ドイツ鉄道:大規模スト、労働法改正に抵抗か の背景
毎日新聞が大変興味深い記事を載せています。まず、何が真の問題なのかを的確に報じている点を褒めたい。
http://mainichi.jp/select/news/20150520k0000e030224000c.html
【ベルリン中西啓介】ドイツ国内最大の鉄道会社ドイツ鉄道で、断続的にストライキが行われている。ストは「今世紀最長」とされた今月5〜10日に続いて20日未明から再開し、数日間続く見込みだ。今週末の連休を前に利用客の不満は頂点に達している。
「皆さん、運転士たちを責めないでほしい」。ドイツ鉄道の運転士らで作る労組GDLのベーゼルスキー委員長は18日、新たなストを予告する記者会見で理解を求めた。10日までのストでベルリンでは、東京の山手線や中央線に相当する主要鉄道網が運休・減便し、大混乱となった。独公共放送ARDはストにより1日ごとに1億ユーロ(約134億円)の経済的損失が出ていると伝えた。
新たなストは25日まで続く予定。23日から3連休の独国内ではツアー旅行やイベントが企画されており、会社側は「利用者に対する嫌がらせだ」と憤る。
表面的には賃金など労働条件を巡る争いだが、GDLの強硬策の背景には政府による労働関連法改正への焦りがある。改正法が成立すれば、企業は最大労組と締結した労働協約のみを有効とすることができる。改正は7月上旬にも行われる見通しで、ドイツ鉄道労組で2位のGDLは実質的な交渉が難しくなる。「会社は法改正まで交渉を先延ばしにする気だ」と言うGDLの訴えからは、法改正前に存在感を示したい思惑が垣間見える。
ドイツでは5月に入り郵便事業会社の集配所でストがあり、一部の保育園や幼稚園でも無期限ストが続いている。だが、鉄道ストとは違い、社会的評価向上などを求める保育士らのストには賛同の声が向けられている。
ガブリエル副首相は独紙ビルト日曜版(17日付)でGDLのストを「賃金や労働条件を求めるものではなく権力闘争だ」と強い調子で非難。独メディアも委員長の手法を強く批判している。
そんなの当たり前だろう、って?
いやいや、安易に
http://www.sankei.com/world/news/150519/wor1505190004-n1.html
賃金など労働条件をめぐるドイツ鉄道との交渉に進展がないとして、同国の運転士労働組合は18日、旅客列車の大規模ストライキを20日午前2時(日本時間午前9時)から再開すると発表した。ドイツのメディアが伝えた。
同労組は今月5~10日にかけ、6日間にわたるストを実施したばかり。このストはドイツ経済に7億5000万ユーロ(約1020億円)の損害を与えたとの試算もある。
同労組はストの期間は「前回より長い」として、終了時期は明らかにしなかった。貨物列車のストは19日午後3時から開始する。(共同)
無考えにこう報じるだけの記事もあるわけで。「賃金や労働条件を求めるものではなく権力闘争だ」と副首相が言っていることが大変重要なのですよ。
でも、毎日の記事は、正確ではあるけれど、ドイツの労働協約法制の動向を相当詳しくわかっていないと、何のことやらよくわからないでしょうね。
記事中にある「改正法が成立すれば、企業は最大労組と締結した労働協約のみを有効とすることができる」というのがポイントです。
ただ、これだけでは勘違いしてしまうかもしれません。実は、ドイツではごく最近、2010年まで、まさに「企業は最大労組と締結した労働協約のみを有効」であったのです。これは協約単一性原則と言って、判例法理で確立していました。
それが、2010年の判決でひっくり返され、それこそ鉄道の運転士だけの組合とか、航空のパイロットだけの組合といった職種別組合の職種別協約が可能となったのです。
協約単一性原則の上に成り立ってきた巨大産別とナショナルセンターの側から見ると、これはゆゆしい問題で、判決でひっくり返された協約単一性原則を今度は立法で再確立しようというのが、記事に書かれている「政府による労働関連法改正」なんですね。
そしてこの立法への動きは、DGBの声に基づいて社民党が連立交渉でメルケル首相に要求したものなので、だから社民党の党首であるガブリエル副首相が「賃金や労働条件を求めるものではなく権力闘争だ」と強い調子で非難」しているわけです。
ここまで話を腑分けすると、毎日新聞の記事がよくわかるのではないでしょうか。
(高齢者の中には、その昔、交渉単位制のあった頃の国鉄で、機労(後の動労)が単独行動に走っていたことを思い出す方もいるかもしれません)
(追記)
上記私の説明ではようわからんとお思いの方は、金属労協の機関誌『JCM』2015年春号に、JILPTの山本陽大さんが「第三次メルケル政権下におけるドイツ労働法政策の動向」という論文を寄稿していますので、それをご覧ください。
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