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2015年7月29日 (水)

思想信条による採用拒否は最高裁がお墨付きを出している件について

どうもやはり、労働法の割と基本的な常識が世間で共有されていないということが多いのですが、

https://twitter.com/go2_kota/status/626263169871147008

デモ参加で不採用って、内規がなんだろうが法律がアカンといってるでしょう。思想・信条の自由を犯してはならないってのは労基法とかの基本中の基本だったと思うけど…。

https://twitter.com/go2_kota/status/626263446808465408

「デモ参加なんて言語道断!労基法がなんだろうが、内規でアカンと決まっている!」って人はやっぱり安保法案と憲法の関係とかもまるで気にならない人なのかな?

いや、どっちの方々も、まずは労働法の入門書に目を通してからつぶやいた方が・・・・。

有名な、いやホントに、労働法を勉強したと言っていてこの判決を知らなかったらモグリですが、三菱樹脂事件最高裁判決で、日本国最高裁はこう述べています。

・・・・・企業者は、かような経済活動の一環としてする契約締結の自由を有し、自己の営業のために労働者を雇傭するにあたり、いかなる者を雇い入れるか、いかなる条件でこれを雇うかについて、法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由にこれを決定することができるのであつて、企業者が特定の思想、信条を有する者をそのゆえをもつて雇い入れることを拒んでも、それを当然に違法とすることはできないのである。憲法一四条の規定が私人のこのような行為を直接禁止するものでないことは前記のとおりであり、また、労働基準法三条は労働者の信条によつて賃金その他の労働条件につき差別することを禁じているが、これは、雇入れ後における労働条件についての制限であつて、雇入れそのものを制約する規定ではない。また、思想、信条を理由とする雇入れの拒否を直ちに民法上の不法行為とすることができないことは明らかであり、その他これを公序良俗違反と解すべき根拠も見出すことはできない

 右のように、企業者が雇傭の自由を有し、思想、信条を理由として雇入れを拒んでもこれを目して違法とすることができない以上、企業者が、労働者の採否決定にあたり、労働者の思想、信条を調査し、そのためその者からこれに関連する事項についての申告を求めることも、これを法律上禁止された違法行為とすべき理由はない。もとより、企業者は、一般的には個々の労働者に対して社会的に優越した地位にあるから、企業者のこの種の行為が労働者の思想、信条の自由に対して影響を与える可能性がないとはいえないが、法律に別段の定めがない限り、右は企業者の法的に許された行為と解すべきである。また、企業者において、その雇傭する労働者が当該企業の中でその円滑な運営の妨げとなるような行動、態度に出るおそれのある者でないかどうかに大きな関心を抱き、そのために採否決定に先立つてその者の性向、思想等の調査を行なうことは、企業における雇傭関係が、単なる物理的労働力の提供の関係を超えて、一種の継続的な人間関係として相互信頼を要請するところが少なくなく、わが国におけるようにいわゆる終身雇傭制が行なわれている社会では一層そうであることにかんがみるときは、企業活動としての合理性を欠くものということはできない。のみならず、本件において問題とされている上告人の調査が、前記のように、被上告人の思想、信条そのものについてではなく、直接には被上告人の過去の行動についてされたものであり、ただその行動が被上告人の思想、信条となんらかの関係があることを否定できないような性質のものであるというにとどまるとすれば、なおさらこのような調査を目して違法とすることはできないのである。

ちなみにこの「思想信条」の具体的な内容は次のようなものです。

被上告人は、東北大学に在学中、同大学内の学生自治会としては最も尖鋭な活動を行ない、しかも学校当局の承認を得ていない同大学川内分校学生自治会(全学連所属)に所属して、その中央委員の地位にあり、昭和三五年前・後期および同三六年前期において右自治会委員長らが採用した運動方針を支持し、当時その計画し、実行した日米安全保障条約改定反対運動を推進し、昭和三五年五月から同三七年九月までの間、無届デモや仙台高等裁判所構内における無届集会、ピケ等に参加(参加者の中には住居侵入罪により有罪判決を受けた者もある。)する等各種の違法な学生運動に従事したにもかかわらず、これらの事実を記載せず、面接試験における質問に対しても、学生運動をしたことはなく、これに興味もなかつた旨、虚偽の回答をした。

もちろん、この判決に対しては労働法学者による批判が多くなされています。しかし、うえの最高裁判決をじっくり読めば分かるように、これは終身雇用制の下で雇用関係が単なる労務と報酬の交換契約ではなく人間的な信頼関係が重要な「仲間」の選抜であるからという理由付けがなされているのであり、そこのところを抜きにして、単純に論じられるようなものでもありません。

最近では例えば水町勇一郎さんが『労働法入門』(岩波新書)において、

S1329・・・フランスで日本の労働法の授業をする時、強い違和感をもって受け止められ、説得的に説明するのが最も難しいのが、労働者の内面の自由より会社の経済活動の自由を優先するこの日本の判例の立場である。多様化が進み、閉鎖的な共同体社会の弊害が大きく顕在化する中、日本の判例を見直すべき時に来ているのではないだろうか。

と述べています。しかし、この議論は、日本の雇用のあり方全般について、共同体的な性格を見直すべきという議論のコロラリーとしてなされているのであって、そこの所だけ都合良くつまみ食いできるものではない、ということもきちんと認識しておくべきことでもあります。

(追記)

コメント欄に「りんどう」さんが

役所の方から「公正採用選考が大事ですよ」ということで「思想信条に関わることは採用基準にするのはもってのほかで、面接で聞くのもやめてください」とわりとしっかり周知啓発されております。

と書き込まれているほか、なんだか大きな話題になっているようで、今朝の朝日新聞でも、

http://www.asahi.com/articles/ASH7W5SYRH7WUTIL03M.html(デモに参加すると就職に不利? 「人生詰む」飛び交う)

という記事になっています。

せっかくなので、労働法全体の見取り図を説明しておきます。

労働法は大きく3つ、労働市場法制、労働条件法制(労働契約法制)、労使関係法制に分かれます。募集・採用というのは、1番目と2番目とのちょうどリンケージにあたります。

労働条件法制(労働契約法制)としては、いったん採用して雇用関係が生じた以上は、信条による差別は許されません。上の最高裁判決で、

労働基準法三条は労働者の信条によつて賃金その他の労働条件につき差別することを禁じているが、これは、雇入れ後における労働条件についての制限であつて、雇入れそのものを制約する規定ではない。

と言っているとおりです。

一方、労働市場法制としては、もともと労働基準法と同じ時にできた職業安定法第3条で、職業紹介、職業指導等について信条による差別を禁止しています。

第三条  何人も、人種、国籍、信条、性別、社会的身分、門地、従前の職業、労働組合の組合員であること等を理由として、職業紹介、職業指導等について、差別的取扱を受けることがない。但し、労働組合法の規定によつて、雇用主と労働組合との間に締結された労働協約に別段の定のある場合は、この限りでない。

しかし、これは職業紹介機関が差別してはいけないと言っているだけであって、企業の採用の自由には関わらないものでした。その旨は、当初から職業安定法施行規則第3条第3項に明記されていました。

第三条
3 職業安定法(昭和二十二年法律第百四十一号。以下法という。)第三条の規定は、労働協約に別段の定ある場合を除いて、雇用主が労働者を選択する自由を妨げず、又公共職業安定所が求職者をその能力に応じて紹介することを妨げない。

これが、三菱樹脂事件判決が出た当時の法制状況です。

1999年に職業安定法が一部改正され、第5条の4という規定が追加されました。

第五条の四  公共職業安定所等は、それぞれ、その業務に関し、求職者、募集に応じて労働者になろうとする者又は供給される労働者の個人情報(以下この条において「求職者等の個人情報」という。)を収集し、保管し、又は使用するに当たつては、その業務の目的の達成に必要な範囲内で求職者等の個人情報を収集し、並びに当該収集の目的の範囲内でこれを保管し、及び使用しなければならない。ただし、本人の同意がある場合その他正当な事由がある場合は、この限りでない。

この改正は、ILO181号条約の批准のための改正で、同時に労働者派遣法のネガティブリスト化なども行われていますが、大きく言えば、労働市場ビジネスを積極的に認めていく一方で、労働者保護をきちんと強めていこうという趣旨のものの一環でした。

で、この条項の名宛人である「公共職業安定所等」とは何を指すかというと、

第五条の三  公共職業安定所及び職業紹介事業者、労働者の募集を行う者及び募集受託者(第三十九条に規定する募集受託者をいう。)並びに労働者供給事業者(次条において「公共職業安定所等」という。)は、それぞれ、職業紹介、労働者の募集又は労働者供給に当たり、求職者、募集に応じて労働者になろうとする者又は供給される労働者に対し、その者が従事すべき業務の内容及び賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。

公共民間の労働市場アクターに加えて、「労働者の募集を行う者」というのが入っています。ここで初めて、労働者を募集している企業自体を名宛人として、「個人情報」という観点からの一定の規制がかかったわけです。しかし、現になお職業安定法施行規則第3条第3項がそのまま存在していることからも分かるように、これは「雇用主が労働者を選択する自由を妨げ」るものではありません。

上の労働法の分野分けで言うと、労働市場法制としては、個人情報保護という観点から募集の際の手法に一定の制約は課せられていますが、採用するかしないかの意思決定には制約はありません。一方で、労働条件法制(労働契約法制)としては、いったん採用(内定も含む)したら差別は許されなくなりますが、採用するかしないかの意思決定自体はなお完全に自由です。

こういう風に頭の中を仕分けしておくと、いろんな情報が錯綜するのを理解しやすくなると思います。

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コメント

いつも拝読し、勉強させていただいております。
さて、自分としても授業で三菱樹脂事件は学び一応頭には入っていたのですが、実際に会社に入って採用に関わりますと、役所の方から「公正採用選考が大事ですよ」ということで「思想信条に関わることは採用基準にするのはもってのほかで、面接で聞くのもやめてください」とわりとしっかり周知啓発されております。(判例はともかくとして、まあたしかにそのほうが望ましかろうとも思います。)
したがいまして、世間一般の方が「思想信条で就職差別をしちゃいけないんだ」と漠然と思っているというのも、まあ行政の努力のひとつの成果なのかなあと思って読ませていただきました。

「思想信条」というと、政治的なアレとか、宗教的なアレとか、を思い浮かべますが、例えば、非喫煙者を採用したい、というのもある意味 喫煙に対する「思想信条」になるわけで、雇用主に労働者を選択する自由が与えられるのも必要なものだと思いますね。

労働局が「仕事に関係しないことを応募者に聞いてはいけない」と指導しているという話がネットの記事に出ていました。

 採用担当者「これまでこの仕事をやったことがありますか?」
 応募者「ありません」
 採用担当者「この仕事に直接関係することを学校で学んだことは?」
 応募者「ありません」
 採用担当者「...(こりゃだめだ)」

この辺の話も欧米諸国で職歴のない新卒者が職を得るのは不可能とされるゆえんの一端なのですかね。日本の新卒採用の有り様と合わせて考えると趣が出てくるといいますか。

日本の新卒採用では、「仕事に直接関係しないこと」で何とか応募者を評価しようとしているわけでして。それが求職者に「茶番」と感じさせる要因であったりもするのでしょうけど。

先生の「差別をやめることで格差が拡大することもある」というお話にも通じますね。

皮肉なことに、「仕事に直接関係しないこと」を会社が学生に聞くな、調べるな、と(それだけとれば、徹底した職業レリバンス論を主張しているとしか思えぬことを)言っているその舌の根も乾かぬうちに、大学は「仕事に直接関係しないこと」を教えるんだ、キリッ、という徹底して反職業レリバンス論を唱えて、その矛盾に気がついていそうにないというあたりに、日本の人文社会科学系の学問をしている人々の知的インテグリティの希薄さが感じられないでもありません。

言うまでもなくこれは、どちらが正しいとか間違っているとかという議論とは関係ありません。どちらにもそれぞれメリットもあればデメリットもある。ただ、ある立場を取ってそのメリットを称揚するならば、それが論理必然的に随伴するデメリットについても、率直に認めるのは最低限の知的誠実性ではありましょう。

企業がメンバーシップ型の「官能性」に基づく採用をしてくれているおかげで、「仕事に直接関係しないこと」を教えるという大量の雇用機会を享受し得ている人文社会科学系の大学教師の方々が、そのことの論理必然的コロラリーである「仕事に直接関係しないこと」ばかりを企業が気にして調べたがることを批判するというのは、控えめに言っても天に唾する行為と言うべきでしょうし、人文社会科学系の学問をすることの最低限の意味があるとすれば、そういう内在的矛盾に対する鋭い感覚を養うことくらいではないかと思ったりもするのですが、まあこれも余計なことかも知れません。

またまた非常に勉強になります。自分自身にモロに当て嵌まる話なので、とても参考にもなりますし(笑)。
hamachanの説明、非常に明快で分かり易いのですが、気になる点が一点だけあります。
それは、事前に調べた上で、その件について学生と相談とかしたのか?ということです。話は採用時点と採用後にまたがるのですが、「学生運動とかしてたけど、会社入ってもやるの?もしやらないならやらないという確約書を書いてよ(その際も法令を違反するような組合活動や市民運動は会社の名誉を毀損するものであることをあらかじめ理解し自粛する云々・・・程度だと思いますが)」という話がないと、やはり問題なんじゃないの?と思います。
民法的に使用者も労働者も対等に好き嫌いで判断して良い、という点だけを強調しちゃうと(僕の勘違いかもしれませんが)、市民同士の関係を考慮して市民が権利行使(ここでは簡単に政府を批判する権利としましょう)を自粛することを裁判所は認める、ということになりますし、それは労働法的にどうのこうの、というより市民法としての日本国憲法的にどうなの?と思います。
ま、hamachanの専門外とは思うのでスルーしても良いですが・・・。

>民法的に使用者も労働者も対等に好き嫌いで判断して良い、という点だけを強調しちゃうと(僕の勘違いかもしれませんが)、

女性はいらないっということもOKになってしまいますからね。好き嫌いと言っても「差別」につながることはやはり公然とは認められないでしょう。

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