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2015年6月 4日 (木)

変容する労働市場下での転職 by 中村天江

Img_worksreview010_186_274もう一つ、リクルートワークス研究所の『Works Review Vol.10』から興味深い論文を紹介しておきます。 中村天江さんの「変容する労働市場下での転職」です。

http://www.works-i.com/pdf/150603_WR10_03.pdf

最後の総括のところの文章が大変わかりやすく意を尽くしているので、そのまま引用しておきます。

・・・研究を通じて得られた最も重要な示唆は2点である。第一に,メンバーシップ型からジョブ型に移行している途上にあるとはいえ,日本では,内部労働市場同様,転職時にも専門技能以外の対人的な適合や職場風土との相性を含むマッチングが重要だということである。これは,全人格的な職務遂行能力が求められる日本の内部労働市場の特性が(濱口 2013),転職時には外部労働市場にしみだしてきているといえよう。

第二に,その一方で,良好な転職につながりやすいのは,米国的な特質をもった環境への転職だということである。とりわけ重要なのは,特定技能の専門性を有していること以上に,転職先で果たすべき役割が明確なことである。[役割明確×専門職]や[役割明確×非専門職]のように,役割分担や業務範囲が明確な組織への参入はそうでない組織への参入よりも容易なことから,労働移動の円滑化を進めるためには,企業の人材マネジメントにおいて個人の守備範囲を明確にし,かつその役割期待をはっきりと伝えていくことが重要になる。

ここから、中村さんは3つの政策的含意を引き出します。ジョブとメンバーシップのどっちに転がりすぎても現実とずれてしまってうまくいかない日本における外部労働市場の発展の方向を的確に提示しているように思います。

労働移動を円滑化するために,本研究を通じて得られるインプリケーションは3つある。

第一は外部労働市場に対してである。外部労働市場はこれまで欧米を模して整備されてきたが,労働移動の円滑化を進めるにあたっては,日本的な,つまり,人間関係や職場風土との相性も含む転職支援を強化していく必要がある。中途採用では,一般にスキルや経験等の専門性にもとづくマッチングが有効だと考えられているが,研究を通じて,それに加えて上司や同僚,組織風土との相性を重視した転職支援が期待されることが明らかになった。

第二は,内部労働市場に対してである。日本的雇用慣行の本丸ともいえる内部労働市場で,中途採用をスムーズにするには,社員それぞれの役割を明確にすることが肝要である。転職者の入社後の活躍を促すには,仕事の守備範囲や役割分担の明確な環境のもとで,入社後に対人適合や組織価値観への共感を促進することが有効だろう。労働移動の円滑化に向けては,このように,企業がベースとして,転職者を受け入れやすい環境を整備していく必要がある。

第三は,外部労働市場から内部労働市場に参入するという,両者の境界に関してである。上司や同僚との相性が,入社後の評価や満足度の上昇に寄与するという結果から,とかく即戦力であることが期待されがちな中途採用であっても,入社後の上司との関係や同僚によるサポートの重要性が示唆される。このことは,わが国の転職支援においては,入職一時点だけでなく入社後の適応も含む,時間的な支援の延長が期待されるということに他ならない。

以上をまとめると,わが国で労働移動の円滑化を進めるためには,これまで欧米的に整備されてきた外部労働市場はより日本的に,これまで日本的な特徴を強くもっていた内部労働市場は欧米的に変容していく必要がある。さらに,これまで主流とされてきた専門性だけに依拠した即戦力という名の一時点のマッチングから,対人面を含む多面的なマッチングへの面の拡大と,入社後適応支援という支援の時間的延長という線の拡大が求められる。

労働市場の流動性が高まるわが国においては,中途採用のパラダイムを一段高いレベルのものに深化する時期に来ているといえよう。

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