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2015年8月13日 (木)

「トルコ娘」の労働者性

産経に、

http://www.sankei.com/world/news/150812/wor1508120054-n1.html(アムネスティ新方針「性的労働者を犯罪としないよう求める」 女性人権団体反発「性産業に味方するのか」)

という記事が載っていて、話題になっているようですが、労働法に関わるものとしては、ここはやはり「性的労働者」って、労働法上の「労働者」なのか?という問題にこだわってみたいところです。

というわけで、「○○の労働者性」シリーズ、今回は1960年代前半という高度成長期ただ中で、当時新たな風俗営業として展開していた「トルコ風呂」で働く18歳未満の児童「トルコ娘」をめぐる裁判例です。

上六観光トルコ温泉事件(大阪家庭裁判所判決昭和41年1月18日最高裁判所刑事判例集21巻9号1228頁)及び同控訴審(大阪高等裁判所昭和41年9月29日最高裁判所刑事判例集21巻9号1235頁)、そして同上告審(最高裁判所第二小法廷昭和42年11月8日最高裁判所刑事判例集21巻9号1216頁)ですが、いずれもその労働者性を認めています。その根拠は、高裁判決がまとまっているので引用すると、

弁論要旨第三項について
 論旨は、本件については労働基準法の適用がない。そもそも労働基準法第九条には「この法律で労働者とは、職業の種類を問わず、前条の事業又は事業所(以下事業という)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう」と規定しており、これを分析すると、第一に使用されるものであること、即ち使用従属関係にあること第二に賃金を支払われるものであることの二条件が備わらなければならない、ところが、トルコ娘は使用されるものでなくて、トルコ温泉の施設を使用させて貰い、これに対して一日百円の使用料を支払つている。この使用料は一ケ月分では三千円になり、低廉でない。会社側として、この使用に関連し、使用秩序を保つため規則を設けているが、これは施設の管理者として当然のことで、会社がトルコ娘を使用する事由とはならない。又トルコ娘から履歴書、入店申込書の提出、公休の割当、過怠金の徴収、点呼、訓辞等が行なわれていたとしても、経営者として施設を十分に利用して、客に満足を与えるに必要な統制上の措置に過ぎない。
 次にトルコ娘に対しては賃金は支払われていない。労働基準法第一一条によると「この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう」と規定している。被告会社はトルコ娘に対してはサービス料を客から受取らせるようにしているけれども、これは決して使用者が客から一旦受取つてトルコ娘に渡すべきものでない。
 更に、本件の適用事業は労働基準法第八条第一四号に該当するのではなくて、同条第一三号に該当するものである。トルコ温泉は、公衆浴場法に基く浴場であつて、旅館、料理店などの接客業に類するものではなくて、保健衛生を目的とする企業であることは明白である、というのである。
 よつて案ずるに、労働基準法の適用される労働者は、同法第九条によると、この法律で労働者とは、職業の種類を問わず、前条の事業又は事業所(以下事業という)に使用される者で、賃金の支払われる者をいうとあるので、使用される者であることと賃金を支払われる者であることが要件である。
 そこで先ず、本件につき使用従属関係につき検討するのに、原判示証拠によれば、被告会社がトルコ娘を決定するについては、同娘に面接し、履歴書を提出させ、植田勝治に代り橋本孝道が会社業務に従事するようになつた昭和三九年八月以降には入店申込書を提出させた上、採用を決定し、採用決定の場合には同娘の店名を指定し、就業前に会社の者がトルコ娘等に客に対する扱い、マツサージ等の技術の講習を実施し、就業については各娘に公休日の割当をし、更に毎日の出勤時間を午後一時、三時、五時、と区分し、三交代制にし娘等に順次交代に出勤時間を指定し、欠勤書留簿を設けて出欠を統制し、正当の理由なき欠勤、遅刻に対しては各一回につき前者には二〇〇円後者には一〇〇円の過怠金を徴収することとし、出勤者に対しては点呼、部長等から客に対する扱い態度についての訓示をなし、出勤時間中は自由な外出を認めず、会社々則を定め(原審において取調べられた昭和三九年一〇月二一日付司法警察員西村繁治作成の捜索差押許可状の執行と現場の写真撮影についての復命書に添附の写真9参照)右社則に違反した時は、出勤停止処分を申し渡す旨規定し、なお勤務につき住込を希望するものには、会社所有経営の大和寮に居住させ、月一五〇〇円程度の部屋代を取るのみで、その厚生を計り、又従業中、身につけるブラジヤー、シヨートパンツの貸与などもしていること又会社は入浴客に対しては入浴料を取るがこの他にトルコ娘にも三〇〇円(後には四〇〇円)のサービス料を支払うべき旨掲示していることが認められる。これらの事情を勘案すると、会社のトルコ娘に対する関係は、指導、監督につきかなり強力な措置を包含し、その指導監督の下に会社の命ずる労務に服する義務を科する意図を持つており、同娘等もまたこれを当然のこととして受入れていると認められ、被告会社と本件トルコ娘との間には使用従属の関係にあるものと認めるのが相当である。なるほど、原判示証拠によれば、トルコ娘は、出勤の都度、一回一〇〇円を会社に施設使用料の名目で出しているが、トルコ娘のチツプ収入が月平均四、五万円にもなることが窺え、これら金額を対比するときは施設使用料というのは単なる名目的なもので、むしろ施設を使用している態を装うにすぎないものと解せられる、なお、トルコ娘に施設を使用せしめるに過ぎない場合でも、統制的措置をとることは施設利用に関する秩序維持に当然必要であるとの考も成立ち得るが、前記認定の事情では、施設利用に関する秩序維持以上の使用服従関係を認めざるを得ない。
 次に、賃金支払の関係につき案ずるに、労働基準法第一一条によると、この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいうとある。従つて客から直接に労働者に支払われるチツプは、原則としては賃金ではない。しかし、労働の報酬として使用者から労働者に支払われるものであれば、その名称の如何に拘らずすべて賃金であるので、労働の報酬として使用者の施設を使用する利益を労働者に与えられておればこの利益は賃金と解すべきである。ところで原判示証拠によれば本件上六トルコでは、入俗客より入浴料として一〇〇〇円ないし一四〇〇円を徴収するが、トルコ娘に対しては給料の支払はせず、トルコ娘はその収入としては入浴客に対し、洗身、洗髪、マツサージ等を実施し、これに対するサービス料(チツプ)として、各入浴客から直接に、会社の何等の関与もなく(会社はサービス料三〇〇円(後日四〇〇円となる)を支給されたいと掲示している程度のみ)三〇〇円(後日四〇〇円となる)以上の金員を受領していたものであることトルコ娘は会社に対し出勤毎に一日一〇〇円を施設使用料として支払つていることが認められ、一応賃金を支給しない形態を採つているかのようであるが、右施設使用料は前叙のとおり、単なる名目的なものに過ぎず、元来、トルコ娘の得るサービス料はトルコ娘が上六トルコ経営にかかる営業設備を使用して入浴客の洗身、マツサージ等をする労働の対償として右客より支払われるものであり、また入浴客はこのようなトルコ娘のサービスが期待できるので高額な入浴料金を支払うものであるから、上六トルコはトルコ娘の労働によるこのような利益をうる対償として同娘等が右サービス料を得るため、会社の営業設備を使用する利益を同娘等に与えているものと認めるのが相当である。してみると、この営業設備を使用する利益が労働の報酬として支払われ、トルコ娘に対し賃金の支払がなされているというべきである。
 更に、本件上六トルコの事業が、労働基準法第八条の第一三号(保健衛生の事業)か第一四号(接客業等)のいずれに該当するかを検討するのに、原審証人斉藤保吉の証言を始め原判示証拠によれば、上六トルコは公衆浴場法に基き許可されたものであるが、この許可の形式からだけで事業の種類が確定されるものではなく、労働省労働基準局長から大阪労働基準局宛の昭和四〇年一月二三日付三九基収第八九三三号の二に「いわゆるトルコ風呂に対する法第八条各号の適用に当つては、一般の事業場の場合と同様に当該事業場の労働の具体的態様等に即して個別的に判断すべきものである」とあるように、現実の態様に即して個別的に労働基準法第八条各号の適用を判断すべきものと解する。ところで、原判示証拠によれば、上六トルコでは、ソーシヤルトルコ部屋三四室、グランドトルコ部屋二一室及びデラツクストルコ部屋一三室計六八室の個室を有し、これらの個室は外部から内部の見えない作りとなつており、一般共同浴場は有せず時期において相違はあるがトルコ娘を数十名持ち、このトルコ娘が入浴客と一対一で個室内で、ブラジヤーとシヨートパンツのみで、応対し、その洗身、洗髪、爪切り、ひげそり、マツサージ等の作業に就いていることが認められ、この現実の態様にかんがみると、上六トルコの事業は労働基準法第八条第一四号の接客業に該当するものというべく、よつて同法第六二条第一項、第四項に基く一八才未満の女子に対する深夜業禁止規定の適用を免れない。
 以上の次第で本論旨は理由がない。所論のトルコ娘に労働基準法の適用があるならば、これらに対し労災保険の加入、解雇予告手当の問題を如何に考えるかは本論旨では特に論及の要はない。

と述べています。最高裁は上告を棄却していますので、これが現在でも日本国法体系における正しい解釈であるはずです。

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