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2015年7月23日 (木)

杉浦浩美『働く女性とマタニティ・ハラスメント 』

53121先日、大月書店の角田三佳さんからお送りいただいた杉田真衣『高卒女性の12年』の紹介をしましたが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2015/07/12-5e9a.html(杉田真衣『高卒女性の12年』)

その際、一緒にお送りいただいたのがこの本です。今流行りの「マタハラ」をタイトルにしているので最近の本と思われるかも知れませんが、いやいや6年前、2009年に出版されている本で、むしろこの本のタイトルがじわじわと広がっていって、昨年来マタハラが時ならぬバズワードになったというべきでしょう。

http://www.rikkyo.ac.jp/news/2014/12/15503/(社会福祉研究所の杉浦浩美特任研究員 「マタハラ」の語源として2014新語・流行語大賞トップ10に入選)

12月1日(月)2014ユーキャン新語・流行語大賞が発表され、「マタハラ」がトップ10に入選。「マタハラ」という言葉の語源として、『働く女性とマタニティ・ハラスメント』(大月書店、2009年)の著者である本学社会福祉研究所の杉浦浩美研究員が表彰されました。

本書には、この「マタハラ」という言葉の産み出される瞬間が描かれています。杉浦さんが本書の元になった最初の調査を行った2001年、

・・・筆者自身はこの言葉を女性たちの日常的な「声」から得た。1990年代半ばのインターネットの普及とともに、「働く母親=ワーキングマザー」を対象としたホームページが登場するようになり、両立に関する情報交換や意見交換を行う場も徐々に増えてきた。そうした場では、育児と仕事の両立についてだけでなく、職場における妊娠期のトラブルを記しているものも見受けられた。妊娠を上司に告げることができない。あるいは告げたら怒鳴られたというもの、妊娠期の残業や出張をどうするのか、妊娠したことによって周囲の態度が変わった等々、その内容は多岐にわたるものだった。なかには「マタ・ハラ」というような表現を使って、自らの経験を語っているものもあった。「マタ・ハラ」とは、「マタニティ・ハラスメント」の略称であり、「股」(=産む身体の象徴)に対するハラスメントという意味もかけているのではないかと思われる。・・・

そうだったのか、「マタ・ハラ」の「マタ」は「マタニティ」であるとともに「股」でもあったのですね。

これがぴんぴんと来たのは、著者の杉浦さん自身に経験があったからで、徳間書店で編集者として16年勤務する間に2回妊娠出産を経験しているようです。

序章 女性労働者の妊娠期を問うこと 
 1 なぜ、妊娠期に着目するのか 
 2 三つの領域における研究の位置づけと意義 
 3 当事者経験への依拠――調査データ 
 4 本書の構成 

第1章 女性労働研究における「女性労働者」の不在――「女性」と「労働」の関係をめぐって
 1 女性労働者とはいかなる存在か
 2 家族社会学における母親役割優先モデル 
 3 女性労働研究におけるジェンダー・ニュートラル・アプローチ 
 4 「女性役割解体」後の「産む身体」――本書の立場と方法 

第2章 女性労働者の「身体性」という問題
 1 矛盾する二つの身体 
 2 母性保護をめぐる議論――「身体性の制度化」をめぐって 
 3 女性の身体性の肯定/否定
 4 身体性の無効化 
 5 性差の解体と差異の個人化 

第3章 母性保護要求をめぐるジレンマ
 1 妊娠期の実態調査の必要性 
 2 調査の方法――「マタニティ・ハラスメント」という概念 
 3 調査の経緯 
 4 妊娠・出産保護と「妊婦の申出」 
 6 「当然の権利」から「選択的権利」へ

第4章 平等化戦略の矛盾と限界
 1 「総合職・専門職型労働」における妊娠期という問題
 2 フェミニズムの射程から消えた総合職女性
 3 ホモソーシャルな領域における「女性の身体」
  4 聞き取り調査の事例から 
  5 統合化の内実 
  6 女性の身体性の表出 
  7 過剰適応を生むメカニズム 
  8 「労働する身体」に「なりきれない身体」を生きること

第5章 差異化される女性労働者
 1 出産退職の現状と女性労働者間格差 
  2 一般職の出産退職を問う意味 
  3 調査の概要と調査対象者 
  4 就業継続意欲が「子どものための退職」に変化するプロセス
5 「総合職」と「一般職」という差異化 
  6 「一般職女性」に付される意味づけ 
  7 女性と労働――再考 

第6章 身体性の主張のありか
 1 「矛盾」の境界――身体性の主張の困難 
  2 「産む身体」が「矛盾」とならないとき 
 3 身体性の主張の転換 
  4 再び、女性労働者の妊娠期を問うこと 

一貫するキーワードは「身体性」。男女平等戦略が、女性の身体性を否定するジェンダーアプローチに傾いていっても、そうなりきれない「女性の身体性」が噴出するのが妊娠という状況だというのです。それは場合によっては露骨に「性的」なものともなりえます。

・・・妊娠によって喚起される身体性には、もう一つの側面があった。妊娠は女性の身体を「セクシュアルな身体」として表出することにもなる。・・・

男性身体も含めて「性的なるもの」を封印することによって成立している職場に、「妊婦」という身体は、無防備な姿でさらけ出される。それはもっと直接的に言えば「セックスをした身体」として、まなざされることを意味する。そうした「性的身体」へのまなざしが、露骨な形で女性に向けられてしまえば、「いつ頃やったんだ?」というような言い方に代表される性的揶揄の対象ともなる。・・・

・部長から「本能のままに行動したやろ」といわれた(システムエンジニア。34歳)

・職場の人(男)に「お前もついにあの診察台に上がって足を開いて見せたわけやな」といわれ、なんと言っていいか分からずその場を立ち去った(事務職。34歳)・・・・

かくしてマタハラは限りなくセクハラにも接近していくわけです。

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