フォト
2020年4月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30    
無料ブログはココログ

« 労働者の主体的なキャリア形成  | トップページ | 要は、ジョブ型なら職業教育、メンバーシップ型なら「文系」 »

2015年3月 4日 (水)

「解雇の金銭解決と訴訟物」@『生産性新聞』3月5日号

『生産性新聞』3月5日号に「解雇の金銭解決と訴訟物」を寄稿しました。

 現代日本の解雇法制をめぐる誤解は少なくありません。日本は法律で解雇を厳格に規制しているという思い込みもその一つですが、労働契約法第16条を一瞥しただけでそれが誤解であることがわかります。西欧では解雇のもっとも正当な理由になる経営上の理由による職の喪失が、日本の大企業正社員ではもっとも許されない解雇類型となるのは、職務の定めなき雇用契約というシステム論的理由によるものであって、法規制の故ではないことは、私が繰り返し説いてきたとおりです。

 解雇をめぐるもう一つの誤解は、金銭解決制度を認めるべきか否かが大きな争点になっていることです。国会では、野党議員が首相に「金銭解決を認めるのか」を繰り返し問うという事態まで起こっています。まるで現代日本では解雇の金銭解決が禁止されているかのようです。もちろん、現代日本において、解雇の大部分はおそらく泣き寝入り等の未解決ですが、少数派の解決事案の圧倒的大部分は、金銭解決されています。労働局等のあっせんにおいても、裁判所の労働審判においても、いや訴訟においてすら過半数は判決に至らず和解で解決しており、その圧倒的大部分は金銭解決です。日本国の法律に、解雇を金銭解決してはならないなどという馬鹿げた規制は一つもありません。

 ではなぜ金銭解決制度の導入が立法政策論として問題になるのか。その原因は労働実体法ではなく、民事訴訟法の訴訟物理論にあるのです。訴訟物とは、訴訟における請求の対象のことで、お金を払えという給付の訴えと法律関係の確認の訴えでは訴訟物が違います。民事訴訟法学では新旧訴訟物理論というのがあって、たとえば賃貸借契約終了に基づく返還請求と所有権に基づく返還請求は、旧訴訟物理論では別々の訴訟物ですが、新訴訟物理論では紛争実態から見てひとつの訴訟物になります。「手段的権利が複数存在するにとどまり、訴訟で解決すべき目的は一個であるとみるべき」(三ヶ月章『民事訴訟法第二版』弘文堂)という考え方からです。とはいえ、さすがに金銭給付請求と地位確認請求をひとつの訴訟物ととらえるような理論は存在しません。

 しかし一方、労働紛争の社会的実態からすれば、不当解雇に対して補償金を支払えという請求と、解雇は無効だからその間の未払い賃金を支払えという請求は、ものの言い方が違うだけで、ほとんど変わりはありません。判決で解雇無効となっても、職場に復帰して就労する権利は認められないのですから、地位確認請求といってもその実態は金銭給付請求と選ぶところはないのです。こういう法社会学的認識が、残念ながら民事訴訟法学には的確に取り込まれていないために、訴訟で判決に至らなければあらゆるレベルの紛争解決システムで自由自在に行われている金銭解決が、まるで法律で禁止されているかのように思い込まれてしまうわけです。

 これがはっきり現れているのが同じ裁判所で行われている労働審判です。労働審判でも解雇事案の圧倒的大部分は解雇無効による地位確認請求です。伊藤幹郎・後藤潤一郎・村田浩治・佐々木亮著『労働審判を使いこなそう!』には、「申立人が必ずしも職場に戻るつもりがなくても地位確認で行くべきである。・・・必ずしも職場に戻る意思がなくとも、そのように主張しないと多くの解決金は望めないからである」という記述があります。しかし、労働審判は訴訟ではないので訴訟物理論に縛られません。地位確認請求に対して、金100万円を支払えというような審判が下され、それで誰も不審に思いません。法社会学的な現実に即した対応が可能になっているのです。

« 労働者の主体的なキャリア形成  | トップページ | 要は、ジョブ型なら職業教育、メンバーシップ型なら「文系」 »

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 「解雇の金銭解決と訴訟物」@『生産性新聞』3月5日号:

« 労働者の主体的なキャリア形成  | トップページ | 要は、ジョブ型なら職業教育、メンバーシップ型なら「文系」 »