これはマタハラか?
今はやりの「マタハラ」事案がまた一つ付け加わったか?という感じの記事ですが・・・、
http://www.asahi.com/articles/ASH6J6DSFH6JULFA03K.html?iref=comtop_list_nat_n05
妊娠後に地上職での勤務を認めず、休職を命じたのは、男女雇用機会均等法などに違反するとして、日本航空の客室乗務員・神野知子さん(40)が16日、同社を相手取って、休職命令の無効と未払い賃金など約340万円を求めて東京地裁に提訴した。
訴状などによると、同社は客室乗務員が妊娠した場合、母体保護のため会社規定で乗務資格を停止している。希望すれば地上勤務ができる「産前地上勤務制度」を導入していたが、2008年に制度を変えて「会社が認める場合」とただし書きをつけ、利用を制限した。神野さんは昨年8月に妊娠が分かり、制度の利用を申請したが、「ポストがない」として、翌9月に休職を命じられたという。
提訴後に記者会見した神野さんは、「当時は世帯主で母を扶養していたが、妊娠したとたん収入が絶たれ不安だった」などと訴えた。日本航空の広報部は「訴状が届いておらず、コメントはできない」と話している。
しかしよく考えると、これって「妊娠を理由とした差別」なんだろうかという疑問も湧いてきます。
ここで差別されたという人の比較対象は、等しく妊娠した客室乗務員であって地上勤務が認められた人ということになります。つまり、妊婦同士の間の差別であって、それを妊娠を理由とした差別と言えるのか、という問題がまずあります。
この産前地上勤務制度というのが全くなくて、客席乗務員は妊娠したら飛行機に乗れないんだからみんな休職よ、という制度であったとしたらどうでしょう。
妊娠した人と妊娠していない人を異なる扱いをしているのですから広い意味での差別にはなりますが、それは母性保護のための社内規制であって、否定されるべき差別になるかどうかは検討しなければなりません。
現行法令上、妊婦に飛行機への搭乗を禁止する規定は明示的には存在しませんが(もっとも、女性労働基準規則第2条の危険有害業務の一つとして、第14号「高さが五メートル以上の場所で、墜落により労働者が危害を受けるおそれのあるところにおける業務」というのがあります。たしかに飛行機は5メートル以上高いところを飛ぶし、墜落すると危害が及びますね。)、労働者保護について最低基準を上回る社内規制をすることは一般的には悪いこととは考えられていないでしょう。ただそれが一定の人(ここでは妊婦)の就業可能性を狭めてしまうこととの関係をどう考えるかですね。
おそらくそこのところを考慮して、地上勤務制度というのが設けられていたのでしょうが、それが(原告の観点からは)会社の恣意によって認められなかった、ケシカランではないか、ということになるのでしょう。
とはいえ、最初に述べたように、それはあくまでも、地上勤務を認められた妊娠客室乗務員との比較において、地上勤務を認められなかった妊娠客室乗務員が差別された、ということなわけで、これを妊娠を理由とする差別とするのは、理屈の山をいくつも超える必要がありそうです。
« 『解雇及び個別労働関係の紛争処理についての国際比較』 | トップページ | 『若者と労働』第4刷 »
コメント