妊娠を理由とする解雇の公表
厚生労働省が初めて妊娠を理由とする解雇事案を公表したようです。
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000096409.html
事業所名 : 医療法人医心会 牛久皮膚科医院
代表者 : 理事長 安良岡 勇
所在地 : 茨城県牛久市牛久280 エスカード牛久4階
違反条項 : 法第9条第3項
法違反に係る事実: 妊娠を理由に女性労働者を解雇し、解雇を撤回 しない。
指導経緯 : 平成27年3月19日 茨城労働局長による助言
平成27年3月25日 茨城労働局長による指導
平成27年5月13日 茨城労働局長による勧告
平成27年7月9日 厚生労働大臣による勧告
明日の新聞が「初のマタハラ公表」とか見出しを打ったら、「ハラスメントじゃないよ、解雇だよ」と言ってやりましょう。
なんでもハラスメントといえばいいわけじゃない。
(参考)
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2014/09/post-99d2.html(マタハラ概念の法的意義は・・・)
・・・ここで言われていることの実体面については、全面的に賛成です。そして、同じ思いを持っている方から見れば以下で述べることは、細かな法律談義で大事なことをおとしめようとする法匪の議論に見えるかもしれません。
でも、先日のたかの友梨事件のパワハラ談義と同じ話なのですが、現行法ですでに立派な違法行為であるような行為を、いまさら新法でマタハラという新たな概念で規定しようという話には、やはり尤もという話にはならないのです。
雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律
第九条 ・・・
3 事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法・・・第六十五条第一項 の規定による休業を請求し、又は同項 若しくは同条第二項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
これらによって禁止されている行為に当てはまらないような、しかし労働者のマタニティに悪影響を与えるようなハラスメント行為をマタハラという概念でとらえて規制していこうという議論には法的な意味があります。
しかし、上で言われているマタハラ防止のための一文というのは、すでにれっきとした違法行為であることどもを「遵守を徹底することを明記してもら」うことなんですね。
すでに刑法で禁止され、罰則が用意されている暴行、傷害、恐喝等々といったことを、改めていじめ新法で「遵守を徹底することを明記してもら」うといわれれば、それはいかにもおかしいんじゃないかと思う人が多いのではないでしょうか。(実はそうじゃない可能性が結構高かったりするから怖いのですが)
もちろん、それは、世間の、とりわけ企業経営者たちの感覚が、これられっきとした違法行為を全然悪いことだなんて感じていないからであり、その現実の感覚を前提にしてのこのマタハラnetの訴えであるわけですが、にもかかわらず、こういう訴えは、現行法におけるれっきとした違法行為を、マタハラとかいう近頃ぽっと出の新しい概念に放り込んでしまう危険性を抱えていることも意識しておいた方がいいように思います。
まあ、こういうことを言うと、また「バカの見本」とか言われるわけですが。
(星取表)
・産経新聞
http://www.sankei.com/economy/news/150904/ecn1509040014-n1.html (「妊婦はいらない」茨城の医院“マタハラ”で初の実名公表)
「マタハラ」だけで、「解雇」も出てこない。
・毎日新聞
http://mainichi.jp/select/news/20150905k0000m040028000c.html (マタハラ:職員解雇の事業所を初公表…厚労省)
一応「解雇」と明示しているけれど、なんで解雇が「ハラスメント」なんだ?という疑問はないよう。
・日本経済新聞
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG04H5E_U5A900C1CR8000 (マタハラで初の事業者名公表 妊娠の職員解雇した病院 )
これも「解雇」と明記しながら疑問なく「マタハラ」。
・読売新聞
http://www.yomiuri.co.jp/national/20150904-OYT1T50118.html (「マタハラ」行った医院、厚労省が初の実名公表)
これも産経と同じく、ただの「マタハラ」で実名公表と。
・朝日新聞
http://www.asahi.com/articles/DA3S11948908.html (「妊娠で解雇」医院名初公表 是正勧告に従わず 厚労省)
ようやく、見出しに「マタハラ」と言わないのが出てきた。ただし、記事の最後にわざわざマタハラだと「解説」している。
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