モデル就業規則の影響力
みずほ総研さんが、ここんとこジョブ型、メンバーシップ型に熱中しておられるようで、ジョブ型・メンバーシップ型に関する意識調査結果 シリーズコラムの第(4)弾として、
http://www.mizuho-ir.co.jp/publication/column/2015/hrm0918.html
この冒頭で、
厚生労働省のモデル就業規則では、人事異動に関し次のような条文例が示されている(*1)。
(人事異動)
第8条会社は、業務上必要がある場合に、労働者に対して就業する場所及び従事する業務の変更を命ずることがある。
2会社は、業務上必要がある場合に、労働者を在籍のまま関係会社へ出向させることがある。
3前2項の場合、労働者は正当な理由なくこれを拒むことはできない。
これを参考に就業規則を作成している企業は多い。しかし、実際には「就業する場所も従事する業務も変更を命じられることなどまずないだろう」と思っている労働者が、かなり多いのではないか。
ここからがコラムの本論ですが、そちらはリンク先を読んでいただくとして、ここではむしろ、実態としてはジョブ型に近い中小企業、女性、一般社員であっても、拘束力のある就業規則の上ではメンバーシップ型の人事異動が規範化されているという、ある意味の「ずれ」に注意を喚起しておきたいと思います。
これは、意外にきちんと認識されていないところで、そこのところを指摘したのが、昨年11月の規制改革会議に呼ばれたときにお話しした点です。
http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/committee3/141110/gijiroku1110.pdf
○濱口統括研究員 幾つかの議論のレベルがあるのですが、まず規範という意味で言うと、日本社会において何があるべき姿か、正しいかという意味で言うと、これは昔から二重構造論で繰り返し言われていることですが、大企業のモデルが正しい、あるべき姿で、我々は中小・零細だからなかなかそれはできないけれども、例えば、賃金カーブも到底なかなかそんな大企業みたいに急速に上がっていかないけれども、だけれども、それは上がる方が正しいので、うちは零細だからなかなか上がらないけれども、それはいつかは、明日は大企業になろうみたいな、そういう意味での規範性が非常に強いということがあります。これは意識としての規範性です。
次に判例法理という意味で言うと、どうしても弁護士費用を払って何年も裁判できるのは大企業の正社員たちですので、彼らの実態を踏まえた形で判例が積み重なってきます。現実には中小零細企業を見ると、判例とは全然似ても似つかないような実態というのは山のようにございますが、しかし、政府の審議会などの場で、労働はいかにあるべきか、ということを議論すると、どうしてもそういう大企業正社員モデルでもって、それを基盤として議論されてしまうということがございます。
そういう意味で、意識的あるいは判例法理的な意味での規範性というものが厳然とある以上、それをデフォルトとする考え方が個々の中小企業にも影響を及ぼしております。具体的には、普通、多くの日本の中小企業は世間で出回っている就業規則のひな形をほぼそのまま使っております。そのひな形には大体、「必要があれば配置転換を命ずることがある」とか、「必要があれば残業や休日出勤を命ずることがある」と必ず書いてあります。わざわざそこを消しておりません。ということは、現実には配置転換を命ずることはなくても、あるべき姿としてはそういうふうに書いてあるわけです。つまり中小企業であっても、就業規則という形をとったデフォルトモデルは、大企業モデルになっているということがあろうかと思います。
一方で、そういう議論をするとともに、現実の特に中小・零細企業は必ずしもそうではないんだよという話もしていかなければならないと思いますし、雇用ワーキングでも一度そういう話をさせていただいたこともございます。ただ、どうしても規制改革とかこういうことを議論する際には、規制そのものが頭の中のイメージでは大企業正社員型のモデルあるいは大企業正社員を前提とした女性の働き方のモデルあるいは非正規のモデルということになってしまいますので、やはり形としてはそこから議論をしていく必要があるわけです。もちろん、今、言われたことは非常に重要なことでもありますので、そこは両にらみの形で議論をしていく必要があろうと思っております。
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