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2015年8月25日 (火)

『社会政策 福祉と労働の経済学』

L22058駒村康平,山田篤裕,四方理人,田中聡一郎,丸山桂著『社会政策 福祉と労働の経済学』(有斐閣アルマ)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641220584

というか、それにしても、『社会政策』ですか!

複数の学問領域にまたがる「社会政策」を,社会保障政策と労働問題を有機的に連携したものととらえ,経済学の手法で分析する意欲的テキスト。いま注目される住宅政策も取り扱う。現状や制度,歴史的経緯などにも目配りし,バランスよく叙述する。

いや、その昔は『社会政策』というタイトルの教科書がいっぱい出てましたな・・・(遠い目)。というか、「社会政策」という学問分野がまだ存在してた。

いつしか労働系の人々は「社会政策から労働問題へ」と口々に唱えて労働問題研究者となり、いっぽう社会保障を研究する人々は「ソーシャル・ポリシー」と唱え、一応社会政策学会という所に席を同じうしているように見せかけながら、その実は心の中は限りなくかけ離れてうん十年・・・であったわけです(表現にやや誇張あり。

うん十年後に『社会政策』といういかにも古めかしいタイトルで出されたこの本は、しかしながらまさに現代的な「労働と社会保障の交錯」という問題状況が産み出したものと言えるでしょう。

下に、私が編著の『福祉と労働・雇用』(ミネルヴァ書房)の「はしがき」に書いた認識を引用しておきますが、本書はそういう時代認識を踏まえて、改めて労働と社会保障という両分野を有機的に連携させて総体としての現代社会政策を描き出そうとしたもので、著者らの意欲が伝わってくる教科書です。

序 章 社会政策の射程
第1章 社会政策はなぜ必要か
第2章 社会政策の経済理論
第3章 所得格差─不平等の測定と評価
第4章 社会保障の財政─再分配の機能と規模
第5章 貧困─生活保護
第6章 労働市場─日本型雇用システムと労働問題
第7章 労働条件─労働規制と労災保険
第8章 失業─雇用保険,能力開発と雇用保護法制
第9章 障害─生活保障と社会参加支援
第10章 育児─保育サービスと育児休業
第11章 住宅─公営住宅と住宅手当
第12章 健康─医療保険
第13章 介護─介護保険と介護休業
第14章 老齢─年金保険
終 章 社会政策の将来展望

あえて望蜀をいえば、育児だけでなく、教育もまた社会政策の基軸の一つだというのがあれば良かったかな、と。

(参考)

120806『福祉と労働・雇用』はしがき

 本書は、『福祉+α』というシリーズの一巻として『福祉と雇用・労働』と題されている。他の諸巻が福祉・社会保障政策のある分野なりある側面を切り出して論じているのに対し、福祉・社会保障政策と雇用・労働政策という一応別領域に属するものを「と」という接続助詞でつないで、その間の関係を論じている点に特徴があると言えるだろう。
 もっとも、福祉・社会保障政策と雇用・労働政策がどこまで別分野なのかということ自体、考え方によって、また時代によって必ずしも答えは一つではない。政府機関でいえば、戦後1947年に労働省が新設されるまでは厚生省が両者をともに管轄していた。厚生省が設置される1938年以前は内務省の外局である社会局が労働部、保険部、社会部の3部体制でこれら政策を担当していた。これに対応して、学問分野としても「社会政策」という領域が確固として存在し、現在の福祉・社会保障政策と雇用・労働政策を含めた総体を研究していた。この時代は福祉・社会保障政策と雇用・労働政策は別の存在ではなく、むしろ一体をなしていたのである。
 これに対し戦後両者の関係は次第に疎遠になってきたように見える。「社会政策学会」という名の学会は今日に至るまで存在し続けてきているが、とりわけ高度成長期から安定成長期に至るまでの時期は、労働・雇用問題の研究と福祉・社会保障の研究は別々の問題意識に基づき、別々に行われてきたようである。その背景としては、高度成長期に確立した日本型雇用システムにおいて、大企業の正社員を中心として企業単位の生活保障システムが相当程度に確立し、公的な福祉を一応抜きにしても企業の人事労務管理の範囲内で一通りものごとが完結するようになったことがあろう。福祉・社会保障政策はその外側を主に担当する。その意味では、福祉と労働の幸福な分業体制が存在していたとも言えよう。
 これを逆に言えば、日本型雇用システムによってカバーされる範囲が徐々に縮小し、企業単位の生活保障からこぼれ落ちる部分が徐々に増大してくるとともに、両者がどのように密接に連携しているのかあるいはいないのかが、次第に大きな問題として浮かび上がってくることになる。今日、「福祉と労働・雇用のはざま」の問題が様々に論じられるようになってきたのは、一つにはこうした日本社会システム全体の大きな転換が背景にあると思われる。
 またこれと裏腹であるが、家族を扶養する男性正社員を前提とした労働・雇用の枠組みの中に、家事・育児責任を負った女性労働者が入り込んでくることによって、これまで見えなかった子育て支援の必要性が可視化されてきたり、仕事と家庭の調和といった問題意識が浮かび上がってくる。これもまた「福祉と労働・雇用のはざま」の問題として論じられることになる。


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