フォト
2024年2月
        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29    
無料ブログはココログ

« 『ニューリーダー』2015年6月号 | トップページ | 反トラスト法のビューティフルなマインド? »

2015年5月30日 (土)

『企業・事業所レベルにおける集団的労使関係システム(ドイツ編)』

Yamamoto JILPTの山本陽大研究員による報告書『企業・事業所レベルにおける集団的労使関係システム(ドイツ編)』がアップされました。

http://www.jil.go.jp/institute/reports/2015/0177.html

前の『現代先進諸国の労働協約システム―ドイツ・フランスの産業別協約(ドイツ編』に引き続き、事業所協定と企業別労働協約について詳しく検討しています。

下に要約を転記しておきますが、事業所協定についても、企業別労働協約についても、喧伝されるほどの「分権化」についてはやや否定的な認識が示されています。

本報告書には、もう一つ、近年のドイツの法政策の動きについてのかなり詳しい解説が載っています。法定最低賃金、一般的拘束力制度、そして先日本ブログでも取り上げた協約単一原則の立法化といったトピックが取り上げられていて、大変勉強になります。

Ⅰ.ドイツにおける事業所内労使関係システムの現状

まず本報告書の第一章においては、ドイツにおける事業所内労使関係を支える事業所組織法上の規制内容について概観したうえで、かかる労使関係の担い手であるところの事業所委員会(Betriebsrat)の組織運営、事業所内労働条件決定、および産別協約が定める開放条項の利用の実態について、筆者が2013年の7月および9月にヒアリング調査を行った、金属電機産業に属するC社A事業所およびD社B事業所における事業所委員会を採り上げ、検討を行った。

(1)事業所組織法に基づく事業所委員会の労働条件規整権限

それによればまず、ドイツの二元的労使関係システムのもとでは、事業所内の民主的選挙手続に基づく従業員代表機関である事業所委員会に対しても、事業所組織法に基づいて共同決定権が付与され、労働関係に対する規範設定(集団的労働条件決定)を行うことが可能となっている。特に、事業所内秩序や労働時間の配分等のいわゆる社会的事項(事業所組織法87条1項)に関する規整に関しては、事業所委員会には同意権としての共同決定権が付与され、使用者と完全に同権的な地位に位置付けられており、かかる事項については、使用者は一方的な決定を行うことはできないこととされている。そのうえで、共同決定の対象事項について、使用者と事業所委員会との間で合意に至った場合には、事業所協定が締結され、かかる事業所協定は当該事業所に属する全ての労働者に対して、規範的効力をもって適用されることとなっている。

(2)労働組合との関係

もっとも、ドイツにおいては憲法上(基本法9条3項)、労働組合こそが労働者代表の中心に位置付けられていることから、事業所委員会が労働組合、特に産業別労働組合の企業横断的な労働条件規整力を侵食することのないよう、事業所組織法上も労働組合が事業所委員会に対して優位に位置付けられている。このことを最も端的に示しているのが事業所組織法77条3項1文が定める「協約優位原則(Tarifvorrangsprinzip)」である。かかる原則により、ドイツにおいては、現に労働協約によって規整されている労働条件、あるいは協約で規整されるのが通常となっている労働条件については、事業所協定の対象とすることができない。事業所協定によって、事業所レベルで、協約規整とは異なる柔軟な労働条件規整を行うことが可能となるのは、産別協約が開放条項(Öffenungsklausel)を置くことで、これを許容している場合に限られている。また、このほかにも事業所組織法上、事業所委員会の活動に対しては、労働組合の様々な支援や監督のための権限が認められている。

(3)企業内組合支部的役割を果たす事業所委員会

このことからも分かるように、ドイツにおいては、労働者の自発的加入意思に基づく団結体である労働組合と、事業所内民主的選挙手続に基づいて強制的に当該事業所における全労働者を代表する事業所委員会とでは、法的にはその性格を完全に峻別されている。もっとも、伝統的なドイツ二元的労使関係のもとでは、両者は非常に協調的関係にあることは、日本においても早くから紹介されてきた。すなわち、従来から事業所委員会の委員はその大多数が産別組合の組合員でもあり、また、比較的大規模な事業所においては産別組合の職場委員(Vertauensleute)が活動しており、事業所委員会の決定を各職場の労働者に伝達し、また逆に職場の声を吸い上げ事業所委員会に伝達する役割を担っている。このように、事業所委員会は従来、その実態としては産別組合の企業内組合支部的役割を果たしてきたといえる。

(4)事業所委員会および事業所内労働条件規整の実態‐ヒアリング調査から

そしてまた、筆者がヒアリング調査を行ったC社A事業所およびD社B事業所では、かかるドイツ二元的労使関係の基本構造が、現在なお維持されていた。すなわち、これらの事業所においては、組合組織率が比較的高く、また事業所委員会委員も大多数が組合員であり、更にその下で、産別組合に所属する多数の職場委員が、事業所委員会をサポートするという、産別組合と事業所委員会の非常に緊密な関係を看て取ることができた。

そのうえで、C社A事業所およびD社B事業所における事業所内労働条件決定の実態をみるに、基本的労働条件を一括して規定している各事業所の就業規則によれば、賃金額や週所定労働時間等の実質的労働条件については、産別協約による規整に依拠しつつ、他方で事業所内秩序等、共同決定権の対象となっている社会的事項については、同就業規則中で詳細な規範設定が行われており、協約によって規制されるべき事項と、事業所協定によって規制されるべき事項の役割分担が、上記・2つの事業所においては、まずは就業規則をもって明確に区別されていることが明らかとなった。

(5)柔軟な労働条件規整の実態-ヒアリング調査から

また、本研究の目的の1つには、特に協約政策の柱となる賃金および労働時間に関して、ドイツにおける事業所内労使当事者が上記でみた産別協約上の開放条項を利用しているのか否か、利用しているとすればそれに基づいてどのように柔軟な労働条件規整を行っているのかを検証することにあったわけであるが、この点に関するC社A事業所およびD社B事業所における各事業所委員会委員へのヒアリングによれば、いずれの事業所においても、開放条項は「利用していない。」との回答であった。もっとも、企業・事業所レベルでの柔軟な労働条件規整が全く行われていないわけではなく、C社A事業所・D社B事業所のいずれにおいても、労働時間(特に、週所定労働時間の延長)に関しては、産別協約とは異なる規整が行われていた。

しかし、それはあくまで開放条項を利用したものではなく、産別レベルの労使当事者たる産別組合および使用者団体が、C社およびD社に適用対象を限定して、産別協約上の労働時間規整を変更するという、“補充的労働協約(Ergänzungstarifvertrag)”の締結によって行われているものであった。かかる方法による柔軟な労働条件規整は、事業所委員会および使用者が開放条項を利用してこれを行うよりも、産別組合および使用者団体自身が締結当事者となるぶん、産別レベルからの強いコントロールが及んでいるものと解される。

なお、C社A事業所およびD社B事業所では利用されていなかったが、両事業所に適用されている金属電機産業バーデン-ヴュルテンベルク協約地域の産別協約は、賃金の額自体に関しても、事業所レベルでの柔軟な規整を行うことを認める規定を置いている。しかし、ここでもやはり逸脱のツールとしては、上記の補充的労働協約をもって行うこととされており、事業所委員会と使用者のみによって、産別協約上の規整から逸脱することはできないこととなっている。

このようにみてゆくと、確かにドイツにおいては、賃金および労働時間の領域につき、産別協約上の規定のみに拠っているわけではなく、企業・事業所レベルでの柔軟な労働条件規整という現象は生じてはいる。しかし、少なくとも、産別組合および使用者団体の手を全く離れて、事業所内労使当事者の判断のみによってこれを行うことは、現実的には困難な実態があるように思われる。とりわけ、上記でみたような補充的労働協約を用いる場合には、規整権限自体はなお産別レベルの労使当事者が保持し続けているのであるから、このような形でのドイツにおける労働条件規整の柔軟化という現象は、「分権化(Dezentralisierung)」という用語をもって表現するには必ずしも適切ではなく、むしろ産別労使当事者による労働条件規整の「個別企業・事業所化」と表現したほうが、実態をより的確に示しているといえよう。

Ⅱ.ドイツにおける企業別労働協約をめぐる法理論と実態

続いて、第二章では、ドイツにおける企業別労働協約に対し、法理論と実態の両側面から検討を行った。

(1)企業別労働協約をめぐる法理論

この点につき、まず法理論的側面についていえば、通説および判例の立場によれば、ドイツにおいて個別使用者は、社会的実力(sozial Mächtigkeit)の有無、使用者団体への加盟の有無、および加盟使用者団体の規約中における企業別協約締結禁止条項の有無に関わらず、労働組合と企業別協約を締結する能力(協約締結能力〔Tariffähigkeit〕)が認められている。また、労働組合側は、使用者団体と締結している産別協約から生じる相対的平和義務に抵触しない限りにおいて、使用者団体に加盟している個別使用者に対しても、企業別協約の締結を求めて争議行為を行うことが可能となっている。ましてや、個別使用者が使用者団体に加盟していない場合に、これが可能であることはいうまでもない。それゆえ、ドイツにおいては、労働組合が個別使用者と企業別協約を締結するに際しては、特段の法律上の制約は無いと評価されてよい。

(2)分権化のツールとしての企業別労働協約?‐ヒアリング調査から

そのうえで、実態に目を向けると、ドイツにおいてはまず、フォルクス・ワーゲンに代表される幾つかの大規模企業において、伝統的に企業別協約が用いられてきた。もっとも、そこでは産別協約よりも有利な労働条件規整が行われるのが通常であるから、産別協約の企業横断的な労働条件規整力を危殆化させるような意味での分権化現象はそこでは見受けられない。

他方で、ドイツにおいては1990年以降、従業員数200~499人程度で、使用者団体に加盟していない、あるいは使用者団体を脱退した中規模企業が、産別組合と企業別協約を締結する例が増加しており、こちらは確かに、従来のドイツ集団的労使関係システムには見られなかった変化ではある。とはいえ、筆者のヒアリング調査による限り、そこで締結される企業別協約は、実態としてそのほとんどが承認協約(Anerkennungstarifvertrag)なのであって、産別協約が定める内容から大幅に逸脱する形で労働条件規整を行うツールとして機能しているわけではない。従って、従来に比べ、現在のドイツにおいては企業別協約を用いた労働条件規整権限の分権化現象が進んでいると評価するとしても、このような形での分権化は、あくまで産別組合によって「コントロールされた分権化(kontrolierte Dezentralisierung)」と表現すべきものである点には注意を要しよう。

このようにみると、ドイツにおいて今後、企業別協約により、産別レベルでの労使当事者がこれまで保持してきた労働条件規整権限が掘り崩されていくのかという問題については、現時点では否定的に応答しておくのが適切といえる。

Ⅲ.ドイツにおける集団的労使関係をめぐる法政策上の動向

最後に、第三章では、2013年11月にキリスト教民主社会同盟(CDU/CSU)と社会民主党(SPD)との間で締結された連立協定に基づき、現在、第三次メルケル政権下で推し進められている、ドイツの集団的労使関係をめぐる各法政策につき、検討を行った。

(1)法定最低賃金制度の施行

かかる法政策としてまず挙げられるのが、2014年8月11日の協約自治強化法(Gesetzs zur Stärkung der Tarifautonomie)に基づいて、2015年1月1日から施行されている最低賃金法(Mindestlohngesetz)である。同法は、ドイツにおいて初めての全国一律に適用される法定最低賃金制度を規定するものであり、これによって2015年1月1日以降、ドイツにおいて労働者を雇用する全ての使用者は、法定された最低賃金額(2016年12月31日までは、1時間当たり8.50ユーロ)以上の賃金の支払いを義務付けられている。かつてのドイツにおいて、二元的労使関係システムのもと産別協約が広く労働者をカバーしてきた時代にあっては、このような法定最低賃金制度は不要とされてきたが、1990年以降に始まる産別組合および使用者団体の組織率の低下や、「協約が適用されないメンバー資格(OTメンバー)」を選択する企業の増加等を受けて、産別協約の適用率が著しく低下し、低賃金で就労する労働者層が増加したことが、かかる最低賃金法制定の背景となっている。

(2)一般的拘束力宣言制度の改正

また同じく、2014年8月11日の協約自治強化法により、一般的拘束力宣言制度を定める労働協約法5条が改正され、これまでよりも実体的要件が緩和された。具体的には、従来の50%基準要件が廃止され、「公共の利益にとって必要と思慮される場合」という広範な要件へと変更されている。周知の通り、従来、一般的拘束力宣言制度が適切に機能してきたことが、ドイツの産別協約が高い適用率を維持してきた一因であったが、上記でみたように、使用者団体の組織率が低下し、またOTメンバー企業が増加するなかで、これまでの50%基準要件を充たすことができない場面が増えたことが、かかる改正の背景となっている。

(3)協約単一原則の立法化

更に、ドイツにおいては2014年12月に、これまで判例法であった「協約単一(Tarifeinheit)原則」を立法化するための法案が閣議決定されている。これは、1つの事業所において複数の労働組合により締結された複数の労働協約が競合している場合(「協約衝突(Tarifkollision)」現象)に、当該事業所において、これらの協約のうち労働者の多数に適用されている協約のみを適用することとし、それ以外の協約の適用を排除しようとするものである。

この点につき、従来ドイツにおいては、労働組合のナショナル・センターであるドイツ労働総同盟(DGB)の産業別組織原則(Industrieverbandsprinzip)ゆえに、1つの産業を管轄する労働組合は1つに限定されてきたため、労働組合間での対立は回避されてきた。しかし、2000年以降になると、パイロットや機関士、医師など特定の専門職に就く労働者が専門職労働組合(Spartengewerkschaften)を結成し、独自の協約政策を展開する動きがみられるようになったことで、上記のような協約衝突現象が生じうることとなった。また、連邦労働裁判所も2010年以降になると1事業所における複数協約状態を認めるようになったため、産別労使団体はこれまでに協約単一原則を立法化すべきことを強く求めてきたわけであるが、かかる要求が、このたび連立協定中に明記されたことで、実現の運びとなりつつある。また、かかる協約単一原則の立法化は、同時に専門職労働組合が行う争議行為の適法性にも波及するであろうことが予想されている。

(4)ドイツ集団的労使関係法政策をめぐる2つの方向性

このようにみると、これらの法政策のうち一般的拘束力宣言制度の改正および協約単一原則の立法化は、伝統的なドイツの協約システムに対する国家の「支援」としての方向性を有するが、法定最低賃金制度の導入は、(協約自治強化の名の下に行われているのであるが)国家による「介入」としての方向性をも有する。従って、今後、協約自治保障(基本法9条3項)と法定最低賃金制度の関係につき、理論的な整序がドイツにおいては求められているといえる。

Ⅳ.まとめ

以上を要するに、本研究の目的に対応させていえば、筆者のヒアリング調査による限り、現代ドイツにおける集団的労使関係システム全体のなかでは、労働条件規整の柔軟化という現象は、「個別企業・事業所化」の範囲に留まるか、あるいは「分権化」によるものであるとしても、その際にはあくまで産別組合によるコントロールが及んでいるものであるため、産別レベルでの労働条件規整権限にとり、さほどに深刻な問題とは捉えられてはいないようである。しかし、その一方でドイツにおいてはそもそも労働協約や事業所協定による保護の範囲外にある層が年々増大しており、筆者がヒアリングを行った労使団体および研究者のいずれにおいても、むしろこちらのほうがシリアスなテーマとして問題視されていた。それゆえに、現在の第三次メルケル政権下においては、国家が、これまで労働協約が担ってきた労働条件の最低基準設定機能を一部を引き受けるとともに、協約システム自体に対しても積極的なサポートに乗り出している状況にあるというのが、ドイツ集団的労使関係(法制)をめぐる現状となっている。

« 『ニューリーダー』2015年6月号 | トップページ | 反トラスト法のビューティフルなマインド? »

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

« 『ニューリーダー』2015年6月号 | トップページ | 反トラスト法のビューティフルなマインド? »