民主主義が結合して20世紀のコーポラティズムを生み出したと説明しています。
 大衆社会においては、個人たる市民が中間集団抜きにマクロな国家政策の選択を迫られると、ややもするとわかりやすく威勢のよい議論になびきがちです。1990年代以来の構造改革への熱狂は、そういうポピュリズムの危険性を浮き彫りにしてきたのではないでしょうか。社会システムが動揺して国民の不安が高まってくると、一見具体的な利害関係から超然としているように見える空虚なポピュリズムが人気を集めがちになります。これに対して利害関係者がその代表を通じて政策の決定に関与していくことこそが、暴走しがちなポピュリズムに対する防波堤になりうるでしょう。重要なのは具体的な利害です。利害関係を抜きにした観念的抽象的な「熟議」は、ポピュリズムを防ぐどころか、かえってイデオロギーの空中戦を招くだけでしょう。

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経済ジャーナリスト、経済評論家、経済学者・・・

http://socius101.com/post-5245/(最低賃金の上昇が必ずしも雇用を減らすわけではないし、それがわからない日本のジャーナリストのレベルは只々低い)

・・・需要独占下における最賃上昇がそのまま雇用減に繋がるわけではないとするカード・クルーガーの話はその筋では有名なので、学部生でも習うと思うんですが、あんまり大学時代は勉学に励まなかったんでしょうか。まあそこはいいんですよ、そこは。大学時代にまじめに勉強した文系大卒の人なんて見つけるほうが難しいですし。

そうこの方、そもそものご職業が「経済ジャーナリスト」なんですよね?一般の方はいざ知らず、こんな話も知らない経済ジャーナリストって、一体なんなんでしょうか。

いやいや、経済ジャーナリストどころか、経済評論家、もしかしたら経済学者だと思っているヒトまでが、同じような台詞を繰り返しているのが我が国の惨状ですから。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/12/oecd-0187.html(OECDの最低賃金論再掲)

未だにこういう戯言をはき続ける御仁がおり、それに影響される政治家がいるという状況下では、もう5年半も前の本ブログのエントリをそのまま再掲しなければならないようですな。

そのこと自体が日本社会の知的状況を物語っているわけですが。

http://twitter.com/ikedanob/status/274724260117897216

最低賃金の廃止は、半世紀前にフリードマンの提唱した政策で、経済学者はほぼ全員賛成しているが、政治家はほぼ全員が反対。これは論理ではなく心理の問題。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2007/05/oecd2006_f064.html(OECD雇用見通し2006の最低賃金論)

新聞各紙は規制改革会議が最賃を批判したというところに関心を集中しているようなので、世界の優秀なネオリベ系エコノミストを集めたOECDの最新の『雇用見通し2006』でこの問題をどう取り上げているかを紹介しておくのも無駄ではないでしょう。優秀なエコノミストの皆さんはもちろん「初等ケーザイ学教科書嫁」で話を済ませたりはしません。

http://www.oecd.org/document/38/0,2340,en_2649_37457_36261286_1_1_1_37457,00.html

86ページ以下でで最低賃金を論じていますが、

単純な経済学の理屈は、法定最低賃金や高すぎる労働コストが低生産性労働者の雇用への障壁になると指し示す。しかしながら、最低賃金の結果としての雇用喪失の規模を図ることは困難であると証明され、各国で設定されている最低賃金によってどれだけの仕事が失われたかについては顕著な不確実性がある。実際、最低賃金の雇用に対する否定的な影響の経験的証拠は入り混じっている。・・・

最低賃金は低技能者にとって仕事が引き合うようにする(make work pay)ことによって高労働力率をもたらしうる。しかし、それは広い貧困対策においては、過度に高い水準に設定することを避ける必要から、支援的役割のみを果たしうる。もう一つの重要な限界は、最低賃金で働く労働者が貧しくない(他の家族メンバーが働いているから)ことである。

在職給付は最低賃金よりも低所得家族に焦点を当てることができる。さらに、穏当な最低賃金は、使用者が賃金水準を下げることによってこの給付を着服することを制限することによって、在職給付への有用な付加になりうる。

最低賃金について重要な問題は税制との関係である。高すぎる最低賃金は雇用へのタックス・ウェッジの否定的な影響を拡大するからだ。低生産性労働者を雇用しようとする使用者は、労働者の生産性と最低賃金額と使用者が払う社会保険料を比較する。・・・

(結論として)近年の経験が示唆するところでは、穏当な最低賃金は問題ではない。しかし若者や他の脆弱な集団の(最賃より低い)特例最賃への十分な手当が不可欠である。他の洞察は、良く設計された最低賃金が社会給付にとどまるよりも働く方がペイすることを保障することによって、高い就業率にむけた広範な戦略に貢献するという点である。しかしながら、否定的な政策の相互作用による危険性もまた確かであり、特に高すぎる最低賃金と高水準の労働課税の間にそれが見られる。

この他にも本書にはいくつか最低賃金に言及したところがありますが、近々樋口美雄先生の監訳で明石書店から出版される予定ですので、そちらのよりすぐれた翻訳でお読みいただいた方が宜しいかと思います。

2569
同書は、明石書店から邦訳が刊行されています。ご関心の向きは是非。

http://www.akashi.co.jp/book/b65556.html

なんにせよ、こういう手合いを黙らせるには、ある種の人々からネオリベの牙城と非難されるOECDの政策文書を持ってくるのが一番です。

池田信夫のような人は、OECDに持っていったらひと言もしゃべれないし、仮にしゃべっても誰からも相手にされないようなガラパゴスなのですから。

そのあたりの事情は、たとえば最近OECDに出向していた一橋大学の神林龍さんあたりに聞けばすぐ分かるはずなのですが、不勉強なことだけは人一倍自信のあるマスコミの方々はそういう手間も掛けないので、ますます3法則型ガラパゴスが蔓延るわけですね。

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第24回産業競争力会議

先週10月15日に、産業競争力会議が開かれていたようです。

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/skkkaigi/dai24/siryou.html

ここにアップされている資料のうち、

「産業競争力会議における今後の主な検討事項」というペーパーになにが書いてあるのかと気になって覗いてみましたが、

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/skkkaigi/dai24/siryou3.pdf

その「アベノミクス第二ステージの成長戦略」の「未来社会到来に対応した人材育成・教育・雇用の改革」というのが雇用労働関係のようですが、

① 人材育成・教育改革

 産業構造の急速な変化に個人が対応できるように、高等教育機関の制度や教育プログラムの見直しをどのように具体化していくか。

 未来社会を見据え、初等中等教育における教科書のデジタル化、IT 教育、アクティブラーニング等、教育課程・実施体制の見直しが必要か。

② 雇用環境の改革

 労働市場等における競争を通じて、企業の人材管理や能力開発を促す仕組みが必要ではないか。

 予見可能性の高い労働環境の確立が必要ではないか。

③ 成長制約打破のための多様な働き手の参画

 働き方に対して中立な税・社会保障等の見直しを具体化すべきではないか。

 長時間労働是正に向けた取組強化の更なる促進策が必要か。

 高齢者の活躍機会の更なる向上をどのように図るべきか。

 外国人留学生の国内での就職率を引き上げ、高度外国人材を更に呼び込むための施策の強化が必要か。

なんだか茫漠としていてよくわからないですね。とくに「予見可能性の高い労働環境の確立」ってなんのことやら。

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ブラック企業の定義にイデオロギーを持ち込めばこうなるのは当然

いや、3年前に、下記「東京電力はどういう理由でブラック企業なのか?」というエントリで述べたことのまさに論理的延長線上のことだと思いますよ。

福島第一原発で放射能汚染を起こした「から」東京電力はブラック企業である、というロジックを認める以上、

靖国神社に幹部全員で参拝する「から」アリさんマークの引越社はブラック企業ではない、というロジックの存在を理論的に否定することはできないはず。

わたくし自身は下で述べるように、現在の日本でブラック企業という言葉は労働関係における「従業員の扱いの悪さ」に着目した言葉として用いるべきであり、それ以外の自分の信仰する特定の思想やイデオロギーを絡ませるべきではないと考えていますし、それゆえアリさんマークの引越社がブラックであるか否かは、ただひとえにその従業員の扱い方によって判断されるべきだと思いますが、

そう思っていない方々、例えば上記東京電力をブラック企業と呼ぶべきだと主張していた方々には、「そのイデオロギーが気にくわない」とは言えても、そのブラック企業という言葉の使い方は間違っているとは言えないはず。

https://twitter.com/Jeanne_otsuru/status/654212215227092992

★至急、拡散、アリさんマークの引越社はブラックではない、

愛国優良企業だ!! 

靖国神社に幹部全員で初詣、参拝・・・

(参考)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/07/post-c8f4.html (東京電力はどういう理由でブラック企業なのか?)

私が理解するところ、今日「ブラック企業」という問題意識は、もっぱらその使用者としての労働者との関係性における歪みに着目したものだと考えてきたのですが、この記述からすると必ずしもそうではないようです。

しかし、こういう意味での「ブラック」さ(そういう用語法があり得ることまでを全否定する気はありませんが)を交えてしまうと、そもそも労働問題に着目した「ブラック企業」を問題にした問題意識そのものがぼやけてしまうのではないかと、いささか鼻白んでしまうところもあります。

実をいえば、少なくともその直接雇用する正社員との関係でいえば、東京電力の労働者の賃金水準を下げろ下げろと、ブラックな要求をしているのは「消費者」の錦の御旗を掲げる側なのであり、そういうブラックな要求の感情的根拠となっているのが上述のような東京電力のブラックさなのであってみれば、この大賞に上述のような理由を持って東京電力をノミネートすること自体が、その企業の労働者の労働条件を引き下げるために使われるというまことにブラックな事態となるわけですが、その皮肉をどこまで意識されているのかな?と。・・・

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雇用の入口の条件明示・情報開示

10月9日の規制改革会議雇用ワーキンググループの資料がアップされているようです。

http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/wg4/koyo/151009/agenda.html

そのうち資料2の方を見ますと、

http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/wg4/koyo/151009/item2.pdf

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「これまでに検討した主な制度改革」と「今後検討すべき課題例」が絵になっていますが、橙色の「今後検討すべき課題例」の3つのうち、左上の欄にある「雇用の「入口」(労働条件明示・情報開示・採用等)」というのが興味深いところです。

というのは、周知の通りこの部分は現代日本においてもっとも規制が少ない-法令の文言上は気休め的なものはあるものの、実態としてはほとんどないに等しい部分で、そこを「規制改革」するというのは、規制を強化する以外にないような部分だからです。

先の通常国会で成立した青少年雇用促進法の制定過程においても、とりわけ審議会において労働側委員からこの部分の規制強化について議論が提起されましたが、指針に改めて書くということになったことは周知の通りです。

まあ全体としてネタ切れ気味の中で、局所的にはかなり関心を集める可能性のあるトピックであるだけに、今後の展開を見守っていきたいと思います。

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岩崎仁弥・森紀男『リスク回避型就業規則・諸規程作成マニュアル』

2472447001_2岩崎仁弥・森紀男『リスク回避型就業規則・諸規程作成マニュアル』(日本法令)をお送りいただきました。930頁という分厚さに加えて、CD-ROMまでついています。

http://www.horei.co.jp/shop/cgi-bin/shop_itemDetail.cgi?itemcd=2472447

「マイナンバー」「ストレスチェック」「改正パート法」「有期雇用特措法」「雇用指針」、あらゆる時代の流れを網羅した就業規則のスタンダード!

採用、異動、服務規律、労働時間、休暇、賃金、休職及び復職、解雇、退職、安全衛生、災害補償といった労働関係の中で考えられるステージごとに、複雑な法令体系を解きほぐしながら、就業規則の規程例とその作成のポイント、個別規程例、労使協定・書式例を豊富に提示。CD-ROMも付いた、実務担当者必携の1冊!





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日本の雇用と中高年』への書評

26184472_1 ひさしぶりに、日本の雇用と中高年』への書評が出ました。「山あり谷あり書物あり」というブログのkapiさんです。

http://thinkthinkdifferent.blogspot.jp/2015/10/blog-post_11.html

日本の雇用体系は海外とは違うらしいと気づいたのは、就職してからずいぶんたってからだった。それらは、雇用の期限が無い(=通常はずっと勤める形態)とか、職務内容に関する規定が無い(=やることが規定されていない)、あるいは年功序列的な形態である。しかし、これらの特徴的な雇用形態が生まれたのは、日本国内での経済発展の歴史のなかで生み出されてきたものであることが、この本を読むとわかる。・・・

最後に、

戦後の国内の雇用環境の変遷が学術的に丁寧に振り返られている。

と評していただいております。

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オランダの労働市場改革に学ぶ@日本記者クラブ

Reportpg31908oqk8ydvc_2 火曜日、シンポジウムのあとに青木さんから小耳に挟んでいた、オランダのバルケネンデ元首相とCIETT会長らのシンポジウムが翌日に日本記者クラブでやるという話は、私は毎日講演漬けだったのでしばらく忘れていましたが、今日東京弁護士会でひとしきり終えたところでふと思い出して、日本記者クラブのサイトに行ってみたら、ちゃんとビデオ映像がアップされていました。

バルケネンデ オランダ元首相、ムンツ 国際人材派遣事業団体連合(CIETT)会長、村上由美子 OECD東京センター所長の3氏が、オランダの労働市場改革について日本との比較をまじえて話し、記者の質問に答えた。
司会 実哲也 日本記者クラブ企画委員(日本経済新聞)

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従業員と僕(しもべ)

久しぶりに本田由紀さんのつぶやき

https://twitter.com/hahaguma/status/654960041200455680

今日きいた言葉。「日本の政府は国民を従業員のように考えてる。本当は政府は国民の僕であるべきなのに。」

どなたがどういうシチュエーションで述べた言葉かはわかりませんが、おそらく政府を批判する文脈で、あるべき正しい姿に比べて現状の悪い姿を糾弾する流れで発せられた言葉であろうと想像されます。

が、

とりあえず政府と国民という比喩次元の対象を括弧に入れて考えれば、

その方にとっては、従業員というのは僕(しもべ)であり、無理難題でもいうことをきかせて当然の存在なのであろうなあ、ということだけはしっかりと伝わってくる表現でもあります。

自分の認識枠組みがブラック企業のそれと同型であることをかけらも意識していない正義感に溢れた反体制感覚とでも言いましょうか。

そして、

そういう発想の枠組みに、政府とある意味で似た象限に存在している公務員という概念を代入すると、まあマスコミや政治の世界でいやというくらい繰り返されてきたある種の叩きの発想パターンの原型がくっきりと浮かび上がってくるようにも思われます。

そういう感覚を応援するつもりでつぶやかれたのではないことは理解できますが、さはさりながら、発想の「かたち」への敏感さも必要なのではないかと愚考するところではあります。

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佐藤・藤村・八代『新しい人事労務管理』第5版

L22062佐藤博樹・藤村博之・八代充史『新しい人事労務管理』(第5版)(有斐閣アルマ)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641220621

第4版と一番違うのは、最後に「終章 幸せな職業人生を送るために」というのが付け加えられたことでしょう。これが5節からなり、

1 「就社社会」の採用管理と大学生のキャリア意識

2 キャリア開発とは売れる能力を維持すること

3 女性活躍推進に求められること

4 ブラック企業やブラックバイトにいかに対処すべきか

5 大学で人事労務管理を学ぶことの意味

と、今日的なトピックを敏感に取り上げていますね。

あと細かく見ていくと、第2章の雇用管理の最後の節が、第4版では「エイジフリー」と専ら高齢者問題だけに関心が向いていたのが、第5版では「高齢者雇用と若年雇用」と、若者にも意識が向き、その冒頭のところで、高齢法改正の議論で経営側から高齢者雇用を進めると若者を雇えなくなる云々と言われたが・・・というような枕が置かれていて、この間の4年間のいろいろな動きが思い起こされました。

コラムも総取っ替えされていて、「自分の権利をどう守るか」というコラムには、こんな記述もあります。

・・・リストラなんて対岸の火事だと安穏と構えていたら,突然「クビ」を言い渡され、労務管理の手練手管で会社に言いくるめられてしまう。こうした話は、あながちうがち過ぎではない。要は「終身雇用」という「太平の世」に慣れた人ほど、「たった4杯の上喜撰(蒸気船)」で夜も眠れなくなってしまう。雇用に対する安定が不確実性を増している今日、働く者一人一人が、自分の権利は何かを知ることが不可欠であろう。

では、こうした権利はどこで教えれば良いのだろうか。すぐ思いつくのは「学校教育」であるが、働いてみて初めて実感するというのが本当のところだろう。・・・・・

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「均等待遇」欧州と日本@『生協労連定期大会資料集』

『生協労連第48回定期大会資料集』が送られてきました。というのは、その巻末に、私が昨年末の賃金・人事制度セミナーに呼ばれて喋った記録が載っているからです。

生協労連の組合員向けの簡単な講演ですが、結構わかりやすく説明していると思うので、ご参考までに。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/seikyo2014.html

こんにちは。濱口と申します。先ほど参りまして、木下先生がお話しされているのを見て、なぜ木下先生が話をし終わっているのに、そのあと私が余計なことを言う必要があるのかなと思ったのですが、先ほどご紹介いただいたように私たちはかなり考え方がよく似ております。ただ、彼は基本的には経済系の方ですが、私は基本的に法律系ですので、その辺、同じことを言っている場合でもアプローチの仕方がこんなふうに違うのだなとお聞きいただければありがたいと思います。
 実は先々週末の土曜日に都内某所で木下さんのいるところに呼び出されて、1時から5時ぐらいまで延々とやらされて、しかもそのあと夜の部もあって、ほとんど1日の大部分を、顔を付き合わせてやったようなこともあって、またしつこく同じような話をするなという感じもしないではありませんが、先ほど木下先生がお話しされたことを法制的な観点から復習するといいますか、押さえていくという感じでお聞きいただければと思います。
 大変不親切で皆さまのお手元には1ページだけのものしかお配りしていません。これで60分お話をしますが、実は結構中身が盛りだくさんなので、下手にしゃべっていると一番大事な最後のところが時間切れになってしまう可能性もありますので、できるだけそうならないように努力してお話ししたいと思います。

1 欧州における「均等待遇」
・男女同一労働同一賃金から始まった
・「同一価値労働同一賃金」論と均等待遇・ポジティブ・アクション
・間接差別としてのパート問題
・非正規労働者の均等待遇の法制化(パート、有期、派遣)
・根っこにあるのはジョブ型労働市場のジョブ型賃金制度
2 日本の特殊な状況
・法律は欧米と同じジョブ型
・現実社会はメンバーシップ型の無限定正社員がデフォルトルール
・同一労働「力」同一賃金による年功制が主流:生活給理論から「能力」理論へ
・男女平等もジョブの平等ではなくコースの平等
・非メンバーの非正規労働者は年功賃金の外側:家計補助的ゆえ不必要
・それゆえ非正規労働者の「均等待遇」は原理的に困難を抱える
3 日本型「均等・均衡」の展開と今後
・メンバーシップ型パートは「差別禁止」(パート法旧8条)
・そもそもジョブ型でないのでストレートな「同一労働同一賃金」は困難
・非メンバー型パートは「均衡処遇」の努力義務にとどまる
・JILPT研究会2011年報告書が「不合理な処遇格差の是正」という方向を示唆
・2012年改正労働契約法20条が「期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止」を規定
・2014年改正パート法も同様の規定(新8条)
・何が「不合理」か?-現状(メンバーシップ型正社員とジョブ型非正規の分断)を前提とすると、裁判規範としてはストレートな差別禁止規定とはなりにくい
・しかし、政策立法としての行為規範としては、不合理な格差の是正の根拠に
・誰が是正?現場の労働組合による労使交渉をおいて外にない
・弁護士ではなく、労働組合が活用すべき労契法20条とパート法新8条
4 今後の展望
・ジョブ型正社員は解雇自由の陰謀か?
・さまざまな限定度合によって「合理的格差」をもった原則一本の処遇制度へ

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『経済科学通信』138号

Tusin138基礎経済科学研究所が出している『経済科学通信』138号をお送りいただきました。

小特集の「労働法制『改革』と労働組合運動の課題」の中で、わたくしは「労働法制改革の誤解」を寄稿しています。

これは今年3月1日に慶應大学三田キャンパスで開催された研究集会に呼ばれて喋ったものです。

コメントの外、討論の記録も載っています。

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マタハラ予防で均等法改正?

10月12日付けの『労働新聞』(平壌じゃない方)の1面トップに、「マタハラ未然防止を強化 均等法改正案を提出」という見出しが躍っています。

http://www.rodo.co.jp/periodical/news/20151053035.php

マタハラ未然防止を強化――厚労省・次期通常国会に均等法改正案

厚生労働省は、次期通常国会に男女雇用機会均等法改正案を提出する方針を明らかにした。いわゆる「マタニティーハラスメント」の未然防止を狙いとする法的対応および事業主に対する取組み支援の強化を図る考えで、10月から関係審議会で具体策の検討に入る。都道府県労働局雇用均等室へのマタニティーハラスメント関連相談は1年間で4000件を超え、増加傾向にある。・・・

「10月から関係審議会で具体策の検討」とありますが、現時点ではまだその予告はないようです。

http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-rousei.html?tid=126989

しかし、女性活躍推進法ができたと思ったら、例の一億総活躍がらみの育児・介護休業法改正がメインなのに、さらにマタハラもやりますか。

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2015年雇用問題フォーラムのご案内(再掲)

明日(10月13日)開かれる2015年雇用問題フォーラムご案内の再掲です。

http://www.npo-jhk-support119.org/page2.html

『雇用改革の議論の行方とこれからの雇用社会!』

□講演

18631317472 講演1 株式会社ニッチモ代表取締役 海老原嗣生様

  「雇用改革議論の問題と目指すべき方向-欧米の現状からみる問題点とあるべき姿」

  ・労基法の改正、派遣法の改正・・・何が良くて、何が足りないか

  ・5年有期雇用施行後の問題

Hamaguci 講演2 労働政策研究・研修機構主席統括研究員 濱口桂一郎様

  「日本型雇用と女性の運命」

  ・今ごろ「女性活躍推進法」の皮肉・・・日本の女性はなぜ活躍できないか?

  ・日本の女性がたどってきた就労の現実と「市場主義の時代」に増幅された歪み

Mizumati 講演3 東京大学社会科学研究所教授 水町勇一郎様

  「世界の労働法改革の方向性と日本の課題」

Sakazume_s

□パネルディスカッション

コーディネーター 法政大学キャリアデザイン学部教授 坂爪洋美様

パネラー 海老原様、濱口様、水町様

(追記)

早速、今日のシンポジウムの記事がアップされています。

http://www.advance-news.co.jp/news/2015/10/post-1714.html (雇用改革で海老原、濱口、水町の3氏が講演  今年最後の第4回派遣・請負問題勉強会)

今年最後となる2015年の第4回派遣・請負問題勉強会「雇用問題フォーラム」(NPO法人人材派遣・請負会社のためのサポートセンター主催、アドバンスニュース協賛)が13日、「雇用改革の議論の行方とこれからの雇用社会」をテーマに東京・両国のホテルで開かれた。

 この日は、ニッチモ社長の海老原嗣生氏が「雇用改革議論の問題と目指すべき方向~欧米の現状から見る問題点とあるべき姿」、労働政策研究・研修機構の濱口桂一郎主席統括研究員が「日本型雇用と女子の運命」、東大社会科学研究所の水町勇一郎教授が「世界の労働法改革の方向性と日本の課題」と題してそれぞれ講演した。・・・

(再追記)労務屋さんの『邪推』

http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20151014#p1

次にhamachan先生こと濱口先生は「日本的雇用と女子の運命」と題されて講演され、hamachan先生が女性労働について論じられるのは珍しいと司会の方もおっしゃっておられましたが、ははあこれはあれだなさてはhamachan先生今度は女性労働の新書を出すおつもりだななどとあれこれ邪推を巡らす私。・・・・

いや、邪推どころか、まさにどんぴしゃなんですが。

来年早々に『働く女子の運命』というタイトルで文春新書から出る予定です。

うむ、しかし、この題名・・・。

ちなみに、

ほかにも、これは参加者の皆様には大いに有益なものだろうと思った場面が多々あり、たとえばパネルでhamachan先生がわれわれ労働政策関係者がいうところの「女子」「婦人」「女性」の含意についてたいへんわかりやすく解説されたわけですが、これには檀上の海老原氏も「ああ」と感嘆しておられたくらいで、参加者の皆様には興味深い話ではなかったかと思います。

については、昨年書いたこれなどが参考になるかと・・・。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/roukijunpo141125.html()「女子と婦人と女性」

まあ、典型的なトリビアですが。

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『DIO』10月号は新規学卒者特集

Dio『DIO』10月号が届きました。特集は「新規学卒者の採用をめぐる課題」です。

http://rengo-soken.or.jp/dio/2015/10/308.html

特集記事の筆者は、上西充子さん、豊田義博さん、太田聰一さんの3人ですが、ここではリクルートワークスの豊田さんの「日本の新卒採用の「真の課題」は何か?」を。というのも、日本の本当の特徴は何かについて、やや上っ面の認識に基づいて議論すると、上っ面の対策しか出てこないからです。

上っ面の認識とは何か?豊田さんによれば、在学中に就職先が決まるのが日本の特徴というようなのが典型的な「ステレオタイプ」です。実際には、諸外国でも在学中に就職先を決めている人は結構います。しかし、逆にそれを見て日本も外国も同じやないかと言い出すのも、これまた上っ面の認識です。大事なことは、そのメカニズムだからです。

・・・しかし、海外諸国にも、タレント採用市場は存在する。そこでは、多くの学生が在学中に就職先を決め、卒業後まもなく働き出している。その市場では、いい人材を早くに見いだそうと、企業も早くから大学にアプローチをかけている。各国の大学生が2年次、3年次に行っているインターンシップの大半は採用目的のものだ。・・・・

ただし、そのインターンシップは、大学での専攻と結びついたものだ。財務・会計を学ぶ学生は金融機関やアカウンティングファームで、といったように、大学の学びを深めその専攻を生かして就職していくためのお試し期間として機能している。・・・だから、インターンシップに行っている学生を、各国の大学関係者は「大学の勉強もせずに、就活ばかりしている」などとは見ない。自らの大学で学んだ学生が、その学びを活かして社会に出るために必要な教育機会だととらえている。企業と大学は、一蓮托生の関係だ。

拙著『若者と労働』の言い方を使えば、就『職』活動ではなく入「社」活動だから、ということになりましょうか。

・・・学びと職業が接続していない、というわが国の社会システムの特性が、日本の新卒採用の特殊性を生み出しているのだ。

というわけです。

もう一つの特殊性は、そういう学生の職業能力(タレント)に着目するのではない採用の入り口、つまりエントリーレベルの採用市場が、いつでも誰にでも開いているオープンマーケットではなく、新規学卒者専用の「セーフティネット」になっているという点です。

・・・諸外国の若年失業率の高さは、新卒者の一部がこの市場の中でなかなか仕事を獲得できないという事態を表している。・・・つまり、日本の新卒採用システムは、競争的なタレント採用市場という顔とともに、セーフティネット機能という異質な顔も併せ持っている。

もちろん、こういう新卒者専用のセーフティネットがあるおかげで、そこからこぼれ落ちたは、もっと辛い目に遭うわけですが。

いずれにせよ、拙著でも口を酸っぱくして語ったこういう本質論をどこかへうちやったままで表層的な認識に基づく表層的な対策が行われれば、事態がかえって悪化したりするのも当然であるわけです。

・・・二つの特殊性を是正、改革することなしに、活動開始時期を変えても、本質的な解決には至らない。この問題は、複雑で根深い問題なのだ。

本質をわきまえない人が表層的な感想をぶちまけると、こういう「呪い」になるわけですが、それはともかう、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/04/post-b43f.html (「就活に喝」という内田樹に喝)

神戸女学院大学文学部総合文化学科教授の内田樹氏が、就活で自分のゼミに出てこない学生に呪いをかけているようですな。・・・

・・・・内田氏のゼミの学生と企業の担当者が、内田氏の教えている学問の内容が卒業後の職業人生にとってレリバンスが高く、それを欠席するなどというもったいないことをしてはいけないと思うようなものであれば、別に内田氏が呪いをかけなくてもこういう問題は起きないでしょう、というのがまず初めにくるべき筋論であって、それでも分からないような愚かな学生には淡々と単位を与えなければそれで良いというのが次にくるべき筋論。

もちろん、そういう筋論で説明できるような大学と職業との接続状態になっていないから、こういう呪い騒ぎが起きるわけですが、そうであるからこそ、問題は表層ではなく根本に立ち返って議論されるべきでありましょう。

哲学者というのは、かくも表層でのみ社会問題を論ずる人々であったのか、というのが、この呪い騒ぎで得られた唯一の知見であるのかも知れません。

閑話休題。

このあとの豊田さんの「2つの改革シナリオ」は、ジョブ型雇用を増やすことと採用活動の自由化です。

・・・このシナリオ、夢物語ではなく、いつか実現する日が来ると筆者は信じている。

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戦後70年日本のかたち@日経新聞

本日の日経新聞に載っている「戦後70年日本のかたち」15回目は農業と労働がテーマです。

http://www.nikkei.com/article/DGKKZO92721460Q5A011C1TZG000/労働 日本型雇用、再び転機に

終戦からわずか4カ月後の1945年末、帝国議会で労働組合法が成立する。

芦田均厚生相(当時)は議会に「(産業の再建に向け)労働者が喜んで仕事に行き、進んでその能力を発揮してもらうため」には組合結成の自由を保障することが必要と説明した。・・・・・

労働については「日本型雇用 再び転機に」という見出しで、斉藤邦彦、若林之矩、戸苅利和といった方々と並んでわたくしも登場しています。

・・・ここでひとつのねじれが生じる。「法制度は欧米基準だが、現実社会では欧米とは違う日本的な慣行が作られた」・・・のだ。

本文ではこれだけですが、左下にわたくしのインタビュー記事が載っています。

http://www.nikkei.com/article/DGKKZO92721560Q5A011C1TZG000/

Proxy --労働法制の専門家として、戦後の労働改革をどう見ますか。

「占領下でGHQは米国流の民主化を推し進め、欧米風の労働3法も作った。ただ戦時下でつくられた産業報国会が戦後の企業別労働組合につながるなど戦中と戦後は連続する面もある」

「挙国一致で戦争に勝たねばならないときに国は労使対立は無用と考えた。労働者を取り込むために長期安定雇用や年功賃金といった日本的雇用慣行の基礎を戦中から作っていたともいえる」

--「日本型雇用」はいつまで有効でしたか。

「1960年代まで経営側や政府は日本型の見直しを模索したが、その後の日本経済の発展でこれを維持、発展させる方向に転じた。バブルが崩壊した90年代以降は現実に合わなくなる。終身雇用で中高年に高い給料を払い続けていては企業が持たないとの危機感から成果主義が導入された。非正規労働者が増え、格差が問題になり始めた」

--あるべき姿は。

「正規も非正規も問題を抱える中で、中間的な働き方を作ることが課題だ。正社員のように長期安定雇用だが職務も勤務地も明確でなく長時間労働も仕方がない働き方ではなく、明確な職務に応じた賃金が支払われ、その仕事がある限りは安心して働けるような働き方が必要だ」

ちなみに、もう一つのトピックである農業篇も興味深いです。労働との並行関係も感じられます。

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『若者と労働』短評

Chuko 読書メータに、拙著『若者と労働』の短評がまた一つ加わりました。

http://bookmeter.com/cmt/50863636

「ちび」さんです。

新卒一括採用や年功賃金制といった日本の雇用システムの特殊性、またブラック企業や非正規雇用といった問題を引き起こす原因を語るうえで、「ジョブ型雇用」に対する「メンバーシップ型雇用」というキーワードがしっくりきた。人間力採用の息苦しさもここに根があったのか。「職能給」と「職務給」の一字の違いがもたらす中身の違いも目から鱗。職業的実践力については触れもせず、ひたすら適性診断やら自己分析やらをしていたキャリア教育も、まさに「教育と労働の密接な無関係」の産物だったのだな…。

日本型雇用システムにおける「生活給」の考え方と教育費の公的負担の問題にもなるほどと思った。

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日本キャリアデザイン学会 キャリア・デザイン・ライブ!

日本キャリアデザイン学会のサイトに、第6回キャリア・デザイン・ライブ!のお知らせが載りましたので、こちらでもお知らせ。

http://www.career-design.org/pub/t063.html

キャリア・デザイン・ライブは、参加者との議論を交えての研究会です。

好評のうちにライブも今回で6回目となりました。

今回も、ライブ感覚を楽しみながら勉強をしましょう。

第六回のゲストとテーマ

報告者 二宮誠氏(現日本労働組合総連合会(連合)・元UAゼンセン)

コメンテーター 濱口桂一郎氏(労働政策研究・研修機構)

労働組合の隠された可能性  -「欲しいけれど、作れない」の越え方」

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労働力のシェアリングエコノミー

去る10月5日に開かれた規制改革会議で「シェアリングエコノミー」が取り上げられたようです。

http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/committee4/151005/agenda.html

そこに出されたペーパーは素っ気なく

http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/committee4/151005/item1-1.pdf

<シェアリングエコノミーとは>

欧米を中心に拡がりつつある概念で、ソーシャルメディアの発達により可能になった、モノ、お金、サービス等の交換・共有により成り立つ経済のしくみ

という解説と、以下のような例を羅列しているだけであり、

<シェアリングエコノミーにおけるサービスの例>

・ 民泊(住宅(別荘含む)の全部又は一部を短期宿泊用に貸出し)

・ 自動車(ライドシェア)

・ 自動車(カーシェア)

・ 自動車(貨物運搬シェア)

・ 駐車場

・ 施設(会議室・イベントスペース)

・ 機器(印刷機等)

・ 労働力(家事)

・ 労働力(保育)

・ 労働力(ウェブ制作、アプリ開発、ロゴデザイン等)

・ 資金(クラウドファンディング)

・ ビジネス知識・スキル

・ 料理

・ 農地

・ 電波(Wi-Fi アクセスポイント)

役所の出している資料も、一番上の「民泊」関係で、観光庁と厚生労働省が出しているだけです。

まあ、今現在規制緩和関係で問題になっているのはそれくらいだからなのでしょう。

しかし、上のリストを見ればわかるように、このシェアリングエコノミーは、労働力のシェアリングも含まれます。このリストには、家事と保育と特殊なネット関係の仕事だけが挙がっていますが、もちろん、労働力を複数、多数の利用者(共同使用者)がシェアするという事態は、様々な労働活動について想定されるのであって、これは突っ込んでいくと、労働に関する法規制のあり方そのものの根源に関わる問題に繋がるということがおわかりいただけるでしょう。

このシェアリングエコノミーについては、最近矢野経済研究所というところが調査結果を出していますが、

http://www.yano.co.jp/press/pdf/1433.pdf

ここでは、シェアリングエコノミーを「乗り物・スペース・モノ・ヒト・カネなどを不特定多数の人々とインターネットを介して共有するサービス」と定義しており、「ヒト」のシェアリングがやはりちゃんと入っています。ここでヒトのシェアリングに含まれるのは、

ヒトのシェアリングエコノミーサービス・・・「クラウドワークス」「ランサーズ」「Any+Times」、「TimeTicket」、「inDog」、「KitchHike」などのクラウドソーシング、オンラインマッチングサービス等を対象とした。

と、IT関係の労働力シェアリングに限られていますが、まだ労働法関係者はほとんど関心を持っていないようですが、いろいろと悩ましい問題がてんこ盛りに出てきそうなものばかりです。

この問題については、従業員シェアリングを含め既にもっと広い観点から「「EUの新たな就業形態」」について紹介したことがありますが、

http://homepage3.nifty.com/hamachan/roukijunpo150425.html

いずれにしても日本でもこういった就業形態がだんだんと増大していくことは間違いないでしょうから、そうした形で働く人々を保護するってどういうやり方がありうるのか、といった問題に、そろそろ真面目に取り組んでおく必要が高まっていくでしょう。

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『POSSE』28号は「ブラック企業vs次世代労働組合」

51tac5byrul__sx350_bo1204203200__2『POSSE』28号が届きました。特集は「ブラック企業vs次世代労働組合」です。

「次世代」というと、爺世代だったどこかの党みたいですが、こちらは正真正銘の若者によるユニオンの話です。

まだPOSSEさんのサイトには宣伝が出ていないようですが、浅見和彦さんと木下武男さんの対談が、労使関係論の歴史を踏まえて突っ込んだ議論をしていて参考になります。

ミニ特集は「アベノミクス破綻の検証」。特集のタイトル自体が特定の方向に偏してしまっている感がありますが、奇怪な「りふれは」ではないまともな「リフレ派」代表として松尾匡さんが出てきて、孤軍奮闘しています。

単発ものでは、弁護士の佐々木亮さんの「解雇金銭解決制度の議論動向と予想される影響」が、これまでの状況を手際よくまとめています。

同じ解雇関係では、「西洋解雇規制事情」の「第陸(6)回」としてJILPTの西村純さんが登場し、スウェーデンの実情を詳しく解説しています。

◆特集 「ブラック企業vs次世代労働組合」

 「エステ・ユニオンと個別指導塾ユニオンの取り組み」

本誌編集部

 「業種別ユニオンをいかに実現するか―ビルメンテナンス業界、化粧品販売業界における労働組合の実践を通じて」

片桐晃(JEC連合組織政策局政策推進部長)

 「企業を超えた労働運動を目指した取り組み」

寺間誠治(労働者教育協会常任理事、全労連前政策総合局長)

 「女性が参加できる労働組合を目指して―短時間労働者モデルの労働運動へ」

伊藤みどり(働く女性の全国センター副代表)

 「「たかの友梨」が締結した「労働協約」の意義―「ブラック企業」批判から労使による子育て支援」

浅倉むつ子(早稲田大学大学院教授)×佐々木亮(弁護士)×小野山静(弁護士)×青木耕太郎(エステ・ユニオン執行委員)

 「次世代の業種別ユニオン―労働組合再生の方向性」

浅見和彦(専修大学経済学部教授)×木下武男(元昭和女子大学教授)

 「労働協約の役割―未来の労使関係を構築するために」

野川忍(明治大学法科大学院教授)

 「15分でわかる労働組合」

◆ミニ特集 「アベノミクス破たんの検証」

 「アベノミクス 破たんの現実とその後遺症」

小西一雄(立教大学名誉教授)

 「アベノミクス「リフレ政策」をどう評価するか」

松尾匡(立命館大学教授)×宮田惟史(駒澤大学専任講師)

◆単発

 「中間層が消滅し「下流老人」化する日本社会―自己責任論・世代間対立を超えた貧困対策を」

駒村康平(慶應義塾大学教授)×藤田孝典(NPO法人ほっとプラス代表)

 「何が「過労社会」をもたらしているのか―日本の長時間労働規制の実態」

中澤誠(東京新聞記者)×森岡孝二(関西大学名誉教授)

 「解雇金銭解決制度の議論動向と予想される影響」

佐々木亮(弁護士)

 「マルクス研究の最前線から現代資本主義を読み解く―ケヴィン・B・アンダーソン『周縁のマルクス』が拓く新地平」

後藤道夫(都留文科大学名誉教授)×平子友長(一橋大学特任教授)×木下武男(元昭和女子大学特任教授)×佐々木隆治(立教大学准教授)

◆連載

 「労働問題NEWS vol.2 オワハラ/最低賃金引き上げ/デモと就職差別/自衛隊研修労働審判」

本誌編集部

 「いまどきの大学生 第2回」

本誌編集部

 「若者の貧困のリアル vol.2 外国籍のシングルマザーに向けられる二重の抑圧」

聞き取り:本誌編集部

 「ブラック企業のリアル vol.13 おにぎり屋」

聞き取り:本誌編集部

 「西洋解雇規制事情 〔第陸回〕 瑞典(スウェーデン)編」

西村純(労働政策研究・研修機構研究員)

 「貧困の現場から社会を変える 第5回」

稲葉剛(NPO法人自立生活サポートセンター・もやい理事)

 「世界の社会運動から No.12 スペイン/ポデモスから人民連合へ」

マリオ・カンディアス

 「労働と思想 28 バタイユ―宇宙と測りあうほどの労働」

佐々木雄大(玉川大学非常勤講師)

 「文化と労働 No.6 ポスト新自由主義へ」

河野真太郎(一橋大学准教授)

 「京都POSSEノート 第6頁 ボランティア会議」

遠藤めぐみ(京都POSSE事務局)

 「ともに挑む、ユニオン 団交 file.9 月150時間の残業で、残業代わずか4万円の会社」

北出茂(地域労組おおさか青年部書記長)

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リクルート『Works』132号は日本型雇用特集

1281693164_lリクルートの『Works』132号が届きました。特集は「シリーズ雇用再興」の第1弾目「日本型雇用によって失われたもの」です。

http://www.works-i.com/pdf/w132_1toku.pdf

冒頭からhamachanが登場します。

 まずは、日本型雇用システム(以下、日本型雇用)を改めて定義しよう。新規学卒者の一括採用と定年制という絶対的な入口と出口を設定し、その間を、入社年次に基づく年功的な賃金体系で遇する仕組み。そして、より本質的には、入社後の職務(ジョブ)を特定しないメンバーシップ型の雇用契約によって、働く人を職務ではなく企業に紐づける仕組みだ。

雇用システムというフィクション

Hama  日本型にしろ、それ以外のものにしろ、雇用システムは、資本主義社会を維持するために、、資産を持たない労働者(プロレタリア)にその代わりとなる仮想上の資産を構築し、資産所有者としてインサイダー化するためのある種のフィクションとして形成される。こう看破するのは労働政策研究者、濱口桂一郎氏だ。

「資本主義のもとで経済を安定的に発展させるためには、大量の勤勉な労働者が必要でした。そのためには、労働者に、それを正当化するストーリーを見せる必要がある。ヨーロッパではそれは、仕事(ジョブ)の技能(スキル)を社会のどこでも通用する資産とみなし、資格を有する技能労働者をあたかも小資産家(プチブルジョワジー)とみなす社会的枠組みでした。手に職を持ち、資格を取得すれば、どこへ行っても仕事があり、それなりの高い給料をもらえ、次第に豊かになれる。こうしたストーリーが、労働者から勤勉を引き出したのです」(濱口氏)

では日本では、どのようなフィクションが構築されたのか。「日本で労働者に仮想上の資産として差し出されたのは、ジョブではなくメンバーシップだったのです。ある会社のメンバーシップを獲得し、メンバーとして会社の命令に従って配置転換や転勤や出向を引き受け一生懸命やっていれば、仕事を失うことはなく、給与が保障されて、安定した老いを迎えられる。これが、日本型雇用のストーリーでした」(濱口氏)。

「もちろんどちらの仕組みであっても、ストーリーに乗れなかった人をどうするかを考えておかなくてはなりません。ヨーロッパ型のほうは、国が社会保障で面倒を見ることが基本になりました。一方の日本では、なるべく多くの労働者の面倒を企業にみてもらい、その分、配置転換や転勤、出向という内部労働市場における移動の裁量権を大幅に企業に認めました」(濱口氏)

つまり、ストーリーに乗れない人をなるべく少なくする努力がなされてきたのだ。「特に高度成長期から安定成長期にかけては、このストーリーに乗れる人の割合が高く、日本型雇用というフィクションは多くの人を幸せにできる秀逸な現実になりました」(濱口氏)

しかし・・・・・・・・

という風に話は進み、この後、八代尚宏さん、矢野眞和さん、山田昌弘さんなどがさまざまな角度から論じていき、最後に編集長の石原直子さんが「日本型雇用を再考し、再興させるために」というタイトルで締めています。なるほど、「再考」と「再興」を掛けていたんですね。

 

 

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『都市問題』10月号の上林論文

51qzqhdv4pl__sl160_sl160_地方自治総合研究所の上林陽治さんから、そこが出している『自治総研』7月号と、昔東京市政調査会だった『都市問題』10月号をお送り頂きました。東京市がなくなっても東京市政調査会はずっと続いていましたが、名前が変わったようですね。もっとも建物は依然として市政会館のままのようです。

そんなことはどうでもいいんですが、上林陽治さんです。

https://www.timr.or.jp/cgi-bin/toshi_db.cgi?mode=kangou&ymd=2015.10

相談業務と専門職の非正規公務員――迫られるメンバーシップ型人事制度の変更 上林陽治

ということで、

・・・専門化し、資格職化する相談員だが、そのことが、彼女たち彼らを非正規化する。・・・

という現場の矛盾に、雇用システム論を駆使して論じ、

・・・2015年4月施行の生活困窮者自立支援法は、自治体にメンバーシップ型人事制度の変更を迫ることになるだろう。なぜなら、生活困窮の背景は複雑で、相談者は、借金、失業、虐待、DV、家庭の問題、こころの問題など、複合的かつ多種多様な困難を抱えており、従って生活困窮者の相談窓口は総合化せざるを得ず、相談員も、いかなる課題にも対応できるようジェネラルな専門性を身につけなくてはならなくなるからだ。生活困窮者の自立には、専門的かつ継続的にこの問題にかかわる、職務限定・異動限定の専門職公務員という新たな類型の正規公務員を必要とすることになるだろう。・・・

と訴えています。

もう一冊の『自治総研』の論文は、「非正規公務員と任用の法的性質」という、いかにも法学的論文ですが、戦後自治行政と行政法学が、いかに戦後制定された実定法の規定を無視して、戦前来の行政法理論に合うように解釈を作り上げてきたかがよくわかります。


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低賃金にすればするほどサービスが良くなるという思想(再掲)

世間の状況をつらつら見るに、4年以上前に本ブログに書いたこの記事が批判した奇妙な思想が今なお猛威をふるっており、ますます盛んであることに驚きと情けなさを感じざるを得ません。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/06/post-ee80.html (低賃金にすればするほどサービスが良くなるという思想)

まあ、城繁幸氏の場合は、実のところは官民問わず賃金処遇制度の問題であると意識しながら、あえて釣りとして(はやりの時流に乗って)公務員叩きをしてみせた気配が強いのですが、

http://blog.goo.ne.jp/jyoshige/e/cfe86d13b5103d8cf8e1b72a3e754a0b(公務員の賃金をいくら引き下げても構わない理由)

http://blog.goo.ne.jp/jyoshige/e/e3ad8b0a11acf9c195d542929f8b86d0(訂正:公務員は別に流動化しなくてもいいです)

こういう釣り記事を真っ正面から受け止めて、本気に信じてしまう(あるいはむしろその先に突き進んでしまう)人々がやはりいるわけです。

http://d.hatena.ne.jp/AMOKN/20110520(【コラム】公務員の賃金をいくら引き下げても構わない理由 解説編)

>いわゆる土方と呼ばれる仕事を見れば分かりますが、給料安くても不正もせずに過労死ギリギリまで働いていたりします。

以前、考察したときは下記の2点で縛られているからと考えていましたが、これを経営者側の立場で考えるとなるほどと思えることがあります。

おまえの代わりはいくらでもいるんだよ。

好きでやっているんだろう。

>いくつかの病院で働いていた時、凄く不思議だったのは一番プロフェッショナルだった病院はもの凄く看護婦さんの給与が低かったことです。患者にとって何が一番心地よいかを考えて、常に改善しようと心がけていました。仕事は過酷ですから、どんどん辞めていくわけですが、それを補うために看護学校も経営してどんどん若い看護婦を補充していくわけです。若い方が給与は安いですから経営上も利点があります。

そんなところで働いているなんて可哀想かと思うとそうでもないですね。彼女らはそこでの経験が後の仕事をしていく上で、大学出の看護婦とは全然次元の違う看護が出来るようになっているはずです。

これらに共通しているのは、誇りを持っていたり、好きな仕事なのに給与安いとどうなるかということです。

自分は金のために働いている訳じゃないということを嫌が上でも自覚せざるを得なくなるわけです。

じゃあ、何のために働いているのか。

それはお客さんや患者さんに喜んで貰うためなんだという凄くシンプルな答えに行き着くわけです。

いやあ、なんというか、天然自然の何の悪意も感じられないほどのブラック企業礼賛。

ここまで来ると、いっそ清々しい。

このあとがさらにすさまじい。

>逆に給与が仕事の内容に比べて高いとどうなるでしょうか。

自分は金のために働いている。こんな楽して儲けられるのはこの仕事しかない。この仕事は手放さないようにしようと考えます。でも、こんなに手を抜いてもこれだけ貰えるなら、クビにならない程度に手を抜いておこうとなるわけです。別にクビになるわけでも、給与が減るわけでもないなら、仕事を改善する必要もなくね。変にクレームが付かないように前の人と同じようにしておこうとなるわけです。

まさにどこかで見た勤務態度でしょ。

よって、給与を下げるとどうなるか。

恐らく劇的に公共サービスは改善されるでしょう。

金やそれに付随する社会的地位のために働いていた人達はまず最初に辞めていきます。

そして、自分が誰のために働いているのか、その人達のために自分が何をすべきかを考える人達だけが残っていくでしょう。もちろん、そういう人達もどんどん辞めていくでしょう。その代わり、もっと良い行政サービスができる、したいという人達が入ってきます。要するに市場原理が働くわけです。

えっ!?それが市場原理なの???

ケインズ派であれフリードマン派であれ、およそいかなる流派の経済学説であろうが、報酬を低くすればするほど労働意欲が高まり、サービス水準が劇的に向上するなどという理論は聞いたことがありませんが。

でも、今の日本で、マスコミや政治評論の世界などで、「これこそが市場原理だ」と本人が思いこんで肩を怒らせて語られている議論というのは、実はこういうたぐいのものなのかも知れないな、と思わせられるものがあります。

労働法の知識の前に、初等経済学のイロハのイのそのまた入口の知識が必要なのかも知れません。あ~あ。

(追記または謝罪)

上述の批判は、俗流ブルジョワ経済学説に毒されたモノトリ主義的労働貴族思想のしからしむるところであったのかも知れません。

上記リンク先に昨日書き込まれたコメントは、そのような俗物思想に対し、強烈な打撃を与えるものでありました。

http://d.hatena.ne.jp/AMOKN/20110520#c

>少年時代にマルクスの著作と出会って以来、一貫して共産主義を信奉している者です。この2010年代においてもなお、本物のコミュニストと出会えたことに感動しております。

「能力に応じて働き、必要に応じて受け取る」。これこそが我々共産主義同志の理想であり、本来ならば労働者の敵であるはずの資本家の側にも、我々コミュニストと同じ思想信条をお持ちの方がおられることに対して、大変驚いております。

貨幣から解放された労働、労働それ自体を目的とする労働。まさにコミュニズムの真髄です。とくに、経営者の報酬は1円で良いはず。当然、AMOKN様は有言実行しておられますよね。資本家でありながらコミュニストとしての闘いを続けておられるとは、頭の下がる思いです。

共産主義の同志に対して、「えっ!?それが市場原理なの???」とは、まことに失礼千万なものの言いようであったと深く反省しております。

ただ、わたくしはかかる崇高な理念に殉じるにはあまりにもマテリアリストでありますので、おつきあいするのは控えさせていただきたいと存じます。

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『日本労働法学会誌』126号

51xwekauqsl_sx350_bo1204203200_ 来週末(10/18)の学会(@東北大学)を前に、『日本労働法学会誌』126号が届きました。

https://www.hou-bun.com/cgi-bin/search/detail.cgi?c=ISBN978-4-589-03705-3

今年5月に近畿大学で行われた学会の3つのミニシンポと4つの個別報告が収録されています。

《129回大会》

特別講演:萬井隆令 

ミニシンポⅠ:唐津博/奥田香子/石田信平/土田道夫 

ミニシンポⅡ:道幸哲也/國武英生/淺野高宏/開本英幸 

ミニシンポⅢ:浅倉むつ子/山川隆一/相澤美智子/富永晃一/神尾真知子 

個別報告:石﨑由希子/植村新/黒岩容子/鄒庭雲 

《回顧と展望》和田肇/河野尚子 ほか収録

私は労働法教育の研究会に関わった義理もあり、ミニシンポは2つめのワークルール教育に出ましたが、男女均等の問題にも最近関心を持っておりまして、来週の別の講演・パネルディスカッションでは(意外にも)女性労働問題を正面から取り上げます。乞うご期待です。

http://www.npo-jhk-support119.org/theme69.html

『雇用改革の議論の行方とこれからの雇用社会!』

□講演

講演1 株式会社ニッチモ代表取締役 海老原嗣生様

「雇用改革議論の問題と目指すべき方向-欧米の現状からみる問題点とあるべき姿」

・労基法の改正、派遣法の改正・・・何が良くて、何が足りないか

・5年有期雇用施行後の問題

講演2 労働政策研究・研修機構主席統括研究員 濱口桂一郎様

「日本型雇用と女子の運命」

・今ごろ「女性活躍推進法」の皮肉・・・日本の女性はなぜ活躍できないか?

・日本の女性がたどってきた就労の現実と「市場主義の時代」に増幅された歪み

講演3 東京大学社会科学研究所教授 水町勇一郎様

「世界の労働法改革の方向性と日本の課題」

□パネルディスカッション

コーディネーター 法政大学キャリアデザイン学部教授 坂爪洋美様

パネラー 海老原様、濱口様、水町様

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『ダイバーシティ経営戦略3』

29545経済産業省経済産業政策局経済社会政策室より、『経済産業省平成26年度ダイバーシティ経営企業100選 ダイバーシティ経営戦略3 ~多様な人材の活躍が、企業の成長力に繋がる~』をお送り頂きました。

http://books.chosakai.or.jp/books/catalog/29545.html

「経済産業省ダイバーシティ経営企業100選」は、経営戦略に貢献できる形で「ダイバーシティ経営」に取り組み、それを具体的な経営上の成果として結実させた企業を選定するもので、引き続き男女を問わない働き方改革などが重要であり、来年度以降もダイバーシティ経営の普及・発展に取り組んでいくことが必要と考えています。3年目の平成26年度では受賞企業52社の取組とその成果をまとめた「ベストプラクティス集」とともに、これらの事例から共通項として抽出されたダイバーシティ経営を進める上での成功への王道である「ダイバーシティ経営の基本的な考え方と進め方」と、具体的な「取り組みのアイデアリスト」を収録しています。

ということです。

ベストプラクティスということですが、以下の社名をご覧頂くと、なるほどいかにもという社名もあれば、なになにという社名もあったりして、いろんな感慨を抱かれる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

ダイバーシティ経営企業100選

    大成建設株式会社
    健康とうふ株式会社
    ヱビナ電化工業株式会社
    株式会社上島熱処理工業所
    株式会社栄鋳造所
    株式会社ジーベックテクノロジー
    株式会社ポーラ
    株式会社LIXILグループ
    カルビー株式会社
    大日本印刷株式会社
    電化皮膜工業株式会社
    バクスター株式会社
    新潟ワコール縫製株式会社
    株式会社福光屋
    富士特殊紙業株式会社
    株式会社三輝ブラスト
    株式会社ナガオカ
    川村義肢株式会社
    山陽特殊製鋼株式会社
    株式会社エフピコ
    株式会社西部技研
    中部電力株式会社
    大阪ガス株式会社
    株式会社日立ソリューションズ
    株式会社プロアシスト
    株式会社日立物流
    東日本旅客鉄道株式会社
    株式会社佐藤金属
    イオン株式会社
    株式会社ふらここ
    株式会社三越伊勢丹
    株式会社ローソン
    株式会社千葉銀行
    アフラック(アメリカンファミリー生命保険会社)
    株式会社三井住友銀行
    日本GE株式会社
    三井住友海上火災保険株式会社
    明治安田生命保険相互会社
    日本生命保険相互会社
    ヒューリック株式会社
    株式会社ファースト・コラボレーション
    拓新産業株式会社
    リゾートトラスト株式会社
    株式会社ジェイティービー
    株式会社ラッシュ・インターナショナル
    株式会社パソナグループ
    株式会社武蔵境自動車教習所
    株式会社サンスタッフ
    株式会社美交工業
    株式会社ミライロ
    三洋商事株式会社
    有限会社奥進システム

   ダイバーシティ促進事業表彰

    株式会社ビースタイル
    株式会社リクルートマネジメントソリューションズ


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読むのにエラく時間がかかった…。

131039145988913400963 読書メーターに、久しぶりに『新しい労働社会』への短評。評者は「HAYASHI Tatsuhiko」さんで、「読むのにエラく時間がかかった…。」そうです。

http://bookmeter.com/cmt/50790253

本書の冒頭に、「労働問題に限らず広く社会問題を論ずる際に、その全体としての現実適合性を担保してくれるものは、国際比較の観点と歴史的なパースペクティブ」と述べるだけあって、バランスを失したような変な議論が展開されない安心感がある。とはいえ、労働法まわりは、大学の労働法の講義で「可」を頂いた四半世紀前以来(笑)であり、読むのにエラく時間がかかった…。

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日本は求人での年齢差別が禁止されて・・・いるんです、実は

ありすさんのつぶやき:

https://twitter.com/alicewonder113/status/650315111375183872

これ本当にどうにかしてほしい>日本は求人での年齢差別が禁止されていない

圧倒的に多くの方がそう思っているでしょうし、現実の労働社会もまさにそういう『常識』で動いていますが、あに図らんや、実は求人での年齢差別が原則としては禁止されているんです。

雇用対策法(昭和四十一年七月二十一日法律第百三十二号)

第十条  事業主は、労働者がその有する能力を有効に発揮するために必要であると認められるときとして厚生労働省令で定めるときは、労働者の募集及び採用について、厚生労働省令で定めるところにより、その年齢にかかわりなく均等な機会を与えなければならない。

雇用対策法施行規則(昭和四十一年七月二十一日労働省令第二十三号)

第一条の三  法第十条 の厚生労働省令で定めるときは、次の各号に掲げるとき以外のときとする。
 事業主が、その雇用する労働者の定年(以下単に「定年」という。)の定めをしている場合において当該定年の年齢を下回ることを条件として労働者の募集及び採用を行うとき(期間の定めのない労働契約を締結することを目的とする場合に限る。)。
 事業主が、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)その他の法令の規定により特定の年齢の範囲に属する労働者の就業等が禁止又は制限されている業務について当該年齢の範囲に属する労働者以外の労働者の募集及び採用を行うとき。
 事業主の募集及び採用における年齢による制限を必要最小限のものとする観点から見て合理的な制限である場合として次のいずれかに該当するとき。
 長期間の継続勤務による職務に必要な能力の開発及び向上を図ることを目的として、青少年その他特定の年齢を下回る労働者の募集及び採用を行うとき(期間の定めのない労働契約を締結することを目的とする場合に限り、かつ、当該労働者が職業に従事した経験があることを求人の条件としない場合であつて学校(小学校及び幼稚園を除く。)、専修学校、職業能力開発促進法 (昭和四十四年法律第六十四号)第十五条の六第一項各号に掲げる施設又は同法第二十七条第一項に規定する職業能力開発総合大学校を新たに卒業しようとする者として又は当該者と同等の処遇で募集及び採用を行うときに限る。)。
 当該事業主が雇用する特定の年齢の範囲に属する特定の職種の労働者(以下この項において「特定労働者」という。)の数が相当程度少ないものとして厚生労働大臣が定める条件に適合する場合において、当該職種の業務の遂行に必要な技能及びこれに関する知識の継承を図ることを目的として、特定労働者の募集及び採用を行うとき(期間の定めのない労働契約を締結することを目的とする場合に限る。)。
 芸術又は芸能の分野における表現の真実性等を確保するために特定の年齢の範囲に属する労働者の募集及び採用を行うとき。
 高年齢者の雇用の促進を目的として、特定の年齢以上の高年齢者(六十歳以上の者に限る。)である労働者の募集及び採用を行うとき、又は特定の年齢の範囲に属する労働者の雇用を促進するため、当該特定の年齢の範囲に属する労働者の募集及び採用を行うとき(当該特定の年齢の範囲に属する労働者の雇用の促進に係る国の施策を活用しようとする場合に限る。)。
 事業主は、法第十条 に基づいて行う労働者の募集及び採用に当たつては、事業主が当該募集及び採用に係る職務に適合する労働者を雇い入れ、かつ、労働者がその年齢にかかわりなく、その有する能力を有効に発揮することができる職業を選択することを容易にするため、当該募集及び採用に係る職務の内容、当該職務を遂行するために必要とされる労働者の適性、能力、経験、技能の程度その他の労働者が応募するに当たり求められる事項をできる限り明示するものとする。

これ、ちょうど直前の法政公共政策大学院の講義で取り上げたばかりのところですが、典型的な政治主導で盛り込まれた規定なんですが、現実の日本の労働社会の年齢に基づいた人事雇用管理に対してはほとんど何の影響力も持ち得ていない規定になってしまています。

それにしても、施行規則の三のイなどを見れば、日本の労働社会というものがいかに、若者を優遇し、中高年を冷遇することを許す社会であるかということが、年齢差別禁止の例外という露骨な形でよく示されていることがおわかりでしょう。

薄っぺらな一部ワカモノ論者にはなかなか見えてこない日本社会の実相です。

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日々紹介と日雇派遣は同時に認められた件について

Kazama_2 一昨日(10月1日)の朝日新聞の「記者有論」に、東洋経済から朝日新聞に移った風間直樹さんの「派遣法改正 日雇い禁止はどうなった」が載っています。

http://www.asahi.com/articles/DA3S11992184.html

先の通常国会で成立した改正労働者派遣法が施行された。企業が人を代えれば同じ仕事を派遣社員に任せ続けられるようになった。1985年の制定以来の抜本改正だ。ただ、4カ月間に及ぶ国会審議で抜け落ちた論点がある。3年前の改正の時の目玉、「日雇い派遣禁止」問題だ。・・・

この問題については、旧自公政権末期に日雇い派遣禁止を含む法案が出される前の段階から議論のおかしさを指摘してきましたが、基本的に感情論でもって物事が動いてきた結果、

・・・その多くは派遣ではなく、その日ある仕事をそのつど紹介する「日々紹介」にシフトしているからだ。

企業の短期的な労働力へのニーズは根強い。そのニーズにこたえるため、派遣業者は相次いで紹介業者へと衣替えし、企業と労働者を仲介している。日々紹介業最大手のフルキャストホールディングスの今年上半期のあっせん数は延べ150万人にのぼる。紹介する仕事は、物流業や製造業のほか、最近は飲食業やサービス業にも広がっている。

法律上は「派遣」から「紹介」に変わったが、現場の実態は変わらない。むしろ悪化している。・・・

という状況になっています。それというのも、

・・・日雇い派遣の時は派遣先が決まれば、その後に仕事がキャンセルされても、給料の6割相当が休業手当として支払われた。日々紹介では雇用契約 は当日現場に行くまで成立しないため、直前のキャンセルでも、一切手当はもらえない。「日雇い派遣のほうがまだましだった」

風間さんはこれを踏まえて、

雇用法制は労働者の日々の生活に直結する。だからこそ改正にあたっては、現実を見据えた緻密(ちみつ)な制度設計が必要なのだ。

と語ります。その通りであると同時に、そもそも日雇い派遣禁止の議論を声高にした人々は、問題となっているようなたぐいの日雇い派遣と日々紹介は、同時に行われた法改正で同時に認められたものであって、一方だけが一方的に禁止されていたようなものではないという歴史的事実をどこまで認識していたのだろうか、という疑問も生じてきます。

いや、そもそも論でいえば、日本国の法体系は一日たりと言えども、日々雇用それ自体を禁止したことなどありません。一貫して日雇い労働は合法です。それを大前提とした上でいえば、有料職業紹介事業と労働者派遣事業は、その対象業務を厳格に限定されており、家政婦とかマネキンとか配膳人とかを除けば、(日々雇用だからではなく)認められた業務ではないが故に、そのような日々紹介や日雇い派遣はできなかったのです。

それが、ILO181号条約を批准するために行われた1999年の職業安定法改正と労働者派遣法改正によって、どちらの事業についてもポジティブリスト方式からネガティブリスト方式に転換されました。その結果、(日々雇用だからではなく)禁止業務ではないが故に、そのような日々紹介や日雇い派遣ができるようになったのです。

つまり、日々紹介と日雇い派遣は、ごく一部の業務を除けば、1999年に同時に解禁されたのです。

ここのところ、きちんと認識していましたか?多分してない人が大部分だったのではないかと思いますよ。

その後、ビジネスモデルとしては日雇い派遣が急速に拡大し、グッドウィルとかフルキャストなどが不透明なデータ装備費問題を起こし、政治的な批判が盛り上がって、自公政権末期に出された法案で日雇い派遣の原則禁止が盛り込まれ、それが民主党政権時の法案で成立し、業界は一斉に日々紹介にビジネスモデルを転換し、その結果上記風間さんの記事にあるような状況になったわけです。

1999年に同時に解禁された日々紹介と日雇い派遣の、後者が絶対的に極悪非道で、前者が素晴らしい存在だなんて議論になぜなるのか、というような疑問を呈する人は、この間私の知る限り、一人もいなかったように思います。

ごく最近に行われたことさえあまり記憶しないままに感情論に流されて法改正論が進められていくという事態に対して、とりわけマスコミ諸氏の冷静な議論の必要が痛感されるところです。

ちなみに、1999年改正でネガティブリスト化したのは有料職業紹介と労働者派遣であって、無料職業紹介と労働組合の労働者供給事業はそれ以前から一貫して業務は無限定です。これもまたあまり知られていないことかも知れません。

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冨山和彦氏の最賃革命論

人文系の皆様から蛇蝎のごとく嫌われているらしいL型の使徒こと冨山和彦氏が、毎日新聞で「最低賃金革命」を唱道しています。

http://mainichi.jp/shimen/news/20151002ddm008070127000c.html(経済観測:GDP600兆円と最低賃金革命=経営共創基盤CEO・冨山和彦)

そこで政策的に直接的に介入でき、かつ低所得層の賃金上昇に幅広く貢献できるのは、最低賃金を革命的に上げることだ。具体的には先進国相場の1時間あたり10ドル、1ドル100円換算で1000円(現行の約800円対比で25%増)に引き上げる。人手不足の時代、つぶれる中小企業が出ても、働き手は生産性と賃金がより高い企業へ移動するだけである。最低賃金の劇的な引き上げは、税金を使わずに賃金上昇と消費回復の好循環を全国津々浦々で生み出すトリガーになりうるのだ。これは机上の観念論ではない。地域の中小企業の再生現場に関わってきた実感である。

この手の議論は古くはドーア氏が中央公論で展開してたし、結構支持者も多い議論ではあるんですが、言ってる人が言ってる人だけに、人文系の皆様は反発するんでしょうね。

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3法則の一般化

ある方のツイートに、

https://twitter.com/inotake77/status/649765840003330048

①相手の人格批判、②無関係の権威の利用、③相手の背後関係への攻撃は、議論において禁止される最低限のルールだと思います。とくに本人と関係のない家族や所属組織への中傷は卑怯としかいいようがありません。個人に帰責されるものだとは思いますが、立派な大学で学ばれているだけに残念に思います

なんだか、見事に某氏の3法則の一般化理論になっている感がありますな。

(参考)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2007/12/3_a7ad.html (池田信夫氏の3法則)

池田信夫氏の第1法則:池田信夫氏が自信たっぷり断言していることは、何の根拠もない虚構である蓋然性が高い。

池田信夫氏の第2法則:池田信夫氏がもっともらしく引用する高名な学者の著書は、確かに存在するが、その中には池田氏の議論を根拠づけるような記述は存在しない蓋然性が高い。

池田信夫氏の第3法則:池田信夫氏が議論の相手の属性(学歴等)や所属(組織等)に言及するときは、議論の中身自体では勝てないと判断しているからである蓋然性が高い。

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就職に悩む学生にこそお薦めの内容

Chuko 拙著『若者と労働』に読書メーターで短評。「さきん」さんです。

http://bookmeter.com/cmt/50740147

就職に悩む学生にこそお薦めの内容。全体像がよくわかる。日本は相当特殊なメンバーシップ型雇用社会であり、雇用政策が二転三転している事実をもとに、著者は日本の現状に即したジョブ型雇用の適用を提案している。私はメンバーシップの良い文化は日本独特であり残していきたいと思ったが、とにかく問題は、不況時に生ずる若者がスキル低いまま固定化し、社会負担になることをいかに改善するかである。

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立憲主義と民主主義と労働法

後出しじゃんけんの気味もなきにしもあらずですが、ここ数ヵ月間もやもやしていたことについて、メモ書き的に。

要は、憲法学者が掲げる立憲主義って、そんなに偉いの?ってことなんですが。

アメリカにおける労働法の歴史をひもとけば、裁判所が、契約自由という至高の原理や共謀は悪だという法原理を掲げて、労働組合などという不逞の輩のやらかすあれやこれやを一生懸命叩いてきたことが分かります。民主主義原理に基づいて、クレイトン法を作っても、ひっくり返されるし、ローズベルト大統領の下で、NIRAを作っても、違憲だとひっくり返される。ワグナー法も違憲なるところを、ローズベルト大統領がむりやり最高裁の判事に自分の側の人間を押し込んで、なんとか合憲にしてしまったわけで、民主主義に批判的な立憲主義の立場からすれば、ほとんど民主的な独裁政権でしょう。

労働法という新たな法原理が産み出される場では、そういうある種の「非立憲」がありうるということは、実は形は違えど、多くの諸国で見られることでしょう。実は日本だって、「8月革命」という「非立憲」がなければ、このようなものにはなっていないはず。

いや、特定の分野の特定の事案についてあれこれ論ずるつもりは全くないのですが、そもそも論として、法と政治全般を広い歴史的観点で眺めるならば、立憲主義を掲げていさえすれば万事がうまくいくという話でもないというのが原点のはず。

後は個別論点についてどう考えるかになる。どこかにデウス・エクス・マキナがあるわけではない。

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