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上村泰裕『福祉のアジア』

813上村泰裕『福祉のアジア 国際比較から政策構想へ』(名古屋大学出版会)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.unp.or.jp/ISBN/ISBN978-4-8158-0813-6.html

グローバル時代の社会的基盤とは——。相互依存の深まる東アジアでは地域全体の福祉拡充が緊要となっている。福祉国家と企業福祉・家族福祉・ボランタリー福祉の関係をいかに結びなおすべきか。歴史も経済も多様な東アジア諸国間で国際協力は可能なのか。比較研究から新時代への提言を試みる。

アジアといえば、昨年の社会政策学会(@岡山大学)でEUの労働政策について報告した時、会場の金子良事さんから頂いた質問を思い出しますが、上村さんはまさに社会政策におけるアジア派なのでしょう。

詳細目次は下にコピペしておきますが、理論や実証分析にとどまらず、アジアレベルの政策構想、政策提言まで踏み込もうとしているのが、上村さんの研究のすごいところであり、批判を浴びるところでもあるのでしょう。批判の実例が、「あとがき」の冒頭に載っています。余りにも興味深いので引用しておきますと:

「どの国の政策もそれぞれ独自の哲学に基づいている。各国の事情を無視したこんな浅薄なレポートを持ち帰るわけにはいかない!」。某国の経済団体を代表して会議に出ていた恰幅の良い紳士は、そう言い終えるとマイクを机に叩きつけた。アジア太平洋地域の経済自由化を議論する国際会議で、筆者が本書第9章のあらすじを報告した直後の出来事である。一瞬の静寂。主催者側は、筆者が猛烈な反論を始めるのではないかと心配そうな視線を送ってくる。日頃空気を読まない(読めないのではない)ことで知られる筆者も、この時ばかりはことの重大さを悟った。研究者だけを相手にすればよい学会発表とは勝手が違ったのだ。・・・・・

いろんな意味で面白い話ですが、労働政策の歴史を知っている立場からすると、「どの国の政策もそれぞれ独自の哲学に基づいている」という外連味たっぷりの台詞自体の、余りにも同じ状況下で同じ台詞が出てくるその類似性こそが目につきます。戦前、ILOの場で日本政府や日本の経営者団体がどういう理屈を並べ立てていたかを思えば、後発諸国の「独自の哲学」の金太郎飴さにこそ、産業化という社会変動への対応としての労働社会政策の、いかに独自性を言い立てようとも現れざるを得ない類型性こそがまず何より話の基軸であろうと思いますし、その上で否応なくにじみ出てくる各国(というより各社会)ごとの違いは、それこそヨーロッパ諸国内部の違いやアジア諸国内部の違いが、欧亜というブロック間の違いよりも小さいとも言えないでしょう。

そして、とりわけ日本における言説の歴史を見れば、産業化に対する対応として新たに作り出されたものが恰も伝統的なものであるかのように粉飾され、その粉飾が公認イデオロギーとして通用するという事態の普遍性もありそうです。

(目次)

序 章 福祉のアジアを描く

  第Ⅰ部 対象と方法

第1章 東アジアの福祉国家 —— 研究対象の生成
     1 はじめに
     2 東アジアの共通性と多様性
     3 民主化と経済危機を越えて
     4 福祉国家と市民社会の未来

第2章 東アジアの福祉レジームとガバナンス
     1 はじめに
     2 福祉国家のレジーム規定力
     3 福祉国家と企業・家族・NPO
     4 福祉ガバナンスの未来

第3章 大陸間比較から見た東アジアの福祉
     1 はじめに
     2 福祉国家化の波
     3 福祉国家の何を重視するか
     4 企業や家族は福祉国家を代替するか
     5 福祉国家拡充の壁

  第Ⅱ部 典型としての台湾

第4章 台湾の政労使関係と社会政策
     1 はじめに
     2 認識手段としてのコーポラティズム概念
     3 国家コーポラティズムの遺産
     4 民主化と多元主義化
     5 新たなコーポラティズムへの模索
     6 柔軟化は阻止されたのか

第5章 台湾の高齢者福祉政治
     1 はじめに
     2 高齢期を規定する社会構造
     3 福祉政治の言説スタイル
     4 国民年金をめぐる政策過程

第6章 台湾の社会保障と企業福祉
     1 はじめに
     2 企業を取り巻く社会保障制度
     3 2006年調査の回答企業の特徴と企業福祉観
     4 企業福祉の内容
     5 企業福祉重視の内実 —— 経営者への聞き取り調査から
     6 福祉レジームの再編と市場化の進展

  第Ⅲ部 複数の東アジア

第7章 社会福祉のなかの社会と国家 —— 台湾・シンガポールの比較
     1 はじめに
     2 市民社会への注目
     3 福祉国家の相違
     4 福祉レジームの効果

第8章 雇用構造と若者の就業 —— 日本・韓国・台湾の比較
     1 はじめに
     2 福祉レジームと若年労働市場
     3 日韓台の若者問題は同じではない
     4 社会経済的要因か、それとも制度的要因か
     5 構造変化にどう対応するか

  第Ⅳ部 比較から構想へ

第9章 東アジア社会政策を構想する —— 失業保険制度を例に
     1 はじめに
     2 東アジアの失業新時代
     3 途上国に失業保険は不要なのか
     4 既存の失業保険に不備はないか
     5 国際比較から政策構想へ

第10章 インフォーマル雇用の壁を越える —— 社会保障拡充の前提
     1 はじめに
     2 インフォーマル雇用とは何か
     3 社会保障とインフォーマル雇用
     4 社会保障拡充の処方箋

終 章 福祉のアジアを築く
     1 福祉のアジアをめぐる問答
     2 グローバル経済の社会的基盤

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