ビルドゥングス・ロマンとしての大西連『すぐそばにある「貧困」』
大西連さんから『すぐそばにある「貧困」』(ポプラ社)をお送りいただきました。ありがとうございます。ポプラ社、って、子ども時代に児童書でよく読んだ記憶がありますが、こういう一般向けの本も出していたんですね。
http://www.poplar.co.jp/korekara/tankoubon/009702.html
GDP世界第3位、豊かな日本の見えない貧困に
20代にしてNPO法人「もやい」理事長の著者が迫る!ホームレス問題、ネットカフェ難民、若年失業者、DV被害者の苦悩、元暴力団員の更正、不正受給や水際作戦の実態、誰かを支援することの難しさ。ふとしたことから路上支援の世界に飛び込むことになった20代の著者が、その目で見てきた生活困窮者たちの人生と、支援現場での葛藤を描く。子どもや女性といったわかりやすいテーマに留まらない、日本の貧困の全体像に迫った衝撃のノンフィクション。
大西さんとは、かつて一度、大野更紗さんや川村遼平さんと一緒にお会いしてお話をしたことがあります。いまは「もやい」の理事長をしている大西さんによる貧困問題についての啓蒙書・・・ではあるんですが、そして本人もそういう読まれ方を期待しているとは思うのですが、ここではそれとはひと味違う、この本独特の「読み方」を述べたいと思います。
それは、大西連という1987年生まれの一青年が、人生を見失ってふらふらしていた時にふとしたことからホームレスの支援運動に関わりはじめ、さまざまな出会いと悩みを繰り返しながら、その活動家として、そしてリーダーとして自己形成していく姿を描き出した、そういわゆる一つの「ビルドゥングス・ロマン」になっているんです。
冒頭第1章は、高校時代に不登校で渋谷のカラオケでお金がなくなり路上で出合ったホームレスの「ケンちゃん」とのエピソードから始まります。
高卒後フリーターとなっていた大西青年は、アルバイト先の友人に誘われて新宿中央公園の炊き出しに参加。「意識の低い」青年だった彼が、そこから生活保護の申請同行、相談会、不正受給をめぐるいざこざ、と、「成長」していく姿は、『活動家一丁上がり』の実録編であるとともに、何よりもこの大西連という「意識の低」かった青年の「ビルドゥングス・ロマン」となっています。
いやもう、「貧困」ものはおなかいっぱい。読まなくても大体わかってるし・・・、と言いたげなそこのあなた。本書はそれ以上の大きな付加価値があります。
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