« 富士通総研早川英男氏の「今こそ「日本的雇用」を変えよう」(3)(4) | トップページ | 小杉礼子・宮本みち子編著『下層化する女性たち』 »

「年次有給休暇の時期指定義務化」@損保労連『GENKI』8月号

117損保労連『GENKI』8月号に、「年次有給休暇の時期指定義務化」を寄稿しました。

 今まで4月3日に国会に提出された労働基準法改正案について説明してきましたが、世間で話題になっている高度プロフェッショナル制度は大山鳴動鼠一匹程度のものであり、また私が注目すべきと考えている働き過ぎ防止のための諸措置も現時点では間接的かつ遠慮がちなものが多く、それほど影響を与えるものではないのが実態です。それに比べると、日本の多くの企業にかなり大きな影響を与えると見込まれるのが年次有給休暇制度の改正です。今回は、一見地味ですが、実は今回改正案の目玉とも言うべきこの制度について見ていきます。

 現在の労働基準法でも、年次有給休暇は使用者が与えなければならないものと規定されています。ところが現実の姿を見ると、付与日数の半分も取得されていません。最新の平成26年度就労条件総合調査で見ても、一人平均付与日数は18.5日、取得日数は9.0日で、取得率は48.8%にとどまっています。しかしこの平均値ではわからないのが日数の分布です。2011年の労働政策研究・研修機構の「年次有給休暇の取得に関する調査」では、正社員の平均取得日数は8.1日ですが、0日(つまり1日も取得しない)というのが16.4%、1~3日が16.1%という一方で、15日以上が20.3%と、見事に二極化している姿が浮かび上がっています。しかもこれをさらに性・年齢別に見ると、20代男性は0日が25.2%で平均5.2日と年休が取れていません。同じ傾向は規模別では29人以下、職種別では営業職に見られます。とりわけ問題なのは、週当たり労働時間が60時間以上と過労死が懸念される長時間労働者ほど、0日が29.4%で平均5.9日と休みも取れていないことです。

 なぜこういう事態になるかというと、現行労働基準法の仕組みにもその原因があります。確かに「使用者は、・・・・有給休暇を与えなければならない」(第39条第1項)と書いてありますが、そのためにはまず労働者が有休を取りたいと積極的に言わなければならないのです(同条第5項)。

 使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。

 もちろん、労働者の権利なのですから、労働者の方から請求するのは当然ではないか、と言えばそれはその通りです。しかし、上記取得実態から浮かび上がってくるのは、忙しく働いている人ほど、仕事に影響が出るのを配慮して、なかなか年休を取りたいと言い出しかねている姿であるように思われます。取れる人は遠慮なく請求できてフルに取得する一方で、取れない人はますます請求しにくくなり、結果的にほとんど取れなくなるという悪循環に陥っている姿が浮かんできます。

 かつては労働基準法施行規則にこういう規定がありました(1年継続勤務で6日という時代です)。

第二十五条 使用者は、法第三十九条の規定による年次有給休暇について、継続一年間の期間満了後直ちに、労働者が請求すべき時期を聴かねばならない。但し、使用者は、期間満了前においても、年次有給休暇を与えることができる。

 年次有給休暇は労働者が請求するものという原則は原則として、しかし労働者が自分から請求してくる前に、使用者の側が積極的に「1年たったぞ。年休が取れるぞ。いつ年休を取るんだ? 早く教えてくれ」と言わなければいけなかったのです。本人がもじもじと言い出しかねている状態をただにやにやと眺めていると、この規定に違反したのです。ところが、1954年に労働法の規制緩和の一環として削除されてしまい、それ以来、労働者が黙っていれば年休0日でも違反ではないという状況が半世紀以上も続いてきました。

 今年2月の労働政策審議会建議は、初めてここにメスを入れようとしました。

・・・有給休暇の日数のうち年5日については、使用者が時季指定しなければならないこととすることが適当である。
・・・使用者は時季指定を行うに当たっては、①年休権を有する労働者に対して時季に関する意見を聞くものとすること、②時季に関する労働者の意思を尊重するよう努めなければならないことを省令に規定することが適当である。

 現実に労働者の権利としての年休をフルに取得している人もいますから、全ての年休を使用者の時季指定義務の対象にしてしまったら、そういう人々から異議が続出するでしょう。年5日というのは、年休取れない組と年休フル取得組のバランスを考えた日数だと思われます。

 さらに建議は、この仕組みを確実なものとするために、年休管理簿の作成を義務づけようとしています。

・・・使用者に年次有給休暇の管理簿の作成を省令において義務づけるとともに、これを3年間確実に保存しなければならないこととすることが適当である。

 労働基準監督官はこの年休管理簿を見て、使用者がちゃんと労働者の意見を聞いて時季指定をし、労働者がちゃんと年休を取得できているかをチェックするというわけです。必要があれば本人にも確認するでしょう。

 上記JILPT調査では、年休取得日数5日以下の者は全体で45.7%に達し、とりわけ20代男性では65.4%に達しています。この膨大な数の労働者に、使用者側から積極的に5日の年休を付与することを義務づける改正なのですから、冒頭に申し上げたように、その影響するところのはなはだ巨大な改正であるということができるでしょう。

|

« 富士通総研早川英男氏の「今こそ「日本的雇用」を変えよう」(3)(4) | トップページ | 小杉礼子・宮本みち子編著『下層化する女性たち』 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 「年次有給休暇の時期指定義務化」@損保労連『GENKI』8月号:

« 富士通総研早川英男氏の「今こそ「日本的雇用」を変えよう」(3)(4) | トップページ | 小杉礼子・宮本みち子編著『下層化する女性たち』 »