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2015年9月

2015年9月30日 (水)

仁田道夫・連合編『これからの集団的労使関係を問う』

51rtu6rxal_sx230_ 仁田道夫・連合編『これからの集団的労使関係を問う』(エイデル研究所)がようやく届きました。

労働組合活動家と研究者が各章ごとに掛け合い的に論文を寄せています。

序論 これからの集団的労使関係を問う 仁田道夫

1 労働者代表のあり方(労働者代表制、過半数代表制)

[問題提起]組織率の危機と過半数代表者 新谷信幸

[論文]労働者代表法制のあり方 濱口桂一郎

2 企業別労働組合の組織的基盤

[問題提起]産別組織JAMの対応 宮本礼一

[論文]中小労組を中心に 後藤嘉代

3 賃金決定の個別化と集団的労使関係

[問題提起]賃金体系の見直しと集団的労使関係 逢見直人

[論文]賃金体系と集団的労使関係:賃上げ方式を中心に 仁田道夫

4 解雇等の紛争解決と集団的労使関係

[問題提起]職場のトラブルは、個別紛争か集団紛争か 村上陽子

[論文]紛争解決と集団的労使関係 神林 龍

5 就業形態の多様化と集団的労使関係

[問題提起]就業形態の多様化と労働組合の課題 松井 健

[論文]労働組合はだれのためにあるのか? 水町勇一郎

6 産業基盤の確保と集団的労使関係

[問題提起]産業基盤の確保と集団的労使関係 郡司典好

[論文]海外生産の拡大と集団的労使関係 自動車産業を事例として 首藤若菜

7 企業組織のグループ化・ネットワーク化と集団的労使関係

[問題提起]企業組織のグループ化・ネットワーク化における集団的労使関係の可能性 春木幸裕

[論文]集団的労使関係の法的基盤としての団体交渉にかかる「使用者」概念 竹内(奥野)寿

8 M&A等による企業再編と集団的労使関係

[問題提起]就業形態の変容と集団的労使関係 小畑 明

[問題提起]M&A等による企業再編と集団的労使関係 工藤智司

[論文]企業組織再編への労働組合の対応と課題 呉 学殊

あとがき 逢見直人

本日午後、都内某所で、この本に基づいたシンポジウムが開催されます。

(追記)

シンポジウムを聴かれた方の感想:

https://twitter.com/yohei_tsushima/status/649582337928224768

きのう午後、シンポジウムに参加。労働者代表制の話を聞きながら恩寵的民権と恢復的民権のことを思い出す。南海先生はたとえ恩寵的民権であれ、これを善く護持・珍重し、恢復的の民権と肩を並ぶるに至るは正に進化の理なりと説いてた。戦後は労働組合は爆発的に広がったけどいま組織率が低下。

https://twitter.com/yohei_tsushima/status/649583699701268481

労働者代表制は恩寵的かな。整備されたら活用されるかもしれない。ただそれがいつになったら恢復的民権と肩を並ぶるに至るんだろうと。昨日の話ではそういう主権者教育的な運動をどう戦略的に展開するか少し聞いてみたかったかも。そんな意味で国会前デモの経験はR合でどれだけ生かされるかな。

2015年9月28日 (月)

港湾労働、ちゃんと研究しなきゃ

事情はよくわかりませんが、金子良事さんがこうつぶやいているので、

https://twitter.com/ryojikaneko/status/648170631922511872

昨日の研究会の振り返り。結局、港湾労働、ちゃんと研究しなきゃダメだよな、とつくづく思った。そう思って調べたら、やっぱり大原社研が一番、文献、持ってるなあ。でも、ちょっと、今は新しいことには手をつけられない。

とりあえずの概観のためには、『季刊労働法』239号に書いた「港湾労働の法政策」あたりをざっと読んでいただければいいのでは、と。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/port.html

・・・なぜ港湾労働法はそういうやり方をしているのか、浅薄な新聞報道では理解することができないでしょう。ここには、日本の労働法制のいささかディープな世界が垣間見えているのです*1

経団連出版より3冊

経団連出版よりまとめて3冊の新刊書をお送り頂きました。

Bk00000382まず、岡田邦夫著『「健康経営」推進ガイドブック』です。

https://www.keidanren-jigyoservice.or.jp/public/book/index.php?mode=show&seq=382&fl=1

企業が従業員の健康管理を経営課題として捉え、健康保持・増進に向けた活動に積極的に取り組む「健康経営」の考え方が広まりつつあります。
 従業員の健康は安全衛生にかかわるリスク管理だけでなく、労働生産性の向上や組織の活性化、優秀な人材の確保などを通じた企業価値の向上などが期待され、株式市場で評価する仕組み(「健康経営銘柄」)も始動しました。
 本書では、健康経営の普及啓発に長年取り組んできた筆者が、健康経営の基本的考え方、取り組みを進める際のポイントや手順などをコンパクトに解説します。
 取り組み推進に関わる政策動向や安全配慮義務をめぐる留意点などのコラムも掲載!!

Bk00000385次に、増田将史著、石井妙子監修『「ストレスチェック」導入ガイドブック』。

https://www.keidanren-jigyoservice.or.jp/public/book/index.php?mode=show&seq=385&fl=1

 企業にとって従業員のメンタルヘルスが経営課題となるなか、うつ病などのメンタルヘルス不調を未然に防止するため、今年12月から従業員にストレスチェック(自身のストレスがどのような状態にあるかを調べる検査)を毎年1回実施することが企業に義務づけられます。
 同制度は、実施方法の協議・周知、専門職を含めた実施体制の整備、検査結果に基づく面接指導など、手続きや運用が非常に複雑です。また、従業員に対するプライバシー保護や不利益取り扱いの禁止など、企業が配慮を求められる点も多々あります。
 本書は、メンタルヘルス問題に精通した弁護士による監修のもと、企業実務に即して導入手続きや運用上の留意点をQ&Aでわかりやすく解説するとともに、制度運用に関わる政府審議に参画した筆者ならではの課題指摘や活用方法も紹介します。

Bk00000388


最後に、野口正明著『組織の未来をひらく創発ワークショップ-「ひらめき」を生むチーム 30の秘訣』。

https://www.keidanren-jigyoservice.or.jp/public/book/index.php?mode=show&seq=388&fl=1

 本書は、“創発”というビジネスの世界で最近注目されつつあるテーマを、事業革新の実践ストーリーとして展開したものです。創発とは、一人ひとりの想いや行動が重なり合うことで、その総和を超える圧倒的なエネルギーや結果が生まれることを表わします。
 事業が全社的に低迷している架空の大手素材メーカーを舞台に、収益構造を大胆に革新するための提言をせよという営業部門長の指令で集められた中堅・若手メンバーの、チームによる未来創発の挑戦を描いています。
 一人ひとりの主体的な参加を土台に、メンバーが学び合いながら創造を生み出す場としての「創発ワークショップ」の方法論を用いて、事業が直面する根本的な問題をチームで探し出し、解決の道をみつけて実践していきます。その創発ポイントを30の秘訣にまとめ、それぞれに解説を加えました。
 先の見えない事業環境で一歩先駆けたい経営者や事業部長、経営企画部や人事教育部などの担当者をはじめ、チームで「ひらめき」を生むことに関心のあるビジネスパーソンにぜひ読んでいただきたい一冊です。

2015年9月26日 (土)

拙著評いくつか

112483 アズマ社会保険労務士事務所のブログで、拙著『日本の雇用と労働法』が取り上げられていました。

http://ameblo.jp/azumasr/entry-12077350703.html

今年の社労士試験の話題から、

大河内先生も触れていましたが、労働法学者の濱口桂一郎先生の著書からの出題もあったようですね。

僕も読みましたが、薄い本だし、労働常識の苦手な方は、通勤時に電車の中とか隙間時間に読むと良いかもしれません。

戦後からの雇用政策や社会的背景の流れが、イメージしやすいです。

と、評していただきました。

最後に、

受験生は、やることが多いから、あまりはまらないようにです、、、

と、受験生に警告(?)を発しているのは、極めて適切と言うべきでしょう。

その他、最近書き込まれた書評サイトから:

http://www.hmv.co.jp/en/userreview/bookreco/product/4208637/

今山 哲也  |  2015/06/26

「日本の雇用システム」と「日本の労働法制」についての概略を両者の密接な関係を領域ごとに一つひとつ確認しながら解説している。欲張りな本なので密度は高い。電車の中で読むのはいささか難儀でありました。

http://www.hmv.co.jp/en/artist_%E6%B5%9C%E5%8F%A3%E6%A1%82%E4%B8%80%E9%83%8E_200000000624459/item_%E6%96%B0%E3%81%97%E3%81%84%E5%8A%B4%E5%83%8D%E7%A4%BE%E4%BC%9A-%E9%9B%87%E7%94%A8%E3%82%B7%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%A0%E3%81%AE%E5%86%8D%E6%A7%8B%E7%AF%89%E3%81%B8-%E5%B2%A9%E6%B3%A2%E6%96%B0%E6%9B%B8_3646506?ref=dp_sim_1

Miyoshi Hirotaka  |  2015/07/19

海軍工廠が起源の年功型生活給は戦後も維持された。長期雇用とセットになることで、中高年に実績以上の賃金を払うために必要だったからだ。また、年齢とともに昇給しなければ、増加する生活、住宅、教育などの費用を社会保障として給付しなければならなくなる。つまり、これは政府にとってもメリットがあった。ところが、これは労働力を固定化し、同一労働同一賃金という原則から乖離する。雇用は複雑な社会システム。ある原則だけを強調すると常識外れの議論に陥り、現実に適合しない。時間的、空間的な広がりの中で労働社会を捉えることが必要。

『留学生のための時代を読み解く上級日本語 第2版』

9784883196258 『留学生のための時代を読み解く上級日本語 第2版』の第3刷をお送りいただきました。

http://www.3anet.co.jp/ja/3541/

なんでhamachanのところにそんな本が来るのか?と思われるかも知れませんが、実は本書に、拙著の一部が収録されているのです。

収録されているのは、『新しい労働社会』の序章の冒頭部分。「職務のない雇用契約」「長期雇用制度」「年功賃金制度」「企業別組合」の4つの節で、2つの節に分けて、それぞれに練習問題が付いています。

おそらく、日本語の勉強用の教材であるとともに、日本の雇用システムについて概観的に学習できるようにという配慮で収録されたのでしょうね。

実際、平成27年度の第1回日本留学試験問題には、まさにこの『新しい労働社会』の一節が使われています。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2015/09/271-48e8.html (『平成27年度日本留学試験(第1回)試験問題』)

日本に留学しようとする外国の学生たちに、日本型雇用システムを解説する私の文章が真っ先に読まれるというのも意義深いものを感じます。

せっかくですので、外国人留学生向けの課題を皆さんもやってみてはいかがでしょうか。

まず[日本型雇用システム(1)]の問題。

1.雇用契約というのはどのような契約ですか。売買契約や賃貸借契約と違うのはどんな点だと、筆者は述べていますか。

2.どのような雇用契約が世界で一般的だと、筆者は述べていますか。

3.日本の雇用契約の特徴はどんな点にあると、筆者は述べていますか。

4.日本で終身雇用制度が維持できる理由を、筆者はどのように説明していますか。

5.あなたの国では、企業での雇用契約は普通どのような内容になっていますか。その良い点と悪い点は何ですか。この文章について、あなたはどのような感想・意見を持ちましたか。

続いて[日本型雇用システム(2)]の問題。

1.「日本以外の社会」では、雇用契約の中身はどうなりますか。

2.日本型雇用システムでは、雇用契約の中身はどうなりますか。

3.「日本以外の社会」では、団体交渉はどのように行われますか。それはなぜですか。

4.日本型雇用システムでは、団体交渉はどのように行われますか。それはなぜですか。

5.あなたの国では、労働者の賃金はどのように決められていますか。また、団体交渉はどのように行われますか。この文章について、あなたはどのような感想・意見を持ちましたか。

最後に、

2.この文章(日本型雇用システム(1)(2))について、あなたの国の状況にも触れながら、感想・意見を800字~1,200字で書いてください。

2015年9月25日 (金)

「1億総活躍」担当相

http://www.yomiuri.co.jp/politics/20150925-OYT1T50001.html?from=yartcl_blist

安倍首相は来月行う内閣改造で、政権の新たな看板政策として掲げる「1億総活躍」の担当相を置く方針を固めた。

首相は、50年後に人口1億人を維持する「1億総活躍社会」を実現するため、2020年までの道筋を定めた「日本1億総活躍プラン」を作成する考え。経済、介護、子育てなどテーマが多岐にわたるため、省庁間の調整を担う担当相が必要だと判断した。閣僚枠は増やさず、兼務とする方向だ。

介護、子育て担当大臣、って、第二厚生労働大臣という感も・・・。

まあ、大臣の所管の広さからいえば、そこらの何人かの大臣を合わせたよりも更に遥かに広いので、担当大臣が二、三人いても不思議ではないのですが。

(続報)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150926-00000018-mai-pol (<内閣改造>稲田氏入閣固まる 丸川氏起用も検討)

通常国会が25日に事実上閉会したことを受け、安倍晋三首相は10月7日前後に行う内閣改造・自民党役員人事の調整に着手した。女性登用の一環で稲田朋美政調会長の入閣が固まり、丸川珠代参院厚生労働委員長の起用を検討している。岸田文雄外相と塩崎恭久厚生労働相、高村正彦副総裁は留任させる。下村博文文部科学相は交代させる。公明党の太田昭宏国土交通相については、続投させる調整に入った。

 首相は25日の記者会見で26日からの外遊をふまえ「帰国次第、内閣改造を行う」と明言した。また、内閣改造に併せ、政権が掲げる「1億総活躍社会」の担当相を設ける方針も表明した。

 保守系の稲田氏は首相に近い。丸川氏は子育て中でもあり、女性活躍担当や少子化担当などでの起用が取りざたされる。ただ、参院当選2回での入閣には反発も予想され、首相は慎重に検討を進める。

なるほど。

まぼろしの専門職派遣

昨日から日経新聞の経済教室で先日成立した派遣法についての論説が載っています。昨日の八代尚宏さんのはいつも通りの八代節でしたが、今朝の大内伸哉さんのは、正面から専門職派遣が正しく、99年改正からおかしくなったという議論を展開しています。

かつて髙梨昌さんが唱えていた議論と同じです。

しかし、既に今まで繰り返し述べてきたように、その99年以前の専門職派遣という建前こそが虚構であり、まぼろしであったのです。

一昨年12月、WEB労政時報に書いた文章に何一つ足す必要がないので、そのまま再掲しておきます。

https://www.rosei.jp/readers-taiken/hr/article.php?entry_no=155

 去る12月12日、労働政策審議会労働力需給制度部会に公益委員案が提示された。公益委員である部会長の鎌田耕一氏は、8月に報告書をまとめた今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会の座長でもあり、その発想が同じ線上にあることはいうまでもない。この報告書が公表された時点で、私もこのコラムで「世界標準の派遣労働規制へ」を書いており、内容的にはほとんど付け加えることはない。
 しかしながら、新聞報道は依然として、「派遣、無期限に受け入れ」(朝日新聞)、「派遣『常用』可能に」(毎日新聞)、「無期限派遣を容認」(読売新聞)などと、あたかもこれまでの「常用代替防止」によって派遣の無期限の受け入れが不可能であったかのような報道をしている。もちろん、そんなことはない。専門26業務という、その実は全然専門的ではない業務区分の看板を掛けることで、いままでだって無期限の派遣は容認されていたのである。
 ではいままでの「常用代替防止」とは、何を防止しようとしていたのだろうか。それを赤裸々に語っているのは、派遣法制定に尽力した故高梨昌氏である。高梨昌「労働者派遣法の原点へ帰れ」(『大原社会問題研究所雑誌』2009年2月号)から引用しよう。
 
 ところで、「登録型派遣」を事務処理派遣で認めた理由について触れなければならない。それは、これらの専門的業務に従事しているのはもっぱら女子労働者であることに着目したからである。労働者派遣法の立法化問題が審議されていた当時は、今一つ男女雇用機会均等法の立法化が重要な労働政策の課題として審議されていた。・・・
 周知のように、第二次世界大戦中に、女子労働者が繊維産業の現場労働者にとどまらず、あらゆる産業や職業分野に進出し始め、未婚女子が雇用労働者として就業することが当然視されるように労働観が変化し、敗戦後も経済的生活難もあって、この雇用慣行はより一般化してきた。さらに戦後経済復興と経済の高度成長過程を経て、大規模経営がリーディングな経営体として定着するにつれ、事務的書記的職業への労働需要が急増してきたが、ここに雇用機会を得たのが後期中等教育を受けた女子であった。ところが、これらの事務労働分野へ進出した女子も、結婚・出産を機に退職し、家事労働の専業主婦となるものが圧倒的多数派を占めていた。いわゆる「夫婦役割分担型家族観」が支配的家族観であったことが、こうしたライフスタイルを女子がとる根底にあったが、家庭電化商品の普及や出生率の低下など、によって家事労働が軽減されるとともに、子育てから解放された家庭の専業主婦が、雇用労働へ再登場して就業する傾向が目立ち始めていた。いわゆる年齢別労働力率のM字型カーブの形成である。
 ところが、彼女たちの多くが独身時代に身につけてきた事務的書記的労働への再就職は必ずしも円滑に進まなかった。というのは、これらの労働需要はもっぱら大規模経営や公務労働で、いずれの中途採用者へ門戸を閉ざす、いわゆる「企業閉鎖的労働市場」であったためである。・・・
 派遣システムは、中途採用市場での求人と求職のマッチングに役立つ需給システムであると考えててきた私は、派遣に当たって「登録型」を認める必要があると考えた。その理由は次の事実に注目したからである。求職者のニーズは、フルタイマーとして正社員と同様の勤務形態を望むものは少数派で、自己のライフスタイルや家庭生活との調和を考えて働きたいという女性が多数派であった。また、専門的知識と経験を必要とする専門職への求人には、通訳や速記など単発的でアドホックな求人があること、また書記的業務でも、複数の者が交替しても仕事が処理できる性質の仕事であることなど、必ずしも「常用雇用形態」である必要性は少ないことに注目したからである。
 労働者派遣法では、私は、こうした女子労働者の職業選択行動を念頭において、専門的知識と経験を必要とする業務に限定するポジティブリスト方式の採用と、これに登録型派遣制度を採り入れた派遣法案を労働大臣に建議したのである。

 
 この高梨氏が、同じ論文の中で「雇用・解雇を自由に行える労働市場流動化政策」、「労働ビッグバン」を手厳しく批判し、「労働の世界を焼け野原にしてしまった」とまで非難しているのは興味深い。なぜなら、上で書かれたような職業選択行動をとる女子労働者だけが登録型派遣労働者である間は良かったのに、ネガティブリスト化によって若い男性労働者までがその世界に放り込まれたために悲惨な事態がもたらされたと主張していることになるからだ。
 いうまでもなく、男女均等法と同年に成立した派遣法には、女性ならば登録型で派遣しても良いが、男性は常用型に限るなどという性差別的な規定は存在しない。この高梨氏の立法意図と派遣法の文言とをつなぐものは何だったのか。その秘密は、高梨氏が「原点に帰れ」と主張するポジティブリスト方式の「業務」にあった。高梨氏は上記論文で「これらの業務は専門的職業別労働市場として外部労働市場を形成しており、終身雇用・年功制で形成されている企業内労働市場とは競合しない市場」であり、「いわゆる「常用代替」は起きえない」と述べている。後期中等教育を受けた女子による「複数の者が交替しても仕事が処理できる」程度の「事務的書記的労働」が専門的外部労働市場を形成していたなどという話は聞いたことがないが、「終身雇用・年功制で形成されている企業内労働市場とは競合しない市場」を男性正社員システムのことと理解すれば、その外側であることは確かである。つまり、結婚退職することを前提とするはずの女性正社員が登録型派遣に「常用代替」される限り、男性正社員の雇用の安定に直接影響はないという判断だったのだろう。
 それにしても、「事務的書記的労働」が外部労働市場を形成するほどの専門的業務であるという論理の飛躍は、そのままでは通らない。そこで派遣法制定時に政令で、実は一般事務職の仕事を指していながら、文言上はいかにも専門業務めいた雰囲気を醸し出す「業務」が発明された。この時指定された「専門的業務」のうち、5号の事務用機器操作は職場にパソコンが登場して間もない26年前という時代を考えればなお「専門的」と言って言えないことはなかったかも知れない(それにしても90年代以降にコンピュータが扱えない一般事務職というのが存在し得たとは思えないが)。しかしとりわけ8号の「ファイリング」は、未だかつて労働行政が用いる「職業分類表」に細分類としてすら登場したことのない虚構の「業務」であった(この点については、竹内義信『派遣前夜』及び、これをもとにした拙著『新しい労働社会』p88の記述を参照。)。4半世紀の間、「はだかの王様」の寓話の如く、誰も本気では専門職だなどとは考えていない「業務」を専門職であると信じているフリをすることで、この微妙な秩序は維持されてきた。
 この「虚構」の毒が自家中毒を起こしたのが、2010年2月に出された『専門26業務派遣適正化プラン』であった。派遣法制定時にそういう女性の事務的書記的労働を登録型派遣で認めようと想定していたまさにその業務が、理屈付けのために専門業務めかした表現をされた政令の規定を杓子定規に解釈されることによって、本来許されない業務であったことになってしまったわけである。そして、その混乱が、2012年派遣法改正時の国会附帯決議において
 
いわゆる専門26業務に該当するかどうかによって派遣期間の取扱いが大きく変わる現行制度について、派遣労働者や派遣元・派遣先企業に分かりやすい制度となるよう、速やかに見直しの検討を開始すること。
 
と書かれることをもたらし、今回の改正の提案に至ったのである。
 政令上にのみ存在した虚構の「ハケンの品格」は、実はありもしない幻であった以上、それに代わるものは、直用であれ派遣であれ、常用であれ登録型であれ、等しく適用されるべき「労働者の品格」以外にはないはずである。労働側が主張すべきは、いつまでも常用代替防止という虚構にしがみつくことではなく、派遣労働者であるがゆえに他の雇用形態と異なる取扱いを受けるような事態をなくす方向での制度改正ではないか。

2015年9月24日 (木)

「日本とドイツの分岐点」 @『労基旬報』2015年9月25日号

『労基旬報』2015年9月25日号に「日本とドイツの分岐点」を寄稿しました。

ちょびっと専門的なテーマですが、中に分け入るとけっこうアクチュアルなトピックでもあります。

 日本型雇用システムの特徴である年功賃金制度の起源については諸説さまざまであることは知られていますが、戦後急速に広まった原点が有名な電産型賃金体系であり、その源流が戦時体制下の賃金統制にあったことは多くの人の認めるところでしょう。戦時体制はさまざまな点でナチス・ドイツの体制を見習い、特に労働組合を否定したドイツ労働戦線に倣って産業報国会という労使一体型の組織を作ったりしています。実際、ナチス・ドイツの労働政策を見ると、企業を経営共同体と位置づけ、企業家は指導者(フューラー)、労働者は従者(ゲフォルグシャフト)とされていますので、賃金制度についてもナチス・ドイツの影響ではないかと想像するのは不思議ではありません。

 ところが、いろいろと調べてみると全く逆で、アメリカに続いてドイツが職務評価制度を確立し、ジョブ型の賃金制度を確立したのは、実はナチス・ドイツ時代だったのです。ワイマール末期、ナチスの政権獲得直前の1930年前後に、幾つかの研究機関が職務評価の技法を考案し、ヒトラーが権力を握った頃から職務評価に関する出版物が多くなりました。1941年ドイツ帝国産業団体の社会経済委員会が基準職務例を伴った等級価値数法を発表するとともに、ドイツ労働戦線の労働科学研究所も職務評価に関する研究を進め、等級価値数法を公表しています。翌1942年、ドイツ労働戦線とドイツ帝国産業団体の共同研究により賃金分類法であるLKEM法が完成し、鉄鋼、金属、電機産業の全事業所に適用されました。戦後はREFA(ドイツ作業研究連盟)の手でさらに職務評価が進められ、DGB(ドイツ労働総同盟)の作業研究も進展し、1960年代にはドイツ労働者の約3分の2に職務評価が適用されるに至ったということです。

 一見戦時体制下の日本のモデルであったように見えるナチス・ドイツが、少なくとも賃金制度の思想においては全く対極的な位置にあったというのは、いろいろな意味で興味深い現象です。日本とドイツの分岐点は戦時体制にあったのです。ただ、日本の賃金制度の歴史をたどっていくと、戦争直前の時期のある動きは、むしろ年功賃金を否定し、職務給を確立する方向性を打ち出していたことが分かります。昭和初期には賃金制度の合理化がブームになり、1932年に当時の商工省臨時産業合理局生産管理委員会が発表した『賃金制度』に関する提案は、「職務給確立ノ必要」を説いていました。職務給とは「仕事ノ難易ニ比例スル基本給」であり、「スナワチ仕事ノ種類ニヨッテ、コレラ欧米ノ例ノ如ク数段階ニ分類シテ、ソノ各々ニ対シテ一定ノ基本給額」を樹立すべきというのです。そしてそのために、
(イ)作業ヲ遂行スルニ要スル技倆、経験、知識、体力、責任ノ軽重、並ニ健康上ニ及ボス影響等ヲ考慮シ、其程度ニ応ジ、之を仕事ノ性質ニヨッテ数箇ニ分類シ、各段階別に、其属スベキ重ナル仕事を列挙スル
(ロ)職場中ノ労務者各人ニツキ、現在主トシテ従事シツツアル仕事ヲ調査シ、前項仕事別ノ分類ニ従テ人名ヲ列記スル
(ハ)前項ニヨリ分類シタル労務者ニ対スル日給ノ平均額ヲ求メ、多少ノ修正ヲ施シテ、之ヲ各仕事階段ニ対スル職務給トスル
といった設定方法を指示し、さらに上級の職務に移す場合は必ず欠員がある場合に限定せよとまで言っています。

 これを見ると、ほぼ同時代のドイツと同じような問題意識で職務評価制度を導入しようとしていたことが分かります。このまま行けば、日本もドイツやアメリカと同様に職務給が確立していたはずですが、日本の賃金制度思想はこの後急転回し、生活賃金へ、そして年齢と家族数による賃金へと向かっていくのです。そしてそれをそのまま受け継いで電産型賃金体系が確立し、戦後日本の賃金制度の基本構造を形成することになります。

 ナチス・ドイツと軍国日本のどこが同じでどこが違っていたのか、社会のさまざまな側面で議論の尽きないところですが、労働のあり方という一局面だけで見ても、かくの如く一見似たような方向の政策を採りながら、細かく見ると全く逆方向の制度を推進していたりしているので、気を抜くことができません。

判例評釈:日本雇用創出機構事件@『ジュリスト』10月号

1369_o『ジュリスト』10月号は知財紛争が特集ですが、判例評釈にはわたくしの日本雇用創出機構事件への評釈が載っています。

http://www.yuhikaku.co.jp/jurist/index.html

[労働判例研究]

◇再就職支援のための出向受入事業――日本雇用創出機構事件――東京地判平成26・9・19●濱口桂一郎……127

これは、いわゆる「追い出し部屋」関連判決の応用問題的な性格を有する判決です。

事案そのものについては、一昨年に東洋経済の記事がありますので、ご参考までにですが、いうまでもなく、評釈は判決文に即して行っています。

http://toyokeizai.net/articles/-/20066(半沢直樹もたまげる、究極の「出向先」)

法解釈学的な評釈に加え、ここでは若干の法社会学的なコメントも付け加えております。

・・・本判決では、出向という形式にこだわって、出向命令権を前提としつつ、その行使が濫用にわたるか否かをまず「業務上の必要性と人選の合理性」において判断している。しかし、ここで論じられていることは実際には、F社がXを再配置要員と位置づけたこと、社内に就業先を用意できないと判断したことの是非であり、実質的にはむしろ(社内に就業先がないことを前提として)再就職支援の受援を命じたことの必要性、合理性を論じているというべきである。

この点について、本件の特徴は、Xが社内に留まることを希望し、出向命令に対しては異議を留めて従っているなど、出向という形式には完全に同意していないことを明示しているが、社内にXの適切な就業先がないことについては必ずしも反論しておらず、とりわけ昭和63年の入社から会社分割による労働契約承継直後の平成16年まで16年以上従事してきたシステムエンジニアの業務について、適性がないとのF社側の判断に何らの反論もしていない点である。少なくとも16年間当該労務を受領してきたF社側に「適性がない」と判断する根拠を示す責任があるはずであるが、Xはそのような主張を一切行っていない。Xが社内に自らがその適性能力に応じて遂行しうる業務が存在しているという積極的な主張をしていない以上、Xを再配置要員として位置づけることから論理的に帰結されるようなF社側のさまざまな言動についても、執拗な繰り返しや恫喝等手法における違法性がない限り、その動機や目的を不当と判断することは困難と言わざるを得ない。

本件から窺われるのは、XにもF社にも、「能力」や「適性」を具体的な職務との関係ではなく、「全ての希望部署から受入れを断られ・・・」といった人間関係的な問題としてしか考えない姿勢である。労使双方がかかる日本的な共同体的企業観を共有しているからこそ、本件は、「社内に適切な就業先がない」者を出向させるべきか、そうでないか、という、「出向という形式のみにとらわれ」た奇妙な対立図式に陥っている。

できるジョブがあるかどうかではなく、もっぱらメンバーシップのみが問題になるというところに、当事者は意識していない日本型雇用システムの影響が見て取れます。

2015年9月23日 (水)

結構ラディカルな高専改革案

日刊工業新聞に載っている記事ですが、残念ながら自民党のHPに行ってもこの記事のソースが見つからないので、原資料主義の本ブログで取り上げるのはやや時期尚早なのですが、内容が興味深いので、あくまでも業界紙の記事という前提で紹介しておきます。

http://www.nikkan.co.jp/news/nkx1520150923abaj.html (自民党、高専改革の提言を了承-工業高校の高専化による全県設置など検討)

自民党政調文部科学部会は、議員連盟で検討していた高等専門学校(高専)改革の提言を了承した。提言は、修業年限と学位のあり方、県立工業高校の高専化による高専の全県設置などについて今後研究、検討することと記した。・・・

その具体的な内容の中には、

修業年限と学位については、本科卒業生への学位授与や、現在は本科5年間の課程を6年間にして大学卒業と同等の扱いにし、大学卒業生よりも早く大学院に進めるようにするなどの意見がある。・・・

というのがあります。6年制の高専?ということは、

案の一つとして、本科の修業年限を1年延ばして教育の種類や内容を大学並みにし、大学卒業生と同じ扱いにすれば、高校―大学のコースを取った学生より早く大学院に進めることになる。・・・

高校大学学部経由だと7年かかるところを高専経由だと6年で済むという話ですね。

高専創設の事情を振り返ると、1951年の政令改正諮問委員会答申が、高校と大学を合わせた5~6年制の職業教育に重点をおく専修大学の創設を求め、また1958年の中央教育審議会の答申が5~6年制の技術専門の学校を早急に設けることを求め、文部省がいわゆる専科大学法案を国会に提出しましたが、短大関係者の強い反対で審議未了が続いたため、中堅技術者養成のための専門教育機関として高等専門学校を創設する法案を国会に提出し、1961年成立に至ったという経緯があります。

それからもう60年近く経ち、世の歯車が大きく一回転して、再び高等教育レベルにおける職業教育が政策課題になるようになり、そして高専の見直しという話にも繋がってきたようです。

2015年9月22日 (火)

あんぐり

9784569826783 たまたま宇田川敬介著『ほんとうは共産党が嫌いな中国人』(PHP新書)という本を見つけて読み出したのですが、冒頭の数ページにして既に、

・・・また、満州事変の時に日本に協力して満州を束ねた「張作霖」も、いずれも軍閥の一つでしかない。・・・

え?張作霖が満州事変で日本に協力した?そのすぐあとに

・・・実際に、北洋軍閥奉天派の首領張作霖は、中華民国に抵抗し、旧皇帝の血統である愛親覚羅溥儀を立てて満州国を建国することを夢見るようになり、そのまま中華民国の対抗勢力として日本と手を組むことになるし・・・

ここまで書いているところを見ると、書き間違いではなさそうです。でもそうすると、息子の張学良はどういう立場?

さらにこんなのも、

清帝国を滅ぼした辛亥革命は1911年に発生する。この革命によって清帝国が倒されたため、モンゴルのボグド・ハーンも、清帝国から独立する。背景にはスターリンの支援があった。またチベットも、このときに独立している。

ボグド・ハーンというなかなか玄人的な知識が出てくるのに感心したのもつかの間、1911年にスターリンが支援している!確かこの頃、コバこと同志ヨシフ・ジュガシビリは流刑地にいたはずだが。

第1章のほんの数ページの間にこれだけの世界史をひっくり返す新知見が展開されると、さすがにそれ以上先を読む気が失せかけますが、そこをぐっとこらえて次の章に移ると、あとは、

著者はかつて破たん前のマイカルに勤め、中国随一のデパートとなったマイカル大連の責任者であった人物。ゆえに、共産党上層部から、店の従業員や取引業者まで、あらゆる階層の中国人と懇意となり、今もその独自の人脈を生かして取材活動を行っている。大国の実像を知り、今後の行方を占うために、彼らの生の声に是非触れてもらいたい。

という惹き文句の通り、著者が中国で経験したいろんな階層の人々の話が繰り出されて、それはそれなりに興味深いものがあります。

それにしても、この第1章の潜在的読者に対する破壊的効果はかなり大きなものがあるのではないかと想像され、出版の前にせめて高校の世界史の教科書くらいはざっと読んで直せるものは直しておいた方が良かったのではないかと愚考するところです。

逆では?

金子良事さんのつぶやき:

https://twitter.com/ryojikaneko/status/646027409108566016

つらつら思うに、日本にソーシャル、社会的なもの、が根付かなかったことの原因は、普通選挙が時期尚早だったことがあげられる気がする。20年代というタイミングも悪かった。

逆じゃないかと思いますが。

確か最近、坂野潤治さんが言ってたと思うけど、、もう少し早く、例えば原内閣の時に普通選挙になっていて、戦間期にある程度無産政党が自立した勢力を持つようになっていれば、30年代になってからの「ソーシャルを求めてナショナルと手をつなぐ」という方向にばかりは行かなかったのではないか、という気がします。

というか、私の言い方でいえば、実は日本でもある意味でソーシャル、社会的なもの、が根付いたんですよ。30年代後半以降の社会政策の急速な進展は、国家社会主義的な偏奇をもちつつも、日本社会に間違いなくソーシャルな刻印を刻したのであって、その影響は戦後日本社会を色濃く彩っている。

4623040720 120806 というのが、11年前に書いた『労働法政策』のテーマであり、最近では『福祉と労働・雇用』の序章で論じたところでもあります。

2015年9月20日 (日)

PHP総研の『新しい勤勉(KINBEN) 宣言』

150916_1PHP総研というシンクタンクが『新しい勤勉(KINBEN) 宣言』なる提言書を発表しているようです。

http://research.php.co.jp/research/fiscal/policy/kinben.php

なにぃ?勤勉の勧め?と一瞬感じるかも知れませんが、中身はむしろ今までの「勤勉」を見直そうということのようです。

ていうか、中身に入る前に、これをまとめた「PHP総研「新しい働き方」研究会」のメンバーを紹介すると、

小峰 隆夫/法政大学大学院政策創造研究科教授 ※座長

磯山 友幸/経済ジャーナリスト

小島 貴子/東洋大学理工学部生体医工学科准教授

小林 庸平 /三菱UFJリサーチ・アンド・コンサルティング副主任研究員

鈴木 崇弘 /城西国際大学大学院国際客員教授/PHP総研客員研究員兼コンサルティング・フェロー

永久 寿夫/政策シンクタンクPHP総研 代表

福家 明子/四国市民政策機構株式会社代表取締役

村田 啓子/首都大学東京大学院社会科学研究科教授

そう、本ブログでも何回かとりあげたことのある小峰さんが座長です。

中身は提言書の目次を見ると一目瞭然ですが、

1.「新しい勤勉(KINBEN)」とは

2.「新しい勤勉(KINBEN)」3つの原則

 [原則1]生涯にわたって多様かつ柔軟に働くことができる社会をつくる

 [原則2]幸福感と生産性とを両立させる

 [原則3]マネジメント力と自律力の向上で調和をはかる

3.「新しい勤勉(KINBEN)」7つの提言

 [提言1]雇用契約の締結を義務付ける

 [提言2]個人の総労働時間に規制をかける

 [提言3]学校教育で「働き方」のリテラシーを高める

 [提言4]多様な働き方を可能にする「3We」の雇用環境をつくる

 [提言5]企業は自社の「働き方」に関する方針や情報を開示する

 [提言6]官民で「新しい働き方」を支えるマネジメントとシステムを確立する

 [提言7]「新しい働き方」を促進する「新しい場」を創出する

4.「新しい勤勉(KINBEN)」で経済と財政はどう変わるのか

提言そのものはこちらですが、

http://research.php.co.jp/research/fiscal/pdf/150916.pdf

こちらの細目次を見ると、例えば[提言2]の労働時間規制については、

①総労働時間を規制して生産性向上を促す

②労働時間貯蓄制度を設置する

③残業課徴金を創設し就労支援に活用する

といった項目が、また[提言5]には、

①「働き方」の実態を具体的に公開する

②政府は情報公開に積極的な企業を顕彰する

③新卒クラスター採用とジョブ型雇用を促進する

なんてのがはいっていますな。

あと、座長の小峰さんと小島、永久両氏との鼎談形式で、

http://www.kaeruchikara.jp/article/1855/?Page=1

提言の中身を解説しています。

その中で小峰さんがこう喋っているのは、この提言のポイントをよく示していると思います。

小峰 この四つは、私が特に重要だと思ったポイントです。「多様化」を実現するには、まず「明確化」が必要です。提言の中には「雇用契約をきちんと結べ」というのがありますが、日本の就職って何となく、企業のメンバーになるという感じで、あとのことにはあまり関心が向かない。だけど、それは実は暗黙のうちに無限定な働き方を企業と契約しているということです。無限定と多様は似て非なるのもので、無限定はいわば企業の選択、多様は働く人の選択でやれるということです。働く側は、自分がどういう働き方を選択したのかを自分自身が理解した上で就職しないといけません。

 企業による「情報公開」も重要で、公開すべき内容は労働時間、離職率、有休取得率、女性の比率など、いろいろあります。かねてから発表したらいいと思っていたのは「子宝率」、つまり企業別の合計特殊出生率です。要するに、こうした客観的な指標が公開されれば、これから働こうと思う人、そしてサービスやモノを買おうとする人にとっても、その企業を評価しやすくなる。企業側にとっては、評価されることは、自己改革のためのモチベーションにもなる。

Event_150916 なお塩崎厚生労働大臣に手渡ししているようで、その写真も載ってます。

モデル就業規則の影響力

みずほ総研さんが、ここんとこジョブ型、メンバーシップ型に熱中しておられるようで、ジョブ型・メンバーシップ型に関する意識調査結果 シリーズコラムの第(4)弾として、

http://www.mizuho-ir.co.jp/publication/column/2015/hrm0918.html

この冒頭で、

厚生労働省のモデル就業規則では、人事異動に関し次のような条文例が示されている(*1)。

(人事異動)

第8条会社は、業務上必要がある場合に、労働者に対して就業する場所及び従事する業務の変更を命ずることがある。

2会社は、業務上必要がある場合に、労働者を在籍のまま関係会社へ出向させることがある。

3前2項の場合、労働者は正当な理由なくこれを拒むことはできない。

これを参考に就業規則を作成している企業は多い。しかし、実際には「就業する場所も従事する業務も変更を命じられることなどまずないだろう」と思っている労働者が、かなり多いのではないか。

ここからがコラムの本論ですが、そちらはリンク先を読んでいただくとして、ここではむしろ、実態としてはジョブ型に近い中小企業、女性、一般社員であっても、拘束力のある就業規則の上ではメンバーシップ型の人事異動が規範化されているという、ある意味の「ずれ」に注意を喚起しておきたいと思います。

これは、意外にきちんと認識されていないところで、そこのところを指摘したのが、昨年11月の規制改革会議に呼ばれたときにお話しした点です。

http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/committee3/141110/gijiroku1110.pdf

○濱口統括研究員 幾つかの議論のレベルがあるのですが、まず規範という意味で言うと、日本社会において何があるべき姿か、正しいかという意味で言うと、これは昔から二重構造論で繰り返し言われていることですが、大企業のモデルが正しい、あるべき姿で、我々は中小・零細だからなかなかそれはできないけれども、例えば、賃金カーブも到底なかなかそんな大企業みたいに急速に上がっていかないけれども、だけれども、それは上がる方が正しいので、うちは零細だからなかなか上がらないけれども、それはいつかは、明日は大企業になろうみたいな、そういう意味での規範性が非常に強いということがあります。これは意識としての規範性です。

 次に判例法理という意味で言うと、どうしても弁護士費用を払って何年も裁判できるのは大企業の正社員たちですので、彼らの実態を踏まえた形で判例が積み重なってきます。現実には中小零細企業を見ると、判例とは全然似ても似つかないような実態というのは山のようにございますが、しかし、政府の審議会などの場で、労働はいかにあるべきか、ということを議論すると、どうしてもそういう大企業正社員モデルでもって、それを基盤として議論されてしまうということがございます。

 そういう意味で、意識的あるいは判例法理的な意味での規範性というものが厳然とある以上、それをデフォルトとする考え方が個々の中小企業にも影響を及ぼしております。具体的には、普通、多くの日本の中小企業は世間で出回っている就業規則のひな形をほぼそのまま使っております。そのひな形には大体、「必要があれば配置転換を命ずることがある」とか、「必要があれば残業や休日出勤を命ずることがある」と必ず書いてあります。わざわざそこを消しておりません。ということは、現実には配置転換を命ずることはなくても、あるべき姿としてはそういうふうに書いてあるわけです。つまり中小企業であっても、就業規則という形をとったデフォルトモデルは、大企業モデルになっているということがあろうかと思います。

 一方で、そういう議論をするとともに、現実の特に中小・零細企業は必ずしもそうではないんだよという話もしていかなければならないと思いますし、雇用ワーキングでも一度そういう話をさせていただいたこともございます。ただ、どうしても規制改革とかこういうことを議論する際には、規制そのものが頭の中のイメージでは大企業正社員型のモデルあるいは大企業正社員を前提とした女性の働き方のモデルあるいは非正規のモデルということになってしまいますので、やはり形としてはそこから議論をしていく必要があるわけです。もちろん、今、言われたことは非常に重要なことでもありますので、そこは両にらみの形で議論をしていく必要があろうと思っております。

2015年9月19日 (土)

17歳アイドル 異性交際規約違反で65万賠償命令

Mecha_prof_talentcom 雑件ではありません。

れっきとした労働法上の問題、就業規則の合理性判断の問題、実定法でいえば労働契約法第7条の問題です。

http://www.nikkansports.com/entertainment/news/1540235.html

アイドルグループのメンバーだった女性(17)が異性との交際を禁じた規約に違反したとして、マネジメント会社などが女性に損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は18日、「交際発覚はアイドルのイメージを悪化させる」と規約違反を認め、65万円の支払いを命じた。

判決によると、女性は2013年3月に会社と契約を結び、交際禁止を定めた規約を受け取り、6人グループで7月にデビュー。ライブやグッズ販売をしていたが、女性が男性ファンに誘われ2人でホテルに行ったことが発覚し、グループは10月に解散した。

女性は「交際しないことが女性アイドルの不可欠の要素ではない」と主張したが、児島章朋裁判官は「男性ファンの支持を得るため、交際禁止の条項が必要だった」と判断し、解散の責任は女性にもあると指摘。支払われた衣装代やレッスン費用の一部を負担するよう命じた。

記事には「規約」とありますが、契約締結時に交際禁止を定めた規約を受け取り云々とありますから、このアイドルとして就労する契約が労働契約である限り、規約は就業規則に当たり、その「合理性」が拘束するかどうかを決定することになります。

『労働判例』とかがちゃんと掲載してくれるかどうか心配ですが。

(追記)

コメントにあるとおり、芸能人の労働者性は大きな問題です。

というわけで、本ブログの名物(?)「・・・の労働者性」シリーズお蔵出し。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/09/post-dc7b.html (タカラジェンヌの労働者性)

うぎゃぁ、チケットのノルマが達成できないと「タレント契約」打切りですか。

これは、古川弁護士には申し訳ないですが(笑)、歌のオーディションでダメ出しされた新国立劇場のオペラ歌手の人よりもずっと問題じゃないですか。

売り上げノルマ達成できないからクビなんて、まあ個別紛争事例にはいくつかありますけど、阪急も相当にブラックじゃないか。これはやはり、日本音楽家ユニオン宝塚分会を結成して、タカラジェンヌ裁判で労働者性を争って欲しい一件です。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/09/post-8a7f.html (ゆうこりんの労働者性)

Enn1108161540005p1_2 この「実態は異なる」という表現は、労働法でいう「実態」、つまり「就労の実態」という意味ではなく、業界がそういう法律上の扱いにしている、という意味での「法形式の実態」ということですね。

そういう法形式だけ個人事業者にしてみても、就労の実態が労働者であれば、労働法が適用されるというのが労働法の大原則だということが、業界人にも、zakzakの人にも理解されていない、ということは、まあだいたい予想されることではあります。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/09/post-f75b.html (タレ・スポの労働者性と育成コスト問題)

これは、実は大変深いインプリケーションがあります。芸能人やスポーツ選手の労働者性を認めたくない業界側の最大の理由は、初期育成コストが持ち出しになるのに足抜け自由にしては元が取れないということでしょう。ふつうの労働者だって初期育成コストがかかるわけですが、そこは年功的賃金システムやもろもろの途中で辞めたら損をする仕組みで担保しているわけですが、芸能人やスポーツ選手はそういうわけにはいかない。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/09/post-d5d3.html (芦田愛菜ちゃんの労働者性)

20110920_ashidamana_02 芦田愛菜ちゃんが労働基準法上の労働者であることには何の疑いもないからこそ、上の労基法61条5項をすり抜けようとして、こういう話になるわけですね。

そして、そうであれば、そもそもの労働時間規制が「修学時間を通算して1週間について40時間」「修学時間を通算して1日について7時間」であり、かつ小学校は義務教育ですから、その時間は自動的に差し引かれなければなりませんから、上の「朝から晩までずっと仕事漬けの日々」というのは、どう考えても労働基準法違反の可能性が高いと言わざるを得ないように思われます。

まあ、みんな分かっているけれども、それを言ったら大変なことになるからと、敢えて言わないでいるという状況なのでしょうか。

ところで、それにしても、芦田愛菜ちゃんのやっていることも、ゆうこりんのやっていることも、タカラジェンヌたちのやっていることも、本質的には変わりがないとすれば(私は変わりはないと思いますが)、どうして愛菜ちゃんについては労働基準法の年少者保護規定の適用される労働者であることを疑わず、ゆうこりんやタカラジェンヌについては請負の自営業者だと平気で言えるのか、いささか不思議な気もします。

ゆうこりんやタカラジェンヌが労働者ではないのであれば、愛菜ちゃんも労働者じゃなくて、自営業者だと強弁する人が出てきても不思議ではないような気もしますが。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2014/08/post-6d6a.html (正規AKBとバイトAKBの処遇格差の合理性について)

2040819_201408110738045001407721125 ふむ、さすがに労働基準法には違反しないようにと、細かく考えられているようですが、この有期雇用契約による非正規労働者たちの時給1000円という処遇については、正規AKBメンバーとの業務内容等の相違に基づき、合理的な説明がちゃんとできるようになっているんですよね、秋元さん。

以上が芸能関係。スポーツ関係では、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2007/08/post_c64e.html (力士の労働者性)

ちなみに、民法の方々には疾うに周知のことと存じますが、旧民法においては、「角力、俳優、音曲師其他ノ芸人ト座元興業者トノ間ニ取結ヒタル雇傭契約ニ之ヲ適用ス」(265条)という規定がありました。現行民法制定時にもこれらが外れたわけではありません。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2007/10/post_fd03.html (時津風親方の労働者性)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2007/10/post_bbf0.html (幕下以下は労働者か?)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2008/09/post-d31a.html (力士の解雇訴訟)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2009/08/post-352f.html (プロ野球審判員は請負契約か?)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/02/post-b776.html (朝青龍と労働法)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/11/by-916f.html (力士をめぐる労働法 by 水町勇一郎)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/02/post-4251.html (力士会は労組として八百長の必要性主張を@水谷研次さん)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/09/post-2ce8.html (力士の労働者性が労働判例に)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2014/03/post-ed77.html (大学アメフト選手の労働者性(米))

あと巫女さんてのもありました。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/11/post-00c0.html (神の御前の労働基準法)

アニメの主人公も。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/07/post-b9d7.html (キキを見てこういう感想を持つたぐいの人々)

>魔女の宅急便のキキは、労働組合も作らないし、首になっても割増退職金も要求しない。セクハラだパワハラだと訴えない。今の労働者も見習うべき。

藤沢氏やその周辺のあごらな方々の理想とする労働者像がどのようなものであるかがよく窺われる大変正直なつぶやきです。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/07/post-5cbb.html (キキの民法と労働法)

さて、セクハラだパワハラだと訴えられないような13歳の少女労働者を雇うのが大好きな某金融関係者はともかくとして、キキについては個人事業主ではないかという指摘が。

それ以外、順不同。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2009/11/or-a4d2.html (河合塾非常勤講師の労働者性)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/10/post-21bc.html (僧侶は労働者?破門は解雇?)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/10/post-166f.html (司法修習生の労働者性)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/03/post-ac03.html (英会話学校講師の労働者性(GABA事件評釈))

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2015/08/post-7e91.html (「トルコ娘」の労働者性)

というわけで、「○○の労働者性」シリーズ、今回は1960年代前半という高度成長期ただ中で、当時新たな風俗営業として展開していた「トルコ風呂」で働く18歳未満の児童「トルコ娘」をめぐる裁判例です。

あと、労働者性の問題ではないけれど、労働基準法が適用除外されている「メイドさん」についてのやや詳しい解説。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/05/post-3967.html (メイドさんの労働法講座)

なのですが、若干突っ込んでおくと、、家事使用人も民法上の雇用契約であることに変わりはないので、個別労働関係法においてもたとえば労働契約法上の労働者であることに何の疑いもありません。労働者ではあるけれども、労働基準法のさまざまな労働者保護規定が適用されず、使用者の非道な行為について労基法違反として労働基準監督署に訴えることができないという点が異なるだけで、民法の公序良俗規定や一般原則としての権利濫用法理(何をどう濫用したんだか・・・)に基づいて裁判所に訴え出ることは可能です。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/01/post-57ea.html (ミタさんは労働者ですよ)

2015年9月18日 (金)

雇用仲介事業検討会

一昨日開かれた第6回雇用仲介事業等の在り方に関する検討会の資料がアップされています。

http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000097954.html

ヒアリング対象は、まず連合非正規センターの村上陽子さん、

それから各国事情ということで、西南学院の有田謙司さん、JILPTの北澤さん、そして名古屋大学の徐侖希さんがそれぞれ、イギリス、フランス、韓国について述べたようです。

徐さんは名古屋大学に移って早速ですね。

この資料を見ると、韓国の労働市場法制は日本と似ていますが、一点、職業情報提供事業についても申告制という形で規制をかけている点が違うようです。

http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11601000-Shokugyouanteikyoku-Soumuka/0000097958.pdf

なかなか興味深いです。

2015年9月17日 (木)

出口治明『日本の未来を考えよう』

51zdvswkcl__sx344_bo1204203200_ある方から、出口治明『日本の未来を考えよう』(クロスメディア・パブリッシング)をお送り頂きました。ありがとうございます。

http://www.cm-publishing.co.jp/9784844374251/

出口さんと言えば、ライフネット生命保険株式会社 代表取締役会長兼CEOであるとともに、最近は経済界きっての教養人として大活躍の方ですが、本書はまたちょっと趣を変えて、さまざまなデータを駆使して、「“知る”ことから“明るい未来”がはじまる。」と、今日の日本の姿を浮き彫りにする本です。

僕が常々思っていることは、「人間は次の世代のために生きている」ということ。
団塊世代の僕がこれからを担う若い世代にできること。
それは少しでも未来が明るい方向に進むように、情報を発信しつづけること。
ぜひ、日本の未来を明るいものにするため、日本の未来について一緒に考えてみませんか?

使われたデータの出所がサポートページでリンクが張られているのも有用です。ていうか、ソースを確認するという基本のキを忘れたヒョウロン家がやたらに多いわけですが。

http://www.cm-publishing.co.jp/think_the_future.html/

中身は下の目次のように実に広範な分野にわたっていますが、

はじめに

序章 「知っているようで知らない日本」のおさらい
・日本の経済規模は世界4位
・市民1人あたりの生活水準はアジアで5位
・もはや日本経済に高成長は望めない?
・長期デフレと賃金下降は先進国で日本だけ
・不老長寿の夢を実現した日本
・世界一の「超高齢」社会を突き進む
・日本の広さは世界9位!?
・最も人口密度が高い国はどこ?
・世界ダントツの巨大都市「東京」
・日本は安全? それとも危険?

第1章 借金編
・世界一の公的借金大国ニッポン
・日本の公的借金が増えつづけるワケ
・株価と為替で見る日本の現実
・世界一の貿易黒字国に赤信号
・日本の低い失業率にはワケがある

第2章 人口編
・50年後、働く人の数は半分に
・「小負担・中福祉」という理想郷のような国
・巷にな流れる「公的年金破綻説」は正しいか
・高齢者医療と多死社会を考える
・日本の医療は世界一効率的かつ非効率!?

第3章 カルチャー編
・健康にまつわる国際比較
・日本人と言語と宗教
・マスメディアを信用しすぎる日本人へ
・1人暮らしが主流へ!

第4章 政府と軍事力編
・日本は世界に稀に見る小さな政府!
・日本の議員は世界一“美味しい商売”⁉
・日本は軍事大国?

第5章 治安編
・日本の警察は優秀か?
・日本は自殺大国なのか?

第6章 教育編
・日本の義務教育の特徴って何?
・日本人の英語力は世界最低水準
・日本の大学改革まったなし

第7章 国際競争力編
・国際社会で薄れ行く日本の“存在感”
・国際化はインフラの整備からはじまる
・国際競争力ランキングで見る日本の実力
・日本人の働き方は非効率的である
・「大企業病」に蝕まれる日本

第8章 新しい産業編
・観光大国を目指せ!
・いびつな農業政策
・島国ニッポンの漁業が衰退しているワケ

第9章 女性編
・女性の活躍の場が少ない日本
・「安心して子どもを産める社会」の実現に向けて
・日本の結婚観はもう古い!?

第10章 インフラ編
・日本の交通インフラはどれくらいスゴイのか?
・世界一の通信インフラを持ちながら活かせない日本

第11章 環境・エネルギー編
・日本は環境大国になりえるか?
・日本のエネルギー資源を考える

巻末付録 ドイツとの徹底比較!

おわりに

残念ながら「労働」という章立てはありませんが、第7章の中の「日本人の働き方は非効率的である」は、労働生産性の国際比較、年間労働時間の国際比較、有給休暇消化日数の国際比較などを見せながら、いかに日本人の働き方が非効率かを説得的に示しています。

大部分は、そうした事実に語らせている叙述ですが、その最後にぽつりとこういうコメントがつけられていて、出口さんが物事の本質がよくわかっておられることをよく示しています。

・・・日本の労働時間が長い理由は、日本の企業では未だに根拠なき精神論がまかり通っているからです。上司より早く帰ることは許されない。多少ノ風邪では病欠などできない。。家族よりも仕事を優先、などなど。終身雇用と年功序列システムがようやく崩壊し始めているにもかかわらず、未だに社員の忠誠心を強要する企業が数多く存在します。これでは労働生産性の向上という言葉がつけいるスキはありません。

2015年9月16日 (水)

勤務場所不定労働者の「通勤」時間は労働時間

去る9月10日、EU司法裁判所は労働時間に関する興味深い判決を下していました。

http://curia.europa.eu/jcms/upload/docs/application/pdf/2015-09/cp150099en.pdf

The journeys made by workers without fixed or habitual place of work between their homes and the first and last customer of the day constitute working time

Excluding those journeys from working time would be contrary to the objective of protecting the safety and health of workers pursued by EU law

固定したまたは通常の勤務場所を有さない労働者がその住居とその日の最初と最後の顧客の間で行う移動は労働時間である。

これはスペインのTycoという家庭用防犯機器の取り付けと維持の会社に勤める技術者の事案です。

直行直帰というのは日本でもよくありますが、それでも「固定したまたは通常の勤務場所」は会社の事務所で、そこに席があるというのが普通でしょう。

このケースでは、それもなく、前日の晩に、翌日訪問すべき場所のリストが自宅に送られてくるという仕組みだったようです。

労働法上の労働時間性も興味深いですが、そもそもこういう働き方自体が興味深いです。

本論ではないけれど・・・

昨日公表された労働経済白書(正式には「平成27年版 労働経済の分析」)に、ちょっと「いい」コラムが載ってます。

http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/15/dl/15-1.pdf

「第3章 より効率的な働き方の実現に向けて」の「第2節 労使双方からみる働き方の現状と課題」の「コラム 3−1 小売業の夜間営業の増加」というコラムです。

企業は財・サービスを供給する立場であり、そのサービスを需要する消費者や企業のニーズを踏まえた対応をすることになる。労働は生産の派生需要であることを考えると、営業時間によって労働者の労働時間も影響を受けると考えられる。
 そこで、コラム3−1図により小売業事業所における営業時間をみると、相対的に営業時間の短い10 時間未満の事業所の構成比が高まる一方、「終日営業」の構成比も高まっている。また、営業時間別の従業者数をみると「終日営業」の事業所で従事する従業者数の割合が1991 年の2.5%から2007 年の11.0%まで上昇している。「終日営業」の事業所及び従業者の構成比の高まりは、コンビニエンスストアの店舗が2004 年には34,453 事業所だったものが2007 年には36,808 事業所へと7%近く増加をしていることが大きいと考えられる。
 今後ますます労働力が貴重になってくること、また、深夜に仕事につくことの健康への悪影響が懸念されることを考えると深夜労働の必要性についても考えていく必要があるのではないだろうか。そもそもそのような需要があり、それに応える形でサービス提供が行われ、その時間帯に従事する必要が出てくることを考えると、深夜時間帯でのサービス提供が本当に必要であるか否か、そのサービスを需要する側も考えていくことも必要な時期に来ているのではないだろうか。

Hakusho

「スマイルセロ円」だけでなく、「開いてて良かった」が諸悪の根源。

もちろん、これは本白書の本論ではありませんけど。

2015年9月15日 (火)

法務省、外国人受け入れ拡大を検討?

東京新聞が「法務省、外国人受け入れ拡大を検討 労働者不足に危機感」と報じています。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2015091502000254.html

法務省は十五日、外国人の入国や在留に関する今後五年間の施策の指針となる「出入国管理基本計画」をまとめた。専門的な知識や技術を持った外国人の受け入れを現在の基準にこだわらず「幅広い視点で検討する」と明記。当面は既に在留資格への追加を決めた介護分野で促進し、今後も拡大を検討する。

 単純労働者も含めた外国人全般についても「本格的に検討すべき時が来ている」と指摘。少子化や二〇二〇年の東京五輪による労働者不足への危機感が背景にあり、一〇年に策定された前回計画よりも踏み込んだ表現になった。難民認定での保護対象拡大やテロ対策の強化も盛り込んだ。

他紙と比べてもかなり踏み込んだ記事になっているので、実際のところどう書かれているのか、まずはソースを確認。(これをやらないで、記事だけでブログを書いたりツイートする人が多いのですな)

http://www.moj.go.jp/content/001158418.pdf

「少子高齢化の進展を踏まえた外国人の受入れについての国民的議論の活性化」というところですな。

まずいかに人口が減っていくかを縷々書いて、その上で、

・・・この人口減少時代への対応については,出生率の向上に取り組むことはもちろんのこと,生産性の向上,女性,若者や高齢者などの潜在的な労働力の活用等,幅広い分野の施策に実効的かつ精力的に取り組むことが必要である。

そうした取組がなされることを前提に,今後の外国人受入れの在り方について,我が国の経済社会の変化等を踏まえ,本格的に検討すべき時が来ていると考えられる。

新たに人材のニーズが生じてくる分野においては,前述のとおり,それが専門的・技術的分野と評価できる分野であれば,産業への影響等も踏まえつつ外国人の受入れを検討していく必要がある。

専門的・技術的分野とは評価されない分野の外国人の受入れについては,ニーズの把握や受入れが与える経済的効果の検証はもちろんのこと,教育,社会保障等の社会的コスト,日本人労働者の確保のための努力の状況,受入れによる産業構造への影響,受け入れる場合の適切な仕組み,受入れに伴う環境整備,治安など,幅広い観点からの検討が必須であり,この検討は国民的コンセンサスを踏まえつつ行われなければならない。

いずれにしても,今後の外国人の受入れについては,諸外国の制度や状況について把握し,国民の声を積極的に聴取することとあわせ,政府全体で検討していく必要があり,出入国管理行政としてもその検討に積極的に参画していく

うーーん、どうでしょう。専門技術的分野の外国人の積極的受入というのは既に既定路線であって、問題はそうじゃない分野、つまりいわゆる単純労働外国人の受入については、東京新聞がいうほど積極的な姿勢を示しているとも読み取れない感じがします。むしろ、法務省入管局じゃない政府のどこかが積極的に検討していくとか言っているので、入管局も勝手なことをされないように「その検討に積極的に参画していく」と言っているようにも受け取れないではありません。

法政の大学院講義開始直前にやっと

明後日、9月17日から、また法政大学大学院公共政策研究科及び政治学研究科、連帯インスティチュートの科目「雇用労働政策研究」が始まりますが、そのための講義テキストがなかなか完成せずにやきもきしましたが、なんとか派遣法や青少年法も成立し、ようやく一式まとめて事務局経由で受講生の皆さんに送りました。

特に、1回目の講義で派遣法をはじめとする労働力需給調整システムを取り上げるので、それがなかなか決まらないのは焦りました。

https://syllabus.hosei.ac.jp/web/preview.php?no_id=1506262&nendo=2015&gakubu_id=%E5%85%AC%E5%85%B1%E6%94%BF%E7%AD%96%E7%A0%94%E7%A9%B6%E7%A7%91&gakubueng=EU&radd=900

【授業の概要と目的(何を学ぶか)】

公労使三者構成の審議会において労使団体と政府(厚生労働省)の間で行われる対立と妥協のメカニズムを中心に、その延長戦としての国会における審議や修正も含め、具体的な労働立法の政策決定過程を跡づける形で、労働法制の内容を説明する。いわば、完成品としての労働法ではなく、製造過程に着目した労働法の講義である。

【到達目標】

現代日本におけるさまざまな雇用労働問題を、表層的なマスコミ報道等に踊らされることなく、雇用システムと労働法制の複雑な関係を踏まえて理解し、説明できるようになること。

【授業の進め方と方法】

あらかじめ配布するテキストのアップデート版に沿って講義するとともに、できるだけ学生からの質疑や意見に応える形で授業を進めたい。積極的な参加を期待する。

【授業計画】

秋学期前半

 テーマ 内容

1 イントロダクション、労働力需給調整システム: 全体の概観、労働者派遣事業と職業紹介事業など

2 労働市場のセーフティネット、一般雇用政策: 雇用保険、生活保護、求職者支援制、雇用政策思想の変遷など

3 特定の人々の雇用対策、職業能力開発: 高齢者、障害者、若年者、職業訓練、職業教育、キャリア教育など

4 労働基準監督システム、労災保険、労働安全衛生: 過労死・過労自殺、過重労働・メンタルヘルス・受動喫煙など

5 労働時間、賃金処遇: 時間外・休日労働、年休、裁量労働制、賃金制度、最低賃金、同一労働同一賃金など

6 労働契約: パートタイム、有期契約、解雇規制、労働条件変更など

7 男女平等と両立支援: 男女平等、セクハラ、育児・介護休業など

8 集団的労使関係システム: 労働組合(公務員制度を含む)、労使協議制、個別労使紛争など

【授業時間外の学習(準備学習・復習・宿題等)】

新聞雑誌等における労働問題に関わる記事を意識して読むこと。

【テキスト(教科書)】

『労働法政策』(2004年)のアップデート版(電子ファイル)を配布する。

【参考書】

・濱口桂一郎『新しい労働社会』岩波新書(2009年)

・濱口桂一郎『日本の雇用と労働法』日経文庫(2011年)

・濱口桂一郎『若者と労働』中公新書ラクレ(2013年)

・濱口桂一郎『日本の雇用と中高年』ちくま新書(2014年)

・濱口桂一郎『働く女子の運命』(仮題)文春新書(2016年予定)

【成績評価の方法と基準】

参加人数にもよるが、今のところレポート作成を予定している。

参加人数が少なければ、平常点20%、レポート課題80%。

【学生の意見(授業改善アンケート等)からの気づき】

該当なし

【担当教員の専門分野等】

<専門領域>労働法政策

<研究テーマ>労働法、労働政策

<主要研究業績>

・『日本の雇用と労働法』日経文庫

・『新しい労働社会』岩波新書

・『労働法政策』ミネルヴァ書房

博士課程が職業訓練ならば訓練手当を出すのは当たり前、カルチャーセンターならば・・・

この記事が大変話題を呼んでいるようですが、

http://wofwof.blog60.fc2.com/blog-entry-662.html(日本の博士課程は人生の罰ゲームか

・・・欧州同様、米国においても、博士課程の院生の大半は私と同じ様に給与をもらい、授業料を免除してもらいながら、職業人として社会に認められて生活している。・・・

日本のアカデミアに残るという選択が非常に過酷である理由はいくつもあるが、その第一関門が「博士課程院生が職業人として認められていない」ということであると私は感じている。日本では、博士課程の学生であろうとも「所詮、学部生活の延長で生活している人達」と捉えられていて、一人前の「社会人」として見做されない。・・・例え高額な給与は払われなかったとしても、博士課程の院生には職業人としての社会的地位が与えられるべきだろう。これはお金の問題でもあるが、お金だけの問題ではないのだ。・・・

この事態の根本は、上記記事のコメント欄にさらりと書かれているように、

博士課程の仕組みだけでなく社会の仕組み
というか仕事の仕組み(ジョブ型、メンバーシップ型の差異)が
与えている影響も多そうですね>日米の博士の位置付けの違い

同意です。そこまで書くと収集がつかなくなるので、今回は触れませんでした。

にあるわけです。

博士課程以前に、大学そのものが卒業後職業に就くための職業訓練課程として、すなわちその限りで職業人の卵として処遇しようなんて発想をこれっぽっちも持っていないこの日本型社会のまっただ中において、そしてそれをほんのちょびっとだけでも揺り動かそうとする動きに対しては、人文系大学人、マスコミ人、経済界まで一丸となった猛攻撃が加えられるこのメンバーシップ感覚あふるる社会のまっただ中において、博士課程だけが職業人の卵でござい、社会の皆さんどうぞ宜しく、とか言ってそれが通用するわけはないのです。

「大学で学ぶことが職業訓練であって良いはずがない。キリッ」と宣言した口で言えることではありませんな。

2015年9月14日 (月)

『平成27年度日本留学試験(第1回)試験問題』

5913凡人社から刊行された『平成27年度日本留学試験(第1回)試験問題』をお送りいただきました。

http://www.bonjinsha.com/product/?item_id=5913

というのは、この試験問題の中に、わたくしの『新しい労働社会』(岩波新書)の一節が使われているからです。

日本に留学しようとする外国の学生たちに、日本型雇用システムを解説する私の文章が真っ先に読まれるというのも意義深いものを感じます。

藤木貴史「アメリカの集団的労使関係法における熟議民主主義」

Publication_03一橋大学大学院法学研究科博士課程の藤木貴史さんより、『一橋法学』2015年7月号掲載の論文「アメリカの集団的労使関係法における熟議民主主義-被用者自由選択法案を題材として」の抜き刷りをお送り頂きました。昨年末にも、同誌2014年11月号掲載の「アメリカにおける労働組合組織化過程の現状分析」を頂いております。

https://hermes-ir.lib.hit-u.ac.jp/rs/bitstream/10086/27412/1/hogaku0140207730.pdf

https://hermes-ir.lib.hit-u.ac.jp/rs/bitstream/10086/26983/1/hogaku0130202410.pdf

アメリカの被用者自由選択法案については日本でも幾つか紹介する論文はありますが、藤木さんの論文の興味深い点は、単なる労働法政策分野だけでなく、その哲学的基礎としての、政治哲学的な議論を詳細に解説してくれているところです。

有名なリチャード・エプスタインが、この法案の肝であるカード・チェック方式が熟議民主主義に反するとして反対しているというのは興味深い所ですし、賛成派の方もやはり熟議民主主義を正当か根拠にしている、と。そして藤木さんは政治哲学における熟議民主主義の議論に分け入っていくのです。

それを読みながら、何となく違和感を禁じ得ない思いがあったのですが、最後のところで見事にそれが言語化されていました。そこで、「・・・第二の限界は、労働組合が労働者を代表することの正当性を熟議民主主義により根拠付けることが果たして真に適切であるのか-更に踏み込んで言えば、熟議民主主義という理念は労働組合という存在そのものを基礎付ける上でふさわしいと言えるのか-という問題を本稿は検討していないことである。」と述べ、熟議民主主義よりも利害調整に基づくコーポラティズムを強調する議論として、私の議論が引用されていたのです。

2015年9月13日 (日)

EU春闘?

さて、イギリス労働党はソーシャルな反EUのコービン路線を選んだようですが、あくまでもソーシャルなEUを求める勢力は何を主張しているのか。

Wagebargainingundertheneweuropeanec 欧州労連の付属機関である欧州労研(日本の連合総研みたいなもの)が最近出した『Wage bargaining under the new European Economic Governance』(新たな欧州経済ガバナンスの下における賃金交渉)は、400ページを超える分厚い報告書ですが、すっかりネオリベラリズムに染め上げられたEUの経済政策に対抗する基軸を欧州レベルの賃金交渉の確立という方向に求めています。

file:///C:/Users/hamachan/Downloads/15%20Wage%20bargaining%20Web%20version.pdf

Within the framework of the new European economic governance, neoliberal views on wages have further increased in prominence and have steered various reforms of collective bargaining rules and practices. As the crisis in Europe came to be largely interpreted as a crisis of competitiveness, wages were seen as the core adjustment variable for ‘internal devaluation’, the claim being that competitiveness could be restored through a reduction of labour costs.

This book proposes an alternative view according to which wage developments need to be strengthened through a Europe-wide coordinated reconstruction of collective bargaining as a precondition for more sustainable and more inclusive growth in Europe.・・・

新たな欧州経済ガバナンスの枠組みの中で、ネオリベラルな賃金観がますます影響力を増し、団体交渉のルールや慣行の様々な改革を推進している。欧州の危機がもっぱら競争力の危機として解釈されればされるほど、賃金は「内的な平価切り下げ」のための中核的調整変数と見られるようになり、人件費の削減を通じて競争力が回復するという議論が強まっていく。

本書はそれに代わる考え方、すなわち欧州ワイドの調整された団体交渉の再構築を通じた賃金の展開こそが、欧州におけるより持続可能で包摂的な成長の前提条件として必要であるという考え方を提起するものである。・・・・

欧州労連としては、反EUを認めては自分の存在意義がなくなってしまうので、この道しかない、わけです。

そういえばかつて松尾匡さんがグローバル化を否定するのではなく「世界春闘を実現しよう」と訴えたことがありましたが、

http://matsuo-tadasu.ptu.jp/shucho6.html

比喩的に言えば、ネオリベ化するEUに対抗するために「EU春闘を」(「春闘」じゃないけど)とでも言えるでしょうか。

EUとイギリスとリベラルとソーシャルと

96958a9e9381959fe3e09ae1808de3e0e2e イギリス労働党の党首に左派のコービン氏が選ばれたというニュースが話題になっています。いやもちろん、ヨーロッパで。

http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM12H3R_S5A910C1FF8000/?dg=1

同氏は反緊縮や格差是正を訴え、党員らの6割近い支持を得た。1990年代以来中道路線を取ってきた同党の大きな転換となる。キャメロン首相率いる保守党の市場経済を重んじる経済政策や欧州連合(EU)離脱の是非を巡る交渉にも影響は及びそうだ。

・・・労働党はこれまで親EU路線を党是としてきたが、コービン氏は「ギリシャ支援などを巡りEUに改革が必要なのは明らかだ」と独自の見解を見せる。最近では、EUの前身である欧州共同体(EC)を巡る1975年の英国民投票で加盟継続に反対票を投じたことを明らかにした。コービン氏のEUに対する懐疑的な姿勢が、労働党支持者のEU離脱への姿勢を強めるのではないかと懸念する向きも出ている。

イギリス政治とEUとの関係はなかなかに複雑ですが、リベラルとソーシャルという軸で見ると、大きくこのように描けると思います。

かつて、創設当時のEECは名前の通り市場統合のみを目指す経済共同体であり、その頃は保守党がEECに入りたがって、労働党はイギリス流の福祉国家に悪影響があるのではないかと疑って批判的でした。ソーシャルなイギリスとリベラルなヨーロッパという構図。

ところがサッチャー政権下で労働運動が徹底的に叩かれ、福祉が大幅に切り下げられるようになると、イギリスの左派はEC,EUを頼るようになります。逆に、保守党からすると、EC、EUがやたらにソーシャルな政策を押しつけてくるのが気にくわない。リベラルなイギリスとソーシャルなヨーロッパの時代。イギリス保守党の反EUは、これを受け継いでいる。今でもキャメロン首相は、EUの社会条項からの脱退を訴えていたりする。

ところが経済危機以降のEUは、むしろギリシャをはじめとする加盟国に緊縮を押しつけてくるリベラルの側面が強くなり、、欧州全体として反EU感情が高まってきている。今回の労働党の党首選もそれの現れで、リベラルなEUに対する左派の反発といえます。

複雑なのは、ソーシャルなヨーロッパに反発する保守党とリベラルなヨーロッパに反発する労働党の異なる反EU政策が国内政治的に同期化している点で、それぞれの党内の「そうはいっても」というリアリズムとのせめぎ合いが興味深いところです。

2015年9月12日 (土)

朝日の社説 on 派遣法

本日の朝日新聞の社説が昨日成立した改正派遣法を取り上げていますが、この間の記事のトーンとはかなり変わって、冷静かつ長期的視点からの議論を展開しています。

http://www.asahi.com/paper/editorial2.html

まず今回の改正内容に対してそれなりの評価を下しつつ、

改正労働者派遣法が成立した。悪質な派遣会社を排除するため、全て許可制にするなど、派遣会社への規制を強化したことが特徴で、派遣社員として働く人たちにとって、有益な点も含まれている。・・・

これまでの規制のもとでは、26業務であるかのように装ってそれ以外の仕事に就かせて期間の規制をすり抜ける不正も起きてきた。その余地がなくなる点も、評価できる点ではある。・・・

将来に向けた課題をきちんと示しています。

しかし、派遣社員の権利をどう守り、強化するか、という視点からの改正ではなかったために、積み残された課題が多い。さらなる法改正が必要だ。

その内容も、附帯決議に書かれた均等待遇の問題に加え、

しかし、派遣社員の処遇を改善するには、「均等待遇原則」を明示して、法律で裏打ちする必要がある。

集団的労使関係の問題にも触れています。

派遣社員が派遣先と団体交渉をする権利を法制化することも検討するべきだ。

最後の言葉はこれで、ある意味で一番労働法的にまともな議論に戻ってきています。

派遣労働者の権利を拡大することで、派遣労働の乱用を防ぐ。そうした視点で、早急に次の法改正を目指すべきだ。

そう、労働法とはいかなる働き方であれ、その労働者の権利を拡大する方向を目指すべきものなのです。

2015年9月10日 (木)

孫田良平さん

Image1_3孫田良平さんの訃報が伝えられました。

本ブログで何回か繰り返してきたように、わたくしの日本労働史についての認識の基本構造は、孫田良平さんの議論にあります。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/11/by-10fb.html (孫田良平「戦時労働論への疑問」 by 風のかたちⅡ)

正直言えば、孫田論文を読まれてしまうと、わたくしの云ってることのネタ元がどこにあるのかがあからさまに分かってしまうくらいです。それくらい、圧倒的な影響を受けています。ご本人にお目に掛かったのは、わりと最近なのですけれども。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2009/08/post-58cf.html (従業員の能力は陳腐化・・・してますよ、半世紀前から)

金子良事さんの言うように、拙著序章は既存の議論のまとめに過ぎないのですが、できれば、同じく既存の議論のまとめ的な晴山さんの本とかじゃなくて、原典である昭和同人会の上の本とか、孫田良平さんの本とかを示して、「お前の言っていることは、労働省の大先輩が言ってることを要約しているに過ぎない」といって欲しかったですね。

ついでに言うと、金子美雄、孫田良平といった官庁賃金屋の議論とともに、田中博秀さんの日本的雇用論が私の議論のベースです。それは読む人が読めばすぐ判ることですが。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/06/post-b9e5.html (労働ペンクラブのヒアリング)

本日、労働ペンクラブに呼ばれて、ヒアリングということで、いろいろとお話しして参りました。労働ペンクラブですから、労働業界の大先輩がたくさんおられることは承知しておりましたが、最前列でわたくしの目の前に孫田良平大先生が座っておられたのは想定外でありました。

何しろ、孫田先生の目の前で、日本型雇用システムの原型は戦時中の国家総動員体制で企業に押しつけられた仕組みを、戦後の労働運動が維持強化して云々というようなことをぶってきたのですから、冷汗三斗であります。

『雇用構築学研究所ニュースレター』46号、47号

『雇用構築学研究所ニュースレター』46号、47号をお送りいただきました。弘前から鹿児島、そして熊本と日本を駆け巡りながら発行し続ける紺屋さんのこの雑誌、47号はついに(?)石橋はるか編集長の「転職記念論集」を特集してしまっています。

改めて、書棚からこのニュースレターを取り出してみると、一番早いのは2007年1月の17号ですね。当時は「青森雇用・社会問題研究所」と称していたようです。「女学生らを研究員に仕立て研究に当たらせる」(紺屋さん自身の台詞)のはこの頃からそうで、確かこの頃、日本労働法学会(の懇親会)に紺屋さんが彼女らを連れてきて、いろんな人に紹介してましたね。

私が初めて登場したのは21号の「労働史の中の非正規労働者」でした。その後、27号、36号にも寄稿しています。

この27号に、今回「転職記念」を特集してもらった石橋治佳(当時は漢字)さんが初めて登場しています。

なかなか、ニュースレターに歴史あり、ですね。

学部と職業

大和総研のHPのコラム「不可測な時代の教育サービス」( 岡野武志氏)に、大学の学部学科と就職先職業(会社じゃなくって)の興味深いグラフがあったので、紹介しておきます。

http://www.dir.co.jp/library/column/20150910_010106.html

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主な分野(関係学科)の就職状況をみると、就職者数が多い「社会科学」と「人文科学」では、「事務従事者」と「販売従事者」に分類される職業への就職者が7割を超える。「事務従事者」と「販売従事者」には、他の分野からも一定の採用があり、この二つの職業で就職者全体の過半を占める。日本では、採用後に企業の特性に合わせて能力開発を図る、いわゆるメンバーシップ型が根強いものとみられる。

一方、「保健」や「工学」、「教育」などの分野では、「専門的・技術的職業従事者」に分類される職業に就く比率が高い。産業別にみても、「保健」では「医療、福祉」への就職率が高く、「工学」では「製造業」や「建設業」、「教育」では「教育、学習支援業」への就職者が多くなっている。これらの分野では、大学入学時点で将来の職業を一定程度イメージできる、いわゆるジョブ型が広がっている可能性がある。

教育の意味という観点からすると、緑色のところはレリバンスの高いところ、赤や青はレリバンスの低いところ、つまりその学部学科でなければならない必然性が低いところということでしょう。

メンバーシップ型が根強い大企業中心の経団連としては、やはり中核労働力はジョブ型ではないという意識が強いでしょうから、

http://www.keidanren.or.jp/policy/2015/076.html(国立大学改革に関する考え方)

・・・今回の通知は即戦力を有する人材を求める産業界の意向を受けたものであるとの見方があるが、産業界の求める人材像は、その対極にある。

というのも当然でしょう。こういう当たり前の反応を目にして「教育の職業的派、完全撃墜じゃんw」などと感激するタイプの方々に、さらに力強い助っ人が現れたようです。

http://www.sankei.com/column/news/150910/clm1509100001-n1.html(言語を磨く文学部を重視せよ 評論家・西尾幹二)

・・・殊にわが国では政治危機に当たって先導的役割を果たしてきたのは文学者だった。ベルリンの壁を越える逃亡者の実態を最初に報告したのは竹山道雄(独文学)であり、仏紙から北朝鮮の核開発を掴(つか)み、取り上げたのは村松剛(仏文学)だった。その他、小林秀雄(仏文学)、田中美知太郎(西洋古典学)、福田恆存(英文学)、江藤淳(英文学)など、国家の運命を動かす重大な言葉を残した危機の思想家が、みな文学者だということは偶然だろうか。

本欄の執筆者の渡部昇一(英語学)、小堀桂一郎(独文学)、長谷川三千子(哲学)各氏もこの流れにある。言葉の学問に携わる人間は右顧左眄(うこさべん)せず、時局を論じても人間存在そのものの内部から声を発している。

人文系学問と危機の思想の関係は戦前においても同様で、大川周明(印度哲学)、平泉澄(国史)、山田孝雄(国語学)、和辻哲郎(倫理学)、仲小路彰(西洋哲学)などを挙げれば、文科省の今回の「通知」が将来、いかにわが国の知性を凡庸化せしめ、自らの歴史の内部からの自己決定権を奪う、無気力な平板化への屈服をもたらすことが予想される。・・・

こういう素晴らしい「文学者」を大学教授として維持するために、その学生たちにとっては卒業後の職業人生には役に立たなくても、「文学」を大学で教えるという社会的形式を守らなければならないというのは、言うまでもなくそれ自体としては理屈の通った議論です。

本ブログでも、それ自体は「やむを得ないシステム」だと述べております。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2006/04/post_c7cd.html(哲学・文学の職業レリバンス)

・・・一方で、冷徹に労働市場論的に考察すれば、この世界は、哲学や文学の教師というごく限られた良好な雇用機会を、かなり多くの卒業生が奪い合う世界です。アカデミズム以外に大して良好な雇用機会がない以上、労働需要と労働供給は本来的に不均衡たらざるをえません。ということは、上のコメントでも書いたように、その良好な雇用機会を得られない哲学や文学の専攻者というのは、運のいい同輩に良好な雇用機会を提供するために自らの資源や機会費用を提供している被搾取者ということになります。それは、一つの共同体の中の資源配分の仕組みとしては十分あり得る話ですし、周りからとやかく言う話ではありませんが、かといって、「いやあ、あなたがたにも職業レリバンスがあるんですよ」などと御為ごかしをいってて済む話でもない。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2006/05/post_8cb0.html(大学教育の職業レリバンス)

・・・大学文学部哲学科というのはなぜ存在するかといえば、世の中に哲学者という存在を生かしておくためであって、哲学の先生に給料を払って研究していただくために、授業料その他の直接コストやほかに使えたであろう貴重な青春の時間を費やした機会費用を哲学科の学生ないしその親に負担させているわけです。その学生たちをみんな哲学者にできるほど世の中は余裕はありませんから、その中のごく一部だけを職業哲学者として選抜し、ネズミ講の幹部に引き上げる。それ以外の学生たちは、貴重なコストを負担して貰えればそれでいいので、あとは適当に世の中で生きていってね、ということになります。ただ、細かくいうと、この仕組み自体が階層化されていて、東大とか京大みたいなところは職業哲学者になる比率が極めて高く、その意味で受ける教育の職業レリバンスが高い。そういう大学を卒業した研究者の卵は、地方国立大学や中堅以下の私立大学に就職して、哲学者として社会的に生かして貰えるようになる。ということは、そういう下流大学で哲学なんぞを勉強している学生というのは、職業レリバンスなんぞ全くないことに貴重なコストや機会費用を費やしているということになります。

これは一見残酷なシステムに見えますが、ほかにどういうやりようがありうるのか、と考えれば、ある意味でやむを得ないシステムだろうなあ、と思うわけです。・・・

ただまあ、それにも限度というものがあるだろうと言うことでしょう。

2015年9月 9日 (水)

派遣法・同一労働同一賃金法附帯決議

昨日参議院厚生労働委員会で修正可決された標記法案には附帯決議が付けられました。前者はA4版20枚に及ぶ長大なものですが、そのうち今後の法改正につながりうる事項をピックアップしておきます。

まず改正派遣法附帯決議では、「五・派遣労働者の待遇について」の2に、

・・・均等・均衡待遇の在り方について検討するための調査研究その他の措置の結果を踏まえ、速やかに労働政策審議会において、派遣労働者と派遣先に雇用される労働者との均等・均衡待遇の実現のため、法改正を含めた必要な措置の在り方について議論を開始すること。・・・

とあるのは、既に既定路線ですが、後述の同一労働同一賃金法とも合わせ、今後の一つの焦点になっていくでしょう。とりあえず現時点での参考資料として、「雇用形態による均等処遇についての研究会報告書」を挙げておきます。

http://www.jil.go.jp/press/documents/20110714_02.pdf

やや意外だったのは、「七・派遣先の責任について」の1に、

・・・さらに、派遣先の団体交渉応諾義務の在り方について、法制化も含めた検討を行うこととし、その際、労働時間管理、安全衛生、福利厚生、職場におけるハラスメント、労働契約申込みみなし制度の適用等に関する事項に係る団体交渉における派遣先の応諾義務についても検討すること。

と、集団的労使関係マターが入ってきたことです。もっとも、昔の野党時代の民主党等の法案(2009年)には入っていました。これは派遣法担当だけでなく、労使関係担当がまともに関わることになりますね。同じ「七」の3には、

派遣先による派遣労働者を特定することを目的とする行為は、労働者派遣法の趣旨に照らし不適当な行為であることに鑑み、その禁止の義務化について検討すること。

とあります。現行26条7項の努力義務を義務化するという話なのでこれも法改正事項です。

この事前面接禁止やグループ内派遣8割規制等の違反に対してみなし制度を拡大することも検討が求められています(七の4)。

もう一つのいわゆる同一労働同一賃金法(正式には「労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策の推進に関する法律」)の附帯決議では、挙証責任の転換の検討が求められています。

二、雇用形態の相違による待遇格差に関する訴訟においては、格差が不合理なものであること等の立証について、労働者側にとって過度な負担とならないことが望まれるため、立証責任の在り方について調査研究を行うとともに、裁判例の動向等を踏まえ、必要があると認められる時は、法律上の規定について検討を行うこと。

うわぁぁ、これは、法律関係者でない人にとってはあんまりよくわからないかも知れないけれども、民事訴訟の基本原則をある部分だけひっくり返そうというかなり凄い話です。実は、EUでは、男女平等についてはまさにそうなっている、つまり挙証責任が会社側に転換されているんですが、非正規労働関係の均等待遇ではそうなっていません。このあたり、労働法界隈で騒がしくなりそうです。

あと、法改正事項それ自体ではないのですが、次の「三」も、リパーカッションという意味ではなかなか注目に値します。

三、欧州において普及している協約賃金が雇用形態間で基本給格差を生じにくくさせている機能を果たしていることに鑑み、我が国においても特定最低賃金の活用について検討を行うこと。

特定最賃というのは産業別・職業別最賃のことで、企業別組合が企業別に交渉して企業別に賃金を決める日本で、産別協約の役割を果たさせる、という話もその昔ありました。

上記の外にも、法規定自体の見直しではない検討事項が山のように積まれています。全部読み上げるのに20分以上かかったというのもむべなるかなです。

2015年9月 8日 (火)

ビルドゥングス・ロマンとしての大西連『すぐそばにある「貧困」』

146569_obi大西連さんから『すぐそばにある「貧困」』(ポプラ社)をお送りいただきました。ありがとうございます。ポプラ社、って、子ども時代に児童書でよく読んだ記憶がありますが、こういう一般向けの本も出していたんですね。

http://www.poplar.co.jp/korekara/tankoubon/009702.html

GDP世界第3位、豊かな日本の見えない貧困に
20代にしてNPO法人「もやい」理事長の著者が迫る!

ホームレス問題、ネットカフェ難民、若年失業者、DV被害者の苦悩、元暴力団員の更正、不正受給や水際作戦の実態、誰かを支援することの難しさ。ふとしたことから路上支援の世界に飛び込むことになった20代の著者が、その目で見てきた生活困窮者たちの人生と、支援現場での葛藤を描く。子どもや女性といったわかりやすいテーマに留まらない、日本の貧困の全体像に迫った衝撃のノンフィクション。

大西さんとは、かつて一度、大野更紗さんや川村遼平さんと一緒にお会いしてお話をしたことがあります。いまは「もやい」の理事長をしている大西さんによる貧困問題についての啓蒙書・・・ではあるんですが、そして本人もそういう読まれ方を期待しているとは思うのですが、ここではそれとはひと味違う、この本独特の「読み方」を述べたいと思います。

それは、大西連という1987年生まれの一青年が、人生を見失ってふらふらしていた時にふとしたことからホームレスの支援運動に関わりはじめ、さまざまな出会いと悩みを繰り返しながら、その活動家として、そしてリーダーとして自己形成していく姿を描き出した、そういわゆる一つの「ビルドゥングス・ロマン」になっているんです。

冒頭第1章は、高校時代に不登校で渋谷のカラオケでお金がなくなり路上で出合ったホームレスの「ケンちゃん」とのエピソードから始まります。

高卒後フリーターとなっていた大西青年は、アルバイト先の友人に誘われて新宿中央公園の炊き出しに参加。「意識の低い」青年だった彼が、そこから生活保護の申請同行、相談会、不正受給をめぐるいざこざ、と、「成長」していく姿は、『活動家一丁上がり』の実録編であるとともに、何よりもこの大西連という「意識の低」かった青年の「ビルドゥングス・ロマン」となっています。

いやもう、「貧困」ものはおなかいっぱい。読まなくても大体わかってるし・・・、と言いたげなそこのあなた。本書はそれ以上の大きな付加価値があります。

2015年9月 7日 (月)

『月刊連合』9月号

201509_cover_l『月刊連合』9月号は「2015 連合サマートップセミナー」が特集です。

http://www.jtuc-rengo.or.jp/shuppan/teiki/gekkanrengo/backnumber/new.html

宇野重規、御厨貴両氏の基調講演の後に、「「働くことを軸とする安心社会」の実現に向けて」と「「地域に根ざした顔の見える運動」について」という二つのパネルディスカッションの記録が載っていますが、そのうち前者を見ていくと、また金子良事さんになんか言われそうな予感が・・・・。

■パネルディスカッション[1]
「働くことを軸とする安心社会」の実現に向けて

[パネリスト]
佐藤博樹 中央大学大学院戦略経営研究科教授
        竹信三恵子 和光大学現代人間学部教授
        大塚耕平 民主党政調会長代理・参議院議員
        古賀伸明 連合会長

[コーディネーター]
宮本太郎 中央大学法学部教授

というのは:

宮本 ・・・日本の企業の正社員はメンバーシップ型雇用だが、非正規労働者はジョブ型雇用であり、社会全体として同一労働同一賃金のジョブ型雇用を確立すべきとの議論もあるが・・・。

佐藤 男性正社員の長時間労働は変えるべきだが、ジョブ型への転換という雇用システム全体の変革はハードルが高い。実は欧米が日本ともっとも違うのはジョブ型であることではなく、人事権の一部を社員の側が持っている点だ。・・・

竹信 日本のメンバーシップ型雇用は専業主婦のいる世帯主男性を標準労働者としているため、産休や育休を取得する女性は排除される。重要なのはメンバーシップ型かジョブ型かではなく、どういう人を「標準労働者」とするかだ。・・・

大塚 今、メンバーシップ型を前提とする社会保障制度を強固に維持しながら、人材の育成・供給はジョブ型に変えるという矛盾が生じている。ジョブ型、メンバーシップ型を行き来できるハイブリッドな社会保障制度を目指すという方向を、社会全体で共有すべきではないか。・・・

人それぞれの文脈の中で少しずつ違ったイメージを持たれながらこれらの言葉が使われていっている様が分かります。

熊谷謙一『アジアの労使関係と労働法』

Image熊谷謙一さんより『アジアの労使関係と労働法』(日本生産性本部)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://bookstore.jpc-net.jp/detail/lrw/goods003842.html

 これまでにない経済発展とグローバル化が続くアジア各国では、社会的な格差拡大とともに、伝統的な労働慣行と新しい労働情勢・労務管理のはざまで、将来に向けた取組みが続いている。
 本書は、アジアの労使関係、労働法制の状況について、現地での経験と調査を踏まえ、西アジアを除く主要15カ国について、その歩みと展開、最新の状況、背景にある歴史と文化についても触れている。
 わが国の労使や行政の関係者、進出企業の方々にとって、揺れ動くアジアの労働情勢をより深く理解し、的確な対応をすすめるための一助となるだけでなく、日本の制度や法律をこれまでとは別の角度から見つめ直すことにもつながる一冊である。

ご承知のように、熊谷さんは長く同盟、連合で活躍され、その後国際労働財団(JILAF)、そして日本ILO協議会で国際労働派として活躍してこられた方ですが、本書はアジア諸国の労使関係と労働法制の手頃な解説書になっており、いろいろと面白かったです。

実は私自身、主としては欧米諸国の労使関係法制を邦語文献をもとに歴史的にまとめたことがありますが、

http://www.jil.go.jp/institute/rodo/2013/010.html労働政策レポート No.10 団結と参加―労使関係法政策の近現代史)

その時に本書に取り上げられているアジア諸国についても邦語文献で分かる限りの情報を詰め込んでおいたことがあります。

それはどちらかというと法制面に主眼がありましたが、熊谷さんの本は労働組合出身者らしく膨らみのある視点でそれぞれの国の労使関係の有り様を端的に描き出しています。

幾つかのコラムも興味深いトピックを取り上げています。133頁のコラム6「労働法制の教育とふれあい」では、モンゴルでの労働法のセミナーで、日本の大相撲の例を取り上げたら思いのほか受講生を惹き付けたという話が載っています。そう、本ブログでも何回かネタにした「力士の労働者性」の話とか、蒼国来の解雇無効の訴えの話とかですね。

やはりモンゴルと日本をつなぐのは相撲のようです。

既にコメントしてます

出番です、と言われたようですが、

https://mobile.twitter.com/tarogeorge/status/639888497076236288?p=p

濱口桂一郎先生、出番です。 / “fnn-news.com: 日本航空客室乗務員「...”・・・

http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00301907.html

日本航空の客室乗務員の女性が、妊娠を理由に地上勤務への異動を希望したのに、休職を命じられたのは、マタニティーハラスメント、いわゆる「マタハラ」だとして、会社を訴えた裁判が開かれ、会社側は争う姿勢を示した。

いや、既に提訴の段階で本ブログでコメントしてます。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2015/06/post-2dfa.html(これはマタハラか?)

このときには、むしろ、「妊娠を理由とした差別」になるかどうかについて疑問を呈するコメントになっています。

・・・しかしよく考えると、これって「妊娠を理由とした差別」なんだろうかという疑問も湧いてきます。

ここで差別されたという人の比較対象は、等しく妊娠した客室乗務員であって地上勤務が認められた人ということになります。つまり、妊婦同士の間の差別であって、それを妊娠を理由とした差別と言えるのか、という問題がまずあります。

この産前地上勤務制度というのが全くなくて、客席乗務員は妊娠したら飛行機に乗れないんだからみんな休職よ、という制度であったとしたらどうでしょう。

妊娠した人と妊娠していない人を異なる扱いをしているのですから広い意味での差別にはなりますが、それは母性保護のための社内規制であって、否定されるべき差別になるかどうかは検討しなければなりません。

現行法令上、妊婦に飛行機への搭乗を禁止する規定は明示的には存在しませんが(もっとも、女性労働基準規則第2条の危険有害業務の一つとして、第14号「高さが五メートル以上の場所で、墜落により労働者が危害を受けるおそれのあるところにおける業務」というのがあります。たしかに飛行機は5メートル以上高いところを飛ぶし、墜落すると危害が及びますね。)、労働者保護について最低基準を上回る社内規制をすることは一般的には悪いこととは考えられていないでしょう。ただそれが一定の人(ここでは妊婦)の就業可能性を狭めてしまうこととの関係をどう考えるかですね。

おそらくそこのところを考慮して、地上勤務制度というのが設けられていたのでしょうが、それが(原告の観点からは)会社の恣意によって認められなかった、ケシカランではないか、ということになるのでしょう。

とはいえ、最初に述べたように、それはあくまでも、地上勤務を認められた妊娠客室乗務員との比較において、地上勤務を認められなかった妊娠客室乗務員が差別された、ということなわけで、これを妊娠を理由とする差別とするのは、理屈の山をいくつも超える必要がありそうです。

 

2015年9月 4日 (金)

妊娠を理由とする解雇の公表

厚生労働省が初めて妊娠を理由とする解雇事案を公表したようです。

http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000096409.html

事業所名 : 医療法人医心会 牛久皮膚科医院

代表者 : 理事長 安良岡 勇

所在地 : 茨城県牛久市牛久280 エスカード牛久4階

違反条項 : 法第9条第3項

法違反に係る事実: 妊娠を理由に女性労働者を解雇し、解雇を撤回 しない。

指導経緯 平成27年3月19日 茨城労働局長による助言

          平成27年3月25日 茨城労働局長による指導

                  平成27年5月13日 茨城労働局長による勧告

                    平成27年7月9日 厚生労働大臣による勧告

明日の新聞が「初のマタハラ公表」とか見出しを打ったら、「ハラスメントじゃないよ、解雇だよ」と言ってやりましょう。

なんでもハラスメントといえばいいわけじゃない。

(参考)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2014/09/post-99d2.html(マタハラ概念の法的意義は・・・)

・・・ここで言われていることの実体面については、全面的に賛成です。そして、同じ思いを持っている方から見れば以下で述べることは、細かな法律談義で大事なことをおとしめようとする法匪の議論に見えるかもしれません。

でも、先日のたかの友梨事件のパワハラ談義と同じ話なのですが、現行法ですでに立派な違法行為であるような行為を、いまさら新法でマタハラという新たな概念で規定しようという話には、やはり尤もという話にはならないのです。

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律

第九条  ・・・

3  事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法・・・第六十五条第一項 の規定による休業を請求し、又は同項 若しくは同条第二項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

これらによって禁止されている行為に当てはまらないような、しかし労働者のマタニティに悪影響を与えるようなハラスメント行為をマタハラという概念でとらえて規制していこうという議論には法的な意味があります。

しかし、上で言われているマタハラ防止のための一文というのは、すでにれっきとした違法行為であることどもを「遵守を徹底することを明記してもら」うことなんですね。

すでに刑法で禁止され、罰則が用意されている暴行、傷害、恐喝等々といったことを、改めていじめ新法で「遵守を徹底することを明記してもら」うといわれれば、それはいかにもおかしいんじゃないかと思う人が多いのではないでしょうか。(実はそうじゃない可能性が結構高かったりするから怖いのですが)

もちろん、それは、世間の、とりわけ企業経営者たちの感覚が、これられっきとした違法行為を全然悪いことだなんて感じていないからであり、その現実の感覚を前提にしてのこのマタハラnetの訴えであるわけですが、にもかかわらず、こういう訴えは、現行法におけるれっきとした違法行為を、マタハラとかいう近頃ぽっと出の新しい概念に放り込んでしまう危険性を抱えていることも意識しておいた方がいいように思います。

まあ、こういうことを言うと、また「バカの見本」とか言われるわけですが。

(星取表)

・産経新聞

http://www.sankei.com/economy/news/150904/ecn1509040014-n1.html (「妊婦はいらない」茨城の医院“マタハラ”で初の実名公表)

「マタハラ」だけで、「解雇」も出てこない。

・毎日新聞

http://mainichi.jp/select/news/20150905k0000m040028000c.html (マタハラ:職員解雇の事業所を初公表…厚労省)

一応「解雇」と明示しているけれど、なんで解雇が「ハラスメント」なんだ?という疑問はないよう。

・日本経済新聞

http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG04H5E_U5A900C1CR8000 (マタハラで初の事業者名公表 妊娠の職員解雇した病院 )

これも「解雇」と明記しながら疑問なく「マタハラ」。

・読売新聞

http://www.yomiuri.co.jp/national/20150904-OYT1T50118.html (「マタハラ」行った医院、厚労省が初の実名公表)

これも産経と同じく、ただの「マタハラ」で実名公表と。

・朝日新聞

http://www.asahi.com/articles/DA3S11948908.html (「妊娠で解雇」医院名初公表 是正勧告に従わず 厚労省)

ようやく、見出しに「マタハラ」と言わないのが出てきた。ただし、記事の最後にわざわざマタハラだと「解説」している。

『季刊労働法』250号

250_hp1労働開発研究会のサイトに、やや気が早いですが『季刊労働法』250号の案内が出ていたので、こちらにコピペ。

http://www.roudou-kk.co.jp/books/quarterly/3354/

特集は珍しく安全衛生です。

特集:改正労働安全衛生法と実務

●今号の特集は、「改正労働安全衛生法と実務」。改正法により、過去3年間の安全衛生に関する取り組みが優良な企業を「安全衛生優良企業」として認定する制度がスタートします。評価基準は、安全衛生の組織体制、健康保持増進の措置、メンタルヘルス対策、過重労働対策等とされています。この仕組みの導入により、今後の実務はいかなる方向性で動いていくのでしょうか。また、「ストレスチェック」制度の問題点についても、労使の弁護士から寄稿いただきます。
●第2特集は、「特許法改正と職務発明制度の実務的検討」と題し、職務発明制度見直しのポイント、労働側の評価や見解、企業における職務発明制度の実際と今後の検討課題等を議論します。

黙示は以下の通り。

改正労働安全衛生法と実務

職場における安全衛生実務の方向性―改正労働安全衛生法施行を契機として 大阪大学教授  水島郁子

ストレスチェック制度の意義と問題点 茨城大学准教授  鈴木俊晴

労働者側から見たストレスチェックの課題 弁護士 玉木一成

使用者側から見たストレスチェックの課題 弁護士 岡村光男

第2特集 特許法改正と職務発明制度の実務的検討

職務発明の法制度設計における基本的視点 東京大学社会科学研究所教授 水町勇一郎

労働者の視点から見た改正法の施行に向けた課題 連合経済政策局 土井由美子

旭硝子の職務発明制度と法改正への対応について 旭硝子株式会社知的財産センター企画・管理統括グループリーダー 樋口俊彦

■短期連載 「労働の場(site)」における契約外規範の探求■

フランス労働契約法における契約外規範 九州大学教授 野田進

ドイツ法における間接雇用関係の法理 立正大学准教授 高橋賢司

アメリカにおける「ひび割れた職場」(fissured workplace)の議論と労働法の課題 一橋大学教授 中窪裕也

■論説■

マレーシアの最低賃金政策と課題 岩手大学准教授 河合 塁 マレーシア国弁護士 リム・ベンユウ

イギリス雇用法における関連差別および誤認差別 中央大学法科大学院教授 山田省三

■判例研究■

会社分割に伴う労働条件変更の有効性 阪神バス(勤務配慮・本訴)事件(神戸地裁尼崎支判平成26年4月22日労判1096号44頁) 武蔵大学非常勤講師 常森裕介

■労働法の立法学 第40回■


パートタイム労働の法政策 労働政策研究・研修機構統括研究員 濱口桂一郎

■神戸労働法研究会 第33回■


平成タクシー事件 (平成26年9月10日広島高等裁判所判決,平成25年(行コ)第26号,不当労働行為救済命令取消請求事件,取消・変更,別冊中央労働時報1472号48頁) 労働政策研究・研修機構研究員 山本陽大

■北海道大学労働判例研究会 第37回■

固定時間外手当制度導入をめぐる問題と課題 (マーケティングインフォメーションコミュニティー事件・原審横浜地判平成26年4月30日労判1110号55頁,控訴審東京高判平成26年11月26日労判1110号46頁) 北海学園大学准教授・弁護士 淺野高宏

■イギリス労働法研究会 第22回■

コモン・ローにおける雇用関係上の注意義務と相互信頼義務―職場いじめ・ハラスメントへの対処,あるいは「心理的契約」論の援用を中心として 中央大学助教 滝原啓允

■キャリア法学への誘い 第2回■

なぜキャリア法学は発展しなかったのか? 法政大学名誉教授 諏訪康雄

●重要労働判例解説


閉校に伴う学校法人の整理解雇の有効性 学校法人専修大学(専大北海道短大)事件(札幌地判平成25年12月2日労判1100号70頁) 早稲田大学大学院 小山敬晴

協定期間満了後も給与規程を上回って支払われていた賃金の不利益変更の効力 シオン学園(三共自動車学校・賃金体系等変更)事件(東京高判平成26年2月26日労判1098号46頁) 淑徳大学教授 辻村昌昭

2015年雇用問題フォーラムのご案内

NPO法人人材派遣・請負会社のためのサポートセンターが10月13日に開催する「2015年雇用問題フォーラム 雇用改革の議論の行方とこれからの雇用社会」の案内が同NPOのサイトに出ていますので、ちょっとご紹介。

http://www.npo-jhk-support119.org/page2.html

『雇用改革の議論の行方とこれからの雇用社会!』

□講演

講演1 株式会社ニッチモ代表取締役 海老原嗣生様
  「雇用改革議論の問題と目指すべき方向-欧米の現状からみる問題点とあるべき姿」
  ・労基法の改正、派遣法の改正・・・何が良くて、何が足りないか
  ・5年有期雇用施行後の問題
   
講演2 労働政策研究・研修機構主席統括研究員 濱口桂一郎様
  「日本型雇用と女性の運命」
  ・今ごろ「女性活躍推進法」の皮肉・・・日本の女性はなぜ活躍できないか?
  ・日本の女性がたどってきた就労の現実と「市場主義の時代」に増幅された歪み

   
講演3 東京大学社会科学研究所教授 水町勇一郎様
  「世界の労働法改革の方向性と日本の課題」

□パネルディスカッション

コーディネーター 法政大学キャリアデザイン学部教授 坂爪洋美様
パネラー 海老原様、濱口様、水町様

2015年9月 2日 (水)

焼きそばを焼かせない職種限定合意の有無

初めにお断りしておきますが、これは雑件です。真面目に労働法を論じようというエントリではありませんので、その点ご留意を。

http://hiroki-uemura.hateblo.jp/entry/2015/09/01/230611

・・・・正直に言ってソフトウェアエンジニアとして雇用した人間に焼きそばを焼かせるのは雇用契約違反なのではないかと思います。

いやいや、日本国最高裁判所の判例法理によるとですな、

・・・Xらを機械工以外の職種には一切就かせないという趣旨の職種限定の合意が明示又は黙示に成立したものとまでは認めることができず、Xらについても、業務運営上必要がある場合には、その必要に応じ、個別的同意なしに職種の変更等を命令する権限がYに留保されていたとみるべきであるとした原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。

詳細はよくわかりませんが、少なくともソフトウェアエンジニアとして採用する際に、ソフトウェアエンジニア以外の職種には一切就かせない、少なくとも焼きそばなんか絶対に焼かせない、という趣旨の職種限定の合意が明示または黙示に成立したとまで認めることができる事案かといわれると、なかなかそこは難しいのではないか、と。

いやもちろん、そこはリンク先の方の本題ではありません。また本件について、焼きそば云々以外の点について何事かを論じようとするものでもありません。

北海道で労働政策フォーラム

9月28日に、北海道で労働政策フォーラムをやるそうです。

http://www.jil.go.jp/event/ro_forum/20150928/info/index.html(職場のコミュニケーション パワハラのない快適な職場作りのために 札幌開催

職場のパワーハラスメントは、近年、都道府県労働局等への相談が増加を続け、ひどい嫌がらせ等を理由とする精神障害等での労災保険の支給決定件数が増加しているなど、社会的な問題として顕在化してきています。さらに、企業にとっても、業績悪化や貴重な人材の損失につながるおそれがあり、企業において具体的な取組を進めることが求められています。

本フォーラムでは、個々の企業において、どのようにしたらパワーハラスメントの予防・防止・解決ができるのか、その進め方や参考となる情報を提供することを目的に、最近のハラスメントの事例報告と、その対処法、また、メンタルヘルスに与える影響等について、有識者を交えて議論します。

場所は京王プラザホテル札幌 プラザホールです。

プログラムは:

基調講演

職場のいじめとパワハラ~人間関係のワークルール~ 道幸 哲也 北海道大学名誉教授

事例報告

ハラスメントをなかったことにしない職場づくり 大野 朋子 北海道ウイメンズ・ユニオン委員長

研究報告

若年労働者が追い詰められる職場の共通点 小野 晶子 労働政策研究・研修機構主任研究員

パネルディスカッション

パワハラのない職場をつくる

パネリスト

大野 朋子 北海道ウイメンズ・ユニオン委員長
淺野 高宏 ユナイテッド・コモンズ法律事務所代表弁護士 北海学園大学法学部准教授
開本 英幸 開本法律事務所所長弁護士
小野 晶子 労働政策研究・研修機構主任研究員

コーディネーター

道幸 哲也 北海道大学名誉教授

私はちょうどその日はアジア生産性機構というところでお話しをするお仕事がありますが、北海道在住の皆様はふるってご参加ください。

上村泰裕『福祉のアジア』

813上村泰裕『福祉のアジア 国際比較から政策構想へ』(名古屋大学出版会)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.unp.or.jp/ISBN/ISBN978-4-8158-0813-6.html

グローバル時代の社会的基盤とは——。相互依存の深まる東アジアでは地域全体の福祉拡充が緊要となっている。福祉国家と企業福祉・家族福祉・ボランタリー福祉の関係をいかに結びなおすべきか。歴史も経済も多様な東アジア諸国間で国際協力は可能なのか。比較研究から新時代への提言を試みる。

アジアといえば、昨年の社会政策学会(@岡山大学)でEUの労働政策について報告した時、会場の金子良事さんから頂いた質問を思い出しますが、上村さんはまさに社会政策におけるアジア派なのでしょう。

詳細目次は下にコピペしておきますが、理論や実証分析にとどまらず、アジアレベルの政策構想、政策提言まで踏み込もうとしているのが、上村さんの研究のすごいところであり、批判を浴びるところでもあるのでしょう。批判の実例が、「あとがき」の冒頭に載っています。余りにも興味深いので引用しておきますと:

「どの国の政策もそれぞれ独自の哲学に基づいている。各国の事情を無視したこんな浅薄なレポートを持ち帰るわけにはいかない!」。某国の経済団体を代表して会議に出ていた恰幅の良い紳士は、そう言い終えるとマイクを机に叩きつけた。アジア太平洋地域の経済自由化を議論する国際会議で、筆者が本書第9章のあらすじを報告した直後の出来事である。一瞬の静寂。主催者側は、筆者が猛烈な反論を始めるのではないかと心配そうな視線を送ってくる。日頃空気を読まない(読めないのではない)ことで知られる筆者も、この時ばかりはことの重大さを悟った。研究者だけを相手にすればよい学会発表とは勝手が違ったのだ。・・・・・

いろんな意味で面白い話ですが、労働政策の歴史を知っている立場からすると、「どの国の政策もそれぞれ独自の哲学に基づいている」という外連味たっぷりの台詞自体の、余りにも同じ状況下で同じ台詞が出てくるその類似性こそが目につきます。戦前、ILOの場で日本政府や日本の経営者団体がどういう理屈を並べ立てていたかを思えば、後発諸国の「独自の哲学」の金太郎飴さにこそ、産業化という社会変動への対応としての労働社会政策の、いかに独自性を言い立てようとも現れざるを得ない類型性こそがまず何より話の基軸であろうと思いますし、その上で否応なくにじみ出てくる各国(というより各社会)ごとの違いは、それこそヨーロッパ諸国内部の違いやアジア諸国内部の違いが、欧亜というブロック間の違いよりも小さいとも言えないでしょう。

そして、とりわけ日本における言説の歴史を見れば、産業化に対する対応として新たに作り出されたものが恰も伝統的なものであるかのように粉飾され、その粉飾が公認イデオロギーとして通用するという事態の普遍性もありそうです。

(目次)

序 章 福祉のアジアを描く

  第Ⅰ部 対象と方法

第1章 東アジアの福祉国家 —— 研究対象の生成
     1 はじめに
     2 東アジアの共通性と多様性
     3 民主化と経済危機を越えて
     4 福祉国家と市民社会の未来

第2章 東アジアの福祉レジームとガバナンス
     1 はじめに
     2 福祉国家のレジーム規定力
     3 福祉国家と企業・家族・NPO
     4 福祉ガバナンスの未来

第3章 大陸間比較から見た東アジアの福祉
     1 はじめに
     2 福祉国家化の波
     3 福祉国家の何を重視するか
     4 企業や家族は福祉国家を代替するか
     5 福祉国家拡充の壁

  第Ⅱ部 典型としての台湾

第4章 台湾の政労使関係と社会政策
     1 はじめに
     2 認識手段としてのコーポラティズム概念
     3 国家コーポラティズムの遺産
     4 民主化と多元主義化
     5 新たなコーポラティズムへの模索
     6 柔軟化は阻止されたのか

第5章 台湾の高齢者福祉政治
     1 はじめに
     2 高齢期を規定する社会構造
     3 福祉政治の言説スタイル
     4 国民年金をめぐる政策過程

第6章 台湾の社会保障と企業福祉
     1 はじめに
     2 企業を取り巻く社会保障制度
     3 2006年調査の回答企業の特徴と企業福祉観
     4 企業福祉の内容
     5 企業福祉重視の内実 —— 経営者への聞き取り調査から
     6 福祉レジームの再編と市場化の進展

  第Ⅲ部 複数の東アジア

第7章 社会福祉のなかの社会と国家 —— 台湾・シンガポールの比較
     1 はじめに
     2 市民社会への注目
     3 福祉国家の相違
     4 福祉レジームの効果

第8章 雇用構造と若者の就業 —— 日本・韓国・台湾の比較
     1 はじめに
     2 福祉レジームと若年労働市場
     3 日韓台の若者問題は同じではない
     4 社会経済的要因か、それとも制度的要因か
     5 構造変化にどう対応するか

  第Ⅳ部 比較から構想へ

第9章 東アジア社会政策を構想する —— 失業保険制度を例に
     1 はじめに
     2 東アジアの失業新時代
     3 途上国に失業保険は不要なのか
     4 既存の失業保険に不備はないか
     5 国際比較から政策構想へ

第10章 インフォーマル雇用の壁を越える —— 社会保障拡充の前提
     1 はじめに
     2 インフォーマル雇用とは何か
     3 社会保障とインフォーマル雇用
     4 社会保障拡充の処方箋

終 章 福祉のアジアを築く
     1 福祉のアジアをめぐる問答
     2 グローバル経済の社会的基盤

2015年9月 1日 (火)

小杉礼子・宮本みち子編著『下層化する女性たち』

201460小杉礼子・宮本みち子編著『下層化する女性たち 労働と家庭からの排除と貧困』(勁草書房)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.keisoshobo.co.jp/book/b201460.html

従来、性別役割分業という社会通念が、主婦パートに代表される低賃金の非正規雇用の労働条件を規定してきた。近年は若年層で非正規雇用が急増し、ひとたび労働と家庭から排除されると、一気に貧困に陥ってしまう実態がある。本書は、見えにくい女性の貧困問題を可視化し、女性たちを支援する現場の報告も交えつつ社会的支援策を検討する。

本書は、日本学術会議と労働政策研究・研修機構の共同開催の2回のシンポジウムをもとに、その参加者が改めて書き下ろした論文集です。

詳細な目次は下の方にコピペしておきますが、やはり現場の凄惨な姿を描き出した第3部の諸論考がインパクトが大きいです。

本書の元になった2回のシンポジウムの記録は、JILPTの『ビジネス・レーバー・トレンド』に載っているので、とりあえずネット上でざっと見るのも一つの手です。

201310ビジネス・レーバー・トレンド2013年10月号

http://www.jil.go.jp/kokunai/blt/backnumber/2013/10/002-017.pdf(「アンダークラス化する若年女性―労働と家庭からの排除」)

http://www.jil.go.jp/kokunai/blt/backnumber/2013/10/018-025.pdf(パネルディスカッション)

201412ビジネス・レーバー・トレンド2014年12月号
http://www.jil.go.jp/kokunai/blt/backnumber/2014/12/048-057.pdf開催報告 労働政策フォーラム「アンダークラス化する若年女性Part2―支援の現場から」)

個人的には、宮本さんの序章に出てくる下層階級の男性(59歳)の台詞が、いろんな意味でため息をもたらしました。こういう最底辺の現場の姿が女性への憎悪と暴力と支配を通じてさらに女性の下層化をもたらすわけです。

「余りにも仕事がない。つまり、男だというだけで死ぬほどの重労働を強いる企業が多すぎ。だから誰も定着しない。「男にはきびしく女には優しく」(間違った考えだ!)がますます強まり、誰でもできる仕事はみな女性がまかない、男ができもしない荒い仕事しか残っていないからである。最近の流行歌を聴くべし。女性は愛されるだけの至れり尽くせり、男は命がけで働き守る。奴隷の如く。(中略)残っているのは工場で身体を壊すか、いじめ地獄か体力不足でクビ」・・・・・

(参考)目次

はじめに[宮本みち子]

序章 課題の設定──労働と家庭からの排除と貧困[宮本みち子]
 1 欧米における女性の貧困化・下層化
 2 日本における女性の貧困化・下層化
 3 労働と家庭からの排除
 4 女性に対する支配構造
 5 女性の貧困・子どもの貧困と家族政策

第Ⅰ部 労働と家庭からの排除の現状と課題

第一章 女性労働の家族依存モデルの限界[山田昌弘]
 1 若年女性をめぐるパラドックス
 2 願望と現実の反転
 3 家族に包摂されることが前提の女性労働
 4 経済・社会構造の大転換と女性労働の変貌
 5 労働による包摂の限界
 6 家族による包摂の限界
 7 貧困化している女性の希望と対策のつけ回し

第二章 見えにくい女性の貧困──非正規問題とジェンダー[江原由美子]
 1  「女性の貧困が見えない」?
 2 社会問題化を阻むもの──「女性労働の家族依存モデル」
 3 二つの変化が生み出した「若年女性の貧困化」──「若年女性の非正規労働者化」と「若年女性の有配偶率の低下」
 4  「女性労働の家族依存モデル」と「女性の経済的自立モデル」
 5 社会構造次元の性別役割分業批判に向けて

第三章 ままならない女性・身体──働くのが怖い、産むのが怖い、その内面へ[金井淑子]
 1 問題への接近回路─言葉や兆候に聴く
 2 「若者問題」のジェンダー非対称性──格差社会のジェンダー再配置
 3 「全身○活」時代、「氷河期世代」の生き難さ
 4 「彼女たち」を見失わないために
 5 「身体の最領土化」に抗する思想を

コラム1 中高年女性が貧困に陥るプロセス[直井道子]
 1 未婚女性はどのようなプロセスを経て中高年に貧困に陥りやすいか
 2 未婚女性と仕事
 3 四〇─五〇代の未婚女性の住まい
 4 年金と老後不安
 5 未婚女性をめぐる時代的変化の考察

第Ⅱ部 貧困・下層化する女性

第四章 女性ホームレスの問題から──女性の貧困問題の構造[丸山里美]
 1 なぜ女性は貧困なのか
 2 見えにくい女性の貧困
 3 「もやい」の女性相談者から見える女性の貧困の特徴
 4 単身女性の増加と若年女性の貧困化
 5 女性がホームレスにいたるまで
 6 今後必要な政策

第五章 折り重なる困難から──若年女性のホームレス化と貧困[山口恵子]
 1 女性が貧困であること
 2 三人のケースより
 3 折り重なる困難から
 4 おわりに

コラム2 戦後日本型循環モデルの破綻と若年女性[本田由紀]
 1 看過されてきた問題系
 2 失われる前提
 3 「下層化する若年女性」をどうするか

第Ⅲ部 支援の現場から

第六章 「よりそいホットライン」の活動を通じて──若年女性の「下層化」と性暴力被害[遠藤智子]
 1 はじめに
 2 よりそいホットラインの構成
 3 女性専門ラインの相談の特徴
 4 若年女性たちの性暴力被害
 5 性虐待の相談について
 6 性暴力についての相談事例
 7 暴力の発見・予防が「下層化」を食い止める

第七章 生活困窮状態の一〇代女性の現状と必要な包括支援──パーソナルサポートの現場から[白水崇真子]
 1 はじめに─年越し派遣村を契機にはじまったPS事業
 2 パーソナルサポート事業のなかの専門家チーム──豊中市の場合
 3 広がる貧困─TPS事業での気づき
 4 一〇─二〇代の若年者に有効な職業適性アセスメント
 5 定時制高校で実感した男女の違い
 6 定時制高校の「居場所」で出会った女子たち

第八章 横浜市男女共同参画センターの“ガールズ”支援──生きづらさ、そして希望をわかちあう「場づくり」[小園弥生]
 1 はじめに
 2 当事者調査で「若年無業女性」の困難と支援ニーズを可視化
 3 なかまに出会う場 =「ガールズ編 しごと準備講座」
 4 就労体験の場 =「めぐカフェ」
 5 支援を利用した女性たちの状況
 6 男女共同参画センターの役割と地域連携
 7 人とつながる「場」の可能性

コラム3 若年女性に広がる学歴間格差──働き方、賃金、生活意識[小杉礼子]
 1 非正規化の進展と女性の学歴
 2 正社員の賃金、失業率にも学歴差
 3 日常生活の充実と専業主婦、主婦パート
 4 貧困の連鎖としないために

おわりに[小杉礼子]

「年次有給休暇の時期指定義務化」@損保労連『GENKI』8月号

117損保労連『GENKI』8月号に、「年次有給休暇の時期指定義務化」を寄稿しました。

 今まで4月3日に国会に提出された労働基準法改正案について説明してきましたが、世間で話題になっている高度プロフェッショナル制度は大山鳴動鼠一匹程度のものであり、また私が注目すべきと考えている働き過ぎ防止のための諸措置も現時点では間接的かつ遠慮がちなものが多く、それほど影響を与えるものではないのが実態です。それに比べると、日本の多くの企業にかなり大きな影響を与えると見込まれるのが年次有給休暇制度の改正です。今回は、一見地味ですが、実は今回改正案の目玉とも言うべきこの制度について見ていきます。

 現在の労働基準法でも、年次有給休暇は使用者が与えなければならないものと規定されています。ところが現実の姿を見ると、付与日数の半分も取得されていません。最新の平成26年度就労条件総合調査で見ても、一人平均付与日数は18.5日、取得日数は9.0日で、取得率は48.8%にとどまっています。しかしこの平均値ではわからないのが日数の分布です。2011年の労働政策研究・研修機構の「年次有給休暇の取得に関する調査」では、正社員の平均取得日数は8.1日ですが、0日(つまり1日も取得しない)というのが16.4%、1~3日が16.1%という一方で、15日以上が20.3%と、見事に二極化している姿が浮かび上がっています。しかもこれをさらに性・年齢別に見ると、20代男性は0日が25.2%で平均5.2日と年休が取れていません。同じ傾向は規模別では29人以下、職種別では営業職に見られます。とりわけ問題なのは、週当たり労働時間が60時間以上と過労死が懸念される長時間労働者ほど、0日が29.4%で平均5.9日と休みも取れていないことです。

 なぜこういう事態になるかというと、現行労働基準法の仕組みにもその原因があります。確かに「使用者は、・・・・有給休暇を与えなければならない」(第39条第1項)と書いてありますが、そのためにはまず労働者が有休を取りたいと積極的に言わなければならないのです(同条第5項)。

 使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。

 もちろん、労働者の権利なのですから、労働者の方から請求するのは当然ではないか、と言えばそれはその通りです。しかし、上記取得実態から浮かび上がってくるのは、忙しく働いている人ほど、仕事に影響が出るのを配慮して、なかなか年休を取りたいと言い出しかねている姿であるように思われます。取れる人は遠慮なく請求できてフルに取得する一方で、取れない人はますます請求しにくくなり、結果的にほとんど取れなくなるという悪循環に陥っている姿が浮かんできます。

 かつては労働基準法施行規則にこういう規定がありました(1年継続勤務で6日という時代です)。

第二十五条 使用者は、法第三十九条の規定による年次有給休暇について、継続一年間の期間満了後直ちに、労働者が請求すべき時期を聴かねばならない。但し、使用者は、期間満了前においても、年次有給休暇を与えることができる。

 年次有給休暇は労働者が請求するものという原則は原則として、しかし労働者が自分から請求してくる前に、使用者の側が積極的に「1年たったぞ。年休が取れるぞ。いつ年休を取るんだ? 早く教えてくれ」と言わなければいけなかったのです。本人がもじもじと言い出しかねている状態をただにやにやと眺めていると、この規定に違反したのです。ところが、1954年に労働法の規制緩和の一環として削除されてしまい、それ以来、労働者が黙っていれば年休0日でも違反ではないという状況が半世紀以上も続いてきました。

 今年2月の労働政策審議会建議は、初めてここにメスを入れようとしました。

・・・有給休暇の日数のうち年5日については、使用者が時季指定しなければならないこととすることが適当である。
・・・使用者は時季指定を行うに当たっては、①年休権を有する労働者に対して時季に関する意見を聞くものとすること、②時季に関する労働者の意思を尊重するよう努めなければならないことを省令に規定することが適当である。

 現実に労働者の権利としての年休をフルに取得している人もいますから、全ての年休を使用者の時季指定義務の対象にしてしまったら、そういう人々から異議が続出するでしょう。年5日というのは、年休取れない組と年休フル取得組のバランスを考えた日数だと思われます。

 さらに建議は、この仕組みを確実なものとするために、年休管理簿の作成を義務づけようとしています。

・・・使用者に年次有給休暇の管理簿の作成を省令において義務づけるとともに、これを3年間確実に保存しなければならないこととすることが適当である。

 労働基準監督官はこの年休管理簿を見て、使用者がちゃんと労働者の意見を聞いて時季指定をし、労働者がちゃんと年休を取得できているかをチェックするというわけです。必要があれば本人にも確認するでしょう。

 上記JILPT調査では、年休取得日数5日以下の者は全体で45.7%に達し、とりわけ20代男性では65.4%に達しています。この膨大な数の労働者に、使用者側から積極的に5日の年休を付与することを義務づける改正なのですから、冒頭に申し上げたように、その影響するところのはなはだ巨大な改正であるということができるでしょう。

富士通総研早川英男氏の「今こそ「日本的雇用」を変えよう」(3)(4)

2週間前に(1)(2)がアップされた富士通総研早川英男氏の「今こそ「日本的雇用」を変えよう」の続編(3)(4)がアップされたようです。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2015/08/post-2ce5.html(富士通総研早川英男氏の「今こそ「日本的雇用」を変えよう」)

http://www.fujitsu.com/jp/group/fri/column/opinion/201508/2015-8-6.html(今こそ「日本的雇用」を変えよう(3)―「ジョブ型」雇用をデフォルトに―)

http://www.fujitsu.com/jp/group/fri/column/opinion/201508/2015-8-7.html(今こそ「日本的雇用」を変えよう(4)―税・社会保障制度と教育の改革―)

今回も、金子良事さんあたりにまた「hamachanの影響力おそるべし」とか云ってからかわれそうなネタがいっぱいです。

ついでに「結局、筆者の考える教育改革は、最近論争の的となっている冨山和彦氏の提言とほとんど同じである。」というところまで。

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