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2015年6月

2015年6月29日 (月)

私が推薦したわけではないですが

Chuko 常見陽平さんが、今年から勤務している千葉商科大学の図書館の書評コンテストの課題図書に拙著『若者と労働』が挙がっていることを教えてくださっています。

https://twitter.com/yoheitsunemi/status/615365794105556992

千葉商科大学図書館の書評コンテスト

今回の課題図書に

濱口桂一郎先生の『若者と労働』(中公新書ラクレ)が!

良い本ですよね

私が推薦したわけではないですが

常見さん、ありがとうございます。いや、推薦いただいたわけではないとしても。

まあ、学生さんたちにとって、関心の高いトピックをちょっと広めの土俵で論じており、難しすぎず、易しすぎず、ちょうど良いくらいの本になっているのでしょうね。

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トレードユニオンは労働組合にあらず(ややトリビア)

トレード・ユニオンという英語が、トレード(職種)の組合であって、その職種の労働者の組合でもあり得るし、その職種の使用者の組合でもあり得る言葉であるというのは、まあ、少なくとも労働史をかじった人ならある程度常識としてわきまえているようなことだろうと、勝手に思い込んでいたのですが、労働史をかじらないでマルクスの大著を翻訳しようという方々には、必ずしも常識ではなかったということを、たまたまある本を読んでいて知りました。

これは、戦前の高畠元之の訳からそうで、戦後の長谷部文雄、向坂逸郎、社会科学研究所の訳も、こんな風になっているようです。(引用は向坂訳の岩波文庫)

・・・イギリスの議会は、それ自身が厚顔な利己主義をもって、5世紀間にわたり、労働者に対抗する資本家の常設的労働組合の地位を、固守してきた後に、全く不本意ながら、民衆の圧力によって、罷業及び労働組合を抑圧する諸法律を放棄したのである。・・・

後の「労働組合」はまさしくストライキをする労働者のトレードユニオンですが、前の「労働組合」は資本家が常設するトレードユニオンと書いてあるのに、何も考えずに「労働組合」と訳しちゃっているんですね。論理的にありえねえだろ。

1文の中に同じ英単語(熟語)」が出てきたからといって同じ意味とは限らず、違う訳語で訳さなければいけないこともある、って受験勉強でやらなかったのかな?

31sfxsaqtql_sl500_sy344_bo120420320 というようなトリビアに気がついたのは、たまたま必要があって、宮前忠夫『新訳・新解説 マルクスとエンゲルスの労働組合論』(共同企画ヴォーロ)という本をぱらぱらと見ていたからですが、このトリビアで数十ページを費やしているという、なかなかにユニークな本でもあります。

ちなみに、フランス労働史でも同じことがあって、「サンジカ」という言葉は労働者の団結にも使用者の団結にも両方使われる言葉でした。

それを言い出せば、日本語の「組合」だって、労働組合とは限らず、むしろ元々は事業家の寄り集まり(事業協同組合)なわけですが。

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2015年6月28日 (日)

首相、連合の次期幹部と会談

読売の記事ですが、他紙も似たような記事を載せています。

http://www.yomiuri.co.jp/politics/20150628-OYT1T50014.html?from=ytop_ylist (首相、連合の次期幹部と会談…民主に揺さぶりか)

安倍首相が26日夜、連合傘下の産業別労組UAゼンセンの逢見直人会長と首相公邸で会談したことがわかった。

 関係者が27日、明らかにした。逢見氏は10月に連合事務局長に就任する見通しで、政府が進める労働法制改革などについて意見交換したとみられる。

 労働法制改革をめぐっては、派遣社員の柔軟な働き方を認める労働者派遣法改正案が19日に衆院を通過したほか、働いた時間ではなく成果に応じて賃金を決める労働基準法改正案の審議も控えている。連合は民主党と足並みをそろえ、労働法制の見直しに強く反対している。

 首相側には、逢見氏との会談で民主党に揺さぶりをかける狙いもあるとみられる。連合内からは、「安倍政権と対決しているにもかかわらず、裏で労働組合関係者が手を握っていると思われる。非常に軽率な行動だ」(幹部)などと会談への批判も出ている。

まあ、政治部の記者が政治面に書く記事ですから、どうしても政局がらみの政治家的目線になるのは仕方がないのかも知れませんが、ここはやはり、労働組合とは政治団体でもなければ思想団体でもなく宗教団体でもなく、労働者の利益を最大化し、不利益を最小化することを、ただそれのみを目的とする利益団体であるという、労使関係論の基本の「キ」に立ち返ってもらいたいところです。

労働者の利益のために白猫が役立つのであれば白猫を使うし、白猫が役に立たないのであれば黒猫を使う、というのは、労働組合を政治団体か思想団体と思い込んでいる人にとっては原理的に許しがたいことかも知れませんが、利益団体としての立場からすれば何ら不思議なことではありません。

政権と対決して労働者の利益が増大するのであればそういう行動を取るべきでしょうし、そうでないのであれば別のやり方を取るというのも、利益団体としては当然です。

問題はむしろその先です。

利益団体としての行動の評価は、それによってどれだけ利益を勝ち取ったかによって測られることになります。それだけの覚悟というか、裏返せば自信があるか。

逆に言えば、政権中枢と直接取引してそれだけの利益を勝ち取る自信がないような弱小団体は、下手に飛び込んで恥をかくよりも、外側でわぁわぁと騒いでいるだけの方が得であることも間違いありません。しかしそれは万年野党主義に安住することでもあります。

上の記事は政治部記者目線の記事なので、政治アクターにとっての有利不利という観点だけで書かれていますが、労使関係論的に言えば、労働組合の政治戦略としてのひとつの賭であるという観点が重要でしょう。

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2015年6月27日 (土)

過労死・過労自殺の業種・職種別状況

厚生労働省が例年の過労死等の労災補償状況を公表しています。

http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000089447.html

http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11402000-Roudoukijunkyokuroudouhoshoubu-Hoshouka/h26noushin.pdf

http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11402000-Roudoukijunkyokuroudouhoshoubu-Hoshouka/h26seishin_1.pdf

1 脳・心臓疾患に関する事案の労災補償状況

(1)請求件数は763 件で、前年度比21 件の減となり、3年連続で減少した。【 P 3 表1-1】

(2)支給決定件数は277件(うち死亡121件) で、前年度比29 件の減となり、2年連続で減少した。【 P 3 表1-1】

(3)業種別(大分類)では、請求件数は「運輸業,郵便業」168 件 、「卸売業,小売業」 126 件、「建設業」97件の順で多く、支給決定件数は「運輸業,郵便業」92 件、「卸売業,小売業」35 件、「製造業」31 件の順に多い。【 P 4 表1-2】

中分類では、請求件数、支給決定件数ともに「運輸業,郵便業」の「道路貨物運送業」 120 件、77 件が最多。【 P 5 表1-2-1、 P 6 表1-2-2】

(4)職種別 ( 大分類 ) では、請求件数は「輸送・機械運転従事者」 149 件、「サービス職業従事者」125件、「専門的・技術的職業従事者」 102 件 の順で多く、支給決定件数は「輸送・機械運転従事者」88 件、 「専門的・技術的職業従事者」44 件、「管理的職業従事者」37件の順に多い。【 P 7 表1-3】

中分類では、請求件数、支給決定件数ともに「輸送・機械運転従事者」の「自動車運転従事者」 143 件、85 件が最多。【 P 8 表1-3-1、 P 9 表1-3-2】

(5)年齢別では、請求件数は「 50 ~ 59 歳」 251 件、「40~49歳」 222 件、「60 歳以上」198 件の順で多く、支給決定件数は「 50 ~ 59 歳」 111 件、「 40 ~ 49 歳」 93 件、「30~39 歳」39 件の順に多い。 【 P10  表1-4】

2  精神障害に関する事案の労災補償状況

(1) 請求件数は 1,456 件で、前年度比47 件の増となり、過去最多。【 P15  表2-1】

(2) 支給決定件数は 497 件(うち未遂を含む自殺99件)で、前年度比61 件の増となり、過去最多。【 P15  表2-1】

(3) 業種別( 大分類)では、請求件数は「製造業」 245 件、「医療,福祉」 236 件、「卸売業,小売業」213 件の順に多く、支給決定件数は「製造業」81 件、「卸売業,小売業」71 件、「運輸業,郵便業」63 件の順に多い。 【 P16  表2-2】

  中分類では 、請求件数は「医療,福祉」の「社会保険・社会福祉・介護事業」140件、支給決定件数は「運輸業,郵便業」の「道路貨物運送業」41 件 が最多。【 P17  表2-2-1、 P18  表2-2-2】

(4) 職種別(大分類)では、請求件数、支給決定件数ともに「専門的・技術的職業従事者」347件、110件、「事務従事者」336 件、99件、「サービス職業従事者」193 件、63件 の順に多い。 【 P19  表2-3】 

中分類では、請求件数、支給決定件数ともに「事務従事者」の「一般事務従事者」 210 件、56 件が最多。【 P20  表2-3-1、 P21  表2-3-2】

(5) 年齢別では、請求件数、支給決定件数ともに「40 ~49 歳」 454 件、140件、「30 ~3 9 歳」419 件、138件、「 20 ~ 29 歳」 297 件、104件の順に多い。 【 P22  表2-4】

(6) 出来事別の支給決定件数は、「悲惨な事故や災害の体験、目撃をした」72件、「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」69 件 の順に多い。【 P26  表2-8】

業種別、職種別の詳しい表や図は、PDFファイルの方に載っていますので、それを見ながら考えて欲しいのですが、過労死と言われる脳心臓疾患の方はわりと単純で、なるほど長時間労働やってるところが過労死してるな、ということがよくわかります。

請求件数も支給決定件数も、ぶっちぎりでダントツに多いのが業種では運輸郵便業の中の道路貨物運送業、職種では輸送機械運転従事者の中の自動車運転従事者。桁違いに多い。その下に並ぶのも、いかにも長時間労働してる業種や職種です。

これに対して、過労自殺と言われる精神障害の方は、共通しているところもありますが、違うところもあります。まず業種で見ると、請求件数でダントツに多いのが医療福祉関係。中分類では1位が福祉介護事業で、2位が医療なのですから。ところが支給決定件数で見ると1位は道路貨物運送事業になって、介護は2位、医療は3位になってしまうんですね。

ここには、過労自殺認定が定量的な指標として長時間労働に頼らざるを得ないことが反映されているように思われます。長時間労働しているかどうかで見たら、トラック野郎にかなうものはなかなかいない。しかし、医療福祉業界には、時間だけでは計りきれないメンタルな不調をもたらす要因が結構あって、それが支給決定に至らない請求件数の多さに反映しているように思われるのです。

これは。個別労働紛争を細かく見ていくと、とりわけ医療福祉業界においていじめ・嫌がらせ事案の割合が高く、メンタルヘルスに何らかの問題を抱えた事案が多いことからも、そのように思われます。

私はもちろん長時間労働の問題点を強く指摘する立場であり、実際過労死の方についてはまさに長時間労働が最大の原因であることは間違いないと思いますが、いわゆる過労自殺、精神障害系の問題は、メンタルに作用する様々な要因が複雑に絡み合っていて、なかなか一筋縄ではいかない面があるなあ、と感じるところです。人間関係要因というのが、どういう場でどのように作用するのか、現時点でもなおやや群盲象を撫でているところがあるのではないかという気もしないではありません。

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本田由紀編『現代社会論』

L15018本田由紀編『現代社会論-- 社会学で探る私たちの生き方』(有斐閣)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641150188

生活や仕事が不安定となり,厳しい競争,冷酷な排除,巧妙な飼いならしがますます強化されている現代日本社会。本書は,社会学の概念や様々なデータを使って現代社会を読み解きながら,新たなよりよい社会の可能性を探る入門テキスト。「社会学入門」に最適。

本田さん以外はだいたい助教クラスの若手社会学者たちによる、入門書風で、しかし結構突っ込んでいる感じの本です。

第1章 言説─現代社会を映し出す鏡
第2章 能力─不完全な学歴社会に見る個人と社会
第3章 仕事─組織と個人の関係から考える
第4章 友だち─「友だち地獄」が生まれたわけ
第5章 家族─なぜ少子高齢社会が問題となるのか
第6章 居場所─個人と空間の現代的関係
第7章 排除─犯罪からの社会復帰をめぐって
第8章 分断─社会はどこに向かうのか

第3章の仕事(中川宗人執筆)では、コラムでブラック企業問題も取り上げられています。

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藤田孝典『下流老人』

17112 藤田孝典さんの新著『下流老人 一億総老後崩壊の衝撃』(朝日新書)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=17112

年収400万でも、将来生活保護レベル!?

今、日本に「下流老人」が大量に生まれている。そしておそらく、近い未来、日本の高齢者の9割が下流化する。本書でいう下流老人とは、「生活保護基準相当で暮らす高齢者、およびその恐れがある高齢者」である。現在すでに約600万人が一人暮らし、うち半数は生活保護レベルの暮らしをしているが、これは「他人事」ではない。日本の老後は、もはやかつてのものから一変した。間近に迫った日本の「老後総崩壊」に、どう対処すればいいのか? どんな自衛策があるのか?テレビ、新聞、ネットで活躍する、気鋭の若手ソーシャルワーカー、渾身の一冊。初の書き下ろし新書。このままでは、思い描いた老後は、もうこない

タイトルはやや釣り気味ですが、中身はシリアスです。

●第1章 下流老人とは何か

下流老人とはいったい何か

1:収入が著しく少「ない」

2:十分な貯蓄が「ない」

3:頼れる人間がい「ない」(社会的孤立)

下流老人の何が問題なのか

Ⅰ:親世代と子ども世代が共倒れする

Ⅱ:価値観の崩壊

Ⅲ:若者世代の消費の低迷

ほか

●第2章 下流老人の現実

生活困窮者の現状/異口同音に「想定外」

<ケース1>飲食店などで働くも、野草で飢えをしのぐ加藤さん

<ケース2>うつ病の娘を支える永田さん夫婦

<ケース3>事務職員をしてきた山口さん

<ケース4>地方銀行に勤めていた藤原さん

●第3章 誰もがなり得る下流老人

――「普通」から「下流」への典型パターン――

【現状編】

<パターン1>病気や事故による高額な医療費の支払い

<パターン2>高齢者介護施設に入居できない

<パターン3>子どもがワーキングプア(年収200万円以下)や引きこもり

<パターン4>増加する熟年離婚

ほか

【近い未来編】

「一億総老後崩壊」の時代

もらえる年金が減るおそれ

年収400万円以下は下流化のリスクが高い

ほか

●第4章 「努力論」「自己責任論」があなたを殺す日

放置される下流老人

努力できない出来損ないは死ぬべきなのか?

イギリス、恐怖の「貧困者収容所」法

ひっそりと死んでいく下流老人たち

ほか

●第5章 制度疲労と無策が生む下流老人

――個人に依存する政府――

1. 収入面の不備

2. 貯蓄・資産面の不備

3. 医療の不備

4. 介護保険の不備

ほか

●第6章 自分でできる自己防衛策

――どうすれば安らかな老後を迎えられるのか――

【知識の問題:対策編】生活保護を正しく知っておく

【意識の問題:対策編】そもそも社会制度とは何か

【医療の問題:対策編】今のうちから病気や介護に備える

ほか

●第7章 一億総老後崩壊を防ぐために

下流老人は国や社会が生み出すもの

日本の貧困を止める方策は?

制度をわかりやすく、受けやすく

生活保護を保険化してしまう!?

ほか

この目次の最後のところに「生活保護を保険化してしまう!?」という一瞬あれ?と思うような一句があります。

社会保険だったら「保険料を払ったのだからサービスを受けて当然」という発想になるのではないか、という逆転の発想で、生活保護の財源はすべての国民が月額100円を拠出するようにすれば良い、そうすればもっと気軽に受給できるようになるのではないか、という考え方です。

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2015年6月26日 (金)

EU法における労組法上の労働者性

『労基旬報』2015年6月25日号に「EU法における労組法上の労働者性」を寄稿しました。

一見マニアックなテーマのようですが、実はなかなかアクチュアルなテーマでもあります。

 日本では過去数年間、労組法上の労働者性の議論が沸騰し、2011年の最高裁判決で一応の決着がついた後もなお議論が続いています。しかし、そこで議論の素材となっているのはほとんどもっぱら不当労働行為事件であり、団体交渉の要求を正当な理由なく拒否する事業主に対して、団体交渉に応じよと命令することが出来るか否かというレベルの話に過ぎません。しかし、団体交渉拒否の不当労働行為制度を有している国は先進国でも少なく、そういう問題設定は多くの先進諸国では共有されているわけではありません。
 これに対し、契約上は自営業者である人々が労働組合を結成して団体交渉を要求したり、労働協約を締結したり、労働争議を実施することは、日本では独占禁止法に当たる競争法の領域ではまさに違法性が問われる問題であり、労組法上の労働者性が議論されるとしたら、それこそが議論の焦点になるべき問題です。日本ではあまり議論にならないこの問題について、EU法の領域では昨年12月に、興味深いEU司法裁判所の判決が出されています。
 オランダの情報メディア労連(FNV)は、雇用労働者だけでなくいわゆるフリーランスの独立サービス提供者も加盟しており、雇用労働者の賃金だけではなくフリーランサーの報酬(フィー)も労働協約で決めていました。これは、オランダ法の下では全く合法的です。というのは、オランダの労働協約法第1条は、

1 「労働協約」とは一又はそれ以上の使用者若しくは法人格を有する一又はそれ以上の使用者団体と、法人格を有する一又はそれ以上の労働者団体によって、主としてまたはもっぱら雇用契約において尊重されるべき雇用の条件を規定する協約を意味する。
2 労働協約は、特定役務の遂行の契約又は専門職業サービスの契約にも関わることが出来る。この場合、労働協約、使用者及び労働者に係る本法の規定は準用する。

と規定しています。雇用労働者でなくても団体交渉して労働協約で報酬を決めることができるのです。ところが一方、オランダにも競争法があり、その第6条第1項は、

 オランダ市場における競争の防止、制限又は歪みを目的とし又は結果とするような企業間の協定、企業の団体の決定及び企業間の共同行為は、禁止される。

とする一方、第16条は

 第6条第1項は、(a)労働協約法第1条1項の労働協約には適用しない。

とも規定しています。これだけを頭に置いてください。
 さて、FNVとオランダ音楽家ユニオンはオランダオーケストラ協会との間で労働協約を締結しましたが、それは雇われ楽団員だけでなく自営音楽家の最低報酬も決めていました。そこで登場したのがオランダ競争当局で、自営業者の労働協約は適用除外にならないという見解を示したのです。これを受けてオーケストラ協会は従前の協約を終了させ、自営業者については新たな協約の締結を拒否しました。カルテルだと摘発されてはたまりませんからね。これに怒ったFNVは裁判所に訴え、これがEU司法裁判所に持ち込まれたのです。というのも、オランダであれどこの国であれ、競争法はEU運営条約第101条第1項に明記されたEUの大原則で、競争制限的行為が合法か違法かはすべて最終的にはEUレベルで判断されることになっているからです。
 この事件(C-413/13)の判決は2014年12月4日に下されました。判決はまず、労働者の雇用・労働条件を改善するための労働協約がその性質上条約第101条第1項の適用対象とならないことを確認した上で、しかしながら、たとえ雇用労働者と全く同じ労務(本件でいえば楽器の演奏)を提供しているのであっても、サービス提供者は原則として同条同項にいうところの「企業」にあたると判示しました。労働者を代表する団体がその会員である自営業者のためにその名で交渉しているとしても、それは労働組合としての行為ではなく、企業の団体としての行為に当たるというのです。従って、本件労働協約は条約第101条第1項の適用を除外することは出来ない、というのが結論です。
 ただし、とここでEU司法裁は例外的な状況を示します。もしその自営業者が実際には偽装自営業者であるなら、話は別だと。そして、国内法で「自営業者」と分類されている者であっても、その者の独立性が名目的で、雇用関係を隠して偽装しているのであれば、EU法の適用において労働者と分類することを妨げるものではないと述べます。税制や行政上のために国内法で自営業者とされていても、その者が時間や空間、仕事内容の選択の自由において使用者の指揮命令下にあり、企業活動の不可欠な一部を為しているのであれば、EU法上の労働者としての地位に変わりはないのです。というわけで、EU司法裁はこの「自営音楽家」の労働者性を確認せよと、オランダの裁判所に事案を返しました。
 EU司法裁は条約や指令の解釈を明らかにするところであって、事実審ではないので、かれらオランダの自営音楽家たちの労働者性自体は本判決ではそれ以上議論されていません。しかし、オランダの労働協約法が「準用」されていた自営業者が、それだけでは、つまり偽装自営業者でない限りは、競争法の対象となることから逃れることが出来ないことを明らかにしたという意味で、本判決はかなり重要な意味を有するように思われます。
 日本では現在までのところ、労組法上の労働者性が問題となるのはもっぱら不当労働行為に関わる事案ばかりですが、日本ももちろん独占禁止法という立派な競争法を持ち、公正取引委員会という立派な競争当局を有しているのですから、いずれこうした問題が持ち上がってくることは避けられないのではないでしょうか。そのためにも、今のうちからこうした労働法と競争法の交錯に関わる領域をきちんと検討しておく必要があるように思われます。

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「プレカリテの時代―ロベール・カステルから社会を読み解く」フェア

Chchpv0umaiafjeナカニシヤ出版さんと明石書店さんとの共催で、三省堂、紀伊国屋、八重洲、ジュンク堂などで「プレカリテの時代―ロベール・カステルから社会を読み解く」フェアを開催しているようですね。

明石書店のツイッタで、その中からいくつかの本を紹介していますが、

https://mobile.twitter.com/akashishoten

【フェア連動企画】「プレカリテの社会学」ブックリスト1冊目はこちら。カステルの1995年発表の大著であり、カステルの思想をまず知るためには必読の、「社会問題の変容」(ナカニシヤ出版、2012)です。

『社会問題の変容』は、苦役としての労働から自己実現を支える雇用へ、そして今保障なき労働力へと追い込まれつつある賃労働の、数百年にわたる歴史を描いた記念碑的大作。文句なしに面白い。ぜひご一読を。

【フェア連動企画】「プレカリテの社会学」ブックリスト2冊目は、カステルが「社会的所有」と「集団的保護」の観点から、国家による保護システムの崩壊の問題点を指摘した『社会の安全と不安全』(萌書房、2009)をご紹介。

【フェア連動企画】「プレカリテの時代」ブックフェアからご紹介する3冊めは、『労働と思想』(堀之内出版、2015)。22人の現代思想家たちが現代の労働を読み解きます。『社会問題の変容』の訳者、前川氏のカステル論もあり。

【ブックフェア連動企画】「プレカリテの時代」ブックリストからご紹介する4冊目は、「もうひとつの中世のために」(白水社、2002)。近代を理解するためには、西洋中世の時代に遡り身分を理解する必要があります。

【ブックフェア連動企画】「プレカリテの社会学」ブックリストからご紹介する4冊目は、「工場日記」(筑摩書店、2014)。人間のありのままの姿を知るためにシモーヌ・ヴェイユが女工として働いた日々から近代と労働の関係性を見ることができます。

【ブックフェア連動企画】「プレカリテの時代」ブックフェアからご紹介する5冊目は「福祉資本主義の三つの世界」(ミネルヴァ書房、2001)。カステル社会学の中でも大きな意味を持つ福祉の方法が国家とどのように関わるのか、学ぶための名著です。

【ブックフェア連動企画】『プレカリテの時代』ブックリストからご紹介する6冊目は『都市が壊れるとき』(人文書院、2012)。2005年のパリ暴動後にフランス社会学の大家ドンズロによって書かれた、フランス都市政策の崩壊と再生の分析。

【ブックフェア連動企画】『プレカリテの時代』ブックリストからご紹介する7冊目は、『新しい労働社会』(岩波書店、2009)。格差や貧困の実態だけでなく、民主主義の中でどう具体的施策を考えるか提示したところは、カステルの思想につながります。

131039145988913400963なぜか4冊目がダブっている感もありますが、7冊目(8冊目?)に拙著『新しい労働社会』が取り上げられております。

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2015年6月25日 (木)

青砥恭編『若者の貧困・居場所・セカンドチャンス』

922ab249105de2b0fc02c5fb7a926b04200 青砥恭・さいたまユースサポートネット編『若者の貧困・居場所・セカンドチャンス』(太郎次郎社エディタス)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.tarojiro.co.jp/product/5339/

このままでは若者が「国内難民化」する?!

貧困家庭の子ども325万人(6人に1人)、好転しない不登校・ひきこもり、高校中退者はこの10年で100万人超。若年無業者が増加している。学生でも社会人でもない不安定な10代・20代。使い捨てられて無業となる30代。変わらなければならないのは、「若者」だろうか?

学校が育ちの場にならず、企業社会にはイスがない。従来型ライフコースからはずれていく多くの若者を、だれが、どこで、どのように支えているのか。

「学び直し」「居場所づくり」「就労支援」を実現する貧困研究の生きた知見と、先進的な実践者が集い、安心して普通に生きられる社会へのモデルを指し示す。

子供の貧困がホットトピックになり、子供の貧困対策推進法が一昨年に成立したとはいえ、本書から浮かび上がってくる若者たちの心身両面の環境における貧困さは胸をつかれるものがあります。

【序】子ども・若者支援がめざすもの

「高校中退」から「セカンドチャンス」へ●青砥恭

【第1部】現場でいかす

[現場のための「生活保護」入門]私たち自身のまなざしが問われている●稲葉剛

[現場のための「発達障害」入門]子どもの特性を医療の視点から理解する●黒田安計

[現場のための「相対的貧困率」入門]相対的貧困率と子どもの貧困対策法を考える●山野良一

[コラム]生きる場所はどこに①──自己責任論を超えて●戸高七菜

【第2部】現場からはじまる

[市民が伴走する地域若者サポートステーション◎静岡方式]働きたいけれども働けない若者たちと●津富 宏+池田佳寿子

[学校と社会のすきまを埋める支援ネットワーク◎札幌]新規の来談、毎月40名●松田考

[少年院を出た若者たちのネットワーク]セカンドチャンスを支える 少年院出院者として●才門辰史

[地域でサービス、モノ、カネ、ヒト、情報がまわる仕組み◎横浜]就労支援から地域経済の再生へ●関口昌幸

[コラム]生きる場所はどこに②──子ども・若者の貧困と格差が日本社会に突きつけたもの●青砥恭

【第3部】視点をひらく

[日本の現実と各国の若者政策]若者が自立できる環境をどうつくるか●宮本みち子

[普通に安心して働くことが困難な時代に]居場所という〈社会〉を考える●中西新太郎

[問題提起を受けてのトーク]見えてきた課題と新しい社会のモデル●松田考+宮本みち子+関口昌幸+中西新太郎+青砥恭

どれも必読ですが、時間がない人が敢えて一つだけ目を通すべきものは、自ら少年院出身のセカンドチャンス!理事長才門辰史さんの文でしょうか。

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2015年6月24日 (水)

濱口先生、そろそろ『労働法政策』を改訂してくださいよ

Hamachan_2 金子良事さんからこういう注文をいただきましたが、

https://twitter.com/ryojikaneko/status/613535977487773696

濱口先生、そろそろ『労働法政策』を改訂してくださいよ

いや、毎年改訂はしていますよ。毎年春と秋に2回ずつ改訂して、それぞれ東大と法政の公共政策大学院の講義で使っています。

ただ、改訂したものを刊行物としてパブリッシュするのはまた別の次元の話なので、それが出版社にとって元の取れるビジネスでないとなかなか難しいでしょう。

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出井智将『派遣新時代 ~派遣が変わる、派遣が変える~』

Dei 出井智将『派遣新時代 ~派遣が変わる、派遣が変える~』(幻冬舎ルネッサンス新書)をお送りいただきました。ありがとうございます。人材派遣業界のオピニオンリーダーにして、発信力抜群の出井さんの2冊目の著書です。

2014年に2度も国会で廃案になった改正派遣法。

この改正案が成立すると日本の派遣労働が大きく変わります。

不本意ながら派遣をしていた人には直接雇用への道が開けます。

積極的に派遣を選択した人は、より安定した環境の下で派遣を続けられます。

本書では2015年派遣法改正案の詳細を解説するとともに、派遣の仕組みや、請負と派遣の違いなどにも触れ、世の中には正社員以外にも多様な働き方があることを示します。

また派遣が戦後、外資系企業によって持ち込まれたなど、派遣のルーツにも迫ります。

さらに著者は、派遣切り、年越し派遣村、ネットカフェ難民など、負のイメージにまみれた派遣労働の誤解をとき、

2020年の東京オリンピックを前にしたいまこそ、日本の雇用の未来を真剣に考えるべき時だと訴えます。

内容は以下の通りですが、

第一章 ようやくわかりやすくなる派遣の働き方

第二章 なぜ派遣労働は誤解されてきたのか

第三章 派遣社員と正社員ではここが違う

第四章 派遣と偽装請負の危ない関係

第五章 派遣のルーツを探る

第六章 長妻プランと民主党政権下での混乱

第七章 「正社員のため」から「派遣労働者のため」へ

第八章 派遣が日本を変える日

前著の『派遣鳴動』が、吹きこぼれるパッションの溢れた本だったのに比べると、時代状況もあるのでしょうが、わりと淡々と解説している感じの本になっています。

まあ、「はじめに」で、

・・・昨年(2014年)の国会に二度も上程されながら、いずれも廃案になるという数奇な運命をたどった派遣法改正案が、ようやく三度目の正直で成立に向けて審議されています。本書が店頭に並ぶ頃には成立しているでしょう。今回の派遣法改正案は、従来の正社員保護のために派遣労働を規制するという考え方から一転、派遣労働者の保護や正規労働者としての雇用への道筋を明確化したという意味で画期的なものとなります。・・・

と述べていたのが、衆議院を通過するところまでいったという意味では半分実現というところでしょうか。

本書のうち最後の第8章では、派遣労働者から正規労働者への道筋として、「ジョブ型正社員」を挙げ、ひとしきりジョブ型とメンバーシップ型の議論を展開しています。こういう形で応用していただくのは大歓迎です。

なお、出井さんのブログ「雇用維新」でも自ら刊行を紹介されています。

http://ameblo.jp/monozukuri-service/entry-12041087074.html

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2015年6月23日 (火)

労働基準局長と大学生の座談会

世間を騒がすブラックバイト問題が、こういう形にもなったようです。来週月曜日に、

http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000089415.html

アルバイトの労働条件を確かめよう!」キャンペーンの一環として、労働基準局長が直接大学生からアルバイトについての体験談等を聞き、学生に労働基準法などのルールを効果的に周知するための方法などについて意見交換を行う。

だそうです。

参加者は都内大学生6名とのこと。

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2015年6月22日 (月)

倉重公太朗さんの『日本の雇用終了』書評

112050118経営法曹会議の『経営法曹』185号に、倉重公太朗さんが拙著『日本の雇用終了』の書評を書かれています。
倉重さんといえば、『なぜ景気が回復しても給料は上がらないのか』(労働調査会)などで有名な若手経営法曹のホープですが、ちょうどタイミングを図ったように、この本を取り上げていただきました。

・・・・われわれ経営法曹としても、解雇規制改革に対する考え方についてはさまざまな意見があるところであり、本稿ではその是非について論じるところではないが、少なくとも、近時解雇規制改革をめぐる議論が俄に活況を呈する中、その前提認識として、現実に紛争となっている雇用終了の事案としてはどのようなものがあるかという前提認識を共通にする意味で、本書は類い希な価値を有するものである。特に、弁護士の一人一人が主観的な「経験」として持っている事案は多種多様であろうが、これを可視化・共有化するところにこそ本書の意義があるのである。

今後の解雇規制をめぐる議論の進展を見守る際には、是非本書を参照されたい。

一部の表層的な議論をもてあそぶ人々とは違い、さすが経営法曹としての見識に裏打ちされた評であり、こういう評価を頂くことを心からうれしく感じるところです。

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2015年6月21日 (日)

ジョブと脱ジョブの逆説(心覚えメモ)

ジョブ型の議論で、欧米もかつてよりもジョブの硬直性をなくす方向に向かってきたというのがある。
その通りなのだが、その社会的コンテキストが見事に逆向きであることが、どこまで理解されているか?
欧米では、ジョブの共通性こそが労働者の集団性の立脚点であり、ジョブ型を強調することが個別性をできるだけ否定して、みんな同じこのジョブの労働者だから、という集団的労使関係の重要性を強調することになる。
ジョブの硬直性を批判してジョブにこだわらない柔軟な内部労働市場を称揚することは、即ち同じジョブだからと言って同じ立場じゃない、一人一人別だ、と労働者の個別性を強調して、労働組合の介入を拒否することを意味する。
ここが、日本のコンテキストと全く逆向きであることに、どこまで自覚的であるかが重要。
日本では、ジョブを強調することが会社的集団性に対する批判として、社員である以前にこのジョブの労働者だ、と極めて個別主義的インプリケーションをもち、欧米では個別主義的意味を持つ脱ジョブ志向がむしろ、同じ社員じゃないか、と濃厚な集団性の色彩をまとう。
だから、ジョブ型の反対語がメンバーシップ型というのは、それ自体が極めて日本的な二項対立図式なのであって、欧米では組合メンバーシップと親和的なジョブ型の反対語は、非メンバーシップ型というべきかもしれない。

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2015年6月20日 (土)

平成27年度香川大学経済学部編入学試験問題

Chuko 平成27年度の香川大学経済学部編入学試験問題に、拙著『若者と労働』が使われたようです。

http://www.kagawa-u.ac.jp/files/9414/3452/8458/keizaishoronh27hennyu.pdf

次の文章を読み、以下の設問に答えなさい。

・・・・・・・・・・

設問1 筆者は日本の正社員の雇用をメンバーシップ型としていますが、それはどのような特徴を持つものですか。本文を参考にしながら400字以内で説明しなさい。

設問2 筆者は「ジョブ型正社員」を提案していますが、この雇用形態の労働者にとっての利点はどのようなことですか。本文から推論し300字以内で論じなさい。

設問3 現在、日本にはどのような若者雇用問題があり、それを解決するためにはどのような政策が必要ですか。あなたの考えを600字以内で論じなさい。

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労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策の推進に関する法律案(修正版)

昨日、労働者派遣法改正案といわゆる同一労働同一賃金法案が衆議院を通過しました。

前者については、あまりにも世の中にポジショントークが多すぎて、ここであえてコメントをせず、自ら派遣労働者として働く「ありす」さんの冷静なエントリを摘示するだけにとどめておきます。

http://alicewonder113.blog.fc2.com/blog-entry-89.html

ここでは、もともと派遣法改正案への対案として民主党と維新の党から提出され、昨日与党自民党、公明党と維新の党によって修正されて可決された「労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策の推進に関する法律案」について、その修正後のバージョン自体が現時点ではどこにも見当たらないので、衆議院法制局HPにある原案と修正案を組み合わせて、衆議院通過バージョンを作成してみました。

これは論点が山のようにあり、賃金制度論を真っ正面から議論する必要があります。この法案が実定法になると、これまで労基法4条の男女同一賃金と最近の断片的な非正規労働法制で徐々に形成されてきた賃金制度法制が一個の基本法的根拠をもつことになり、労働法の教科書類もその構成を真剣に考える必要が出てくるかもしれません。

実は、私が11年前から東大公共政策大学院でやっている労働法政策の講義でも、そろそろこのトピックを賃金法政策に含めて、まとめて論じていく必要があるかも知れないね、というようなはなしを、ちょうど先週が賃金法政策で、今週が労働契約法政策だったこともあり、学生の皆さんにしました。

11年前にこの講義を始めたときは、労働契約法と言っても、労働基準法の有期契約の上限をどうするかという話と、ようやく前年に労基法旧20条の2として解雇権濫用法理が規定されたくらいで、まだ中身の乏しかったパート法を含めてもたいした分量でもなかったのですが、この間に膨大な展開がありまして、ただ額が上がり続けるだけで論点が増えていかない最低賃金がメインの賃金法政策との間の分量バランスが半端ない状態になりつつあったので、賃金制度法政策が移ると、ちょうど良いバランスになりそうです。ただし、「賃金処遇法政策」といったタイトルにしないと、やや狭い感があります。

   労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策の推進に関する法律案

 (目的)

第一条 この法律は、近年、雇用形態が多様化する中で、雇用形態により労働者の待遇や雇用の安定性について格差が存在し、それが社会における格差の固定化につながることが懸念されていることに鑑み、それらの状況を是正するため、労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策に関し、基本理念を定め、国の責務等を明らかにするとともに、労働者の雇用形態による職務及び待遇の相違の実態、雇用形態の転換の状況等に関する調査研究等について定めることにより、労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策を重点的に推進し、もって労働者がその雇用形態にかかわらず充実した職業生活を営むことができる社会の実現に資することを目的とする。

 (基本理念)

第二条 労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策は、次に掲げる事項を旨として行われなければならない。

 一 労働者が、その雇用形態にかかわらずその従事する職務に応じた待遇を受けることができるようにすること。

 二 通常の労働者以外の労働者が通常の労働者となることを含め、労働者がその意欲及び能力に応じて自らの希望する雇用形態により就労する機会が与えられるようにすること。

 三 労働者が主体的に職業生活設計(職業能力開発促進法(昭和四十四年法律第六十四号)第二条第四項に規定する職業生活設計をいう。次条第三項及び第八条において同じ。)を行い、自らの選択に応じ充実した職業生活を営むことができるようにすること。

 (国の責務等)

第三条 国は、前条の基本理念にのっとり、労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策を策定し、及び実施する責務を有する。

2 事業主は、国が実施する労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策に協力するよう努めるものとする。

3 労働者は、職業生活設計を行うことの重要性について理解を深めるとともに、主体的にこれを行うよう努めるものとする。

 (法制上の措置等)

第四条 政府は、労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策を実施するため、必要な法制上、財政上又は税制上の措置その他の措置を講ずるものとする。

 (調査研究)

第五条 国は、次に掲げる事項について調査研究を行うものとする。

 一 労働者の雇用形態の実態

 二 労働者の雇用形態による職務の相違及び賃金、教育訓練、福利厚生その他の待遇の相違の実態

 三 労働者の雇用形態の転換の状況

 四 職場における雇用形態による職務の分担及び管理的地位への登用の状況

2 国は、前項第三号に掲げる事項について調査研究を行うに当たっては、通常の労働者以外の労働者が通常の労働者への転換を希望する場合における処遇その他の取扱いの実態、当該転換を妨げている要因等について重点的にこれを行うものとする。

 (職務に応じた待遇の確保)

第六条 国は、雇用形態の異なる労働者についてもその待遇の相違が不合理なものとならないようにするため、事業主が行う通常の労働者及び通常の労働者以外の労働者の待遇に係る制度の共通化の推進その他の必要な施策を講ずるものとする。

2 政府は、派遣労働者(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律第二条第二号に規定する派遣労働者をいう。以下この項において同じ。)の置かれている状況に鑑み、派遣労働者について、派遣元事業主(同法第二十三条第一項に規定する派遣元事業主をいう。)及び派遣先(同法第三十条の二第一項に規定する派遣先をいう。以下この項において同じ。)に対し、派遣労働者の賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇についての規制等の措置を講ずることにより、派遣先に雇用される労働者との間においてその業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度その他の事情に応じた均等な待遇及び均衡のとれた待遇の実現を図るものとし、この法律の施行後、三年以内に法制上の措置を含む必要な措置を講ずるとともに、当該措置の実施状況を勘案し、必要があると認めるときは、所要の措置を講ずるものとする。

 (雇用環境の整備)

第七条 国は、労働者がその意欲及び能力に応じて自らの希望する雇用形態により就労することが不当に妨げられることのないよう、労働者の就業形態の設定、採用及び管理的地位への登用等の雇用管理の方法の多様化の推進その他雇用環境の整備のために必要な施策を講ずるものとする。

2 国は、前項の施策を講ずるに当たっては、雇用形態により労働者の待遇や雇用の安定性について格差が存在する現状を踏まえ、通常の労働者以外の労働者の雇用管理の改善及び通常の労働者以外の労働者から通常の労働者への転換が促進されるよう、必要な配慮を行うものとする。

 (教育の推進)

第八条 国は、国民が職業生活設計の重要性について理解を深めるとともに、労働者が主体的に職業生活設計を行い、自らの選択に応じ充実した職業生活を営むことができるよう、職業生活設計についての教育の推進その他必要な施策を講ずるものとする。

   附 則

 (施行期日)

1 この法律は、公布の日から施行する。ただし、次項の規定は、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律等の一部を改正する法律(平成二十七年法律第 号)の施行の日から施行する。

(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律等の一部を改正する法律の一部改正)

2 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律等の一部を改正する法律の一部を次のように改正する。

附則に次の一条を加える。

(労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策の推進に関する法律の一部改正)

第十八条 労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策の推進に関する法律(平成二十七年法律第 号)の一部を次のように改正する。

第六条第二項中「同法第二十三条第一項」を「同条第四号」に、「同法第三十条の二第一項」を「同号」に改める。

(調整規定)

3 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律等の一部を改正する法律の施行の日が国家戦略特別区域法及び構造改革特別区域法の一部を改正する法律(平成二十七年法律第号)の施行の日以後である場合には、前項のうち労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律等の一部を改正する法律附則に一条を加える改正規定中第十八条を第十九条とする。

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2015年6月18日 (木)

モデルはものつくり大学?

経団連HPに『経団連タイムス』6月18日号がアップされていて、その中に「実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化について聞く」という記事が載っています。説明者は文科省生涯学習政策局の大谷参事官です。

http://www.keidanren.or.jp/journal/times/2015/0618_06.html

ここでは、説明の後の意見交換の部分を紹介しておきます。

続いて行われた意見交換では、「なぜ大学体系に組み入れて学位の授与を行う必要があるのか」という経団連側からの問いに対し、大谷氏は「学位は大学が所定の課程を修了した者に対して出すことができるものであり、国際的な通用性がある。例えば韓国にはファッションや美容の大学があるため、アジア出身者には、それらの学位を韓国で取得し、技術は日本で学ぶという人もいる。TPP(環太平洋経済連携協定)等で国際的に人材が流動化する時代に対応できるようにしておく必要がある」と強調した。

また、「研究開発等で企業が大学とすでにさまざまな連携を進めているなかで、新たな高等教育機関と企業との連携はどう異なるのか。また、どのような産業に、新たな高等教育機関へのニーズがあるのか」との問いに対しては、「大学と企業の共同研究といった高いレベルの連携とは異なり、例えば『ものつくり大学』のような、手に職をつけるタイプの教育機関における企業との連携を考えている。有望な分野としては、観光、福祉、ITなどを想定している」との説明があった。

なるほど、モデルはものつくり大学でしたか。

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産業革命の光と影

翻訳家の山形浩生氏がエンゲルスの『イギリスの労働階級』の全訳をしたようで、ざっと読んでみると確かに読みやすく、少なくとも岩波文庫版よりは読みやすい。講談社学術文庫あたりに入れても良いかもしれない。

http://d.hatena.ne.jp/wlj-Friday/20150616/1434432416

で、いうまでもなく、産業革命の全体像を知るためには、光り輝く産業化の最先端の英雄たちの姿を描くだけでも駄目だし、こういう劣悪なプロレタリアートの姿をを描くだけでも駄目で、両方をちゃんとバランスよく目配りしながら見ていかなくてはいけない。米倉誠一郎の『経営革命の構造』だけで分かった気になってはいけないし、エンゲルスだけでも片翼。

そしていうまでもなく、(山形氏自身だって本当はちゃんと分かっているように)『冨岡日記』だけで日本の産業化を語ってはいけないし、『女工哀史』だけでもいけないわけです。わかってないふりをしているのは、もろもろの事情があるからだと理解はしていますけどね。

最近何かと話題の明治日本の産業革命遺産も同じこと。資本家主導のイギリスでも、共産党主導のソビエトでも、どこでも産業化はすべて光と影がある。その総体が近代社会を作り上げてきたわけです。一番いけないのは、そういうそれ自体普遍性を持つ話に妙なナショナリズムを注入することでしょう。

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2015年6月17日 (水)

『若者と労働』第4刷

Chuko 中央公論新社より、拙著『若者と労働』が第4刷になるという連絡をいただきました。

ほぼ2年前弱に出た本が、こうしてロングセラーとして読まれ続けていることは、著者冥利に尽きます。

これもひとえに、多くの読者の皆様方のご支援のたまものと、心より感謝申し上げる次第です。

この間皆様よりいただいた書評の数々はここにまとめてリンクを張ってあります。これら書評をいただいた皆様にも、感謝の言葉もございません。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/chukobookreview.html

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これはマタハラか?

今はやりの「マタハラ」事案がまた一つ付け加わったか?という感じの記事ですが・・・、

http://www.asahi.com/articles/ASH6J6DSFH6JULFA03K.html?iref=comtop_list_nat_n05

妊娠後に地上職での勤務を認めず、休職を命じたのは、男女雇用機会均等法などに違反するとして、日本航空の客室乗務員・神野知子さん(40)が16日、同社を相手取って、休職命令の無効と未払い賃金など約340万円を求めて東京地裁に提訴した。

訴状などによると、同社は客室乗務員が妊娠した場合、母体保護のため会社規定で乗務資格を停止している。希望すれば地上勤務ができる「産前地上勤務制度」を導入していたが、2008年に制度を変えて「会社が認める場合」とただし書きをつけ、利用を制限した。神野さんは昨年8月に妊娠が分かり、制度の利用を申請したが、「ポストがない」として、翌9月に休職を命じられたという。

提訴後に記者会見した神野さんは、「当時は世帯主で母を扶養していたが、妊娠したとたん収入が絶たれ不安だった」などと訴えた。日本航空の広報部は「訴状が届いておらず、コメントはできない」と話している。

しかしよく考えると、これって「妊娠を理由とした差別」なんだろうかという疑問も湧いてきます。

ここで差別されたという人の比較対象は、等しく妊娠した客室乗務員であって地上勤務が認められた人ということになります。つまり、妊婦同士の間の差別であって、それを妊娠を理由とした差別と言えるのか、という問題がまずあります。

この産前地上勤務制度というのが全くなくて、客席乗務員は妊娠したら飛行機に乗れないんだからみんな休職よ、という制度であったとしたらどうでしょう。

妊娠した人と妊娠していない人を異なる扱いをしているのですから広い意味での差別にはなりますが、それは母性保護のための社内規制であって、否定されるべき差別になるかどうかは検討しなければなりません。

現行法令上、妊婦に飛行機への搭乗を禁止する規定は明示的には存在しませんが(もっとも、女性労働基準規則第2条の危険有害業務の一つとして、第14号「高さが五メートル以上の場所で、墜落により労働者が危害を受けるおそれのあるところにおける業務」というのがあります。たしかに飛行機は5メートル以上高いところを飛ぶし、墜落すると危害が及びますね。)、労働者保護について最低基準を上回る社内規制をすることは一般的には悪いこととは考えられていないでしょう。ただそれが一定の人(ここでは妊婦)の就業可能性を狭めてしまうこととの関係をどう考えるかですね。

おそらくそこのところを考慮して、地上勤務制度というのが設けられていたのでしょうが、それが(原告の観点からは)会社の恣意によって認められなかった、ケシカランではないか、ということになるのでしょう。

とはいえ、最初に述べたように、それはあくまでも、地上勤務を認められた妊娠客室乗務員との比較において、地上勤務を認められなかった妊娠客室乗務員が差別された、ということなわけで、これを妊娠を理由とする差別とするのは、理屈の山をいくつも超える必要がありそうです。

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2015年6月15日 (月)

『解雇及び個別労働関係の紛争処理についての国際比較』

JILPTの報告書『解雇及び個別労働関係の紛争処理についての国際比較』がアップされました。

http://www.jil.go.jp/foreign/report/2015/0615.html

http://www.jil.go.jp/foreign/report/2015/pdf/0615.pdf

この調査は、厚生労働省の要請に基づき、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、デンマーク、韓国、オーストラリア及びアメリカの9か国について、解雇及び個別的労働関係の紛争処理について、制度やその運用の実情を調査したものである。9か国のうち、特に、ドイツ、フランスにおける解雇及びアメリカにおける解雇及び雇用仲裁の制度やその運用の実情について、背景や沿革も含め詳細に調査分析を行ない、個別の報告書としてもとりまとめている。

ちょっとややこしいのですが、下に紹介したドイツ編、フランス編、アメリカ編も含めて、全9か国を概観的に比較したものです。Ⅰが表形式になっていて、Ⅱが各国ごとの記述編です。

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『アメリカにおける個別労働紛争の解決に関する調査結果』

UsJILPTの資料シリーズ『アメリカにおける個別労働紛争の解決に関する調査結果』がアップされました。

http://www.jil.go.jp/institute/siryo/2015/157.html

http://www.jil.go.jp/institute/siryo/2015/157.html

【雇用仲裁】雇用仲裁は、歴史があり評価も高い労働仲裁とは異なり、過去20年程の間に広まったもので、その評価も分かれている。雇用仲裁のメリットとして、アメリカの特殊な訴訟状況を背景に、労使双方にコストのかかる訴訟を回避でき、柔軟・迅速・安価に利用可能な紛争解決手段を提供することが指摘されている。デメリットとしては、雇用仲裁合意により被用者は裁判所による救済の道が閉ざされ、実態的には、裁判手続を通じた紛争解決と比べて、判定者の選任、判定手続、救済において被用者に十分な保護をもたらしていない可能性が指摘されている。

【解雇紛争解決】アメリカの雇用関係は随意雇用原則の上に成立しており、法による保護は特定理由に基づく解雇のみを違法としているに過ぎない。その上で、行政機関による救済額は裁判所におけるものよりも低いと推測される一方、州および連邦裁判所において判決・評決に至った事件については、行政機関による救済額よりも高いと推定される。また、雇用労働専門の司法制度がないアメリカにおいては、陪審審理が利用可能なため、企業にとって被用者の訴訟提起は大きなリスクとなる。このため、各企業は様々に裁判外紛争解決制度(ADR)を発展させている。ADRのうち調停や仲裁では、解雇の事由等によって異なると思われるが、裁判よりも柔軟かつ迅速な手続の下で、解決額の概ねの相場観が形成されていると考える余地がある。

執筆担当は池添弘邦さんです。

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『フランスにおける解雇にかかる法システムの現状』

FranceJILPTの報告書『フランスにおける解雇にかかる法システムの現状』がアップされました。

http://www.jil.go.jp/institute/reports/2015/0173.html

http://www.jil.go.jp/institute/reports/2015/documents/0173.pdf

1.フランスの解雇法制の第1の特徴として、禁止される解雇(licenciement prohibe)と、不当解雇(濫用的解雇:licenciement abusive)を区分している点が挙げられる。すなわち、保護されるべき労働者(被保護労働者)、あるいは個人の自由および労働者の基本権の侵害にかかる解雇については、これを禁止し、補償金の支払いという不当解雇に対する救済とは別に、復職の選択の可能性を制度上設けている。もっとも、こうした禁止される解雇についても、結局のところ補償金の支払いによる解決が選択されているケースが多いようである。その意味において、フランスにおける労働契約の終了(解雇)をめぐる紛争については、禁止される解雇および不当解雇という2つの類型を設け、救済についても区別するという法形式上の建前とは必ずしも合致せず、大半は補償金の支払いを中心とした、金銭の支払いによる解決がメインになっていることが窺える。

2.フランスの解雇法制の第2の特徴として、解雇手続について一般的な規制を法定化していることを挙げられる。そして、このような手続きを法定化した趣旨は、第一に、熟慮期間を設定し、(使用者に)解雇が真に必要であるかどうかを考えさせる(解雇を思いとどまらせる)こと、および第二に、当該解雇をめぐって将来生じうる訴訟に備えるためのプロセスであるとされるもっとも、こうした趣旨については、実態としては、もっぱら後者の側面が機能しているのが実情であり、第一の、「熟慮期間」による紛争の未然予防という機能は、十分には機能していないのが実情のようである。すなわち、フランスにおける企業内の法定解雇手続は、実質的には、解雇の対象とされた労働者が、労働裁判所等で当該解雇について争うか否かを判断し、あるいはその準備を行うための手続きであって、他方において、労働裁判所における手続きをスムーズに進めるための、事実関係および争点についての確認および整理を行うためのプロセスとなっているのが実情ということができよう。もっとも、こうした法定の解雇手続が、紛争の予防という観点から、何らの機能も果たしていないというわけではなく、こうした制度が整えられていることによって、少なくとも機会主義的な解雇を予防するという間接的な機能が存在していることも、併せて指摘できる。

3.フランスの解雇法制に関する第3特徴として、不当解雇(現実かつ重大な事由を欠く解雇)に対する制裁(効果)について、これを解雇の無効とせず、不当解雇補償金等の金銭の支払いを基本としている点が挙げられる。

その解決の実態について、法律上は、原則として賃金6ヶ月分の相当額を最低ラインとして定めているが、実際の解決額は、さまざまな上乗せがなされることによって12ヶ月~18ヶ月分相当額となっている。その上乗せがなされる要素としては、当該労働者の年齢および勤続年数を中心とした、再就職までに要する期間をベースとして考えられ、これに、解雇に到る経緯、とりわけ、その過程における使用者の落ち度が考慮されている。

 また、この法律上の救済方法が金銭の支払いと定められていることが、かえって紛争の長期化をもたらしている可能性がある。すなわち、フランスにおいては解雇にかぎらず労働に係る紛争は、基本的に労働裁判所において解決が図られることになるが、義務的に前置されている調停手続では和解率が極めて低く、10%程度に留まっている。また審判まで進み、判決まで言い渡された場合であっても、これに対し控訴がなされ、さらに、最高裁にあたる破毀院まで進むケースもしばしば存在するなど、全体に紛争が長期化する傾向にある。

4.フランスの経済的理由による解雇については、実体的要件については人的解雇と共通の要件を設定しつつ、手続的要件、とりわけ集団的経済的解雇について詳細な手続きを加重している点が、フランスにおける法制度上の特徴である。もっとも、労働裁判所における経済的解雇に関する事件数は、全体の事件数のわずか1.4%と非常に少ない。その理由は必ずしも明らかではないが、集団的手続が詳細に定められ、労使交渉のプロセスがきっちりととられている結果として、解雇がなされた後の紛争については抑制されているという可能性も指摘できよう。
5.2008年法によって法定化された労働契約の合意解約に関しては、前提として、失業手当の受給資格という極めて実務的な要請が、その重要な背景として存在している点を、まず指摘しておく必要がある。その点を踏まえた上で、全体としては、法定合意解約制度は成功との評価を得ている。他方で、とりわけ、使用者のイニシアチブによる合意解約の実現については、そのプロセスにおける労使の対等性の確保という点で、なおも課題が残されている。

執筆担当はメインの細川良さんに加えて、合意解約の節は古賀修平さんです。

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『ドイツにおける解雇の金銭解決制度』

GermanJILPTの報告書『ドイツにおける解雇の金銭解決制度』がアップされました。

http://www.jil.go.jp/institute/reports/2015/0172.html

http://www.jil.go.jp/institute/reports/2015/documents/0172.pdf

1. ドイツにおいては、労働関係存続保護の法思想のもと、解雇制限法により、社会的に不当な解雇は、無効となるのが原則となっている(解雇無効原則)。但し、解雇制限法は、同時に金銭補償による労働関係の終了を可能とする制度も整備している。それが、解消判決制度(同法9条・10条)および解雇制限法1a条である。

2.このうち、解消判決制度は、解雇が社会的に不当であり、それゆえに無効であるけれども、当該解雇を契機として、もはや労働者と使用者間の信頼関係が崩壊してしまっている場面に限り、労働裁判所が判決(解消判決)により、労働契約関係自体は解消しつつ、使用者に対して労働者へ補償金を支払うべきことを命じることで、当事者双方の利益調整を行うことを目的とした制度(例外的利益調整規範)である。

それゆえ、かかる解消判決を申し立てた側の当事者は、具体的に信頼関係の崩壊を惹起する事実(解消事由)を、主張・立証しなければならない。これは、労働者側が申立てを行う場合も同様である。(但し、連邦労働裁判所は、使用者が申立てを行う場合には、解消事由の存在を厳格に解釈している。)。

このように、解消判決制度自体、解雇制限法のなかでは例外的位置付けを有すること、またそれゆえに解消判決を求めるためには厳格な要件が定立されていることもあって、ドイツにおいては、かかる解消判決制度が利用されることは稀となっている。

なお、同制度に基づく補償金の算定方法については、解雇制限法10条が枠組を規定しており、それによれば月給額の12ヶ月分を上限に裁判官が裁量によって金額を決定することとなっているが、学説上は、その際には年齢および勤続年数が重要な考慮要素となることが指摘されており、また実務では勤続年数×月給額×0.5という算定式が目安として用いられている。

3.ところで、ドイツにおいては、解雇紛争における金銭補償による解決可能性をより拡充すべきとする解雇規制の改革論が、1970年代より論じられてきた。もっとも、1970年代および1980年代の議論は、主に(後述する)社会計画制度の存在が不平等をもたらしているとの問題意識のもと、経営上の事由に基づく解雇の事案一般における労働者の使用者に対する補償金請求手段が論じられるにとどまり、存続保護法としての解雇制限法の本質および解雇無効原則自体は、正面から議論の対象とはされてこなかった。

しかし、2000年代に入ると、かかる社会計画制度の不平等性を批判する議論に加え、存続保護思想に基づく解雇無効原則と、現実の解雇紛争処理実務は乖離している(「理論と実務の乖離」)がゆえに、被解雇労働者に対する金銭補償を法的ルールとして正面から認めるべきとする議論と、解雇法制に金銭補償による労働契約関係の終了を可能とする手段を導入することで、解雇に伴う使用者側のコスト予測可能性を高めようとする議論が、新たに登場することとなる。

そして、これら3つの議論が合流することで、1970年代および80年代とは異なり、2000年代初頭においては存続保護思想に基づく解雇無効原則自体の正当性を問う見解が現れるようになり、最もドラスティックなものとしては、解雇無効原則を放棄し、金銭補償を解雇ルールの原則に位置付けるべきとする見解まで登場することとなった。

ただ、結局のところ、かかる方向性での解雇規制改革論は、現実には法改正に結実することはなかったわけであるが、これら2000年代初頭の時期における改革論者らが有していた問題意識自体は、当時のドイツ連邦政府にも共有され、かかる問題意識を背景に、解雇制限法へ1a条が新たに導入されることとなる。

4.そして、かかる一連の解雇規制改革論を経て、ドイツの労働市場改革に伴い、2004年の解雇制限法改正によって、新たに規定されたのが解雇制限法1a条である。ドイツにおいては、解雇制限法4条によって、解雇訴訟の出訴期間が、解雇通知の到達から3週間以内に制限されており、かかる期間を徒過した場合には、当該解雇は有効とみなされることとなっているが、かかる1a条の内容は、出訴期間の徒過による解雇訴訟の放棄と引き換えに、法律上定められた金額で労働者に補償金請求権を取得させる制度となっている。また、かかる補償金額の算定のために、勤続年数×月給額×0.5という算定式が法律上のルールとして採り入れられることとなった。

 もっとも、かかる1a条は、労使当事者をして裁判上の和解による解決を志向させるインセンティヴとして機能する制度構造を採用してしまったがために、ドイツ国内における評価は、批判的なものが多数を占めており、それゆえに、実務においてもほとんど利用されてはいない。

このように、ドイツにおいては解消判決制度および解雇制限法1a条が整備されてはいるものの、いずれも現実社会において利用されることは稀となっている。しかし他方、ドイツにおいて、社会的に正当な理由無く解雇された労働者が、原則通り、解雇無効を主張し、元の職場へ復帰できているかといえば、実はこれも極めて稀な現象であって、むしろドイツの解雇紛争は、現在でも、その大多数が裁判上の和解によって処理されている。

5.すなわち、ドイツでは、労働裁判所制度および弁護士保険制度の存在によって、訴訟を提起すること自体のハードルがそもそも高くない。そして、解雇制限訴訟については労働裁判所法61a条によって、訴えの提起から2週間以内に和解手続を行うべきことが定められているため(和解弁論)、解雇紛争の多くは、労働契約関係自体は解消しつつ、使用者が労働者に対して補償金を支払うことを内容とする和解によって終了している。また、そこでの補償金額については、法律等に明記されているわけではないが、実務上の算定式が存在しており、それによれば、当該労働者の勤続年数×月給額×0.5という算定式を用いることが、実務上既に確立しており、これをベースとしたうえで、各事案ごとの諸事情を考慮しつつ、最終的な補償金額が算定されることとなっている。

そして、裁判上の和解がかくも高い解決率を実現できているのは、ⅰ)解雇無効原則自体が、労使双方にとって、その実情と合致しないルールであること、およびⅱ)そこで用いられている補償金算定式は、解雇制限法が示す被解雇労働者の要保護性の指標(勤続年数および年齢)と合致したものであることが、その背景にあるように思われる。その点では、ドイツにおける解雇をめぐる「法の世界」と「事実の世界」は乖離してはいるものの、法の世界には、事実の世界における解雇紛争処理の安定性を下支えしている側面があることが指摘できる。

6.なお、以上に加え、ドイツにおいては従業員代表機関である事業所委員会が存在しており、かつ常時21人以上を雇用している事業所において、事業所閉鎖や合併、会社分割等の事業所変更により、一定規模以上の人員削減が予定される場合には、当該事業所委員会には、使用者と、当該解雇によって生じる経済的不利益を補償・緩和するために、「社会計画」を策定することについての共同決定権が生ずる。


かかる社会計画の内容については、法律上の定めはないが、被解雇労働者に対する金銭補償が定められるのが通常であり、実務上、多くの社会計画においては、年齢×勤続年数×月給額を一定の係数で除するという算定式が用いられている。そして、策定された社会計画は、事業所協定としての効力を有し、関係労働者に対して直接に適用されるため、当該労働者は社会計画に基づき算定された補償金の請求権を、使用者に対して取得することとなる。かかる社会計画制度の特徴は、事業所変更に伴う解雇が有効であるか否かに関わらず、労働者が金銭補償を得ることができる制度であるという点にある。

なお、上記の事業所委員会の共同決定権は、同意権としての性質を有するため、使用者と事業所委員会との間での合意が成立しない場合であっても、仲裁委員会が裁定という形で社会計画の策定について判断を行うため、社会計画自体は、その要件が充足されている以上は必ず策定される。

但し、上記の通り、社会計画制度は、あくまで事業所委員会の存在を前提としている。しかし、現在のドイツにおける事業所委員会の設置率は年々(緩やかにではあるが)低下傾向にあることからすれば、それに伴って、社会計画が策定される事例も減少傾向にあることが推察される。

執筆担当は山本陽大さんです。

もともとドイツの解雇法制が得意分野である山本さんが現地調査を踏まえて鋭く分析しています。

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『労働局あっせん、労働審判及び裁判上の和解における雇用紛争事案の比較分析』

AssenJILPTの報告書『労働局あっせん、労働審判及び裁判上の和解における雇用紛争事案の比較分析』がアップされました。

http://www.jil.go.jp/institute/reports/2015/0174.html

http://www.jil.go.jp/institute/reports/2015/documents/0174.pdf

研究の目的

「日本再興戦略」改訂2014(平成26年6月24日閣議決定)において、労働紛争解決手段として活用されている都道府県労働局のあっせん、労働審判の調停・審判及び民事訴訟の和解について、事例の分析・整理を平成26年度中に行う旨が明記されたことを踏まえ、厚生労働省からの依頼を受け、裁判所の協力を得て、独立行政法人労働政策研究・研修機構において実施したもの。

研究の方法

調査対象事案は以下のとおり。
都道府県労働局のあっせん事案(以下「あっせん」):2012年度に4労働局で受理した個別労働関係紛争事案853件
労働審判の調停・審判事案(以下「労働審判」):2013年に4地方裁判所で調停または審判で終結した労働審判事案452件
民事訴訟の和解事案(以下「和解」):2013年に4地方裁判所で和解で終結した労働関係民事訴訟事案193件

※あっせんについては、任意の制度であるため、あっせん申請の相手方が不参加を表明した場合や打切りの場合、解決に至らずに終了することがある。もっとも、あっせんの解決率は上昇傾向にあり、合意成立に至った事案の比率は、2008年度は30.2%であったが、2012年度には38.0%であった。

(注)都道府県労働局のあっせん事例は個別労働関係紛争事案全体について、労働審判の調停・審判事案及び裁判上の和解事案は金銭目的以外の事案全体について調査しているため、解雇等の雇用終了事案のほか、労働条件引下げや退職勧奨、配置転換等の事案が調査対象に含まれている。

主な事実発見
1.性別
あっせんは男性53.6%、女性46.4%、労働審判は男性68.6%、女性31.4%、和解は男性77.2%、女性22.8%と、後者ほど男性の比率が高い。

2.雇用形態
あっせんは正社員47.1%、直用非正規38.1%、労働審判は正社員75.7%、直用非正規21.0%、和解は正社員79.8%、直用非正規19.2%と、後者ほど正社員の比率が高い。

3.勤続年数
中央値で見ると、あっせんは1.7年、労働審判は2.5年、和解は4.3年であり、後者ほど長期勤続の労働者が利用している。

4.役職
役職者の比率は、あっせんは4.9%、労働審判は12.4%、和解は22.8%であり、後者ほど役職者の利用が多い。

5.賃金月額
中央値で見ると、あっせんは191,000円、労働審判は264,222円、和解は300,894円であり、後者ほど高給の労働者が利用している。

6.企業規模(従業員数)
労働審判と和解についてはデータが得られないものが多く厳密な分析ではない(小規模企業ほど従業員数を拾いやすいことによるバイアスがある。)が、中央値で見るとあっせんが40人、労働審判が30人、和解が50人である。

7.制度利用にかかる期間
中央値で見ると、あっせん期間(解決事案のみ)は1.4月、労働審判期間は2.1月、訴訟(和解)期間は9.3月であり、訴訟が長期間かかっている。

8.解決に要した期間
事案発生日から解決までの期間を中央値で見ると、あっせんは2.1月、労働審判は5.1月、和解は14.1月であり、後者ほど長期間かかっている。

9.弁護士等の利用
弁護士の利用を見ると、あっせんでは労使双方なしが95.0%(労働者側の利用は0.7%)であるのに対し、労働審判では労使双方ありが88.9%、和解では95.3%と、対照的な状況である。なおあっせんでは社会保険労務士の利用が可能だが、やはり労使双方なしが94.0%である。

10.請求金額
中央値で見ると、あっせんは600,000円、労働審判は2,600,000円、和解は5,286,333円であり、後者ほど高額である。

11.解決内容
(以下、あっせんについては合意が成立した事案に限る。)

金銭解決の比率が、あっせんは96.6%、労働審判は96.0%、和解は90.2%であり、いずれも金銭解決が圧倒的大部分を占めている。

12.解決金額
中央値で見ると、あっせんは156,400円、労働審判は1,100,000円、和解は2,301,357円であり、後者ほど高額であるが、いずれも下表に見るように散らばりが大きくなっている。

(表は省略。リンク先をご覧ください)

13.月収表示の解決金額
解決金額を賃金月額で除した数値を中央値で見ると、あっせんは1.1か月分、労働審判は4.4か月分、和解は6.8か月分であり、後者ほど高くなっているが、いずれも下表に見るように散らばりが大きくなっている。

(表は省略。リンク先をご覧ください)

政策への貢献

本調査研究を行うもととなった「日本再興戦略」改訂2014(平成26年6月24日閣議決定)においては、あっせん、労働審判及び和解の事例分析を行うことと並んで、「分析結果を踏まえ、活用可能なツールを1年以内に整備する」とされている。本調査研究結果をもとに、厚生労働省はこのツールを開発し、一般の利用に供することを予定しており、直接的にはかかる形で政策に貢献することが期待される。

さらに、同戦略で調査研究が求められ、JILPTにおいて実施された諸外国における紛争解決システムの研究成果と合わせて、同戦略で目標とされている「予見可能性の高い紛争解決システムの構築」に貢献することが期待される。

なお、本研究の研究担当者は、

濱口 桂一郎 労働政策研究・研修機構 主席統括研究員
高橋 陽子 労働政策研究・研修機構 研究員

です。

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NPO法人あったかサポートシンポジウムの記事

2015061500000009kyt0001view 今日の京都新聞に、去る5月23日に開かれたNPO法人あったかサポートシンポジウムの記事が載っています。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150615-00000009-kyt-l26

若者の貧困やニート、引きこもりなどの問題を考えるシンポジウムが、このほど京都市内で開かれた。労働や教育、福祉の各分野の専門家3人が、教育を「公共財」と捉えることや、「半福祉・半就労」の必要性などについて語り合った。

 労働教育に取り組むNPO法人あったかサポート(京都市下京区)が主催。独立行政法人・労働政策研究研修機構の濱口桂一郎さんと、東京大大学院の本田由紀教授(教育社会学)、同志社大社会福祉教育研究支援センター長の埋橋孝文教授がパネリストを務めた。

私の発言を引いている部分は、次の通りです。

・・・濱口さんは、「政治家やマスコミなど、政策を論じる人たちは、自分たちが親に出してもらった経験から『教育は私的財』という皮膚感覚を持っている」と語った。国民の多くも安定した雇用の下で給料から子どもの進学費用を捻出し「教育費は親が持つもの」と捉えてきた意識も指摘。「だが今は矛盾が生じている。生活保護を受けずに働こうとすると、子どもの教育費を出せなくなる。これでいいのか」と、教育費を社会全体が負うコストとして議論する意義を訴えた。・・・

・・・第二のセーフティネットとされる今春施行の生活困窮者自立支援法をめぐっては「働ける人は働くという方向に向かうだけでなく、普遍的な社会保障が必要」との見解で一致。濱口さんは、日本の社会が、家族に正社員がいることで社会保障を受けられる仕組みを作ってきた歴史に触れ、「正社員と生活保護制度は、全ての生活ニーズを満たす『フルセット主義』。そこにいる間は満たされるが、いったん外れると全てがなくなる」として、就労するシングルマザーや非正規雇用の人が貧困に陥りやすい構造を問題視した。・・・

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2015年6月14日 (日)

『日本の雇用と中高年』アマゾンレビュー2つ

26184472_1 今月に入って、『日本の雇用と中高年』にアマゾンレビューが2つ付きました。

http://www.amazon.co.jp/product-reviews/4480067736/ref=cm_cr_dp_see_all_btm?ie=UTF8&showViewpoints=1&sortBy=bySubmissionDateDescending

6月9日に「zigeunerweisen」さんの

「ジョブ型社会」「メンバーシップ型社会」「内部労働市場」「外部労働市場」などをキーワードに、日本の雇用問題ないしは人事政策と法制の変遷と現状、高齢化する社会が直面する諸課題をコンパクトにまとめた良書です。現役のビジネスパースンはもとより、まもなくメンバーシップ型社会の一員になるであろう学生諸君にも一読を勧めたい良書です。

6月13日に「夏風」さんの

 正社員といわれた人々の、仕事へのかかわり方や社内行動、そして会社での雇用慣行や国の労働政策(法制も含めて)のもろもろが、著者のいう「メンバーシップ型」雇用の視点から、丁寧に説明されているのが、興味深く、かつ大変納得させられた。関係労使での争点や労働ルールにかかわる判例の位置づけなども、歴史を追って具体的に説明が進められていて、過去の一時期にかかわったことのあるテ-マが、「メンバーシップ型」雇用の文脈のなかで、くっきりと位置付けられて見えてきたのも、面白かった。

 今、非正規社員の増加によって、「メンバーシップ型」雇用の前提が大きく揺らいでいる現実に、どう対応していくかは、この社会をあげての最重要の課題であることを、実感させられた。

 不足点をいえば、「メンバーシップ」の中に、女性が組み込まれていなかったことを、もっと掘り下げてほしかった。今後の著作にも、期待したい。

はい、女性問題が掘り下げ不足であることは重々認識をしております。

今後の著作にご期待ください。

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2015年6月13日 (土)

平成26年度個別労働紛争解決制度施行状況

厚生労働省が昨日、平成26年度個別労働紛争解決制度施行状況を公表しました。

http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000088625.html

http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10401000-Daijinkanbouchihouka-Chihouka/Daijinkanbouchihouka-Chihouka270612.pdf

平成26年度は、総合労働相談、助言・指導、あっせんの件数がいずれも前年度と比べ減少しました。ただし、総合労働相談件数は7年連続で100万件を超え、高止まりしています。

 また、総合労働相談のうち、民事上の個別労働紛争の相談内容では「いじめ・嫌がらせ」が62,191件と、3年連続で最多となりました。

景気の回復とともに、整理解雇や整理解雇的雇止め、経営難的不利益変更は減少傾向にありますが、個人的理由の解雇や雇止めはそれほど減っておらず、そして何よりもいじめ・嫌がらせが増え続けているというのがここ数年の特徴でしょう。

今年はついに、あっせん申請件数においてもいじめ・いやがらせが解雇を上回りました。もちろん、解雇以外に雇止め、退職勧奨、採用内定取消など不本意型雇用終了を合わせればその方がずっと多いのですが、これはこれでやはり今日の個別紛争の状況をよく示していると言えるでしょう。

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2015年6月12日 (金)

佐伯芳子『移住女性と人権』

佐伯芳子さんから『移住女性と人権』(尚学社)をお送りいただきました。ありがとうございます。

佐伯さんは私は全く存じ上げない方ですが、著者紹介によると、東京女子大卒業後長く東京都の労政事務所等に勤務して、再び母校で博士号を取られ、現在東京女子大の研究員ということです。

残念ながらまだ版元のHPに載っていないようなのですが、はしがきの冒頭のこの言葉が研究の出発点なのでしょう。

「フィリピン人は、街を歩いているだけで、ばかにされることが悔しい」

インタビュー調査の時に、あるフィリピン女性が語った言葉である。彼女の言葉は「移住女性と人権」というテーマにどう関わるかを深く考えるきっかけともなった。・・・・・

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2015年6月11日 (木)

『月刊人事労務実務のQ&A』7月号に「青少年雇用促進法案が目指すもの」を寄稿

Qa『月刊人事労務実務のQ&A』7月号に「青少年雇用促進法案が目指すもの」を寄稿しました。

去る3月17日に勤労青少年福祉法等の一部を改正する法律案が国会に提出されました。法律のタイトルは「青少年の雇用の促進等に関する法律」となり、公共職業安定所における求人の不受理など全面的に新たな規定が盛り込まれ、事実上全部改正に等しいものになっています。以下では「青少年雇用促進法」と呼びますが、意外なことに、雇用政策分野では若者を対象にした初めての法律になります。高齢者や障害者など、特定の人々を対象にした雇用法制はいろいろ存在しますが、若者のための法律はなかったのです。

 本稿では、過去10年間に次第に進んできた若者雇用対策の流れを概観した上で、今回の法案の内容を若干詳しく見ていきたいと思います。

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EU労働法の第一人者

私は今まで、自分こそEU労働法の第一人者だと自信を持って断言してきました。なぜ断言できるかって?だって、日本国中探しても、第二人者も第三人者もいないから。一人しかいなければ、その人が第一人者です。

と、言える時代もそろそろ終わりつつあるのかも知れません。

先週紹介した日本EU学会の年報35号『EUの連帯』に掲載された山本志郎さんの「EU域内市場における集団的労働法(交渉制自治モデル)の受容の困難」は、私の議論の粗いところを徹底的に詰めて、立派な法学論文としてできあがっています。

昨年末に『法学新報』の毛塚先生記念号に載った山本志郎さんの「ヨーロッパ労働法研究序説」から、さらに議論が深められています。

というわけで、そろそろEUネタは思い出した頃にたまに手を出す程度になってしまっている私は、EU労働法の第一人者という看板は下ろすべき時期が近づいてきているようです。

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2015年6月10日 (水)

労働学部?

荒戸寛樹さんという方のツイートから:

https://twitter.com/hirokiarato/status/608480468569198593

経営学部があっていいなら労働学部があって然るべきではないか。

https://twitter.com/hirokiarato/status/608539365615099905

労働学部はいろんな人が集まるから結構面白いと思うよ。

https://twitter.com/hirokiarato/status/608552028491489280

マジでそうですよ。労働は学際分野で最重要かつ最先端ですよ。

https://twitter.com/hirokiarato/status/608555277013549056

どんなことであれ、経済学だけじゃわかりませんよ。労働は特にそう思う。こう書いちゃうと労働経済学者に怒られるかもしれないけれど。でも労働を研究している人はいろんなことに詳しくて勉強してるから、やっぱりそうなんだろうと思う。

https://twitter.com/hirokiarato/status/608557959627460608

そういう泥くさ~い学問には、魅力を感じる。「労働や労働者=泥臭い」と言ってるわけじゃないですよ。私も労働者ですからね。まあ私は泥臭いしそろそろおっさん臭いですが。いろんなアプローチがせめぎ合っている学問分野という意味です。

いや、アメリカには結構労使関係学部とか労使関係大学院というのがありますよ。最近は雇用関係とか人的資源管理とかいうのが多いようですけど。

そういう人事労務関係が結構大きな専門職分野になっているので、それを育成する仕組みも発達しているのでしょう。

民法から始まる法律学や新古典派理論から始まる経済学みたいな体系的なアカデミックな分野じゃないので、まさに現実にへばりついた泥臭い学問分野であり、使えるものは使うという雑食性の分野ですね。

残念ながら、そういうのが一番衰退してきているのが今の日本の現状だと思います。

もう6年も前のエントリですが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2009/01/post-2ae9.html (どぶ板の学問としての労使関係論)

本日、某全国紙の記者の方と3時間くらいお話をしておりましたが、その中で、「どうして労働研究者の人はそういうことをいわなかったのですか」という話が出て、いささか個人的な見解を披瀝してしまいました。

それは、本来労働問題というのはどぶ板の学問である労使関係論が中心であって、それに法律面から補完する労働法学、経済面から補完する労働経済学が、太刀持ちと露払いのごとく控えるというのが本来の姿。

これはちょうど、国際問題というのもどぶ板の学問である国際関係論が中心であって、それを国際法学と国際経済学が補完するというのと同じ。

国際問題を論ずるのには、まずは現実に世界で何がどうなっていて、それは歴史的にどうしてそうなってきたのかという話が先であって、それをすっとばして国際法理論上どうたらこうたらという議論はしないし、国際経済理論的に見てこうでなければという話にもならない。それは理屈が必要になって、必要に応じて使えばいいもの。それらが先にあるわけではない。

そんなことしてたら、何を空理空論からやってるんだ、まずは現実から出発しろよ、となるはず。どぶ板の学問の国際関係論が、アカデミックなディシプリンとしてははっきり言っていいかげんな代物であるとしても、やはり出発点。

ところが、労働問題は国際問題と異なり、その中心に位置すべき労使関係論が絶滅の危機に瀕している。空間的、時間的に何がどうなっているのかを知ろうというどぶ板の学問が押し入れの隅っこに押し込まれている。そして、本来理屈が必要になっておもむろに取り出すべき労働法学や労働経済学が、我こそはご主人であるぞというような顔をして、でんと居座っている。

そういう理論が先にあるアカデミックなディシプリンの訓練を受けた人ばかりが労働問題の専門家として使われるという風になってしまったものだから、今のような事態になってしまったという面があるのではないか、と思うのですよ・・・。

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ジョブ型・メンバーシップ型に関する労働者の意識調査結果@みずほ情報総研

みずほ情報総研が、「ジョブ型・メンバーシップ型に関する労働者の意識調査結果」というのを発表しています。

http://www.mizuho-ir.co.jp/company/release/2015/hrm0610.html

http://www.mizuho-ir.co.jp/publication/report/2015/pdf/hrm0610.pdf 

みずほ情報総研株式会社(本社:東京都千代田区、社長:西澤 順一)は、2015年2月および4月に、大卒正社員の労働者1,030人と、企業の人事担当者429人を対象に、「ジョブ型・メンバーシップ型に関する意識調査」を行い、このたび調査報告書としてまとめましたのでご案内いたします。

近年、我が国では少子高齢化、労働力人口の減少といった状況下において産業競争力の強化が求められており、政策面ならびに企業のマネジメント面において、創造性と高い生産性を発揮できる労働環境の構築が重要視されています。特に、人事分野においては、非正規雇用問題、解雇規制の見直し、生涯現役社会の実現、ワークライフバランスの向上、ダイバーシティの推進、世代間の公平等が重要なテーマとなっています。

一方で、これらのテーマは、我が国固有の「メンバーシップ型(*1)」の雇用慣行と深く関わっており、これを諸外国で一般的な「ジョブ型(*2)」に変えていこうという議論があります(*3)。しかしながら、それは企業・労働者双方に大きな変化を求めるものであり、実現に向けた課題は多いものとされています。労働者が自分の仕事を「ジョブ」としてどのくらい意識しているのか、現在の雇用慣行や管理施策についてどう感じているのかを知ることが、この課題解決に必要と考えられますが、この点について正面から取り組んだ調査はあまりありません。

このような背景から、みずほ情報総研では、「ジョブ型」および「メンバーシップ型」に対する労働者の意識を、(1)ジョブ(業界)型、(2)ジョブ(職種)型、(3)メンバーシップ(就社)型、(4)とにかく社会人(就職)型の4類型(*4)で捉えたアンケート調査を実施しました。今回の調査から、労働者の仕事の全体満足は、「ジョブ(職種)型」が最も高く、企業の人事担当者は「ジョブ(職種)型」の採用を重視する傾向にあることがわかりました。また、企業規模が大きいほど、「ジョブ(職種)型」の意識は弱まり、「メンバーシップ(就社)型」の意識が強まる傾向が見られました。主な調査結果は以下のとおりです。

「自分はジョブ(職種)型」であるという意識を持つ人が最も多い

ジョブ(職種)型:1.75、ジョブ(業界)型:1.48、メンバーシップ(就社)型:1.42、とにかく社会人(就職)型:1.35

年代別に見ると、「自分はジョブ(職種)型」であるという意識は、20代と比べ、30代以上の年代で強くなる

20代:1.63、 30代:1.77、 40代:1.72、 50代:1.77、 60代以上:1.92

企業規模で見ると、「自分はジョブ(職種)型」であるという意識は、企業規模が小さいほど強くなる

3,000人以上:1.69、 300~3,000人未満:1.74、 30~300人未満:1.75、 30人未満:1.88

一方、企業規模が大きいほど「自分はメンバーシップ(就社)型」であるという意識が強くなる

3,000人以上:1.63、 300~3,000人未満:1.44、 30~300人未満:1.37、30人未満:1.21

*上記4項目はすべて、1位選択を3点、2位選択を2点、3位選択を1点、4位選択を0点として得点換算し、平均値を算出

仕事の全体満足度は「ジョブ(職種)型」が高く、「とにかく社会人(就職)型」は、満足度が低い

ジョブ(職種)型:3.62、メンバーシップ(就社)型:3.57、ジョブ(業界)型:3.48、とにかく社会人(就職)型:3.18

*上記項目は、「当てはまる」を5点、「当てはまらない」を1点などに得点換算し、平均値を算出

企業の人事担当者は、「ジョブ(職種)型」の意識を持った人材を今後採用したいと考えている

[新卒採用] ジョブ(職種)型:34.5%、ジョブ(業界)型:28.2%、メンバーシップ(就社)型:25.4%、とにかく社会人型:11.9%

[中途採用] ジョブ(職種)型:39.4%、ジョブ(業界)型:26.8%、メンバーシップ(就社)型:24.2%、とにかく社会人型:9.6%

日本における正社員の雇用は、雇用期間や勤務場所、職務を限定しない、いわゆるメンバーシップ型雇用慣行が主流となっているが、ある程度の仕事経験をもつ労働者は、「自分の職務(仕事)の範囲」を意識して働いているのではないかと考えられる。今回の調査においても、「ジョブ(職種)型」の意識は30代以上の年代で強くなる傾向があったことは、この考えを支持するものである。「ジョブ(職種)型」の意識は、年代、企業規模によらず全体で高くなっており、ジョブ型志向が明示的な意識とはなっていない可能性はあるが、比較的浸透してきていると考えられる。

また、人事担当者の調査結果にあるように、新卒採用に関して、今後職種意識の高い人材を採用していく動きが高まるとすれば、大学や高等専門学校等の高等教育においても職業教育がもっと必要ではないかという議論がありうる。また、社会が若者をジョブ型スタイルで受け入れる方がよいのか、あるいはメンバーシップ型の方がよいのかといった検討もすべき段階にきているのではないか。

詳しくは上のリンク先参照ですが、もちろんジョブ型にせよ、メンバーシップ型にせよ、社会システムの問題であり、単なる意識の問題ではないので、それは頭に置いて読む必要はあります。

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『スウェーデンの労使関係―賃金・労働移動のルールを中心に』

Sweden「規範設定に係る集団的労使関係のあり方研究プロジェクト」シリーズのスウェーデン編がアップされました。

http://www.jil.go.jp/institute/reports/2015/0179.html

ドイツ、フランスに比べて、日本ではあまり紹介されない(福祉関係ではいっぱい紹介文献はあるのですが、こと労働関係になると、政治学方面からの局部的な紹介があるだけで、労使関係論プロパーのものは極めて少ない)スウェーデンの労使関係について、今や他の追随を許さない第一人者と言ってよい西村純さんの報告書第2弾は、連帯主義的賃金政策と積極的労働市場政策という、やたらに人口に膾炙している割に、そのミクロレベルのメカニズムがほとんど知られていなかった仕組みを、実地調査をもとに解き明かす一編です。

読み進めながら、そうだったのか、と思うところが続出すると思います。

1.企業レベルにおける交渉アクターは、事業所がクラブ(企業レベルにおける組合)によって組織されている場合は、クラブと使用者側の代表が主たるアクターとなる。一方で、クラブがない場合、産業別組合の地域支部(Local Branch)の「交渉人」が、使用者側の代表とそこで働いている組合員のために、交渉を行う。

2.職種別賃金表のようなものが産業別協約内において規定されているわけではない。IF-Metall(機械・金属産業組合)も産業別協約において詳細な規定は必要ないと考えている。

3.そのため、企業は独自の賃金制度を構築し、その制度に基づいて労働者の賃金が決まる。クラブがあり、かつ、資格等級制度があるようなV社T事業所の場合、月例給のうち、全員に一律に支払われる給与項目に関する賃上げは、クラブと使用者側の代表との間で行われる交渉を通して、決定されている。

4.ブルーカラーの月例給にも査定が導入されている。査定の運用において、組合はモニタリングに加えて、交渉主体としての機能も維持している。例えば、V社T事業所のメンテナンスワーカーにおいては、組合員の評価点や評価点に応じて決定される昇給額は、各部門毎に作られる組合員の評価グループと部門の上司の間で決定されている。また、昇給額の決定の際には、組合員間の賃金格差の是正も念頭に置きつつ交渉が実施されている。

5.総じてこの査定部分は、組合員にとっては賃上げのための貴重な要素となっている。V社T事業所のプロダクションワーカーにおいては、ほぼ全員が得られる最大限の昇給を受け取っている。A社B事業所の組合代表の言葉を借りれば、こうした査定部分の昇給要素は「賃金を上げるブースター」となっている。

6.クラブがない場合、その地域を管轄している地域支部(Local Branch)の「交渉人」が、職場まで赴き交渉を行う。こうした交渉が行われるのは数人から数十人の規模の企業が多いという。

7.クラブがない場合、次の3つのパターンで賃金が決定される場合が多い。1つは、個人の賃金に、合意した賃上げ率をかける方法である。2つは、全員に同じ昇給額を適用する方法である。3つは、上司と部下の面談で具体的な昇給額が決定する場合である。この場合、そこで働く組合員個人が上司と合意できなければ、「交渉人」がその決定過程に参加し、昇給額を決定する。その際、地域支部は使用者側、組合員側双方の言い分を聞きつつ、お互いが納得できる賃金を提案するように努めている。

8.近年、賃金に関する具体的な規定を設けないFigureless協約の導入が進みつつある。機械・金属産業においても、大卒エンジニア組合と機械工業経営者連盟との間でそうした協約が締結されている。この協約の下では、基本的には、企業内の労使が合意できれば、どのような賃上げ率で合意しても問題はない。ただし、協約の文言には具体的には記されていないが、個別企業内において労使が合意できなかった場合の賃上げ率の下限が、設定されていた。また、その下限の設定において、産業横断的なレベルが一定の役割を果たしていた。

9.経済的理由による整理解雇の人選については、クラブがある場合、ない場合、すなわち、企業規模によらず、いずれのケースにおいても雇用保護法における先任権が自動的に適用されているわけではなく、交渉を通じて人選が行われている。その際には、組合も事業の操業を維持することができるような形で、合意することに努める一方で、使用者側も無理に自らの主張を押し通すわけではない。

10.使用者側がそうした交渉に応じるのは、雇用保護法にある先任権規定を逸脱するためには、組合と整理解雇の人数や人選について合意する必要があるためだと考えられる。

11.経済的理由による整理解雇の対象者は、労使が自主的に取り組んでいるTSL制度を利用し、次の職場を探している。したがって、現在スウェーデンでは、公共サービスと労使によって提供されるサービスのミックスによって、失業者支援が実施されていると言える(図表2)。

図表2 失業者支援制度の概要(TSL制度と公共職業紹介所)

0179_02
注)は労働者。 は民間人材サービス企業

12.TSL制度の特徴を指摘すると、大きく3つある。1つは、民間人材サービス企業を活用していることである。それらの企業を利用するのは、彼らの持つネットワークは広大で、多くの求人企業に対する情報を持っているからである。彼らのネットワークを利用することで、失業者と求人企業の早期のマッチングを試みている。2つは、とはいえ、民間に任せっぱなしにしているわけではないことである。制度の運用において、組合がかなりの程度関与している。例えば組合は、サービスへの参入業者に対する評価の主体となることで、良好なサービスを提供する業者のみを残そうとしている。また、3つは、このサービスが、実際に失業となる以前から提供されていることである。通常、整理解雇の実施までに、予告期間として一定の期間が与えられる。公的サービスはその期間は利用できない。一方、TSL制度は、その期間内からサービスを開始することができる。こうした取り組みは、実際に整理解雇の対象となったとしても、失業を経験することなく次の職場に移ることを可能にしている面がある。

政策的インプリケーションとしては、

1.産業別協約に基づいた集団的労使関係システムを維持する上で、企業レベル(主に事業所もしくは職場)の労働組合が果たしている役割は小さくない。この点は、集団的労使関係システムを構築したとしても、企業レベルにおいて組合の役割が小さくなるわけではないことを示唆していると思われる。

2.経済的な理由による整理解雇時の労使交渉の分析から、先任権規定が、実は、事業所内の真摯な労使交渉を促していることが明らかとなった。法律における具体的な規定が、その逸脱規定と合わさって、企業内において労使の真摯な交渉を促すことに寄与しているという事実は、企業内に形成された発言機構の実効性の担保を考える上で、興味深い知見だと思われる。

3.個別企業における雇用と、公的な失業者支援サービスの間に、労使自らが運営するセーフティーネットが存在していた。この点は、仮に、セーフティーネットにおける1層目を企業における雇用、2層目を公的サービスとすると、労使当事者によって講じられる1.5層目のセーフティーネットと見なすこともできよう(図表2)。その際、1.5層目は、民間人材サービス企業を利用することで支援が展開されていたのであるが、その運営において、労使が深く関与していた。この点は、労働政策を考える上で、興味深い知見であると考えられる。

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2015年6月 9日 (火)

大学等における社会人の実践的・専門的な学び直しプログラム

世間では依然として、メンバーシップ型雇用にどっぷり漬かった感覚のままのレリバンスの欠如した議論がはびこっていますが、今後少子化が進む中で(年功賃金で親が授業料を払ってくれる)若い世代のお客さんがどんどん減っていくことを真剣に考えているサイドの方は、別の財源でもって大学の生き残りの道を模索しているようです。

「L型大学」と違って(笑)世間的にはほとんど話題にならなかったようですが、先月文部科学省は、大学等における社会人の実践的・専門的な学び直しプログラムに関する検討会の報告を公表しています。

http://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2015/05/12/1357739_1.pdf

リンク先をざっと読んでいただければわかるように、このプログラムの対象は社会人です。つまり、大学、大学院、短期大学、高等専門学校において、社会人や企業のニーズに応じた魅力的なプログラムを提供し、社会人がその受講を通じて職業に必要な能力を取得することを促進するため、そうしたプログラムを文部科学省が認定する制度です。

認定基準のうち注目すべき点を拾うと、総授業時数の一定以上を、実務家教員や実務家による授業、双方向・多方向の討論、実地の体験活動、企業と連携した授業などが占めていることとされています。また、対象職業分野を明確に設定公表していること、プログラムで習得可能な能力を具体的かつ明確に設定公表していることが求められており、つまり職業的レリバンスを示せと言うことです。

大変興味深いのは、最後のところで、

○今後、本制度を土台とし、文部科学省における社会人の学び直し関係施策や、厚生労働省における労働者への教育訓練にかかる支援制度等各省の政策との連携など、社会人の学び直しを促進していくために必要な施策が合わせて行われることにより、さらなる効果を期待するものである。

と、雇用保険の教育訓練給付制度を財源として使いたいという趣旨がにじみ出ていることです。

レリバンスのない大学教育を、子供の教育費込みの親の年功賃金でまかなうというビジネスモデルが徐々に崩れていき、本人の稼いだお金プラス雇用保険の教育訓練給付でもって大学の授業料をまかなうというモデルに移行しようという文部科学省の下心が、見え見えに透けて見えるところが興味深いというべきでしょうか

大学とは教育機関であり、教育費を誰がどういう形で負担するかが最大の問題であるという真実から目を背けていたい人々にとっては、レリバントではない話なのでしょうけど。

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2015年6月 8日 (月)

専修大学事件最高裁判決

注目を集めていた専修大学事件の最高裁判決が出たようです。

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/148/085148_hanrei.pdf

原審をひっくり返しました。

判旨部分をコピペしておきます。

(1) 労災保険法は,業務上の疾病などの業務災害に対し迅速かつ公正な保護をするための労働者災害補償保険制度(以下「労災保険制度」という。)の創設等を 目的として制定され,業務上の疾病などに対する使用者の補償義務を定める労働基 準法と同日に公布,施行されている。業務災害に対する補償及び労災保険制度につ いては,労働基準法第8章が使用者の災害補償義務を規定する一方,労災保険法1 2条の8第1項が同法に基づく保険給付を規定しており,これらの関係につき,同 条2項が,療養補償給付を始めとする同条1項1号から5号までに定める各保険給 付は労働基準法75条から77条まで,79条及び80条において使用者が災害補 償を行うべきものとされている事由が生じた場合に行われるものである旨を規定 し,同法84条1項が,労災保険法に基づいて上記各保険給付が行われるべき場合 には使用者はその給付の範囲内において災害補償の義務を免れる旨を規定するなど している。また,労災保険法12条の8第1項1号から5号までに定める上記各保 険給付の内容は,労働基準法75条から77条まで,79条及び80条の各規定に 定められた使用者による災害補償の内容にそれぞれ対応するものとなっている。 上記のような労災保険法の制定の目的並びに業務災害に対する補償に係る労働基 準法及び労災保険法の規定の内容等に鑑みると,業務災害に関する労災保険制度 は,労働基準法により使用者が負う災害補償義務の存在を前提として,その補償負 担の緩和を図りつつ被災した労働者の迅速かつ公正な保護を確保するため,使用者 による災害補償に代わる保険給付を行う制度であるということができ,このような 労災保険法に基づく保険給付の実質は,使用者の労働基準法上の災害補償義務を政 府が保険給付の形式で行うものであると解するのが相当である(最高裁昭和50年 (オ)第621号同52年10月25日第三小法廷判決・民集31巻6号836頁 参照)。このように,労災保険法12条の8第1項1号から5号までに定める各保 - 5 - 険給付は,これらに対応する労働基準法上の災害補償に代わるものということがで きる。

(2) 労働基準法81条の定める打切補償の制度は,使用者において,相当額の 補償を行うことにより,以後の災害補償を打ち切ることができるものとするととも に,同法19条1項ただし書においてこれを同項本文の解雇制限の除外事由とし, 当該労働者の療養が長期間に及ぶことにより生ずる負担を免れることができるもの とする制度であるといえるところ,上記(1)のような労災保険法に基づく保険給付 の実質及び労働基準法上の災害補償との関係等によれば,同法において使用者の義 務とされている災害補償は,これに代わるものとしての労災保険法に基づく保険給 付が行われている場合にはそれによって実質的に行われているものといえるので, 使用者自らの負担により災害補償が行われている場合とこれに代わるものとしての 同法に基づく保険給付が行われている場合とで,同項ただし書の適用の有無につき 取扱いを異にすべきものとはいい難い。また,後者の場合には打切補償として相当 額の支払がされても傷害又は疾病が治るまでの間は労災保険法に基づき必要な療養 補償給付がされることなども勘案すれば,これらの場合につき同項ただし書の適用 の有無につき異なる取扱いがされなければ労働者の利益につきその保護を欠くこと になるものともいい難い。 そうすると,労災保険法12条の8第1項1号の療養補償給付を受ける労働者 は,解雇制限に関する労働基準法19条1項の適用に関しては,同項ただし書が打 切補償の根拠規定として掲げる同法81条にいう同法75条の規定によって補償を 受ける労働者に含まれるものとみるのが相当である。

(3) したがって,労災保険法12条の8第1項1号の療養補償給付を受ける労働者が,療養開始後3年を経過しても疾病等が治らない場合には,労働基準法75 条による療養補償を受ける労働者が上記の状況にある場合と同様に,使用者は,当 該労働者につき,同法81条の規定による打切補償の支払をすることにより,解雇 制限の除外事由を定める同法19条1項ただし書の適用を受けることができるもの と解するのが相当である。

あり得べき誤解を予め解いておくと、これは一般的な解雇のありようについて何か左右するような性格のものではありません。

そもそも労働基準法においては、解雇は基本的に自由というかできるものであり、ごく例外的に解雇が制限される場合として労災や妊娠中の解雇が規定されているので、その例外的に解雇できない場合の範囲がどこまでかという玄人的な議論をしているのです。

それに対して、現在労働契約法16条に規定されている解雇権濫用法理は、投網をかけるようにすべての解雇について客観的に合理的な理由を求めているのであり、今回の判決はこちらには何の影響もあるものではありません。

そこのところだけ間違えないで報道してもらえるとありがたいですね。

今日の判決の最後のところでも、労働契約法16条の関係を判断させるために差し戻しに下とちゃんと書いております。

・・・そ して,本件解雇の有効性に関する労働契約法16条該当性の有無等について更に審 理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。

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「日本型雇用システムと職業教育の逆説」@『産業と教育』6月号

Img_contents_01「文部科学省の全面的な編集協力のもとに発行している産業教育振興中央会の機関誌」である『産業と教育』2015年6月号が、「学校から社会・職業への円滑な移行」という特集を組んでいて、その巻頭論説に「日本型雇用システムと職業教育の逆説」を寄稿しました(左の表紙は今号ではありません)。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/sanshin1506.html

前半から真ん中までは今までの概説ですが、最後の2節で若干今日的話題に棹さしております。

1 日本型雇用システムの構造
2 日本型雇用システムと企業内教育訓練システム
3 公的教育訓練システムの低い位置づけ
4 公的教育訓練システム中心の構想
5 企業内教育訓練体制の確立
6 職業指向型教育システムに向けて

7 普通高校と専門高校の逆転

 一方、職業教育の意義が高まってくる時代とは、普通高校の存在意義が改めて問われる時代でもある。フリーターやニートを生み出しているのはむしろ普通高校である。
 今日の状況を鮮やかにえぐり出しているものに、『教育社会学研究』第92号(2013年8月)に掲載された児美川孝一郎「教育困難校におけるキャリア支援の現状と課題」という論文がある。これは、なにかと問題の多い大阪の偏差値の低い高校「教育困難校」3校を取り上げて、その状況や取り組みを述べているのであるが、職業的レリバンスがない高校ほどほどひどい状態になっているという結果が示されている。
 最初の普通科X校は、偏差値36である。尼崎に近いところのようで、ずっと定員割れが続き、入学者の半分しか卒業に至らず、卒業者の半分がなんとか就職にこぎ着ける。先生方は丁寧な寄り添うような進路指導をするのだが、いわゆる「荒れた学校」で、授業が成立しないような生徒たちに履歴書を書かせるので精一杯であり、その困難はきわまる。
 次の工業科Y校は、偏差値37である。中小企業集積地とあるので東大阪であろう。偏差値はX校と大して変わらないが、入試倍率は1倍を下回ることはなく、就職実績は遙かに高い。約3割は工学系の大学や専門学校に進学し、7割が就職するがすべて正規雇用で、大手・中堅も多い。
 非常に面白いのがY校と同じ地域にある普通科Z校であり、偏差値37である。X校同様の「荒れた学校」として「Z校に行っているなんて、とても言えない」ような状況だったが、地元密着の学校づくりを目指し、普通科高校でありながら2年次から専門コースを設け、週1回インターンシップに行かせるなどしたところ、その評判は「見違えるくらい変わった」という。
 というとZ校の成功物語のようであるが、実はよくなったのは専門コースだけである。そして、2013年度からこの専門コースを総合学科として独立させることになっていて、取り残された普通コースは依然として「困難校」のままである。同じ偏差値なら普通科に行くより専門高校に行く方がはるかに人生の未来が開かれるというこの現実を、しかし普通科進学が議論の余地なき「善」であった時代に青年期を過ごした世代の親たちは、必ずしもよく知らないまま子供たちの進路を左右しているのではなかろうか。

8 動き出した専門大学構想

 そして、存在意義が問われているのは大学も同様である。今日大学進学率が5割を超え、能力不足ゆえに進学できない者はほとんどいなくなってきた。大学は、「学術の理論及び応用を教授研究し、その深奥を極めて、文化の進展に寄与する」という建前と、現実の就職先で求められる職業能力とのギャップをどう埋めるのかという課題に直面している。
 既に2011年1月に中央教育審議会が文部科学大臣に答申した『今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について』では、高等教育レベルにおける「職業実践的な教育に特化した枠組み」の創設が提起されていた。もっともその後、文部科学省では専修学校の枠内に「職業実践専門課程」を設けるということに矮小化されてしまった。
 ようやく昨年7月になって、官邸に設置された教育再生実行会議が「今後の学制等の在り方について」という第5次提言を出し、その中で「実践的な職業教育を行う高等教育機関を制度化する」と、再び政策課題として提起された。そしてそれを受けて、文部科学省の有識者会議で本格的に、「大学」という枠組みの中で実践的な職業教育機関をどう作っていくかという議論が始まった。
 世間では冨山和彦氏によるG型大学、L型大学論ばかりが面白おかしく取り上げられ、誤解に満ちた反応も多かったが、今年3月に取りまとめられた「実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の在り方について(審議のまとめ)」では、かなり明確な方向付けがされている。ここでは大学の一類型として位置づけることを想定し、「専門職業大学」「専門職大学」という名称が想定されている。産業界のニーズへの対応を重視することから、「企業等の参画を得ながら教育の質を確保できる体制やプロセス」の確立が提起され、具体的には、教育内容については教育課程編成へ企業等が参画することが、教員の一定割合については各職業分野において卓越した実績を伴う実務経験を有する者(実務家教員)を配置することが義務づけられている。
 日本型雇用システムを暗黙の前提とした普通科万能、職業教育否定の感覚が、いよいよ高等教育レベルでも追い詰められてきている時代と言えよう。

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『季刊労働法』249号

249_hp労働開発研究会のHPに、『季刊労働法』249号の案内がアップされています。

http://www.roudou-kk.co.jp/books/quarterly/3157/

特集は、なんと「児童労働の廃絶」だそうです。

今号では、「児童労働」を特集します。国際法の視点から見た児童労働の現在、ILO182号条約の今後の課題、児童労働撲滅と労働組合・公的機関の役割、先進国に見られる児童労働の事例、日本の若年者に対する労基法等の保護規定の現状、、これらの問題を検討します。また、児童労働撲滅を進めるNPO活動の最新動向についても触れます。

ラインナップは、

特集 児童労働の廃絶に向けて

児童労働撲滅を目指す国際的動向

神戸女学院大学教授 香川孝三

ILO第182号条約の紹介と今後の課題

ILO事務局本部上級法務官 野口好恵

我が国の児童及び若年者の労働をめぐる法的諸問題

武蔵大学非常勤講師 常森裕介

先進工業国における児童及び年少者の労働

―日本及びアメリカ合衆国の事例

立命館大学公務研究科教授・厚生労働省国際課分析官 田口晶子

途上国における児童労働撲滅と労働組合・支援組織の役割

国際労働財団・アドバイザー/日本ILO協議会・企画委員 熊谷謙一

児童労働を取り巻く危機と今わたしたちにできること

認定NPO法人ACE事務局長 白木朋子

ですが、どうなんでしょう、今の日本で「児童」労働問題がどの程度アクチュアルなのか・・・・・。

本ブログでは、芸能人の労働者性の絡みで、こんなエントリもありましたが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/09/post-d5d3.html(芦田愛菜ちゃんの労働者性)

あと、ややねじれた方向ですが、労基法違反という絡みで、幾つか拾ってみると、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2006/11/post_5710.html(中学生を違法派遣)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/05/post-b2de.html(女子高生クラブは労働基準法違反)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/07/post-5cbb.html(キキの民法と労働法)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/04/post-fc06.html(大阪ガールズバー労基法違反の罪状)

ふむ、いずれにしても、ILOの場で議論されている児童労働問題とは若干ずれがあるようではあります。

その他の記事は以下の通りです。

■短期連載 「労働の場(site)」における契約外規範の探求■

労働契約をめぐる「契約外規範」

―課題の設定―

九州大学教授 野田 進

イギリス労働法における契約外的規範構築への挑戦

山口大学准教授 新屋敷恵美子

■論説■

「専門的知識等を有する有期雇用労働者等に関する特別措置法」(有期特措法)について

学習院大学教授 橋本陽子

■労働法の立法学 第39回■

若者のための労働法政策

労働政策研究・研究機構統括研究員 濱口桂一郎

■神戸労働法研究会 第32回■

就業条件をめぐる団交拒否と派遣先の不当労働行為の使用者性

阪急交通社事件を素材とした一試論

静岡大学准教授 本庄淳志

■同志社大学労働法研究会 第13回■

内部告発・内部通報・公益通報と労働法

同志社大学教授 土田道夫 同志社大学大学院博士前期課程修了 安間早紀

■筑波大学労働判例研究会 第42回■

事実上の組合分裂の下での,委員長の地位確認と名称等使用禁止請求

東京管理職ユニオン事件(東京地判平25.8.30労判1083号49頁)

筑波大学大学院博士課程 平川 宏

■北海道大学労働判例研究会 第36回■

労働者の復職可能性の程度と主張立証責任

第一興商(本訴)事件・東京地判平成24年12月25日(労判1068号5頁)

弁護士 迫田宏治

■文献研究労働法学 第16回■

労働時間の概念

~労基法上の労働時間概念を中心に

神戸学院大学准教授 梶川敦子

■新連載・キャリア法学への誘い■

学際研究対象としてのキャリア

―法学からの寄与に向けて

法政大学名誉教授 諏訪康雄

●重要労働判例解説

NHK受信料集金人の労働者性

NHK神戸放送局(地域スタッフ)事件(神戸地判平26・6・5労判1098号5頁)

弁護士・北海学園大学准教授 淺野高宏

専門業務型裁量労働制の適用範囲

レガシィほか1社事件(東京高判平26・2・27労経速2206号3頁)

社会保険労務士 北岡大介


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2015年6月 7日 (日)

派遣法改正案、衆院採択へ…維新と自公折り合う

とりあえず、読売のサイトについさっき載っていましたので速報。

http://www.yomiuri.co.jp/politics/20150606-OYT1T50125.html?from=ytop_top

派遣労働者に柔軟な働き方を認める労働者派遣法改正案が、衆院を通過する見通しとなった。

 自民、公明両党と維新の党による協議で、維新が近く法案の採決に応じることで大筋合意したためだ。

 維新が早期採決に応じる代わりに、自公両党は、雇用形態で賃金に差をつけない「同一労働同一賃金」を進める議員立法の成立に協力する。自公両党と維新の3党はこれまでの協議で、維新などが今国会に提出した議員立法に「施行後3年以内に法制上、財政上、税制上の措置」などを講じるとの文言を加え、3党で再提出することで折り合った。・・・

政治の世界の話なので、そういうことだということです。

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2015年6月 6日 (土)

『韓国における労働政策の展開と政労使の対応』

Korea JILPTの資料シリーズとして、『韓国における労働政策の展開と政労使の対応―非正規労働者問題の解決を中心に―』がアップされました。

http://www.jil.go.jp/institute/siryo/2015/155.html

非正規労働者問題の解決に向けた韓国の政労使の対応を研究することによって、韓国の労働情報を提供するとともに日本の問題解決に示唆を与えること。

執筆は、JILPTの呉学殊さんに、東大特任助教の朴孝淑さん、早稲田博士課程の徐侖希さんです。

2007年に施行された非正規労働者保護関連法の主要内容は、次のとおりである。第1に、使用者が契約社員やパート労働者を2年以上雇い続けると期間の定めのない雇用としたとする「2年みなし規定」、第2に、パート労働者に所定外労働をさせるためには本人の同意を得ること、それの拒否を理由に不利益取り扱いをすることを禁止するとともに、契約労働者、パート労働者との雇用契約の際には労働条件の書面開示を義務付けた。前者の違反の際には2年以下の懲役または約100万円以下の罰金、後者の違反は50万円の過怠料が賦課される。第3に、2年を超えて派遣労働者を雇い続けた場合、直接雇用をしなければならず、その際、労働条件は同種・類似業務労働者がいる場合、それと同水準、いない場合派遣の時を下回ってはならない。第4に、契約社員、パート労働者、派遣社員の非正規労働者の従事する業務に新たな採用をするときには彼らを優先的に雇用すること、第5に、非正規労働者が当該事業所で類似・同種業務に従事している通常労働者に比べて非合理的な差別を受けた場合、その是正を労働委員会に申請することができる。その立証責任は使用者側にある。使用者が、正当な理由がないのに、労働委員会の是正命令に従わない場合、1,000万円の過怠料を賦課される。そして、第6に、労働委員会は差別是正の申請を受けた場合、原則60日以内に命令等の決定を下さなければならないというものであった。

関連法の施行に伴い、企業や公的機関は、2年契約満了を迎える労働者の約6割に対し、正社員転換か無期転換を行っている。特に、公的機関は、常時・持続的な業務についている労働者に対し、積極的に無期転換を行うとともに、処遇改善に積極的である。代表的なのはソウル市である。労働組合の一部は、無期転換の労働者をはじめ非正規労働者の組織化を積極的にすすめて、雇用の安定と処遇改善に取り組み、大きな成果を上げている。代表的な組織化対象労働者は、学校の非正規労働者、大学の清掃労働者、自治体の非正規労働者、ケーブル設置関係下請労働者、大手スーパー非正規労働者である。

以上の取組により、契約労働者を中心に非正規労働者の割合が下がり、また、無期契約転換者の雇用安定と処遇改善が図られるといった一定の成果が見られた。

中でも特に各論の、朴さんが執筆した「第 4 章 韓国における非正規労働者に対する「差別是正制度」について」と、徐さんが執筆した「第 5 章 K 銀行事件からみる韓国の期間制(有期)労働契約に関する法規制とその運用上の論点」と「第 6 章 H 自動車(U 工場)事件からみる韓国の労働者派遣問題」が、日本との関連で参考になります。

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協約自治と国家 by 山本陽大

JILPTのホームページ上のコラム「リサーチアイ」に、山本陽大さんが「協約自治と国家─ドイツにおける労働協約システムをめぐる最近の法政策から」を書いています。

http://www.jil.go.jp/researcheye/bn/009_150605.html

Yamamoto_y タイトルからわかるように、最近本ブログで紹介した報告書の内容を概説したものなので、、こちらにコピペはしません。長いものではないので、上のリンク先をざっと読んでもらえれば良いのですが、ここでは一つだけ。山本さんの写真が決めポーズになっていますな。

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労務理論学会第25回全国大会@茨城大学

ということで、本日、茨城大学で開かれた労務理論学会で「日本型雇用システムと労働法制のあり方を巡って」と題して特別講演をしました。

http://jalmonline.org/pdf/20150605_program.pdf

Roumu

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2015年6月 5日 (金)

『EUの連帯』

L29991 日本EU学会の年報35号『EUの連帯』(有斐閣)が出たようです。

http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641299917

共通論題として載っているのは、昨年11月8日に立正大学で開かれた第35回研究大会の報告3つのうち、わたくし以外のものです。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2014/11/eu35-e672.html

Eugakkai

なぜわたくしの報告が掲載されていないかは、上記エントリで既に述べているとおり、

本日の報告は、先月岡山大学で開かれた社会政策学会の共通論題で報告した中身とほぼ同じなので、社会政策学会誌に載せる関係上、日本EU学会誌には掲載いたしませんのでご了承願います。

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女性を雇うのは非効率、と信じ込む人事部の勘違い@ダイヤモンドオンライン

ダイヤモンドオンラインに、林恭子、君島朋子両氏による「女性を雇うのは非効率、と信じ込む人事部の勘違い」が掲載されています。

http://diamond.jp/articles/-/72710

冒頭、ドラマ再現映像みたいな叙述が続きますが、その後でなぜ日本の人事部が女性を雇うのは非効率と思ってしまうのかの腑分けがされます。

本ブログの読者にはいささか耳タコ的な記述ですが、ダイヤモンドの読者には少しは新鮮かも知れません。

・・・多くの日本企業で、正社員は残業するのがあたりまえであり、時間外に仕事が入っても対応することが期待されています。残業可能なことを前提に業務が設計されているので、残業できない者は同じ仕事を任せられなくなってしまいます。接待の慣習がある法人営業業務などはこの典型です。残業できない時短勤務の女性がいると他の皆と同じ業務が期待できず、「扱いに困る」ことになってしまうのです。

 また、多くの日本の職場では、個々人の職務分担はあいまいで部署やチーム単位でカバーし合うことが期待されています。そこで、休業や時短勤務を取る人の業務を同僚がカバーするしかない状態になっていることもあります。

 たとえ業務負担を被っていなくとも、周囲の正社員は、長時間労働や休日出勤、出張、転勤などに応ずることが期待されています。そこで、給与は時間見合いになっていたとしても、こうした私生活の変更を被らない人がいると、不公平だと感じてしまうのです。

 このように、今まで「1人」の人に期待していた業務量を分けねばならない、他の皆と同じ配置方針が合わない、いつでも仕事を優先するとは限らないといったことから、復帰した女性は「非効率」だと映るのでしょう。

 伝統的な日本企業では、時間当たりの生産性の代わりに、労働者「1人」という頭数あたりの仕事量が想定されていて、この「1人」には、業務の要求に応じて残業し、休日出勤や出張をこなし、辞令によって転勤することが期待されています。雇用制度も、会社の業務を最優先に考えて対応する人材を想定して作られています。

 伝統的な日本企業の雇用制度は、「男は仕事、女は家庭」という性別分業を前提に成り立ったものです。家事育児を負担しない人を想定するからこそ、企業は社員にどんな時にも仕事を最優先することを期待できるのです。こうした制度のもとでは、企業と従業員とは、職務の明確な定めのないメンバーシップ契約としての雇用契約を結び、「終身雇用」でこの契約が続きます。辞めさせることを想定しないので、業務が不要になったら別のことをしてもらえるようにしておかなければならず、転勤やローテーションが前提となります(※7)

 こうした雇用の仕組みが変わらないと、従来の「1人」への要求に応じられない育児を担う女性は「非効率」となってしまいます。

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2015年6月 4日 (木)

平成27年度 佐倉市国際文化大学講義日程表

平成27年度の佐倉市国際文化大学講義日程表がアップされています。

http://www.sief.jp/21/schedule-2015.html

これを見ると、テーマ自体がどれも結構「国際的」ですね。ロシア、イスラム、シリア、中南米、アメリカ、中国、アフリカ、トルコ、それに移民だ何だと。その中で、わたくしの「日本型雇用形態の課題と経済成長」てのは、かなりドメスティックなテーマの方ですね。

ちなみに、これは別に文科省所管のそういう大学があるわけではなく、「市民が国際的な視野で物事を考え、国際人として活動することができるように、平成2年(1990年)に開講」したものだそうです。

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大学を「職業教育学校」に?

今朝の読売新聞にかなり大きく出た記事ですが、

http://www.yomiuri.co.jp/politics/20150603-OYT1T50150.html?from=ytop_ylist (大学を「職業教育学校」に…19年度実施方針)

政府は、実践的な職業教育や技能訓練を行う高等教育機関として「職業教育学校」を設置する方針を固めた。

 高校卒業後の進学や、社会人の専門知識の習得を想定している。学校は新設せず、希望する既存の大学や短大などに職業教育学校へ転換してもらう考えだ。4日の政府の産業競争力会議(議長・安倍首相)で原案が示され、月内にまとめる成長戦略の柱とする。

 中央教育審議会で詳細を検討する。学校の種類などを定める学校教育法の改正など、必要な法整備を来年度中に行う。2019年度からの実施を目指す。

その今日の産業競争力会議に出された資料を見ると、

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/kadaibetu/dai7/siryou.html

総花的にいろいろな政策を並べた資料の一番最後の「⑧我が国の成長のための人材育成に貢献する高等教育への転換」のさらにほんの一項目として、まず「「職業実践力育成プログラム」認定制度の創設」が挙げられ、

○ 大学、大学院、短期大学及び高等専門学校における実践的・専門的なプログラムを文部科学大臣が認定し、高等教育における職業人養成機能を強化。

○ これにより、①社会人の学び直しの選択肢の可視化、②大学等における社会人や企業等のニーズに応じたプログラムの提供促進、③企業等の理解促進を図り、大学等において社会人が職業に必要な能力の向上を図る機会を拡大。

次に、「「実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関」の制度化」がさらりと。

産業界と協働して教育課程を実践する新たな高等教育機関を制度化(大学体系に位置付け、学位授与機関とすることを含めた検討)。

○ 社会経済の変化に伴う企業からの人材需要に即応した質の高い職業人養成の量的拡大。

○ 高等教育体系の多様化(高校生の進路選択肢の拡充)。

○ 社会人の学び直しに関する多様な機会の提供。

後者は、例の文科省の検討会議のとりまとめのごく簡単な要約です。

前者は、既存の大学の中に「職業実践力育成プログラム」を認定すると言うだけの話ですね。学校教育法上の大学の定義に「職業」という文字が入るような話なのかどうかはよくわかりません。

なんにせよ、同世代人口の過半数が職業とは関係のないアカデミックな世界に生きていくという壮大なフィクションを維持し続けることが不可能である以上、別段大騒ぎするような話でもないことは当然なのですが。

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グスタフ・ランダウアー『自治-協同社会宣言』

199779連合総研前副所長の龍井葉二さんより、グスタフ・ランダウアー『自治-協同社会宣言 社会主義への呼びかけ』(同時代社)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.doujidaisya.co.jp/book/b199779.html

貧困と隷属からの脱出を導くのは『資本論』ではない! いま鮮烈によみがえる100年前の呼びかけ!

この本、表紙にも奥付にも、著者ランダウア-と訳者の寺尾佐樹子さんの名前しか載っていませんが、おそらく本書のプロデュースは龍井さんでしょう。冒頭に、「本書使用上の注意」という解説を書かれていて、この100年以上昔にドイツで刊行された非マルクス主義の社会主義者(むしろプルードン主義者)の講演録の持つ今日的意義を熱っぽく説いています。

本書使用上の注意――龍井葉二

序文 第二版
第一版
 1 社会主義とは何か?
 2 没落から上昇への道のり
 3 精神を欠いた世界
 4 社会主義の本分と実際
 5 マルクス主義
 6 資本主義の先にある未来?
 7 共同体の再生
 8 共同精神・民衆・連合

 付録 社会主義同盟十二箇条
人名索引・解説

  訳者あとがき――寺尾佐樹子

本書の内容を一番端的に述べるとすると、「本書使用上の注意」で龍井さんが太字で書いている台詞になるのでしょう。

1 本書は今から100年ほど前にドイツで出版された講演録ですが、賞味期限は過ぎていません。「国家」「科学」「進歩」といった価値観に対して根本的な疑問を投げかけたこの呼びかけは、20世紀文明の限界が露呈している今こそ味読されるべき旬のものと言えます。

2 本書は、いまの社会のあり方に代わる手軽なビジョンを提示するものではありません。むしろ、私たちを縛っている発想法そのものの転換を促し、各人が「いま・ここ」から行動を開始することを呼びかけたものですので、、ご注意ください。

3 本書の原題は「社会主義への呼びかけ」ですが、私たちがなじんでいる社会主義とはかなり異なります。マルクス主義や科学的社会主義の信奉者には目眩などの副作用が生じるかもしれませんが、そのまま読み続けることをお薦めします。

3で言われている「目眩」は、多分5節の「マルクス主義」を読むとかなり感じるのでしょうね。「国家資本主義者マルクス」など、なかなか辛辣に批判しています。


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変容する労働市場下での転職 by 中村天江

Img_worksreview010_186_274もう一つ、リクルートワークス研究所の『Works Review Vol.10』から興味深い論文を紹介しておきます。 中村天江さんの「変容する労働市場下での転職」です。

http://www.works-i.com/pdf/150603_WR10_03.pdf

最後の総括のところの文章が大変わかりやすく意を尽くしているので、そのまま引用しておきます。

・・・研究を通じて得られた最も重要な示唆は2点である。第一に,メンバーシップ型からジョブ型に移行している途上にあるとはいえ,日本では,内部労働市場同様,転職時にも専門技能以外の対人的な適合や職場風土との相性を含むマッチングが重要だということである。これは,全人格的な職務遂行能力が求められる日本の内部労働市場の特性が(濱口 2013),転職時には外部労働市場にしみだしてきているといえよう。

第二に,その一方で,良好な転職につながりやすいのは,米国的な特質をもった環境への転職だということである。とりわけ重要なのは,特定技能の専門性を有していること以上に,転職先で果たすべき役割が明確なことである。[役割明確×専門職]や[役割明確×非専門職]のように,役割分担や業務範囲が明確な組織への参入はそうでない組織への参入よりも容易なことから,労働移動の円滑化を進めるためには,企業の人材マネジメントにおいて個人の守備範囲を明確にし,かつその役割期待をはっきりと伝えていくことが重要になる。

ここから、中村さんは3つの政策的含意を引き出します。ジョブとメンバーシップのどっちに転がりすぎても現実とずれてしまってうまくいかない日本における外部労働市場の発展の方向を的確に提示しているように思います。

労働移動を円滑化するために,本研究を通じて得られるインプリケーションは3つある。

第一は外部労働市場に対してである。外部労働市場はこれまで欧米を模して整備されてきたが,労働移動の円滑化を進めるにあたっては,日本的な,つまり,人間関係や職場風土との相性も含む転職支援を強化していく必要がある。中途採用では,一般にスキルや経験等の専門性にもとづくマッチングが有効だと考えられているが,研究を通じて,それに加えて上司や同僚,組織風土との相性を重視した転職支援が期待されることが明らかになった。

第二は,内部労働市場に対してである。日本的雇用慣行の本丸ともいえる内部労働市場で,中途採用をスムーズにするには,社員それぞれの役割を明確にすることが肝要である。転職者の入社後の活躍を促すには,仕事の守備範囲や役割分担の明確な環境のもとで,入社後に対人適合や組織価値観への共感を促進することが有効だろう。労働移動の円滑化に向けては,このように,企業がベースとして,転職者を受け入れやすい環境を整備していく必要がある。

第三は,外部労働市場から内部労働市場に参入するという,両者の境界に関してである。上司や同僚との相性が,入社後の評価や満足度の上昇に寄与するという結果から,とかく即戦力であることが期待されがちな中途採用であっても,入社後の上司との関係や同僚によるサポートの重要性が示唆される。このことは,わが国の転職支援においては,入職一時点だけでなく入社後の適応も含む,時間的な支援の延長が期待されるということに他ならない。

以上をまとめると,わが国で労働移動の円滑化を進めるためには,これまで欧米的に整備されてきた外部労働市場はより日本的に,これまで日本的な特徴を強くもっていた内部労働市場は欧米的に変容していく必要がある。さらに,これまで主流とされてきた専門性だけに依拠した即戦力という名の一時点のマッチングから,対人面を含む多面的なマッチングへの面の拡大と,入社後適応支援という支援の時間的延長という線の拡大が求められる。

労働市場の流動性が高まるわが国においては,中途採用のパラダイムを一段高いレベルのものに深化する時期に来ているといえよう。

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ジョブとメンバーシップと奴隷制(再掲)

いまだに「あらぬ流れ弾」を飛ばしている御仁がいるようなので、読者諸氏の頭の整理のために再掲。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2013/09/post-53fc.html(ジョブとメンバーシップと奴隷制)

世の中には、ジョブ型雇用を奴隷制だと言って非難する「世に倦む日々」氏(以下「ヨニウム」氏)のような人もいれば、

https://twitter.com/yoniumuhibi/status/283122128201609216

本田由紀とか湯浅誠とか、その亜流の連中が、そもそも正規労働を日本型雇用だと言ってバッシングし、正規雇用を非正規雇用の待遇に合わせる濱口桂一郎的な悪平準化を唱導している時代だからね。左派が自ら労働基準法の権利を破壊している。雇用の改善は純経済的論理では決まらない。政治で決まる問題。

https://twitter.com/yoniumuhibi/status/290737267151077376

資本制の資本-賃労働という生産関係は、どうしても古代の奴隷制の型を引き摺っている。本田由紀らが理想視する「ジョブ型」だが。70年代後半の日本経済は、今と較べればずいぶん民主的で、個々人や小集団の創意工夫が発揮されるKaizenの世界だった。創意工夫が生かされるほど経済は発展する。

それとは正反対に、メンバーシップ型雇用を奴隷制だと言って罵倒する池田信夫氏(以下「イケノブ」氏)のような人もいます。

http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51870815.html(「正社員」という奴隷制)

非正社員を5年雇ったら正社員(無期雇用)にしなければならないという厚労省の規制は、大学の非常勤講師などに差別と混乱をもたらしているが、厚労省(の天下り)はこれを「ジョブ型正社員」と呼んで推奨している

・・・つまりフーコーが指摘したように、欧米の企業は規律=訓練で統合された擬似的な軍隊であるのに対して、日本の正社員はメンバーシップ=長期的関係という「見えない鎖」でつながれた擬似的な奴隷制なのだ。

もちろん、奴隷制とは奴隷にいかなる法的人格も認めず取引の客体でしかないシステムですから、ジョブ型雇用にしろメンバーシップ型雇用にしろ、奴隷制そのものでないのは明らかですが、とはいえ、それぞれが奴隷制という情緒的な非難語でもって形容されることには、法制史的に見て一定の理由がないわけではありません。

著書では専門的すぎてあまりきちんと論じていない基礎法学的な問題を、せっかくですから少し解説しておきましょう。

近代的雇用契約の源流は、ローマ法における労務賃貸借(ロカティオ・オペラルム)とゲルマン法における忠勤契約(トロイエディーンストフェアトラーク)にあるといわれています。

労務賃貸借とは、奴隷所有者がその奴隷を「使って下さい」と貸し出すように、自己労務所有者がそれを「使って下さい」と貸し出すという法的構成で、その意味では奴隷制と連続的な面があります。しかし、いうまでもなく最大の違いは、奴隷制においては奴隷主と奴隷は全く分離しているのに対し、労務賃貸借においては同一人物の中に存在しているという点です。つまり、労働者は労務賃貸人という立場においては労務賃借人と全く対等の法的人格であって、取引主体としては(奴隷主)と同様、自由人であるわけです。

この発想が近代民法の原点であるナポレオン法典に盛り込まれ、近代日本民法も基本的にはその流れにあることは、拙著でも述べたとおりです。

このように労務賃貸借としての雇用契約は、法的形式としては奴隷制の正反対ですが、その実態は奴隷のやることとあまりかわらないこともありうるわけですが、少なくとも近代労働法は、その集団的労使関係法制においては、取引主体としての主体性を集団的に確保することを目指してきました。「労働は商品ではない」という言葉は、アメリカにおける労働組合法制の歴史を学べばわかるように、特別な商品だと主張しているのであって、商品性そのものを否定するような含意はなかったのです。

労務賃貸借を賃金奴隷制と非難していた人々が作り出した体制が、アジア的専制国家の総体的奴隷制に近いものになったことも、示唆的です。

一方、ゲルマンの忠勤契約は日本の中世、近世の奉公契約とよく似ていて、オットー・ブルンナー言うところの「大いなる家」のメンバーとして血縁はなくても家長に忠節を尽くす奉公人の世界です。家長の命じることは、どんな時でも(時間無限定)、どんなことでも(職務無限定)やる義務がありますが、その代わり「大いなる家」の一員として守られる。

その意味ではこれもやはり、取引の客体でしかないローマ的奴隷制とは正反対であって、人間扱いしているわけですが、労務賃貸借において最も重要であるところの取引主体としての主体性が、身分法的な形で制約されている。妻や子が家長の指揮監督下にある不完全な自由人であるのと同様に、不完全な自由人であるわけです。

ドイツでも近代民法はローマ法の発想が中核として作られましたが、ゲルマン的法思想が繰り返し主張されたことも周知の通りです。ただ、ナチス時代に指導者原理という名の下に過度に変形されたゲルマン的雇用関係が強制されたこともあり、戦後ドイツでは契約原理が強調されるのが一般的なようです。

日本の場合、近世以来の「奉公」の理念もありますが、むしろ戦時中の国家総動員体制と終戦直後のマルクス主義的労働運動の影響下で、「家長」よりもむしろ「家それ自体」の対等なメンバーシップを強調する雇用システムが大企業中心に発達しました。その意味では、中小零細企業の「家長ワンマン」型とはある意味で似ていながらかなり違うものでもあります。

以上を頭に置いた上で、上記ヨニウム氏とイケノブ氏の情緒的非難を見ると、それぞれにそう言いたくなる側面があるのは確かですが、そこだけ捕まえてひたすらに主張するとなるとバランスを欠いたものとなるということが理解されるでしょう。

ただ、ローマ法、西洋法制史、日本法制史といった基礎法学の教養をすべての人に要求するのもいかがなものかという気もしますし、こうして説明できる機会を与えてくれたという意味では、一定の意味も認められないわけではありません。

ただ、ヨニウム氏にせよ、イケノブ氏にせよ、いささか不思議なのは、理屈の上では主敵であるはずのそれぞれジョブ型そのものやメンバーシップ型そのものではなく、その間の「ほどほどのメンバーシップとほどほどのジョブ」(@本田由紀氏)からなる「ジョブ型正社員」に異常なまでの憎悪と敵愾心をみなぎらせているらしいことです。

 

そのメカニズムをあえて憶測すればこういうことでしょうか。

 

ヨニウム氏にとっては、(イケノブ氏が奴隷と見なす)メンバーシップ型こそが理想。

 

イケノブ氏にとっては、(ヨニウム氏が奴隷と見なす)ジョブ型こそが理想。

 

つまり、どちらも相手にとっての奴隷像こそが自分の理想像。

 

その理想の奴隷像を不完全化するような中途半端な「ジョブ型正社員」こそが、そのどちらにとっても最大の敵。

 

本田由紀さんや私が、一方からはジョブ型を理想化していると糾弾され、もう一方からはメンバーシップ型を美化していると糾弾されるのは、もちろん人の議論の理路を理解できない糾弾者のおつむの程度の指標でもありますが、それとともに理解することを受け付けようとしないイデオロギー的な認知的不協和のしからしむるところなのでもありましょう。

あらぬ流れ弾が飛んでこないように(いや、既に飛んできていますが)せいぜい気をつけましょうね。

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上司の不適切な仕事の振り方が部署の業績や部下の成長に与える影響

リクルートワークス研究所の『Works Review Vol.10』にいろんな論文が載っていますが、タイトルに目をひきつけられたのがこれです。

http://www.works-i.com/research/works-review/r010.html

http://www.works-i.com/pdf/150603_WR10_10.pdf(上司の不適切な仕事の振り方が部署の業績や部下の成長に与える影響 by 萩原牧子)

本稿では,「些末なことにこだわり仕事量を増やす」「部下に思いつきの仕事を指示する」といった一見すると不適切に思える上司の仕事の振り方が,部署の業績や部下の成長に与える影響について検証した。分析の結果,単独ではマイナスの効果となるこれらの仕事の振り方は,上司のふだんの指導タイプ(PM の組み合わせ)と組み合わさると,そのマイナスの効果がほとんど見出されないことが明らかになった。不適切な仕事を振ることによる効果は,上司のふだんの指導タイプによって再解釈される可能性がある。

「些末なことにこだわり仕事量を増やす」「部下に思いつきの仕事を指示する」ような困ったちゃん管理職がいると、当然組織や部下に悪影響を与えるはずだと思われるのですがそうでもない、と。

その理由について、最後のところでこう推測していますが、

これは,不適切な仕事の振り方をされても,部下がふだんの上司の指示の在り方に従って仕事を進めることで,不適切な仕事の指示でも再解釈や方向転換がなされるのかもしれない。

自分の職場のだれかれを思い浮かべながら、確かにそうだよなあ、と思う人も多いかもしれませんが、しかし、ここで忘れられているのは組織や部下への悪影響の有無よりはむしろ、当該その上司への悪影響ではないでしょうか。

つまり、「些末なことにこだわり仕事量を増やす」「部下に思いつきの仕事を指示する」ような本来間違った、悪影響が出て本人の指導力が適切に批判されなければならないにもかかわらず、それが結果的にうまくいってしまうことで、当該その上司やその上司を評価するさらに上のクラスの人々が、当該その上司の指示が適切であったと認識してしまい、その認識が維持されたまま、当該その上司がさらに上位に昇進してしまい、そこでも同じように、「些末なことにこだわり仕事量を増やす」「部下に思いつきの仕事を指示する」やり方をし続けながらも、同じように「部下がふだんの上司の指示の在り方に従って仕事を進めることで,不適切な仕事の指示でも再解釈や方向転換がなされ」ることで、そのやり方が修正されることがないままきてしまい、終にトップに上り詰めてしまう・・・・・・ということもありうるわけです。

そうなったころに、当該その上司が日本的なおみこしではだめだ、欧米型のトップダウンでなくちゃ、と妙に意気込んで、中身は同じままリーダーシップを発揮しだしたりしたら、結構目も当てられない状況になったりするかもしれません。

日本的な「変な指示はやりすごし」ながら、部下が適切に再解釈や方向転換することを通じて結果的にうまくやっていくという絶妙なフレクシビリティの持つ、見えにくい弊害がここにあるような気がします。

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2015年6月 2日 (火)

6年前に書かれているにも関わらず、今なお内容が古くなっていないと言うのはむしろ悲劇

読書メーターに拙著『新しい労働社会』の再読書評が。

http://bookmeter.com/cmt/47649786balthazar

1310391459889134009635年ぐらい前に読んだ本の再読。最初読んだ時には内容をあまり良くわかっていなかったことを改めて痛感。日本の雇用形態が著者の言うメンバーシップ制であるゆえに不安定な非正規雇用や雇用保険などの社会保障の不全など様々な問題をもたらしていることが良く理解できる。そしてその改革が中々難しいことも。6年前に書かれているにも関わらず、今なお内容が古くなっていないと言うのはむしろ悲劇。もういい加減にこの著者の問題意識を共有して改革への端緒を付けようよ。

「6年前に書かれているにも関わらず、今なお内容が古くなっていないと言うのはむしろ悲劇」というのは、褒め殺しならぬ貶し殺しの賛辞として有り難く頂きます。

(追記)

も一つ載りました。

http://bookmeter.com/cmt/47751614 (ぷはは)

まだ少し自分には難しかったようだ。労働法や給与体系の知識が乏しすぎる以前に、こういう労働関係の用語が頻出する文章自体に慣れていないため、普段読んでる本の3倍くらいの時間がかかる。もう少ししたらまた挑戦することにしたいが、ともかくは流し読み。あと、『自由への問い⑥労働』の掲載論文でかなりの部分が重なるので、そちらを参照。または著者のブログ等を活用するのがよかろう。

ついでに、他の諸著についても読書メーターに新たな短評が。

http://bookmeter.com/cmt/47709212sam

112483コンパクトな新書ながら、日本の雇用の歴史、現在に至る問題点、そして労働関係法令と判例を盛り込まれており。非正規化という雇用の流動化=漂流化が進んでいる現在日本の労働問題を考える入門書として最適である。

http://bookmeter.com/cmt/47709869sam

Chuko「日本の雇用と労働法」に続いて「若者」の雇用問題をテーマにした著書。若者の「就職」=「入社」を切口に日本的な労使関係の課題が浮き彫りされている。著者はジョブ型社会(同一労働同一賃金)に向けた政策提案をしており、それに対する経営側の動きは分析されているが、経営側に対抗すべき労働組合(連合)側がどのように考えているかが触れられていない。恐らく、正社員組合の連合体である連合にはそうした政策提案は実質的にないということなのだろう。

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2015年6月 1日 (月)

『現代先進諸国の労働協約システム―フランスの企業別協約』

HosokawaJILPTの細川良研究員による『現代先進諸国の労働協約システム―フランスの企業別協約』がアップされました。

http://www.jil.go.jp/institute/reports/2015/0178.html

前の『現代先進諸国の労働協約システム―ドイツ・フランスの産業別協約(フランス編』に引き続き、企業別協約について詳しく検討しています。

下に要約を転記しておきますが、政府が立法によってしゃかりきに進めようとしている割にはそれほどにはなっていないというところでしょうか。

1.フランスにおいては、歴史的に労使当事者の間での対話の伝統が存在せず、法律による規律が非常に強かったという点があげられる。このことは、労働組合の組織力の脆弱性による側面も大きく作用しており、現実に、フランスにおいては1968年以前においては、企業内に組合支部を設置することができない状況にあった。1968年以前においても、企業レベルでの交渉は国営企業(および大企業)を中心に存在してはいたものの、それはあくまでも従業員代表者との協議であって、そこで締結される協定は、法律上の労働協約としての性質を有するものではなかった。
2.フランスにおける企業レベルでの交渉は、法律による交渉事項の義務付けという手法を通じて活性化の途をたどることとなった。すなわち、1982年のオルー法は、賃金、労働時間等の基本的な労働条件について、年次交渉事項として毎年の交渉を義務付ける制度を確立し、これを契機として企業レベルでの交渉および協定の締結は大幅に増加することとなった。現に1980年代前半においては年に5,000件ほどしか存在しなかった企業別協定は、現在では35,000から40,000件にまで増加している。このように、立法政策の支援のもとで、企業レベルでの交渉および協定の締結の活性化がなされてきたということが、フランスにおける企業レベルでの交渉および協定についての重要な特徴の1つである。
3.フランスにおける伝統的な有利原則を前提に、企業別協定は、法律および「職業の法」としての産業別協約による規範を前提に、これに労働条件の上積みをすることがその基本的な機能として予定されている。他方、1980~90年代における経済状況、賃金決定の個別化の進展と言った要因により、従来は個別の労働条件決定に対して一定の直接的な影響力を有していた、産業レベルでの交渉および協約の役割が、労働条件の最低基準の確保としての色彩をより強くしていき、企業レベルでの交渉が十分に機能するだけの労使交渉の基盤を有する企業‐すなわち、労働組合が企業内に十分な組織的基盤を有している、主として大企業‐においては、産業レベルの交渉および協約によって定められる条件を大きく上回る労働条件が、企業レベルでの交渉および協定によって定められていくこととなった。
4.2004年にフィヨン法による有利原則の廃止が行なわれたものの、同法によってその可能性が大幅に拡大された(一般的に可能となった)、企業別協定による産業別協約の適用除外制度は、実際にはあまり使われていないのが実情である。その背景には、フランスにおける企業レベルの交渉は、一部の大企業を除き、あくまでもオルー法以降の立法政策による、義務的交渉事項を中心とした立法政策の主導のもとで拡大したものであって、企業レベルにおける労使の自治的な対話は、それほど拡大していないことが要因であることが指摘できる。他方で、このような労使対話の基盤が確立している(巨)大企業にあっては、そもそも産業別労働協約が定める(最低条件としての)基準とは大きく異なる労働条件が、フィヨン法の以前から企業レベルでの交渉および協定を通じて決定される状況が既に確立している。結果、適用除外交渉が可能となるような労使の基盤が存在する大企業にあっても、適用除外協定の締結そのものが必要とされない状況が形成されている。かくして、2004年法による適用除外制度の拡大による有利原則の撤廃は、産業別最低賃金等の公序に属する事項についての例外規定という立法的な手当、また閉鎖条項による適用除外協定の封印という手法とあわせ、法律および産業別労働協約を中心とした、労働条件の最低基準の確保という観点からの、フランスの伝統的は規範設定システムを覆す状況はもたらすものとはなっていないといえる。
5.もっとも、フランスにおいても産業レベルの労使、産業レベルでの交渉および協約の影響が、徐々に低下している状況自体は存在している。
すなわち、まず上述した大企業を中心とした2004年法以前からの企業レベルの交渉および協定による(主として賃金についての)労働条件決定の確立は、裏返せば、労働条件の一部についてとはいえ、もはや産業レベルでの交渉および協定が、これらの企業および労働者にとっては、強い影響力を及ぼすことができなくなっているという事実を示していることになる。また、その結果としての産業内における大企業の労動者と中小規模の企業の労働者との労働条件の格差の拡大は、労使双方における組織内の利害対立を生み出すこととなり、産業レベルでの交渉の機能を低下させる危険性をはらんでいる。

6.最後に、労働条件決定以外の領域における企業内における決定権限の拡大という点を指摘する必要がある。すなわち、近年、企業委員会等の従業員代表機関が果たす役割が、伝統的に認められてきた福利厚生に関する事項にとどまらず、企業の経営状況に関するさまざまな情報提供、協議の実施という機能を果たすようになってきている。
企業委員会等の委員の選出のプロセスから、その多くは企業内組合支部の組合員によって占められているのが実態であり、従業員代表期間が労働組合(企業内組合支部)にその役割を取って代わるということは、通常は想定されにくい。しかし、こうした企業委員会等の権限の拡大によって、企業内における重要な経営・決定事項に関する企業内組合の役割が拡大されることとなり、そのことは結果として産業レベルの労使、および彼らによる交渉のプレゼンスを相対的に引き下げる可能性は想定されるところである。

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