ギリシャの労働法「改革」
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2015/07/post-1d62.html (ドイツとギリシャのアイロニー)
でちらと述べた、IMFとECBとECのトロイカによってギリシャに押しつけられた労働法「改革」について、在英のギリシャ人労働法学者による詳しい解説が、昨年JILPTがまとめた『欧州諸国の解雇法制―デンマーク、ギリシャ、イタリア、スペインに関する調査―』に収録されています。
http://www.jil.go.jp/institute/siryo/2014/142.html
第2章ギリシャのPDFファイルはこちらです。執筆者はマンチェスター大学講師のAristea Koukiadaki氏です。
http://www.jil.go.jp/institute/siryo/2014/documents/0142_02.pdf
やや長いですが、関心のある方はぜひリンク先の論文を読んでください。ここでは、冒頭の「はじめに」と、最後の節の最後のパラグラフだけコピペしておきます。
2009 年後半以降のギリシャは、政治的、経済的、社会的に重大な危機の真っただ中に置かれている。2008 年の世界的不況とギリシャ経済の構造的な問題によってこうした危機に陥った結果、労働法は広範に渡って変更された。この改革の大部分は、ギリシャ政府、国際通貨基金(IMF)、欧州中央銀行(ECB)、ユーロ圏加盟国を代表して活動している欧州委員会間で締結されている借款協定を枠組みとして実施された。この改革の趣旨は、ギリシャ経済が競争力に欠けるのは労働市場での柔軟性の欠如、および極度に雇用を保護した法律が原因であるとする旨の支配的な見解と一致していた∗1。その結果、労働法および労使関係の本質的特徴は根底から改められ、労働市場の規制における政労使の役割に対して重大な影響を与えている。しかし、巨額債務と大幅な赤字という二大問題への取り組みを中心に推進されてきたこの改革が、逆に生活条件と労働条件を大幅に悪化させているという証拠も増えつつある。
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こうした証拠を踏まえると、賃金と社会保障費の削減により競争力格差を埋めることができるという主張には説得力がない。実際には、そうした試みの短期的な結果として、失業と倒産の急増および不況の悪化がもたらされ、さらにその結果、ギリシャのみならず現在危機に直面している他の EU 加盟国の公的債務の返済がより一層困難になっている133。ILO が述べているように、「ギリシャの危機は、ギリシャだけの問題ではなく、世界的な問題がギリシャで発現しているのである」134。危機からの「脱出戦略」は、一連の財政施策群として提示されて一件落着となるものではなく、民主主義的プロセスに基づいて、社会の進歩および絶えざる生活条件と労働条件の改善を保証し続けるものであるべきである。同様に、欧州議会は、2011 年に採択した決議の中で、「危機に対する欧州の対応は、欧州統合の深化、共同体方式の追求、議会間対話の強化、社会的対話の促進、福祉国家の強化(社会的包摂、雇用創出、持続可能な成長などの支援を通じた)、および欧州連合の基本目標としての社会的市場経済とその価値のさらなる構築を基盤として、諸条約および欧州連合基本権憲章に定める諸価値に基づく欧州プロジェクトに全ての EU 市民を結集させるよう、行わなければならない」ことを想起して宣言している135。しかし、このような宣言にもかかわらず、危機に面した諸国家の監督に直接関与している諸機関、とりわけ、IMF、ECB および EC が、ギリシャに対してこの宣言と同様の取り組みを採用しているという証拠は今のところない。現時点では、財政状態の悪化を考慮すると、ギリシャには第三回財政支援プログラムが必要になるだろうという憶測が強まっている。そうしたプログラムが実行された場合、それに伴って労働法のさらなる改正や賃金の削減がなされ、労働条件ひいては生活条件の一層の悪化へとつながることは疑う余地がない。
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