専修大学事件最高裁判決
注目を集めていた専修大学事件の最高裁判決が出たようです。
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/148/085148_hanrei.pdf
原審をひっくり返しました。
判旨部分をコピペしておきます。
(1) 労災保険法は,業務上の疾病などの業務災害に対し迅速かつ公正な保護をするための労働者災害補償保険制度(以下「労災保険制度」という。)の創設等を 目的として制定され,業務上の疾病などに対する使用者の補償義務を定める労働基 準法と同日に公布,施行されている。業務災害に対する補償及び労災保険制度につ いては,労働基準法第8章が使用者の災害補償義務を規定する一方,労災保険法1 2条の8第1項が同法に基づく保険給付を規定しており,これらの関係につき,同 条2項が,療養補償給付を始めとする同条1項1号から5号までに定める各保険給 付は労働基準法75条から77条まで,79条及び80条において使用者が災害補 償を行うべきものとされている事由が生じた場合に行われるものである旨を規定 し,同法84条1項が,労災保険法に基づいて上記各保険給付が行われるべき場合 には使用者はその給付の範囲内において災害補償の義務を免れる旨を規定するなど している。また,労災保険法12条の8第1項1号から5号までに定める上記各保 険給付の内容は,労働基準法75条から77条まで,79条及び80条の各規定に 定められた使用者による災害補償の内容にそれぞれ対応するものとなっている。 上記のような労災保険法の制定の目的並びに業務災害に対する補償に係る労働基 準法及び労災保険法の規定の内容等に鑑みると,業務災害に関する労災保険制度 は,労働基準法により使用者が負う災害補償義務の存在を前提として,その補償負 担の緩和を図りつつ被災した労働者の迅速かつ公正な保護を確保するため,使用者 による災害補償に代わる保険給付を行う制度であるということができ,このような 労災保険法に基づく保険給付の実質は,使用者の労働基準法上の災害補償義務を政 府が保険給付の形式で行うものであると解するのが相当である(最高裁昭和50年 (オ)第621号同52年10月25日第三小法廷判決・民集31巻6号836頁 参照)。このように,労災保険法12条の8第1項1号から5号までに定める各保 - 5 - 険給付は,これらに対応する労働基準法上の災害補償に代わるものということがで きる。
(2) 労働基準法81条の定める打切補償の制度は,使用者において,相当額の 補償を行うことにより,以後の災害補償を打ち切ることができるものとするととも に,同法19条1項ただし書においてこれを同項本文の解雇制限の除外事由とし, 当該労働者の療養が長期間に及ぶことにより生ずる負担を免れることができるもの とする制度であるといえるところ,上記(1)のような労災保険法に基づく保険給付 の実質及び労働基準法上の災害補償との関係等によれば,同法において使用者の義 務とされている災害補償は,これに代わるものとしての労災保険法に基づく保険給 付が行われている場合にはそれによって実質的に行われているものといえるので, 使用者自らの負担により災害補償が行われている場合とこれに代わるものとしての 同法に基づく保険給付が行われている場合とで,同項ただし書の適用の有無につき 取扱いを異にすべきものとはいい難い。また,後者の場合には打切補償として相当 額の支払がされても傷害又は疾病が治るまでの間は労災保険法に基づき必要な療養 補償給付がされることなども勘案すれば,これらの場合につき同項ただし書の適用 の有無につき異なる取扱いがされなければ労働者の利益につきその保護を欠くこと になるものともいい難い。 そうすると,労災保険法12条の8第1項1号の療養補償給付を受ける労働者 は,解雇制限に関する労働基準法19条1項の適用に関しては,同項ただし書が打 切補償の根拠規定として掲げる同法81条にいう同法75条の規定によって補償を 受ける労働者に含まれるものとみるのが相当である。
(3) したがって,労災保険法12条の8第1項1号の療養補償給付を受ける労働者が,療養開始後3年を経過しても疾病等が治らない場合には,労働基準法75 条による療養補償を受ける労働者が上記の状況にある場合と同様に,使用者は,当 該労働者につき,同法81条の規定による打切補償の支払をすることにより,解雇 制限の除外事由を定める同法19条1項ただし書の適用を受けることができるもの と解するのが相当である。
あり得べき誤解を予め解いておくと、これは一般的な解雇のありようについて何か左右するような性格のものではありません。
そもそも労働基準法においては、解雇は基本的に自由というかできるものであり、ごく例外的に解雇が制限される場合として労災や妊娠中の解雇が規定されているので、その例外的に解雇できない場合の範囲がどこまでかという玄人的な議論をしているのです。
それに対して、現在労働契約法16条に規定されている解雇権濫用法理は、投網をかけるようにすべての解雇について客観的に合理的な理由を求めているのであり、今回の判決はこちらには何の影響もあるものではありません。
そこのところだけ間違えないで報道してもらえるとありがたいですね。
今日の判決の最後のところでも、労働契約法16条の関係を判断させるために差し戻しに下とちゃんと書いております。
・・・そ して,本件解雇の有効性に関する労働契約法16条該当性の有無等について更に審 理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
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コメント
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労働契約法16条との無関係性について了解致しました。
ところでこの判決は労働者災害補償保険の趣旨を反故にしているのでは?
大学側の負担軽減を考慮しているようですが、労働基準法の災害補償では使用者の補償能力が低い場合労働者を保護出来ないことを考慮して保険法式の労災保険法があるのです。
使用者側の負担軽減即ち解雇有効という結論ではだれも労働者を守れなくなると思いました。使用者の負担軽減の為のアイデア模索が正しい方向付けです。
投稿: NAO | 2015年6月10日 (水) 15時38分