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2015年7月 3日 (金)

「EUの労働時間法制」@KDDI労組機関紙56号

KDDI労組機関紙56号に、「EUの労働時間法制」を寄稿しました。

なお、KDDI労組は今年の春闘で、安全衛生規程で勤務間インターバル11時間を休息確保の指標として導入した労働組合です。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2015/04/11-b330.html(KDDI労組が11時間の勤務間インターバルを獲得)

機関紙同号には、大きく見開きで「勤務間インターバル導入」という記事が載っています。

その脇に小さい解説記事として、私の「EUの労働時間法制」が載っています。

 現在、労働時間規制のあり方が大きな政治的課題となっているが、ややもするとその焦点は「時間でなく成果で評価される制度」とか「残業代ゼロ」といった賃金制度論の是非に偏り、労働時間規制本来の趣旨、すなわち労働者の健康と安全のために物理的労働時間をいかに規制すべきかという問題は背後に追いやられる傾向にある。これに対し、1993年に制定されたEUの労働時間指令では、労働者の健康確保のための物理的労働時間規制のみが整然と規定されている。本稿では、現在EU28か国の国内法として施行されている同指令の具体的内容について概観する。

 まず、週労働時間の上限は48時間である。原則として4か月単位、労使協定によれば1年単位の変形制が認められている。これを見て、日本より緩いではないか、と思ってはいけない。この週48時間とは、時間外労働がそこで終わる時間である。所定労働時間は労働協約で40時間なり35時間なり好きに決めて良い。しかし、その外側の時間外労働も週48時間で終わりである。日本の週40時間が、時間外労働がそこから始まる時間であるのとは対照的である。変形制も同じこと。日本の変形制とは、残業代がそこからつく時刻が早くなったり遅くなったりするだけで、その外側に時間外労働があることを予定している。EU指令の変形制とは、時間外労働がそこで終わる時刻が前後するのである。ただし、週48時間については労働者個人が望めばそれを超えて働くことが可能となっており(個人別36協定とでもいえようか。英語では「オプトアウト」という)、イギリスではむしろそれが一般化していると言われる。

 次に週休は1日である。正確には7日ごとに24時間の休息が必要である。これも日本と同じだと思ったら大間違いである。日本の休日規制とは、休日労働させたら(25%ではなく)35%の割増を払わなければならないというだけの意味に過ぎない。EU指令の休日規制とは週1回は必ず休ませなければならない絶対休日規制である。労働協約で週休2日としている国が多いが、うち1日は所定休日出勤が可能な日、もう1日はそれが不可能な日ということである。

 このように、一見日本の規制とよく似ているように見える週労働時間規制や休日規制も、その本質はまったく異なっているわけだが、日本の法令には全くその姿を見ることができないのが、EU指令の中核とも言うべき休息期間規制、いわゆる勤務間インターバル規制である。すべての労働者は24時間ごとに継続11時間の最低1日ごとの休息時間を得る権利がある。言うまでもなくこれも絶対休息時間規制であり、手当を払えば働かせてもいいものではない。そして、毎日の睡眠時間と生活に必須の時間を確保するために必要な最低限度の時間として、これは週48時間をオプトアウトしていても必ず適用される。この場合、1日13時間×6日=週78時間が、EU労働者の週拘束時間の上限ということになる。

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