格差と差別の大きな落差
連合総研の『DIO』301号は、「賃上げで動く日本経済」が特集ですが、
http://rengo-soken.or.jp/dio/pdf/dio301.pdf
ここはつむじ曲がりにあえて「非正規労働者の3人に1人は世帯の主たる稼ぎ手」という調査報告を取り上げます。23ページからです。
調査結果のポイントは
Ⅰ.非正規労働者の実像
・非正規で働いている者の約30%は正社員として働きたいが職が見つからなかった者である。
・3人に1人は、世帯の主たる稼ぎ手である。男性に限れば、2人に1人が、世帯の主たる稼ぎ手である。
・過去1年間の賃金年収は、4人に3人が200万円未満である。就業調整せず自らの賃金が世帯収入の全部または大部分を占める人でも、半分近くが200万円未満である。Ⅱ.非正規労働者の就労に関する意識と実態
・仕事に対する満足は正社員の職がなかった者の3人に1人以下にとどまる。
・半数以上は職場で何らかの問題があったと認識し、その意識は正社員の職が無かった者の方が強い。
・労働組合の必要性については半数が認識しているものの、実際の加入率は10%程度である。Ⅲ.非正規労働者の家計・生活に関する意識と実態
・非正規労働者が主たる稼ぎ手である世帯の4割が、過去1年間の世帯全体の収支が赤字である。
・非正規労働者が主たる稼ぎ手である世帯の4分の1は貯蓄がない。これに貯蓄100万円未満をあわせると半分を超える。
ということなんですが、さてだからといって、先の臨時国会に民主、維新、みんな、生活の4野党が提出した「労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策の推進に関する法律案」の第1条「目的」にいうように、
第1条 この法律は、近年、雇用形態が多様化する中で、雇用形態により労働者の待遇や雇用の安定性について格差が存在し、それが社会における格差の固定化につながることが懸念されていることに鑑み、それらの状況を是正するため、労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策に関し、基本理念を定め、国の責務等を明らかにするとともに、労働者の雇用形態による職務及び待遇の相違の実態、雇用形態の転換の状況等に関する調査研究等について定めることにより、労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策を重点的に推進し、もって労働者がその雇用形態にかかわらず充実した職業生活を営むことができる社会の実現に資することを目的とする。
職務に応じた待遇を確保したら格差がなくなるかというと、そういう話でもないということが分かっているかなんですね。
だって、職務に応じて処遇している欧米社会は、まさに職務に応じて格差が拡大しているわけです。
そもそも、若い男性の非正規労働者が目立ち始め、非正規といえども家計補助的ではないということが目立つようになってきて、格差社会という議論が盛んになってきたのですが、でも、ネットカフェ難民だとか年越し派遣村とかでフレームアップされるそういうタイプの非正規労働者の多くは、実はそれほど高度な仕事をしていないことが多い。逆に、格差社会とかいわれるようになるもっと以前から、主婦パートが現場で主任になったり店長になったり、そういう基幹化が進んでいるのに、職務に応じた待遇になっていないという問題意識が指摘されてきていて、それはまさに同一労働同一賃金原則から来る差別問題であったわけです。
格差と差別の間には大きな落差があるんですね。
顧みすれば、そもそも戦後日本が同一労働同一賃金の欠如した「差別」社会になった最大の理由は、呉海軍工廠の伍堂卓雄に始まり、戦時中の賃金統制や戦後の電産型賃金体系が、まさに「格差をなくすため」にこそ「職務に応じない賃金」に一生懸命してきたからであってみれば、格差是正と差別是正とは相矛盾するものであるとも言えます。
非正規労働者に職務に応じた均等処遇を実現して、賃金が上がるのは主婦パートたちであり、上がらないのは生活の苦しい人たちであるということが見えてきたときに、さて日本人はどういう反応をするのか、というのが、実は何十年も前から透けて見えている構造ではあるんですね。
(参考)
2006年の「再チャレンジ」時代に書いたものですが、
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2006/10/post_cefc.html(差別と格差の大きな差)
・・・「差別」と「格差」の間には大きな「差」があります。場合によっては、差別をなくすことが格差を生むこともあり、差別をすることが格差をなくすこともあるのです。
夫と妻の収入が男女差別の故に大きな差が生じているとき、その差別は実は世帯単位で見た格差を縮小する働きを持っている場合もあります。男女差別をなくし、優秀な妻がその能力に応じた収入を十全に得られるようになることは、その裏側で優秀でない夫が男であるという理由で得ていた収入を得られなくなることと相まって、世帯単位で見た所得格差を拡大する働きをもちます。皮肉な話ですが、差別の解消が格差を生むという因果関係がありうるのです。
« 第88回日本産業衛生学会の案内 | トップページ | 「若者雇用対策法の大胆と小心」@『生産性新聞』2月5日号 »
コメント