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2015年4月

2015年4月30日 (木)

小林美希『ルポ保育崩壊』

26719555_1 小林美希さんの新著『ルポ保育崩壊』(岩波新書)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.iwanami.co.jp/hensyu/sin/sin_kkn/kkn1504/sin_k825.html

時間内に食べ終えるのが至上命題の食事風景。燃え尽き症候群に襲われる保育士たちや親との会話も禁じられた“ヘルプ”(アルバイトや派遣)のスタッフたち。ひたすら利益追求に汲々とする企業立保育所の経営陣……。空前の保育士不足の中、知られざる厳しい現状を余すところなく描き出し、「保育の質」の低下に警鐘を鳴らす。

いままで非正社員の若者、正社員の若者、看護の現場、職場流産、マタハラの現場・・・と、労働と福祉にまたがってルポを書き続けてきた小林美希さんが、保育の現場に切り込んだ本です。

まえがき

第1章 保育の現場は、今

地獄絵図のような光景/エプロン・テーブルクロス/「ほいくえん、いや。せんせい、こわい」/失われる生活の質/3週間、お散歩ゼロ/転園して赤ちゃん返り/オムツかぶれ/保護者の立場の弱さ/密閉状態の中で/定員オーバーの公立保育所/この保育所に預けて良いものか/怖くて入れられない/子どもの代弁者になれるのは誰か

第2章 保育士が足りない!?

いきなり1歳児の担任に/ひたすら慌ただしい毎日/安全を保つのがやっと/「もう、これは保育ではない」/“ブラック保育園”/そして、「潜在保育士」に/子どもを産めない/保育士に多い“職場流産”/恐ろしくて働けない/看護師からみた保育所/公立の保育士まで非正規化/非常勤は保護者と話すな/複雑化するシフト/園長にとっても“悲惨な職場”/元園長でも時給850円

第3章 経営は成り立つのか

徹底したコスト削減/狙われる人件費/いかに儲けるか/管理、管理、管理/空前の保育士不足/人材集めの実際/人手不足が何をもたらすか/正社員ゼロの保育所/17人中採用は8人/認可外保育所の経営実態は/役所に踊らされる

第4章 共働き時代の保育

共働き世帯が増加するなかで/「働かなければ育てられない」のループ/病児、障がい児保育の少なさ/保育は親へのサービスか/認定こども園の実際/大きすぎる文化の違い/秋に出産して悩む母たち/園児に母乳は贅沢なのか/母乳の知識

第5章 改めて保育の意味を考える

人気取りの待機児童解消/消費税バーターというやり方/新制度は始まったが/補助金の構造問題/OECDは、規制を強化すべき/声をあげる現場/基盤は保育士のワーク・ライフ・バランス/改めて保育の意味を考える/子どもといることの楽しさ

あとがき

保育の質が劣化しつつあるという話と、保育士の労働環境が劣化しつつあるという話とが絡み合いながら、保育のあるべき姿を問いかけていきます。

版元のHPに、小林さん自身のメッセージが載っていますので、ちょっと長めですが、ここに引用しておきます。

S1542a_2「ここに子どもを預けていて、大丈夫なのだろうか」

 待機児童が多い中で狭き門をくぐりぬけて保育所が決まっても、自分の子どもが通う保育所に不安を覚え、一安心とはいかない現実がある。

 それもそのはずだ。ふと保育の現場に目を向ければ、親と別れて泣いている子どもが放置され、あやしてももらえないでいる。食事の時にはただの作業のように「はい、はい」と、口いっぱいにご飯を詰め込まれ、時間内に食べ終わるのが至上主義のように「早く食べて」と睨まれる。楽しいはずの公園に出かける時は「早く、早く」と急かされる。室内で遊んでいても、「そっちに行かないで」と柵の中で囲われ、狭いところでしか遊ばせてもらえない。「背中ぺったん」「壁にぺったん」と、聞こえは可愛いが、まるで軍隊のように規律に従わされる子どもたち。

 いつしか、表情は乏しくなり、大人から注意を受けたと思うと、機械的に「ごめんなさい」と口にするようになっていく――。ここに子どもの人権は存在するのか。

 当然、子どもの表情は乏しくなっていく。その異変に気付いた親は、眉根を寄せて考えるしかない。特に母親ほど「この子のために、仕事を辞めた方がいいのではないか」と切迫した気持ちになる。

 保育所に子どもを預けるだけでなく、女性の場合は特に妊娠中からさまざまなハードルを乗り越えての就業継続となる。妊娠の報告をする際に、まず「すみません」と謝る職場環境のなか、4人に1人は「マタニティ・ハラスメント(マタハラ)」に逢っている。やっとの思いで保育所が決まって復帰しても、安心できない。これでは、まるで「子どもが心配なら家で(母親が)みろ」と言わんばかりの環境ではないか。筆者の問題の出発点はそこにある。保育が貧困なことで、女性の就労が断たれる現実がある。

 保育所の見方は立場によって変わる。働く側から見た保育所という職場はどうか。

 筆者は機会あるごとに保育士の労働問題に触れてきたが、このように保育の質が低下しているのは、待機児童の解消ばかりに目が向き、両輪であるはずの保育の質、その根幹となる保育士の労働条件が二の次、三の次となっているからだ。

 保育所で働いている保育士は、約40万人いる一方で、保育士の免許を持ちながら実際には保育士として働いていない「潜在保育士」は、約60万人にも上る。その多くは、仕事に対する賃金が見合わない、業務が多すぎることを理由に辞めている。

 特に、株式会社の参入は保育の質の低下を著しくしたのではないか。これまで保育の公共性の高さから社会福祉法人が民間保育を担ってきたが、2000年に株式会社の参入が解禁され、その影響は大きい。その直後に発足した小泉純一郎政権は、雇用だけでなく保育の規制緩和も次々と推し進めていたのだ。そのことで、現在の親世代の雇用は崩壊し、生まれた子どもたちの保育は崩壊しつつあるという、親子で危機的な状況にさらされている現状がある。国の未来を左右する子どもの保育の予算は、国家予算のなかで国と地方を合わせてもたった0.5%ほどしかない。

 2015年度から、「子ども・子育て支援新制度」が始まり、保育所の仕組みががらりと変わった。政府は特に「認定こども園」を推進するが、本当に利用者や働く側に立った制度なのか。

 どの保育所であっても、教育を受けて現場でも経験を積み、プロとしての保育を実践できなければ、運・不運で親子の一生が左右されかねない。その状況を変えるためにも、今、保育所で起こっている問題を直視し、周囲の大人に何ができるかを考えたい。

 保育士も親子も笑顔で過ごすことができるように。

2015年4月29日 (水)

野川忍・山川隆一・荒木尚志・渡邉絹子編著『変貌する雇用・就労モデルと労働法の課題』

4785722760 野川忍・山川隆一・荒木尚志・渡邉絹子編著『変貌する雇用・就労モデルと労働法の課題』(商事法務)をお送りいただきました。ありがとうございます。

https://www.shojihomu.co.jp/publication?publicationId=1040836

「法務」という実務的な見地も踏まえつつ、現在の理論状況と実務における状況を明らかにしたうえで、労働者像の再構築と雇用モデルの合理的再構築という観点から、法的・実務的問題点を検討し、今後の展望を試みる論文集。

編者の筆頭に野川さんの名前が出てきますし、冒頭の「序論-問題の所在」という大論文を野川さん自身が書かれていますが、この大冊、野川さんの還暦記念論文集なんですね。

第1章 序論─問題の所在

第2章 労働者像の変化と法政策のあり方

第3章 労働者概念をめぐる法的課題

第4章 正規・非正規の区別と実務的・理論的課題

第5章 有期労働契約と新たな法規制

第6章 パートタイム労働者

第7章 派遣労働者

第8章 高齢者雇用

第9章 障害者雇用

第10章 労災補償と労働者

版元の目次には残念ながら執筆者が載っていませんが、それこそ錚々たる方々が名を連ねています。特に、この手の記念論集では同じ法律学者かせいぜい弁護士が執筆者を占めることが多いのですが、本書では経済学者や労使実務家が執筆に参加しており、野川さんの活動の広がりを感じさせます。

経済学者からは、鶴光太郎さんと安藤至大さん。これはいかにもという感じです。

労使実務家からは、いわずとしれた労務屋こと荻野勝彦さんは別格として、連合OBの熊谷謙一さんと富士通の三宅龍哉さんが参加しており、とりわけ後者は(この手の還暦記念論集ではなかなか読めないような)大変興味深い論文になっています。

三宅さんは1980年に富士通に入社以来30余年間、人事と人材育成を担当してきた、ミスター富士通人事とも言うべき方で、1990年代に大きな話題になった富士通の成果主義について、今日の視点から振り返り、実におもむきのある指摘を多々されています。一行一行が面白いのですが、この台詞はなるほど、というのは、「部下が何をしているかわからない」というパラグラフです。

パソコンとインターネットを使えば、ほとんどの業務を行うことができるため、社員は1日中パソコンに向かって「何か」をしていることになった。以前であれば、電話での会話や、担当者の打ち合わせの様子を通じて、管理職は何が起きているのかを把握することができたが、今ではアウトプットを作成するのも、関係者と連絡を取るのも、情報収集も、作業の外形からは区別ができなくなった。時に業務外のことをしていてもわからないこともある。加えて、オフィススペースの効率化のため、いわゆるフリーアドレスとするところも多く、管理職は部下の状況を把握することに従前以上の労力を要することになった。

あと、三宅さんの論文で、日本と外国の人事管理のあり方を粘土の塊とレゴのブロックにたとえているところも、いかにもという感じです。

・・・これは、日本の人員管理があたかも粘土で壺を作るようなもので、作りかけの壺に粘土の塊が追加される(職場に人員が追加される)と壺全体に粘土が練り込まれて一回り大きな壺ができる(職場のメンバー全員で仕事を再配分する)のに例えることができる。これに対して非日本的な人事管理はレゴブロックでカップを作るようなもので、ブロックの1ピースを与えられても、今あるブロックと入れ替える以外、カップの原形を保つことはできない。

これが問題を生むのは、日本人を海外拠点に派遣したり、逆に海外から社員を日本に派遣するときで、粘土のかけらを追加して練り込む感覚では、誰のジョブを任せるか、入れ替えた人の次のジョブをどうするかが不明で納得できず、やってられないということになるわけです。グローバルな実務に当たっているからこそ感じるところでしょう。

なお、労務屋こと荻野さんの論文については、既に御自分のブログで紹介されています。

http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20150417#p1

ただまあ私が入稿してからさらに10か月が経過しておりますのでさらなる強者がいらっしゃったものと想像します(笑)

たしかに、いくつかの論文には、「2014年4月脱稿」とわざわざ明記してありますね。

2015年4月28日 (火)

本日は国際労働者祈念日

本日、4月28日は国際労働者祈念日(International Workers’ Memorial Day)です。ご存じでしたか?

http://www.etuc.org/international-workers-memorial-day-28-april-2015

実は3年前にも、同じようなエントリを書いたことがありますが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/04/workers-memoria.html(本日は労働者祈念日(Workers’ Memorial Day))

その時と同様、連合は関心がなさそうです。明日は5月じゃないけどメーデーですし。

しかし、この日本では、労災で命を落とした労働者たちに心からの慰霊をされる方がいらっしゃいます。天皇陛下です。去る4月16日、

http://www.yomiuri.co.jp/national/20150416-OYT1T50127.html(両陛下、労災で亡くなった人たちを慰霊)

0150416at37_t天皇、皇后両陛下は16日、東京都八王子市の「高尾みころも霊堂」を訪問された。

霊堂には、戦後、労働災害で亡くなった約24万8000人が合祀されており、戦後70年に当たり、高度経済成長を支えた人々を慰霊したいという両陛下の意向があったという。

天皇陛下は皇太子時代を含めると今まで5回もみころも霊堂を訪れておられます。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2009/03/post-bd5c.html(両陛下、産業殉職者をご慰霊)

八代尚宏『日本的雇用慣行を打ち破れ』

04221737_55375de2b49b2 八代尚宏さんから新著『日本的雇用慣行を打ち破れ―働き方改革の進め方―』(日本経済新聞出版社)をお送りいただきました。

http://www.nikkeibookvideo.com/item-detail/35632/

解雇をめぐる規制、年齢の差別、労働時間規制や女性・外国人雇用をどう考えるべきか? 誰にとっても働きやすい、自由で自立した働き方の仕組みとは? 少子高齢化、低成長、グローバル化時代の雇用の姿を提示する。

八代さんが過去十数年口を酸っぱくして言い続けてきたことを、再三再四にわたって繰り返し説いている本であり、その内容はほとんど変わりがありませんが、一方で日本的雇用慣行の説明ぶりに、少しずつ違いも見られます。

特に、p44あたりからの「無限定な働き方のリスク」などでは、それが職務の定めのない雇用契約であることからもたらされるものであるということを繰り返し述べています。

第1章 日本の労働市場の何が問題か

第2章 効率的な労働時間規制へ

第3章 女性の管理職比率30%をどう実現するか

第4章 「年齢差別」からの解放

第5章 解雇ルールの明確化で「労・労対立」を防ぐ

第6章 不安定雇用を助長する労働者派遣法

第7章 労働契約法の正しい活用を

第8章 外国人労働者の活用

第9章 日本的雇用慣行の相互補完性:なぜ「岩盤規制」なのか

終 章 人事部の改革はなぜ必要か

どれも八代さんが繰り返し説いてきたことであるので、ほとんどつっかえずに読み進められますが、一点、気になったのは、第8章の外国人労働者のところです。p238あたりの記述は、どうも2009年入管法改正前の研修・技能実習制度時代の記述をそのまま持ってきているような節があり、今回の技能実習法案の文脈がやや理解されていない感があります。

いずれにしても、一部の物事がよくわかっていない規制緩和派の人々と違って、日本の雇用に「岩盤」なるものがあるとすればそれは六法全書に書かれているものではなく、企業の人事部が日々行っていることにこそあるという重要な真実を、きちんと踏まえた上で論を進めているという点において、ある種のいい加減な人々の本とは違って、労働問題を真剣に考える人々が真摯に読むべき本であることだけは間違いありません。

2015年4月27日 (月)

中窪裕也・野田進『労働法の世界〔第11版〕』

L14478中窪裕也・野田進『労働法の世界〔第11版〕』(有斐閣)をお送りいただきました。いつもありがとうございます。

http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641144781

ほぼ2年おきの改訂で初版から21年になります。まさに、

日々変化する「労働法の世界」の実像に迫る教科書。最新の法状況や判例・学説の展開を反映,労働法の基本構造の転換と発展のダイナミズムを,確かな座標軸をもって描き出す。多彩なコラムも必読。時を重ね,世紀を超えて進化・発展をつづける,ロングセラー。

ですが、改訂のたびに本文に加え、コラムが少しずつ入れ替わっていることもお気づきでしょうか。今回で言えば、募集・採用の章の末尾に「ブラック企業」というコラムが入っています。

労働基準行政や職業安定行政の取組について語った後、

・・・しかし、若者の方も、企業の言いなりにならず、しっかりと抵抗する力を身につけて欲しい。そして、何よりも、仕事を通じていかに社会に関わるかという課題意識を持ち、企業の不当な人事制度や業務命令に左右されることのない力量を培うことが重要であろう。

と述べています。

また、「債権法改正と労働法」というコラムでは、最後の台詞として

・・・債権法改正のスローガンであった「契約による社会」の実現は、労働法の領域では実現は難しそうである。

と、やや皮肉めいた諦めの言葉が語られています。


2015年4月24日 (金)

「EUの新たな就業形態」@『労基旬報』2015年4月25日号

『労基旬報』2015年4月25日号に「EUの新たな就業形態」を寄稿しました。

  労働問題における「新たな就業形態」という言葉自体が既に数十年来の歴史を経てきており、全然新しくはありませんが、同じタイトルがついているからといっていつまでも同じ内容であるわけではないというのも、また世の習いかも知れません。伝統的な「新たな就業形態」といえば、フルタイムに対するパートタイム、常用に対する有期、そして直接雇用に対する派遣という三点セットであるわけですが、これら3類型に対して既にEU指令で一定の規制を課してきているEUにおいて、もう一段新しい「新たな就業形態」が注目されつつあるようです。
 EUの労働問題のシンクタンクである欧州生活労働条件改善財団(ダブリン財団)が2015年3月12日に公表した『新たな就業形態(New forms of employment)』という報告書は、近年欧州諸国で拡大しつつある9種類ものより新たな就業形態を一つ一つ細かく分析し、今後の行方を検討していて、日本にとっても大変参考になります。ここでは紙幅の関係でごく簡単にしか紹介できませんが、詳しく知りたい方は、是非、
http://www.eurofound.europa.eu/publications/report/2015/working-conditions-labour-market/new-forms-of-employment
に全文アップされている報告書をご覧ください。
 本報告書が示している新たな就業形態とは次のようなものです。
・従業員シェアリング:企業が同じ従業員をシェアするという意味です。ある個別労働者がさまざまな企業の人材ニーズに対応するために、使用者集団によって共同に雇用され、それらを合わせると労働者にとっては常用フルタイム雇用になるという仕組みです。共同雇用といっても出向とか派遣とかではなく、ある労働者の時間の異なるパートタイム労働を複数の企業が分け合うということですね。
・ジョブシェアリング:こちらは以前から有名ですが、使用者が特定の職務(ジョブ)を遂行するために複数の労働者を雇用し、複数のパートタイム労働者を組み合わせてフルタイムのジョブになるという仕組みです。日本では職務(ジョブ)の感覚が希薄なので、ワークシェアリングと区別がつきにくいのですが、複数の労働者が一つのジョブをシェアするということです。
・臨時派遣経営者(interim manegement):インテリムというのは仏語圏で派遣労働のことですが、特定のプロジェクトや特定の問題を解決するために高度専門的な経営管理者を派遣するというビジネスです。これにより、企業組織の中に外部の経営能力を統合することができるようになります。
・カジュアル労働:これは、特定の労働時間を定めず、使用者の呼び出しに応じて労働する契約(「オンコール労働」)であり、呼び出しがなければ労働時間がゼロ時間ということもありうるので「ゼロ時間労働」とも呼ばれます。使用者にとっては常時遂行すべき業務を提供する必要がなく、その間賃金を払う必要がないので究極のフレクシビリティと言えます。その点では個人請負に限りなく近いのですが、その労働内容そのものは指揮命令下の雇用労働であるという点で、請負でもないのです。
・ICTベースのモバイル労働:これは日本でも近年話題になっていますが、情報通信技術を駆使して、いつでもどこでも職務を遂行するというものです。スマートフォンやタブレットの普及は全世界共通ですから、労働を時間的空間的な枠組みの中で考えることが次第に困難になってきつつあるという現象も、やはり全世界共通なのでしょう。
・バウチャーベースの労働:日本では一時教育バウチャーが話題になりましたが、EUでは福祉関係で注目されているようです。料金や社会保険料をカバーする公的機関が発行した福祉バウチャーによって個々の福祉サービスが提供されるのですが、そのケア労働者の雇用関係がバウチャーによる支払いに基づいているという仕組みです。日本でいえば、看護婦家政婦紹介所の仕組みでは各家庭が使用者になるのと同じで、それをバウチャー制で公的に担保しているのですね。
・ポートフォリオ労働:こちらは雇用労働ではなく自営業ないしフリーランスで、多数の顧客のために一つ一つは小規模の労働を提供するという仕組みです。
・クラウド労働:オンラインのプラットフォーム上で使用者と労働者をマッチさせるものですが、とりわけ非常に大きなタスクを細かく分けてお互いにネット上でしか知らない「バーチャル・クラウド」の労働者に配分するという点に着目してクラウド労働と呼ばれています。
・協同労働:これはフリーランスや自営業者、零細業者などが、協同して大規模な事業を遂行するというもので、協同組合という形をとることもあります。
 本報告書はそれぞれについて、その特徴を解説した上で、労働条件への含意や労働市場への含意を検討しています。既に日本でも目につくようになっている形態もあれば、そうでないものもありますが、将来の労働法政策を考えていく上で、こういった就業形態への目配りはますます重要となってくることは間違いないでしょう。

NPO法人 あったかサポート 第10回総会記念シンポジウム テーマ「労働・教育・福祉の一体化に 向けた政策課題を探る」

Kyoto

『ジュリスト』5月号は「労働審判10年」特集

L20150529305 『ジュリスト』5月号は「労働審判10年」を特集しています。

http://www.yuhikaku.co.jp/jurist/detail/019353

大物クラスによる座談会と中堅クラスによる座談会の2連発が目玉ですが、竹内寿さんや私の小論もあります。

【特集】労働審判10年――実績から見る成果と課題

◇個別労働紛争解決システムにおける労働審判制度●山川隆一……14

◇[座談会]労働審判創設10年――労働審判制度の評価と課題●菅野和夫●佐々木宗啓●品田幸男●水口洋介●和田一郎……19

◇現場から見た労働審判の10年●山川隆一●及川 彰●平井洋行●村上陽子●山中庸右……43

◇労働審判事例の分析●竹内(奥野) 寿……62

◇これからの個別労働紛争の解決システムのあり方●濱口桂一郎……68

2015年4月23日 (木)

山川隆一・水口洋介・浅井隆ほか『ローヤリング労働事件』

41zz7mxqnyl__sy344_bo1204203200_山川隆一・水口洋介・浅井隆ほか『ローヤリング労働事件』(労働開発研究会)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.roudou-kk.co.jp/news/3001/

「ローヤリング」という言葉は、本来、弁護士が実務において行っている活動の内容を指すものであるが、この言葉は、新人弁護士の研修や法科大学院等での教育などにおいて提供される科目を指す用語として用いられることも多い。本書は、労働紛争の解決・予防に当たり、この分野に経験の深い弁護士がどのように活動しているか、また、どのような点に留意すべきかという、前者の意味におけるローヤリングの実態を紹介するものである。またそれを通じて、この分野での活躍を志す弁護士等のローヤリング・スキルの開発の一助となること、すなわち、後者の意味におけるローヤリングの役割を果たすことを目指すものである。

ということですが、下記目次を見れば分かるように、さまざまな労働紛争解決システムの、労使双方から見た解説という本でもあります。

序 章 労働事件におけるローヤリングの意義と全体像~本書の活用のために 山川隆一
第1章 訴訟・仮処分~使用者側の立場から 浅井 隆
第2章 訴訟・仮処分~労働者側の立場から 井上幸夫
第3章 労働審判~使用者側の立場から 丸尾拓養
第4章 労働審判~労働者側の立場から 鴨田哲郎
第5章 和解(裁判手続きにおいて)~使用者側の立場から 石井妙子
第6章 和解~労働者側の立場から 水口洋介
第7章 不当労働行為の審査 八代徹也
第8章 労働委員会による不当労働行為の救済 宮里邦雄
第9章 個別労働紛争解決制度と簡易裁判所の民事調停 高仲幸雄
第10章 相談・受任(法的手段の選択を含む)~労働者側の立場から 君和田伸仁
第11章 交渉(個別紛争)・団体交渉~使用者側の立場から 伊藤昌毅
第12章 交渉(個別紛争)・団体交渉~労働者側の立場から 棗 一郎
第13章 顧問弁護士の活動について 木下潮音
第14章 使用者側の相談業務 沢崎敦一
第15章 労基署対応~使用者側の立場から 小山博章
第16章 労基署対応~労働者側の立場から 森井利和
第17章 企業倒産時の労働弁護士の役割 徳住堅治

ご覧の通りの錚々たる顔ぶれが、具体的に何をどのように書いて出していくのか、手続を進めていくのかを手取り足取り的に詳しく説明しています。


2015年4月22日 (水)

KDDI労組が11時間の勤務間インターバルを獲得

今春闘、もちろんお金の話が注目を集めていますが、お金以外の要求で妥結に至った事項の中に、注目に値するものがあります。

情報労連所属のKDDI労組が、安全衛生規定として、11時間の勤務間インターバルの導入で妥結したそうです。KDDI労組のフェイスブックから:

https://www.facebook.com/KDDIWU/posts/807900719279780

KDDI労組は、2015春闘における総合労働条件の改善として「11時間の勤務間インターバルの導入」を掲げて取り組みを進めた結果、安全衛生に関する規定として11時間の勤務間インターバルを導入をすることで妥結し、現在、7月からの制度導入に向けて労使で準備を進めています。

これはすばらしい実績ですね。今まで情報労連傘下の幾つかの組合が勤務間インターバルを導入していたとは言っても、正直小さいところばかりで、大企業でどーんと出ないかなと思っていましたが、ようやくNTT労組に続く大手企業で勤務間インターバルが実現したわけです。

まずはめでたし。

(参考)

http://homepage3.nifty.com/hamachan/jinjijitsumu0915.html(「勤務間インターバル規制とは何か?」『人事実務』2010年9月15日号 )

はじめに
 
 2009年春闘と2010年春闘において、情報労連は勤務間インターバル規制の導入に向けた取組を行い、同傘下の通建連合(全国情報・通信・設備建設労働組合連合会)は、いくつもの加盟組合において実際に勤務間インターバル規制を盛り込んだ協定の締結に至った。昨年7月刊行の拙著『新しい労働社会』(43頁)でもその意義を述べたが、本稿ではその具体的な取り組み経過と制度の内容を紹介し、その考え方の源流であるEUにおける休息期間規制について解説を加えたい。
 
1 情報労連傘下組合の締結した勤務間インターバル協定

2 EU労働時間指令における休息期間規制

3 日本の労働時間法制における休息期間規制

4 今後の展望

2015年4月20日 (月)

欧州で増加する、新たなタイプの“カジュアル労働”

WEB労政時報に、「欧州で増加する、新たなタイプの“カジュアル労働”」を寄稿しました。

http://www.rosei.jp/readers-taiken/hr/article.php?entry_no=375

 最近、EUでは新たなタイプの“カジュアル労働”が注目されています。EUの労働問題のシンクタンクである欧州生活労働条件改善財団(ダブリン財団)が2015年3月12日に公表した『新たな就業形態(New forms of employment)』という報告書は、近年欧州諸国で拡大しつつある9種類ものより新たな就業形態を一つ一つ細かく分析し、今後の行方を検討していて、日本にとっても大変参考になります。ここではスペースの関係でごく簡単にしか紹介できませんが、詳しく知りたい方は、是非、以下リンク先で全文アップされている報告書をご覧ください。

※欧州生活労働条件改善財団(EUROFOUND)「New forms of employment」⇒リンクはこちら

http://www.eurofound.europa.eu/publications/report/2015/working-conditions-labour-market/new-forms-of-employment

 典型的なのが「ゼロ時間契約」ともいわれる「呼び出し労働(オンコール・ワーク)」で、近年EU諸国で増加しつつあります。これは、使用者と労働者の間の・・・・・・・

2015年4月19日 (日)

映画「鳥の道を越えて」

Eiga 本日、下高井戸シネマで上映された映画「鳥の道を越えて」を見てきました。

http://www.torinomichi.com/

祖父が指さした山の向こうには、

失われた鳥猟の世界がありました。

禁猟後67年を経て、鳥と人間の関係を改めて見つめ直すドキュメンタリー

何も知らなかった孫がおじいさんの言葉を頼りに訪ね歩いた鳥捕りの歴史が少しずつ剥がされていくさまは、淡々と描かれているだけになかなかスリリングです。

今日は今井監督のトークもあり、映画の中では語られませんでしたが、両親に言ったらそんなもの調べるのは止めろとしかられたというエピソードも語っておられて、映画後半で示された密猟の歴史のトラウマが結構生きていることもわかります。

ついこの間まであった、しかし若い世代にはもう伝えられなくなりつつあるひとつの歴史が、さりげない筆致で描かれた秀作です。

で、この映画とは全く何の関係もないのですが、「鳥捕りのおじさん」が出てくるこの音楽を帰り道思い出していました。冨田勲の「銀河鉄道の夜」です。

2015年4月18日 (土)

アベノミクスの第三の矢こそ日本経済を再生させる鍵@OECD

OECDの対日審査報告書が公表され、日本語版の概要も出されています。

http://www.oecd.org/eco/surveys/Japan-2015-overview.pdf (英文概要)

http://www.oecd.org/eco/surveys/Japan-2015-overview-Japanese-version.pdf (日本語版概要)

が、マスコミ向けのこの和文プレス資料が端的でわかりやすいでしょう。

http://www.oecd.org/tokyo/newsroom/abenomics-third-arrow-key-to-revitalising-japans-economy-oecd-says-japanese-version.htmアベノミクスの第三の矢こそ日本経済を再生させる鍵

・・・OECDは、特に日本の少子高齢化と縮小する労働力を考えると、今後の成長を開放する鍵は生産性向上であると強調しています。日本の労働生産性は驚くほど低く、OECD加盟国上位半分の平均と比べ25%も低いというのが現状です。これは、日本の中・高等教育のレベルの高さやR&D支出の高さに反しており驚くべきデータです。この事態を解消するには、R&D投資からのリターンを上げること、そのためにはイノベーション・エコシステムの改善が必要となります。さらに、そのためには、より良いコーポレート・ガバナンス、製品市場規制の削減、雇用市場の流動性向上といったことが必要となります。

人口高齢化に直面する日本は、全ての労働力を活用すべきです。女性の労働市場参加率は、依然として男性より20%低く、OECDの中でも最も男女格差の大きい国の一つとなっています。報告書によると、女性の労働参加率が男性のそれに2030年までに見合うレベルになれば、現在予測されている労働供給の下落を劇的に抑えることが可能で、更に経済成長を加速化させます。

・・・・・・さらに、本報告書は、労働市場の二極化への対応や公的社会支出の対象の絞込み(低所得者に対する給付つき税額控除による所得保障など)を提言しています。これにより、貧困撲滅や社会一体性を進めることができます。必要である財政再建の取り組みは、このような社会の課題も含めて検討されるべきです。

この女性活用について、和文概要のやや詳しい説明を引いておきます。

人口減に直面する中で労働力を維持する 日本再興戦略における主な改革のうちの2つ、つまり女性の労働参加及び登用の促進と 海外の優秀な人材を引きつけることは、労働力の減少を抑制するだろう。15 歳から 64 歳の生産 年齢人口はすでに年 100 万人以上減少しており、2030 年までに 17%、2050 年までに 40%近く減 少すると見込まれている。高齢者に対する生産年齢人口の比率は、2013 年の 2.5 から 2050 年に は 1.3 にまで急減し、OECD 諸国の中で最低を維持すると見られている。日本はすでに労働力不 足に直面している。労働力人口の減少を緩和するため、男女平等の推進が必要である。男性の労 働参加率は 85%と女性よりも 20%ポイント高い水準にある。もし女性の労働参加率が 2030 年ま で男性の労働参加率と同レベルに追いつけば、労働供給の減少は5%に留められ(図5)、労働 参加率に変化がなかった場合に比べ GDP は約 20%高まるだろう。2011 年の時点で、大卒率が 25 歳から 34 歳の男性 55%に対し、女性は 63%であることを考えると、男女間の不均衡は大きな機 会損失となっている。

雇用における男女間格差は、出産後労働市場に残る女性が 38%に過ぎないという事実に 表れている。日本は子育てや学童保育に対する支出(対 GDP 比)がスウェーデンや英国の3分 の1に過ぎない(ただし、支出を増やすためには税もしくは社会保険料収入が必要)。母親が仕 事を行いやすくするため、日本再興戦略は保育所を 2018 年3月までに 40 万人分、2020 年3月 までに学童保育を 30 万人分増やすことにしている。子育て支援策の拡充により、2013 年に 1.4 に過ぎない合計特殊出生率が高まるかもしれない(D’Addio and Mira d’Ercole, 2005)。 その他にも、 以下の改革が求められる。i) 家計における二人目の稼得者の就業意思決定に中立となるように税 及び給付制度を改革すべきである、ⅱ) 長時間労働の文化を変え、ワーク・ライフ・バランスを 改善する必要がある(図6)。実際、日本の「より良い暮らし指標」によると、日本の ワー ク・ライフ・バランスは OECD 諸国の中で最低水準にあり、これが日本の低出生率の原因とな っている。

さらに、男女間の賃金格差は賃金の中央値で 27%あり、OECD 諸国で3番目に大きく、 女性の就業意欲を削いでいる。女性の取締役は、ノルウェーの 36%、フランス、フィンランド の約 30%、カナダやアメリカの約 20%に対し、日本は 2.1%に過ぎない。2014 年時点で女性は中 央政府の管理職の 3.3%に過ぎず、地方政府における管理職の7%より更に少ない。政府は 2020 年までに「指導的」な位置にある女性が3割を占めるという 2003 年の目標を達成しようとし、 上場企業に女性幹部の人数を開示するよう求めている。男女間の賃金格差は、労働市場の二極化 とも密接に関連している。男性の7割が正社員であるのに対し、女性の7割は相対的に低賃金の 非正規労働者であり、高い教育を受けた女性の機会を限定している。実際、生産年齢人口の女性 全体の就業率(63%)は OECD 諸国の平均(58%)よりも高いにもかかわらず、大卒女性の就業 率は 2013 年に OECD 諸国の中で3番目に低くなっている。

相当にしつこくこの問題を日本に説き聞かせている感じです。

ネトウヨ一網打尽@フランス

フランス政府が、人種差別対策として、とりわけネット上の書き込みを取り締まり、個人を特定して追跡し罰する本格的な法政策をとるようです。毎日新聞から

http://mainichi.jp/select/news/20150419k0000m030038000c.html

1月のシャルリーエブド紙襲撃事件などの影響で、フランスでイスラム系移民やユダヤ教徒への差別意識が高まっていることを受け、仏政府は17日、人種差別的な発言やインターネット上の書き込みなどの取り締まりを強化する方針を明らかにした。総額1億ユーロ(約130億円)をかけ、新たなネット監視機関を創設するとともに、学校現場で移民やユダヤ人迫害の歴史関連施設の見学などを義務化する。

バルス首相が17日の会見で明らかにした。現在、差別的な発言や書き込みには、報道関連法の罰則があるが、適用例は限定されている。そこで刑法に禁止条項を設け、一般人の人種差別発言やネット書き込みを罰することができるようにする。また、ユダヤ系商店を狙った強盗など、他の犯罪に人種差別的な要素が加わった場合は刑を重くする。

これまでもインターネット上の差別的な書き込みを監視し、削除する機関はあったが、書き込んだ個人を特定し、追跡する専門機関を新たに設ける。仏議会では現在、最新技術による通信傍受を含んだ情報収集法案を審議中で、表現の自由や個人情報の保護という観点から反対意見もある。だがバルス首相は「ネット上の無策は終わりだ」と述べ、差別監視の大幅な強化を示唆した。・・・・・・

フランスでも、インターネット上で「ユダ公氏ね」といった匿名の書き込みが多いということでしょうか。

どういう法規定になるのかはこの記事だけでは今ひとつよくわかりませんが、興味深い動きとして注目しておきたいと思います。

判例評釈:日本雇用創出機構事件

昨日(4月17日)、久しぶりに東大の判例研究会で評釈をしました。

判決は「日本雇用創出機構事件」(東京地判平成26年9月19日)(労働経済判例速報2224号17頁)。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/pasona.html

私の意見は、判決が立っている出向という形式にこだわるよりも、社内に就業先がないから再就職支援をするというところにこそ論点があるのではないか、というものですが、岩村先生と荒木先生で意見が分かれました。

2015年4月16日 (木)

ファミリーマート事件(平成24年不第96号事件)@東京都労働委員会

岡山県労委のセブンイレブンに続いて、東京都労委がファミリーマートについて、労働組合法上の労働者性に関する判断を下してます。

こちらが概要で、

http://www.toroui.metro.tokyo.jp/image/2015/meirei24-96.html

こちらが詳細版です。

http://www.toroui.metro.tokyo.jp/image/2015/meirei24-96_besshi.html

「判断の要旨」というところが大事です。

⑴ 本件における加盟者は労働組合法上の労働者に当たるかについて

 フランチャイズ契約であっても、その実態においてフランチャイジーがフランチャイザーに対して労務を提供していると評価できる場合もあり得るのであるから、フランチャイズ契約との形式であることのみをもって、労働組合法上の労働者に該当する余地がないとすることはできない。本件における加盟者の就労等の実態を鑑みると、加盟者は、会社に対して労務を提供していたといえる。そして、本件における加盟者が労働組合法上の労働者に当たるか否かは、①事業組織への組入れ、②契約内容の一方的・定型的決定、③報酬の労務対価性、④業務の依頼に応ずべき関係、⑤広い意味での指揮監督下の労務提供及び一定の時間的場所的拘束、⑥顕著な事業者性等の諸事情があるか否かを総合的に考慮して判断すべきである。

①会社が運営するファミリーマート・システムは、加盟者の労務提供なしには機能せず、加盟者が、会社の業務遂行に不可欠ないし枢要な労働力として組織内に組み入れられており、②加盟者は、ファミリーマート店が全国的にどこでも同一のシステムと統一的なイメージで経営・運営されるべきであるという要請により、定型的な契約を余儀なくされており、③加盟者の得る金員は、労務提供に対する対価又はそれに類する収入としての性格を有するものといえ、④会社からの指示、指導や助言、推奨に従わない場合に再契約を拒否される不安等から、加盟者は、会社の個々の業務の依頼に応じざるを得ない状況にあり、⑤加盟者は、広い意味で、会社の指揮監督の下に労務を提供していると解することができ、その労務提供に当たっては、時間や場所について一定の拘束を受けているということができる。一方、⑥加盟者には、自らの独立した経営判断に基づいてその業務内容を差配して収益管理を行う機会が実態として確保されているとは認め難く、実態として顕著な事業者性を備えているとはいえない。

これらの諸事情を総合的に勘案すれば、本件における加盟者は、会社との関係において労働組合法上の労働者に当たると解するのが相当である。

⑵ 会社が団体交渉に応じていないことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるかについて

本件の団体交渉申入れ事項であるフランチャイズ契約の再契約の可否の基準は、労務供給者である組合員の生計の維持に直結する労務供給ないし就業機会の継続の可否にかかるもので、組合員の労働条件ないし経済的地位に関する事項であり、かつ、会社が使用者としての立場で実質的に決定又は支配できるものであるから、義務的団体交渉事項に当たると解するのが相当である。

したがって、組合の申し入れた団体交渉について、会社が、個々の加盟者との話合いの場を設けるとして、組合との団体交渉に応じていないことは、正当な理由のない団体交渉拒否に該当する。

小林拓矢『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』

9784062194358_l小林拓矢さんから『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)をお送りいただきました。

http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062194358

 早稲田大学を卒業した23歳の僕には、それなりの未来が拓けているはずだった。でも、「それなり」などありはしない。32歳になるまで、僕が入社して、そしてクビになった3つの会社は、すべてが「ブラック企業」だった。
 システムエンジニア(SE)、先物取引、業界新聞……これがブラック企業の実態だ。
 この10年間、この国では何が起こってきたか? ブラック企業をやめ、ライターとなった著者が赤裸々に明かす、前代未聞のノンフィクション。

F304ad9eb6dd4280a06837dea376eac1204似た本としては、本ブログで前に紹介した小林リズム『どこにでもいる普通の女子大生が新卒入社した会社で地獄を見てたった8日で辞めた話』がありますが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2014/04/post-62be.html

そこまでとんでもなくむちゃくちゃな会社というよりも、むしろ世の中によくあるタイプのわりと普通目の会社という感じですね。

はじめに
■第一章 望まれぬ採用――早大卒業、SE会社へ
 就職が決まらないまま迎えた卒業式/ハローワークの模擬面接/学歴が高すぎる/六本木ジョブパーク/合同就職面接会/SE企業の筆記試験/社長室だけ豪華だった/「ここで精神をたたき直せば、入社させるかもしれないよ」/ソニーの会議室での研修/「何様のつもりなんだ」/プログラミング言語を独習せよ/入社一日目は「挨拶の練習」/ダメだったらさよならだ/残業代は出ないが……/社長の説教と部長の嫌味/正社員の身分を手に入れるために/自分は何をやっているのだろうか/夏休みはない/クビの予感/「君はこれ以上伸びる見込みがない」/自己都合退職
■第二章 怒鳴られる日々――FX投資会社への転職
 どこにも採用が決まらない!/リクルートスーツ/不採用の理由は「雪だから」/君らが新卒第一号や/中学生も解けそうな筆記試験/何の仕事かはわからない/目をぎらつかせる人事担当者/出身大学を言え/「コンプレックスを抱えた人間が向いている」/入社式/ヤンキー系の課長/日経新聞とFX/電話勧誘営業のスタート/何様のつもりなんだ/終業後のミーティングで「人格に問題がある」/新人歓迎会/「アポもとれない奴は人間じゃない。死ね」/電話帳を使った無差別営業/昼休みだけが息抜き/為替営業の実態/ひたすら電話/叱責といじめ/残業手当はなく、歩合だけ/見込み客の家を訪問/話術がすべて/母へのプレゼント/上司は「クズ左翼。産経読めよ」と/遅刻の罰ゲーム/起き上がれない/「鞄を昼休みに持ち出すな」/必死で勉強したのに/病院に行く/会社で正座させられる/この会社は詐欺だ/退職届を出して
■第三章 大人のいじめ――業界紙記者になる
 転職エージェントへの登録/業界紙の筆記試験/初任給は二十二万円/物流企業からもらう「賛助金」/労働基準法は守るつもりのようだ/懇親会で「きょうは無礼講だ」/解雇された社員がいる/「ファイル名に日付をいれるな」/録音もしない座談会/知るか」「ゴミくず」/マニュアルは古い手書きのプリント/人間砂漠のような会社/新聞を購読しない記者たち/社長の激怒/「この新聞は、オナニー新聞なんだ」/企画会議の欠席/隣の同僚は、先に辞めた/「作文を書いてもらおうか」/上司は「宗教ジャーナリスト」になった
おわりに

まあ、第2章のFX投資会社は、ビジネス自体が詐欺っぽいのであれですが、第1章や第3章の話は、個別紛争事例にごまんとある普通の中小零細企業の一つという感じです。

アマゾンレビューで、高評価と低評価が混在しているのも、多分その辺が原因でしょう。

2015年4月14日 (火)

『経済学と経済教育の未来』

04031652_551e46ae058c4_2八木紀一郎(代表) +有賀裕二・大坂 洋・大西 広・吉田雅明編『経済学と経済教育の未来』(桜井書店)を、著者の一人である大坂洋さんよりお送りいただきました。ありがとうございます。

http://ecoedu.jp/2014/12/post-22.html

経済学教育の画一化に抗して

本書の企画は,日本学術会議の経済学分野の「参照基準」の策定作業に対して多くの学会および研究者・大学教員が憂慮を表明した署名運動の中から生まれました。

多様性と創造性の促進こそが民主的な社会の基礎

ー経済学の社会性・創造性をとりもどすー
経済学教育の画一化とそれによる学生・生徒たちの視野の狭隘化は,経済学自体が社会科学としてもつべき多様性と創造的な発展の可能性を失わせかねません。

現在の大学での経済学教育の画一化への動きは,各大学,各学部レベルでの人事やカリキュラムをめぐる議論においても強い影響力を持っています。それは大学のみならず,中学,高校での社会科教育,ひいては市民の全般的な社会科学的リテラシーに波及しつつあります。経済学教育が一面的なものになることは,多様性と創造性を保証しながら協働していく民主主義的な社会の構築にとって誠に憂うべきことです。

学派・学会を超えた真摯な討論
本書は所属学会・学派を超えた執筆陣により,多様な側面から参照基準を検討してゆきます。『参照基準』問題の背景にある大学教育の「国際的質保証」の課題を批判的に考察し,標準的とされている経済学を中心とするカリキュラムを超える多様性を経済学が持っていることを伝えるとともに,経済学の教育の創造的可能性を探求してゆきます。

という趣旨の本で、内容は以下の通りです。

まえがき 八木紀一郎
序論 経済学の「参照基準」はなぜ争点になったのか(八木紀一郎)
第1章 教育に多様な経済学のあり方が寄与できること――教育の意義を再構築する――(大坂 洋)
第2章 経済学はどのような「科学」なのか(吉田雅明)
第3章 マルクス経済学の主流派経済学批判(大西 広)
第4章 競合するパラダイムという視点(塩沢由典)
第5章 純粋経済学の起源と新スコラ学の発展――今世紀の社会経済システムと経済システムの再定義――(有賀裕二)
第6章 「経済学の多様性」をめぐる覚書――デフレと金融政策に関する特殊日本的な論争に関連させて――(浅田統一郎)
第7章 経済学に「女性」の居場所はあるのか――フェミニスト経済学の成立と課題――(足立眞理子)
第8章 経済学の多様な考え方の効用――パート労働者の労働供給についての研究例から――(遠藤公嗣)
第9章 地域の現実から出発する経済学と経済教育――地域経済学の視座―(岩佐和幸)
第10章 主流派経済学(ニュークラシカル学派)への警鐘――経済理論の多様性の必然――(岩田年浩)
第11章 大学教育の質的転換と主体的な経済の学び(橋本 勝)
第12章 働くために必要な経済知識と労働知識(森岡孝二)
付録
大学教育の分野別質保証のための 教育課程編成上の参照基準:経済学分野(日本学術会議)
「経済学分野の教育課程編成上の参照基準」の審議について(岩本 康志)

いろんな分野の方がいろんなことどもを書かれているのですが、どちらかというと、教育という観点からの正統派的なカリキュラム編成の参照基準に、制度学派やマルクス派など新古典派以外のさまざまな学派の経済学者が文句をつけているという構図のように見えます。

そういう構図を見ると、私などからするとまずは、その大学生相手の経済学「教育」の職業的レリバンスはどう考えているのですか?と問いたい気持ちが湧いてきますが、まさにそれに答えようとしているのが、お送りいただいた大坂さんの「教育に多様な経済学のあり方が寄与できること――教育の意義を再構築する――」という文章です。冒頭に本田由紀さんの『教育の職業的意義』や拙著まで引いて、いろいろと論じておられるのですが、最後のパラグラフでこういう風に語っています。

・・・日本の学校の内部でこうした<抵抗>的側面は現在全くと言ってよいほど消滅している。他方で、学校の外で教育の<抵抗>的側面を支えてきた人々がいる。職業的意義の<抵抗>的側面が大学内部に根づかなかったことは、大学が企業システムに都合の悪い教育を排除してきた一つの証拠であろう。・・・

もう一つ、職業的意義に関わる点を論じているのが森岡孝二さんの「働くために必要な経済知識と労働知識」ですが、

・・・今日では経済学部の学生を含む大学生のほとんどは、卒業後、労働者として民間企業や公共機関などに雇用されて働く。その意味では大学生は明日の労働者である。しかし、不思議なことに「参照基準」には「労働者」という用語はどこにも見当たらない。・・・

・・・「参照基準」に出てこないのは「労働者」だけではない。雇用契約を説明する上で欠かせない「労働市場」も「労働時間」も「賃金」も出てこない。・・・

・・・「経済学分野の参照基準」における学生の卒業後の職業生活に関する記述には、賃金も労働時間も労働組合も出てこない。就職というタームさえない。・・・

と批判しています。

ただ、これは「経済学」部の学生さんだけの話ではないわけで、ここでこういう形で論じて、経済学部教育の中だけの話にしてしまうべきなのかどうかという議論もありそうです。

それこそ同論文の最後で冊子「知って役立つ労働法」を紹介しつつ、

・・・働くときに必要な基礎知識を学ぶには、労働法についてもある程度の理解が求められるが、それは経済学にとっても無縁ではない。労基法に触れずに賃金や労働時間について学ぶことは難しい。そう考えると、労働知識を身につけることは、キャリア教育の課題であると同時に、経済学教育の一部でもあると言いうる。・・・

と述べているのは、経済学教育だけの話でもなさそうに思われます。

現在国会に上程中の青少年雇用促進法案に、労働法教育の努力義務が盛り込まれたこともあり、この辺もう一歩踏み込んだ議論が必要なのでしょう。

他の論文は、どちらかというと、教育という視点よりは、学問研究者として主流派(新古典派)を批判しているものが多く、私のコメントするキャパを超えているので基本的にスルーしておきますが、浅田統一郎氏の論文が少数派だったリフレ派の勝利宣言ぽいのは、ネット上の一部では話題になるのかも知れません。

2015年4月13日 (月)

北岡大介『職場の安全・健康管理の基本』

4953_m北岡大介さんから『職場の安全・健康管理の基本 これだけは押さえたい解説とQ&A60』(労務行政)をお送りいただきました。いつもありがとうございます。

http://www.rosei.jp/products/detail.php?item_no=4953

理解しづらい労働安全衛生法をわかりやすく解説。 

関心の高いストレスチェック制度を含む 

平成26年法改正にも対応。 

長時間労働抑制、メンタル不調問題・・・ 

課題山積みの安全衛生対策についてのポイントと

必要な対策ががつかめます!

というわけで、以下のような内容ですが、

Ⅰ 法令解説――労働安全衛生法の概要

1 労働安全衛生法の概要

2 労働安全衛生法における規制の概要

3 平成26年改正労働安全衛生法の概要

4 安全衛生管理規程

5 安全衛生管理計画

Ⅱ Q&A-8のテーマ・60の留意点

1 労働安全衛生管理体制編

2 労災防止対策編

3 労働基準監督署からの指導編

4 民事損害賠償請求編

5 長時間労働による健康障害防止対策編

6 ハラスメント問題に関する企業対応編

7 健康管理体制編

8 ストレスチェック制度編

「はじめに」の冒頭に、女川原子力発電所を見学したときのことが記され、

健全な懼れあるところに、的確な対策あり

という名文句が書かれています。原子力発電所の安全対策も、職場の安全衛生対策も・・・というわけです。


マシナリさんの震災関係書評

3000_issue_imgGenda先週紹介した『中央公論』5月号掲載の、玄田有史『危機と雇用』へのマシナリさんの書評について、マシナリさん自身が他の書物を合わせて詳しくブログで書かれています。

http://sonicbrew.blog55.fc2.com/blog-entry-644.html

・・・最近読んでみた震災関連本の中から、震災が人々の生活に与えた影響を考える際に参考になるものをご紹介したいと思います。

で、玄田著についてなんですが、実は中央公論を読んで感じた「あれ?なんかあっさり薄味」という印象の通り、

なお、『中央公論』の書評では字数の関係からカットしましたが、本書では緊急雇用創出事業をべた褒めしているものの、私のような実務屋からすれば制度的な問題はかなり大きいと考えておりますので、書評ではその点について一応指摘しております。手にとってご確認いただければと思います。

あらら、マシナリさんならではのところが字数でカットされてたんですね。

その「一応指摘」は:

・・・これらの分析から玄田氏は、リーマンショック時の緊急雇用対策が震災後に活用できたのと同様に、平時から財源を確保し、柔軟に対応できる環境作りが必要であるとしている(実際に玄田氏は、震災後の雇用対策の策定に携わっている)。しかし、リーマンショック後の緊急雇用対策では、国(ハローワーク)が実施した雇用調整助成金や給付付きの職業訓練の不正受給が問題となった。また緊急雇用創出事業は、雇用政策のノウハウもない自治体(県や市町村)が実施し、短期の資金を当てにした受託者の不祥事が相次いだ。本書を有効な政策提言とするためには、これらの問題に対処する実務にまで踏み込んだ検討が求められる。

ここは、被災地で活躍する地方公務員ならではの台詞がもう一つ二つ欲しかったところでしょう。

Mochibaマシナリさんのブログ記事はさらに、玄田さんも入った東大社研の『〈持ち場〉の希望学: 釜石と震災、もう一つの記憶』や、望月善次さんの『被災の町の学校再開』についても、詳しく検討されています。Mochiduki

2015年4月10日 (金)

加茂善仁『第2版 最新判例から学ぶメンタルヘルス問題とその対応策Q&A』

Kamo経営法曹として活躍されている加茂善仁さんの『第2版 最新判例から学ぶメンタルヘルス問題とその対応策Q&A』(労働開発研究会)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.roudou-kk.co.jp/books/book-list/2897/

新たな裁判例をフォローし全般にわたって大幅に加筆・修正を加えたメンタルヘルス問題の集大成。
近年増加するメンタルヘルス不調をめぐる様々な紛争の予防・解決にオススメの一冊。
改正安衛法により新設されたストレスチェック制度についても解説。

タイトルはメンタルヘルスですが、対象は結構広く、第1章は「メンタルヘルスと採否」で、精神障害歴が三菱樹脂事件最高裁判決の言う「その他の制限」に含まれるか、という問いから始めているくらいです。

今や、個別労働紛争の相当部分に、陰に陽にメンタルヘルス不調が顔を出し、それが休職という(個別紛争の分類枠組みに入っていない)形態をとりながら、さまざまな問題につながっていっているという現状を考えれば、本書を読んで頭を整理することはとても重要です。

第1章 メンタルヘルスと採否

Q1. 精神障害歴の調査と採用の自由

  1. 採用の自由とその制限
  2. 精神障害歴は三菱樹脂事件最高裁判決のいう「その他の制限」 に含まれるか
    (1)採用時の個人情報の取得に関する職安法の制限
    (2)採用時の血液検査に関する裁判例
    (3)精神障害歴の調査とプライバシー保護

Q2. 精神障害歴の詐称と解雇

  1. 経歴詐称と懲戒解雇の可否
  2. 病歴(健康状態)詐称と解雇
  3. 精神障害歴詐称と解雇

Q3. 試用期間中の社員に対する休職規定適用の要否

  1. 試用期間の法的性質
  2. 試用期間中と休職規定適用の要否

第2章 メンタルヘルスと休職発令

Q1. メンタルヘルスと私傷病休職

  1. 私傷病休職事由の存在と休職発令
  2. 休職を経ない解雇が有効とされた事例
  3. メンタルヘルス不調者に対する実務対応

Q2. メンタルヘルス不調者が、受診もせず職場秩序を乱す場合と休職発令

  1. 休職発令の合理性
  2. 休職発令の要件
  3. メンタルヘルス不調者が出欠勤を繰り返したり業務に支障を生ずる場合の対応

Q3. 別疾病による欠勤と休職発令要件

Q4. 休職発令要件の改定と就業規則の不利益変更

  1. 私傷病休職制度の意義と発令要件
  2. 休職発令要件の追加と不利益変更

Q5. 休職発令と医師の受診命令の可否

  1. 就業規則に受診命令の定めがある場合
  2. 就業規則等に定めがない場合
  3. 受診を命ずる合理的な理由
  4. 労働者が受診命令を拒否した場合の使用者の対応策

Q6. 休職発令に従わず出社して職場秩序を乱したり、メンタルヘルス不調に起因して職場秩序を乱す社員に対する懲戒処分の可否

  1. 懲戒処分と責任能力
  2. メンタルヘルス不調者に対する使用者の配慮と懲戒処分
  3. 懲戒処分に対する実務対応

第3章 休職者に対する処遇と病状報告義務

Q1. 休職者の賃金の取扱

Q2. 休職者に対する病状報告義務

  1. 休職者に対する病状報告義務
  2. 病状報告の内容と頻度など

第4章 治癒と職場復帰にまつわる諸問題

Q1. メンタルヘルス不調者の復職の判断

  1. 休職期間満了の効果
  2. 治癒の意義と判断基準
    (1)職種・職務が特定されている場合
    (2)職種・職務が特定されていない場合

Q2. 治癒の判断と医師の診断

  1. 復職の判断主体
  2. 医師の診断の重要性

Q3. 主治医・産業医の診断書と復職の判断

  1. 主治医の診断書とその問題点
  2. 産業医の診断書の問題点
  3. 総合判断による主治医または産業医の意見の採否

Q4. 復職の可否に関する主治医と産業医の意見が分かれた場合の対応

  1. 主治医が復職可で産業医が復職不可の場合
  2. 主治医が復職不可で産業医が復職可の場合

Q5. 主治医の診断書に「軽易業務なら可」との記載がある場合と復職の可否

  1. 事情聴取の必要性
  2. 軽易な業務を創って復職させる必要性はあるか
  3. 現部署で軽易な業務に従事させる必要性はあるか

Q6. 守秘義務を理由に主治医から病状確認ができない場合の復職の判断

  1. 主治医からの健康情報の取得の可否
  2. 主治医が守秘義務を理由に情報提供を拒否した場合の対応

第5章 復職後の勤務・処遇及び配置

Q1. リハビリ勤務の要否と内容

  1. リハビリ勤務制度の多様性
  2. リハビリ勤務の要否

Q2. リハビリ勤務制度の内容と制度設計上の留意点

  1. リハビリ勤務のメリット・デメリット
  2. リハビリ勤務制度設計上の留意点
    (1)リハビリ勤務制度の位置づけの問題
    (2)出勤扱いとするか否か
    (3)リハビリ勤務の適用の要件と手続をどのように設定するのか
    (4)リハビリ勤務期間
    (5)リハビリ勤務職場
    (6)リハビリ勤務中の賃金

Q3. リハビリ勤務中の賃金

  1. 債務の本旨に従った労務提供と賃金支払義務
  2. 休職期間中に「治癒」の判断材料を得るために行われるもの
  3. 休職期間満了前に「治癒」したものとして復職させ、残りの休職期間を「慣らし運転」として行う場合

Q4. リハビリ勤務と業務災害、通勤災害

  1. 業務災害
  2. 通勤災害

Q5. 復職後の配置

  1. 使用者がとるべき就業上の措置
    (1)使用者の配置転換権の根拠
    (2)配転命令権と権利濫用による制約
  2. 安全配慮義務と使用者がとるべき就業上の措置
  3. 復職者の再配置について

Q6. 使用者の増悪防止義務と労働者の症状等の申告

  1. 安全配慮義務と労働者の健康状態の把握

Q7. 復職後の賃金

Q8. 職務の軽減と賃金引き下げの可否

  1. 賃金の一方的減額の可否
  2. 職種・職務内容変更と賃金減額の可否

Q9. メンタルヘルス不調者の降格等の人事措置

  1. 職務遂行能力の低下と降職・降格
  2. 職制上の役職を降格する場合
  3. 職能資格制度上の資格を降格する場合

第6章 復職後メンタルヘルス不調が再発した場合の取扱

Q1. 復職後の再発と再休職発令の要否

  1. 就業規則に復職後の再発(欠勤)に関する定めがある場合
    (1)同一ないし同種疾病による欠勤の取り扱い
    (2)復職後の欠勤が別の疾病による場合
  2. 就業規則に復職後の再発(欠勤)に関する定めがない場合

Q2. 休職期間の途中で復職した後、時を経ず再発した場合と解雇の可否

  1. 休職を発令せずになした「心身の故障のため職務に堪えないとき」に該当するとしてなした解雇の効力
  2. 再発と休職発令の要否

Q3. うつ病により休職と復職を繰り返す者に対しての対応策

  1. 休職と復職を繰り返す場合と休職制度の趣旨
  2. 休職と復職の反復と「心身の故障による」解雇の相当性
  3. 復職後の欠勤の取り扱いに関する就業規則の定め

第7章 メンタルヘルス不調と退職、解雇

Q1. メンタルヘルス不調を理由とする休職期間の満了による退職・解雇

  1. 休職期間満了による退職・解雇と業務災害
  2. 休職期間満了による退職・解雇が争われた事例
    (1)休職期間満了による退職・解雇が有効とされた事例
    (2)休職期間満了による退職・解雇が無効とされた事例
  3. 裁判例からみる休職期間の満了による退職・解雇の効力に関する判断ポイント

Q2. メンタルヘルス不調と解雇

  1. メンタルヘルス不調が業務に起因する場合と解雇
  2. メンタルヘルス不調が業務に起因しない場合と解雇

Q3. 労基法19条の解雇制限と打切補償の支払いによる解雇制限の解除

  1. 労基法19条の解雇制限とその解除事由としての打切り補償
  2. 労災保険による療養補償給付・休業補償給付を受給している場合と使用者による打切補償の可否
    (1)労災補償責任と労災保険給付との関係
    (2)労災補償が労災保険によってなされる場合と打切補償の可否

Q4. メンタルヘルス不調と雇止めの可否

  1. 有期雇用契約の雇止法理(労働契約法19条)
  2. メンタルヘルス不調と雇止めの合理的な理由

Q5. メンタルヘルス不調者に対する退職勧奨

  1. 退職勧奨の許容範囲
  2. メンタルヘルス不調者に対する退職勧奨とその留意点

Q6. メンタルヘルス不調者から提出された退職願(届)の撤回の取扱い

  1. 退職願(届)の態様
  2. 退職願(届)の撤回の可否
  3. 使用者の承諾が認定される場合

Q7. 退職の意思表示の瑕疵

  1. 退職願の瑕疵
  2. 錯誤
  3. 強迫

Q8. 家族による退職願が提出された場合

第8章 メンタルヘルスと労災認定

Q1. 労災と労災補償制度

  1. 労災と補償制度
  2. 労災保険法の目的と適用の仕組み

Q2. 労働者災害補償保険法の保険給付等の対象者となる「労働者」の意義

Q3. 労災保険給付の種類と内容

Q4. 労災保険と民事損害賠償等の調整

  1. 使用者の下での労働災害の場合
  2. 第三者行為災害の場合
  3. 将来の年金給付と損害賠償との調整
    (1)支払猶予と猶予額
    (2)支払猶予の例外
    (3)支払猶予後の損害賠償請求額の帰趨(損害賠償の免責額)

Q5. 業務災害の認定要件

  1. 業務災害と認められるための要件
  2. 業務遂行性の判断
  3. 業務起因性の判断

Q6. 過労自殺と業務上災害

  1. 業務に関連するうつ病等の精神障害の業務上外の判断
    (1)行政の認定基準
    (2)裁判例における業務起因性の判断
  2. 業務による強い心理的負荷の判断
    (1)ストレス-脆弱性理論
    (2)認定基準における長時間労働・過重労働の評価
    (3)裁判例における長時間労働・過重労働の評価

Q7. 業務起因性の判断基準となる労働者

  1. 認定基準における心理的負荷の判断基準となる労働者
  2. 裁判例における判断基準となる「労働者」

Q8. パワハラ自殺と業務上災害

  1. パワハラとは
  2. パワハラによる精神障害の認定基準

Q9. パワハラが労災認定された具体例

Q10. パワハラが否定された事例

Q11. パワハラと誤解されないための留意点

  • ア.暴力(有形力の行使)は不可
  • イ.乱暴な言葉遣いは不可
  • ウ.場所・時間等に注意すること
  • エ.名誉・信用・人格に配慮すること
  • オ.上司を支える環境作り

第9章 メンタルヘルスと使用者の安全配慮義務

Q1. 安全配慮義務

  1. 安全配慮義務概念の形成経緯
  2. 安全配慮義務の根拠とその義務の主体

Q2. 安全配慮義務の内容とその主張・立証責任

Q3. 安全配慮義務の一環としての増悪防止義務

Q4. 面接指導

  1. 面接指導制度
  2. 面接指導の対象労働者
  3. 事業者のとるべき事後措置
  4. 面接指導の対象者以外の者への配慮

Q5. ストレスチェック制度とは

  1. 心理的な負担の程度を把握するための検査等(ストレスチェック)制度の創設の経緯
  2. ストレスチェック制度の内容
    (1)事業者によるストレスチェックの実施
    (2)ストレスチェック実施後の面接指導
    (3)面接指導後の事後措置
  3. ストレスチェック結果の秘密保持・労働者に対する不利益取扱いの禁止
    (1)ストレスチェックの検査の秘密保持

    (2)面接指導の申出に対する不利益取扱いの禁止

Q6. 産業医の職務と使用者の安全配慮義務

  1. 安全配慮義務
  2. 産業医の選任・職務・健康診断の実施と安全配慮義務
  3. 産業医から業務負担軽減の勧告がなかった場合と使用者の安全配慮義務

Q7. 産業医の健康管理責任の程度と使用者の安全配慮義務

Q8. 外部委嘱の医療機関の医療過誤と使用者の安全配慮義務

  1. 健康診断における医師の医療水準
  2. 外部委嘱の医療機関の医療過誤と事業者の責任

Q9. 過労自殺における業務と自殺との因果関係

  1. 精神障害による自殺と業務との因果関係
  2. 判例にみる過労自殺における業務との相当因果関係(相当因果関係の認定枠組)
    (1)相当因果関係を認定した裁判例
    (2)相当因果関係を否定した裁判例
    (3)裁判例からみた長時間・過重労働によるうつ病自殺と相当因果関係の認定枠組
    (4)相当因果関係の判断における業務の過重性の判断基準となる「労働者」

Q10. 療養開始後、長期間経過しても寛解しない場合と疾病の業務起因性

  1. 業務上外及び治癒認定の機関
  2. 業務上の疾病が長期間治癒認定されない場合における民事上の責任追及に対する使用者の対応

Q11. 過労自殺と使用者の予見可能性

  1. うつ病による自殺の予見可能性の有無と安全配慮義務違反の成否
  2. 長時間・過重労働によるうつ病自殺の場合
    (1)明らかな長時間過重労働の場合
    (2)長時間・過重労働といえるか否かが問題となる場合
  3. 長時間・過重労働によるとは認められない自殺の場合

Q12. 過労自殺における損害賠償と労働者の性格等を理由とする過失相殺

  1. 過失相殺の理論
  2. 過労自殺における過失相殺と判断要素
    (1)電通事件最高裁判例とその流れをくむ裁判例
    (2)過失相殺・素因減額の対象となる事情と裁判例における取扱い
    (3)過失相殺・素因減額の対象として問題となる事例

Q13. 使用者の安全配慮義務違反による労働者のうつ病発症に伴う休職と休職期間中の賃金請求権の有無

  1. 業務上の疾病による休業が使用者の安全配慮義務違反による場合と賃金請求権の有無
  2. 業務によるうつ病発症について使用者に安全配慮義務違反がある場合と労働者の欠勤・休職期間中の賃金請求権の帰趨
    (1)労務提供の不能と民法536条2項の適用の可否
    (2)労災保険に関する使用者の保険者利益が奪われること
    (3)過失相殺・素因減額をなしえない不利益

第10章 メンタルヘルス不調の防止策とメンタルヘルス対応を踏まえた就業規則の整備

Q1. 職場におけるメンタルヘルス不調の防止対策

  1. 労働時間の長さと精神障害の認定
  2. メンタルヘルス対策の充実・強化に向けた安衛法の改正について

Q2. メンタルヘルス対応を踏まえた就業規則の整備

  1. 休職発令要件(休職事由)の整備
  2. 受診命令の根拠
  3. 主治医との面談に関する規定
  4. 復職後再度の欠勤の場合の取扱い
  5. 再発と解雇に関する規定の整備
  6. メンタルヘルスによる休業の場合の賃金請求権に関する規定の整備

2015年4月 9日 (木)

マシナリさんの玄田著書評@『中央公論』

3000_issue_img『中央公論』5月号は、「さまよう宗教心」が特集ですが、いや別にそれが言いたいのではなくて、

http://www.chuokoron.jp/newest_issue/index.html

244頁の「新刊この一冊」で取り上げられているのが、玄田有史さんの『危機と雇用』(岩波書店)だということなのですが、

書苑周遊
新刊この一冊 マシナリ

同書を書評しているのが、本ブログでもおなじみの、あのマシナリさんなのです。

筆者紹介に曰く:

マシナリ 東北地方の地方自治体に勤務する地方公務員。主に雇用問題について現場の視点からブログで発信。東日本大震災後は、被災地支援業務などを担当し、ブログで被災地の現状を報告している。

本書を書評するのに、この人しかいないでしょう、というマシナリさんの書評です。見開き2頁ほどの書評ですが、わざわざ買わなくても(といったら中央公論社に怒られるけど)、本屋さんで立ち読みするには値します。

浅倉・島田・盛『労働法 第5版』

L22040有斐閣アルマの教科書である浅倉むつ子・島田陽一・盛誠吾『労働法 第5版』をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641220409

オビにあるように、まさに「スタンダード・テキスト」です。著者らの論文をよく読んでいる人にとっては、スタンダードすぎて若干物足りなさを感じるくらいスタンダードです。

労働にまつわる問題の現状と課題を知り,法的視点から考える力を養う,スタンダード・テキスト。新規判例を多数取り入れ,労働契約法・パート労働法などの法改正も詳細に解説した。労働をとりまく社会の変化と,変わりゆく労働法のダイナミズムを体現した改訂版。

あえて他になさそうな記述を探すと、冒頭の「第5版はしがき」の冒頭のパラグラフにトマ・ピケティが登場していることでしょうか。

2011年9月に本書第4版を敢行してから、3年半が経過した。世界各国は、近年、資本主義の発展の中で生じる格差問題に関心を高めてきた。いま、トマ・ピケティ教授の『21世紀の資本』が世界的ベストセラーになっているのも、ある程度予測し得たことに違いない。将来にわたり持続可能な社会を目指すのなら、労働法分野においても、さまざまな格差問題に適切に対応しなければならないのは、当然である。・・・・・

2015年4月 8日 (水)

これってあり?~まんが知って役立つ労働法Q&A~

0000081393_3 厚生労働省が、思いっきり目線を下げて、『これってあり?~まんが知って役立つ労働法Q&A~』というハンドブックを作ったようです。

前に作成した『知って役立つ労働法~働くときに必要な基礎知識~』のマンガ版ですが、労働法学者の目には「これってあり?」かもしれませんが、全然知らない若者たちに知ってもらうにはなかなかよくできています。

http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/mangaroudouhou/

いくつか紹介しましょうか。

まず、「毎日遅くまで残業させられる上に残業代が全然出ない・・・これってあり?

0000080548_1

あと、よくあるパターンで、「ミスが原因で「もう明日から来なくていい」って・・・これってあり?

0000080568

こうしたマンガが全部で12枚あります。

安西愈『労働者の過失相殺』

081959cf4b197de9510848a29e56467e 安西愈『そこが知りたい!労災裁判例にみる労働者の過失相殺』(労働調査会)をお送りいただきました。いつもありがとうございます。

http://www.chosakai.co.jp/publications/13350/

労働安全衛生法の多くは、「事業者は~しなければならない」又は「事業者は~をさせなければならない」として、使用者の安全配慮義務を課していますが、労働者に対しても努力義務や守るべき事項として自己安全配慮義務が課せられています。労働者が労働安全衛生法に定められている義務を守らず、自己安全配慮義務に違反して労働災害が発生した場合には、過失相殺が行われています。

本書は、労働災害の撲滅を目指し、労働者らの安全意識を高めるべく、労働災害について、10%~80%に至る各過失割合ごとに、それぞれパターン別に類型化して、いかなる事故につき被災労働者側にどの程度の過失相殺がなされているか、安西愈弁護士が詳しく解説し、とりまとめたものです。労働災害の過失相殺について、わが国で初めての体系書!

労災民訴の過失相殺だけで500ページを超える大著となっている超専門書ですが、挙がっている一つ一つの事例が結構面白くて、読み物としても楽しめる本にもなっています。

最初の第1章の総論が頭の整理に最適で、その後の事例を読んでいく際にとても役に立ちます。

第1章 労働災害の過失相殺――総論

1.労災保険給付と民事賠償の併存請求と過失相殺――労災の損害補てんの特質

2.過失相殺の歴史的な流れ――過失相殺の理論はローマ法時代に発生

3.過失相殺とは何か――損害賠償の認定上における被害者側の「過失の斟酌」

4.労働災害の過失相殺――大審院時代から過失相殺が認められている

5.労働災害については過失相殺は否定すべきであるとの主張――労災補償の場合と違いは認められない

6.労働災害の労使の義務と過失相殺――“労働者の不注意だった”だけでは済まされない

7.過失相殺についての考え方――相殺率の算定方法3つの説

8.「安全配慮義務」と「不法行為」では過失相殺に差があるか

9.労災事故の民事賠償の「請求権競合説」による過失相殺の同一化

10.工作物の瑕疵責任についても過失相殺が行われるか

11.労災保険給付と過失相殺との関係はどうなるか

12.過失相殺は裁判所の職権事項か

13.過失相殺前提の一部請求は

14.労働災害の過失相殺の実情は-過失相殺の割合はどうなっているか-

第2章 労働災害の過失相殺の割合別事例(判例)の一覧表

1.10%~の過失相殺の事例

2.20%~の過失相殺の事例

3.30%~の過失相殺の事例

4.40%~の過失相殺の事例

5.50%~の過失相殺の事例

6.60%~の過失相殺の事例

7.70%~の過失相殺の事例

8.80%~の過失相殺の事例

9.使用者の責任が否定された主な事例

第3章 労働災害の過失割合ごとの類型別事例について

〈10%程度の過失相殺〉

〔類型1〕崩落のおそれなど著しい環境的危険のある個所における作業で、使用者側に万全の安全管理に欠けたところがあったが、労働者本人にも著しい環境的危険を意に介さず漫然と作業した過失のある場合

〔類型2〕車両の通行や荷物・材料の運搬が頻繁に行われている場所において、他の車両等に注意を払わないで後ろ向きや下向き等で作業をしていて被災した場合

〔類型3〕災害発生の極めて高い危険個所で使用者の防止措置が重大である場所において、被災労働者自身も事故発生の高い不安全な行動をした場合

〔類型4〕移動式クレーンの操作にかかわる事故で、共同作業として関与しない近隣作業員の不注意の場合

〈20%程度の過失相殺〉

〔類型1〕危険性の高いプレス、シャーリング、カッター等の機械操作につき機械設備にも瑕疵があったが、被災労働者にも操作等の過失があった場合

〔類型2〕建設現場における建設機械などの作業について使用者側に安全管理の違反があるが、労働者にも操作等に関する被災者自身も違反した過失がある場合

〔類型3〕高所作業等墜落の危険があるのに会社側にも措置義務違反があるが、労働者側にも危険性の高い軽率な不安全行動があった場合

〔類型4〕建設現場、工場内などにおいて、車両の前後・左右・上下などで作業を行う場合に、労働者として車両の動静に注意する義務があるとして過失相殺される場合

〔類型5〕工場や現場作業では危険防止の観点から周囲の状況に気を配って行動すべきが当然なのに労働者が簡単、かつ基本的な危険発生要因についての危険の“予知”“注意”を欠いたために被災として過失相殺される場合

〔類型6〕潜水作業や航空飛行訓練といった極めて危険性の高い作業等において、労働者が注意義務違反をしたために自ら被災したとして過失相殺される場合

〔類型7〕引火・火災等のおそれの高い危険な個所で、労働者が作業常識に反するような注意義務違反をしたために自ら被災したとして過失相殺される場合

〔類型8〕同僚の不注意な行為による被災事故であるが、被災者本人にもその被災原因につき過失がある場合

〔類型9〕労働者が防じんマスクや防毒マスク等を着用しなかったために自ら被災した事案に対し、労働者自身の“自己保健義務違反”として過失相殺される場合

〈30%程度の過失相殺〉

〔類型1〕保安帽の未着用、安全帯の不使用等保護具の不使用により、労働者が自ら被災した事案についての保護具使用の自己安全義務違反の場合

〔類型2〕労働者が作業中、車両系建設機械の旋回範囲内に立ち入ったり、オペレーターの自らが操作ミスや車両との接触、衝突等の回避など注意を怠って、被災した場合

〔類型3〕自動車などの車両に近接する誘導・積み降ろし等の作業における労働者の不注意による被災の場合

〔類型4〕労働者が、機械の点検、修理などの作業を行うに当たって、機械等を停止して行わなかったため自ら被災した場合

〔類型5〕感電災害について、被災者は安全教育等を受けて感電防止に関する知識があったにもかかわらず、軽率で不注意な行動をとり自ら被災した場合

〔類型6〕危険な作業や場所でありながら、被災者自身も危険な行為や不安定な姿勢で作業を行い、または周囲に注意を払わず軽率な行為により自ら被災した場合

〔類型7〕使用者側にも安全上の義務違反はあるが、世話役や作業主任者、責任者的立場であって自ら安全を確認し、危険を防止して作業をなすべき立場にいながら、これを怠って被災した場合

〔類型8〕注文者等第三者の施設などに赴いて作業を行っていたケースにおいて、注文先の施設関連による事故で、被災者にも作業手順に反したり、禁止行為を行ったり、軽率な不注意行為があった場合

〔類型9〕第三者による加害事故について使用者側にも安全管理の不備があるが、被災者本人にも自己被災防止上の注意義務を怠った場合

〔類型10〕不法就労の外国人の不慣れ、意思疎通の不十分のため、操作ミスによる自己被災した場合

〔類型11〕疾病の発症、増悪、自殺について、使用者に安全配慮義務違反等があるが、被災者にも疾病の発症、増悪、自殺について自己保健義務違反や素因等過失相殺を類推すべき寄与率のある場合

〈40%程度の過失相殺〉

〔類型1〕プレス等特に危険な機械の操作や作業にあたって安全装置の不使用その他基本的な作業上の不安全行為があった場合

〔類型2〕労働者が立ち入り禁止などを無視して災害発生の危険個所に勝手に立ち入って被災した場合

〔類型3〕被災者が現場で車両やクレーン等の合図、誘導などに関与しながら、その動静に注意せず自己の安全を確保しなかったため被災した場合

〔類型4〕車両に関連する事故で、被災者が機械によるつり上げ、引き抜き作業などを行うに際し、自己の安全に対する注意義務を怠った場合や荷台の下で修理・整備中に、車止め、荷台の降下防止対策などを講じなかった作業中の労働者の不注意の場合

〔類型5〕現場や構内における車両の運転につき、運転者自身にも操作上の不注意があり、自己被災を招来した場合

〔類型6〕一見してきわめて危険な行為であるのに被災労働者が軽率、過信、不注意により自己の安全を確保しなかったため自己被災した場合

〔類型7〕被災労働者自身が知識・経験からその危険性を十分に理解しているのに、それに対応した自己の安全を守る措置が可能なのに安全操作、安全作業等をしなかったため自己被災した場合

〈50%程度の過失相殺〉

〔類型1〕労働者同士の業務に起因する喧嘩による被災事故につき、使用者に損害賠償義務があるとしても、被災者にも責任があるとして「喧嘩両成敗」で50%の過失相殺とされる場合

〔類型2〕トタン屋根、スレート屋根等からの踏み抜き等による墜落や高所作業における足場の確認懈怠・足場上や高所の足元への不注意、不安全作業、危険行為等による墜落被災事故の場合

〔類型3〕高所作業でありながら日頃の使用者の注意に反して命綱の使用等墜落防止のための措置をとらないで死亡等の被災を招いた場合

〔類型4〕従業員が昇降や移動等にあたって足元が高所で滑りやすい等、危険であることを熟知しながら、労働者自身が足元への当然の注意を怠った場合

〔類型5〕プレス機、ロール機その他高度の危険のある機械作業や明らかに危険業務であることを十分知りながら、労働者自身が安全な作業方法や通常要求される注意を払わなかった場合

〔類型6〕ショベルカー、ダンプカー、クレーン車などの作業用自動車の運行に関連して、労働者自身が安全行動をとらなければならないのに、その危険を軽視した軽率な行動をとった関係労働者の自己被災の場合

〔類型7〕電気関係や火薬関係等きわめて危険性の高度な業務に経験者として従事しながら安全な作業方法を本人の不注意でとらなかったため自己被災した場合

〔類型8〕ガス中毒、窒息などの危険があるのに、労働者がその防護を怠り、注意を欠き、軽率な行動等で自己被災した場合

〔類型9〕いわゆる過労死、過労自殺の場合で労働者に受診治療や自己健康管理を怠るなどの自己保健違反や特別の素因のある場合

〈60%~66%の過失相殺〉

〔類型1〕プレス機・ロール機の作業等危険性の高い作業に従事する労働者の軽率で明白な危険行為により被災した場合

〔類型2〕クレーン、フォークリフト等を利用する積み下ろし作業で、運転者等が当然なすべき共同作業上の相互の監視・確認を怠って被災した場合

〔類型3〕施設、設備や提供した機械器具等に瑕疵があったが、それを使用・利用する労働者側にも明白な危険な作業で被災が予見できたにもかかわらず、注意を払わない重大な過失があった場合

〔類型4〕高所作業、有毒ガス発生などの明らかに危険な業務において、危険性を予見しながら被災者が安全帯・保護具などを着用せず、きわめて軽率な態度で作業や行動をしたため被災した場合

〔類型5〕労働者の地位、職務内容、経験などからみて明らかに危険であることが明白な業務や作業について、事故回避が十分に期待できるのに軽率な不安全行動をとって自ら被災した場合

〔類型6〕脳梗塞等の業務起因の疾病につき、使用者側に安全配慮義務違反があるが、本人側にも異常の基礎疾病や生活習慣上の寄与があり、その上要治療とされながら本人自身が受診、治療を受けなかった過失のある場合

〈70%~75%の過失相殺〉

〔類型1〕プレス、成型作業など明らかな重大災害を発生する危険な作業状況なのに、通常必要とされる作業上の注意を全く欠いて軽率な行動をとり被災した場合

〔類型2〕誰が見ても危険が明白な環境下において、禁止や注意を無視し自らの意思で危ない方法や危ない状況であえて積極的に不安全な作業を行って被災した場合

〔類型3〕車両系建設機械などの組立・修理・点検等に伴う作業者が、安全ピンを確認しないでブームの下に入る等一見して危険作業なのに明白な安全確認をしなかったことにより自己被災した場合

〔類型4〕運転者の積み込み、荷下ろし、その他、運送関連作業における明らかに危険性が高いのに、一挙手的な防止で足りるのにこれを怠って自己被災した場合

〔類型5〕被災者が使用者の指示に反して命綱を使用せず、危険を知りながらあえて高所で不安全行為をして被災した場合

〈80%~85%の過失相殺〉

〔類型1〕危険が明白重大な場所等であるにもかかわらず労働者自身がきわめて軽率な危険発生行為をして被災した場合

〔類型2〕明らかに被災者自ら重大災害の危険のある行為を故意的かつ軽率な状況で行って被災した場合

〔類型3〕車両の荷台から建設車両を降ろす際、危険が予測されるのに飛び乗る等極めて危険な行為を軽率に行った場合

〔類型4〕高血圧症による脳内出血、うつ病による自殺、頸肩腕症候群等についての安全配慮義務に関し、本人の私生活上等の要因や内面的な原因の寄与が重大な場合

2015年4月 7日 (火)

男のデュアル、女のデュアル

ドイツといえばデュアルシステム。

デュアルといえば、どうしても工業系、ガテン系が頭に思い浮かびますが、最近のデュアル訓練契約のデータを見ると、男子と女子ではがらりと傾向が違うようです。

http://www.jil.go.jp/foreign/jihou/2015/04/germany_01.html

図表1、2は、2012年から翌年にかけて締結された新規のデュアル職業訓練契約(計53.7万件)のうち、上位10の職種を男女別に示したものである。約350ある訓練職種のうち上位10職種に、約四割弱(男性)から五割強(女性)の職業訓練契約が集中していることが分かる。女性は営業補助や小売りなどの職種を志向する傾向が見られ、男性は自動車や産業機械などの技術系職種が多い。

図表1:新規の職業訓練契約(女性の上位10職種)(2012–2013年)
 職業訓練職種新規職業訓練契約締結数全新規訓練契約数に占める割合(%)
1. 営業補助 15,456 7.2
2. 小売店員 14,637 6.8
3. オフィス業務 13,854 6.4
4. 医療助手 13,692 6.4
5. 歯科助手 12,000 5.6
6. 産業系事務 11,385 5.3
7. 理容・美容師 10,008 4.7
8. 広報アシスタント 8,727 4.1
9. 食品手工業専門販売職 7,680 3.6
10. ホテル専門職 7,386 3.4
図表2:新規の職業訓練契約(男性の上位10職種)(2012–2013年)
 職業訓練職種新規職業訓練契約締結数全新規訓練契約数に占める割合(%)
1. 自動車工 18,594 5.9
2. 産業機械工 12,729 4.0
3. 小売店員 12,369 3.9
4. 電気設備工 11,688 3.7
5. 建築設備技術者 10,881 3.4
6. 営業補助 10,413 3.3
7. 情報技術者 9,843 3.1
8. 倉庫物流管理者 8,796 2.8
9. 卸売・貿易事務 8,775 2.8
10. 調理師 7,953 2.5

男子は一般的なデュアルのイメージに近く、自動車工とか産業機械工とかガテンな職種が並んでいますが、女子の方は営業、販売、事務と、それこそ海老原嗣生さんが

・・・とどのつまり、普通のホワイトカラー、サービス、事務職等に訓練の重要性が見いだせないのだ。

と切って捨てている職種ばかりが並んでいます。

少なくともドイツ人は、こういう職種でデュアル訓練してきたことに何らかの意味があると考えているということなのでしょう。

この辺、本当にスキルという意味でそうなのか、それとも3年間デュアルで頑張れるだけの「人間力」を評価しているのか、もちろんドイツ人に訊けばみんなスキルだよというにきまっていますが、今回の『HRmics』の特集記事を読む上で、念頭に置いておくといいかもしれません。

ちなみに、ジェンダーな人々がこの表を見たら、ドイツって、なんてジョブセグレゲーションなの!と叫ぶかも知れません。そう、ドイツの若い男子と女子はこういうレベルでは凄く性別職分離してるんですな。

2015年4月 4日 (土)

「労務賃貸借と奉公の間」@『HRmics』21号

1 さて、『HRmics』21号に載せた「労務賃貸借と奉公の間」ですが、その始めと終わりをこちらにアップしておきます。中身の部分は、ニッチモのサイトでお読みください。

 9回にわたって本誌に連載してきた「雇用問題は先祖返り」も、めでたく今回で最終回を迎えることになりました。いや実を言うと、いい加減ネタが切れてきただけなんですが。今日的政策的話題にはもうめぼしいネタがないもので、今回は苦し紛れに先祖返りも大先祖返り、古代ローマから中世ゲルマン社会にさかのぼるやたら大風呂敷なお話を展開することになります。有終の美を飾ることになるのか、見苦しい最後っ屁をご披露することになるのか、それは最後までお読みいただいた上でご判断いただければ、と。

日本民法の源泉

古代ローマ法における労務賃貸借

中世ゲルマン法における忠勤契約

メンバーシップ型思想の復活

・・・・・・・ 法律自体はローマ法の伝統を引き継ぎ、労務という無形の物を賃貸借する契約として雇用を位置づけながら、現実社会は本家のドイツともかけ離れたほどに「会社」と「社員」が人格的に結合した構造が確立した戦後日本という社会を生み出したものは何なのか?古代ローマや中世ドイツを遍歴することで、そのヒントが得られるかもしれないということで、連載の最終回を締めさせていただきます。長らくのご愛読ありがとうございました。

2015年4月 3日 (金)

誰でも大学VS誰でもエリートの解@『HRmics』21号

1 まだわたくしの手元に届いていませんが、既にニッチモのサイトにアップされているので、来週早々には届くのでしょう。とても大事なことが書かれている号なので、ややフライング気味ですが、こちらでも紹介しておきたいと思います。

http://www.nitchmo.biz/

http://www.nitchmo.biz/hrmics_21/_SWF_Window.html

1章 変わろうとする教育。変われない本質。

01.中教審が打ち出した「美しい」答申

02.アカデミズムを機能させる前に必要なこと

2章 職業訓練をめぐる不機嫌な真実

01.「階層社会へようこそ」という危惧

02.籠の鳥 VS 叩き上げ

03.赤ちゃん受け渡しが機能不全になった理由

3章 たった5つのマイナーチェンジ

01.基礎学力のリメディアル(学び直し)

02.社会人として当たり前の規律

03.職業訓練は、まず専門高校で

04.里子の肌合い合わせ

05.トップ層のハイパー教育は超少数精鋭で

記事では欧米といってもとりわけフランスの教育システムを細かく丁寧に見ていくことで、それが「籠の鳥」の仕組みであり、日本的な「赤ちゃん受け渡し」と対極的な様々な問題を孕んでもいることがよく浮かび上がってきます。

海老原さんの意見は、28ページの「G型L型大学論争の前に」に書かれています。これはぜひご一読を。

なお、わたくしの連載は、今回が最終回です。「労務賃貸借と奉公の間」というどえらく先祖返りしたテーマです。

2015年4月 2日 (木)

大内裕和・今野晴貴『ブラックバイト』

9784906708574大内裕和・今野晴貴『ブラックバイト』(堀之内出版)をお送りいただきました。ありがとうございます。

先日紹介した『現代思想』4月号のあまりにも凝縮された大内・今野対談を、一冊の本として読みやすくしたという感じです。

学生なのに「学生気分は捨てろ!」。ブラック企業は、何も知らない学生たちを労働力として目を付け始めた。「ブラック企業」に続く日本の労働環境の破壊「ブラックバイト」問題。「昔からバイトばかりしてる奴いた」とはレベルが違う。過労死ラインを超えたシフト、商品の自腹購入、パワハラや暴力。法律違反の契約書を結ばせ「これが社会」と従属させる。四月、親元から離れて頑張ろうとする真面目な学生ほど危ない!精緻な分析と対応法をまとめた学生、親、教育関係者必読の「ブラックバイト」を知る決定版の1冊。

第1章と第2章が、今野さんによるこれでもかこれでもか的なブラックバイトの実例続々。

真ん中の第4章と第5章が大内さんによる特に教育システムとの関係から見た理論的分析。

最後の第6章以下は再び今野さんによる労働の観点からのブラックバイト論と実戦的なアドバイスの数々、という構成です。

はじめに

第1章 ブラックバイトの被害実態
大手アパレル店
すき家
大手一〇〇円ショップ
大手コンビニエンスストア

第2章 ブラックバイトのパターン
A 職場への過剰な組み込み
①緊急の呼び出し/②長時間労働・深夜勤務/③シフトの強要/④複数店舗・遠距離へのヘルプ/⑤「責任感」で辞めさせない/⑥ノルマ・罰金・商品の自腹購入
B 最大限安く働かせる
⑦最低賃金ぎりぎりで上がらない賃金/⑧未払い賃金・サービス残業/⑨仕事道具の自腹購入/⑩不十分な研修で即戦力化
C「職場の論理」に従属させる人格的支配
⑪パワハラや暴力による従属/⑫不当な内容の契約書による支配

第3章 全国アルバイト学生調査結
全国的な問題の広がり
労働時間
シフトの一方的な増減
アルバイト先での不当な扱い
経済的な事情

第4章 ブラックバイトを生み出す日本の貧困
急激に上昇した大学の学費
九〇年代後半から大幅に減少した親の年収
急増する奨学金受給─ブラックバイトを助長する奨学金制度
企業社会統合と教育をめぐる脆弱性
日本社会に広がった「私費負担」当然視の感覚
「努力主義」がもたらした弊害
ヨーロッパとの差異─スキルと資格による「能力証明」 
アメリカとの差異─私立セクターが異常に大きい日本
「貧困ビジネス」と化した奨学金制度
経済と教育と個人の関係の構造変動―「債権」にされていく学生
「ブラック国家」の構図がブラックバイトを生み出す
「親負担による私費負担」と「生まれによる差別」 ─奨学金が不公正を増幅する

第5章 ブラックバイトと教育の変化
大学からアルバイトへ─変容する学生の「帰属意識」
「やりがい」の付与と「仲間意識」の形成─アルバイトへの帰属を支えるもの
教育内容が「空洞化」した戦後教育
教職員組合の問題
「空洞化による職業準備」、機能不全に陥る教育
大学のビジネス化
「キャリア教育」に傾倒する大学 
「キャリア教育」の恐ろしさ─大学四年間はすべて「就活」のため?!
大学教育を蝕み、批判能力を奪う「キャリア教育」
中身のない「キャリア教育」からブラックバイトへ
「頑張り方」の分からない教育が、学生をブラックバイトに駆り立てる

第6章 ブラックバイトと労働の変化
ブラックバイトと労働社会の変化
「非正規」が「非正規」でいられない時代
対立軸が変容する「職場」

第7章 ブラックバイトの弊害と定義
労働力再生産への弊害と産業の衰退
「ブラック企業」への馴致
消費者にとっての弊害
「ブラック国家」
ブラックバイトの定義
なぜブラックバイトを学生に限定するのか

第8章 ブラックバイトと労働法
パターンごとの法律問題
解決方法
業界全体の改善へ
ブラックバイトをなくすための政策

第9章 ブラックバイトに立ち向かうユニオン・支援者集団
ブラックバイトユニオンの結成
全国に広がる学生ユニオンの動き
専門家による支援のネットワーク

おわりに

例のすき家でメガ丼の作り方をYahoo知恵袋で調べたというエピソードも載っていますが、もっと凄惨な話しも山盛りです。

2015年4月 1日 (水)

法政大学連合大学院

201504_cover_l『月刊連合』4月号は、法政大学連合大学院開校記念ということで、法政大学の田中優子総長と連合の古賀会長の特別対談です。

http://www.jtuc-rengo.or.jp/shuppan/teiki/gekkanrengo/backnumber/new.html

法政大学 連合大学院 開講記念 特別対談

人々が支え合う連帯社会へ
社会を変える社会運動を始めよう

田中優子 法政大学総長

古賀伸明 連合会長

2015年4月、法政大学院連帯社会インスティテュート(通称:連合大学院)が13人の第1期生を迎えて 開講の運びとなった。
どういう問題意識や時代認識を共有しながら設立に至ったのか。
社会運動の担い手となる若手リーダー育成プログラムに込めた思いとは-。
田中優子法政大学総長と古賀伸明連合会長が語り合った。

その連合大学院のホームページを覗いてみると、

http://www.hosei.ac.jp/gs/kenkyuka/rentai/

具体的にどんな科目があるのかというと、

http://www.hosei.ac.jp/gs/kenkyuka/rentai/rentaishakai/kamoku_kyoin.html

専任教員は、労働組合担当が中村圭介、協同組合が栗本昭、NPOが山岸秀雄のみなさんで、専担教員は長峰登記夫、浜村彰、廣瀬克哉、宮﨑伸光の4名と言うことです。

http://www.hosei.ac.jp/gs/kenkyuka/rentai/rentaishakai/kyoin_shokai.html

『月刊連合』に戻ると、次の特集記事は例の青少年雇用促進法案、法政の上西充子さんと連合の村上陽子さんが登場しています。

「青少年雇用促進法案」の早期成立で
若者が活躍できる環境整備を!

今年1月に出された労働政策審議会報告「若者の雇用対策の充実について」を受けて、今国会に「青少年雇用促進法案」が提出された。最も注目すべきポイントは、「若者が働き続けられない劣悪な職場環境」の問題に焦点が当てられたことだという。労政審報告の内容と国会審議に向けた課題について、上西充子法政大学教授に解説していただいた。
■法案のポイントと今後の課題

上西充子 法政大学キャリアデザイン学部教授

■連合の対応

村上陽子 連合非正規労働センター総合局長

例のミッキーマウスのストライキを見つけた篠田徹さんは、今回は渋く(?)賀川豊彦です。

曰く「なぜこんな凄い人を知らないんでしょう?」

前浦穂高「非正規労働者の組織化の胎動と展開」

前浦穂高さんのディスカッションペーパー「非正規労働者の組織化の胎動と展開―産業別組合を中心に―」がアップされています。

http://www.jil.go.jp/institute/discussion/2015/15-01.html

http://www.jil.go.jp/institute/discussion/2015/documents/DP15-01.pdf

本稿は、産業別組合(以下、産別とする)を対象に、パートタイマーを中心とする非正規労働者の組織化がいつ頃から始まり、どのように展開され、現在の組織化活動につながっているのかを明らかにする。分析対象は、ゼンセン同盟(現UAゼンセン)、商業労連(後のJSD)、電機労連(現電機連合)である。

本稿の分析結果によると、いずれの産別も、パートタイマーが登場する1970年前後から、パートタイマーの組織化を検討し、その方針を掲げ、取り組みを始めた。ただし、その取り組みは、一部の先進的な組合を除き、すぐには全体的な取り組みに発展し、大きな成果を得るまでに至らなかった。その背景には、組織化方針や組合員の資格要件について意思統一を図るとともに、職場の実態を調べたり、法律の施行や改正に対応したりする等、試行錯誤の時間を要したからである。

さらに言えば、単組は必要性を感じなければ、組織化に取り組まないということもあった。パートタイマーの組織化が、統一的で本格的な取り組みに発展し、大きな成果を得るようになったのは2000年以降である。その当時は、流通部門を中心に、職場の従業員全体に占めるパートタイマーの割合が高まった時期であった。その時に、正社員組合が36協定締結の際の過半数代表になり得るかどうか、組織防衛等の観点から、産別を中心に危機感が広がり、産別に促される形でパートタイマーの組織化が進められた。

非正規労働者の組織化は近年のホットテーマですが、この問題にずっと以前から取り組んできた産別労組の動きを歴史研究としてまとめた力作です。

組合関係者にこそ是非じっくりと読んでいただきたい論文だと思います。

上林千恵子『外国人労働者受け入れと日本社会』

9784130501866_2上林千恵子さんの近著『外国人労働者受け入れと日本社会 技能実習制度の展開とジレンマ』(東京大学出版会)を頂きました。ありがとうございます。

http://www.utp.or.jp/bd/978-4-13-050186-6.html

少子高齢化で労働力不足に苦しむなか,外国人労働者への期待の声は大きい.これまで明確な移民政策が存在しなかった日本で,望ましい外国人労働者受け入れとはどのようなものか.長年の調査・研究から,日本社会が移民受け入れへと変貌していくための課題を問う.

本ブログでも何回か書いてきたように、上林さんとは、かつて連合総研の外国人労働者問題の研究会でご一緒したことがあり、そのときにも技能実習生の問題について突っ込んだ議論をされていました。本書はその連合総研の報告書の論(第6章)も含め、上林さんの外国人労働問題研究の集大成になっています。

はじめに
序 章 外国人受け入れに関する近年の動き
第1章 日本社会と移民政策――日本の外国人労働市場を中心に

第I部 移民政策成立以前の外国人労働者受け入れ
第2章 町工場のなかの外国人労働者――都市零細企業における就労と生活
第3章 自動車部品工場のなかの外国人労働者――日系ブラジル人へのニーズ

第II部 外国人技能実習制度の展開
第4章 外国人技能実習制度の創設と発展
第5章 技能実習生の受け入れ費用
第6章 中国人技能実習生の就労と生活

第III部 移民政策のジレンマ
第7章 外国人労働者の権利と労働問題――労働者受け入れとしての技能実習生をめぐって
第8章 低熟練労働者受け入れ政策の検討
第9章 中国の労務輸出政策と日本の技能実習制度

参考文献


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