ジョブ型男女不平等
ちょっと確認したいことがあって、ロナルド・ドーアの名著『イギリスの工場・日本の工場』(筑摩書房)を再読していたところ、かつて読んだときにも眼に入っていたはずなのに、全然記憶に残っていなかったある一節が、結構インパクトがありました。
それは、イギリスのエングリッシュ・エレクトリックと日本の日立製作所の賃金制度を比較しているところで、要するに私の言い方でいえば日本の属性主義的な賃金とイギリスのジョブ型な賃金を対比しているところなんですが、本筋じゃないところで、原著が出された1973年、あるいはむしろ元となった調査が行われた1960年代の感覚がにじみ出ているなあ、という記述が目に飛び込んできたのです。
・・・この時給を規定しているのは次のような諸条件である。
(1)労働者の性別-これは唯一の帰属的特質である。熟練度には関わりなく、女子は男子の賃金の3分の2以下の額しか受け取っていない。これは全く同じ仕事をしていても当てはまる。
(2)資格。これは労働者の待遇を決定する基本的な基準となる。
(3)実際に行っている仕事の性質。
労働関係者には言わずもがなですが、ここで言う(2)の「資格」というのは、特殊日本的な企業内でのみ通用する職能資格とは全く違います。ジョブの資格のことです、もちろん。
なんですが、今回再読して、(1)に、同一労働同一賃金は男同士だけであって、女は同一労働でもずっと低い賃金だと堂々と、何の問題意識もなく書いていることに逆に驚きました。
さらに、この記述。
・・・支払いはやっている仕事(現実にか、擬制的にかは問わない)に対してであり、なし得る仕事に対してではない、という原則は、かなり一般的に受け入れられている(より正確に言えば、やっている仕事に相当する額に、男子なら男性係数、女子ならば女性係数を乗じた額を受け取る)。・・・
なし得る仕事に払う日本的な職能給ではなく、やっている仕事に払う職務給であるというなんということのない記述なんですが、そこにわざわざ、男子には男性係数、女子には女性形数、と唯一の属性主義賃金原理が持ち込まれていることが明記されていたんですね。
男女平等関係に詳しい人ならご存じのように、イギリスに男女同一賃金法ができたのは1970年、この本の原著が出る少し前ですが、調査時点ではそんな感覚はイギリスの職場にはかけらもなかったのだということがよくわかります。
これも、本ブログの多くの読者にとってはややトリビア的な情報かも知れませんが、私にとっては、結構インパクトのあることでした。
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