労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策の推進に関する法律案(修正版)
昨日、労働者派遣法改正案といわゆる同一労働同一賃金法案が衆議院を通過しました。
前者については、あまりにも世の中にポジショントークが多すぎて、ここであえてコメントをせず、自ら派遣労働者として働く「ありす」さんの冷静なエントリを摘示するだけにとどめておきます。
http://alicewonder113.blog.fc2.com/blog-entry-89.html
ここでは、もともと派遣法改正案への対案として民主党と維新の党から提出され、昨日与党自民党、公明党と維新の党によって修正されて可決された「労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策の推進に関する法律案」について、その修正後のバージョン自体が現時点ではどこにも見当たらないので、衆議院法制局HPにある原案と修正案を組み合わせて、衆議院通過バージョンを作成してみました。
これは論点が山のようにあり、賃金制度論を真っ正面から議論する必要があります。この法案が実定法になると、これまで労基法4条の男女同一賃金と最近の断片的な非正規労働法制で徐々に形成されてきた賃金制度法制が一個の基本法的根拠をもつことになり、労働法の教科書類もその構成を真剣に考える必要が出てくるかもしれません。
実は、私が11年前から東大公共政策大学院でやっている労働法政策の講義でも、そろそろこのトピックを賃金法政策に含めて、まとめて論じていく必要があるかも知れないね、というようなはなしを、ちょうど先週が賃金法政策で、今週が労働契約法政策だったこともあり、学生の皆さんにしました。
11年前にこの講義を始めたときは、労働契約法と言っても、労働基準法の有期契約の上限をどうするかという話と、ようやく前年に労基法旧20条の2として解雇権濫用法理が規定されたくらいで、まだ中身の乏しかったパート法を含めてもたいした分量でもなかったのですが、この間に膨大な展開がありまして、ただ額が上がり続けるだけで論点が増えていかない最低賃金がメインの賃金法政策との間の分量バランスが半端ない状態になりつつあったので、賃金制度法政策が移ると、ちょうど良いバランスになりそうです。ただし、「賃金処遇法政策」といったタイトルにしないと、やや狭い感があります。
労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策の推進に関する法律案
(目的)
第一条 この法律は、近年、雇用形態が多様化する中で、雇用形態により労働者の待遇や雇用の安定性について格差が存在し、それが社会における格差の固定化につながることが懸念されていることに鑑み、それらの状況を是正するため、労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策に関し、基本理念を定め、国の責務等を明らかにするとともに、労働者の雇用形態による職務及び待遇の相違の実態、雇用形態の転換の状況等に関する調査研究等について定めることにより、労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策を重点的に推進し、もって労働者がその雇用形態にかかわらず充実した職業生活を営むことができる社会の実現に資することを目的とする。
(基本理念)
第二条 労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策は、次に掲げる事項を旨として行われなければならない。
一 労働者が、その雇用形態にかかわらずその従事する職務に応じた待遇を受けることができるようにすること。
二 通常の労働者以外の労働者が通常の労働者となることを含め、労働者がその意欲及び能力に応じて自らの希望する雇用形態により就労する機会が与えられるようにすること。
三 労働者が主体的に職業生活設計(職業能力開発促進法(昭和四十四年法律第六十四号)第二条第四項に規定する職業生活設計をいう。次条第三項及び第八条において同じ。)を行い、自らの選択に応じ充実した職業生活を営むことができるようにすること。
(国の責務等)
第三条 国は、前条の基本理念にのっとり、労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策を策定し、及び実施する責務を有する。
2 事業主は、国が実施する労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策に協力するよう努めるものとする。
3 労働者は、職業生活設計を行うことの重要性について理解を深めるとともに、主体的にこれを行うよう努めるものとする。
(法制上の措置等)
第四条 政府は、労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策を実施するため、必要な法制上、財政上又は税制上の措置その他の措置を講ずるものとする。
(調査研究)
第五条 国は、次に掲げる事項について調査研究を行うものとする。
一 労働者の雇用形態の実態
二 労働者の雇用形態による職務の相違及び賃金、教育訓練、福利厚生その他の待遇の相違の実態
三 労働者の雇用形態の転換の状況
四 職場における雇用形態による職務の分担及び管理的地位への登用の状況
2 国は、前項第三号に掲げる事項について調査研究を行うに当たっては、通常の労働者以外の労働者が通常の労働者への転換を希望する場合における処遇その他の取扱いの実態、当該転換を妨げている要因等について重点的にこれを行うものとする。
(職務に応じた待遇の確保)
第六条 国は、雇用形態の異なる労働者についてもその待遇の相違が不合理なものとならないようにするため、事業主が行う通常の労働者及び通常の労働者以外の労働者の待遇に係る制度の共通化の推進その他の必要な施策を講ずるものとする。
2 政府は、派遣労働者(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律第二条第二号に規定する派遣労働者をいう。以下この項において同じ。)の置かれている状況に鑑み、派遣労働者について、派遣元事業主(同法第二十三条第一項に規定する派遣元事業主をいう。)及び派遣先(同法第三十条の二第一項に規定する派遣先をいう。以下この項において同じ。)に対し、派遣労働者の賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇についての規制等の措置を講ずることにより、派遣先に雇用される労働者との間においてその業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度その他の事情に応じた均等な待遇及び均衡のとれた待遇の実現を図るものとし、この法律の施行後、三年以内に法制上の措置を含む必要な措置を講ずるとともに、当該措置の実施状況を勘案し、必要があると認めるときは、所要の措置を講ずるものとする。
(雇用環境の整備)
第七条 国は、労働者がその意欲及び能力に応じて自らの希望する雇用形態により就労することが不当に妨げられることのないよう、労働者の就業形態の設定、採用及び管理的地位への登用等の雇用管理の方法の多様化の推進その他雇用環境の整備のために必要な施策を講ずるものとする。
2 国は、前項の施策を講ずるに当たっては、雇用形態により労働者の待遇や雇用の安定性について格差が存在する現状を踏まえ、通常の労働者以外の労働者の雇用管理の改善及び通常の労働者以外の労働者から通常の労働者への転換が促進されるよう、必要な配慮を行うものとする。
(教育の推進)
第八条 国は、国民が職業生活設計の重要性について理解を深めるとともに、労働者が主体的に職業生活設計を行い、自らの選択に応じ充実した職業生活を営むことができるよう、職業生活設計についての教育の推進その他必要な施策を講ずるものとする。
附 則
(施行期日)
1 この法律は、公布の日から施行する。ただし、次項の規定は、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律等の一部を改正する法律(平成二十七年法律第 号)の施行の日から施行する。
(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律等の一部を改正する法律の一部改正)
2 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律等の一部を改正する法律の一部を次のように改正する。
附則に次の一条を加える。
(労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策の推進に関する法律の一部改正)
第十八条 労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策の推進に関する法律(平成二十七年法律第 号)の一部を次のように改正する。
第六条第二項中「同法第二十三条第一項」を「同条第四号」に、「同法第三十条の二第一項」を「同号」に改める。
(調整規定)
3 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律等の一部を改正する法律の施行の日が国家戦略特別区域法及び構造改革特別区域法の一部を改正する法律(平成二十七年法律第号)の施行の日以後である場合には、前項のうち労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律等の一部を改正する法律附則に一条を加える改正規定中第十八条を第十九条とする。
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安倍政権の規制撤廃って、結局は
金持ちのためのもの。
近代の資本主義社会においては強欲
資本家から弱いものを守るための政府の
規制は必須です。
ところがまあ、現実は格差がどんどん
拡がり、それが強化されています。
労働者派遣法改正案:衆院通過 非正規固定化の恐れ
企業が同じ職場で派遣労働者を使える期間の
制限(最長3年)を事実上撤廃する労働者派遣
法改正案...... [続きを読む]
今回の派遣法改正の目的が、よく理解できない状況ですが、派遣労働者や契約社員と呼ばれる非正規労働者においては、残業代の支払いが、労基法(最低の労働条件)に定める時間外労働の算定、割増賃金の割増率が、違法に取り扱われ、低賃金、低労働条件となっている実態を改善するには不十分と思われます。
上記は「違法行為」そのものであり、関西における派遣事業主と派遣労働者間の契約を見る限り、ほとんど実効性がなく、違法のまま放置されていると言わざるを得ません。
つまり、いかなる法制度を作ろうとも、労働問題を根底から解決する政治や労基署の指導、罰則の強化を行わねば、法律通りの取り扱いもされない搾取構造が続くということになります。
契約実態例:月額の賃金は160~180時間に対し、30万とする。180時間を超える場合は時間あたり300000/180 × (月間労働時間 - 180)で支払う
不満を言えば契約が打ち切られ、我慢するしかない身分保障のない非正規に何ができるか?
よく考えていく必要があります。
政府も、厚労省も、こうした違法状態を知りながら何も是正しません。彼らは財界からの支持やカネで利権を保っているのがその理由ではないかと想像します。
有給休暇もなく、労基法違反も訴えることができない低所得労働者を、企業は「使い捨て雇用」として守っていくつもりなのでしょうね。
投稿: あおの | 2015年6月20日 (土) 21時39分